説明

ステントグラフトの縫合糸のロック

【課題】ステントグラフト機器を提供する。
【解決手段】ステントグラフトが通常、重なり合う構成で締りばめを介して接続される場合に、1つのステントグラフトを別のステントグラフトに有効に固定させるために、変更した縫合糸の結び目を用いることができる。グラフト材料を下側のステント構造体に付けるために用いられる縫合糸を、別のステントグラフト又はそれが埋植される血管にロックして固定することを可能にする輪郭を持つように変更することができる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[技術分野]
本発明はステントグラフト機器に関し、より詳細には、移動を防ぐためにステントグラフトが他のステント、ステントグラフト及び/又は他の血管に付着する能力を増大させる適合した輪郭を作り出すために利用することができる、焼灼した端部を備えた特殊化した結び目を使用することに関する。
【関連技術の考察】
【0002】
動脈瘤は、通常は全身性コラーゲンの合成の欠陥又は構造上の欠陥により引き起こされる、動脈壁の1つの層又は複数の層の異常な拡張である。腹部大動脈瘤は、通常は2つの腸骨動脈のうちの片側若しくは両側の中若しくは近くに位置する、又は腎動脈の近くに位置する、腹部の大動脈における動脈瘤である。動脈瘤は、病変部の大動脈の腎臓下の部分、例えば腎臓の下方で生じることが多い。胸部大動脈瘤は、胸部の大動脈における動脈瘤である。治療せずに放置されると、動脈瘤は、破裂する可能性があり、通常急速で致命的な出血を引き起こす。
【0003】
動脈瘤は、その位置及び群発した動脈瘤の数によって分類する、又は型に分けることができる。典型的には、腹部大動脈瘤は、5種類に分類することができる。I型の動脈瘤は、腎動脈と腸骨動脈との間に位置する単一の拡張である。典型的には、I型の動脈瘤では、大動脈は、腎動脈と動脈瘤との間、及び動脈瘤と腸骨動脈との間で健康である。
【0004】
IIA型の動脈瘤は、腎動脈と腸骨動脈との間に位置する単一の拡張である。IIA型の動脈瘤では、大動脈は腎動脈と動脈瘤との間で健康であるが、動脈瘤と腸骨動脈との間で健康ではない。言いかえれば、拡張が大動脈分岐部まで延びている。IIB型の動脈瘤は3つの拡張を含む。1つの拡張は、腎動脈と腸骨動脈との間に位置する。IIA型の動脈瘤と同様に、大動脈は動脈瘤と腎動脈との間で健康であるが、動脈瘤と腸骨動脈との間で健康ではない。他の2つの拡張は、大動脈の分岐部と、外腸骨と内腸骨との間の分岐部と、の間で腸骨動脈に位置している。腸骨動脈は、腸骨の分岐部と動脈瘤との間で健康である。IIC型の動脈瘤もまた、3つの拡張を含む。しかしながら、IIC型の動脈瘤では、腸骨動脈の拡張は腸骨の分岐部まで延びている。
【0005】
III型の動脈瘤は、腎動脈と腸骨動脈との間に位置する単一の拡張である。III型の動脈瘤では、大動脈は腎動脈と動脈瘤との間で健康でない。言いかえれば、拡張が腎動脈まで延びている。
【0006】
腹部大動脈瘤破裂は、現在、米国の主要な死因の第13位である。腹部大動脈瘤の定型化した管理は、関与又は拡張したセグメントへのグラフト留置を伴う、外科的バイパス術であった。経腹膜又は後腹膜手技を介した人工グラフトを伴う切除が、標準的処置であったが、これには著しいリスクを伴う。例えば、合併症は、周術期の心筋虚血症、腎不全、勃起機能不全、腸虚血、感染、下肢虚血、麻痺を伴う脊髄損傷、大動脈−腸のフィステル、及び死亡が挙げられる。腹部大動脈瘤の外科治療は、無症候性の患者では5パーセント、症候性の患者では16〜19パーセントの全死亡率と関連しており、腹部大動脈瘤破裂の患者においては50パーセントに達する。
【0007】
従来の手術に関連する欠点は、高い死亡率に加えて、手術による大きな切開部及び腹腔の開口部に関連する回復期間の長期化、グラフトを大動脈に縫い合わせることの難しさ、グラフトを支持し補強するための現存する血栓の損失、腹部大動脈瘤を有する多くの患者に対する手術の不適合性、及び動脈瘤破裂後の緊急手術の実施に関連する問題が挙げられる。更に、典型的な回復期間は1〜2週間の入院、及び自宅での回復期間は、合併症が続いて起こると、2〜3ヶ月又はそれ以上に及ぶ。腹部大動脈瘤を有する多くの患者は、心臓病、肺疾患、肝疾患、及び/又は腎疾患等の他の慢性疾患を有しているので、このような患者の多くが高齢であるという事実と相まって、手術の理想的な候補とは言えない。
【0008】
動脈瘤の発生は腹部領域に制限されない。腹部大動脈瘤が一般に最もよく見られるが、大動脈の他の領域、又は大動脈の分枝のうちの1つにおける動脈瘤も起こり得る。例えば、動脈瘤は、胸部大動脈で生じることがある。腹部大動脈瘤の場合と同様に、胸部大動脈の動脈瘤の治療に広く受け入れられている方法は、動脈瘤のセグメントを人工機器で置換することが伴う外科的修復である。この手術は、上述のとおり、関連する高いリスク、並びに、著しい死亡率及び罹病率を伴う大仕事である。
【0009】
過去5年間にわたって、動脈瘤、特に腹部大動脈瘤の治療のための、低侵襲性の血管内の、すなわちカテーテル誘導による技法の開発に向けて多くの研究が行われてきた。これは血管内ステントの開発によって促進されてきた。血管内ステントはステントグラフト、すなわちエンドグラフトを作り出すために、標準又は薄壁のグラフト材料と一緒に使用することができ、使用されてきた。低侵襲性治療の潜在的な利点は、入院期間及び集中治療室の滞在期間の短縮に加えて、手術による罹患率及び死亡率の低下が挙げられる。
【0010】
ステントグラフト、すなわち内部人工器官は、現在、米国食品医薬品局(FDA)により承認されており、市販されている。送達処置は、典型的には、総大腿動脈又は上腕動脈を含む可能性がある、遠隔の動脈を外科的に切開することにより得られる血管アクセスによって行われる血管造影による高度な手技が関与する。ガイドワイヤーに沿って、適切なサイズのイントロデューサーが配置される。カテーテル及びガイドワイヤーを動脈瘤に通す。イントロデューサーを通して、ステントグラフトを適切な位置まで前進させる。ステントグラフト機器の典型的な留置は、内部固定機器でステントグラフトの位置を保持しながら、外側シースを抜去することを必要とする。ほとんどのステントグラフトは自己拡張型である。しかしながら、ステントグラフトの位置を固定させるために、追加的な血管形成処置、例えば、バルーン血管形成が必要となる場合がある。ステントグラフトの留置に続いて、標準の血管造影画像を得ることができる。
【0011】
