説明

ストレッチ裏地

【課題】本来裏地が具備すべき、シボが無く、滑りの良さと、肌触りの良さ、ソフトさ、しなやかさと、経方向、緯方向ともストレッチ性を有する2ウェイストレッチ裏地を提供する。
【解決手段】経糸及び緯糸に少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維を含有するストレッチ裏地であって、該ストレッチ裏地のストレッチ率が経5〜20%、緯10〜20%を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレッチ裏地に関し、特に少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系複合繊維を用いた、表面平滑性と伸縮性に優れたストレッチ裏地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、衣服の着心地、体にフィットしたスリムなシルエットを重視するファッションが主流になっており、この流れを反映して表地も、ソフトで、しかも適度な伸縮性・ストレッチ性を有するいわゆるストレッチ表地が急速にシェアを広げている。
このストレッチ表地は、一般的には、合成繊維、天然繊維、再生繊維にポリウレタン弾性糸を3〜20%複合して織物にすることにより作られる。このようにして作られるストレッチ表地の伸びは20〜40%もあり、この大きな伸びがあるために快適な着心地感、動き易さを得ることが出来る。
このストレッチ表地を使って、体にフィットしたスリムなシルエットの衣服を作る場合、2〜3%の伸びしか有していない従来の裏地を併用すると、裏地の伸びが小さいため着用動作時、裏地によって圧迫感を受けてしまい、快適な着心地感を得ることが出来なくなる。また大きなゆとり率やキセをとることは、シルエットを損ねるため受け入れられない。したがって、快適な着心地感を得るためには、伸び2〜3%の従来の裏地ではなく、数%以上の伸びを有する、いわゆるストレッチ裏地を使う必要がある。より快適な着心地感を得るために、裏地のストレッチについては緯方向のみでなく、経方向にもストレッチを有する、2ウェイストレッチ裏地が求められている
そこで、特開2001−316823号公報には、良好なストレッチ性を有し、かつ表面にシボが無く、さらに光沢や滑らかな触感、ソフトな風合いを有する裏地として、一方がポリトリメチレンテレフタレートを主体としたポリエステルである2種類のポリエステル系重合体を繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型に貼り合せた複合繊維のマルチフィラメントを実質的に無撚りで、経糸および緯糸の少なくとも一方に用い、当該糸条を用いた方向の織物伸長率が10%以上である織物により達成されるとしている。しかし、2ウェイストレッチ裏地を製造するために、単に経糸、緯糸ともに当該糸条を用いただけでは、生地にシボが発生し、滑りや風合いも硬く、裏地としては不適なものしか製造できないことが分った。
【特許文献1】特開2001−316923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、上記の問題点を解決し、本来裏地が具備すべきシボが無く、滑りの良さと、肌触りの良さ、ソフトさ、しなやかさと、経方向、緯方向ともストレッチ性を有する2ウェイストレッチ裏地を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明者らは上記課題について鋭意検討した結果、経ストレッチ率、緯ストレッチ率を特定することにより上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本願で特許請求される発明は以下のとおりである。
(1)経糸及び緯糸に少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維を含有するストレッチ裏地であって、該ストレッチ裏地のストレッチ率が経5〜20%、緯10〜20%であることを特徴とするストレッチ裏地。
(2)経糸及び緯糸に少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維を含有するストレッチ裏地の生機をプレセット加工する際に、該生機のオーバーフィード率を5〜20%および巾入れ率を10〜25%とし、プレセット温度140〜170℃でプレセットすることを特徴とする(1)に記載のストレッチ裏地の製造方法。
【発明の効果】
