説明

ステータコイルアッセンブリ

【課題】コンパクト化を図りながら放熱量を増大させて冷却性能を向上させたステータコイルアッセンブリを提供する。
【解決手段】第1のコイルピース2と第2のコイルピース3を所定のコイルパターンとなるように係止する係止部(4)が形成された絶縁部材5と、を有し、第1のコイルピース2および第2のコイルピース3によりコイルループが形成されたステータコイルアッセンブリ1であって、第1のコイルピース2および第2のコイルピース3から絶縁され絶縁部材5の内部に埋設された伝熱部81を有する伝熱部材8と、伝熱部材8に流れようとする誘導電流の経路を遮断するように伝熱部材8に形成されたスリットと、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータコイルアッセンブリに係り、特に、アキシャルギャップ型の回転電機に使用されるステータコイルアッセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アキシャルギャップ型の回転電機(電動機および発電機)のステータコイルでは、大電流を流して高トルクを得るために導体の厚さを増やしたり、多層化したりする技術が知られている。
このようなステータコイルでは、大電流を流すことによる導体の発熱を防止するため、例えば、絶縁シートを介して導体の表面に熱伝達部材を貼り付けてコイルの内周部に設けた冷却装置まで熱を伝達して冷却するものがある(例えば、特許文献1)。
また、冷却性能を向上させるため、コイル部材の両側にウォータジャケット等の冷却構造を設けたステータコイルがある(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−183072号公報(図1、段落0058)
【特許文献2】特開2008−61375号公報(図6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のステータコイルでは、より大電量を流して高出力を得ようとすると、導体の厚さをさらに厚くしたり、多層化したりする必要があるため、導体の厚さ方向(回転電機の軸方向)の伝熱効率の低下を招き、必要な放熱量を確保することが困難になるという問題があった(図10(a)参照)。また、冷却性能を向上させるためにコイルプレートの両側に冷却構造を設けると、軸方向のサイズが増大してしまうという問題があった(図10(b)参照)。
【0005】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、コンパクト化を図りながら放熱量を増大させて冷却性能を向上させたステータコイルアッセンブリを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、導電材料からなる第1のコイルピースと、導電材料からなる第2のコイルピースと、前記第1のコイルピースと前記第2のコイルピースを所定のコイルパターンとなるように係止する係止部が形成された絶縁部材と、を有し、前記第1のコイルピースおよび前記第2のコイルピースによりコイルループが形成されたステータコイルアッセンブリであって、前記第1のコイルピースおよび前記第2のコイルピースから絶縁され前記絶縁部材の内部に埋設された伝熱部を有する伝熱部材と、この伝熱部材に流れようとする誘導電流の経路を遮断するように当該伝熱部材に形成されたスリットと、を備えたことを特徴とする。
【0007】
かかる構成によれば、前記第1のコイルピースと前記第2のコイルピースを係止する絶縁部材の内部に伝熱部材の伝熱部を埋設したことで絶縁信頼性を向上して絶縁が確保でき、通電時における第1のコイルピースと第2のコイルピース周辺からの発熱(例えば、磁束伝達部材からの発熱等も含む)を共通の伝熱経路となる伝熱部に効率よく伝達することができる。このようにして、伝熱部により効率よくまとめて回収した熱を放熱させて冷却することで、伝熱効率を高め放熱量を増大させて冷却性能を向上させることが可能となる。
【0008】
そして、共通の伝熱経路となる伝熱部を備えたことで、コイルループを形成するコイルプレートを多層化した場合であっても、多層化による伝熱効率およびスペース効率の低下を抑制することができるため、多層化に適用しやすく、放熱量を増大させて冷却性能を向上させることができる。
【0009】
