説明

ストレインゲージ用Fe−Cr−Al基合金およびその製造方法ならびにセンサデバイス

【目的】 本発明は、Fe−Cr−Al系合金を、脱ガス、溶解、除滓、鋳造、1000〜1200℃で鍛造後10〜150 ℃/分で冷却、さらに冷間加工等の製造工程を経て、ストレインゲージ素子材を製造することにある。
【構成】 重量比にて、主成分としてFe65〜85%、Cr13〜23%、Al2〜15%、副成分としてNi5%以下、Cu5%以下、Co5%以下、Mo2%以下、W4%以下、Nb2%以下、Ta4%以下、V2%以下、Zr2%以下、Mn5.0 %以下、Ti2.0 %以下、Si0.5 %以下、Mg0.5 %以下、Ca0.5 %以下および希土類元素0.1 %以下の1種あるいは2種以上の合計5.0 %以下とからなり、ゲージ率が2〜4および抵抗温度係数が+500 〜−250 ×10-6/℃を有するストレインゲージ用Fe−Cr−Al系合金。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、Fe−Cr−Al基ストレインゲージ用合金に関するものである。さらに詳しくは、本発明は鉄(Fe)、クロム(Cr)およびアルミニウム(Al)を主成分とし、副成分としてニッケル(Ni)、銅(Cu)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、シリコン(Si)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)および希土類元素の1種あるいは2種以上の合計5%以下とからなるFe−Cr−Al基ストレインゲージ用合金およびその製造方法に関するもので、その目的とするところは2〜4の高いゲージ率、+500 〜−250 ×10-6/℃、好ましくは+100 〜−100 ×10-6/℃の比較的小さい抵抗温度係数を有し、かつゲージ特性の安定性と高温加工性が優れたストレインゲージ用Fe−Cr−Al基合金を提供するにある。
【0002】また、本発明はさらに該合金を使用した高感度ストレインゲージ、抵抗素子および各種センサ等を提供するにある。
【0003】
【従来の技術】ストレインゲージは、一般に弾性歪によってゲージ細線またはゲージ箔の電気抵抗が変化する現象を利用して、逆に抵抗変化を測定することによって歪の量あるいは応力を計測したり歪みや応力の変換機器に用いられる。例えば、生産工業におけるストレインセンサ、重量計測、加速度計や各種機械量−電気量変換機器、土木工業における土圧計、建築業・エネルギー関連業における圧力計や撓み量計測、航空・宇宙・鉄道・船舶における各種応力・歪計測ばかりでなく民生用としての商用秤や各種セキュリティ機器等にも多く利用されている。
【0004】ストレインゲージ材料に課せられる条件は、1. ゲージ率が大きく、温度依存性が少ないこと2. 比電気抵抗が大きいこと3. 抵抗温度係数が小さいこと4. 対銅熱起電力が小さいこと5. 加工性がよく、機械的性質が良いこと6. 安価なこと、等に要約される。
【0005】ところで、ストレインゲージは、その構造が金属細線(13〜25μm)または金属箔(3〜5μm)をグリッド状あるいはロゼット状に配置してなり、またその使用法としては前記ゲージを被測定物に接着剤で貼付し、被測定物に生じた歪をゲージの抵抗変化から間接的に測定するものである。
【0006】ストレインゲージの感度は、ゲージ率Kによって決まり、K(20℃)の値は一般に次の式で表される。
【数1】


【0007】ここで、Rはゲージ細線の全抵抗σはゲージ細線のポアソン比ρはゲージ細線の比電気抵抗Lはゲージ細線の全長である。この式でσは一般の金属・合金ではほぼ0.3 であるから、右辺第1項と第2項の合計は約1.6 で一定値となる。したがってゲージ率を大きくするためには、上式の右辺第3項の(Δρ/ρ)/(ΔL/L)が大きいことが必須条件である。すなわち、材料に引張り変形を与えた時、材料の長さ方向の電子構造が大幅に変化して、電気抵抗の変化量Δρ/ρが増加することによる。
【0008】またゲージ率の温度依存性は、次式のゲージ率差ΔKで評価する。
【数2】
ΔK=K(60℃)−K(20℃) (2)表1には、現在知られている主要なストレインゲージ素子用材料のゲージ特性(ゲージ率K、比電気抵抗ρ、抵抗温度係数Cf および対銅熱起電力Emf)が示してある。
【0009】
【表1】


