説明

スパイラルアンテナ、およびその製造方法

【課題】量産性に適したスパイラルアンテナを提供する。
【解決手段】一対の帯状体6、7を有し、一対の帯状体6、7が、絶縁性を備えた帯状のカバー20、21と、カバー20、21の内周面に挟み込まれて固定されている帯状の放射素子10、11と、を有し、一対の帯状体6、7が、互いに重ねられて渦巻状に巻回されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波を放射する放射素子が渦巻状になっているスパイラルアンテナ、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話や無線LAN(Local Area Network)などのモバイル通信機器の発達により、世界中のあらゆる場所で、音声やデータの通信が行われようになっている。モバイル通信では、カバーエリアの境界付近や、ビルの谷間、沿岸付近の海上など、電波が弱くなって通信が不能になってしまう場所が多々存在する。このような場所において、手軽に通信を確保する手段の一つであるアンテナが非特許文献1に開示されている。
【0003】
図20は、非特許文献1に開示されたアンテナの構成を示す斜視図である。
【0004】
図20に示すパッチアンテナ300は、絶縁性の布301の上面に、導電性を備えた布製の放射素子302が縫い付けられている。布301の下面には、導電性を備えた布製のグランド303が縫い付けられている。グランド303は、接地導体として動作する。図20に示すパッチアンテナ300は、例えば、衣類などに縫い付けることによって、携帯用の外部アンテナとして手軽に使用することが可能である、しかし、図20に示すパッチアンテナ300は、周波数帯域が狭い。周波数帯域が広いアンテナの一つとして、スパイラルアンテナがある。
【0005】
図21は、本発明に関連するスパイラルアンテナを示す斜視図である。図21(a)は本発明に関連するスパイラルアンテナ400の外観図であり、図21(b)は、図21(a)に示すスパイラルアンテナ400の分解斜視図である。
【0006】
図21に示すスパイラルアンテナ400は、渦巻状の放射素子401と、金属製のキャビティ403とを有する。放射素子401は、プリント基板402の上に、エッチングなどによって製造される。スパイラルアンテナ400には、50オームの同軸ケーブルで給電を行うため、インピーダンス変換と、平衡不平衡変換とを同時に行うテーパ線路404が、キャビティ403に収容されている(図21(b)参照)。
【0007】
図22は、図21に示すスパイラルアンテナの構造をさらに詳しく示す図である。図22(a)は、テーパ線路404を放射素子401に接続する様子を示した斜視図である。図22(b)は、スパイラルアンテナ400の断面図である。テーパ線路404は、ピン405がプリント基板402の中心に形成された孔に挿入するように組み立てられ(図22(a)参照)、キャビティ403の背面に設けられたコネクタ406でキャビティ403の内部に固定される(図22(b)参照)。放電素子401は、円偏波の電波を放射する。このとき、金属製のキャビティ403に向かって放射された電波がキャビティ403で反射することによって、円偏波の軸比特性が劣化する可能性がある。そのため、キャビティ403の内部には、電波を吸収する電波吸収体407が設けられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】田中、張、「ウエアラブルパッチアンテナ」、アンテナ伝搬研究会技術研究報告A・P2002−76、電子情報通信学会、2002年7月、p.77−80
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図21および図22に示すスパイラルアンテナ400は、プリント基板402(放射素子401)の素材、キャビティ403の素材が柔軟でない。そのため、スパイラルアンテナ400は、図20に示すパッチアンテナ300に比べ、かさばり、携帯用のアンテナに適していない。パッチアンテナ300において、絶縁性の布301の上面に、導電性の布を、放射素子401のように渦巻状に縫い付ける構造にすれば、携帯性に優れ、電波の周波数帯域を広げることが可能になると考えられる。しかし、この構造の場合、絶縁性の布に導電性の布を1つ1つ渦巻状に縫い付けるのに手間がかかり、量産性に適さない。
【0010】