上記の機器は典型的には20フレンチ(3フレンチ=1mm)を上回る大きな直径のために、動脈切開の閉鎖は、典型的には外科的に切開して修復する必要がある。処置によっては、動脈瘤を適切に治療するために、又は両下肢への血流を維持するために、内腸骨動脈塞栓術、血管結紮、又は外科的バイパス術等の追加的な外科的手技が必要となる場合がある。同様に、処置によっては、動脈瘤を問題なく排除し、漏れを効果的に管理するために、血管形成術、ステント配置、及び塞栓術等の追加的なカテーテル誘導の高度な手技が必要となる。
【0012】
上記の内部人工器官は、従来の外科的手技に比べて著しい進歩ではあるが、内部人工器官、その使用方法及び様々な生物学的状態への適用可能性を改善する必要がある。したがって、腹部大動脈瘤及び胸部大動脈瘤を含む動脈瘤の治療に、安全かつ有効な代替手段を提供するために、現在公知の内部人工器官及びそれらのデリバリーシステムに関連した多くの障害が克服されなければならない。内部人工器官の使用に関する1つの関心事は、エンドリーク及び血管構造の正常な流体力学の破壊を予防することである。任意の技術を用いる機器は、好ましくは、必要に応じて、位置決め及び再位置決めが簡単であるべきであり、好ましくは、短期間で液密シールを提供するべきであり、また、好ましくは、動脈瘤の血管と分岐する血管との両方において、正常な血流を妨害することなく、移動を防止するように固定されるべきである。更に、この技術を用いる機器は、好ましくは二股に分かれた血管、蛇行した血管、非常に屈曲した血管、部分的に罹病した血管、石灰化した血管、特殊な形の血管、短い血管、及び長い血管に、固定され、シールされ、維持されることができるべきである。これを達成するためには、内部人工器官は、好ましくは、短期間及び長期的の液密シールかつ固定位置を維持しつつ、非常に耐久力があり、伸縮可能であり、かつ再構成可能であるべきである。
【0013】
内部人工器官はまた、好ましくは、カテーテル、ガイドワイヤー、及び他の機器を用いて経皮的に送達することができるべきであり、それによって切開する外科的な介入の必要性を実質的になくす。したがって、カテーテル内の内部人工器官の直径は、重要な要素である。これは特に、胸部大動脈等の、より大きい血管の動脈瘤に当てはまる。更に、内部人工器官は好ましくは、外科的な切開が不必要であるように、経皮的に送達されて留置されるべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
この修復機器はまた、特に多数の個別の係合する構成部品又は重なり合う構成部品を備える機器において、液密シールの維持が可能であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、現在利用されている動脈瘤修復機器に関連した欠点を克服するものである。
【0016】
一態様において、本発明は、ステントグラフトの縫合糸のロックを対象とする。ステントグラフトの縫合糸のロックは、実質的に管状のステント構造体と、ステント構造体に付けられることによって、血管内に配置されるように構成される液体を輸送する導管である第1のステントグラフトを作り出す、グラフト材料と、実質的に管状のステント構造体又はグラフト材料のうちの少なくとも1つに接続され、相対運動を防ぐために、液体を輸送する導管である第2のステントグラフト又は血管のうちの少なくとも1つと相互作用するように構成される少なくとも1つの保持要素と、を含む。
【0017】
別の態様において、本発明はステントグラフトの縫合糸のロックを対象とする。ステントグラフトの縫合糸のロックは、実質的に管状のステント構造体と、ステント構造体に付けられることによって、血管内に配置されるように構成される液体を輸送する導管である第1のステントグラフトを作り出す、グラフト材料と、グラフト材料をステント構造体に締結するための複数の固定要素であって、複数の固定要素の一部は、相対運動を防ぐために、液体を輸送する導管である第2のステントグラフト又は血管のうちの少なくとも1つと相互作用するように構成される少なくとも1つの突出部を有する、複数の固定要素と、を含む。
【0018】
ステントグラフト動脈瘤修復機器は、有効であるためには液密シールを維持しなければならない。いかなる漏れも、動脈瘤を引き続き増大させてしまう。典型的な経皮的に送達する動脈瘤修復機器は、モジュラーシステムである。言いかえれば、それらの修復機器は、個別に送達が可能で、生体内で組み立てられる多数の構成部品を含む。そのため、動脈系内に存在する生物学的な力により構成部品が分離してしまう場合は、構成部品の各接合部が漏れる可能性のある箇所である。したがって、本発明のステントグラフトの縫合糸のロックは、実質的に構成部品間の相対運動を排除するための手段を提供し、それによって、潜在的な分離を防ぐ。
【0019】
本発明のステントグラフトのロックは、動脈瘤修復機器の1つの構成部品を別の構成部品に固定させる、又は任意の2つの構成部品を一緒に固定させるための単純かつ有効な手段を提供する。ステントグラフトの縫合糸のロックは、グラフト材料を各構成部品の下側のステント構造体に付けるために利用される既存の縫合糸の結び目を変更することで形成される。本質的に、1つの構成部品が別の構成部品に差し込まれる際に、変更した縫合糸の結び目が、第2の構成部品の下側のステント構造体にロックされるように、既存の縫合糸の結び目の自由端が変更される。更に、これらの変更した縫合糸の結び目は、同様な方法で構成部品を血管壁に固定するために利用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明の前述の並びに他の特徴及び利点は、以下の付随する図面に示される本発明の好ましい実施態様のより詳細な説明から明らかとなるであろう。
【図1】本発明による例示的な固定及びシーリング人工器官の図表示。
【図2】本発明による例示的なエンドバスキュラーグラフトの図表示。
【図3】本発明による第1の例示的な4箇所の縫合糸の結び目(four-point suture knot)の図表示。
【図4】本発明による第2の例示的な4箇所の縫合糸の結び目の図表示。
【図5】本発明による変更した端部を有する第1の例示的な4箇所の縫合糸の結び目の図表示。
【図6】本発明による変更した端部を有する第2の例示的な4箇所の縫合糸の結び目の図表示。
【図7】本発明によるステントセグメントの例示的な縫合糸の結び目を保持する構造体の図表示。
【図8】本発明による変更した縫合糸の結び目を備えたステントセグメントに取り付けられたグラフト材料の部分の図表示。