また、絶縁部材に埋設した伝熱部材に誘導電流を遮断するスリットを備えたことで、伝熱部材に鎖交する磁束による誘導電流を遮断することができる。このため、伝熱部材として熱伝導率が良好な銅、アルミニウム、およびこれらの合金からなる導電性金属材料を使用することが可能となり、放熱量を増大させることができる。その為コイルの許容電流密度を高く設定でき、より高い出力を得ることができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のステータコイルアッセンブリであって、前記第1のコイルピースは、前記絶縁部材の表裏をなす一方の面に形成された前記係止部に係止され、前記第2のコイルピースは、前記一方の面と表裏をなす他方の面に形成された前記係止部に係止され、前記伝熱部は、前記第1のコイルピースと前記第2のコイルピースの間に配設されていること、を特徴とする。
【0011】
かかる構成によれば、絶縁部材の表裏面をなす一方の面に第1のコイルピースを係止し、他方の面に第2のコイルピースを係止することで、第1のコイルピースと第2のコイルピースの絶縁信頼性を高めることができる。そして、絶縁部材の内部に伝熱部を埋設することで、コイルプレートを厚み方向に積層する多層構造を採用してもコイルループ毎に(独立して)設けられた個別の伝熱部材を介して放熱を促進することができるため、大電流時における伝熱効率の低下を効果的に抑制することができる。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載のステータコイルアッセンブリであって、前記第1のコイルピースおよび前記第2のコイルピースを形成する前記コイルピースは、当該コイルピースの長尺状の中間部と、この中間部の一方の端部から前記コイルループの周方向の一方に曲折して形成された第1曲折部と、前記中間部の他方の端部から前記コイルループの周方向の他方に曲折して形成された第2曲折部と、を備え、前記コイルパターンは、波巻き形状であることを特徴とする。
【0013】
かかる構成によれば、波巻き形状のコイルパターンを形成することで、必要最小限の導体長に設定でき、かつ、同一平面内におけるコイルピースによる導体占有率を高めて効率よく大電流を流すことができるため、高出力化を実現することができる。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のステータコイルアッセンブリであって、前記伝熱部材は、外縁部または内縁部に前記コイルループから発生した熱を冷却する放熱部を備え、前記発生した熱を前記伝熱部から前記放熱部に伝達して冷却すること、を特徴とする。
【0015】
かかる構成によれば、前記発生した熱を前記伝熱部から前記放熱部に伝達して冷却することで、冷却能力を高めた放熱部から効率的に冷却することができるため、冷却性能をさらに向上させることが可能となる。
【0016】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載のステータコイルアッセンブリであって、前記放熱部は、前記熱を冷却する冷媒の循環流路と、この循環流路に前記冷媒を導入する冷媒入口と、前記循環流路から前記冷媒を排出する冷媒出口と、を備え、前記冷媒入口および冷媒出口は、前記外縁部または内縁部に配設されていることを特徴とする。
【0017】
かかる構成によれば、前記外縁部または内縁部に冷媒入口と冷媒出口が配設されたことで、冷媒供給口との接続を軸方向において行うことができ、径方向への容積増大を抑えることができる。
【0018】
請求項6に係る発明は、請求項4に記載のステータコイルアッセンブリであって、前記スリットは、前記外縁部および内縁部のうち前記放熱部が設けられていない前記外縁部または内縁部に形成されていること、を特徴とする。
【0019】
かかる構成によれば、放熱部が設けられていない縁部にスリットを形成することで、誘導電流の経路を遮断することができる。
【0020】
請求項7に係る発明は、請求項4に記載のステータコイルアッセンブリであって、前記放熱部を前記伝熱部材の外縁部に備え、前記スリットを前記伝熱部材の内縁部に備えていることを特徴とする。
【0021】
かかる構成によれば、外縁部に放熱部を備えたことで、放熱部の容量を確保しやすく、内縁部から外縁部に熱が伝達されるため熱の篭りを防止して伝熱効率を高め放熱量を増大させることが可能となる。
【0022】