本発明は、量産性に適したスパイラルアンテナ、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明のスパイラルアンテナは、一対の帯状体を有し、前記一対の帯状体の各々が、絶縁性を備えた帯状のカバーと、前記カバーの内周面に挟み込まれて固定されている帯状の放射素子と、を有し、前記一対の帯状体が、互いに重ねられて渦巻状に巻回されている。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明のスパイラルアンテナの製造方法は、絶縁性を備え、長手方向に沿って折り曲げた帯状のカバーの内周面に、帯状の放射素子を挟み込んで固定した帯状体を2つ製造する工程と、前記2つの帯状体を、互いに重ねて渦巻状に巻回する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、カバーの内周面に放射素子が固定された一対の帯状体が互いに重ねられて渦巻状に巻回された構造となっている。この構造は、絶縁性の布に導電性の布を1つ1つ渦巻状に縫い付ける構造に比べ手間がかからず手軽な構造なので量産性に適している。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のスパイラルアンテナの第1の実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示すスパイラルアンテナを渦巻状から帯状に展開した状態を示す斜視図である。
【図3】図2に示す給電部の周辺の構成を示す斜視図である。
【図4】図3に示す同軸ケーブルの周辺の構成を示す斜視図である。
【図5】図1に示すスパイラルアンテナの断面図である。
【図6】本発明のスパイラルアンテナの第2の実施形態を示す斜視図である。
【図7】図6に示すスパイラルアンテナを渦巻状から帯状に展開した状態を示す斜視図である。
【図8】本発明のスパイラルアンテナの第3の実施形態を示す斜視図である。
【図9】本発明のスパイラルアンテナの第4の実施形態を示す斜視図である。
【図10】本発明のスパイラルアンテナの第5の実施形態を示す外観図である。
【図11】本発明のスパイラルアンテナと一般的なスパイラルアンテナの相違点を説明するための図である。
【図12】本発明のスパイラルアンテナの放射素子の幅と入力インピーダンスとの関係を示すグラフである。
【図13】図8に示すスパイラルアンテナから放射素子を抜き出して示す図である。
【図14】軸比と周波数との関係を示すグラフである。
【図15】本発明の第1の実施例のスパイラルアンテナの、放射素子のスパイラル定数の一例を示す図である。
【図16】本発明の第1の実施例のスパイラルアンテナのリターンロスの特性を示すグラフである。
【図17】本発明の第1の実施例のスパイラルアンテナのEφ放射パターン特性を示す図である。
【図18】本発明の第1の実施例のスパイラルアンテナのEθ放射パターン特性を示す図である。
【図19】本発明の第1の実施例のスパイラルアンテナの軸比特性を示す図である。
【図20】非特許文献1に開示されたアンテナの構成を示す斜視図である。
【図21】本発明に関連するスパイラルアンテナを示す斜視図である。
【図22】図21に示すスパイラルアンテナの構造をさらに詳しく示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施形態)
図1は、本発明のスパイラルアンテナの第1の実施形態を示す斜視図である。
【0016】
図1に示すスパイラルアンテナ1は、互いに独立し、渦巻状に巻回された一対の帯状体6、7を有する。図1では、巻回の中心から見て帯状体7が帯状体6の外側に巻回されている。帯状体6は、柔軟性を備えた帯状の放射素子10と、柔軟性および絶縁性を備えた帯状のカバー20とを有する。帯状体7は、柔軟性を備えた帯状の放射素子11と、柔軟性おび絶縁性を備えた帯状のカバー21とを有する。
【0017】
図2は、図1に示すスパイラルアンテナ1を渦巻状から帯状に展開した状態を示す図である。放射素子10は、長手方向に沿って2つに折り曲げられたカバー20の内周面の頂部(折り目部分)に固定されている。放射素子10の、巻回の中心側に位置する先端部には、放射素子10に給電するための帯状の給電部12(第1の給電部)が接続されている。給電部12は、放射素子10の下方(カバー20の下側)に向かって湾曲している。給電部12の幅W3は、放射素子10の幅W1と同じである。放射素子10の、巻回の最も外側に位置する後端部には、導体40が接続されている。導体40の幅W5は、放射素子10の幅W1よりも広い。導体40は、放射素子10に連続して渦巻状に巻回されている。
