説明

ステンレス鋼製導電性部材およびその製造方法

【課題】外観状ステンレス鋼表面が有する意匠性を保持したまま、ステンレス鋼表面の不働態皮膜を改質して、導電性が優れ、低い接触電気抵抗を有するステンレス鋼製導電性部材およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】ステンレス鋼製導電性部材において、表面X線光電子分光法(XPS)で分析した結合エネルギー530.1eVにおけるX線強度に対する結合エネルギー531.3eVにおけるX線強度の比が0.85以上であることを特徴とするステンレス鋼製導電性部材;支持電解質を含む水溶液中でステンレス鋼をカソード電解処理することを特徴とするステンレス鋼製導電性部材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼の表面意匠性、加工性、ばね特性および耐食性を維持しながら、接触電気抵抗を著しく改善したステンレス鋼製導電性部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品に使用されるスイッチ、リレー、コネクターなどの接点ばねや皿ばね(タクトスイッチ、マルチスイッチ)の基材には銅系合金が使用されていた。しかし、導電性部材の軽量化、薄肉化の要求およびばね特性が優れることから、銅系合金に代えてステンレス鋼が導電性材料の基材として広く使用されるようになってきた。
【0003】
ステンレス鋼表面には、低い電気伝導性を示す不働態皮膜が存在し、これが接触電気抵抗を高くするため、電気接点機能が要求される部品にステンレス鋼部材を用いた場合には問題となる。この不働態皮膜は、酸洗や機械研磨によって除去しても、大気中では短時間に再生してしまう。このため、通常ステンレス鋼は、表面に生成している不働態皮膜を除去した後、その再生を防止しながら、密着性の優れる下地めっきを施し、その上層に電気伝導性が優れる錫-鉛(はんだ)、錫や貴金属の銀、金などがめっきされ、接触電気抵抗を改善した状態で使用される。また、金属めっき以外では、カーボン質被覆層で優れた電気伝導性が付与されたステンレス鋼(特許文献1)や、Cuリッチ層の析出又はCu濃化層を表層に形成したステンレス鋼(特許文献2)が知られている。
【0004】
上述のごとく、ステンレス鋼を電気接点部品の基材として使用する場合、電気伝導性が優れる錫-鉛(はんだ)、錫、銀、金などをステンレス鋼表面にめっきして接触電気抵抗を改善する必要がある。しかしながら、錫ではめっき処理時にウイスカー(ひげ状結晶)が発生し易く、このウイスカー発生を防止できる鉛-錫合金めっきでは、鉛の排液処理が問題となる。また、銀めっきでは、部品として組み込んだ後、イオンマイグレーション(ion migration)が発生し易く、接触不良や絶縁破壊を起こす可能性がある。さらに金では、めっき液にシアンを用いることが多いため、鉛と同様に排液処理が問題となり、製造プロセスとして環境的に好ましくない。
【0005】
なお、金めっきでは0.5μm程度のめっき厚さで使用されることが多いが、めっき皮膜には欠陥が多く存在し、腐食性の強い環境で使用される場合には、金が下地金属の溶出を促進する。これを防止するために、めっき厚さを3μm以上にして皮膜の欠陥を少なくする対策もあるが、製造コストを上昇させる原因となる。
また通常、電気接点ばね部品は、ステンレス鋼の板材やコイル材にめっきした後、プレス打ち抜き成型によって対象部品に加工される。しかしながら、めっき皮膜には内部応力が存在し、これが原因となり、プレス成型後に反りなどが発生して要求される形状が得られないことがある。導電性部材の軽量化、薄肉化の要求が高まれば高まるほど、基材の板厚は薄くなり、このめっき皮膜の内部応力の影響が大きくなる。
【0006】
さらに、カーボン質被覆層で優れた電気伝導性が付与されたステンレス鋼では、多数のピット表面が形成されたステンレス鋼板を基材とし、カーボン質被覆層が基材表面に設けられている(特許文献1)。ピットによるアンカー効果および実効表面積が大きくなることによって、ステンレス鋼基材とカーボン質被覆層は優れた密着性を呈するとされているが、プレス成型などの加工にカーボン質被覆層が追従できるとは考えられず、とくに、浅いピット部ではアンカー効果は低く、密着性、耐久性に問題があると考えられる。
【0007】
Cuリッチ層の析出又はCu濃化層を表層に形成したステンレス鋼(特許文献2)では、Cuの析出熱処理に長時間を要し、製造コストの上昇や、Cuを基材に含有しないSUS304鋼などの汎用鋼では処理が不可能など、問題点も多い。