請求項8に係る発明は、請求項7に記載のステータコイルアッセンブリであって、前記伝熱部材は、前記外縁部が周方向で連続し、前記外縁部から前記内縁部まで延び当該内縁部で前記誘導電流を遮断する開口部が形成された櫛歯形状となるように前記スリットを備えていることを特徴とする。
【0023】
かかる構成によれば、構成が簡易な櫛歯形状とすることで、製作性が向上し工数削減を図ることができる。また、外縁部が周方向で連続しているため、外縁部に放熱部を設けた場合には、伝熱面積を拡大して伝熱効率を向上させることができる。
【0024】
請求項9に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のステータコイルアッセンブリであって、前記スリットは、前記伝熱部材の外縁部から内縁部まで延び当該内縁部で前記誘導電流を遮断する開口部が形成された内縁部側のスリットと、前記内縁部から前記外縁部まで延び当該外縁部で前記誘導電流を遮断する開口部が形成された外縁部側のスリットと、を交互に備えていることを特徴とする。
【0025】
本発明に係る前記スリットは、誘導電流を遮断できるものであれば種々の形態が可能であり、内縁部側のスリットと外縁部側のスリットとを交互に備えたものでもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係るステータコイルアッセンブリは、コンパクト化を図りながら放熱量を増大させて冷却性能の向上を図ることができるため、高トルク用の回転電機をコンパクトに構成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るステータコイルアッセンブリの半分を切断した状態を示す斜視図であり、(a)は3層のコイルプレートを分離した状態、(b)は組み付けた状態を示す。
【図2】本発明に係る第1のコイルプレートの半分を切断した状態を示す斜視図であり、(a)は伝熱部材の構成を示し、(b)は第1のコイルプレートからコイルピースを分離した状態を示す分解図である。
【図3】本発明に係る第1のコイルプレートの構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【図4】本発明に係る第1のコイルピースと第2のコイルピースの重ね方を説明するための分解斜視図である。
【図5】本発明に係るコイルループにおける電流の流れを説明するための模式的な斜視図である。
【図6】本発明に係る伝熱部材による冷媒の循環の様子を説明するための分解斜視図である。
【図7】本発明に係る伝熱部材における放熱の様子を説明するための模式的断面図である。
【図8】本発明に係る伝熱部の厚さと放熱量および許容トルクとの関係を示す図である。
【図9】本発明に係る伝熱部材の変形例を説明するための斜視図であり、(a)は放熱部を内縁部に配設したもの、(b)はスリットが内縁部から外縁部にジグザグに形成されたものを示す。
【図10】従来例に係る放熱の様子を示す断面図であり、(a)は片側に放熱部がある場合、(b)は両側に放熱部がある場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施形態に係るステータコイルアッセンブリ1について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
ステータコイルアッセンブリ1は、図1に示すように、偏平な円環形状をなし、第1のコイルプレート1a、第2のコイルプレート1b、および第3のコイルプレート1cからなる3層のコイルプレート1a,1b,1cを厚さ方向に積層して構成されている。そして、ステータコイルアッセンブリ1の外縁部には、円周方向に沿って配設された放熱部82を有し(図6参照)、放熱部82には冷媒入口用リング83と、冷媒シール用カバー84と、を備えている。そして、冷媒入口用リング83には、冷媒入口82aおよび冷媒出口82bが形成されている。
【0029】
なお、説明の便宜上、冷媒入口82aおよび冷媒出口82bがある第1のコイルプレート1aの側をステータコイルアッセンブリ1の表側といい、第3のコイルプレート1cの側を裏側といい、各コイルプレート1a,1b,1cについても同様に表面および裏面という場合があるが特に表側と裏側で限定的に解釈されるものではない。
【0030】