【0018】
放射素子11は、長手方向に沿って2つに折り曲げられたカバー21の内周面の頂部に固定されている。放射素子11の先端部には、放射素子11に給電するための給電部13(第2の給電部)が接続されている。放射素子11の幅W2、および給電部13の、放射素子11との接続箇所の幅W4は、給電部12の幅W3と同じである。給電部13は、後述する同軸ケーブル71とインピーダンスを整合するために、放射素子11の先端部から放射素子11の下方(カバー21の下側)に向かって給電素子12と平行に湾曲し、かつ、放射素子11の先端部との接続箇所から離れるにつれて幅が連続的に広がっているテーパ形状となっている。放射素子11の後端部には、導体41が接続されている。導体41の幅W6は、放射素子11の幅W2よりも広い。導体41は、放射素子11の後端部に連続して渦巻状に巻回されている。導体40、41の下端部分は、放射素子10、11が渦巻状に巻回された後、カバー20、21の底部に沿ってそれぞれ折り畳まれることによって、カバー20、21の底部を覆う。
【0019】
カバー20、21には、給電部12、13を露出させる切り欠き部50、51が設けられている。
【0020】
放射素子10、11、給電部12、13、および導体40、41の素材には、薄い金属、金属フィルム、FPC(Flexible Printed Circuit)、導電性の布、導体メッキした紙などが使用可能である。カバー20、21の素材には、絶縁性の布、ビニール、皮、ゴム、発泡体、エアキャップ、スポンジなどの柔軟性を備えた絶縁体が使用可能である。放射素子10、11、給電部12、13、および導体40、41は素材が互いに同じであることが望ましいが、異なっていてもよい。同様に、カバー20とカバー21も素材が互いに同じであることが望ましいが、異なっていてもよい。本実施形態では、放射素子10、11、給電部12、13、および導体40、41の素材は導電性の布とし、カバー20、21の素材は、絶縁性の布としている。本実施形態では、放射素子10、11をカバー20、21に固定するために、放射素子10、11は、カバー20、21にそれぞれ糸で縫いつけられている。放射素子10、11は、糸の代わりに接着剤でカバー20、21に固定されていてもよい。
【0021】
以下、給電部12、13付近の詳細な構成を説明する。
【0022】
図3は、図2に示す給電部12と給電部13の周辺の構成を示す斜視図である。給電部12、13の先端には、洋裁で用いる金属性のスナップボタン60、61がそれぞれ具備されている。スナップボタン60、61は、その表面が塗装されておらず、導電性を有する。スナップボタン60、61は、給電部12、13と電気的な導通が確保されるように、糸等で強くカバー11、12に縫いつけられている。この場合、糸は絶縁体でも、導体でもかまわない。
【0023】
一方、同軸ケーブル71の先端には、誘電体基板70が接続されている。誘電体基板70の両面には、スナップボタン80と、スナップボタン81(図4参照)とが取り付けられている。スナップ80がスナップボタン60に嵌まり、スナップボタン81がスナップ61に嵌まることによって、給電部12、13と同軸ケーブル71とが電気的に接続される。
【0024】
図4は、図3に示す同軸ケーブル71の周辺の構成を示す斜視図である。図4(a)は、正面図であり、図4(b)は背面図であり、図4(c)は側面図である。同軸ケーブル71の中心導体72は、スナップボタン80に接続され、外部導体73は、導体の接続線74を通じてスナップボタン81に接続されている。接続方法は、ハンダ付けや圧着などの方法が用いられている。
【0025】
誘電体基板70には、絶縁体の一つであるプラスチック、例えば、ベーク板やポリカーボネイト、アクリル、などが使用される。誘電体基板70には、その他に、プリント基板材料も流用でき、さらに、布、皮、紙、ビニール、発泡体等も使用できる。
【0026】
