ストリーク管及びそれを含むストリーク装置
【課題】出力窓でのチャンネル配列方向における光学像のボケ及びチャンネル位置の変化を防止し、高精度のマルチチャンネル計測を実現する。
【解決手段】ストリーク管1は、入射面板2aと出力面板2bとを有する容器2と、容器2内に設けられ、入射面板2aから入射した被計測光に応じて電子を放出する光電面7と、光電面7から放出された電子を出力面板2bに向けて集束させるための軸対称電子レンズを形成するメッシュ電極3、第1集束電極4、及びアパーチャー電極5と、容器2内に設けられ、軸対象電子レンズによって集束された電子を出力面板2bに沿った掃引方向に掃引する掃引電極6と、入射面板2aと出力面板2bとの間に設けられ、電子を掃引方向に集束する1次元の電子レンズを形成する第2集束電極9とを有する。
【解決手段】ストリーク管1は、入射面板2aと出力面板2bとを有する容器2と、容器2内に設けられ、入射面板2aから入射した被計測光に応じて電子を放出する光電面7と、光電面7から放出された電子を出力面板2bに向けて集束させるための軸対称電子レンズを形成するメッシュ電極3、第1集束電極4、及びアパーチャー電極5と、容器2内に設けられ、軸対象電子レンズによって集束された電子を出力面板2bに沿った掃引方向に掃引する掃引電極6と、入射面板2aと出力面板2bとの間に設けられ、電子を掃引方向に集束する1次元の電子レンズを形成する第2集束電極9とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被計測光の時間的な強度分布を空間的な強度分布に変換するストリーク管及びそれを含むストリーク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被計測光の時間的な強度分布を出力画面上の空間的な強度分布に変換する装置としてストリーク管が用いられている(下記特許文献1,2参照)。従来の典型的なストリーク管は、図8及び図9に示すように、一端面に入射窓902a、他端面に出力窓902bがそれぞれ設けられた真空気密容器902の内部において、その管軸に沿って入射窓902aと出力窓902bの間に、順次、メッシュ電極903、集束電極904、アパーチャー電極905、及び掃引電極906が配設された構成を有している。そして、入射窓902aの容器内壁面側に光電面907が、出力窓902bの容器内壁面側に蛍光面908が、それぞれ設けられている。
【0003】
メッシュ電極903は、円筒状電極の光電面907側の端部に例えば1000本/インチのピッチのメッシュ状電極が設けられた構造を有し、集束電極904は、軸対称の円筒状電極であり、アパーチャー電極905は、短い円筒状電極の出力窓902b側の端部に例えば数mm径のアパーチャーを有する円板が設けられた構造を有し、掃引電極906は、管軸に対して対称に配置された2枚の偏向板によって構成されている。光電面907には、例えば−3kVの負電圧が、メッシュ電極903には、例えば+3kVの正電圧がそれぞれ印加され、集束電極904には、電子ビームが蛍光面908上に最適に集束されるように調整された正極性の高電圧が印加され、アパーチャー電極905及び蛍光面908には、グラウンド電位(0V)が印加される。
【0004】
このようなストリーク管に対して、外部装置から入射窓902aを経て光電面907に、光電面907の中心を通る線状の光学像Aが投影される。この光学像Aは、モワレを生じないようにするためにメッシュ電極903のメッシュとは略45度の角度をなし、掃引電極906の偏向板と平行になるように投影される。そうすると、光電面907は光学像Aに対応して光電面907の垂線に対して垂直方向に線状に分布した電子ビームを放出し、その線状電子ビームは、メッシュ電極903により加速された後に、メッシュ電極903、集束電極904、及びアパーチャー電極905からなる円筒状電極系により形成される軸対称電子レンズにより集束され、アパーチャー電極905を通過してから掃引電極906の偏向板の間隙を経て蛍光面908上に到達する。その結果、出力窓902bから線状光学像Bを発生させる。その際、線状電子ビームが掃引電極906の2枚の偏向板の間を通過する期間において、それらの偏向板には時間と共に変化する傾斜状の掃引電圧が印加される。そうすると、線状電子ビームがその線方向に対して垂直に掃引されて、蛍光面908上で線状光学像Bが掃引方向に順次配列される結果、いわゆる、ストリーク像が形成される。すなわち、被計測光の強度の時間変化に対応した輝度分布が、蛍光面908上で掃引方向に得られる。これをTVカメラで撮像し信号処理することにより、被計測光の時間強度プロファイルを得ることができる。
【0005】
また、線状電子ビームは、軸対称電子レンズにより、蛍光面908上で掃引方向に垂直な方向にも集束されるので、光電面907上の線状光学像Aの線方向に複数チャンネルの光学像を並べれば、蛍光面908上に複数チャンネルに対応した線状光学像Bが生じる。これらの複数チャンネルの光学像を掃引することにより、同時に複数個の光の時間強度変化のデータを取得でき、例えば、分光器からの出力光を入力することで時間分解分光スペクトルを取得できる(マルチチャンネル計測)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−250946
【特許文献2】特開平4−118530
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来のストリーク管では、時間分解能を上げるために、蛍光面908の中心において電子ビームが集束されるように集束電極904の電圧が調整される。しかしながら、掃引電極906の2枚の偏向板に印加する掃引電圧の掃引速度が高速になると、蛍光面908上で掃引方向にビーム拡がりが生じてしまい、時間分解能が劣化してしまう。
【0008】
これに対しては、集束電極904の電圧を掃引速度に合わせて変化させるように調整することも考えられるが、集束電極904により形成される電子レンズは軸対称電子レンズであるために、蛍光面908上での複数チャンネルの配列方向である掃引方向に垂直な方向に光学像が拡がってボケてしまい、隣接したチャンネル間で信号が混ざりこんで精度が低下してしまう傾向にあった。また、集束電極904の電圧を変更すると電子レンズの強度が変わるので、レンズの拡大率が変わり、蛍光面908上の各チャンネルの位置がチャンネル配列方向で変化する。その結果、マルチチャンネル計測でのデータ処理が煩雑になってしまう傾向にあった。
【0009】
そこで、本発明は、かかる課題に鑑みて為されたものであり、出力窓でのチャンネル配列方向における光学像のボケ及びチャンネル位置の変化を防止し、高精度のマルチチャンネル計測を実現するストリーク管及びそれを含むストリーク装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明のストリーク管は、入射面板と出力面板とを有する容器と、容器内に設けられ、入射面板から入射した被計測光に応じて電子を放出する光電面と、光電面から放出された電子を出力面板に向けて集束させるための軸対称電子レンズを形成する電子集束系と、容器内に設けられ、電子集束系によって集束された電子を出力面板に沿った掃引方向に掃引する掃引電極と、入射面板と出力面板との間に設けられ、電子を掃引方向に集束する1次元の電子レンズを形成する付加電極と、を有する。
【0011】
本発明のストリーク管によれば、被計測光に応じて光電面から電子が放出され、その電子が、電子集束系によって収束されるとともに、掃引電極によって出力面板に沿った掃引方向に掃引されながら、出力面板に導かれる。その結果、被計測光の時間変化に対応した出力分布が掃引方向に沿って得られる。ここで、掃引速度の速さに応じて付加電極の印加電圧を調整することで出力分布の掃引方向のボケが低減されて時間分解能が向上するとともに、出力分布の掃引方向に垂直な空間方向の分解能も良好に維持することができる。これにより、出力分布のチャンネル配列方向における光学像のボケ及びチャンネル位置の変化を防止し、高精度のマルチチャンネル計測を実現することができる。
【0012】
付加電極は、入射面板と出力面板との間で第1〜第3の付加電極がこの順で空間的に分離して配置されて構成されており、第1及び第3の付加電極は互いに電気的に接続されている、ことが好適である。かかる付加電極を備えれば、第2の付加電極に印加する電圧によって発生する電界が第1及び第3の付加電極によって遮蔽されるので、電子集束系によって形成された軸対称電子レンズへの悪影響を防止することができる。
【0013】
また、付加電極は、電子集束系と掃引電極との間に設けられ、第1及び第3の付加電極は電子集束系に含まれる電極に電気的に接続されている、ことも好適である。かかる構成を備えれば、第2の付加電極に印加する電圧によって発生する電界が第1及び第3の付加電極によって確実に遮蔽されるので、電子集束系によって形成された軸対称電子レンズへの悪影響をより確実に防止することができる。
【0014】
さらに、付加電極は、出力面板に沿った掃引方向に垂直な空間方向に沿った直線状の間隙が形成された形状を有する、ことも好適である。この場合、付加電極によって掃引方向の1次元の電子レンズを形成することができる。
【0015】
またさらに、付加電極は、出力面板に沿った板状電極に空間方向に沿った直線状の溝部が形成されて構成されている、ことも好適である。かかる形状によれば、付加電極によって掃引方向の1次元の電子レンズを形成することができる。
【0016】
付加電極は、2枚の板状電極が空間方向に沿って互いに対向して配置されて構成されている、ことも好適である。かかる形状によっても、付加電極によって掃引方向の1次元の電子レンズを形成することができる。
【0017】
或いは、本発明のストリーク装置は、上述したストリーク管と、掃引電極に印加する掃引電圧の傾斜の設定に連動して、付加電極に印加される電圧値を設定する設定信号発生部と、を備える。このようなストリーク装置によれば、出力面板における電子ビームを、掃引電極に印加する掃引電圧の傾斜で決まる出力の掃引速度に応じて、掃引方向に適切に集束させることができる。これにより、様々な掃引速度に対応して出力分布の掃引方向のボケが低減されて時間分解能が向上するとともに、出力分布の掃引方向に垂直な空間方向の分解能も良好に維持することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、出力窓でのチャンネル配列方向における光学像のボケ及びチャンネル位置の変化を防止し、高精度のマルチチャンネル計測を実現するストリーク管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の好適な一実施形態に係るストリーク管1のその管軸を含む掃引電極の偏向板に垂直な面に沿った断面図である。
【図2】図1の第2集束電極を構成する円板状電極9aの形状を示す斜視図である。
【図3】図1のストリーク管1と駆動装置を含むストリーク装置を示すブロック図である。
【図4】本発明の変形例に係るストリーク管101のその管軸を含む掃引電極の偏向板に垂直な面に沿った断面図である。
【図5】本発明の変形例に係る第2集束電極の形状を示す斜視図である。
【図6】本発明の別の変形例に係る第2集束電極の構成を示す斜視図である。
【図7】本発明の変形例に係るストリーク管201のその管軸を含む掃引電極の偏向板に垂直な面に沿った断面図である。