3層のコイルプレート1a,1b,1cの構成について説明するが、3層のコイルプレート1a,1b,1cは、同様の構成であるので、以下、第1のコイルプレート1aについて主として図2から図4を参照しながら説明する。図2から図4は、第1のコイルプレートの構成を説明するための斜視図である。
【0031】
なお、3層のコイルプレート1a,1b,1cには、それぞれ各層において図示しないU相、V相、およびW相の3相のコイルループがそれぞれ形成され、給電接続端子BB(図1)を備えているが、3相のコイルループは、それぞれ同様の構成であるため、説明の便宜上、1相のみを抜き出して以下説明する。
【0032】
第1のコイルプレート1aは、図2と図3に示すように、表側に配設された第1のコイルピース2(図2(b)参照)と、裏側に配設された第2のコイルピース3(図2(b)参照)と、第1のコイルピース2と第2のコイルピース3を絶縁するように係止する係止部である凹部4が形成された絶縁部材5(図2(b))と、第1のコイルピース2と第2のコイルピース3を連結して導通させる層間接合部材である連結ピン6(図3(a)、図4参照)と、絶縁部材5の内部に埋設された伝熱部81および放熱部82(図2(a)参照)を有する伝熱部材8と、この伝熱部材8に形成され誘導電流を遮断するスリット81aと、を備えている。
【0033】
図2(b)に示すように、第1のコイルピース2は、絶縁部材5の表裏をなす一方の面(表面)に形成された凹部4に嵌め込んで係止され、第2のコイルピース3は、表裏をなす他方の面(裏面)に形成された凹部4(不図示)に嵌め込んで係止されている(図1(a)、図4を併せて参照)。凹部4は、図2(b)に示すように、第1のコイルピース2および第2のコイルピース3を構成するコイルピースの形状に適合するように形成された溝である。
【0034】
なお、本実施形態においては、係止部を凹部4としたが、これに限定されるものではなく、凸部や壁部に突き当てたり、凸部やボス部に嵌め込んだりして第1のコイルピース2および第2のコイルピース3を係止することもできる。
【0035】
第1のコイルピース2は、導電材料であるアルミニウムまたはアルミニウム合金、銅、銅合金からなり、図4に示すように、長尺状に形成された中間部2aと、この中間部2aの一方(外縁側)の端部からコイルループCR(図5参照)の周方向の一方(反時計回り方向)に曲折して形成された第1曲折部2bと、第1曲折部2bの先端部に形成された第1接合孔2cと、中間部2aの他方(内縁側)の端部からコイルループCRの周方向の他方(時計回り方向)に曲折して形成された第2曲折部2dと、第2曲折部2dの先端部に形成された第2接合孔2eと、を備えている(図3参照)。
また、第1のコイルピース2には、給電入力端子A1を有するコイルピース21と、給電出力端子A4を有するコイルピース22が含まれて構成されている(図5参照)。
【0036】
第2のコイルピース3は、導電材料であるアルミニウムまたはアルミニウム合金、銅、銅合金からなり、第1のコイルピース2と同形状をなしているが、図4に示すように、絶縁部材5に係止された状態では第1のコイルピース2に対して表裏の関係にある。このため、紙面手前側から見ると、第1のコイルピース2と第2のコイルピース3は、左右対称になるようにそれぞれ表面の凹部4および裏面の凹部4(不図示)に配設されている。なお、図4では、説明の便宜上、裏側が見えるように絶縁部材5(図2(b))を省略している。
また、第2のコイルピース3には、第2のコイルプレート1Bに接続される接続端子A2および接続端子A3をそれぞれ有するコイルピース31,32が含まれて構成されている(図5参照)。
【0037】
すなわち、第2のコイルピース3は、図4に示すように紙面手前側から見ると、長尺状に形成された中間部3aと、この中間部3aの一方(外縁側)の端部からコイルループCR(図5参照)の周方向の一方(反時計回り方向)に曲折して形成された第1曲折部3bと、第1曲折部3bの先端部に形成された第1接合孔3cと、中間部3aの他方(内縁側)の端部からコイルループCRの周方向の他方(時計回り方向)に曲折して形成された第2曲折部3dと、第2曲折部3dの先端部に形成された第2接合孔3eと、を備えている。
【0038】
そして、図4に示すように、第1のコイルピース2の中間部2aと第2のコイルピース3の中間部3aが、絶縁部材5(図示省略)を挟んだ状態で径方向でちょうど重なるようにそれぞれ表面および裏面に配設され、外縁部では第1接合孔2cと第2接合孔3cが合わさって重なり連結ピン6で連結され、内縁部では第2接合孔2eと第2接合孔3eが重なり連結ピン6で連結されている。