図5は、図1に示すスパイラルアンテナ1の断面図である。誘電体基板70の両面に取り付けられているスナップボタン80、81に、スナップボタン60、61をはめ込むことによって、同軸ケーブル71と放射素子10、11とが電気的に接続されている。カバー20、21には、切り欠き部50、51が形成されているので、スナップボタン80、81にスナップボタン60、61を嵌めこむ際に、カバー20、21に遮られることはない。放射素子10、11、給電部12、13、および導体40、41の素材が、FPCなどの柔軟性のある金属を用いる場合は、スナップボタン60、61、80、81の代わりに、同軸ケーブル71をFPCに直接ハンダ付けしてもよい。スナップボタン60、61を用いる場合に、スナップボタン60、61と給電部12、13をハンダ付けまたは圧着によりが接続してもよい。
【0027】
次に、図1に示すスパイラルアンテナ1の電気的動作について説明する。
【0028】
同軸ケーブル71から、スナップボタン80、81、60、61を介して、給電部12と給電部13に電力が供給される。給電部12と給電部13は、互いにマイクロストリップラインを構成している。給電部13がテーパ形状なので、インピーダンスの整合が行われると同時に、平衡不平衡変換が行われる。
【0029】
給電部12と給電部13の先端は、インピーダンスが、同軸ケーブル71とマッチするように50オームまたは75オームになるように設計されている。そして、給電部13の幅は、放射素子11に向かうにつれて連続的に狭くなり、放射素子11との接続部分において、給電部12の幅と同じになる。その結果、インピーダンスが、同軸ケーブル71のインピーダンスが、平行な2線の放射素子10、11のインピーダンスに整合される。同時に、信号伝送モードが不平衡モード(2つの信号伝送路が、基準電位に対して同じ電位条件とならない構成)から平衡モード(2つの信号伝送路が、基準電位に対して同じ電位条件となる構成)に変換される。このようにして、インピーダンスの整合と平衡不平衡変換と、が同時に行える。
【0030】
本実施形態のスパイラルアンテナ1は、一般的なキャビティタイプのスパイラルアンテナとして動作する。すなわち、電波は、放射素子10、11から、各放射素子の上方(図5矢印A参照)および下方(図5の矢印B参照)に向かって放射される。各放射素子の下方に向かって放射された電波は、カバー20、21の底部を覆う導体40、41で反射して、上方に向かって放射される。放射素子10、11から放射される電波には、各放射素子から斜め下方向に向かって放射される電波も存在するが、この電波は、カバー20、21の巻回の最も外側に位置する外周面を周方向に連続して囲む導体41、42で反射し、斜め上方向に向かって放射される。結果として、電波は、各放射素子の上方に向かって放射される。
【0031】
上述したように、本実施形態のスパイラルアンテナ1では、放射素子10、11と、カバー20、21とが布製なので、かさばらず携帯性に優れている。さらに、本実施形態のスパイラルアンテナ1は、カバー20の内周面に放射素子10が固定された帯状体6と、カバー21の内周面に放射素子11が固定された帯状体7とを互いに重ねて渦巻状に巻回した構造となっている。そのため、本実施形態のスパイラルアンテナ1は、絶縁性の布に導電性の布を1つ1つ渦巻状に縫い付ける構造に比べ手軽に実現可能な構造となっている。
【0032】
(第2の実施形態)
図6は、本発明のスパイラルアンテナの第2の実施形態を示す斜視図である。図7は、図6に示すスパイラルアンテナ2を渦巻状から帯状に展開した状態を示す斜視図である。図7では、放射素子の厚みの記載を省略している。本実施形態では、上述した第1の実施形態のスパイラルアンテナ1と同様の構成要素については、同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0033】
本実施形態のスパイラルアンテナ2は、上述した導体40、41が設けられていない点で第1の実施形態のスパイラルアンテナ1と異なる(図6、7参照)。そのため、本実施形態のスパイラルアンテナ2では、カバー20、21の巻回の最も外側に位置する外周面及びカバー20、21の底面が導体で覆われていない。その結果、電波は、放射素子10、11の上方(図6の矢印A参照)及び下方(図6の矢印B参照)の両方に向かって放射される。本実施形態のスパイラルアンテナ2は、第1の実施形態のスパイラルアンテナ1に比べ、上述した導体40、41が不要な分、製造コストが低くなる。
【0034】
(第3の実施形態)
図8は、本発明のスパイラルアンテナの第3の実施形態を示す斜視図である。図8は、本実施形態のスパイラルアンテナ3を渦巻状から帯状に展開した状態で示す。本実施形態では、上述したスパイラルアンテナ1と同様の構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0035】