【0008】
【特許文献1】特開2001-243839号公報
【特許文献2】特開2001-234296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、外観状ステンレス鋼表面が有する意匠性を保持したまま、ステンレス鋼表面の不働態皮膜を改質して、導電性が優れ、低い接触電気抵抗を有するステンレス鋼製導電性部材を提供することである。
本発明の他の目的は、外観状ステンレス鋼表面が有する意匠性を保持したまま、ステンレス鋼表面の不働態皮膜を改質して、導電性が優れ、低い接触電気抵抗を有するステンレス鋼製導電性部材の製造方法を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、処理液の排液処理の問題が少なく、部品として組み込んだ後、めっき皮膜に起因するイオンマイグレーション、接触不良、絶縁破壊を起こす可能性が低く、製造コストが低く、加工の際に生じる内部応力が少ないステンレス鋼製導電性部材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ステンレス鋼表面不働態皮膜にプロトン(H+)を電気化学的に注入し、皮膜内の金属水酸化物量を増加させることによって、不働態皮膜の電気伝導性を向上させたステンレス鋼製導電性部材を提供するものである。
本発明はまた、ステンレス鋼表面不働態皮膜にプロトンを電気化学的に注入し、皮膜内の金属水酸化物量を増加させることによって、不働態皮膜の電気伝導性を向上させたステンレス鋼製導電性部材の製造方法を提供するものである。
本発明は以下のステンレス鋼製導電性部材及びその製造方法を提供するものである。
1.ステンレス鋼製導電性部材において、表面X線光電子分光法(XPS)で分析した結合エネルギー530.1eVにおけるX線強度に対する結合エネルギー531.3eVにおけるX線強度の比が0.85以上であることを特徴とするステンレス鋼製導電性部材。
2.該比が0.90以上である上記1記載のステンレス鋼製導電性部材。
3.ステンレス鋼が、オーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系、オーステナイト・フェライト(2相)、または析出硬化系ステンレス鋼である上記1または2記載のステンレス鋼製導電性部材。
4.ステンレス鋼が、SUS301、SUS304、SUS316、SUS430、SUS430J1L、SUS434、SUS444、またはSUS631である上記1または2記載のステンレス鋼製導電性部材。
5.ステンレス鋼が、光輝焼鈍仕上げ(BA)、酸洗仕上げ(2D)、酸洗後軽圧延仕上げ(2B)、または調質圧延仕上げ鋼である上記1〜4のいずれか1項記載のステンレス鋼製導電性部材。
6.支持電解質を含む水溶液中でステンレス鋼をカソード電解処理することを特徴とするステンレス鋼製導電性部材の製造方法。
7.支持電解質を含む水溶液が、酸水溶液である上記6記載のステンレス鋼製導電性部材の製造方法。
8.酸が、硫酸、硝酸、またはリン酸である上記7記載のステンレス鋼製導電性部材の製造方法。
9.支持電解質を含む水溶液が、さらに水素過電圧を上昇させる添加成分を含む上記6〜8のいずれか1項記載のステンレス鋼製導電性部材の製造方法。
10.水素過電圧を上昇させる添加成分が、アンチモン化合物、亜鉛化合物、錫化合物、砒素化合物、珪酸塩、またはヨウ化物である上記9記載のステンレス鋼製導電性部材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のステンレス鋼導電性部材は、導電性に優れ、低い接触電気抵抗を示し、高い接触感度を有する。また、本発明の方法によれば、元来のステンレス鋼表面仕上げ状態の外観を変化させることが少なく、めっき処理のような排液処理の問題が少なく、部品として組み込んだ後、イオンマイグレーション(ion migration)が発生せず、接触不良や絶縁破壊を起こす可能性が低く、製造コストが低いステンレス鋼製導電性部材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に使用されるステンレス鋼とは、オーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系、オーステナイト・フェライト(2相)、析出硬化系ステンレス鋼等を意味し、その具体例としては、SUS301、SUS304、SUS316、SUS430、SUS430J1L、SUS434、SUS444、SUS631等が挙げられる。また、表面仕上げ状態は、光輝焼鈍仕上げ(BA)、酸洗仕上げ(2D)、酸洗後軽圧延仕上げ(2B)、調質圧延仕上げ等が挙げられる。