【図8】従来のストリーク管のその管軸を含む掃引電極の偏向板に垂直な面に沿った断面図である。
【図9】図8のストリーク管のその管軸を含む掃引電極の偏向板に平行な面に沿った断面図である。
【図10】図8の掃引電極906に直流電圧が印加された場合の蛍光面908上の電子ビームの拡がりWsを示す図である。
【図11】図8の掃引電極906に直流電圧が印加された場合の掃引電極906の周りの等電位線を示す図である。
【図12】図8の掃引電極906に印加される斜状掃引電圧Vd1(t)、Vd2(t)の電圧波形を示すグラフである。
【図13】図8の掃引電極906に掃引電圧が印加された場合の蛍光面908上の電子ビームの拡がりWdを示す図である。
【図14】図8の掃引電極906に掃引電圧が印加された場合の蛍光面908上の電子ビームの集束状態を示す図である。
【図15】図8の蛍光面908から出力されるストリーク像のイメージを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るストリーク管の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
図1は、本発明の好適な一実施形態に係るストリーク管のその管軸を含む掃引電極の偏向板に垂直な面に沿った断面図である。同図に示すストリーク管1は、光学像の強度の時間変化に対応した輝度分布を得るための装置である。このストリーク管1は、円筒状の容器2の内部に、メッシュ電極3(電子集束系)、第1集束電極(電子集束系)4、アパーチャー電極(電子集束系)5、第2集束電極(付加電極)9、及び掃引電極6が配置されて構成されている。容器2の一端面には、被計測光が入射される透光性材料からなる入射面板2aが固定され、容器の他端面には、出力像が出射される透光性材料からなる出力面板2bが固定されている。なお、以下の説明においては、図1の容器2の管軸に沿った方向をZ軸方向とし、容器2の出力面板2bに沿った掃引電極6の偏向板に垂直な方向(掃引方向)をX軸方向とし、容器2の出力面板2bに沿ったX軸に垂直な方向(空間方向)をY軸方向とする。
【0022】
このストリーク管1は、さらに、入射面板2aの内側の面に形成された光電面7と、出力面板2bの内側の面に形成された蛍光面8とを有する。光電面7は、容器2の管軸に沿って外部から入射面板2aに入射してきた被計測光に応じて、出力面板2bに向けて電子を放出する、いわゆる、透過型の光電陰極である。蛍光面8は、光電面7によって放出された電子の入射に応じて、その電子の入射分布に応じた出力像を外部に向けて出力する。
【0023】
メッシュ電極3は、円筒状電極の光電面7側の端部がメッシュ電極によって覆われた形状を有する電子ビーム加速用の電極であり、この円筒状電極の中心軸が容器2の管軸にほぼ一致するように容器2の内部において光電面7に隣接して配置されている。このメッシュ電極3は、入射面板2aにY軸方向に沿った線状の光学像が入射した場合にその光学像とメッシュとの角度が略45度を成すように、すなわち、メッシュがX軸(Y軸)に対して45度を成すように配置される。これにより、出力像におけるモワレを防ぐことができる。このメッシュの間隔は、例えば、1,000本/インチに設定される。
【0024】
第1集束電極4は、軸対象の円筒状電極であり、この円筒状電極の中心軸が容器2の管軸にほぼ一致するように容器2の内部にメッシュ電極3に隣接して配置されている。アパーチャー電極5は、第1集束電極4に対してメッシュ電極3の反対側に隣接して設けられており、軸対象の円筒状電極の蛍光面8側の端部が中心部にアパーチャー(開口)が形成された円板電極によって覆われた構成を有する。このアパーチャー電極5は、円筒状電極の中心軸が容器2の管軸にほぼ一致し、アパーチャーが容器2の管軸上に位置するように配置されている。
【0025】
これらのメッシュ電極3、第1集束電極4、及びアパーチャー電極5は、光電面7から放出された電子を蛍光面8に向けて集束させるための軸対象電子レンズを形成する円筒状の形状を有する電極群(電子集束系)である。すなわち、光電面7に所定の負電位(例えば、−3kV)、メッシュ電極3には所定の正電位(例えば、+3KV)、第1集束電極4に正極性の高電圧、アパーチャー電極5及び蛍光面8にはグラウンド電位(0V)が印加される。この場合、メッシュ電極3と第1集束電極4との間、及び第1集束電極4とアパーチャー電極5との間に、メッシュ電極3によってZ軸方向に加速された電子ビームを蛍光面8上に集束させるような容器2の管軸に対して対称な2次元電子レンズが形成される。ここで、第1集束電極4に印加される電圧の大きさは、電子ビームが蛍光面8上に最適に集束されるように調整可能とされている。
【0026】
ここで、メッシュ電極3、第1集束電極4、及びアパーチャー電極5の円筒の内径は例えば20mmである。
【0027】
また、アパーチャー電極5と蛍光面8との間には、第2集束電極9、及び掃引電極6が、Z軸方向に沿ってこの順で並んで配置されている。掃引電極6は、2枚の平板電極(偏向板)が容器2の管軸を挟んでX軸に垂直な方向に沿って互いに対面するように配置されて構成されている。この掃引電極6は、2枚の偏向板に掃引電圧が印加されることにより、アパーチャー電極5を通過した電子ビームをX軸方向に掃引するための電極である。また、第2集束電極9は、アパーチャー電極5を通過した電子ビームを蛍光面8上においてX軸方向に集束する1次元の電子レンズを形成するための電極である。
【0028】
第2集束電極9は、3枚の円板状電極9a,9b,9cが出力面板2bに沿った状態でZ軸方向に(容器2の管軸方向に)順に空間的に分離して配置されて構成されている。図2は、円板状電極9aの形状を示す斜視図であり、円板状電極9aにはY軸方向(掃引方向に垂直な方向)に沿って直線状に貫通する溝部(スリット、間隙)10aが形成された形状を有する。円板状電極9b,9cも円板状電極9aと同様な形状を有する。これらの円板状電極9a,9b,9cは、溝部の中心部が容器2の管軸上に位置するように配置される。なお、円板状電極9a,9b,9cの溝部のY軸方向の長さのX軸方向の幅に対する倍率は、一次元電子レンズを効率よく形成させる点で3倍以上であることが好ましい。溝部の倍率が3倍以上の場合には、溝部の長さ方向の両端の電位が影響してY軸方向の電子レンズ作用が生じることを防止することができる。例えば、円板状電極9a,9b,9cの具体的サイズとしては、厚み3mm、溝部の幅4mm、溝部の長さ24mm、円板状電極9a,9b,9cの間隔は3mmに設定される。また、円板状電極9aの溝部10aの開口のY軸方向の両端部は円弧状に形成されていてもよいし、直線状に形成されてもよい。
【0029】
ここで、第2集束電極9のうちの2枚の円板状電極9a,9cは、容器2内で互いに電気的に接続されると共に、電子レンズ系の一部を構成するアパーチャー電極5に電気的に接続されている。また、第2の集束電極9のうち円板状電極9a,9cに挟まれた円板状電極9bは、外部から任意の電位を印加可能なように構成されている。
【0030】
図3は、上述したストリーク管1とその駆動装置を含むストリーク装置を示すブロック図である。アパーチャー電極5及び蛍光面8は、グラウンド電位が印加されることにより0Vに設定され、これにより、第2集束電極9の円板状電極9a,9cの電位が0Vに設定される。それと同時に、高圧電源51の発生する電圧が電圧分配回路52によって分圧されることにより、光電面7に−3kVが印加され、メッシュ電極3に+3kVが印加される。また、第1集束電極用電圧源53が第1集束電極4に接続され、第1集束電極用電圧源53から第1集束電極4に正極性の高電圧が印加される。さらに、第2集束電極用電圧源54が第2集束電極9の円板状電極9bに接続され、第2集束電極用電圧源54から円板状電極9bに予め設定した電圧が印加される。なお、第1集束電極用電圧源53及び第2集束電極用電圧源54の出力する電圧は調整可能にされている。
【0031】
また、掃引電極6の2枚の偏向板には、掃引電圧発生部55が接続されており、この掃引電圧発生部55により、2枚の偏向板のそれぞれに、逆極性(プッシュプル)の斜状掃引電圧Vd1(t)、Vd2(t)を供給する。これらの斜状掃引電圧Vd1(t)、Vd2(t)は、時間的に直線状に変化する電圧であり、互いに逆極性の電圧になるように設定される。ここで、掃引電圧発生部55においては、掃引電圧の時間に対する傾斜(時間変化率)が切り替えスイッチにより所望の値に変更できるように構成されており、これにより、蛍光面8上の電子ビームの掃引速度を、例えば、0(掃引無し)、1×105m/s、1×106m/s、5×107m/s、1.4×108m/sと変更可能にされている。
【0032】
さらに、これらの第2集束電極用電圧源54及び掃引電圧発生部55には、設定信号発生部56が接続されており、設定信号発生部56からの信号により、第2集束電極用電圧源54の出力する電圧値、及び掃引電圧発生部55が生成する掃引電圧の傾斜等が変更可能にされている。また、設定信号発生部56は、掃引電圧の傾斜の設定に連動して、第2集束電極9の円板状電極9bに印加される電圧値を設定し、傾斜及び電圧値を示す設定値を、それぞれ第2集束電極用電圧源54及び掃引電圧発生部55に出力する。
【0033】
この駆動装置には、被計測光の入射を検知してトリガ信号を生成するPINフォトダイオード57と、そのトリガ信号を遅延させて掃引電圧発生部55に向けて出力する遅延回路58とが更に備えられており、掃引電圧発生部55はトリガ信号の発生タイミングに合わせて斜状掃引電圧Vd1(t)、Vd2(t)を印加する。このPINフォトダイオード57及び遅延回路58により、被計測光の入射に応じて発生した電子ビームが掃引電極6を通過するタイミングに合わせて掃引電圧を印加することができる。
【0034】
上記構成を有するストリーク管1及びその駆動装置の操作方法及びそれらの動作について、図3を参照しながら説明する。
【0035】
最初に、掃引電極6の2枚の偏向板と第2集束電極9の円板状電極9bにグラウンド電位(0V)を印加した状態で、被計測光Lをハーフミラー59、スリット板60、及び光学レンズ61を経由して入射面板2a上に結像させることにより、Y軸方向に沿った線状光学像Aを光電面7上に入射させる。このとき、第1集束電極用電圧源53の出力電位を例えば+6.8kV等の所定電位に調整することにより、蛍光面8上に静止した線状光学像を焦点の合った状態で得ることができる。この際、第1集束電極4によって形成される電子レンズは軸対象電子レンズであるので、線状光学像の線方向に垂直な方向(掃引方向、X軸方向)にも、その線方向(空間方向、Y軸方向)にも焦点の合った状態で電子ビームが集束されている。
【0036】
次に、掃引電圧発生部55によって掃引電圧を発生させて蛍光面8上で電子ビームを掃引速度1×105m/sで掃引させた場合、蛍光面8上において線状光学像Aの強度の時間変化に対応した輝度分布(ストリーク像)が得られる。この場合は、掃引速度が比較的遅いので、蛍光面8上における掃引による電子ビームのボケはほとんど発生せず、良好な時間分解能が得られる。また、マルチチャンネル計測を行っても、掃引方向に垂直な空間方向の分解能も良好で問題は少ない。
【0037】