本実施形態のスパイラルアンテナ素子3は、曲折部14が形成された放射素子90を備えている点が上述したスパイラルアンテナ2(図7参照)と異なる。曲折部14は、放射素子90の先端部近傍で、放射素子90の幅方向に曲折している。
【0036】
本実施形態のスパイラルアンテナ3は、スパイラルアンテナ1、2と同様に、円偏波の電波を放射する。スパイラルアンテナ1、2は、放射素子10、11が同じ方向に巻回されているため、巻回の中心から見て内側の放射素子10の長さが外側の放射素子11に比べ短くなる。そのため、特に低周波数帯域において、良好な軸比を得ることが難しい。この点を改善するには、放射素子10と放射素子11に給電される高周波電力の相対的な位相を調整する方法が有効である。本実施形態のスパイラルアンテナ2は、この位相調整を行うべく、内側に巻回されている放射素子90の巻回の途中部分に曲折部14を設けた構造である。曲折部14がある分だけ、放射素子90に給電される高周波電力の位相が遅れる。曲折部14の長さを調整することで、放射素子90、11に給電される高周波電力の相対的な位相を調整できることになる。その結果、本実施形態のスパイラルアンテナ3は、スパイラルアンテナ1、2に比べ、低周波数帯域における軸比が向上する。
【0037】
(第4の実施形態)
図9は、本発明のスパイラルアンテナの第4の実施形態を示す斜視図である。図9は、本実施形態のスパイラルアンテナ4を渦巻状から帯状に展開した状態で示す。本実施形態では、上述したスパイラルアンテナ1と同様の構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0038】
本実施形態のスパイラルアンテナ4は、カバー20の内周面に電波吸収体100が設けられ、カバー21の内周面に電波吸収体101が固定されている点が第1の実施形態のスパイラルアンテナ1と異なる。本実施形態では、電波吸収体100、101は、炭素皮膜抵抗である。電波吸収体100、101は、他に、木材(例えばおがくず)、またはスポンジ状の電波吸収体を適用してもよい。
【0039】
第1の実施形態のスパイラルアンテナ1が広周波数帯域で使用されるとき、帯状導電体40、41で反射した電波が、放射素子10、11の上方に向かって放射された電波と合成されることによって、円偏波の軸比が劣化する場合がある。本実施形態のスパイラルアンテナ4では、カバー20、21の内周面に、放射素子10、11から離れて位置する電波吸収体100、101が貼り付けられている。そのため、放射素子10、11の下方に向かって放射される電波は、電波吸収体100、101に吸収される。これにより、広周波数帯域での使用において、本実施形態のスパイラルアンテナ4は、第1の実施形態のスパイラルアンテナ1に比べ、良好な軸比を得ることが可能となる。
【0040】
(第5の実施形態)
図10は、本発明のスパイラルアンテナの第5の実施形態を示す外観図である。図10に示すスパイラルアンテナ5は、図1に示すスパイラルアンテナ1の外側、または図6に示すスパイラルアンテナ2の外側を、絶縁性の布110でバラの花のように装飾したものである。図10に示すスパイラルアンテナ5は、同軸ケーブル111をバラの茎に見立てており、衣類などに装着したときにファッション性を損なわないようにすることが可能となる。
【0041】
次に、本発明のスパイラルアンテナが、一般的なスパイラルアンテナと異なる点を詳細に説明する。
【0042】
図11は、本発明のスパイラルアンテナと、一般的なスパイラルアンテナとの相違点を説明するための図である。図11(a)は、図21に示すスパイラルアンテナ400の平面図であり、図11(b)は、図1に示す本発明のスパイラルアンテナ1の平面図である。
【0043】
図11(a)に示すように、スパイラルアンテナ400の放射素子401は、巻きの中心点に関して互いに点対称になるように巻回されている。一方、本発明のスパイラルアンテナは、図11(b)に示すように、一対の放射素子10、11は、点対称に巻回されていない。さらに、放射素子401は、図22に示すように放射素子401の下側から給電され、電波の放射方向に垂直になっている。一方、本発明の放射素子10、11は、図5に示すように、電波の放射方向と平行になっている。これらの構造上の違いは、本発明のスパイラルアンテナを、手軽で壊れにくく、容易に収納でき、安価にするために、一対の放射素子が、柔軟性のある素材で、同じ向きに巻回された構造によって生じた相違である。これらの構造上の相違は、電気的な特性、例えば、入力インピーダンス特性や、円偏波の軸比特性に影響する。
