説明

スパッタリング装置

【課題】ターゲットの予備加熱による真空度の低下や基板温度の上昇を抑制することのできるスパッタリング装置を提供する。
【解決手段】本発明のスパッタリング装置1は、ターゲット11に所定の電力を印加して、基板10上に成膜を行うスパッタリング装置1であって、前記ターゲット11を支持固定するバッキングプレート4と、前記基板10を前記バッキングプレート4に支持固定された前記ターゲット11に対向させて支持する基板ホルダ3と、前記基板ホルダ3と前記バッキングプレート4との間に退避可能に設けられ、前記ターゲット11を予備加熱する加熱部5と、前記加熱部5の前記基板ホルダ3に対向する面を覆うように設けられた反射板6と、前記基板ホルダ3と前記反射板6との間に設けられたシャッター7とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングを用いて光学薄膜を作製するスパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スパッタリング装置において、ターゲットの温度を急激に上昇させることによるクラックの発生を抑制するために、ターゲットの近傍に設けられた熱源によって、プレスパッタ前にターゲットを成膜時よりも低い所定の温度に加熱する予備加熱を行うものが提案されている。
【特許文献1】特開2006−124767号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1の装置に設けられた上述の熱源は、予備加熱の際にターゲット以外の部位も同時に加熱してしまうため、不純物が真空槽内に発生して真空度が低下したり、成膜の対象となる基板の温度が上昇して温度制御が困難になるなどの問題がある。
【0004】
本発明は上記事情に鑑みて成されたものであり、ターゲットの予備加熱による真空度の低下や基板温度の上昇を抑制することのできるスパッタリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のスパッタリング装置は、ターゲットに所定の電力を印加して、基板上に成膜を行うスパッタリング装置であって、前記ターゲットを支持する支持部材と、前記基板を前記支持部材に支持された前記ターゲットに対向させて支持する基板ホルダと、前記基板ホルダと前記支持部材との間に退避可能に設けられ、前記ターゲットを予備加熱する加熱部と、前記加熱部の前記基板ホルダに対向する面を覆うように設けられた反射板と、前記基板ホルダと前記反射板との間に設けられたシャッターとを備えたことを特徴とする。
【0006】
本発明のスパッタリング装置によれば、加熱部から発生し、基板ホルダの方向に放射される熱は反射板によって反射されるため、ターゲットのみが加熱部によって加熱される。
【0007】
本発明のスパッタリング装置は、前記加熱部と前記シャッターとの間に設けられ、前記反射板に蓄積された熱が前記基板に伝達することを抑制する排熱部をさらに備えてもよい。
【0008】
前記排熱部は、前記反射板と前記シャッターとの間に設けられてもよい。また、前記反射板は複数設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のスパッタリング装置によれば、加熱部によって、ターゲットのみを予備加熱することができるので、ターゲットの予備加熱による真空度の低下や基板温度の上昇を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の第1実施形態のスパッタリング装置について、図1を参照して説明する。図1は、本実施形態のスパッタリング装置1を示す概略図である。
スパッタリング装置1は、真空槽2と、真空槽2の内部上方に設けられた基板ホルダ3と、真空槽2内部の下部に設けられたバッキングプレート(支持部材)4と、バッキングプレート4と基板ホルダ3との間に設けられた加熱部5と、加熱部5の基板ホルダ3側の面を覆うように設けられた反射板6と、反射板6と基板ホルダ3との間に設けられたシャッター7とを備えて構成されている。
【0011】
真空槽2の側面には、導入ポート8が貫通して設けられており、真空槽2への反応ガスの導入に使用される。
基板ホルダ3は回転軸9を中心に回転可能に構成されており、基板ホルダ3の下側の面に成膜対象となる基板10が設置される。バッキングプレート4はマグネトロンカソード(以下、「カソード」と称する。)12の上部に設けられており、成膜する光学薄膜の材料となるターゲット11は、バッキングプレート4の上に設置される。
【0012】
カソード12の内部はリング状の中空構造となっており、冷却水が流れるように構成されている。また、カソード12は真空槽2の外に設けられたマッチングボックス13を介して高周波電源14と接続されている。カソード12の内部のリング状の中空構造には、20℃から30℃に温度制御された図示しない水が流されており、カソード12の温度が一定に保たれている。
【0013】