【0013】
本発明のステンレス鋼製導電性部材を製造するには、支持電解質を含んだ水溶液中でステンレス鋼をカソード電解処理する。カソード電解処理によって、水溶液中のヒドロニウムイオン(H3O+)は水(H2O)とプロトン(H+)に分離し、分離した水素イオン(プロトンH+)が不働態皮膜中へ進入する。進入したH+は、不働態皮膜を構成しているクロム酸化物、鉄酸化物および電子(e-)と結合して、クロム水酸化物(Cr(OH)3)や鉄水酸化物(Fe(OH)2、Fe(OH)3)を形成する。元来生成している不働態皮膜は、クロム酸化物(Cr2O3)、鉄酸化物(Fe2O3、Fe3O4)から構成されており、これら酸化物の電気伝導性は低い。一方、カソード電解処理で生成したクロム水酸化物、鉄水酸化物は電気伝導性が優れるため、これら水酸化物の構成比率を高くすることによって元来生成している不働態皮膜の接触電気抵抗を著しく改善することが可能となる。
【0014】
カソード処理に使用する水溶液は、酸水溶液、アルカリ水溶液、水溶性塩を含有した中性水溶液のいずれも使用できる。酸としては、硫酸、硝酸、リン酸、シュウ酸等が、アルカリとしては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が、水溶性塩としては、硫酸ナトリウム、硝酸カリウム等が挙げられる。しかし、プロトン進入の電解効率(pH-電位図)を考慮すると、これら水溶液の中では酸水溶液が好ましく、例えば、硫酸、硝酸、リン酸等を含有する水溶液が好ましい。酸水溶液のpHは、好ましくはpH0〜pH3、さらに好ましくはpH0〜pH2である。また、ハロゲンを含有する水溶液でも可能であるが、カソード電解処理後にステンレス鋼に孔食など、局部腐食が発生する可能性があるため、避けることが望ましい。
プロトンの進入効率は、水溶液の電気伝導度とpHに依存するため、水溶液中の酸、アルカリまたは水溶性塩の濃度は、pHと電気伝導度の変動が小さくなる1kmol・m-3程度で十分であり、これ以上の濃度にする必要はない。また水溶液の温度は、高温になるほど酸によるエッチング作用が激しくなり、元来生成している不働態皮膜が除去され、外観が変化する可能性があるため、加温する必要はない。通常は10〜30℃程度で十分である。
【0015】
電解条件は、好ましくは0.01〜50A/dm2、電解時間は好ましくは5〜1200秒、さらに好ましくは5〜600秒が適する。電流密度が高い程、短時間処理が可能である。高電流密度での長時間電解では、ステンレス鋼母材に侵入したプロトンによって水素脆性が生じる可能性が高くなる。とくに調質圧延仕上げ材などでは、ばねの疲労特性が低下する可能性があるので、電解条件はより好ましくは0.5〜10A/dm2で、5〜120秒、例えば、30秒程度が適する。ただし、酸化性の酸水溶液(例えば、硝酸水溶液)の場合には、カソード腐食現象が生じ、不働態皮膜がエッチングされ、元来の外観を損なう場合があるので、低濃度(例えば、1〜10質量%)、低温度(例えば、10〜30℃)、低電流密度(例えば、0.5〜1A/dm2)で処理することが好ましい。
【0016】
プロトン進入の電解効率を上昇させるには、上記水溶液に水素過電圧を上昇させる添加成分を加えることが好ましい。この添加成分としては、アンチモン化合物(三塩化アンチモン、五塩化アンチモン、酸化アンチモン等)、亜鉛化合物(塩化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、炭酸亜鉛等)、錫化合物(塩化第一錫、塩化第二錫、硫酸錫、フッ化錫等)、砒素化合物(三酸化二砒素、五酸化二砒素等)、珪酸塩(メタ珪酸ナトリウム、オルソ珪酸ナトリウム等)、ヨウ化物(ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム等)等が挙げられる。
アンチモン化合物、亜鉛化合物(塩化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、炭酸亜鉛等)、錫化合物、砒素化合物、珪酸塩、ヨウ化物の好適な濃度は、それぞれ物質中の金属イオン、ケイ素原子、ヨウ素イオンに換算して、好ましくは0.0001kmol・m-3〜0.01 kmol・m-3である。0.0001 kmol・m-3未満では、プロトン進入に対して効果が少なく、0.01 kmol・m-3を越えて増量しても効果に変化は無く、経済的に不利である。