【0044】
まず、入力インピーダンス特性について説明する。図12は、本発明の放射素子10または90、放射素子11の幅と入力インピーダンス関係を示すグラフである。図12(a)のグラフでは、横軸は周波数を示し、縦軸はインピーダンスの実部の計算値を示している。図12(b)のグラフでは、横軸は周波数を示し、縦軸はインピーダンスの虚部の計算値を示している。スパイラル定数は、0.9mm/rad、アンテナの直径D(図1参照)は78mmである。図12(a)に示すように、放射素子の幅が小さいと、実部インピーダンスは周波数によって大きく振動する。放射素子の幅が大きくなるにつれて実部インピーダンスの振動はおさまり、周波数にかかわらず一定に近い値となる。虚部インピーダンスは、図12(b)に示すように、周波数がゼロに近づく。このことは、放射素子の幅を広くすることで、周波数にかかわらず、一定の入力インピーダンスにできること、すなわち、広周波数帯域のアンテナが実現できることを意味する。入力インピーダンスが周波数にかかわらず一定ならば、インピーダンス整合は容易だからである。
【0045】
次に、軸比特性について説明する。図13は、図8に示すスパイラルアンテナ3から放射素子90、11を抜き出して示す図である。
【0046】
上述したように、図11(a)に示す一般的なスパイラルアンテナは、放射素子が点対称に巻回され、図11(b)に示す本発明のアンテナは、放射素子が非対称に巻回されている。図11(b)に示す構成で、広周波数帯域で良好な円偏波の電波を放射することは難しい。これは、2つの放射素子の非対称性(長さの違い)が、放射する電波の空間的な位相差に結びついているからである。したがって、この点を改善するには、2つの放射素子から放射する電波の相対的位相を調整すればよいことになる。そのため、本発明の第3の実施形態のスパイラルアンテナ3では、巻回の中心から見て内側に巻回されている放射素子90の巻回の途中部分に、U字状の曲折部14が設けられている。その結果、放射素子90は、曲折部14の長さ分、位相遅れが生じる。よって、曲折部14の長さを調整することで、放射素子90と11から放射される電波の相対的な位相の調整が可能になる。
【0047】
図14は、軸比と周波数の関係を示すグラフである。図14では、横軸が周波数を示し、縦軸が軸比を示す。スパイラル定数は、0.9mm/radであり、アンテナの直径Dは78mmである。図14において、1点鎖線は図11(a)に示す一般的なスパイラルアンテナの軸比特性を示す。点線は、図11(b)に示す本発明のスパイラルアンテナの軸比特性を示す。実線は、図13に示す本発明のスパイラルアンテナの軸比特性を示す。
【0048】
図11(a)に示す一般的なスパイラルアンテナは、周波数が1.7GHz以上で、軸比3dB以下である。一方、図11(b)に示す本発明のスパイラルアンテナは、低い周波数帯域で、大きく振動している。図13に示す本発明のスパイラルアンテナにおいて、曲折部14の長さを60mmとした場合、周波数が1.6GHzで軸比3dB以下にすることが可能になる。したがって、本発明の第3の実施形態のスパイラルアンテナ3は、軸比が改善される構造であると言える。
【0049】
(第1の実施例)
本実施例では、第1の実施形態のスパイラルアンテナ1の試作品の実験結果について説明する。測定に用いた本実施形態のスパイラルアンテナ1は、直径D(図1参照)が78mm、高さH(図1参照)が45mmである。放射素子10、11は、導電性の布である。放射素子のスパイラル定数の実測に必要なパラメータは、図15に示されている。図15において、放射素子10(L1)の実測値は0.94mm/radであり、放射素子11(L2)の実測値は0.89mm/radとなっている。
【0050】
図16は、本実施例のスパイラルアンテナのリターンロスの特性を示すグラフである。図16では、横軸が周波数を示し、縦軸がリターンロスを示す。図16を参照すると、本実施例のスパイラルアンテナは、周波数が1.28GHz〜3.06GHzの帯域で、リターンロスが−9.5dB以下(VSWR<2)となっている。また、比帯域が82%であり、非常に広帯域となっている。
【0051】