【0010】表1の内で現在最も多く使用されている材料は、Cu−Ni合金である。この合金は、抵抗温度係数Cf が極めて小さい特徴を有する反面、ゲージ率Kおよび比電気抵抗ρが小さく、また対銅熱起電力Emfが大きいために、高感度ストレインゲージ用材料としては使用できない。また純ニッケルのKは−12〜−20で、その絶対値はCu−Ni合金の6〜10倍で非常に大きいが、比電気抵抗が非常に小さく、対銅熱起電力と抵抗温度係数が大きい欠点があるだけでなく歪−抵抗特性が複雑であることから、ストレインゲージ素子材料には使用できない。また純白金は、材料費が高価である。
【0011】これらの材料の他に、ゲージ率が大きな材料には半導体の炭素(C)、シリコン(Si)やゲルマニウム(Ge)等が知られている〔中村直司:非破壊検査、第40巻、第8号(1991)、p.546 〜551 〕。
【0012】しかしこれら半導体の場合、ゲージ率が数10〜170 の非常に大きな値を持つが、ゲージ率の異方性が大きく、正および負の値をもつこと、安定性に欠けること、および機械的強度が劣る等の欠点があるために、特殊な小型圧力変換器に応用化されている程度である。
【0013】また本発明者が以前発見したFe−Cr−Co系やFe−Cr−Co−(Mo,W,Nb,Ta)多元系合金等も優れた特徴を有している〔特公昭45−13229号公報;特開昭61−15914 号公報;中村直司:非破壊検査、第40巻、第8号(1991)、p.546 〜551 〕。これらの合金は、高温で熱処理すると10以上の大きなゲージ率が得られるが、唯一の欠点は、抵抗温度係数が1000〜2500×10-6/℃で、非常に大きなことである。このように大きな抵抗温度係数を有する材料をストレインゲージに使用すると、周辺の温度変化によって見掛けの歪が発生する。通常は見掛けの歪に相当する出力が出ないようにブリッジ回路に組み込む温度補償用抵抗体が必要である。したがって、ダイナミックストレインゲージやストレインセンサ等への応用化が模索されている程度である。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】さてストレインゲージは、近年マイクロコンピューターの進歩に伴って、その応用領域がますます拡大して超精密、小型化および高性能化に向っており、特に高感度で安定性を必要とする圧力変換器やロードセルの他、ロボットの触角センサや滑りセンサ等の要求が高まってきた。
【0015】ところで、R. Bertodo〔Proc. Instrn. Mechanical Engineers, Vol.178,No.34, (1964) p.907〜926 〕によると、Fe−Cr−Al三元系合金は比電気抵抗が120 μΩ・cm以上、また抵抗温度係数が+164 〜−205 ×10-6/℃であるために、高温用抵抗線ひずみ計に有望であることを提案している。この合金は、ゲージ率が1.88〜2.37で小さく、熱処理による変化が大きく不安定であるばかりでなく、製造工程において酸化が著しく、高温において加工割れを生じる等の欠点があるので、箔材や極細線等への加工は至難の業である。
【0016】因に図1、図2、図3および図4は、それぞれFe−Cr−Al三元系合金のゲージ率K、比電気抵抗ρ(室温)、抵抗温度係数Cf (0〜50℃)および対銅熱起電力Emfの等値曲線を示す。また図5は、Fe−Cr−Al三元系合金の冷間および熱間加工が可能な範囲を示す。
【0017】すなわち、これらの図から分かるように、大きなゲージ率を得るためには、抵抗温度係数が大きくなり高感度ストレインゲージには利用できない。また抵抗温度係数が小さい特性の合金は、逆にゲージ率が小さくなるだけでなく、高温加工後の冷間加工が困難となるので、この場合も高感度ストレインゲージには利用できない。なお図5において、熱間加工可能の領域にある合金であっても、Al量およびCr量が増すとともに酸化が著しくなり、またσ相の析出による脆化が起こるために、時によっては冷間加工が全く困難となることも出てくる。