【発明を実施するための形態】
【0021】
動脈瘤修復機器は、多種多様の構成を呈することができる。動脈瘤修復機器は、1つの要素の構成、又は複数の要素の構成若しくはモジュラー式要素の構成を含むことができる。本発明のステントグラフト縫合糸のロックは、任意の種類の機器で利用することができるが、特に、モジュラー式機器と併用されると有益である。
【0022】
図1を参照すると、モジュラー式の動脈瘤修復機器の例示的な固定及びシーリング構成部品100が図示される。固定及びシーリング構成部品100は、基幹部102、並びに2つのレッグ部106及び108を含む分岐部104を含む。グラフト材料110は、以下で詳細に説明するように、基幹部102の少なくとも一部、並びにレッグ部106及び108の両方に付けられてもよい。グラフト材料と下側の骨組み構造との組み合わせによって、血管内に挿入する血液輸送導管を作り出す。グラフト材料110は、任意の適した手段によって、下側の骨組み構造に取り付けられてもよい。本明細書で説明する例示的な実施形態では、グラフト材料110は、縫合糸によって下側の骨組み構造の部分に取り付けられる。以下で詳細に説明するが、利用される縫合糸の種類並びに縫い目の種類は、それらの位置及び機能によって異なってもよい。縫合糸は、好ましくは非常に耐久力があり耐摩耗性がある任意の適した生体適合性材料を含んでもよい。
【0023】
基幹部102の下側の骨組み構造は、任意の数の適した材料から形成されてもよい多数の実質的に管状のステント構造体を含む。基幹部102の上方端すなわち近位端は、複数のストラット114から形成された菱形の構成を有する第1のステントセグメント112を含む。タンタル等のX線不透過性が高い材料から形成されたマーカーバンド116が、機器を埋植中に画像化する目的で、ストラット114の様々な位置に配置されることができる。言いかえれば、マーカー116は、医師がX線透視下で機器を視認するのに役立つことができる。各菱形セルの上方の頂点118において、アイレット及びバーブ構造120がある。アイレット部分はデリバリーシステムと共に利用され、バーブ部分は留置される血管内に固定及びシーリング構成部品100を付けるために利用される。図1から容易に分かるように、第1のステントセグメント112の上方部分は、グラフト材料110で覆われていない。この部分は、交差動脈又は分岐動脈、例えば腎動脈、との血流を干渉あるいは妨害することがないように、覆われていない。しかしながら、第1のステントセグメント112の下方部分は、グラフト材料110で覆われている。縫合糸121は、グラフト材料を、第1のステントセグメント112の下方すなわち遠位の頂点123に固定させるために用いられる。
【0024】
基幹部102の下方部分は、3つの個別のステントセグメント122、124、及び126を含む。ステントセグメント122及び124は同じ設計であり、それぞれ、実質的にジグザグ構成に配列された単列のストラット128を含む。縫合糸130は、ステントセグメント122及び124のそれぞれに、グラフト材料110を取り付けるために利用される。更に、各ステントセグメント122及び124は、少なくとも1つの上方及び下方の頂点132に縫合糸のロック機構131を含む。これらの縫合糸のロック機構131は、特別の縫合糸の結び目がグラフト材料110をステントセグメント122及び124に固定させることを可能とする。これらの位置は、強い生物学的な力により摩耗しやすいことが判っており、したがって、グラフト材料110の分離を防ぐために、追加的な固定機構が用いられる。ステントセグメント126は、1つの例外を除いて、ステントセグメント122及び124と同一である。具体的には、この第3のステントセグメント126を形成するストラット134は、円周方向に内向きに先細になっており、それによって、分岐部104と接続するところで基幹部102の下方部分の直径が小さくなっている。他の2つのステントセグメント122及び124と同様に、ステントセグメント126はまた、少なくとも1つの上方及び下方の頂点132に縫合糸のロック機構131を含む。
【0025】
上述したように、分岐部104は、2つのレッグ部106及び108を含む。図1から容易に分かるように、レッグ部106はレッグ部108より長い。1つのレッグ部がもう1つのレッグ部より長い理由は、デリバリー性能の容易さと関係がある。各レッグ部106及び108は、それ以外は同一である。各レッグ部は、複数の個別で実質的に管状のステントセグメント136を含む。各ステントセグメント136は、実質的にジグザグ構成に配列された単列のストラット128を含む。縫合糸140は、グラフト材料110をステントセグメント136に固定させるために用いられる。これらの縫合糸140は、縫合糸130及び121とは異なり、ストラットの全長に沿ってではなく、ステントセグメント136の頂点142に近接したグラフト材料110を固定するためのみに用いられる。各レッグ部106及び108は、互いに独立して自由に動くことができる。しかしながら、基幹部102との接合部に近位の、各レッグ部106及び108のグラフト材料110は、縫合糸144で一緒に縫い合わせられる。これは、もしレッグ部106及び108が移動した場合にグラフト材料110が裂けるのを防ぐために行なわれる。
【0026】
固定及びシーリング構成部品100を覆っているグラフト材料110は、様々な下側の骨組み要素間でひだ付き(crimped)部146を含んでいることを注記しておくことが重要である。これらのひだ付き部は、機器全体の柔軟性を高める。グラフト材料の詳細な説明及びひだの形成方法を以下で述べる。
【0027】
使用中に、固定及びシーリング構成部品100は、1つ以上の動脈瘤を有する血管内に経皮的に配置される。固定及びシーリング構成部品は、動脈瘤の上方の健康な組織に固定され、動脈の病変部をバイパスするための第1の導管として機能する。追加のステントグラフト構成部品、すなわちエンドバスキュラーグラフトをレッグ部106及び108に取り付けて、動脈瘤を越えた健康な組織までバイパスを延長させる。システムは、必要に応じた数のエクステンションが利用できるように、モジュラーシステムとして設計されている。本質的に、追加の構成部品、すなわちモジュラー構成部品は重なり合い、締りばめを形成する。2つのレッグ部を有するこの特有の例示的な実施形態は、例えば、腹部大動脈の動脈から腸骨動脈へと、2つの血管への分岐用に特に設計されている。しかしながら、他の同様のモジュラー構成部品が、他の任意の適した動脈内に利用されてもよい。
【0028】