加熱部5はマイクロシーズヒータやセラミックヒータ等の公知の構成からなり、接続部16及び反射板6を介して真空槽2の下部にその軸周りに回動自在に設けられた第1回動軸15に支持固定され、第1回動軸15を通して図示しない電源と接続されている。この状態で、加熱部5はバッキングプレート4上に設置されたターゲット11の上方に配置される。
【0014】
反射板6は加熱部5の上面及び側面、すなわち加熱部5のターゲット11に対向する面を除くすべての面を覆うように配置され、接続部16を介して加熱部5と接続されて、第1回動軸15に支持固定される。すなわち加熱部5及び反射板6は、第1回動軸15をその軸周りに回動することによってターゲット11の上方から退避可能に構成されている。
【0015】
このとき、加熱部5と反射板6との間の接続部16は、図1に示すように、第1回動軸15から最も離れた反射板6の側面に設けられてもよい。このようにすると、加熱部5で発生した熱が第1回動軸15から逃げる際の伝熱経路が長くなり、熱が逃げにくくなる。反射板6の板厚は1〜2mm程度が好ましく、材質としては、反射性に優れ、熱伝導率が低いセラミックス又はステンレスが好ましい。
【0016】
シャッター7は真空槽2の下部にその軸周りに回動自在に設けられた第2回動軸17に支持固定される。シャッター7は、スパッタリング環境が安定するまでターゲット11と基板10との間を遮蔽し、基板10への成膜が行われないよう制御する。
【0017】
上記の構成を備えたスパッタリング装置1の動作について、以下に説明する。
まず、基板ホルダ3上に基板10を設置し、ターゲット11をバッキングプレート4上に設置する。このとき、シャッター7は基板10とターゲット11との間に位置させる。図示しない排気手段によって真空槽2の排気を行い、真空槽2内を真空にした後、第1回動軸15を軸周りに回動させて加熱部5及び反射板6をターゲット11の上方に移動させる。
【0018】
次に図示しない電源から加熱部5に通電を行って加熱部5を発熱させ、ターゲット11の表面を均一に約500℃まで加熱し、プレスパッタ前の予備加熱を行う。予備加熱終了後、加熱部5の発熱を停止して第1回動軸15を軸回りに回動し、加熱部5及び反射板6をターゲット11の上部にかからない位置に退避させる。加熱部5の発熱停止は移動後に行ってもよい。
【0019】
続いて反応ガスを導入ポート8から導入してから、高周波電源14から電力をカソード12に供給してプラズマを発生させる。発生したプラズマによってターゲット11がスパッタリングの温度まで加熱され、スパッタリング環境が安定してから回転軸9をその軸回りに回転させて基板ホルダ3を回転させる。第2回動軸17をその軸回りに回動させてシャッター7を開き、基板10とターゲット11との間の遮蔽物をなくすと、基板10の表面にスパッタリングによって薄膜が形成される。
【0020】
本実施形態のスパッタリング装置1によれば、プレスパッタ前の予備加熱において、加熱部5の上面及び側面が反射板6に覆われているため、加熱部5の上方及び側方に放射された熱は、反射板6によって反射され、真空槽2内への伝達が抑制される。従って、基板10の温度上昇が抑制されると同時に、真空槽2の内部の温度上昇による真空度の低下も抑制することができる。
【0021】
また、反射板6によって反射された熱の一部もターゲット11の表面を加熱するので、省電力でターゲット11の予備加熱を行うことができる。さらに、加熱部5と反射板6との接続部16が第1回動軸15から離れた箇所に設けられているので、加熱部5で発生した熱が第1回動軸15を通って逃げにくい。従って、さらに省電力で予備加熱可能にスパッタリング装置を構成することができる。
【0022】
次に本発明の第2実施形態について、図2を参照して説明する。本実施形態と上述の第1実施形態の異なる点は、反射板とシャッターとの間に排熱部がさらに設けられている点である。なお、第1実施形態と同様の構成要素については、同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0023】
図2は本実施形態のスパッタリング装置21を示す図である。スパッタリング装置21においては、反射板6とシャッター7との間に、冷却配管22を有する板状部材(排熱部)23が第1回動軸15に固定されて設けられている。従って第1回動軸15を回動させることによって、加熱部5、反射板6、及び板状部材23は一体となって回動するように構成されている。
【0024】
冷却配管22は板状部材23のシャッター7に対向する面に、該面の略外周に沿って引き回されて設けられており、内部を冷却水が流れるように構成されている。板状部材23の水平方向の寸法はターゲット11より大きいほうが好ましく、厚さは1〜2mm程度とする。板状部材23の材質は、冷却配管22が設置される観点から、腐食しにくいアルミニウムやステンレスが好ましい。なお、冷却配管22の設置に代えて、板状部材23の内部に管腔を設けて、冷却水が流れるように板状部材23を構成してもよい。この場合、板状部材の厚さは5mm前後、上述した管腔の径は2〜3mm程度とするのが好ましい。