【0018】上述のFe−Cr−Al三元系合金をストレインゲージに応用化するためには、ゲージ率をできるだけ大きくし、熱処理しても安定であり、しかも酸化による弊害を少なくして高温加工性および冷間加工性を改善することが重要である。特に酸化は、結晶粒間や構造欠陥等に多く集中するので、結晶が微細であること、高温加工における割れをなくすることが重要である。
【0019】本発明は、これらの問題点を克服するために鋭意なされたもので、比電気抵抗が120 μΩ・cm以上、抵抗温度係数が+500 ×10-6/℃以下、ゲージ率が2〜4、ゲージ特性が安定で、高温加工性が良好であるFe−Cr−Al基合金、およびそれを使用した高感度ストレインゲージ、抵抗素子および各種センサデバイスを提供することにある。
【0020】
【課題を解決するための手段】本発明は、これらの点に鑑みなされたものであって、多くの実験と詳細な研究を鋭意進め、上記Fe−Cr−Al三元系合金の改良を試みた結果、本発明の知見を得たものである。
【0021】本発明の特徴とする所は、下記の点にある。
第1発明重量比にて、主成分として鉄65〜85%、クロム13〜23%およびアルミニウム2〜15%と、副成分としてニッケル5%以下、銅5%以下、コバルト5%以下、モリブデン2%以下、タングステン4%以下、ニオブ2%以下、タンタル4%以下、バナジウム2%以下、ジルコニウム2%以下、マンガン5.0 %以下、チタン2.0 %以下、シリコン0.5 %以下、マグネシウム0.5 %以下、カルシウム0.5 %以下および希土類元素0.1 %以下の1種あるいは2種以上の合計5.0 %以下とからなり、ゲージ率が2〜4および抵抗温度係数が+500 〜−250 ×10-6/℃を有することを特徴とするストレインゲージ用Fe−Cr−Al基合金。
【0022】第2発明重量比にて、主成分として鉄69〜80%、クロム13〜23%およびアルミニウム4〜8%と、副成分としてニッケル5%以下、銅5%以下、コバルト5%以下、モリブデン2%以下、タングステン4%以下、ニオブ2%以下、タンタル4%以下、バナジウム2%以下、ジルコニウム2%以下、マンガン5.0 %以下、チタン2.0 %以下、シリコン0.5 %以下、マグネシウム0.5 %以下、カルシウム0.5 %以下および希土類元素0.1 %以下の1種あるいは2種以上の合計5.0 %以下とからなり、ゲージ率が2〜3および抵抗温度係数が+100 〜−100 ×10-6/℃を有し、さらに高温加工性が優れたことを特徴とするストレインゲージ用Fe−Cr−Al基合金。
【0023】第3発明重量比にて、主成分として鉄65〜85%、クロム13〜23%およびアルミニウム2〜15%と、副成分としてニッケル5%以下、銅5%以下、コバルト5%以下、モリブデン2%以下、タングステン4%以下、ニオブ2%以下、タンタル4%以下、バナジウム2%以下、ジルコニウム2%以下、マンガン5.0 %以下、チタン2.0 %以下、シリコン0.5 %以下、マグネシウム0.5 %以下、カルシウム0.5 %以下および希土類元素0.1 %以下の1種あるいは2種以上の合計5.0 %以下とからなる原料を、真空中において融点直下まで加熱して含有ガスを排気し、不活性ガス中で溶解し、酸化物等を除滓後鋳造してインゴットを得る工程と、インゴットを1000〜1200℃で鍛造した後、空冷または10〜150 ℃/分で冷却して適当な大きさの板材あるいは線材とする工程と、さらにこれらの素材から円盤あるいは細線等任意の形状に仕上げ加工を施す工程とを特徴とするストレインゲージ用Fe−Cr−Al基合金の製造方法。