その次に、掃引電圧発生部55の掃引電圧波形を変更して掃引速度を5×107m/sにすると、蛍光面8上で掃引方向に電子ビームのボケが発生し、良好な時間分解能が得られない。そこで、第2集束電極用電圧源54の出力電圧を−350V等に調整し、その電圧を第2集束電極9の円板状電極9bに印加すると、時間分解能が改善し最高1.5psの値が得られた。その一方で、第2集束電極9で形成される電子レンズは掃引方向のみの集束作用を有する一次元の電子レンズであり空間方向には作用しないので、掃引方向に垂直な空間方向の分解能は変化せず良好な特性が保たれる。また、空間方向の拡大率も変化しないので、マルチチャンネル計測で各チャネルの位置が変化することも無い。
【0038】
さらに、掃引電圧発生部55の掃引電圧波形を変更して掃引速度を1.4×108m/sに上げると、蛍光面8上の掃引方向の電子ビームのボケは更に大きくなる。そこで、第2集束電極用電圧源54の出力電圧を−500V等に調整して一次元電子レンズの強度を強くしたところ、時間分解能が改善し最高0.9psの値が得られた。このときも掃引方向に垂直な空間方向の特性は変化せずに良好に保たれる。
【0039】
このように、各掃引速度に対応して最適な第2集束電極9の印加電圧が決まるので、設定信号発生部56を用いて掃引速度と第2集束電極の印加電圧を連動して変えるように動作させることにより、容易に時間分解能及び空間分解能の高いストリーク像を得ることができる。
【0040】
以上説明した本実施形態に係るストリーク管1によれば、被計測光Lに応じて光電面7から電子ビームが放出され、その電子ビームが、メッシュ電極3、第1集束電極4、アパーチャー電極5、及び第2集束電極9によって構成される電子レンズ系によって収束されるとともに、掃引電極6によって出力面板2bに沿った掃引方向に掃引されながら、出力面板2b上の蛍光面8に導かれる。その結果、被計測光Lの時間変化に対応した出力分布が掃引方向に沿って得られる。ここで、掃引速度の速さに応じて第2集束電極9の印加電圧を調整することで出力分布の掃引方向(X軸方向)のボケが低減されて時間分解能が向上するとともに、出力分布の掃引方向に垂直な空間方向(Y軸方向)の分解能も良好に維持することができる。これにより、マルチチャンネル計測時において出力分布のチャンネル配列方向における光学像のボケ及びチャンネル位置の変化を防止し、高精度のマルチチャンネル計測を実現することができる。
【0041】
また、第2集束電極9の円板状電極9a,9cは、アパーチャー電極5に電気的に接続されているので、円板状電極9bに印加する電圧によって発生する電界が円板状電極9a,9cによって確実に遮蔽されるので、第1集束電極4及びアパーチャー電極5によって形成された軸対称電子レンズへの悪影響をより確実に防止することができる。
【0042】
さらに、第2集束電極9の円板状電極9a,9b,9cは、出力面板2bに沿った掃引方向に垂直な空間方向に沿った直線状の溝部が形成された形状を有するので、掃引方向の1次元の電子レンズを安定して形成することができる。
【0043】
次に、本実施形態のストリーク管1の作用効果を、図8及び図9に示す従来例と比較しつつ、さらに詳細に説明する。
【0044】
まず、図8及び図9に示した従来のストリーク管においてストリーク像の時間分解能がどのように得られるかを示す。
【0045】
光電面907上の光学像Aの各点からは光電面907の種類と入射光波長に対応した初速度分布で光電子群が放出される。例えば、S20光電面から可視光により放出される光電子の初期エネルギーは0〜数eVの分布を持っている。また光電子の放出角θ(光電面の法線と成す角)は、0<θ≦90°の範囲である。光電面907から初速0で放出された光電子の軌道を主軌道、それ以外の軌道を副軌道とすると、副軌道は無数に存在し、光電面907から放出された時点での放出角θが大きいほど、また初期エネルギーが大きいほど、副軌道が主軌道から離れる距離は大きくなる。一例として、図8及び図9には、放出角60°、初期エネルギー1eVで主軌道に対称に放出された光電子の軌道を副軌道として、光電面907上の管軸上の線状光学像Aに対応する3点から放出された光電子の主軌道及び副軌道を、それぞれ、一点鎖線及び実線で示している。
【0046】
このように、光電面907の中心から放出された光電子の副軌道は、当初主軌道から離れていき、その後集束電極904によって形成された軸対称電子レンズにより主軌道の方向に曲げられる。そのため副軌道は、アパーチャー電極905付近で主軌道との距離が最大となり、その後その距離は小さくなっていき、蛍光面908の中心点の近傍に到達する。実際には副軌道は数多く存在するので光電子群の到達点はある程度の分布を有し、集束電極904の電圧を例えば+7kVに調整することにより、その分布の半値幅WFを最小にすることができる。ただし、半値幅WFは電子レンズの色収差、球面収差などにより完全に0にはならず例えばWF〜20μmとなる。円筒状電極系で形成される電子レンズは軸対称であるので掃引方向及び空間方向のどちらでも副軌道の集束の様子は同じである。さらに、光電面907上の中心点以外の点から放出された光電子群も同様に集束され、蛍光面908上に線状光学像Aに対応する線状光学像Bが生じる。ここで、電子レンズが軸対称であるので、光学像Bの大きさは光学像Aを等方的に拡大率M(例えば3倍)で拡大したものとなる。
【0047】
ここで、光学像Aの線方向に垂直な方向(掃引方向)の半値幅laは例えば10μm程度に設定される。この時、光学像Bの線方向に垂直な(掃引方向の)半値幅lbは、下記式(1)で示される。
lb〜(la2×M2+WF2)1/2 …(1)
例えば、la=10μm、M=3、WF=20μmの場合、半値幅lbは約36μmとなる。
【0048】
この時、蛍光面908上の電子ビームの掃引速度をVsとすれば、光学像Bの半値幅lbにより規定される時間分解能Δtは下記式(2)で示される。
Δt=lb/Vs …(2)
例えば、lb〜3.6×10-5(m)、Vs〜1.2×106(m/s)とすれば、Δt〜3×10-11(s)、つまり時間分解能は30psとなる。
【0049】
なお、上記式(2)からわかるように、時間分解能は掃引速度Vsが大きいほど良くなる。しかし、実際には別に電子ビームの偏向(掃引)による蛍光面908上のビーム拡がりWが生じ、それは掃引速度が大きいほど大きくなるので、それを小さくする工夫が行われている。
【0050】
まず、掃引電極906の偏向板に直流電圧が印加された場合(静的な場合)の蛍光面908上の各位置での電子ビームの偏向による拡がりWsを図10を参照して説明する。図中に示すビームAは、偏向板D1に+VD(正電圧)を印加し、偏向板D2に−VD(負電圧)を印加した場合の電子ビームを主軌道と副軌道で示している。ビームCは偏向板D1に−VD(負電圧)、偏向板D2に+VD(正電圧)を印加した場合の電子ビームを主軌道と副軌道で示している。いずれも、偏向電圧が加わっていない時、蛍光面908上の中心点に集束されているビームBが偏向されたものである。実際には前述のようにビームBは蛍光面908上で電子レンズの収差により半値幅WF(〜20μm)のビーム拡がりを持っているが、偏向によるビーム拡がりのみを評価するため、ビームBの半値幅WFを0として図示している。ビームA,Cではいずれも、蛍光面908上で偏向により拡がりWsが生じている。この拡がりは図中に示された副軌道のp電子とq電子の蛍光面908上での偏向量の差に起因するものである。
【0051】
また、図11には、偏向板D1,D2に印加する電圧の大きさVDを500Vとした時の掃引電極906の周りの等電位線を示している。電子ビームAの場合、掃引電極906の光電面907側端部付近に入射するp電子は、正電圧+VDが印加されている偏向板D1に近いので、管軸方向に加速される。q電子は、負電圧−VDが印加されている偏向板D2に近いのでこれによって、減速される。その結果、q電子はp電子よりゆっくり掃引電極906の中を通過することになるので、q電子はより一層偏向電界の作用を受け、p電子より強く偏向されることになる。電子ビームCの場合は、p電子とq電子の関係が逆になる。このように、蛍光面908の端において電子ビームは蛍光面908の前方に集束される結果、拡がりWsが生じる。この拡がり量は中心から大きく偏向された場所ほど大きくなる。この拡がりは、上記式(1)、(2)より時間分解能の劣化の一因となる。その一方で、静的な場合の時間分解能の劣化の問題は、偏向角の小さい範囲を有効掃引幅に選べば問題はないことになる。
【0052】
次に、掃引電極906の偏向板に印加される電圧が、電子の通過中に変化するストリーク動作に用いられる傾斜電圧の場合(動的な場合)について、電子ビームの拡がりWdについて評価する。
【0053】
図12には、掃引電極906に印加される斜状掃引電圧Vd1(t)、Vd2(t)の電圧波形を示す。ここで、偏向板D1に掃引電圧Vd1(t)、偏向板D2に掃引電圧Vd2(t)を印加すると仮定すると、時刻tで2つの偏向板D1,D2間の電圧はVd1(t)−Vd2(t)となる。光電子の掃引電極906通過中における傾斜電圧の変化量が、光電面907とアパーチャー電極905の間の加速電圧に比較して無視できる程度ならば、前述した直流偏向電圧を印加した時と同じ取扱いをすることができる。
【0054】
例えば、光電面907とアパーチャー電極905の間で光電子は約3keVに加速されたとすると、光電子の掃引電極906での管軸方向の速さは約3.3×107m/sとなる。また、掃引電極906の長さを例えば35mmとすれば、掃引電極906を通過するのに要する時間は1.08ns程度となる。例えば、図12に示す傾斜電圧が1μsで2,000V変化する程度の時間変化率ならば、掃引電極906を通過する間に、偏向板D1,D2に印加される電圧の変化は1.1V程度で上記3keVに比べて非常に小さく直流電圧が印加された場合と同一にみなしてよい。
【0055】
これに対して、例えば1.08nsの光電子の通過時間に掃引電圧が数100V以上変化してしまうとなると、蛍光面908上のビームの拡がりの様子は異なったものになる。図13は、偏向板D1,D2に印加される掃引電圧の傾斜が非常に大きい場合の蛍光面908上のビーム拡がりの様子を示す。この場合も管軸方向の速度の遅い電子が偏向電界によって作用を受けやすいという基本は直流偏向電圧が印加された場合と同じであるが、偏向電界が電子パルスビームが偏向場を通過する間に刻々と変化する。そして、ビーム拡がりWdは蛍光面908の中心付近で最大となり、偏向が大きい所でもその拡がりの生ずる様子は直流偏向電圧が印加されている場合と異なる。また、この拡がりは、図13に点線で示すように、光電子ビームの集束点を集束電極904の電圧を調整することにより蛍光面908より後の面にずらした場合、蛍光面908面上で生ずる拡がりとほとんど同じである。いずれにしろ、図10の場合と異なり、有効に使用したい蛍光面908の中心付近が一番拡がりWdが大きく、問題となる。また、一般にストリーク管を用いた測定では高時間分解能を得ようとして掃引速度を大きくすればするほど、ビーム拡がりWdが大きくなることがわかっている。
【0056】
このように、拡がりWdが発生すると、光学像Bの線方向に垂直な方向(掃引方向)半値幅はlbは、近似的に下記式(3)で示され、上記式(2)で計算される時間分解能よりも劣化する。
lb〜(la2×M2+WF2+Wd2)1/2 …(3)