【0005】
ストレッチ表地を使って、体にフィットしたスリムなシルエットの衣服を作る場合、本発明のストレッチ裏地を併用することによって、着用動作時、圧迫感を受けることはほとんどなくなり、快適な着心地感を楽しむことが出来る。また、凹凸状のシボのない表面平滑性に優れた裏地となっているため、滑りが良好でかつソフトでしなやかと言う特徴も有し、さらに着用感が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のストレッチ裏地は、経糸及び緯糸に少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維を含有するストレッチ裏地であって、該ストレッチ裏地のストレッチ率が経5〜20%、緯10〜20%であることを特徴とする。経ストレッチ率が5%未満、または、緯ストレッチ率が10%未満の場合にはストレッチ性のあるアウター生地の裏地として使用した場合に、裏地のストレッチ率が少ないため着用時の動作追従性が良くなく、突っ張り感があり着心地の良い衣服とはならない。また、経ストレッチ率が20%より大きい場合、または、緯ストレッチ率が20%より大きい場合には裏地に凹凸が発生し、裏地の滑りが良くないため、該裏地を縫製した衣服着用時には肌に巻きつきやすく不快感を与える可能性がある。
本発明における潜在捲縮発現性ポリエステル繊維とは、少なくとも二種のポリエステル成分で構成され、熱処理によって捲縮を発現するものである。具体的にはサイドバイサイド型又は偏芯芯鞘型に接合されたものがあげられる。二種のポリエステル成分の複合比、接合面形状は特に限定されないが、複合比は、一般に質量%で70/30〜30/70の範囲内、接合面形状は、直線又は曲線形状のものがあげられる。また、総繊度は30〜165dtex(デシテックス)、単糸繊度は0.3〜3dtexが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0007】
本発明における潜在捲縮発現性ポリエステル繊維は、少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートであることに特徴がある。具体的には、特開2001−40537号公報に開示されているようなポリトリメチレンテレフタレートを一成分とするものがある。すなわち、二種のポリエステルポリマーをサイドバイサイド型又は偏芯芯鞘型に接合された複合繊維であり、サイドバイサイド型の場合、二種のポリエステルポリマーの溶融粘度比が、1.00〜2.00が好ましく、偏芯芯鞘型の場合は、鞘ポリマーと芯ポリマーのアルカリ減量速度比は、3倍以上鞘ポリマーが速いことが好ましい。具体的なポリマーの組み合わせとしては、ポリトリメチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレート(テレフタル酸を主たるジカルボン酸とし、エチレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルであり、ブタンジオール等のグリコール類やイソフタル酸、2.6−ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸等を共重合してもよい。又、他ポリマー、艶消剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料等の添加剤を含有してもよい。)並びにポリトリメチレンテレフタレートとポリフブチレンテレフタレート(テレフタル酸を主たるジカルボン酸とし、1.4−ブタンジオールを主たるグリコール成分とするポリエステルであり、エチレングリコール等のグリコール類やイソフタル酸、2.6−ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸等を共重合してもよい。又、他ポリマー、艶消剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料等の添加剤を含有してもよい。)が好ましく、特に捲縮の内側にポリトリメチレンテレフタレートが配置されると好ましい。
【0008】