固定及びシーリング構成部品100の正確な位置決めを補助するために、追加のマーカー148が様々な位置で機器に付けられる。追加のマーカー148は、タンタル等のX線不透過性が高い任意の適した材料から形成することができる。追加のマーカー148は、縫い合わせ及び接着剤を含む任意の適した手段で、下側のステント構造体及びグラフト材料のどちらか、又は両方に取り付けられてもよい。例示的な実施形態では、追加のマーカー148はグラフト材料に取り付けられている。
【0029】
次に図2を参照すると、動脈瘤修復機器のエンドバスキュラーグラフト200の例示的な実施形態が図示される。例示的なエンドバスキュラーグラフト200は、1つ以上の第1のステントセグメント202、第2のステントセグメント204、第3のステントセグメント206、及び第4のステントセグメント208を含む。グラフト材料210は、ステントセグメント202、204、206及び208に取り付けられて、実質的に管状の導管を形成する。上述の設計と同様に、柔軟性を高めるために、ひだ付き部212がステントセグメント間でグラフト材料210に形成される。典型的な使用のシナリオでは、第4のステントセグメント208は、動脈瘤の下方の健康な組織に固定され、最上の第1のステントセグメント202の多くは、固定及びシーリング構成部品100のレッグ部106及び108のうちの1つと重なり合うことになり、それによって、動脈の病変部を通って流路が確立される。重なり合う度合いは様々であってよい。明らかに、重なり合う度合いが大きいほど、分離の可能性は低い。更に、以下で詳細に説明するが、本発明のステントグラフトの縫合糸のロックは、より大きい度合いの重なり合いと係合する可能性が高い。この例示的な実施形態では、第2のエンドバスキュラーグラフトは、第2のレッグ部に接続されることになる。上述したように、病変組織をバイパスするためにより長い導管を必要とする場合は、追加のエンドバスキュラーグラフトを一緒に接続することができる。
【0030】
1つ以上の第1のステントセグメント202のそれぞれは、実質的にジグザグ構成に配列された単列のストラット214を含む。縫合糸216は、グラフト材料210をステントセグメント202に固定させるために用いられる。これらの縫合糸216は、セグメント202を形成するストラットの全長に沿ってではなく、第1のステントセグメント202の頂点218に近接したグラフト材料210を固定するためのみに用いられる。構成部品が取り付けられた時にきつい締りばめが得られるように、グラフト材料210が取り付けられた1つ以上の第1のステントセグメント202の直径は、レッグ部106及び108のどちらかの直径と実質的に等しい。例示的な実施形態では、エンドバスキュラーグラフト200は、レッグ部106及び108の内部に嵌合する。しかしながら、別の例示的な実施形態では、エンドバスキュラーグラフト200は、レッグ部106及び108に被さって嵌合する、又は外部に嵌合する。以下で詳細に説明するように、エンドバスキュラーグラフト200の頭側端、すなわち近位端の縫合糸の結び目は、レッグ部106及び108内にエンドバスキュラーグラフトを固定するのを助ける。
【0031】
最上の第1のステントセグメント202は、機器の位置決め用のマーカーバンド203を含む。ここでも、マーカーバンド203は、タンタル等のX線不透過性が高い任意の適した材料を含むことができる。多くの異なるマーカーが図示されているが、医師がX線透視下で容易に機器を視認することができるように、図示されない追加のマーカーがそれぞれの構成部品の周りの様々な位置に配置されていることを注記しておくことが重要である。
【0032】
第2のセグメント204は、実質的にジグザグ構成に配列された単列のストラット220を含む。ステントセグメント204の直径は、ステントセグメント202の直径よりわずかに大きい。直径の増大は、より長いストラットを用いることで得ることができる。縫合糸222は、グラフト材料210をステントセグメント204に固定させるために用いられる。これらの縫合糸222は、セグメント204を形成するストラットの全長に沿ってではなく、第2のステントセグメント204の頂点224に近接したグラフト材料210を固定するためのみに用いられる。更に、各ステントセグメント204は、少なくとも1つの上方及び下方の頂点224に縫合糸のロック機構226を含む。これらの縫合糸のロック機構226は、特別の縫合糸の結び目がグラフト材料210をステントセグメント204に固定させることを可能とする。これらの位置は、強い生物学的な力により摩耗しやすいことが判っており、したがって、グラフト材料210の分離を防ぐために、追加的な固定機構が用いられる。
【0033】
第3のステントセグメント206は、1つの例外を除いて、ステントセグメント204と同一である。具体的には、この第3のステントセグメント206を形成するストラット228は、円周方向に外向きに先細になっており、それによって、血管に固定されるところでエンドバスキュラーグラフト200の下方部分の直径が大きくなっている。縫合糸230は、グラフト材料210をステントセグメント206に固定させるために用いられる。第2のステントセグメント204と同様に、第3のステントセグメント206はまた、少なくとも1つの上方及び下方の頂点224に縫合糸のロック機構226を含む。第3のステントセグメント206の直径は、一端で第2のステントセグメント204の直径と実質的に等しく、もう一端で第4のステントセグメント208の直径と実質的に等しい。
【0034】
第4のステントセグメント208は、複数のストラット232から形成された菱形の構成を有する。縫合糸234は、グラフト材料210を第4のステントセグメント208に固定させるために用いられる。縫合糸のロック機構236は、第3のステントセグメント206に近接した第4のステントセグメント208の端部の1つ以上の頂点238にのみ用いられる。第4のステントセグメント208はまた、機器を画像化するために、ストラットに取り付けられた少なくとも1つのマーカーバンド240を含む。上述したように、マーカーバンド240は、タンタル等のX線不透過性が高い任意の適した材料を含むことができる。
【0035】
本明細書で説明するステントセグメントはすべて、任意の数の技術及び任意の数の材料を利用して形成されることができる実質的に管状の要素である。好ましい例示的な実施形態では、ステントセグメントはすべて、ニッケルチタン合金(ニチノール)製の、形状設定されレーザー切断された管から形成される。
【0036】