図13に示したように、高速で掃引した時生じるビームの拡がりWdは、ビームの結像面が蛍光面908の後方へずれたのとほとんど等価である。そこで、従来は拡がりWdによる時間分解能劣化対策として、図14に示すように、集束電極904の電圧を調整して軸対象電子レンズの強度を強くして蛍光面908の中心で拡がりWdが最小になるようにしていた。この場合、掃引速度が遅くなると電子ビームの結像点は前方に移動するので拡がりWdは大きくなってしまう。このような掃引速度による拡がりのWdの変動に対処するために、掃引速度に応じて集束電極904の電圧を変化させて、各掃引速度で拡がりWdが最小になるようにしていた。例えば、蛍光面908上の掃引速度1.4×108m/sで集束電極904の印加電圧を+9kVに設定する一方、掃引速度が0、すなわち静止像を出力させる場合には、集束電極904の印加電圧を+7kVに設定していた。
【0057】
しかし、従来のストリーク管を用いてマルチチャンネル計測を行った場合では、高速掃引した時、掃引方向の拡がりWdを小さくするために前述したような掃引速度に応じて最適の集束電極904の電圧を調整する動作では、空間方向の情報の精度が落ちてしまう問題が生じる。これを以下に説明する。
【0058】
簡単のために複数のチャンネルの入射パルス光は、すべて同時刻に入射し、そのパルス幅は非常に短く無視できるとする。ここで、掃引してない時(静的な場合)、電子ビームが蛍光面908上にジャストに集束される集束電極904の電圧をVF0(例えば+7kV)であったとする。このような場合、掃引速度が小さい時はビーム拡がりWdは生じない。このとき、集束電極904の印加電圧VF0で発生する軸対称電子レンズにより、掃引方向にも、それに垂直な空間方向にもジャストに集束されているので、図15(a)に示すように、良好な時間分解能で、かつ掃引に垂直な空間方向にも良好な空間分解能(半値幅WF)のマルチチャンネル時間分解計測が行われる。しかし、掃引速度が高速になると集束電極904電圧がVF0のままでは、蛍光面908上で掃引方向にビーム拡がりWdが生じるので、図15(b)に示すように空間分解能は保たれているが、時間分解能が劣化してしまう。
一方、前述のように集束電極904の電圧をVF1に変えて掃引方向のビーム拡がりをほぼ0にすれば、高い時間分解能が得られるが、軸対称電子レンズのため空間方向では、電子ビームが蛍光面908より手前で集束するため、図15(c)に示すように蛍光面908上では大きくボケてしまい、隣のチャンネルの信号が混ざり込んで精度が劣化してしまう。
【0059】
また、集束電極904の電圧を変化させると軸対象電子レンズの強度が変わるので、レンズの拡大率が変わり、蛍光面908上の各チャンネルの位置が空間方向で変化する。集束電極904の電圧VF1は、掃引速度に対応して最適値に変えるので、そのたびに蛍光面908上の各チャンネルの位置が変化することになり、マルチチャンネル計測でのデータの処理が非常に大変になる。
【0060】
これに対して、本実施形態のストリーク管1及びその駆動装置によれば、掃引方向の一次元電子レンズを形成する第2集束電極9を備えるので、掃引方向に垂直な空間方向の分解能には影響を及ぼさず、掃引速度に応じて掃引方向のビーム拡がりのみを小さくすることができる。その結果、マルチチャンネル計測における時間分解能及び空間分解能の両方を良好に保つことができる。また、マルチチャンネル計測における各チャンネルの位置が変化することも無い。
【0061】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。
【0062】
例えば、図4に示す、本発明の変形例にかかるストリーク管101のように、第2集束電極9の位置を変更してもよい。すなわち、図4に示すように、第1集束電極が2つの円筒状電極104a,104bに分割され、それらの円筒状電極104a,104bの間に円筒状電極104a,104bから空間的に分離して第2集束電極9が配置されてもよい。このストリーク管101では、第2集束電極の円板状電極9a,9cは、容器2内で互いに電気的に接続されるとともに、円筒状電極104a,104bにも接続されている。なお、第2集束電極9は、円筒状電極104aとメッシュ電極3との間、及び円筒状電極104bとアパーチャー電極5との間に形成される軸対象の電子レンズから離れており、円板状電極9a,9cは、第1集束電極104a,104bと同電位にされているので、第2集束電極9で発生する集束電界はほとんど遮蔽され、両側の第1集束電極104a,104bの方にはほとんど浸透しない。その結果、第2集束電極9に第1集束電極104a,104bと異なる電圧を印加しても、軸対象電子レンズに対する影響を低減することができる。
【0063】
このようなストリーク管101を動作させるにあたっては、掃引電極6の2枚の偏向板にグラウンド電位(0V)を印加し、第2集束電極の円板状電極9bに第1集束電極104a,104bと同一の電位を印加した状態で、線状光学像Aを光電面7上に入射させる。このとき、第1集束電極104a,104bの電位を例えば+6.5kV等の所定電位に調整することにより、蛍光面8上に静止した線状光学像を焦点の合った状態で得ることができる。この際、第1集束電極104a,104bによって形成される電子レンズは軸対象電子レンズであるので、掃引方向にも空間方向にも焦点の合った状態で電子ビームが集束されている。
【0064】
次に、掃引電極6に掃引電圧を印加させて蛍光面8上で電子ビームを5×107m/sで掃引すると、蛍光面8上で掃引方向に電子ビームのボケが発生し、良好な時間分解能が得られない。そこで、円板状電極9bの電位を第1の集束電極104a,104bよりも300V低い+6.2kVに調整すると、時間分解能が改善し最高1.5psの値が得られる。その一方で、第2集束電極9で形成される電子レンズは掃引方向のみの集束作用を有する一次元の電子レンズであり空間方向には作用しないので、掃引方向に垂直な空間方向の分解能は変化せず良好な特性が保たれる。また、空間方向の拡大率も変化しないので、マルチチャンネル計測で各チャネルの位置が変化することも無い。
【0065】
また、上述したストリーク管1,101に内蔵される第2集束電極9a,9b,9cの形状は円板状には限定されず、図5に示すように、矩形平板状であってもよく、その他の様々な形状を採用することもできる。また、第2集束電極9a,9b,9cの寸法は様々に変更することができる。例えば、厚みは0.3mmや5mmに設定してもよいし、また、3つの電極9a,9b,9cの寸法は異なっていてもよい。ただし、この場合第2集束電極9に設定する電圧は変わるが、上述した動作によって最適に設定することができる。
【0066】
また、上述したストリーク管1,101に内蔵される第2集束電極の構成は、図6に示すような構成であってもよい。すなわち、同図に示す第2集束電極109は、3つの平行平板電極109a,109b,109cが容器2の管軸方向に沿って配列されて構成される。平行平板電極109aは、長手方向がY軸方向(空間方向)に沿った状態で、互いにYZ平面(掃引方向に垂直な面)に沿って対向して配置された2枚の長尺状の平板状電極111a,112aによって構成されている。同様に、平行平板電極109b,109cは、それぞれ、対向して配置された2枚の長尺状の平板状電極111b,112b及び平板状電極111c,112cによって構成されている。それぞれの平板状電極111a,112a,111b,112b,111c,112cの大きさは、例えば、幅3.5mm、長さが30mmである。これらの平行平板電極109a,109b,109cは、互いの間隔が2mmとなるように絶縁性の棒部材113a〜113dによって支持されている。さらに、平行平板電極109a,109cは、管軸を挟んだ2枚の平板状電極の間隔が5mmになるように、Y軸方向の両端部に側面板114a,115a,114c,115cが溶接されている。さらに、平行平板電極109a,109cは、容器2内で互いに電気的に接続されている。このような構成の第2集束電極109によっても、2枚の平板状電極間の空間方向に沿って形成された間隙によって、容器2内に掃引方向の1次元電子レンズを形成することができる。
【0067】
また、図7に示す本発明の別の変形例にかかるストリーク管201のように、軸対象電子レンズが、静電式電子レンズではなく、電磁式電子レンズによるものであってもよい。詳細には、ストリーク管201には、第1集束電極4に代えて、メッシュ電極3とアパーチャー電極5の間の容器2の内壁に形成された壁電極211と、中心軸が容器2の管軸に一致し、容器2をメッシュ電極3とアパーチャー電極5の間の外側から囲むように設けられた電磁集束コイル212とが設けられる。このようなストリーク管201を動作させるにあたっては、メッシュ電極3とアパーチャー電極5に電気的に接続された壁電極211をグラウンド電位に設定し、電磁集束コイル212に電流を流すことによって、軸対象電子レンズが形成される。これにより、光電面7に入射する線形光学像を蛍光面8上に集束及び結像させることができる。この場合、メッシュ電極3とアパーチャー電極5の間の容器2内の空間は壁電極211によって等電位空間に設定されるため静電電子レンズは形成されない。
【0068】
また、本発明は、蛍光面8の前面にMCP(マイクロチャンネルプレート)が配置されたストリーク管や、掃引電極に高周波正弦電圧を印加するシンクロスキャン掃引を利用する場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0069】
1,101,201…ストリーク管、2…容器、2a…入射面板、2b…出力面板、3…メッシュ電極(電子集束系)、4,104a,104b…第1集束電極(電子集束系)、5…アパーチャー電極(電子集束系)、6…掃引電極、7…光電面、9,109…第2集束電極(付加電極)、9a,9b,9c…円板状電極(第1〜第3の付加電極)、109a,109b,109c…平行平板電極(第1〜第3の付加電極)、10a…溝部(間隙)、212…電磁集束コイル(電子集束系)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、被計測光の時間的な強度分布を空間的な強度分布に変換するストリーク管及びそれを含むストリーク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被計測光の時間的な強度分布を出力画面上の空間的な強度分布に変換する装置としてストリーク管が用いられている(下記特許文献1,2参照)。従来の典型的なストリーク管は、図8及び図9に示すように、一端面に入射窓902a、他端面に出力窓902bがそれぞれ設けられた真空気密容器902の内部において、その管軸に沿って入射窓902aと出力窓902bの間に、順次、メッシュ電極903、集束電極904、アパーチャー電極905、及び掃引電極906が配設された構成を有している。そして、入射窓902aの容器内壁面側に光電面907が、出力窓902bの容器内壁面側に蛍光面908が、それぞれ設けられている。
【0003】
メッシュ電極903は、円筒状電極の光電面907側の端部に例えば1000本/インチのピッチのメッシュ状電極が設けられた構造を有し、集束電極904は、軸対称の円筒状電極であり、アパーチャー電極905は、短い円筒状電極の出力窓902b側の端部に例えば数mm径のアパーチャーを有する円板が設けられた構造を有し、掃引電極906は、管軸に対して対称に配置された2枚の偏向板によって構成されている。光電面907には、例えば−3kVの負電圧が、メッシュ電極903には、例えば+3kVの正電圧がそれぞれ印加され、集束電極904には、電子ビームが蛍光面908上に最適に集束されるように調整された正極性の高電圧が印加され、アパーチャー電極905及び蛍光面908には、グラウンド電位(0V)が印加される。