このようにして、連結ピン6で連結された第1のコイルピース2および第2のコイルピース3によりコイルループCR(図5参照)が構成される。
【0039】
なお、本実施形態においては、第1のコイルピース2と第2のコイルピース3を連結ピン6で連結したが、これに限定されるものではなく、第1のコイルピース2または第2のコイルピース3に両者を連結する連結部を形成したり、絶縁部材5に予めインサートして配設したりすることもできる。
【0040】
絶縁部材5は、図3に示すように、円環板状で合成樹脂等の絶縁材料により構成され、伝熱部材8の伝熱部81(図2(a)参照)を被覆するように内部に埋設して、それぞれ第1のコイルピース2、第2のコイルピース3、および伝熱部材8を絶縁している(図2(b)参照)。
そして、絶縁部材5には、表面に第1のコイルピース2が係止される凹部4(図2(b)参照)が一定の間隔で形成され、裏面には第2のコイルピース3が係止される凹部4(不図示)が一定の間隔で形成されている。
【0041】
ここで、伝熱部材8が埋設される絶縁部材5の材質は、確実な絶縁耐力を持った、より高い熱伝達率を有する材料を採択することが望ましい。また、第1および第2のコイルピース2,3と伝熱部材8との間に位置する絶縁層5a(図7参照)は、伝熱効率を考慮して、極力薄く設定されるのが望ましい。
【0042】
なお、絶縁部材5に伝熱部材8を埋設するように被覆する製造方法としては、伝熱部材8を樹脂成形型にインサートした状態で溶融した絶縁部材5を流して成形するいわゆるインサートモールド法が好適である。そして、インサートモールド法では、伝熱部材8にアンカー孔81b(図2(a)参照)を形成することで伝熱部材8を絶縁部材5内に強固に安定して保持することができる。
【0043】
以上のようにして、3層のコイルプレート1a,1b,1cにおいて、第1のコイルプレート1aと同様にして連結ピン6により(図4参照)、第1のコイルピース2と第2のコイルピース3とを連結し、3層のコイルプレート1a,1b,1cを接続端子A1〜A4,B1〜B4,C1〜C4で連結することで、図5に示すように、コイルループCRが形成される。
【0044】
伝熱部材8は、図2(a)に示すように、熱伝導率が良好な銅、アルミニウム、およびこれらの合金からなり、円環板状をなして形成され、放射状に形成されたリブ形状をなした伝熱部81と、伝熱部81に形成されたスリット81aと、伝熱部81から伝達された熱を冷媒CL(図6参照)に伝達して冷却する放熱部82と、を備えている。
【0045】
このように、伝熱部81は、リブ形状をなして構成したことで、第1のコイルピース2、第2のコイルピース3、および周辺に配設される磁束伝達部材(不図示)から発生する熱を放熱部82に効率的に伝達することができる。
【0046】
伝熱部81は、内縁部の周方向で離隔し外縁部の放熱部82で周方向に連続するように形成されたスリット81aを備えたことで、例えば熱伝導率が良好な銅、アルミニウム、およびこれらの合金からなる導電性材料を使用しても渦電流の発生を抑制することができる。このように、伝熱部材8に熱伝導率が良好な導電性材料を使用することで、放熱量を増大させて冷却性能を向上させながら磁束密度を高めて高出力を得ることができるステータコイルアッセンブリ1を実現している。
【0047】
すなわち、図2(a)に示すように、伝熱部材8には、コイルループの通電電流による磁束変化や図示しないロータ磁石の回転による磁束変化などにより誘導電流i1,i2が発生する。この誘導電流i1,i2は、図示しないロータに流れる磁束F1,F2の変化を妨げる方向に流れようとするが、この誘導電流iが流れると伝熱部材8が発熱し、トルク特性の低下を招くため、誘導電流iの流れを遮断するように内縁部の周方向で離隔するスリット81aが形成されている。
なお、スリット81aは、内縁部から外縁部に向かうにつれて幅が広くなるような三角形をなしている。このため、内縁部では周方向に離隔した状態で、スリット81aの中央部には強磁性体からなる磁束伝達部材(不図示)を挿入して磁束F1,F2をロータ(不図示)に効率的に伝達することができる。
【0048】