このように、潜在捲縮発現性ポリエステル繊維を構成するポリエステル成分の少なくとも一方がポリトリメチレンテレフタレートであるものとしては、上記特開2001−40537号公報以外にも、特公昭43−19108号公報、特開平11−189923号公報、特開2000−239927号公報、特開2000−256918号公報、特開2000−328382号公報、特開2001−81640号公報等には、第一成分がポリトリメチレンテレフタレート、第二成分がポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステルを並列的又は偏芯的に配置した、サイドバイサイド型又は偏芯鞘芯型に複合紡糸したものが開示されており、本発明に好ましく用いることができる。特にポリトリメチレンテレフタレートと共重合ポリトリメチレンテレフタレートの組み合わせや、極限粘度の異なる二種類のポリトリメチレンテレフタレートの組み合わせが好ましい。
【0009】
さらに、潜在捲縮発現性ポリエステル繊維の初期引張抵抗度は10〜30cN/dtexが好ましく、20〜30cN/dtexがより好ましく、20〜27cN/dtexが最も好ましい。尚、初期引張抵抗度が10cN/dtex未満のものは製造困難である。又、顕在捲縮の伸縮伸長率は10〜100%が好ましく、10〜80%がより好ましく、10〜60%が最も好ましい。更に、顕在捲縮の伸縮弾性率は80〜100%が好ましく、85〜100%がより好ましく、さらに85〜97%が最も好ましい。
さらに、100℃における熱収縮応力は、布帛の精錬、染色工程において捲縮を発現させるための重要な要件である。すなわち、布帛の拘束力に打ち勝って捲縮が発現するためには、100℃における熱収縮応力が0.1cN/dtex以上(0.1〜0.5cN/dtex)、0.1〜0.4cN/dtexがより好ましく、0.1〜0.3cN/dtexが最も好ましい。
熱水処理後の伸縮伸長率は100〜250%が好ましく、150〜250%がより好ましく、180〜250%が最も好ましい。熱水処理後の伸縮弾性率は90〜100%が好ましく、95〜100%がより好ましい。
このような特性を有する潜在捲縮発現性ポリエステル繊維としては、固有粘度の異なる2種類のポリトリメチレンテレフタレートが互いにサイドバイサイド型に複合された単糸から構成された複合繊維があげられる。
2種類のポリトリメチレンテレフタレートの固有粘度差は0.05〜0.50(dl/g)が好ましく、0.1〜0.45(dl/g)がより好ましく、0.15〜0.45(dl/g)が最も好ましい。例えば高粘度側の固有粘度を0.7〜1.3(dl/g)から選択した場合には、低粘度側の固有粘度は0.5〜1.1(dl/g)から選択されるのが好ましい。
【0010】
また、この複合繊維自体の固有粘度、即ち平均固有粘度は、0.7〜1.2(dl/g)が好ましく、0.8〜1.2(dl/g)がより好ましく、0.85〜1.15(dl/g)、さらには0.9〜1.1(dl/g)が最も好ましい。
ここで、ポリトリメチレンテレフタレートは、トリメチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルであり、トリメチレンテレフタレート単位を約50モル%以上、好ましくは70モル%以上(さらには80モル%以上)、さらに好ましくは90モル%以上のものをいう。従って、第三成分として他の酸成分及び/又はグリコール成分の合計量が約50モル%以下、好ましくは30モル%以下(さらには20モル%以下)、さらに好ましくは10モル%以下の範囲で含有されたポリトリメチレンテレフタレートを包含する。
【0011】
ポリトリメチレンテレフタレートは、テレフタル酸又はその機能的誘導体と、トリメチレングリコール又はその機能的誘導体とを、触媒の存在下で、適当な反応条件下に結合せしめることにより合成される。この合成過程において、適当な一種又は二種以上の第三成分を添加して共重合ポリエステルとしてもよいし、又、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステル、ナイロンとポリトリメチレンテレフタレートを別個に合成した後、ブレンドしたりしてもよい。ブレンドする際のポリトリメチレンテレフタレートの含有率は質量%で50%以上である。
【0012】
添加する第三成分としては、脂肪族ジカルボン酸(シュウ酸、アジピン酸等)、脂環族ジカルボン酸(シクロヘキサンジカルボン酸等)、芳香族ジカルボン酸(イソフタル酸、ソジウムスルホイソフタル酸等)、脂肪族グリコール(エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、テトラメチレングリコール等)、脂環族グリコール(シクロヘキサンジメタノール等)、芳香族を含む脂肪族グリコール(1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等)、ポリエーテルグリコール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)、脂肪族オキシカルボン酸(ω−オキシカプロン酸等)、芳香族オキシカルボン酸(P−オキシ安息香酸等)等がある。又、1個又は3個以上のエステル形成性官能基を有する化合物(安息香酸等又はグリセリン等)も重合体が実質的に線状である範囲内で使用出来る。