【0024】第4発明重量比にて、主成分として鉄65〜85%、クロム13〜23%およびアルミニウム2〜15%と、副成分としてニッケル5%以下、銅5%以下、コバルト5%以下、モリブデン2%以下、タングステン4%以下、ニオブ2%以下、タンタル4%以下、バナジウム2%以下、ジルコニウム2%以下、マンガン5.0 %以下、チタン2.0 %以下、シリコン0.5 %以下、マグネシウム0.5 %以下、カルシウム0.5 %以下および希土類元素0.1 %以下の1種あるいは2種以上の合計5.0 %以下とからなるFe−Cr−Al基合金の組成になるように、溶解、鋳造、鍛造して、板材または線材に成形し、これをスパッター、蒸着あるいはイオンプレーテング等適当な方法により薄膜となし、グリッド状にパターニングすることを特徴とするストレインゲージ用Fe−Cr−Al基合金の製造方法。
【0025】第5発明重量比にて、主成分として鉄65〜85%、クロム13〜23%およびアルミニウム2〜15%と、副成分としてニッケル5%以下、銅5%以下、コバルト5%以下、モリブデン2%以下、タングステン4%以下、ニオブ2%以下、タンタル4%以下、バナジウム2%以下、ジルコニウム2%以下、マンガン5.0 %以下、チタン2.0 %以下、シリコン0.5 %以下、マグネシウム0.5 %以下、カルシウム0.5 %以下および希土類元素0.1 %以下の1種あるいは2種以上の合計5.0 %以下とからなるFe−Cr−Al基合金を使用し、溶解、鋳造および鍛造を成したことを特徴とする高感度ストレインゲージ、抵抗素子および各種センサ。
【0026】
【作用】以下、ストレインゲージ用Fe−Cr−Al基合金の製造法について説明する。本発明合金を製造するには、上記合金組成になるようにまず主成分のFe65〜85%、Cr13〜23%およびAl2〜15%の各原料と、これにさらに添加元素として、副成分のNi5%以下、Cu5%以下、Co5%以下、Mo2%以下、W4%以下、Nb2%以下、Ta4%以下、V2%以下、Zr2%以下、Mn5.0 %以下、Ti2.0 %以下、Si0.5 %以下、Mg0.5 %以下、Ca0.5 %以下および希土類元素0.1 %の1種あるいは2種以上の合計5.0 %以下の各原料を、真空中において融点直下まで加熱して含有ガスを排気し、不活性ガス中で溶解し、十分に攪拌し、組成的に均一な溶融合金となす。
【0027】次にAl2 3 やCr2 3 等の酸化物等を除滓後適当な形および大きさの鋳型に鋳造して健全なインゴットを得る。ついで該インゴットを1000〜1200℃、好ましくは1050〜1100℃で鍛造した後、空冷、好ましくは10〜150 ℃/分で冷却して適当な大きさの板材あるいは線材となし、さらに目的の形状のもの、例えば板材からは厚さ0.02mmの箔材や厚さ2mm×直径105 mmのスパッター用ターゲット材、また線材から線径0.15,0.06または0.02mmの細線を、それぞれ仕上げ加工を施して成形して目的の試料を得る。なお、上記工程の途中において、真空中でゲッター法による酸化ガスの除去と同時に行う軟化処理は、その後の加工性の向上やゲージ特性の安定性に対して非常に有効な手段である。
【0028】ここで本発明合金を、以下の4種類のグループに分けて説明する。
1. グループA:主成分(Fe,Cr,Al)+副成分(Ni,Cu,Co)
2. グループB:主成分(Fe,Cr,Al)+副成分(Mo,W,Nb,Ta,V,Zr)
3. グループC:主成分(Fe,Cr,Al)+副成分(Mn,Ti,Si,Mg,Ca,希土類元素)
4. グループD:主成分(Fe,Cr,Al)+副成分(Ni,Cu,Co,Mo,W,Nb,Ta,V,Zr,Mn,Ti,Si,Mg,Ca,希土類元素)
【0029】次に本発明合金を上記の方法で製造した極細線(線径0.06mm、加工率75%)のゲージ特性を測定した結果、表2(グループA)、表3(グループB)、表4(グループC)および表5(グループD)に示す特性が得られた。
【0030】
【表2】