ニチノールは、本明細書に説明するように、医療機器への応用を含む多種多様の用途に利用される。ニチノール、すなわちNi−Ti合金は、その生体力学的適合性、生体適合性、耐疲労性、キンク耐性、均等な塑性変形、磁気共鳴影像への適合性、一定で緩やかな外向きの圧力、動的干渉、熱による留置能力、弾力による留置能力、ヒステリシス特性、を含む多くの理由により、及び適度にX線不透過性であることから、医療機器の製造又は構築において広く用いられる。
【0037】
ニチノールは、上述したように、形状記憶及び/又は超弾性の特性を示す。形状記憶の特性は、以下のように簡略化して説明することができる。金属の構造体、例えば、オーステナイト相にあるニチノール管は、マルテンサイト相にあるような温度に冷やすことができる。いったんマルテンサイト相にあると、ニチノール管は応力を加えることによって特定の構成又は形状に変形されることができる。ニチノール管がマルテンサイト相に維持される限り、ニチノール管はその変形した形状のままであることになる。ニチノール管がオーステナイト相に達するのに十分な温度まで加熱されると、ニチノール管は、その元の形状、又はプログラムされた形状に戻ってしまう。元の形状は、公知の技術によって特定の形状になるようにプログラムされる。超弾性の特性は、以下のように簡略化して説明することができる。金属の構造体、例えば、オーステナイト相にあるニチノール管は、力学的エネルギーを加えることによって、特定の形状又は構成に変形されることができる。力学的エネルギーを加えることで、応力によるマルテンサイト相変態を引き起こす。言いかえれば、力学的エネルギーは、ニチノール管をオーステナイト相からマルテンサイト相に変態させる。適切な計測器を利用して、力学的エネルギーからの応力がニチノール管の温度降下を生じさせることを判定することができる。いったん力学的エネルギー又は応力が解放されると、ニチノール管は、別の力学的相変態を受けて、オーステナイト相、したがって、管の元の形状、又はプログラムされた形状に戻る。上述したように、元の形状は周知の技術によってプログラムされる。マルテンサイト相及びオーステナイト相は、多くの金属に共通の相である。
【0038】
ニチノールから構築された医療機器は、典型的には、マルテンサイト相及び/又はオーステナイト相の両方で利用される。マルテンサイト相は低温相である。マルテンサイト相にある材料は、典型的には、非常に柔軟かつ可鍛性がある。これらの特性によって、ニチノールを、複雑な構造体又は複合の構造体に形成する又は構成することがより容易になる。オーステナイト相は高温相である。オーステナイト相にある材料は一般に、マルテンサイト相にある材料よりはるかに強い。典型的には、ステントに関して上述したように、多くの医療機器は、操作のため、及びデリバリーシステムに装填するために、マルテンサイト相まで冷やされ、次に、機器が体温で留置されると、オーステナイト相に戻る。
【0039】
ステントセグメントはすべて、好ましくは、自己拡張可能であり、形状記憶合金から形成される。このような合金は、元の熱安定性の構成から、第2の熱不安定性の構成に変形することができる。所望の温度を適用することで、その合金は元の熱安定性の構成に戻る。この用途に特に好ましい形状記憶合金は、商品名ニチノール(NITINOL)で市販されている約55.8重量パーセントのNiを含む二元系ニッケルチタン合金である。このNi−Ti合金は、生理学的温度で相変態を起こす。この材料で作られるステントは、冷却すると変形可能である。したがって、例えば、摂氏20度未満の低温で、所望の位置に送達できるようにステントは圧縮される。ステントは、冷却した食塩水を循環させることで、低温に保つことができる。冷却した食塩水が取り除かれ、患者の体内のより高い温度、一般に摂氏約37度にさらされると、ステントは拡張する。
【0040】
好ましい実施形態では、各ステントは、単一片の合金管から製造される。管はレーザー切断され、マンドレルに管を置くことによって形状設定され、所望の拡張した形状及びサイズに熱固定される。
【0041】
好ましい実施形態では、形状設定は摂氏500度で段階的に行なわれる。すなわち、ステントは、順次、より大きいマンドレルに置かれ、摂氏500度まで短時間熱される。結晶粒の成長を最小限にするため、摂氏500度の温度に暴露する総時間は、5分に制限される。ステントは、摂氏550度で4分間、最終形状の設定がなされて、次に適切なマルテンサイトからオーステナイトへの変態温度を取り込むために摂氏470度の温度まで寝かされ、その後、電解研磨の前に、以下で詳細に説明するように、ブラスト加工される。この熱処理プロセスにより、例えば、摂氏約15度の比較的狭い温度範囲において生じるマルテンサイトからオーステナイトへの変態を有するステントが提供される。
【0042】
ステントの機械的完全性を改善するため、レーザー切断により残された粗いエッジは、機械的グリットブラスト及び電解研磨の組み合わせによって除去される。グリットブラストは、レーザー切断プロセスにより残された、もろい鋳直された層を除去するために行われる。この層は、電解研磨プロセスで容易に除去することができず、そのまま残ると、ステントのストラットの脆性破壊につながる可能性がある。摂氏マイナス40度以下の温度で、70パーセントのメタノール及び30パーセントの硝酸の溶液は、電解研磨溶液として効果的であることが示されている。電解研磨の電気的パラメータは、ストラットの表面から、およそ0.00127cmの材料を除去するように選択されている。クリーンで電気研磨された表面が、グラフト材料に取り付けるために所望される最終的な表面である。この表面は、良好な耐腐食性、疲労抵抗、及び耐摩耗性を取り込むことが分かっている。
【0043】
ステントセグメントをすべて覆うために利用されるグラフト材料は、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、シリコーン、ウレタン、及び商品名SPECTRA(商標)で市販されているもののような超軽量ポリエチレンを含む、織られた、編まれた、縫い合わされた、押出成形された、又は鋳造された材料などの、任意の数の適した生体適合性材料から作ることができる。材料は、多孔性でも非多孔性でもよい。例示的な材料には、DACRON(商標)から作られたポリエステル織布、又は他の適したPETタイプのポリマーが挙げられる。
【0044】
