説明

スピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物の製造方法、リチウム二次電池用正極合剤及びリチウム二次電池

【解決課題】共沈法によらず、充放電サイクル特性に優れ、且つクローン効率、及び5V/(5V+4V)の放電容量領域比率が高くなるスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物の製造方法を提供すること。
【解決手段】固形分の平均粒径が1.00μm以下の噴霧原料スラリーを得る噴霧原料スラリー調製工程と、噴霧乾燥物を得る噴霧乾燥工程と、該噴霧乾燥物を加熱処理して、平均粒径が5.0〜20.0μmであり且つ粒径1.0μm以下の微粒子分の含有量が0.5質量%以下である加熱処理物を得る加熱処理工程と、該加熱処理物と、リチウム源とを混合して焼成原料混合物を得、次いで、該焼成原料混合物を850〜1100℃で焼成して、焼成物を得る焼成工程と、該焼成物を500〜700℃でアニール処理して、 LiNiMn4−w(1)で表されるスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物を得るアニール処理工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物の製造方法に関する。また、本発明は、本発明のスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物の製造方法に従い得られるスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物を、正極活物質として用いるリチウム二次電池用正極合剤及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムマンガン複合酸化物におけるマンガンの一部をニッケルなどの他の遷移金属元素で置換したスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物が提案されている(特許文献1〜3参照)。そして、これらリチウムマンガンニッケル系複合酸化物の中でも、Li[Mn3/2Ni1/2]Oの組成を有するものを正極活物質として用いたリチウム二次電池は、リチウムマンガン複合酸化物を正極活物質として用いたものと比較してサイクル特性が良好であり、またリチウムマンガン複合酸化物が4V領域の起電力を有するのに対して5V領域の起電力を有するという利点がある。
【0003】
しかし、リチウムマンガンニッケル系複合酸化物はマンガンイオンの溶出量が多いため、リチウムマンガンニッケル系複合酸化物を正極活物質として用いたリチウム二次電池において、満足の行く電池性能が得られ難いと言う問題がある。
【0004】
本出願人らも、先にマンガンイオンの溶出量が少なく、また、リチウム二次電池のクローン効率、放電容量維持率及び5V放電容量領域/(5V放電容量領域+4V放電容量領域)の比率を高くすることができるリチウムマンガンニッケル系複合酸化物の製造方法を提案した(特許文献4〜5)。
【0005】
従来、スピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物は、多くの場合、水溶性マンガン塩と水溶性ニッケル塩の混合水溶液にアルカリを添加して得られるマンガンニッケル複合水酸化物の共沈体と、リチウム化合物との混合物を焼成するにより得られる(以下、「共沈法」と呼ぶこともある)。
共沈法によりリチウムマンガンニッケル系複合酸化物を得る方法は、固相法に比べてコストが高くなるため、工業的規模で実施する場合には必ずしも適しているとは言い難い。
一方、固相法により得られるスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物は、マンガンイオンの溶出量が多く、また、実際の放電容量は理論量の数分の一程度で、且つ共沈法を用いて得られたものに比べて電池性能がかなりの部分で劣るという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−185148号公報
【特許文献2】特開2002−158007号公報
【特許文献3】特開2003−81637号公報
【特許文献4】特開2005−194106号公報
【特許文献5】特開2006−40715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、共沈法によらず、リチウム二次電池の正極活物質として用いたときに、充放電サイクル特性に優れ、且つクローン効率、及び5V放電容量領域/(5V放電容量領域+4V放電容量領域)の比率が高いリチウム二次電池とすることができるスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的は、以下の本発明により達成される。