【0031】
【表3】


【0032】
【表4】


【0033】
【表5】


【0034】これらの結果から、ゲージ率K:2〜4、対銅熱起電力Emf:±5μV/℃以下、比電気抵抗ρ:80μΩ・cmおよび抵抗温度係数Cf :+500 〜−250 ×10-6/℃の特性を有し、かつゲージ率Kの温度依存性が非常に少なく安定しており、高温加工性が良好な特徴を有するストレインゲージ用Fe−Cr−Al基合金が得られることが分かる。
【0035】本発明において、合金の成分組成、製造工程における熱処理等の数値を限定した理由について次に述べる。
【0036】
【表6】


【0037】表6は、主成分であるAl,CrおよびFeの各組成範囲に対するゲージ特性および高温加工性の評価を示す。ここで記号◎は非常に良好、○は良好、△はやや良好、×不可および−は変化がない等である。なお高温加工性の評価法は、図6に示す方法で行なった。すなわち直径35mmのインゴットを厚さ5mmの円盤となし、これを3枚重ねて1050℃で据え込み鍛造を行なった後、厚さが鍛造前の1/2になった時の円盤の変形状態や表面の割れの発生状況等を観察して決定した。また図7R>7は、鍛造後の円盤を観察したスケッチ図であり、それぞれの評価を上記の記号で示した。
【0038】ここで、本発明合金の高温加工性の一例について、前述のグループCの場合の評価結果を示したのが図8である。図8では、副成分としてMn0.1 %、Si0.1 %、Ti0.05%およびCe0.0015%を含有している。図8の結果を図5と比較すると冷間加工および熱間加工が可能な組成範囲が拡大するだけでなく、熱間加工後の冷間加工性も極めて良好となることが明らかになった。
【0039】図7において、(イ)は、疵や割れがなく健全な円盤で、材料としては非常に良好である<判断基準:強冷間加工可(◎)>。(ロ)は、円盤周辺に加工皺と若干の小さい割れが発生しているが、使用には問題ない<判断基準:冷間加工可、熱間加工一部可(○)>。(ハ)は、円盤がやや変形して、周辺の加工割れが内部に入り込んでいるが、加工率を下げれば解決できる<判断基準:熱間加工可(△)>。また(ニ)は、円盤全体が脆くなり、加工割れが全面に発生して、形状を維持できないので、材料としては使用できない<判断基準:加工困難(×)>。表6の評価から判断すると、Al,CrおよびFeの組成範囲が、それぞれ2〜15%、13〜23%および65〜85%では、ゲージ特性および高温加工性が良好となるが、これらの組成から外れると、本発明の要求条件を満たさない。
【0040】すなわち、Al量が2〜15%では、ゲージ特性および高温加工性が非常に良好であり、本発明の目的とするストレインゲージ用材料としては好ましい。しかしAl量が2%未満では、抵抗温度係数が非常に大きくなり、対銅熱起電力もかなり大きい欠点を有しているので、本発明の目的から外れる。またAl量が15%超過では、比電気抵抗が著しく大きくなり、抵抗温度係数や対銅熱起電力もかなり小さいが、高温加工性が困難となり本発明の目的から外れる。
【0041】また、Cr量が13〜23%では、抵抗温度係数が非常に小さくなり、その他のゲージ特性も大きな変化がなく、高温加工性も良好であるので、本発明の目的とするストレインゲージ用材料としては好ましい。しかしCr量が13%未満では、高温加工性が良好であるが、抵抗温度係数が大きくなり、本発明の目的から外れる。またCr量が23%超過では、抵抗温度係数が大きくなり、高温加工が困難となり本発明の目的から外れる。