【0017】
このようにして得られる本発明のステンレス鋼製導電性部材は、表面X線光電子分光法(XPS)で分析した結合エネルギー530.1eVにおけるX線強度に対する結合エネルギー531.3eVにおけるX線強度の比が0.85以上であり、好ましくは0.90以上であり、また下記の接触電気抵抗測定方法により測定した接触電気抵抗は、接触荷重50gfにおいて、好ましくは150mΩ以下、さらに好ましくは100mΩ以下である。
【0018】
以下実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
実施例1
供試材
供試材には板厚が0.2mmのSUS304BA(BA:光輝焼鈍材)を使用した。これを15mm×50mmに切断して試験片とした。
実験方法
試験片をアセトン中に浸漬して超音波洗浄を施した後、硝酸水溶液、リン酸水溶液、それぞれ10%濃度(質量)、25℃において、対極にSUS304鋼を用いてカソード電解を施した。電流密度は5A/dm2で電解時間を30秒とした。電解後に蒸留水洗浄、冷風(25℃)乾燥を行い、接触電気抵抗を測定した。
【0019】
接触電気抵抗測定方法
接触電気抵抗は、株式会社 山崎精機研究所製、電気接点シミュレーター(CRS-113-金型)を使用して測定した。測定プローブには、PU-05金線接触子、0.5mmΦを用いた。印加定電流を10mAとした。また、接触子の最大接触荷重を100gf、移動距離を1mmとして測定を行い、接触荷重-接触電気抵抗分布曲線を求めた。
結果
素材(SUS304BA:光輝焼鈍仕上げ)の接触荷重-接触電気抵抗分布曲線を図1に示す。
【0020】
素材、SUS304BAでは、瞬間的に接触電気抵抗が低下する挙動は認められるものの、接触荷重が100gfまで、接触電気抵抗は高い状態(300mΩ以上)を保持したままである。
図2に10%硝酸および10%リン酸水溶液中でカソード電解処理した試験片の接触電気抵抗測定結果を示す。硝酸処理材、リン酸処理材とも、接触荷重が約10gfで接触電気抵抗が300mΩ以下となり、接触荷重の増加とともに接触電気抵抗が低下した。このように、素材(SUS304BA)の接触電気抵抗は、硝酸カソード電解、リン酸カソード電解によって低下する。
【0021】
実施例2
供試材
実施例1に使用したものと同じ。
実験方法
試験片をアセトン中に浸漬して超音波洗浄を施した後、10%硫酸水溶液、または10%硫酸+5mg/L三酸化二砒素水溶液、25℃において、対極にSUS304鋼を使用して、カソード電解を施した。電流密度は5A/dm2で電解時間を30秒とした。電解後に蒸留水洗浄〜冷風乾燥を行い、実施例1と同様に接触電気抵抗を測定した。また比較例として、SUS304BAに半光沢Niめっきした試験片の接触電気抵抗を測定した。
【0022】
図3に10%硫酸水溶液中でカソード電解処理した試験片の接触電気抵抗に及ぼす三酸化二砒素添加の効果を示す。水素過電圧を上昇させる三酸化二砒素を5mg/L添加することによって、硫酸カソード電解処理の効果が向上し、約7gfの接触荷重で急激に接触電気抵抗が低下することがわかった。このように、三酸化二砒素を添加することによってカソード電解処理でのプロトン進入効果が上昇することがわかる。
図4には比較例として半光沢Niめっき材の接触荷重-接触電気抵抗分布曲線を示す。上記、10%硫酸+5mg/L三酸化二砒素水溶液中でカソード電解した試験片は、半光沢Niめっき材とほぼ同等の接触電気抵抗を示した。
【0023】
実施例3
供試材
供試材には板厚が0.2mmのSUS304 2D、SUS304 2B、SUS304 3/4H、SUS430BAを使用した。これらを15mm×50mmに切断して試験片とした。
実験方法
試験片をアセトン中に浸漬して超音波洗浄を施した後、10%硫酸+5mg/L三酸化二砒素水溶液、25℃において、対極にSUS304鋼を使用して、カソード電解を施した。電流密度は5A/dm2で電解時間を30秒とした。電解後に蒸留水洗浄〜冷風乾燥を行い、実施例1と同様に接触電気抵抗を測定した。
図5にはSUS304 2D材の、図6にはSUS304 2B材の、図7にはSUS304 3/4H材の、図8にはSUS430BAの処理後および素材の接触荷重-接触電気抵抗分布曲線をそれぞれ示す。このように、SUS304鋼の素材表面状態が異なっても、あるいはフェライト系ステンレス鋼であるSUS430鋼であっても、接触電気抵抗は低下する。
【0024】
実施例4
供試材
実施例1に使用したものと同じ。
実験方法