すなわち、本発明(1)は、マンガン源及びニッケル源、又はマンガン源、ニッケル源及びM源とを湿式混合及び粉砕して、固形分の平均粒径が1.00μm以下の噴霧原料スラリーを得る噴霧原料スラリー調製工程と、
該噴霧原料スラリーを噴霧乾燥して噴霧乾燥物を得る噴霧乾燥工程と、
該噴霧乾燥物を加熱処理して、平均粒径が5.0〜20.0μmであり且つ粒径1.0μm以下の微粒子分の含有量が0.5重量%以下である加熱処理物を得る加熱処理工程と、
該加熱処理物と、リチウム源とを混合して焼成原料混合物を得、次いで、該焼成原料混合物を850〜1100℃で焼成して、焼成物を得る焼成工程と、 該焼成物を500〜700℃でアニール処理して、下記一般式(1):
LiNiMn4−w (1)
(式中、0.9<x<1.1、0.4≦y≦0.6、1.4≦z≦1.6、0≦a≦0.2、y+z+a=2.0、0≦w<2であり、MはNi及びMn以外の原子番号11以上の元素を示す。)
で表されるスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物を得るアニール処理工程と、
を有することを特徴とするスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物の製造方法を提供するものである。
【0009】
また、本発明(2)は、本発明(1)の製造方法によって製造されたスピネル型リチウムルマンガンニッケル系複合酸化物を含むリチウム二次電池用正極合剤を提供するものである。
【0010】
また、本発明(3)は、正極合剤として、本発明(1)の製造方法によって製造されたスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物を含む正極合剤を用いるリチウム二次電池を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、共沈法によらずとも、充放電サイクル特性に優れ、且つクーロン効率、放電容量維持率及び5V放電容量領域/(5V放電容量領域+4V放電容量領域)の比率が高いリチウム二次電池とすることができるスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例3で得られた噴霧乾燥物のSEM写真。
【図2】実施例3で得られた加熱処理物のSEM写真。
【図3】実施例3で得られたリチウムマンガンニッケル系複合酸化物のSEM写真。
【図4】参考例1で得られたリチウムマンガンニッケル系複合酸化物のSEM写真。
【図5】実施例3で得られたリチウムマンガンニッケル系複合酸化物の粒度分布図。
【図6】比較例2で得られたリチウムマンガンニッケル系複合酸化物の粒度分布図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明のスピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物の製造方法により製造されるリチウムマンガンニッケル系複合酸化物は、下記一般式(1)で表されるスピネル型のリチウムマンガンニッケル系複合酸化物である。
LiNiMn4−w (1)
(式中、0.9<x<1.1、0.4≦y≦0.6、1.4≦z≦1.6、0≦a≦0.2、y+z+a=2.0、0≦w<2であり、MはNi及びMn以外の原子番号11以上の元素を示す。)
【0014】
本発明のリチウムマンガンニッケル系複合酸化物の製造方法は、以下の(a)〜(e)の工程を有する。
(a)噴霧原料スラリー調製工程
(b)噴霧乾燥工程
(c)加熱処理工程
(d)焼成工程
(e)アニール処理工程
以下、それぞれの工程について説明する。
【0015】
(a)噴霧原料スラリー調製工程
噴霧原料スラリー調製工程は、マンガン源及びニッケル源、又はマンガン源、ニッケル源及びM源を含有するスラリーを湿式で混合及び粉砕して、固形分の平均粒径が1.00μm以下の噴霧原料スラリーを得る工程である。
【0016】
噴霧原料スラリー調製工程に係るマンガン源は、マンガン元素を有する化合物である。マンガン源としては、特に制限されず、例えば、Mn(OH)、Mn、Mn、MnO、MnOOH等のマンガンの酸化物や水酸化物;MnCO、Mn(NO、MnSO等のマンガンの無機塩;ジカルボン酸マンガン、クエン酸マンガン、脂肪酸マンガン等の有機マンガン化合物などが挙げられる。これらのうち、マンガン源としては、MnCOが、反応性が高いという点で、好ましい。マンガン源は、1種単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。また、マンガン源は、分散媒に難溶性の化合物であることが好ましい。