【0042】さらに、Fe量が65〜85%では、比電気抵抗が大きく、抵抗温度係数および対銅熱起電力が小さく、しかも高温加工性が比較的良好であるので、本発明の目的とするストレインゲージ用材料としては好ましい。しかしFe量が65%未満では、比電気抵抗が非常に大きく、その他のゲージ特性も適当であるが、高温加工が困難であるので、本発明の目的から外れる。またFe量が85%超過では、高温加工性が非常に良好であるが、抵抗温度係数が大きいので、本発明の目的から外れる。
【0043】次に前記副成分の元素の種類および組成の数値限定の理由を述べる。副成分にNi,CuおよびCoを選んだのは、表2からも分かるようにゲージ特性、特にゲージ率の温度変化(ゲージ率差)が改善されること、熱処理に対する安定性が良好となること、およびσ相の析出を抑制して加工性を向上するからである。
【0044】また副成分にMo,W,Nb,Ta,VおよびZrを選んだのは、表3からも分かるようにゲージ特性、特に電気的特性が改善されるだけでなく、結晶の微細化によって酸化を防止する効果があるからである。
【0045】さらに副成分にMn,Ti,Si,Mg,Caおよび希土類元素を選んだのは、これらの元素が溶解工程において脱酸効果が顕著で、しかも合金内部の欠陥を少なくして高温加工における加工割れを防止するので、その後の冷間加工性が非常に改善されるからである。
【0046】次に副成分合計を5%以下としたのは、この範囲内では、上記各元素の添加による効果が顕著であるが、5%を超えると諸特性が悪化したり、あるいは過度の添加により熱間加工性が損なわれ、本発明の目的から外れるからである。
【0047】また本発明合金の製造工程において、鍛造温度を1000〜1200℃に限定した理由は、高温の加工性が非常に良好で、鍛造による加工割れが全く生じないからである。しかし温度が1000℃より低い場合では、材料が非常に硬く、しかも延性がなく無理に強度の加工を行うと加工割れを生じ本発明の目的から外れる。また逆に1200℃より高い温度で鍛造すると、材料表面の酸化膜が剥離して内部の亀裂部分が酸化され、延性を失い脆くなり所望の形状が得られないので、本発明の目的から外れるからである。
【0048】また鍛造後の冷却速度を、空冷としたのは再結晶粒の成長が促進しないので、その後の冷間加工が良好となるからである。特に10〜150 ℃/分の冷却速度は、σ相の生成を抑制して、冷間加工性が向上するからである。しかしこれらの冷却速度以外では、酸化が進み、また延性がなくなるので本発明の目的から外れる。
【0049】
【実施例】以下、本発明の実施例について述べる。
実施例1〜実施例8
【0050】主成分の原料の純度は、電解Feが99.99 %、テルミットCrが99.9%以上および電解Alが99.99 %である。また他の原料も99.99 %の純度であったが、CeはFeCe(1%Ce)母合金を使用した。
【0051】試料の製造方法は、まづ所定の配合になるように秤量した原料をアルミナ坩堝に入れ、溶解点以下まで十分に脱ガスを行い、その後アルゴン量を1/10気圧に保ち高周波溶解炉により溶解した。溶融合金をよく攪拌して残滓を除去した後、鋳造して直径10mmおよび長さ150 mmのインゴットを得る。次にインゴット表面の酸化物や疵等を取り除いた後、1050℃で鍛造を行った。さらに1050℃で30分加熱した後、100 ℃/分の速度で急冷して直径5mmの丸棒となす。次いで丸棒の表面を研磨した後、冷間スエージングおよび冷間線引により線径0.5 mmの細線となす。この細線に通電赤熱して冷却中の収縮を利用して酸化膜を除去した後、最後に冷間線引により加工率50〜97%で線径0.1 〜0.06mmの極細線を作製する。この極細線について、300 〜800 ℃で30分ないし5時間加熱して試料とする。得られた試料の加工率を熱処理条件に対応したゲージ特性について、評価の一部を示すと表7の通りである。
【0052】
【表7】