放熱部82は、図6(a)に示すように、伝熱部材8の外縁部に形成された冷媒CLの循環流路82cと、循環流路82cに冷媒供給装置(不図示)から冷媒CLを供給する冷媒入口82aと、循環流路82cから冷媒CLを排出して冷媒供給装置に戻す冷媒出口82bと、を備え、冷媒入口82aと冷媒出口82bは、それぞれ外縁部における互いに対向する位置に配設されている。
なお、冷媒入口82aと冷媒出口82bを互いに対向する位置に配設させなくとも、例えば、冷媒入口82aを冷媒出口82bよりも下方に配置することで単純な構造でエア抜きを行うことができる。
【0049】
かかる構成により、冷媒入口82aから導入された冷媒CLは、図6(b)に示すように、第1のコイルプレート1aの外縁部に形成された貫通孔85aを通って外縁部の表裏面の周方向に沿って反対の方向に向かうように流れ、外縁部の180度反対側の位置まで流れる。
同様に、第2のコイルプレート1bおよび第3のコイルプレート1cの外縁部に形成された貫通孔85b,85cを通って外縁部の表裏面の周方向に沿って反対の方向に向かうように流れ、外縁部の180度反対側の位置まで流れる。
【0050】
続いて、3層のコイルプレート1a,1b,1cにより形成された波巻き形状のコイルループCRにおける電流の流れについて、図5を参照しながら説明する。
第1のコイルプレート1aの図の下段(表側)の給電入力端子A1に入力(IN)された電流Iは、図の下段の第1のコイルピース2(I1)から図の上段(裏側)の第2のコイルピース3(I2)というように交互に連結ピン6を通って、時計回りRに(I3)一巡して接続端子A2に導入される。
【0051】
そして、この接続端子A2と第2のコイルプレート1bの接続端子B1が図示しないコネクトワッシャにより接続されているため、接続端子A2に導入された電流Iは、第1のコイルプレート1aの場合と同様に(I4〜I6)、第2のコイルプレート1bでも時計回りに一巡して接続端子B2に導入される。同様に、第3のコイルプレート1cでも接続端子C1から時計回りに一巡して接続端子C2に導入される。
【0052】
また、第3のコイルプレート1cにおける接続端子C2と接続端子C3が図示しないコネクトワッシャにより接続されているため、接続端子C2に導入された電流Iは、今度は第3のコイルプレート1C上で、第2のコイルピース3(I7)から第1のコイルピース2(I8)というように交互に連結ピン6を通って、反時計回りLに一巡して(I9)接続端子C4に導入される。
【0053】
そして、この接続端子C4と第2のコイルプレート1bの接続端子B3が図示しないコネクトワッシャにより接続されているため、接続端子B3に導入された電流Iは、第3のコイルプレート1cの場合と同様に、第2のコイルプレート1bでも反時計回りに一巡して接続端子B4に導入される。同様に、第1のコイルプレート1aでも接続端子B4から接続端子A3に導入された電流Iは接続端子A3から反時計回りに一巡して出力端子A4に到達して給電出力端子A4から出力(OUT)される。
【0054】
このようにして、3層の各コイルプレート1a,1b,1cにおいて、時計回りおよび反時計回りに電流が流れるため、第1のコイルピース2の中間部2aと第2のコイルピース3の中間部3aでは、同じ方向(それぞれ外縁部に向かう方向または内縁部に向かう方向)に電流が流れるため、磁束の向きも一致し磁界が相互に強め合うように合成される。
【0055】
ここで、図8を参照しながら、伝熱部81(図2(a)参照)の厚さと放熱量およびコイルの電流値との関係について説明する。図8は、縦軸にコイルの発熱量および伝熱部材8の放熱量(W)、横軸にコイルの電流値(Arms)をとって、伝熱部81の厚さと放熱量およびコイルの電流値との関係を示した図である。
【0056】
本発明の実施形態に係るステータコイルアッセンブリ1の仕様は、適用される回転電機の用途や出力特性等に応じて適宜設定されるが、伝熱部81の厚さtを変更することで放熱量を適宜調整することができる。
つまり、伝熱部81の厚さをtとしてコイルの平均温度Tを80℃から、100℃、120℃、140℃まで増加すると、コイルの電流値が増大するとともに2次曲線的にコイルの発熱量が増加するが、コイルの発熱量は80℃(10W)よりも140℃(12W)の方が約2割程度上昇する。このコイルの発熱量を伝熱部材8(図2(a)参照)により放熱させて熱平衡させるように設計される。
【0057】