【0004】
このようなストリーク管に対して、外部装置から入射窓902aを経て光電面907に、光電面907の中心を通る線状の光学像Aが投影される。この光学像Aは、モワレを生じないようにするためにメッシュ電極903のメッシュとは略45度の角度をなし、掃引電極906の偏向板と平行になるように投影される。そうすると、光電面907は光学像Aに対応して光電面907の垂線に対して垂直方向に線状に分布した電子ビームを放出し、その線状電子ビームは、メッシュ電極903により加速された後に、メッシュ電極903、集束電極904、及びアパーチャー電極905からなる円筒状電極系により形成される軸対称電子レンズにより集束され、アパーチャー電極905を通過してから掃引電極906の偏向板の間隙を経て蛍光面908上に到達する。その結果、出力窓902bから線状光学像Bを発生させる。その際、線状電子ビームが掃引電極906の2枚の偏向板の間を通過する期間において、それらの偏向板には時間と共に変化する傾斜状の掃引電圧が印加される。そうすると、線状電子ビームがその線方向に対して垂直に掃引されて、蛍光面908上で線状光学像Bが掃引方向に順次配列される結果、いわゆる、ストリーク像が形成される。すなわち、被計測光の強度の時間変化に対応した輝度分布が、蛍光面908上で掃引方向に得られる。これをTVカメラで撮像し信号処理することにより、被計測光の時間強度プロファイルを得ることができる。
【0005】
また、線状電子ビームは、軸対称電子レンズにより、蛍光面908上で掃引方向に垂直な方向にも集束されるので、光電面907上の線状光学像Aの線方向に複数チャンネルの光学像を並べれば、蛍光面908上に複数チャンネルに対応した線状光学像Bが生じる。これらの複数チャンネルの光学像を掃引することにより、同時に複数個の光の時間強度変化のデータを取得でき、例えば、分光器からの出力光を入力することで時間分解分光スペクトルを取得できる(マルチチャンネル計測)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−250946
【特許文献2】特開平4−118530
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来のストリーク管では、時間分解能を上げるために、蛍光面908の中心において電子ビームが集束されるように集束電極904の電圧が調整される。しかしながら、掃引電極906の2枚の偏向板に印加する掃引電圧の掃引速度が高速になると、蛍光面908上で掃引方向にビーム拡がりが生じてしまい、時間分解能が劣化してしまう。
【0008】
これに対しては、集束電極904の電圧を掃引速度に合わせて変化させるように調整することも考えられるが、集束電極904により形成される電子レンズは軸対称電子レンズであるために、蛍光面908上での複数チャンネルの配列方向である掃引方向に垂直な方向に光学像が拡がってボケてしまい、隣接したチャンネル間で信号が混ざりこんで精度が低下してしまう傾向にあった。また、集束電極904の電圧を変更すると電子レンズの強度が変わるので、レンズの拡大率が変わり、蛍光面908上の各チャンネルの位置がチャンネル配列方向で変化する。その結果、マルチチャンネル計測でのデータ処理が煩雑になってしまう傾向にあった。
【0009】
そこで、本発明は、かかる課題に鑑みて為されたものであり、出力窓でのチャンネル配列方向における光学像のボケ及びチャンネル位置の変化を防止し、高精度のマルチチャンネル計測を実現するストリーク管及びそれを含むストリーク装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明のストリーク管は、入射面板と出力面板とを有する容器と、容器内に設けられ、入射面板から入射した被計測光に応じて電子を放出する光電面と、光電面から放出された電子を出力面板に向けて集束させるための軸対称電子レンズを形成する電子集束系と、容器内に設けられ、電子集束系によって集束された電子を出力面板に沿った掃引方向に掃引する掃引電極と、入射面板と出力面板との間に設けられ、電子を掃引方向に集束する1次元の電子レンズを形成する付加電極と、を有する。
【0011】
本発明のストリーク管によれば、被計測光に応じて光電面から電子が放出され、その電子が、電子集束系によって収束されるとともに、掃引電極によって出力面板に沿った掃引方向に掃引されながら、出力面板に導かれる。その結果、被計測光の時間変化に対応した出力分布が掃引方向に沿って得られる。ここで、掃引速度の速さに応じて付加電極の印加電圧を調整することで出力分布の掃引方向のボケが低減されて時間分解能が向上するとともに、出力分布の掃引方向に垂直な空間方向の分解能も良好に維持することができる。これにより、出力分布のチャンネル配列方向における光学像のボケ及びチャンネル位置の変化を防止し、高精度のマルチチャンネル計測を実現することができる。
【0012】
付加電極は、入射面板と出力面板との間で第1〜第3の付加電極がこの順で空間的に分離して配置されて構成されており、第1及び第3の付加電極は互いに電気的に接続されている、ことが好適である。かかる付加電極を備えれば、第2の付加電極に印加する電圧によって発生する電界が第1及び第3の付加電極によって遮蔽されるので、電子集束系によって形成された軸対称電子レンズへの悪影響を防止することができる。
【0013】
また、付加電極は、電子集束系と掃引電極との間に設けられ、第1及び第3の付加電極は電子集束系に含まれる電極に電気的に接続されている、ことも好適である。かかる構成を備えれば、第2の付加電極に印加する電圧によって発生する電界が第1及び第3の付加電極によって確実に遮蔽されるので、電子集束系によって形成された軸対称電子レンズへの悪影響をより確実に防止することができる。
【0014】
さらに、付加電極は、出力面板に沿った掃引方向に垂直な空間方向に沿った直線状の間隙が形成された形状を有する、ことも好適である。この場合、付加電極によって掃引方向の1次元の電子レンズを形成することができる。
【0015】
またさらに、付加電極は、出力面板に沿った板状電極に空間方向に沿った直線状の溝部が形成されて構成されている、ことも好適である。かかる形状によれば、付加電極によって掃引方向の1次元の電子レンズを形成することができる。
【0016】
付加電極は、2枚の板状電極が空間方向に沿って互いに対向して配置されて構成されている、ことも好適である。かかる形状によっても、付加電極によって掃引方向の1次元の電子レンズを形成することができる。
【0017】
或いは、本発明のストリーク装置は、上述したストリーク管と、掃引電極に印加する掃引電圧の傾斜の設定に連動して、付加電極に印加される電圧値を設定する設定信号発生部と、を備える。このようなストリーク装置によれば、出力面板における電子ビームを、掃引電極に印加する掃引電圧の傾斜で決まる出力の掃引速度に応じて、掃引方向に適切に集束させることができる。これにより、様々な掃引速度に対応して出力分布の掃引方向のボケが低減されて時間分解能が向上するとともに、出力分布の掃引方向に垂直な空間方向の分解能も良好に維持することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、出力窓でのチャンネル配列方向における光学像のボケ及びチャンネル位置の変化を防止し、高精度のマルチチャンネル計測を実現するストリーク管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の好適な一実施形態に係るストリーク管1のその管軸を含む掃引電極の偏向板に垂直な面に沿った断面図である。
【図2】図1の第2集束電極を構成する円板状電極9aの形状を示す斜視図である。
【図3】図1のストリーク管1と駆動装置を含むストリーク装置を示すブロック図である。
【図4】本発明の変形例に係るストリーク管101のその管軸を含む掃引電極の偏向板に垂直な面に沿った断面図である。
【図5】本発明の変形例に係る第2集束電極の形状を示す斜視図である。
【図6】本発明の別の変形例に係る第2集束電極の構成を示す斜視図である。
【図7】本発明の変形例に係るストリーク管201のその管軸を含む掃引電極の偏向板に垂直な面に沿った断面図である。
【図8】従来のストリーク管のその管軸を含む掃引電極の偏向板に垂直な面に沿った断面図である。
【図9】図8のストリーク管のその管軸を含む掃引電極の偏向板に平行な面に沿った断面図である。
【図10】図8の掃引電極906に直流電圧が印加された場合の蛍光面908上の電子ビームの拡がりWsを示す図である。
【図11】図8の掃引電極906に直流電圧が印加された場合の掃引電極906の周りの等電位線を示す図である。
【図12】図8の掃引電極906に印加される斜状掃引電圧Vd1(t)、Vd2(t)の電圧波形を示すグラフである。
【図13】図8の掃引電極906に掃引電圧が印加された場合の蛍光面908上の電子ビームの拡がりWdを示す図である。
【図14】図8の掃引電極906に掃引電圧が印加された場合の蛍光面908上の電子ビームの集束状態を示す図である。
【図15】図8の蛍光面908から出力されるストリーク像のイメージを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るストリーク管の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
図1は、本発明の好適な一実施形態に係るストリーク管のその管軸を含む掃引電極の偏向板に垂直な面に沿った断面図である。同図に示すストリーク管1は、光学像の強度の時間変化に対応した輝度分布を得るための装置である。このストリーク管1は、円筒状の容器2の内部に、メッシュ電極3(電子集束系)、第1集束電極(電子集束系)4、アパーチャー電極(電子集束系)5、第2集束電極(付加電極)9、及び掃引電極6が配置されて構成されている。容器2の一端面には、被計測光が入射される透光性材料からなる入射面板2aが固定され、容器の他端面には、出力像が出射される透光性材料からなる出力面板2bが固定されている。なお、以下の説明においては、図1の容器2の管軸に沿った方向をZ軸方向とし、容器2の出力面板2bに沿った掃引電極6の偏向板に垂直な方向(掃引方向)をX軸方向とし、容器2の出力面板2bに沿ったX軸に垂直な方向(空間方向)をY軸方向とする。
【0022】
このストリーク管1は、さらに、入射面板2aの内側の面に形成された光電面7と、出力面板2bの内側の面に形成された蛍光面8とを有する。光電面7は、容器2の管軸に沿って外部から入射面板2aに入射してきた被計測光に応じて、出力面板2bに向けて電子を放出する、いわゆる、透過型の光電陰極である。蛍光面8は、光電面7によって放出された電子の入射に応じて、その電子の入射分布に応じた出力像を外部に向けて出力する。
【0023】
メッシュ電極3は、円筒状電極の光電面7側の端部がメッシュ電極によって覆われた形状を有する電子ビーム加速用の電極であり、この円筒状電極の中心軸が容器2の管軸にほぼ一致するように容器2の内部において光電面7に隣接して配置されている。このメッシュ電極3は、入射面板2aにY軸方向に沿った線状の光学像が入射した場合にその光学像とメッシュとの角度が略45度を成すように、すなわち、メッシュがX軸(Y軸)に対して45度を成すように配置される。これにより、出力像におけるモワレを防ぐことができる。このメッシュの間隔は、例えば、1,000本/インチに設定される。