【0053】実施例9〜実施例11使用した原料の純度は、実施例1〜実施例8と同様であった。試料の製造方法は、まづ所定の配合からなる原料800 gを高純度アルミナ坩堝に入れ、高周波溶解炉を使用して、10-5Torrの真空中高温にて脱ガス後、高純度アルゴンガス中で溶解し、除滓後鋳造してインゴットを得る。このインゴットを1150℃で鍛造して、直径105 mmおよび厚さ3mmの円盤状に加工する。次いで旋盤により、精密加工して直径105 mmおよび厚さ2mmの円盤を作製する。最後に銅製電極にボンデングしてスパッター用ターゲットとする。
【0054】これらのターゲットから厚さ1μmの薄膜を作製する。次いでマスキングを施しエッチングによりゲージパターンとし、電極を取り付けてゲージを作製する。ゲージをAr雰囲気中200 〜500 ℃で30分〜5時間加熱して試料とする。これらの試料の熱処理条件に対応した特性の一部を示すと、表8の通りである。
【0055】
【表8】


【0056】
【発明の効果】以上実験結果が示すように、本発明はゲージ特性および熱間加工性が向上し、また比電気抵抗が120 μΩ・cm以上、抵抗温度係数が+500 ×10-6/℃以下、ゲージ率が2〜4で温度依存性が極めて少なく安定性に優れたストレインゲージ用Fe−Cr−Al基合金が得られることから、高感度ストレインゲージを提供できるだけでなく、抵抗素子あるいは各種センサデバイス等でも本発明合金の良好な諸特性を発揮することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、Fe−Cr−Al三元系合金のゲージ率Kの等値曲線を示す特性図である。
【図2】図2は、Fe−Cr−Al三元系合金の比電気抵抗ρの等値曲線を示す特性図である。
【図3】図3は、Fe−Cr−Al三元系合金の抵抗温度係数Cf の等値曲線を示す特性図である。
【図4】図4は、Fe−Cr−Al三元系合金の対銅熱起電力Emfの等値曲線を示す特性図である。
【図5】図5は、Fe−Cr−Al三元系合金の冷間および熱間加工と組成との関係を示す特性図である。
【図6】図6は、本発明の据え込み鍛造による熱間加工性の評価法を示す概略図である。
【図7】図7は、本発明の円盤状試料の観察スケッチ図である。
【図8】図8は、本発明のFe−Cr−Al系合金の冷間および熱間加工と組成との関係を示す特性図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 重量比にて、主成分として鉄65〜85%、クロム13〜23%およびアルミニウム2〜15%と、副成分としてニッケル5%以下、銅5%以下、コバルト5%以下、モリブデン2%以下、タングステン4%以下、ニオブ2%以下、タンタル4%以下、バナジウム2%以下、ジルコニウム2%以下、マンガン5.0%以下、チタン2.0 %以下、シリコン0.5 %以下、マグネシウム0.5 %以下、カルシウム0.5 %以下および希土類元素0.1 %以下の1種あるいは2種以上の合計5.0 %以下とからなり、ゲージ率が2〜4および抵抗温度係数が+500 〜−250×10-6/℃を有することを特徴とするストレインゲージ用Fe−Cr−Al基合金。
【請求項2】 重量比にて、主成分として鉄69〜80%、クロム13〜23%およびアルミニウム4〜8%と、副成分としてニッケル5%以下、銅5%以下、コバルト5%以下、モリブデン2%以下、タングステン4%以下、ニオブ2%以下、タンタル4%以下、バナジウム2%以下、ジルコニウム2%以下、マンガン5.0%以下、チタン2.0 %以下、シリコン0.5 %以下、マグネシウム0.5 %以下、カルシウム0.5 %以下および希土類元素0.1 %以下の1種あるいは2種以上の合計5.0 %以下とからなり、ゲージ率が2〜3および抵抗温度係数が+100 〜−100×10-6/℃を有し、さらに高温加工性が優れたことを特徴とするストレインゲージ用Fe−Cr−Al基合金。