【0013】
さらに二酸化チタン等の艶消剤、リン酸等の安定剤、ヒドロキシベンゾフェノン誘導体等の紫外線吸収剤、タルク等の結晶化核剤、アエロジル等の易滑剤、ヒンダードフェノール誘導体等の抗酸化剤、難燃剤、制電剤、顔料、蛍光増白剤、赤外線吸収剤、消泡剤等が含有されていてもよい。
潜在捲縮発現性ポリエステル繊維の紡糸については、例えば前述の特許公開公報に開示されており、例えば、3000m/分以下の巻取り速度で未延伸糸を得た後、2〜3.5倍程度で延撚する方法が好ましいが、紡糸−延撚工程を直結した直延法(スピンドロー法)、巻取り速度5000m/分以上の高速紡糸法(スピンテイクアップ法)を採用しても良い。
【0014】
又、繊維の形態は、マルチフィラメント糸条であり、長さ方向に均一なものや太細のあるものでもよく、断面においても丸型、三角、L型、T型、Y型、W型、八葉型、偏平(扁平度1.3〜4程度のもので、W型、I型、ブ−メラン型、波型、串団子型、まゆ型、直方体型等がある)、ドッグボーン型等の多角形型、多葉型、中空型や不定形なものでもよい。
ポリトリメチレンテレフタレート繊維の単糸繊度は0.3〜3dtexであることが好ましく、より好ましくは0.5〜2.5dtexである。単糸繊度が0.3dtex未満では製織性が低下する傾向にあり、3dtexを超えると粗硬な風合いの裏地となる。また、経糸もしくは緯糸として用いる際の糸の太さは、40〜110dtexとすることが好ましい。40dtex未満では、裏地として実用に供し得る引裂強力を得ることができず、また110dtexを超えると、裏地として厚くなりすぎる。
【0015】
本発明のストレッチ裏地は経糸及び緯糸に少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維を含有しているが、厚み、風合いの良い裏地を製造するためには、経糸密度としては、90〜150本/inが好ましく、100〜140本/inがより好ましく、また緯糸密度としては、80〜130本/inが好ましく、90〜120本/inがより好ましい。
また、本発明のストレッチ裏地の組織としては、平織り、ツイルなど、任意な組織が選択可能であるが、平織り組織が最も薄手となり、各種アウターに使用することが出来る点で好ましい。
【0016】
本発明のストレッチ裏地の製織は、レピア、ウォータージェット、エアージェットなどの常法による生機製織が可能である。
本発明のストレッチ裏地の加工処方は、目標ストレッチを得るために重要であり、特にプレセット条件によリ裏地のストレッチ性が左右されるのでプレセット工程が重要である。プレセット工程としては、生機を温水にてウェットリラックス後、ピンテンターにてプレセットする方法、または、生機をそのままピンテンターでプレセットする方法があるが、生機プレセット工程とする方がストレッチ制御を行い易いので好ましい。また、このプレセット工程では生機からの巾入れ率、生機からのオーバーフィード率に注意が必要であり、巾入れ率は10〜25%、オーバーフィード率は5〜20%とすることが好ましい。巾入れ率が10%未満では十分な緯方向のストレッチ性が得られず、25%を超えると、生地に凹凸状のシボが発生し、滑りが悪くなり、裏地として適さなくなる。また、オーバーフィード率は、プレセット温度と、得ようとするストレッチ性との兼ね合いで設定することが好ましい。すなわち、本発明のストレッチ裏地で経ストレッチ率が5〜10%の裏地を製造する場合は、プレセット温度が140〜170℃で、オーバーフィード率は5〜10%とする。また、経ストレッチ率が10〜20%の裏地を製造する場合は10〜20%のオーバーフィード率とする。さらに大きなストレッチ性を得ようと、オーバーフィード率を20%より大きくすると、シボ立ちし易く、裏地として適さくなる。また、オーバーフィード率が5%未満では、良好な経ストレッチが得られない。プレセット温度が140℃未満ではセット効果が無く、染色時に少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維の捲縮発現が大きくなりすぎて、シボ立ちが発生し易くなる。また、170℃より高い温度でプレセットを行うと、染色時に捲縮発現が少なく、良好なストレッチ性が得られない。緯ストレッチ率10〜20%の裏地は、同様にプレセット温度140〜170℃の範囲で巾入れ率を10〜25%に設定して得ることができる。プレセット温度は150〜160℃である。