【0025】
スパッタリング装置21の動作は上述した第1実施形態と基本的に同様であるが、ターゲット11の予備加熱終了後、加熱部5の発熱を停止して第1回動軸15を回動し、加熱部5及び反射板6をターゲット11の上部にかからない位置に退避させる際に、第1回動軸15に支持固定された板状部材23も連動して退避させられる。
【0026】
本実施形態のスパッタリング装置21によれば、加熱部5によってターゲット11の予備加熱を行う際に、反射板6の上部に放出される熱が、板状部材23に沿って循環する冷却水によって吸収され、基板10への伝達が抑制される。従って、より効果的に基板10の温度上昇等を抑制することができる。
【0027】
また、加熱部5、反射板6及び板状部材23が共通の第1回動軸15に固定されているので、スパッタリングを開始する際に、第1回動軸15を回動するだけでこれらをすべてターゲット11の上方から退避させることができる。従って、操作の簡便なスパッタリング装置を提供することができる。なお、板状部材23は第2回動軸17に支持固定され、シャッター7と一体となって回動するように構成されてもよい。
【0028】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述した各実施形態においては、加熱部5の上に一枚の反射板6が設けられているが、図3(a)に示す変形例のように、加熱部5とシャッター7との間に第1反射板24と第2反射板25との2枚が設けられていてもよい。この場合、第1反射板24の上部にさらに第2反射板25が設けられているので、第1反射板24の上部及び側部から放射される熱が第2反射板25によって反射される。従って、さらに効果的に基板10の温度上昇等を抑制することができる。
【0029】
このとき、図3(a)に示すように、加熱部5と加熱部5の上部に設けられた第1反射板24とを接続する第1接続部26を、第1反射板24の第1回動軸15に最も近い側面に設け、第1反射板24と第2反射板25とを電気的に接続する第2接続部27を、第1反射板の第1回動軸15から最も離れた側面に設けるのが好ましい。このようにすると、加熱部5から第1回動軸15に至る伝熱経路が最も長くなり、加熱部5で発生した熱が第1回動軸15から逃げにくくなる。従って、さらに省電力でターゲット11の表面を加熱することができる。
【0030】
また、上述した各実施形態においては、排熱部として板状部材23が設けられているが、これに代えて、図3(b)に示す変形例のように反射板28の内部に冷却配管29を設置することによって排熱部を設けてもよい。この場合、例えばターゲット11の上面を覆う反射板28の厚さを5mm程度にし、冷却配管29の径を2〜3mmとすると、反射板28で発生する輻射熱を効率よく吸収させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態のスパッタリング装置の模式図である。
【図2】本発明の第2実施形態のスパッタリング装置の模式図である。
【図3】本発明の実施形態のスパッタリング装置の変形例における加熱部及び反射板を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1、21…スパッタリング装置、3…基板ホルダ、4…バッキングプレート(支持部材)、5…加熱部、6、28…反射板、7…シャッター、10…基板、11…ターゲット、23…板状部材(排熱部)、24…第1反射板(反射板)、25…第2反射板(反射板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットに所定の電力を印加して基板上に成膜を行うスパッタリング装置であって、
前記ターゲットを支持する支持部材と、
前記基板を前記支持部材に支持された前記ターゲットに対向させて支持する基板ホルダと、
前記基板ホルダと前記支持部材との間に退避可能に設けられ、前記ターゲットを予備加熱する加熱部と、
前記加熱部の前記基板ホルダに対向する面を覆うように設けられた反射板と、
前記基板ホルダと前記反射板との間に設けられたシャッターと、
を備えたことを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
前記加熱部と前記シャッターとの間に設けられ、前記反射板に蓄積された熱が前記基板に伝達することを抑制する排熱部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記排熱部は、前記反射板と前記シャッターとの間に設けられていることを特徴とする請求項2に記載のスパッタリング装置。
【請求項4】
前記反射板が複数設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のスパッタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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