図17は、本実施例のスパイラルアンテナのEφ(φ方向の電界)放射パターンを示す図である。図18は、本実施例のスパイラルアンテナのEθ(θ方向の電界)放射パターンを示す図である。図17、図18では、放射素子の幅方向に平行な水平面をZ−X平面としている。Z−X平面内のZ軸からX軸に向かう方向をθ方向としている。X−Y平面内のX軸からY軸に向かう方向をφ方向としている。図17を参照すると、1.45GHzで−5dBiの利得が得られ、2.15GHzで−0.5dBiの利得が得られ、2.55GHzで−1.0dBiの利得が得られている。
【0052】
図19は、本実施例のスパイラルアンテナの軸比特性を示すグラフである。図19では、横軸が周波数を示し、縦軸が軸比を示す。図19を参照すると、低周波数帯域では軸比が高いが、高周波数帯域では、軸比が比較的小さくなっている。その結果、本実施例のスパイラルアンテナは、高周波数帯域において軸比が良好な(軸比が1に近い)円偏波を放出することが可能となる。
【符号の説明】
【0053】
1、2、3、4、5 スパイラルアンテナ
6、7 帯状体
10、11 放射素子
12、13 給電部
14 曲折部
20、21 カバー
40、41 導体
50、51 切り欠き部
60、61 スナップボタン
70 誘電体基板
71 同軸ケーブル
72 中心導体
73 外部導体
74 接続線
80、81 スナップボタン
100、101 電波吸収体
110 布
111 同軸ケーブル
300 パッチアンテナ
301 布
302 放射素子
303 グランド
400 スパイラルアンテナ
401 放射素子
402 プリント基板
403 キャビティ
404 テーパ線路
405 ピン
406 コネクタ
407 電波吸収体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の帯状体を有し、前記一対の帯状体の各々が、絶縁性を備えた帯状のカバーと、前記カバーの内周面に挟み込まれて固定されている帯状の放射素子と、を有し、
前記一対の帯状体が、互いに重ねられて渦巻状に巻回されているスパイラルアンテナ。
【請求項2】
一方の前記放射素子の、巻回の中心側に位置する先端部に接続され、該先端部から前記一方の放射素子の下方に向かって湾曲する、前記一方の放射素子と同じ幅の第1の給電部と、
他方の前記放射素子の、巻回の中心側に位置する先端部に接続され、該先端部から前記第1の給電部と平行に湾曲し、該先端部との接続箇所の幅が前記第1の給電部の幅と同じであり、前記接続箇所から離れるにつれて連続的に幅が広がっているテーパ形状の第2の給電部と、をさらに有する、請求項1に記載のスパイラルアンテナ。
【請求項3】
前記カバーの、巻回の最も外側に位置する外周面を周方向に連続して囲み、前記カバーの底部を覆っている導体をさらに有する、請求項1または2に記載のスパイラルアンテナ。
【請求項4】
巻回の中心から見て内側の放射素子が、巻回の途中部分で該放射素子の幅方向に曲折している、請求項1から3までのいずれか1項に記載のスパイラルアンテナ。
【請求項5】
前記カバーの前記内周面に、前記放射素子から離れて固定されている電波吸収体をさらに有する請求項1から4までのいずれか1項に記載のスパイラルアンテナ。
【請求項6】
前記放射素子の素材が導電性の布であり、前記カバーの素材が絶縁性の布である、請求項1から5までのいずれか1項に記載のスパイラルアンテナ。
【請求項7】
絶縁性を備え、長手方向に沿って折り曲げた帯状のカバーの内周面に、帯状の放射素子を挟み込んで固定した帯状体を2つ製造する工程と、
前記2つの帯状体を、互いに重ねて渦巻状に巻回する工程と、
を有する、スパイラルアンテナの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−175349(P2012−175349A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34692(P2011−34692)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2010年8月31日、社団法人 電子情報通信学会 発行、 「2010年電子情報通信学会通信ソサイエティ大会講演論文集1」に発表
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(390001074)NECネットワークプロダクツ株式会社 (23)
【Fターム(参考)】