【0017】
本発明のストレッチ裏地の製造において、プレセット以降は通常の染色仕上げ工程が行われるが、染色については、液流染色機、エアフロー染色機など任意の染色機が使用でき、場合によっては染色前に、ソフト化、薄地化のためアルカリ減量を行ってもよい。また、仕上げセットは、セット温度140〜170℃とし、巾入れ率、オーバーフィード率は染色上がりの巾、長さより幅出しまたは長さ方向に伸長することができるが、洗濯などによる寸法安定性が問題となる場合は、仕上げセットによる巾、オーバーフィード設定は、染色シワとり程度に収めるのが好ましい。
なお、上記巾入れ率、オーバーフィード率は下記により求める
巾入れ率=(生機巾―プレセット後の巾)/生機巾×100
オーバーフィード率=(プレセット後緯糸密度−生機緯糸密度)/生機緯糸密度×100
巾、密度とも裏地全長で5ヶ所以上測定した平均値を用いる。
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0018】
本発明において実施例に使用したポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維は、以下の方法により製造した。
固有粘度の異なる二種類のポリトリメチレンテレフタレートを比率1:1でサイドバイサイド型に押出し、紡糸温度265℃、紡糸速度1500m/分で未延伸糸を得、次いでホットロール温度55℃、ホットプレート温度140℃、延伸速度400m/分、延伸倍率は延伸後の繊度が56dtexとなるように設定して延撚し、56dtex/24fのサイドバイサイド型複合マルチフィラメントを得た。得られた複合マルチフィラメントの固有粘度は高粘度側が[η]=1.26、低粘度側が[η]=0.92であった。なお、固有粘度の測定は以下の方法により測定した。
固有粘度[η](dl/g)は、次式の定義に基づいて求められる値である。
[η]=lim(ηr−1)/C
C→0
定義中のηrは純度98%以上のo−クロロフェノール溶媒で溶解したポリトリメチレンテレフタレート糸又はポリエチレンテレフタレート糸の稀釈溶液の35℃での粘度を、同一温度で測定した上記溶媒の粘度で除した値であり、相対粘度と定義されているものである。Cはg/100mlで表されるポリマー濃度である。なお、固有粘度の異なるポリマーを用いた複合マルチフィラメントは、マルチフィラメントを構成するそれぞれの固有粘度を測定することは困難であるので、複合マルチフィラメントの紡糸条件と同じ条件で2種類のポリマーをそれぞれ単独で紡糸し、得られた糸を用いて測定した固有粘度を、複合マルチフィラメントを構成する固有粘度とした。
【0019】
また、裏地のストレッチ率、着用感は下記により求めた。
(1)ストレッチ率
ストレッチ率(S:%)はカトーテック社製のKES−FB1を用いて、20cm×20cmの裏地試料を引っ張り速度=0.2mm/秒で裏地の経方向、または、緯方向に伸長したときの4.9N/cm応力下での伸び(A:cm)より、次式によって求めた値である。
S(%)=(A/20)×100
A:4.9N/cm応力下で伸びた長さ(cm)
(2)着用感
23%の緯伸びのあるストレッチ表地と実施例で作製した裏地を組み合わせてタイトスカート(身体のヒップ周りの寸法に対してゆとり率2%で裏地のパターンを作成)を作成して、モニター人に着用してもらった時の官能評価で4段階判定した。
◎:非常に良好 ○:良好 △:圧迫感強い ×:圧迫感大又はザラツキ感大にて不適
(3)動摩擦係数
カトーテック(株)製のKES−SEを用いて、摩擦面寸法が1cm×1cmで重量が0.245Nの摩擦子に、カナキン3号精練上がりの綿布を取り付けて、5cm/minの速度で固定した裏地の表面上をすべらせ、その時の摩擦抵抗力から、次式によって動摩擦係数(μ)を求めた。
μ=A/B A:摩擦抵抗力の平均値(N)
B:摩擦子の重量(N)
本発明では裏地の経糸方向に滑らせたときの摩擦係数と、緯糸方向に滑らせたときの摩擦係数の平均値を、裏地の動摩擦係数とした。
(4)外観品位
製造した裏地の外観品位を4段階判定した。
◎:非常に良好 ○:良好 △:やや凹凸がある ×:凹凸状のシボがあり不良