例えば、コイルの平均温度を140℃に設定して、伝熱部81の厚さを基準の厚さtから2.5tまで変化させたときの伝熱部材8の放熱量は、基準の厚さtでは約5.1〜4.8W程度であるが、1.5tでは7.8〜6.9W程度、2tでは10.2〜9.2W程度、2.5tでは13〜11.5W程度となる。
【0058】
したがって、コイルの発熱量と伝熱部81からの放熱量とを140℃で熱平衡させるようにすると、伝熱部81の厚さtにおけるコイルの電流値を基準の電流値Pとすると、1.5tでは1.22P、2tでは1.38P、2.5tでは1.52Pとなる。このように、ステータコイルアッセンブリ1は、伝熱部81の厚さを変更するだけで放熱量を自由に変えることができるため、モータの仕様(発熱量)に合わせた熱設計が可能である。
【0059】
以上のようにして構成されたステータコイルアッセンブリ1の作用について、主として図6と図7を参照しながら説明する。
図6に示すように、冷媒入口82aから導入された冷媒CLは、外縁部の180度反対側の位置まで流れて、外縁部の180度反対側の位置に形成された貫通孔85c′,85b′,85a′(図6(a)参照)を通って冷媒出口82bから排出され冷媒供給装置(不図示)に戻る。そして、通電時における第1のコイルピース2と第2のコイルピース3、およびその周辺の磁束伝達部材(不図示)からの発熱を伝熱部81から放熱部82に伝達して冷却している。
【0060】
このため、ステータコイルアッセンブリ1では、伝熱部81により効率よくまとめて回収した熱を放熱させて冷却することで、伝熱効率を高め放熱量を増大させて冷却性能を向上させることが可能となる。
また、伝熱部材8が埋設される絶縁部材5は、確実な絶縁耐力を持った、より高い熱伝達率を有する材料が採択され、第1および第2のコイルピース2,3と伝熱部材8との間に位置する絶縁層5a(図7参照)は、極力薄く設定されているので、高い伝熱効率が確保されている。
したがって、図7に示すように、共通の伝熱経路となる伝熱部81を絶縁部材5の内部に埋設し高い伝熱効率を確保したことで、コイルループCR(図5)を形成するコイルプレート1a,1b,1cを多層化した場合であっても、コイルプレート1a,1b,1cごとに設けた個別の伝熱部81を介して放熱部82に伝達することができるため、多層化による伝熱効率およびスペース効率の低下を抑制することができる。このため、ステータコイルアッセンブリ1は、多層化に適用しやすく、放熱量を増大させて冷却性能を向上させることができる。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更して実施することが可能である。
例えば、本実施形態においては、伝熱部材8の外縁部に放熱部82を配設し内縁部に誘導電流を遮断するスリット81aを形成したが(図2(a)参照)、これに限定されるものではなく、図9(a)に示すように、伝熱部材80の内縁部に放熱部820を配設し外縁部に誘導電流を遮断するスリット810a(誘導電流遮断スリット)を形成してもよい。
【0062】
また、図9(b)に示すように、伝熱部材80′の誘導電流遮断スリットは、伝熱部材80′の外縁部から内縁部まで延び内縁部で誘導電流を遮断する開口部(離隔部)が形成された内縁部側のスリット810a′と、内縁部から外縁部まで延び外縁部で誘導電流を遮断する開口部(離隔部)が形成された外縁部側のスリット811a′と、を交互に備えた内縁部から外縁部にわたってジグザグ状に形成されたスリット810a′,811a′でもよい。
つまり、伝熱部材80′における放熱部820′および誘導電流を遮断するスリット810a′,811a′は、回転電機の仕様に応じて適宜レイアウトや形状を変更することが可能である。
【0063】
また、本実施形態においては、波巻き形状のコイルパターンを採用したが、これに限定されるものではなく、コイルピースの形状やコイルパターンは回転電機の仕様に応じて適宜種々の形態を採用することができる。
【0064】
また、本実施形態においては、放熱部82に冷媒CLを循環させて冷却したが、これに限定されるものではなく、放熱部82の冷却能力は、使用される回転電機の仕様によって適宜設定されるものであり、特別な冷却構造を有しないような自然放熱を促す空冷装置でもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 ステータコイルアッセンブリ