【請求項3】 重量比にて、主成分として鉄65〜85%、クロム13〜23%およびアルミニウム2〜15%と、副成分としてニッケル5%以下、銅5%以下、コバルト5%以下、モリブデン2%以下、タングステン4%以下、ニオブ2%以下、タンタル4%以下、バナジウム2%以下、ジルコニウム2%以下、マンガン5.0%以下、チタン2.0 %以下、シリコン0.5 %以下、マグネシウム0.5 %以下、カルシウム0.5 %以下および希土類元素0.1 %以下の1種あるいは2種以上の合計5.0 %以下とからなる原料を、真空中において融点直下まで加熱して含有ガスを排気し、不活性ガス中で溶解し、酸化物等を除滓後鋳造してインゴットを得る工程と、インゴットを1000〜1200℃で鍛造した後、空冷または10〜150 ℃/分で冷却して適当な大きさの板材あるいは線材とする工程と、さらにこれらの素材から円盤あるいは細線等任意の形状に仕上げ加工を施す工程とを特徴とするストレインゲージ用Fe−Cr−Al基合金の製造方法。
【請求項4】 重量比にて、主成分として鉄65〜85%、クロム13〜23%およびアルミニウム2〜15%と、副成分としてニッケル5%以下、銅5%以下、コバルト5%以下、モリブデン2%以下、タングステン4%以下、ニオブ2%以下、タンタル4%以下、バナジウム2%以下、ジルコニウム2%以下、マンガン5.0%以下、チタン2.0 %以下、シリコン0.5 %以下、マグネシウム0.5 %以下、カルシウム0.5 %以下および希土類元素0.1 %以下の1種あるいは2種以上の合計5.0 %以下とからなるFe−Cr−Al基合金の組成になるように、溶解、鋳造、鍛造して、板材または線材に成形し、これをスパッター、蒸着あるいはイオンプレーテング等適当な方法により薄膜となし、グリッド状にパターニングすることを特徴とするストレインゲージ用Fe−Cr−Al基合金の製造方法。
【請求項5】 重量比にて、主成分として鉄65〜85%、クロム13〜23%およびアルミニウム2〜15%と、副成分としてニッケル5%以下、銅5%以下、コバルト5%以下、モリブデン2%以下、タングステン4%以下、ニオブ2%以下、タンタル4%以下、バナジウム2%以下、ジルコニウム2%以下、マンガン5.0%以下、チタン2.0 %以下、シリコン0.5 %以下、マグネシウム0.5 %以下、カルシウム0.5 %以下および希土類元素0.1 %以下の1種あるいは2種以上の合計5.0 %以下とからなるFe−Cr−Al基合金を使用し、溶解、鋳造および鍛造を成したことを特徴とする高感度ストレインゲージ、抵抗素子および各種センサ。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図6】
image rotate


【図7】
image rotate


【図5】
image rotate


【図8】
image rotate


【公開番号】特開平5−214493
【公開日】平成5年(1993)8月24日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−16597
【出願日】平成4年(1992)1月31日
【出願人】(000173795)財団法人電気磁気材料研究所 (28)