【0020】
[実施例1]
断面がピーナツ形状のポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維56デシテックス/24フィラメントを、経糸本数105本/2.54cmに、95本/2.54cmとなるよう緯糸を打ち込み、平織り組織の織物を製織した。この生機を150℃でプレセットを行った結果、巾入れ率15%、オーバーフィード率7%のプレセット反となった。このプレセット反を液流染色機により120℃で染色し、170℃で仕上げセットを行った。仕上げセット時はシワ伸ばし程度の巾出し、オーバーフィード0%とし、仕上げ密度は経143本/2.54cm、緯123本/2.54cmの裏地となった。
製造した裏地のストレッチ率、着用感、外観品位を評価し、結果を表1に示す。
【0021】
[実施例2〜6、比較例1〜5]
実施例1に於いて、ストレッチ率の異なる裏地を試作し、ストレッチ率、着用感、外観を評価し、結果を表1に示す。
【0022】
[実施例7]
断面が丸形状のポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維56デシテックス/24フィラメントを、経糸本数110本/2.54cmに、105本/2.54cmとなるよう緯糸を打ち込み、平織り組織の織物を製織した。この生機を150℃でプレセットを行った結果、巾入れ率14%、オーバーフィード率6%のプレセット反となった。このプレセット反を10重量%のアルカリ減量を行い、液流染色機により120℃で染色し、170℃で仕上げセットを行った。仕上げセット時はシワ伸ばし程度の巾出し、オーバーフィード0%とし、仕上げ密度は経150本/2.54cm、緯126本/2.54cmの裏地となった。
製造した裏地のストレッチ率、着用感、外観品位を評価し、結果を表1に示す。
【0023】
[比較例6]
経糸に56デシテックス/24フィラメントのポリエチレンテレフタレートマルチフ
ィラメント原糸を使用し、緯糸に断面が丸形状のポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維56デシテックス/24フィラメントを使用し、経糸本数105本/2.54cm、緯糸105本/2.54cmである平織り組織の織物を製織した。この生機を150℃でプレセットを行った結果、巾入れ率13%、オーバーフィード率3%のプレセット反となった。このプレセット反を液流染色機により120℃で染色し、170℃で仕上げセットを行った。仕上げセット時はシワ伸ばし程度の巾出し、オーバーフィード0%とし、仕上げ密度は経135本/2.54cm、緯109本/2.54cmの裏地となった。
製造した裏地のストレッチ率、着用感、外観品位を評価し、結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0025】
ストレッチ表地を使って、体にフィットしたスリムなシルエットの衣服を作る場合、本発明のストレッチ裏地を併用ことによって、着用動作時、圧迫感を受けることはほとんどなくなり、快適な着心地感を楽しむことが出来る。また、凹凸状のシボのない表面平滑性に優れた裏地となっているため、滑りが流行で且つソフトでしなやかと言う特徴ももっているためさらに着用感が向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸及び緯糸に少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維を含有するストレッチ裏地であって、該ストレッチ裏地のストレッチ率が経5〜20%、緯10〜20%であることを特徴とするストレッチ裏地。
【請求項2】
経糸及び緯糸に少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維を含有するストレッチ裏地の生機をプレセット加工する際に、該生機のオーバーフィード率を5〜20%および巾入れ率を10〜25%とし、プレセット温度140〜170℃でプレセットすることを特徴とする請求項1に記載のストレッチ裏地の製造方法。

【公開番号】特開2007−23392(P2007−23392A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−202615(P2005−202615)
【出願日】平成17年7月12日(2005.7.12)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】