例示的な一実施形態では、グラフト材料用の布地は、40デニール(デニールは、1本の長繊維又は糸の9000メートル当たりのグラム数で定義される)の27長繊維のポリエステル糸で、一面につき1cm当たり(per cm per face)約70〜100の端糸(end yarn)及び1cmの面当たり(per cm face)32〜46の拾い糸(pick yarn)を有する。この織密度で、グラフト材料は、壁を通って血流に比較的不浸透性であるが、壁厚が0.08〜0.12mmの範囲で比較的薄い。
【0045】
グラフト構成部品をステントセグメントに付ける前に、形成したマンドレルにグラフト材料を置き、熱で表面に刻み目を形成することで、ステントの位置間でひだが形成される。図1及び2に示す例示的な実施形態では、ひだ146及び212はそれぞれ、長さが約2mmで深さが約0.5mmである。これらの寸法で、エンドバスキュラーグラフトは、開いたルーメンを維持したまま、曲げたり屈曲することができる。グラフト材料はまた、ステントセグメントに付ける前に、ステントセグメントの形状に一致するような形状に切断される。
【0046】
上述したように、グラフト材料はステントセグメントのそれぞれに取り付けられている。グラフト材料は、任意の数の適した方法でステントセグメントに取り付けられることができる。例示的な実施形態では、グラフト材料は縫合糸によってステントセグメントに取り付けられている。
【0047】
ステントを適所に縫合する方法は、ステントストラットとグラフト材料との間の相対運動、又は摩擦を最小限にするために重要である。血管、したがって機器全体の拍動性運動のために、相対運動が生じる可能性がある。特に機器又はその構成部品が曲がっている部分に、又は大動脈若しくは腸骨動脈によって抑圧されるためにグラフト材料に残った折り重なりがある場合は、そうである。
【0048】
ステントセグメントの位置によって、異なる種類の縫合糸を利用することができる。図1に示す例示的な実施形態では、第1のステントセグメント112の下方部分には、包括的なタイプの縫い目を使った縫合糸121を有するグラフト材料110がある。ステントセグメント122、124、及び126には、グラフト材料が包括的なタイプの縫い目を使って、縫合糸130で取り付けられている。ステントセグメント136には、グラフト材料が箇所的なタイプの縫い目を使って、縫合糸140で取り付けられている。図2に示す例示的な実施形態では、グラフト材料210は、箇所的なタイプの縫い目を使って、縫合糸216によって第1のステントセグメントに取り付けられている。ステントセグメント204には、グラフト材料210が、包括的なタイプの縫い目を使って、縫合糸222を使用して取り付けられている。ステントセグメント206には、グラフト材料210が、包括的なタイプの縫い目を使って、縫合糸230を使用して取り付けられている。ステント要素208には、グラフト材料210が、包括的なタイプの縫い目を使って、縫合糸234を使用して取り付けられている。
【0049】
本発明による、グラフト材料を下側のステント構造体に締結するために利用される縫合糸の結び目は、動脈瘤修復機器の全体的な性能を強化するように変更されてもよい。本質的に、変更した縫合糸の結び目は、構成部品の分離又は移動を防ぐために、1つの構成部品が他の構成部品、及び/又は血管に付着する能力を増大させる適合した輪郭を作り出すために利用することができる。例えば、エンドバスキュラーグラフト200がレッグ部106及び108内により良好に固定されるように、そのエンドバスキュラーグラフトの一定の割合の箇所的なタイプの縫い目を変更してもよい。
【0050】
本明細書に説明するように、本発明の変更した縫合糸の結び目は、分離を防ぐために重なり合う構成部品、すなわちモジュラー構成部品を有するすべてのステントグラフト機器、並びに血管内で移動する傾向がある構成部品で利用され得る。これは、以下で詳細に説明するように、ステントグラフト構成部品の別の構成部品と重なり合う位置、又は血管壁と接触する位置に、変更した縫合糸の結び目を配置する、又は位置決めすることで、達成される。
【0051】
上述したように、縫合糸は、グラフト材料を下側のステント構造に保持する唯一の目的のために、ステントグラフト構造体において用いられる。縫合糸の縫い目の端部を結紮する結び目は、典型的には、4撚りかけ(four-throw)の箇所的なタイプの縫い目であり、一般に外科結びとして知られており、図3に図示される。図示された外科結び300は、4撚りかけの箇所的な縫い目である。4撚りかけの箇所的な結び目は、4撚りかけ302、304、306、及び308が解けそうにないという点で有益である。図3に示す外科結びは、長い端部310を有しており、図4に示す外科結び400は、4撚りかけ、402、404、406、及び408を有するが、短い端部410を有している。より少なく撚りかけした縫合糸の結び目、例えば、2撚りかけで同一の結び目を用いてもよいことを注記しておくことが重要である。更に、以下で説明するように、その端部が自由に変更されることができる限り、異なる種類の結び目が利用されてもよいことを注記しておくことが重要である。
【0052】
縫合糸の結び目は、本発明にしたがって、任意の数の方法で変更されてもよい。好ましい例示的な実施形態では、図5及び6に図示されるように、縫合糸の結び目の端部は、球状の保持要素又は構造体を作り出すように、自由端を熱することで焼灼されている。容易に理解され得るように、並びに図5及び6を参照すると、より長い自由端310を備えた縫合糸の結び目300は、より短い自由端410を備えた縫合糸の結び目400の球状の保持要素又は構造体412より、より大きな球状の保持要素又は構造体312を有している。これらの溶融した球状の保持要素又は構造体は、溶融する前の撚りかけの回数及び自由端の長さによって異なる様々な結び目の輪郭を提供する。保持構造体又は要素は、任意の適した形状及び/又は構成を含むことができることを注記しておくことが重要である。本質的に、それらは、縫合糸の結び目の端部を溶融することにより形成され、したがって、縫合糸の直径より大きい直径を有する様々な形状に成形することができる。成形なしで、加熱した端部は、単に溶融して球状又はボールのような形状になる。他の実施形態では、追加の要素が、本発明中でステントグラフトの縫合糸のロックと呼ばれる保持要素を形成するために、縫合糸の端部に付けられてもよい。
【0053】