【0024】
第1集束電極4は、軸対象の円筒状電極であり、この円筒状電極の中心軸が容器2の管軸にほぼ一致するように容器2の内部にメッシュ電極3に隣接して配置されている。アパーチャー電極5は、第1集束電極4に対してメッシュ電極3の反対側に隣接して設けられており、軸対象の円筒状電極の蛍光面8側の端部が中心部にアパーチャー(開口)が形成された円板電極によって覆われた構成を有する。このアパーチャー電極5は、円筒状電極の中心軸が容器2の管軸にほぼ一致し、アパーチャーが容器2の管軸上に位置するように配置されている。
【0025】
これらのメッシュ電極3、第1集束電極4、及びアパーチャー電極5は、光電面7から放出された電子を蛍光面8に向けて集束させるための軸対象電子レンズを形成する円筒状の形状を有する電極群(電子集束系)である。すなわち、光電面7に所定の負電位(例えば、−3kV)、メッシュ電極3には所定の正電位(例えば、+3KV)、第1集束電極4に正極性の高電圧、アパーチャー電極5及び蛍光面8にはグラウンド電位(0V)が印加される。この場合、メッシュ電極3と第1集束電極4との間、及び第1集束電極4とアパーチャー電極5との間に、メッシュ電極3によってZ軸方向に加速された電子ビームを蛍光面8上に集束させるような容器2の管軸に対して対称な2次元電子レンズが形成される。ここで、第1集束電極4に印加される電圧の大きさは、電子ビームが蛍光面8上に最適に集束されるように調整可能とされている。
【0026】
ここで、メッシュ電極3、第1集束電極4、及びアパーチャー電極5の円筒の内径は例えば20mmである。
【0027】
また、アパーチャー電極5と蛍光面8との間には、第2集束電極9、及び掃引電極6が、Z軸方向に沿ってこの順で並んで配置されている。掃引電極6は、2枚の平板電極(偏向板)が容器2の管軸を挟んでX軸に垂直な方向に沿って互いに対面するように配置されて構成されている。この掃引電極6は、2枚の偏向板に掃引電圧が印加されることにより、アパーチャー電極5を通過した電子ビームをX軸方向に掃引するための電極である。また、第2集束電極9は、アパーチャー電極5を通過した電子ビームを蛍光面8上においてX軸方向に集束する1次元の電子レンズを形成するための電極である。
【0028】
第2集束電極9は、3枚の円板状電極9a,9b,9cが出力面板2bに沿った状態でZ軸方向に(容器2の管軸方向に)順に空間的に分離して配置されて構成されている。図2は、円板状電極9aの形状を示す斜視図であり、円板状電極9aにはY軸方向(掃引方向に垂直な方向)に沿って直線状に貫通する溝部(スリット、間隙)10aが形成された形状を有する。円板状電極9b,9cも円板状電極9aと同様な形状を有する。これらの円板状電極9a,9b,9cは、溝部の中心部が容器2の管軸上に位置するように配置される。なお、円板状電極9a,9b,9cの溝部のY軸方向の長さのX軸方向の幅に対する倍率は、一次元電子レンズを効率よく形成させる点で3倍以上であることが好ましい。溝部の倍率が3倍以上の場合には、溝部の長さ方向の両端の電位が影響してY軸方向の電子レンズ作用が生じることを防止することができる。例えば、円板状電極9a,9b,9cの具体的サイズとしては、厚み3mm、溝部の幅4mm、溝部の長さ24mm、円板状電極9a,9b,9cの間隔は3mmに設定される。また、円板状電極9aの溝部10aの開口のY軸方向の両端部は円弧状に形成されていてもよいし、直線状に形成されてもよい。
【0029】
ここで、第2集束電極9のうちの2枚の円板状電極9a,9cは、容器2内で互いに電気的に接続されると共に、電子レンズ系の一部を構成するアパーチャー電極5に電気的に接続されている。また、第2の集束電極9のうち円板状電極9a,9cに挟まれた円板状電極9bは、外部から任意の電位を印加可能なように構成されている。
【0030】
図3は、上述したストリーク管1とその駆動装置を含むストリーク装置を示すブロック図である。アパーチャー電極5及び蛍光面8は、グラウンド電位が印加されることにより0Vに設定され、これにより、第2集束電極9の円板状電極9a,9cの電位が0Vに設定される。それと同時に、高圧電源51の発生する電圧が電圧分配回路52によって分圧されることにより、光電面7に−3kVが印加され、メッシュ電極3に+3kVが印加される。また、第1集束電極用電圧源53が第1集束電極4に接続され、第1集束電極用電圧源53から第1集束電極4に正極性の高電圧が印加される。さらに、第2集束電極用電圧源54が第2集束電極9の円板状電極9bに接続され、第2集束電極用電圧源54から円板状電極9bに予め設定した電圧が印加される。なお、第1集束電極用電圧源53及び第2集束電極用電圧源54の出力する電圧は調整可能にされている。
【0031】
また、掃引電極6の2枚の偏向板には、掃引電圧発生部55が接続されており、この掃引電圧発生部55により、2枚の偏向板のそれぞれに、逆極性(プッシュプル)の斜状掃引電圧Vd1(t)、Vd2(t)を供給する。これらの斜状掃引電圧Vd1(t)、Vd2(t)は、時間的に直線状に変化する電圧であり、互いに逆極性の電圧になるように設定される。ここで、掃引電圧発生部55においては、掃引電圧の時間に対する傾斜(時間変化率)が切り替えスイッチにより所望の値に変更できるように構成されており、これにより、蛍光面8上の電子ビームの掃引速度を、例えば、0(掃引無し)、1×105m/s、1×106m/s、5×107m/s、1.4×108m/sと変更可能にされている。
【0032】
さらに、これらの第2集束電極用電圧源54及び掃引電圧発生部55には、設定信号発生部56が接続されており、設定信号発生部56からの信号により、第2集束電極用電圧源54の出力する電圧値、及び掃引電圧発生部55が生成する掃引電圧の傾斜等が変更可能にされている。また、設定信号発生部56は、掃引電圧の傾斜の設定に連動して、第2集束電極9の円板状電極9bに印加される電圧値を設定し、傾斜及び電圧値を示す設定値を、それぞれ第2集束電極用電圧源54及び掃引電圧発生部55に出力する。
【0033】
この駆動装置には、被計測光の入射を検知してトリガ信号を生成するPINフォトダイオード57と、そのトリガ信号を遅延させて掃引電圧発生部55に向けて出力する遅延回路58とが更に備えられており、掃引電圧発生部55はトリガ信号の発生タイミングに合わせて斜状掃引電圧Vd1(t)、Vd2(t)を印加する。このPINフォトダイオード57及び遅延回路58により、被計測光の入射に応じて発生した電子ビームが掃引電極6を通過するタイミングに合わせて掃引電圧を印加することができる。
【0034】
上記構成を有するストリーク管1及びその駆動装置の操作方法及びそれらの動作について、図3を参照しながら説明する。
【0035】
最初に、掃引電極6の2枚の偏向板と第2集束電極9の円板状電極9bにグラウンド電位(0V)を印加した状態で、被計測光Lをハーフミラー59、スリット板60、及び光学レンズ61を経由して入射面板2a上に結像させることにより、Y軸方向に沿った線状光学像Aを光電面7上に入射させる。このとき、第1集束電極用電圧源53の出力電位を例えば+6.8kV等の所定電位に調整することにより、蛍光面8上に静止した線状光学像を焦点の合った状態で得ることができる。この際、第1集束電極4によって形成される電子レンズは軸対象電子レンズであるので、線状光学像の線方向に垂直な方向(掃引方向、X軸方向)にも、その線方向(空間方向、Y軸方向)にも焦点の合った状態で電子ビームが集束されている。
【0036】
次に、掃引電圧発生部55によって掃引電圧を発生させて蛍光面8上で電子ビームを掃引速度1×105m/sで掃引させた場合、蛍光面8上において線状光学像Aの強度の時間変化に対応した輝度分布(ストリーク像)が得られる。この場合は、掃引速度が比較的遅いので、蛍光面8上における掃引による電子ビームのボケはほとんど発生せず、良好な時間分解能が得られる。また、マルチチャンネル計測を行っても、掃引方向に垂直な空間方向の分解能も良好で問題は少ない。
【0037】
その次に、掃引電圧発生部55の掃引電圧波形を変更して掃引速度を5×107m/sにすると、蛍光面8上で掃引方向に電子ビームのボケが発生し、良好な時間分解能が得られない。そこで、第2集束電極用電圧源54の出力電圧を−350V等に調整し、その電圧を第2集束電極9の円板状電極9bに印加すると、時間分解能が改善し最高1.5psの値が得られた。その一方で、第2集束電極9で形成される電子レンズは掃引方向のみの集束作用を有する一次元の電子レンズであり空間方向には作用しないので、掃引方向に垂直な空間方向の分解能は変化せず良好な特性が保たれる。また、空間方向の拡大率も変化しないので、マルチチャンネル計測で各チャネルの位置が変化することも無い。
【0038】
さらに、掃引電圧発生部55の掃引電圧波形を変更して掃引速度を1.4×108m/sに上げると、蛍光面8上の掃引方向の電子ビームのボケは更に大きくなる。そこで、第2集束電極用電圧源54の出力電圧を−500V等に調整して一次元電子レンズの強度を強くしたところ、時間分解能が改善し最高0.9psの値が得られた。このときも掃引方向に垂直な空間方向の特性は変化せずに良好に保たれる。
【0039】
このように、各掃引速度に対応して最適な第2集束電極9の印加電圧が決まるので、設定信号発生部56を用いて掃引速度と第2集束電極の印加電圧を連動して変えるように動作させることにより、容易に時間分解能及び空間分解能の高いストリーク像を得ることができる。
【0040】
以上説明した本実施形態に係るストリーク管1によれば、被計測光Lに応じて光電面7から電子ビームが放出され、その電子ビームが、メッシュ電極3、第1集束電極4、アパーチャー電極5、及び第2集束電極9によって構成される電子レンズ系によって収束されるとともに、掃引電極6によって出力面板2bに沿った掃引方向に掃引されながら、出力面板2b上の蛍光面8に導かれる。その結果、被計測光Lの時間変化に対応した出力分布が掃引方向に沿って得られる。ここで、掃引速度の速さに応じて第2集束電極9の印加電圧を調整することで出力分布の掃引方向(X軸方向)のボケが低減されて時間分解能が向上するとともに、出力分布の掃引方向に垂直な空間方向(Y軸方向)の分解能も良好に維持することができる。これにより、マルチチャンネル計測時において出力分布のチャンネル配列方向における光学像のボケ及びチャンネル位置の変化を防止し、高精度のマルチチャンネル計測を実現することができる。
【0041】
また、第2集束電極9の円板状電極9a,9cは、アパーチャー電極5に電気的に接続されているので、円板状電極9bに印加する電圧によって発生する電界が円板状電極9a,9cによって確実に遮蔽されるので、第1集束電極4及びアパーチャー電極5によって形成された軸対称電子レンズへの悪影響をより確実に防止することができる。
【0042】
さらに、第2集束電極9の円板状電極9a,9b,9cは、出力面板2bに沿った掃引方向に垂直な空間方向に沿った直線状の溝部が形成された形状を有するので、掃引方向の1次元の電子レンズを安定して形成することができる。
【0043】
次に、本実施形態のストリーク管1の作用効果を、図8及び図9に示す従来例と比較しつつ、さらに詳細に説明する。
【0044】
まず、図8及び図9に示した従来のストリーク管においてストリーク像の時間分解能がどのように得られるかを示す。
【0045】