10%硝酸水溶液、25℃において、5A/dm2で30秒間のカソード電解処理を行い、蒸留水洗浄〜冷風乾燥した試験片を作製した。このカソード電解処理した試験片表面と素材(SUS304BA)の試験片表面とを表面X線光電子分光法(XPS)で分析し比較した。
図9に示すように、金属-O(酸化物)の結合エネルギーを表わす530.1eVと金属-OH(水酸基)のそれを表わす531.3eVにおいてX線強度を比較した結果、素材(SUS304BA)の金属-OH/金属-O比が0.8であったのに対して、カソード処理後では0.9に上昇していた。種々検討した結果、素材表面の仕上げ状態に関わらず、金属-OH/金属-OのX線強度比が0.85以上において、接触電気抵抗が低下することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】素材SUS304BA材の接触電気抵抗測定結果である。
【図2】10%リン酸、10%硝酸水溶液中、25℃でカソード電解処理した試験片(SUS304BA)の接触電気抵抗測定結果である。
【図3】10%硫酸および10%硫酸+5mg/L三酸化二砒素水溶液中でカソード電解処理した試験片(SUS304BA)の接触電気抵抗測定結果である(三酸化二砒素添加によるプロトン進入の促進効果)。
【図4】半光沢Niめっき材の接触電気抵抗測定結果である。
【図5】10%硫酸+5mg/L三酸化二砒素水溶液中でカソード電解処理したSUS304 2D材の接触電気抵抗測定結果である。
【図6】10%硫酸+5mg/L三酸化二砒素水溶液中でカソード電解処理したSUS304 2B材の接触電気抵抗測定結果である。
【図7】10%硫酸+5mg/L三酸化二砒素水溶液中でカソード電解処理したSUS304 3/4H材の接触電気抵抗測定結果である。
【図8】10%硫酸+5mg/L三酸化二砒素水溶液中でカソード電解処理したSUS430BA材の接触電気抵抗測定結果である。
【図9】10%硝酸溶液中でのカソード電解処理前後におけるSUS304BA表面のXPS分析結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼製導電性部材において、表面X線光電子分光法(XPS)で分析した結合エネルギー530.1eVにおけるX線強度に対する結合エネルギー531.3eVにおけるX線強度の比が0.85以上であることを特徴とするステンレス鋼製導電性部材。
【請求項2】
該比が0.90以上である請求項1記載のステンレス鋼製導電性部材。
【請求項3】
ステンレス鋼が、オーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系、オーステナイト・フェライト(2相)、または析出硬化系ステンレス鋼である請求項1または2記載のステンレス鋼製導電性部材。
【請求項4】
ステンレス鋼が、SUS301、SUS304、SUS316、SUS430、SUS430J1L、SUS434、SUS444、またはSUS631である請求項1または2記載のステンレス鋼製導電性部材。
【請求項5】
ステンレス鋼が、光輝焼鈍仕上げ(BA)、酸洗仕上げ(2D)、酸洗後軽圧延仕上げ(2B)、または調質圧延仕上げ鋼である請求項1〜4のいずれか1項記載のステンレス鋼製導電性部材。
【請求項6】
支持電解質を含む水溶液中でステンレス鋼をカソード電解処理することを特徴とするステンレス鋼製導電性部材の製造方法。
【請求項7】
支持電解質を含む水溶液が、酸水溶液である請求項6記載のステンレス鋼製導電性部材の製造方法。
【請求項8】
酸が、硫酸、硝酸、またはリン酸である請求項7記載のステンレス鋼製導電性部材の製造方法。
【請求項9】
支持電解質を含む水溶液が、さらに水素過電圧を上昇させる添加成分を含む請求項6〜8のいずれか1項記載のステンレス鋼製導電性部材の製造方法。
【請求項10】
水素過電圧を上昇させる添加成分が、アンチモン化合物、亜鉛化合物、錫化合物、砒素化合物、珪酸塩、またはヨウ化物である請求項9記載のステンレス鋼製導電性部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−277143(P2008−277143A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−119691(P2007−119691)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000230869)日本金属株式会社 (29)
【Fターム(参考)】