操作中に、これらの変更した結び目300及び400を、別の要素に差し込まれる特定の要素のまわりに、その要素間の相対運動が実質的に阻止されるやり方でその1つの構成部品の下側のステント構造体がその結び目と相互作用するように、位置決めしてもよい。言いかえれば、モジュラー構成部品を有しており、長期間にわたって強い生物学的な力を受ける機器は、1つの構成部品の結び目が別の構成部品の下側の構造体の少なくとも一部に本質的に接続されているので、相対運動が抑制される。例えば、エンドバスキュラーグラフト200の第1のステント要素202の縫合糸216が、本発明にしたがって結ばれる場合は、エンドバスキュラーグラフト200が、固定及びシーリング構成部品100のレッグ部106又は108のうちの1つに差し込まれると、変更した結び目は、ステントセグメント136のうちの少なくとも1つの要素と係合することになる。
【0054】
あるいは、変更した結び目が構成部品を血管に固定するために用いられる場合は、レッグ部106及び108のステントセグメント136の縫合糸140、並びに、レッグ部106及び108と重なり合わないエンドバスキュラーグラフト200のステントセグメント202の縫合糸216は、変更した結び目を有することができ、その結び目は構成部品が位置決めされる血管の内壁をつかむ機能をする。この方法で、変更した結び目は、実質的に血管に対する機器の動きを防ぐ。
【0055】
変更した結び目は、連結された構成部品の対応する結び目と、連結された構成部品の下側のステント構造体と、連結された構成部品の他の任意の適した構造体又はそれが埋植される血管と、相互作用してもよい。
【0056】
上記に説明するものは、本発明の多くの例示的な実施例である。しかしながら、保持要素、すなわちロックは、任意の輪郭及び/又は形状を成してもよく、グラフト構造体の内部及び外部の両方の任意の適した位置に、置く又は位置決めされてもよいことを注記しておくことが重要である。例えば、多くの保持要素、すなわちロックの配列は、グラフト要素のまわりに位置決めされてもよい。保持要素、すなわちロックは、グラフト材料を下側のステント構造体に固定させるように機能しない縫合糸の結び目からでも形成することができる。本質的に、任意の構成を利用することができる。更に、上記で簡単に説明した、構成部品の重なり合う度合いが、保持要素、すなわちロックの位置、サイズ、数、及び形状を決めてもよい。
【0057】
ロックは、他の機器、例えば、下側のステント構造体なしで形成されたグラフトで利用することができることを注記しておくことも重要である。
【0058】
図7及び図8を参照すると、刻み目702及び/又は突出部/フック704を有するステントセグメント700が図示されており、このステントセグメントは、本発明の縫合糸の結び目から形成された保持要素と同様、グラフト材料804をステントセグメント806に固定させる変更した縫合糸の結び目802にロックさせるために利用することができる。例示されるように、変更した縫合糸の結び目802のいずれも、任意の刻み目702及び/又は突出部/フック704にロックさせることができる。この結び目及びロックする箇所の構成により、それらが接続する可能性ははるかに大きい。言いかえれば、ステントセグメント806のまわりの様々な位置に位置決めされた多数の変更した縫合糸の結び目802を有し、更にステントセグメントのまわりに位置決めされた多数の刻み目702及び/又は突出部/フック704を有することにより、ロックして接続する可能性がより高くなる。これらの刻み目702及び/又は突出部/フック704は、別の構成部品からの保持要素をつかんで保持するために、任意の適する構成を含むことができる。
【0059】
本発明の保持要素は、腹部大動脈瘤又は動脈瘤一般を修復するためのものにだけではなく、その形式のすべてにおいて、ステント、ステントグラフト、及び/又はグラフトに利用する、又はそれと併用して利用することができることを注記しておくことが重要である。
【0060】
固定又はロックの強度は、次のデータを評価することで実証することができる。試験は、2組の構成部品(本発明の縫合糸のロックを備えた1組と縫合糸のロックを備えていない1組)を分離するのに必要な力(引抜力)を測定するために行われた。試験は単に、構成部品を分離させる、より具体的には、エンドバスキュラーグラフトを固定及びシーリング構成部品のレッグ部から脱落させるのに必要な最大引張力を測定することであった。試験では、正常の身体状態にできるだけ近づけて模擬するために、構成部品に水を体温で循環させた。更に、2つのステントセグメントの重なり合いを用いた。本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、他の重なり合う度合いが用いられてもよい。縫合糸のロックを備えていない構成部品の試験では、検査が3回繰り返されて行われ、結果は次のとおりである。2つの構成部品を分離するのに必要な最大引張力17.7N、2つの構成部品を分離する最大引張力8.9N、及び2つの構成部品を分離する最大引張力10.9Nで、平均最大引張力は12.5Nであった。縫合糸のロックを備えた構成部品の試験では、検査が2回繰り返されて行われ、結果は次のとおりである。2つの構成部品を分離する最大引張力21.1N、及び2つの構成部品を分離する最大引張力20.5Nで、平均最大引張力は20.8Nであった。本発明の縫合糸のロックにより、引張力が65パーセントを超えて増大したことが、データから明らかである。
【0061】
最後に、本発明の変更した縫合糸の結び目は、機器の構築において大きな利点を提供する別の機能をすることを注記しておくことが重要である。変更した縫合糸の結び目は、結び目の端部がほどけて、結び目全体がほころびてしまうのを防ぐ。
【0062】
最も実際的で好ましいと思われる実施形態を示し記載したが、記載し示した特定の構成及び方法からの逸脱は、それ自体が当業者に示唆され、本発明の趣旨から逸脱することなく使用され得ることは明らかである。本発明は、説明及び図示した特定の構成に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲に含まれ得るすべての改変と一貫すると解釈されるべきである。
【0063】
〔実施の態様〕
(1) ステントグラフトの縫合糸のロックにおいて、
実質的に管状のステント構造体と、
前記ステント構造体に付けられることによって、血管内に配置されるように構成される流体を輸送する導管である第1のステントグラフトを作り出す、グラフト材料と、
前記実質的に管状のステント構造体又は前記グラフト材料のうちの少なくとも1つに接続され、相対運動を防ぐために、流体を輸送する導管である第2のステントグラフト又は血管のうちの少なくとも1つと相互作用するように構成される少なくとも1つの保持要素と、