光電面907上の光学像Aの各点からは光電面907の種類と入射光波長に対応した初速度分布で光電子群が放出される。例えば、S20光電面から可視光により放出される光電子の初期エネルギーは0〜数eVの分布を持っている。また光電子の放出角θ(光電面の法線と成す角)は、0<θ≦90°の範囲である。光電面907から初速0で放出された光電子の軌道を主軌道、それ以外の軌道を副軌道とすると、副軌道は無数に存在し、光電面907から放出された時点での放出角θが大きいほど、また初期エネルギーが大きいほど、副軌道が主軌道から離れる距離は大きくなる。一例として、図8及び図9には、放出角60°、初期エネルギー1eVで主軌道に対称に放出された光電子の軌道を副軌道として、光電面907上の管軸上の線状光学像Aに対応する3点から放出された光電子の主軌道及び副軌道を、それぞれ、一点鎖線及び実線で示している。
【0046】
このように、光電面907の中心から放出された光電子の副軌道は、当初主軌道から離れていき、その後集束電極904によって形成された軸対称電子レンズにより主軌道の方向に曲げられる。そのため副軌道は、アパーチャー電極905付近で主軌道との距離が最大となり、その後その距離は小さくなっていき、蛍光面908の中心点の近傍に到達する。実際には副軌道は数多く存在するので光電子群の到達点はある程度の分布を有し、集束電極904の電圧を例えば+7kVに調整することにより、その分布の半値幅WFを最小にすることができる。ただし、半値幅WFは電子レンズの色収差、球面収差などにより完全に0にはならず例えばWF〜20μmとなる。円筒状電極系で形成される電子レンズは軸対称であるので掃引方向及び空間方向のどちらでも副軌道の集束の様子は同じである。さらに、光電面907上の中心点以外の点から放出された光電子群も同様に集束され、蛍光面908上に線状光学像Aに対応する線状光学像Bが生じる。ここで、電子レンズが軸対称であるので、光学像Bの大きさは光学像Aを等方的に拡大率M(例えば3倍)で拡大したものとなる。
【0047】
ここで、光学像Aの線方向に垂直な方向(掃引方向)の半値幅laは例えば10μm程度に設定される。この時、光学像Bの線方向に垂直な(掃引方向の)半値幅lbは、下記式(1)で示される。
lb〜(la2×M2+WF2)1/2 …(1)
例えば、la=10μm、M=3、WF=20μmの場合、半値幅lbは約36μmとなる。
【0048】
この時、蛍光面908上の電子ビームの掃引速度をVsとすれば、光学像Bの半値幅lbにより規定される時間分解能Δtは下記式(2)で示される。
Δt=lb/Vs …(2)
例えば、lb〜3.6×10-5(m)、Vs〜1.2×106(m/s)とすれば、Δt〜3×10-11(s)、つまり時間分解能は30psとなる。
【0049】
なお、上記式(2)からわかるように、時間分解能は掃引速度Vsが大きいほど良くなる。しかし、実際には別に電子ビームの偏向(掃引)による蛍光面908上のビーム拡がりWが生じ、それは掃引速度が大きいほど大きくなるので、それを小さくする工夫が行われている。
【0050】
まず、掃引電極906の偏向板に直流電圧が印加された場合(静的な場合)の蛍光面908上の各位置での電子ビームの偏向による拡がりWsを図10を参照して説明する。図中に示すビームAは、偏向板D1に+VD(正電圧)を印加し、偏向板D2に−VD(負電圧)を印加した場合の電子ビームを主軌道と副軌道で示している。ビームCは偏向板D1に−VD(負電圧)、偏向板D2に+VD(正電圧)を印加した場合の電子ビームを主軌道と副軌道で示している。いずれも、偏向電圧が加わっていない時、蛍光面908上の中心点に集束されているビームBが偏向されたものである。実際には前述のようにビームBは蛍光面908上で電子レンズの収差により半値幅WF(〜20μm)のビーム拡がりを持っているが、偏向によるビーム拡がりのみを評価するため、ビームBの半値幅WFを0として図示している。ビームA,Cではいずれも、蛍光面908上で偏向により拡がりWsが生じている。この拡がりは図中に示された副軌道のp電子とq電子の蛍光面908上での偏向量の差に起因するものである。
【0051】
また、図11には、偏向板D1,D2に印加する電圧の大きさVDを500Vとした時の掃引電極906の周りの等電位線を示している。電子ビームAの場合、掃引電極906の光電面907側端部付近に入射するp電子は、正電圧+VDが印加されている偏向板D1に近いので、管軸方向に加速される。q電子は、負電圧−VDが印加されている偏向板D2に近いのでこれによって、減速される。その結果、q電子はp電子よりゆっくり掃引電極906の中を通過することになるので、q電子はより一層偏向電界の作用を受け、p電子より強く偏向されることになる。電子ビームCの場合は、p電子とq電子の関係が逆になる。このように、蛍光面908の端において電子ビームは蛍光面908の前方に集束される結果、拡がりWsが生じる。この拡がり量は中心から大きく偏向された場所ほど大きくなる。この拡がりは、上記式(1)、(2)より時間分解能の劣化の一因となる。その一方で、静的な場合の時間分解能の劣化の問題は、偏向角の小さい範囲を有効掃引幅に選べば問題はないことになる。
【0052】
次に、掃引電極906の偏向板に印加される電圧が、電子の通過中に変化するストリーク動作に用いられる傾斜電圧の場合(動的な場合)について、電子ビームの拡がりWdについて評価する。
【0053】
図12には、掃引電極906に印加される斜状掃引電圧Vd1(t)、Vd2(t)の電圧波形を示す。ここで、偏向板D1に掃引電圧Vd1(t)、偏向板D2に掃引電圧Vd2(t)を印加すると仮定すると、時刻tで2つの偏向板D1,D2間の電圧はVd1(t)−Vd2(t)となる。光電子の掃引電極906通過中における傾斜電圧の変化量が、光電面907とアパーチャー電極905の間の加速電圧に比較して無視できる程度ならば、前述した直流偏向電圧を印加した時と同じ取扱いをすることができる。
【0054】
例えば、光電面907とアパーチャー電極905の間で光電子は約3keVに加速されたとすると、光電子の掃引電極906での管軸方向の速さは約3.3×107m/sとなる。また、掃引電極906の長さを例えば35mmとすれば、掃引電極906を通過するのに要する時間は1.08ns程度となる。例えば、図12に示す傾斜電圧が1μsで2,000V変化する程度の時間変化率ならば、掃引電極906を通過する間に、偏向板D1,D2に印加される電圧の変化は1.1V程度で上記3keVに比べて非常に小さく直流電圧が印加された場合と同一にみなしてよい。
【0055】
これに対して、例えば1.08nsの光電子の通過時間に掃引電圧が数100V以上変化してしまうとなると、蛍光面908上のビームの拡がりの様子は異なったものになる。図13は、偏向板D1,D2に印加される掃引電圧の傾斜が非常に大きい場合の蛍光面908上のビーム拡がりの様子を示す。この場合も管軸方向の速度の遅い電子が偏向電界によって作用を受けやすいという基本は直流偏向電圧が印加された場合と同じであるが、偏向電界が電子パルスビームが偏向場を通過する間に刻々と変化する。そして、ビーム拡がりWdは蛍光面908の中心付近で最大となり、偏向が大きい所でもその拡がりの生ずる様子は直流偏向電圧が印加されている場合と異なる。また、この拡がりは、図13に点線で示すように、光電子ビームの集束点を集束電極904の電圧を調整することにより蛍光面908より後の面にずらした場合、蛍光面908面上で生ずる拡がりとほとんど同じである。いずれにしろ、図10の場合と異なり、有効に使用したい蛍光面908の中心付近が一番拡がりWdが大きく、問題となる。また、一般にストリーク管を用いた測定では高時間分解能を得ようとして掃引速度を大きくすればするほど、ビーム拡がりWdが大きくなることがわかっている。
【0056】
このように、拡がりWdが発生すると、光学像Bの線方向に垂直な方向(掃引方向)半値幅はlbは、近似的に下記式(3)で示され、上記式(2)で計算される時間分解能よりも劣化する。
lb〜(la2×M2+WF2+Wd2)1/2 …(3)
図13に示したように、高速で掃引した時生じるビームの拡がりWdは、ビームの結像面が蛍光面908の後方へずれたのとほとんど等価である。そこで、従来は拡がりWdによる時間分解能劣化対策として、図14に示すように、集束電極904の電圧を調整して軸対象電子レンズの強度を強くして蛍光面908の中心で拡がりWdが最小になるようにしていた。この場合、掃引速度が遅くなると電子ビームの結像点は前方に移動するので拡がりWdは大きくなってしまう。このような掃引速度による拡がりのWdの変動に対処するために、掃引速度に応じて集束電極904の電圧を変化させて、各掃引速度で拡がりWdが最小になるようにしていた。例えば、蛍光面908上の掃引速度1.4×108m/sで集束電極904の印加電圧を+9kVに設定する一方、掃引速度が0、すなわち静止像を出力させる場合には、集束電極904の印加電圧を+7kVに設定していた。
【0057】
しかし、従来のストリーク管を用いてマルチチャンネル計測を行った場合では、高速掃引した時、掃引方向の拡がりWdを小さくするために前述したような掃引速度に応じて最適の集束電極904の電圧を調整する動作では、空間方向の情報の精度が落ちてしまう問題が生じる。これを以下に説明する。
【0058】
簡単のために複数のチャンネルの入射パルス光は、すべて同時刻に入射し、そのパルス幅は非常に短く無視できるとする。ここで、掃引してない時(静的な場合)、電子ビームが蛍光面908上にジャストに集束される集束電極904の電圧をVF0(例えば+7kV)であったとする。このような場合、掃引速度が小さい時はビーム拡がりWdは生じない。このとき、集束電極904の印加電圧VF0で発生する軸対称電子レンズにより、掃引方向にも、それに垂直な空間方向にもジャストに集束されているので、図15(a)に示すように、良好な時間分解能で、かつ掃引に垂直な空間方向にも良好な空間分解能(半値幅WF)のマルチチャンネル時間分解計測が行われる。しかし、掃引速度が高速になると集束電極904電圧がVF0のままでは、蛍光面908上で掃引方向にビーム拡がりWdが生じるので、図15(b)に示すように空間分解能は保たれているが、時間分解能が劣化してしまう。
一方、前述のように集束電極904の電圧をVF1に変えて掃引方向のビーム拡がりをほぼ0にすれば、高い時間分解能が得られるが、軸対称電子レンズのため空間方向では、電子ビームが蛍光面908より手前で集束するため、図15(c)に示すように蛍光面908上では大きくボケてしまい、隣のチャンネルの信号が混ざり込んで精度が劣化してしまう。
【0059】
また、集束電極904の電圧を変化させると軸対象電子レンズの強度が変わるので、レンズの拡大率が変わり、蛍光面908上の各チャンネルの位置が空間方向で変化する。集束電極904の電圧VF1は、掃引速度に対応して最適値に変えるので、そのたびに蛍光面908上の各チャンネルの位置が変化することになり、マルチチャンネル計測でのデータの処理が非常に大変になる。
【0060】
これに対して、本実施形態のストリーク管1及びその駆動装置によれば、掃引方向の一次元電子レンズを形成する第2集束電極9を備えるので、掃引方向に垂直な空間方向の分解能には影響を及ぼさず、掃引速度に応じて掃引方向のビーム拡がりのみを小さくすることができる。その結果、マルチチャンネル計測における時間分解能及び空間分解能の両方を良好に保つことができる。また、マルチチャンネル計測における各チャンネルの位置が変化することも無い。