1a 第1のコイルプレート
1b 第2のコイルプレート
1c 第3のコイルプレート
2 第1のコイルピース
3 第2のコイルピース
4 凹部(係止部)
5 絶縁部材
6 連結ピン
8,80,80′ 伝熱部材
81 伝熱部
81a,810a,810a′,811a′ スリット
82,820 放熱部
82a 冷媒入口
82b 冷媒出口
82c 循環流路
t 伝熱部の厚み
i1,i2 誘導電流
CR コイルループ
CL 冷媒
F1 磁束
I 電流
P 電流値
T 平均温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電材料からなる複数の第1のコイルピースと、
導電材料からなる第2のコイルピースと、
前記第1のコイルピースと前記第2のコイルピースを所定のコイルパターンとなるように係止する係止部が形成された絶縁部材と、を有し、前記第1のコイルピースおよび前記第2のコイルピースによりコイルループが形成されたステータコイルアッセンブリであって、
前記第1のコイルピースおよび前記第2のコイルピースから絶縁され前記絶縁部材の内部に埋設された伝熱部を有する伝熱部材と、
この伝熱部材に流れようとする誘導電流の経路を遮断するように当該伝熱部材に形成されたスリットと、
を備えたことを特徴とするステータコイルアッセンブリ。
【請求項2】
前記第1のコイルピースは、前記絶縁部材の表裏をなす一方の面に形成された前記係止部に係止され、前記第2のコイルピースは、前記一方の面と表裏をなす他方の面に形成された前記係止部に係止され、
前記伝熱部は、前記第1のコイルピースと前記第2のコイルピースの間に配設されていること、
を特徴とする請求項1に記載のステータコイルアッセンブリ。
【請求項3】
前記第1のコイルピースおよび前記第2のコイルピースを形成する前記コイルピースは、波巻き形状からなり、当該コイルピースの長尺状の中間部と、この中間部の一方の端部から前記コイルループの周方向の一方に曲折して形成された第1曲折部と、前記中間部の他方の端部から前記コイルループの周方向の他方に曲折して形成された第2曲折部と、
を備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のステータコイルアッセンブリ。
【請求項4】
前記伝熱部材は、外縁部または内縁部に前記コイルループから発生した熱を冷却する放熱部を備え、
前記発生した熱を前記伝熱部から前記放熱部に伝達して冷却すること、
を特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のステータコイルアッセンブリ。
【請求項5】
前記放熱部は、前記熱を冷却する冷媒の循環流路と、
この循環流路に前記冷媒を導入する冷媒入口と、
前記循環流路から前記冷媒を排出する冷媒出口と、を備え、
前記冷媒入口および冷媒出口は、前記外縁部または内縁部における互いに対向する位置に配設されていることを特徴とする請求項4に記載のステータコイルアッセンブリ。
【請求項6】
前記スリットは、前記外縁部および内縁部のうち前記放熱部が設けられていない前記外縁部または内縁部に形成されていること、
を特徴とする請求項4に記載のステータコイルアッセンブリ。
【請求項7】
前記放熱部を前記伝熱部材の外縁部に備え、前記スリットを前記伝熱部材の内縁部に備えていることを特徴とする請求項4に記載のステータコイルアッセンブリ。
【請求項8】
前記伝熱部材は、前記外縁部が周方向で連続し、前記外縁部から前記内縁部まで延び当該内縁部で前記誘導電流を遮断する開口部が形成された櫛歯形状となるように前記スリットを備えていることを特徴とする請求項7に記載のステータコイルアッセンブリ。
【請求項9】
前記スリットは、前記伝熱部材の外縁部から内縁部まで延び当該内縁部で前記誘導電流を遮断する開口部が形成された内縁部側のスリットと、前記内縁部から前記外縁部まで延び当該外縁部で前記誘導電流を遮断する開口部が形成された外縁部側のスリットと、を交互に備えていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のステータコイルアッセンブリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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