を含む、ステントグラフトの縫合糸のロック。
(2) 前記実質的に管状のステント構造体が、前記グラフト材料によって適所に固定される複数の個別のステントセグメントを含む、実施態様1に記載のステントグラフトの縫合糸のロック。
(3) 前記複数の個別のステントセグメントが、超弾性の材料を含む、実施態様2に記載のステントグラフトの縫合糸のロック。
(4) 前記超弾性の材料が、ニッケルチタン合金を含む、実施態様3に記載のステントグラフトの縫合糸のロック。
(5) 前記グラフト材料が、縫合糸の材料から作られた複数の結び目のある縫い目によって前記複数の個別のステントセグメントに付けられる、実施態様2に記載のステントグラフトの縫合糸のロック。
(6) 前記少なくとも1つの保持要素が、前記縫合糸の材料から作られた前記複数の結び目のある縫い目の少なくとも一部の端部に形成された突出部を含む、実施態様5に記載のステントグラフトの縫合糸のロック。
(7) 縫合糸の材料から作られた前記複数の結び目のある縫い目の端部に形成された前記突出部が、前記縫合糸の材料から形成された球状の要素を含む、実施態様6に記載のステントグラフトの縫合糸のロック。
(8) 前記球状の要素が、相対運動を防ぐために、第2のステントグラフト又は血管のうちの少なくとも1つの要素に固定するように構成されている、実施態様7に記載のステントグラフトの縫合糸のロック。
(9) ステントグラフトの縫合糸のロックにおいて、
実質的に管状のステント構造体と、
前記ステント構造体に付けられることによって、血管内に配置されるように構成される流体を輸送する導管である第1のステントグラフトを作り出す、グラフト材料と、
前記グラフト材料を前記ステント構造体に締結するための複数の固定要素であって、前記複数の固定要素の一部が、相対運動を防ぐために、流体を輸送する導管である第2のステントグラフト又は血管のうちの少なくとも1つと相互作用するように構成される少なくとも1つの突出部を有する、複数の固定要素と、
を含む、ステントグラフトの縫合糸のロック。
(10) 前記実質的に管状のステント構造体が、前記グラフト材料によって適所に固定される複数の個別のステントセグメントを含む、実施態様9に記載のステントグラフトの縫合糸のロック。
【0064】
(11) 前記複数の個別のステントセグメントが、超弾性の材料を含む、実施態様10に記載のステントグラフトの縫合糸のロック。
(12) 前記超弾性の材料が、ニッケルチタン合金を含む、実施態様11に記載のステントグラフトの縫合糸のロック。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステントグラフトの縫合糸のロックにおいて、
実質的に管状のステント構造体と、
前記ステント構造体に付けられることによって、血管内に配置されるように構成される流体を輸送する導管である第1のステントグラフトを作り出す、グラフト材料と、
前記実質的に管状のステント構造体又は前記グラフト材料のうちの少なくとも1つに接続され、相対運動を防ぐために、流体を輸送する導管である第2のステントグラフト又は血管のうちの少なくとも1つと相互作用するように構成される少なくとも1つの保持要素と、
を含む、ステントグラフトの縫合糸のロック。
【請求項2】
前記実質的に管状のステント構造体が、前記グラフト材料によって適所に固定される複数の個別のステントセグメントを含む、請求項1に記載のステントグラフトの縫合糸のロック。
【請求項3】
前記複数の個別のステントセグメントが、超弾性の材料を含む、請求項2に記載のステントグラフトの縫合糸のロック。
【請求項4】
前記超弾性の材料が、ニッケルチタン合金を含む、請求項3に記載のステントグラフトの縫合糸のロック。
【請求項5】
前記グラフト材料が、縫合糸の材料から作られた複数の結び目のある縫い目によって前記複数の個別のステントセグメントに付けられる、請求項2に記載のステントグラフトの縫合糸のロック。
【請求項6】
前記少なくとも1つの保持要素が、前記縫合糸の材料から作られた前記複数の結び目のある縫い目の少なくとも一部の端部に形成された突出部を含む、請求項5に記載のステントグラフトの縫合糸のロック。
【請求項7】
縫合糸の材料から作られた前記複数の結び目のある縫い目の端部に形成された前記突出部が、前記縫合糸の材料から形成された球状の要素を含む、請求項6に記載のステントグラフトの縫合糸のロック。
【請求項8】
前記球状の要素が、相対運動を防ぐために、第2のステントグラフト又は血管のうちの少なくとも1つの要素に固定するように構成されている、請求項7に記載のステントグラフトの縫合糸のロック。
【請求項9】
ステントグラフトの縫合糸のロックにおいて、
実質的に管状のステント構造体と、
前記ステント構造体に付けられることによって、血管内に配置されるように構成される流体を輸送する導管である第1のステントグラフトを作り出す、グラフト材料と、
前記グラフト材料を前記ステント構造体に締結するための複数の固定要素であって、前記複数の固定要素の一部が、相対運動を防ぐために、流体を輸送する導管である第2のステントグラフト又は血管のうちの少なくとも1つと相互作用するように構成される少なくとも1つの突出部を有する、複数の固定要素と、
を含む、ステントグラフトの縫合糸のロック。
【請求項10】
前記実質的に管状のステント構造体が、前記グラフト材料によって適所に固定される複数の個別のステントセグメントを含む、請求項9に記載のステントグラフトの縫合糸のロック。
【請求項11】
前記複数の個別のステントセグメントが、超弾性の材料を含む、請求項10に記載のステントグラフトの縫合糸のロック。
【請求項12】
前記超弾性の材料が、ニッケルチタン合金を含む、請求項11に記載のステントグラフトの縫合糸のロック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−67630(P2011−67630A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−212037(P2010−212037)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(510197221)コーディス・コーポレイション (11)
【氏名又は名称原語表記】Cordis Corporation
【住所又は居所原語表記】430 Route 22, Bridgewater, NJ  08807, United States of America
【Fターム(参考)】