【0061】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。
【0062】
例えば、図4に示す、本発明の変形例にかかるストリーク管101のように、第2集束電極9の位置を変更してもよい。すなわち、図4に示すように、第1集束電極が2つの円筒状電極104a,104bに分割され、それらの円筒状電極104a,104bの間に円筒状電極104a,104bから空間的に分離して第2集束電極9が配置されてもよい。このストリーク管101では、第2集束電極の円板状電極9a,9cは、容器2内で互いに電気的に接続されるとともに、円筒状電極104a,104bにも接続されている。なお、第2集束電極9は、円筒状電極104aとメッシュ電極3との間、及び円筒状電極104bとアパーチャー電極5との間に形成される軸対象の電子レンズから離れており、円板状電極9a,9cは、第1集束電極104a,104bと同電位にされているので、第2集束電極9で発生する集束電界はほとんど遮蔽され、両側の第1集束電極104a,104bの方にはほとんど浸透しない。その結果、第2集束電極9に第1集束電極104a,104bと異なる電圧を印加しても、軸対象電子レンズに対する影響を低減することができる。
【0063】
このようなストリーク管101を動作させるにあたっては、掃引電極6の2枚の偏向板にグラウンド電位(0V)を印加し、第2集束電極の円板状電極9bに第1集束電極104a,104bと同一の電位を印加した状態で、線状光学像Aを光電面7上に入射させる。このとき、第1集束電極104a,104bの電位を例えば+6.5kV等の所定電位に調整することにより、蛍光面8上に静止した線状光学像を焦点の合った状態で得ることができる。この際、第1集束電極104a,104bによって形成される電子レンズは軸対象電子レンズであるので、掃引方向にも空間方向にも焦点の合った状態で電子ビームが集束されている。
【0064】
次に、掃引電極6に掃引電圧を印加させて蛍光面8上で電子ビームを5×107m/sで掃引すると、蛍光面8上で掃引方向に電子ビームのボケが発生し、良好な時間分解能が得られない。そこで、円板状電極9bの電位を第1の集束電極104a,104bよりも300V低い+6.2kVに調整すると、時間分解能が改善し最高1.5psの値が得られる。その一方で、第2集束電極9で形成される電子レンズは掃引方向のみの集束作用を有する一次元の電子レンズであり空間方向には作用しないので、掃引方向に垂直な空間方向の分解能は変化せず良好な特性が保たれる。また、空間方向の拡大率も変化しないので、マルチチャンネル計測で各チャネルの位置が変化することも無い。
【0065】
また、上述したストリーク管1,101に内蔵される第2集束電極9a,9b,9cの形状は円板状には限定されず、図5に示すように、矩形平板状であってもよく、その他の様々な形状を採用することもできる。また、第2集束電極9a,9b,9cの寸法は様々に変更することができる。例えば、厚みは0.3mmや5mmに設定してもよいし、また、3つの電極9a,9b,9cの寸法は異なっていてもよい。ただし、この場合第2集束電極9に設定する電圧は変わるが、上述した動作によって最適に設定することができる。
【0066】
また、上述したストリーク管1,101に内蔵される第2集束電極の構成は、図6に示すような構成であってもよい。すなわち、同図に示す第2集束電極109は、3つの平行平板電極109a,109b,109cが容器2の管軸方向に沿って配列されて構成される。平行平板電極109aは、長手方向がY軸方向(空間方向)に沿った状態で、互いにYZ平面(掃引方向に垂直な面)に沿って対向して配置された2枚の長尺状の平板状電極111a,112aによって構成されている。同様に、平行平板電極109b,109cは、それぞれ、対向して配置された2枚の長尺状の平板状電極111b,112b及び平板状電極111c,112cによって構成されている。それぞれの平板状電極111a,112a,111b,112b,111c,112cの大きさは、例えば、幅3.5mm、長さが30mmである。これらの平行平板電極109a,109b,109cは、互いの間隔が2mmとなるように絶縁性の棒部材113a〜113dによって支持されている。さらに、平行平板電極109a,109cは、管軸を挟んだ2枚の平板状電極の間隔が5mmになるように、Y軸方向の両端部に側面板114a,115a,114c,115cが溶接されている。さらに、平行平板電極109a,109cは、容器2内で互いに電気的に接続されている。このような構成の第2集束電極109によっても、2枚の平板状電極間の空間方向に沿って形成された間隙によって、容器2内に掃引方向の1次元電子レンズを形成することができる。
【0067】
また、図7に示す本発明の別の変形例にかかるストリーク管201のように、軸対象電子レンズが、静電式電子レンズではなく、電磁式電子レンズによるものであってもよい。詳細には、ストリーク管201には、第1集束電極4に代えて、メッシュ電極3とアパーチャー電極5の間の容器2の内壁に形成された壁電極211と、中心軸が容器2の管軸に一致し、容器2をメッシュ電極3とアパーチャー電極5の間の外側から囲むように設けられた電磁集束コイル212とが設けられる。このようなストリーク管201を動作させるにあたっては、メッシュ電極3とアパーチャー電極5に電気的に接続された壁電極211をグラウンド電位に設定し、電磁集束コイル212に電流を流すことによって、軸対象電子レンズが形成される。これにより、光電面7に入射する線形光学像を蛍光面8上に集束及び結像させることができる。この場合、メッシュ電極3とアパーチャー電極5の間の容器2内の空間は壁電極211によって等電位空間に設定されるため静電電子レンズは形成されない。
【0068】
また、本発明は、蛍光面8の前面にMCP(マイクロチャンネルプレート)が配置されたストリーク管や、掃引電極に高周波正弦電圧を印加するシンクロスキャン掃引を利用する場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0069】
1,101,201…ストリーク管、2…容器、2a…入射面板、2b…出力面板、3…メッシュ電極(電子集束系)、4,104a,104b…第1集束電極(電子集束系)、5…アパーチャー電極(電子集束系)、6…掃引電極、7…光電面、9,109…第2集束電極(付加電極)、9a,9b,9c…円板状電極(第1〜第3の付加電極)、109a,109b,109c…平行平板電極(第1〜第3の付加電極)、10a…溝部(間隙)、212…電磁集束コイル(電子集束系)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射面板と出力面板とを有する容器と、
前記容器内に設けられ、前記入射面板から入射した被計測光に応じて電子を放出する光電面と、
前記光電面から放出された電子を前記出力面板に向けて集束させるための軸対称電子レンズを形成する電子集束系と、
前記容器内に設けられ、前記電子集束系によって集束された電子を前記出力面板に沿った掃引方向に掃引する掃引電極と、
前記入射面板と前記出力面板との間に設けられ、前記電子を前記掃引方向に集束する1次元の電子レンズを形成する付加電極と、
を有することを特徴とするストリーク管。
【請求項2】
前記付加電極は、入射面板と前記出力面板との間で第1〜第3の付加電極がこの順で空間的に分離して配置されて構成されており、前記第1及び第3の付加電極は互いに電気的に接続されている、
ことを特徴とする請求項1記載のストリーク管。
【請求項3】
前記付加電極は、前記電子集束系と前記掃引電極との間に設けられ、前記第1及び第3の付加電極は前記電子集束系に含まれる電極に電気的に接続されている、
ことを特徴とする請求項2記載のストリーク管。
【請求項4】
前記付加電極は、前記出力面板に沿った前記掃引方向に垂直な空間方向に沿った直線状の間隙が形成された形状を有する、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のストリーク管。
【請求項5】
前記付加電極は、前記出力面板に沿った板状電極に前記空間方向に沿った直線状の溝部が形成されて構成されている、
ことを特徴とする請求項4に記載のストリーク管。
【請求項6】
前記付加電極は、2枚の板状電極が前記空間方向に沿って互いに対向して配置されて構成されている、
ことを特徴とする請求項4に記載のストリーク管。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のストリーク管と、
前記掃引電極に印加する掃引電圧の傾斜の設定に連動して、前記付加電極に印加される電圧値を設定する設定信号発生部と、
を備えることを特徴とするストリーク装置。
【請求項1】
入射面板と出力面板とを有する容器と、
前記容器内に設けられ、前記入射面板から入射した被計測光に応じて電子を放出する光電面と、
前記光電面から放出された電子を前記出力面板に向けて集束させるための軸対称電子レンズを形成する電子集束系と、
前記容器内に設けられ、前記電子集束系によって集束された電子を前記出力面板に沿った掃引方向に掃引する掃引電極と、
前記入射面板と前記出力面板との間に設けられ、前記電子を前記掃引方向に集束する1次元の電子レンズを形成する付加電極と、
を有することを特徴とするストリーク管。
【請求項2】
前記付加電極は、入射面板と前記出力面板との間で第1〜第3の付加電極がこの順で空間的に分離して配置されて構成されており、前記第1及び第3の付加電極は互いに電気的に接続されている、
ことを特徴とする請求項1記載のストリーク管。
【請求項3】
前記付加電極は、前記電子集束系と前記掃引電極との間に設けられ、前記第1及び第3の付加電極は前記電子集束系に含まれる電極に電気的に接続されている、
ことを特徴とする請求項2記載のストリーク管。
【請求項4】
前記付加電極は、前記出力面板に沿った前記掃引方向に垂直な空間方向に沿った直線状の間隙が形成された形状を有する、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のストリーク管。
【請求項5】
前記付加電極は、前記出力面板に沿った板状電極に前記空間方向に沿った直線状の溝部が形成されて構成されている、
ことを特徴とする請求項4に記載のストリーク管。
【請求項6】
前記付加電極は、2枚の板状電極が前記空間方向に沿って互いに対向して配置されて構成されている、
ことを特徴とする請求項4に記載のストリーク管。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のストリーク管と、
前記掃引電極に印加する掃引電圧の傾斜の設定に連動して、前記付加電極に印加される電圧値を設定する設定信号発生部と、
を備えることを特徴とするストリーク装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−97995(P2013−97995A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239434(P2011−239434)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
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