【0017】
噴霧原料スラリー調製工程に係るニッケル源は、ニッケル元素を有する化合物である。ニッケル源としては、特に制限されず、例えば、Ni(OH)、NiO、NiOOH等のニッケルの酸化物や水酸化物;NiCO、Ni(NO)、NiSO、NiSO、NiC等のニッケルの無機塩;脂肪酸ニッケル等の有機ニッケル化合物などが挙げられる。これらのうち、ニッケル源としては、Ni(OH)が、工業原料として安価に入手できる点、及び反応性が高いという点で、好ましい。ニッケル源は、1種単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。また、ニッケル源は、分散媒に難溶性の化合物であることが好ましい。
【0018】
また、噴霧原料スラリー調製工程において、リチウム二次電池の安全性及びサイクル性能をいっそう向上させることを目的として、ニッケル源及びマンガン源に加えて、M源を混合して、噴霧原料スラリーにM源を含有させることができる。M元素は、Ni及びMn以外の原子番号11以上の元素であり、好ましくはMg、Al、Ti、V、Bi、Zr、Ca、Nb、Mo、Ge、Cu、Zn又はW、特に好ましくはMg、Al、Ti、V、Bi又はZrである。なお、M元素は1種であっても2種以上であってもよい。M源は、M元素を有する化合物である。M源としては、M元素の酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩等が挙げられる。
【0019】
また、噴霧原料スラリー中のニッケル源及びマンガン源の含有比は、どのような組成比のリチウムマンガンニッケル系複合酸化物を製造するかにより、適宜選択されるが、原子換算のモル比で、マンガンに対するニッケルのモル比(Ni/Mn)が、好ましくは0.25〜0.43である。更に、マンガンに対するニッケルのモル比(Ni/Mn)が、0.30〜0.35であることにより、リチウム二次電池の放電容量および充放電効率の性能がいっそう向上する点で、特に好ましい。
【0020】
噴霧原料スラリー中に、マンガン源及びニッケル源に加え、M源を含有させる場合は、M源の含有量は、原子換算のモル比で、マンガンに対するMのモル比(M/Mn)が、好ましくは0.005〜0.050、特に好ましくは0.010〜0.040となる量である。マンガンに対するMのモル比(M/Mn)が0.005より小さくなるとM元素の添加効果が小さくなり易く、一方、このモル比が0.050を超えるとM源の添加効果が飽和するばかりでなく、放電容量が減少する傾向にある。
【0021】
マンガン源及びニッケル源、又はマンガン源、ニッケル源及びM源とを含有する噴霧原料スラリーは、分散媒に、マンガン源及びニッケル源、又はマンガン源、ニッケル源及びM源が分散されているものである。分散媒としては、水、水と水溶性有機溶媒との混合分散媒が挙げられる。
【0022】
噴霧原料スラリーのスラリー濃度は、噴霧原料スラリー全体に対する固形分の質量割合で、20〜40質量%、好ましくは25〜35質量%であることが生産性効率を高く維持できる点、また噴霧乾燥物の粒径制御がし易く、噴霧乾燥を行うためのスラリーの粘度が適切な点から好ましい。
【0023】
噴霧原料スラリー調製工程では、マンガン源及びニッケル源、又はマンガン源、ニッケル源及びM源を、分散媒に加えて、スラリーを湿式で混合及び粉砕処理することにより、好ましくは、マンガン源及びニッケル源、又はマンガン源、ニッケル源及びM源を、分散媒に加えて、混合と粉砕を同時に行うことができる湿式粉砕装置を用いて、スラリーに湿式粉砕処理を施して、噴霧原料スラリーを調製する。
【0024】
噴霧原料スラリー調製工程では、マンガン源及びニッケル源、又はマンガン源、ニッケル源及びM源を、分散媒中で粉砕して、湿式での混合及び粉砕処理後のスラリー中の固形分の平均粒径を1.00μm以下にする。混合及び粉砕処理後のスラリー、すなわち、噴霧原料スラリー中の固形分の平均粒径を1.00μm以下にすることにより、放電容量及び出力性能の優れたリチウム二次電池を得ることができる。一方、混合及び粉砕処理後のスラリー中の固形分の平均粒径が上記範囲より大きくなると、焼成工程でのリチウムとの反応性の低下やリチウムマンガンニッケル系複合酸化物における一次粒子の増大による出力特性、放電容量の低下に繋がるため好ましくない。噴霧原料スラリー調製工程では、混合及び粉砕処理後の噴霧原料スラリー中の固形分の平均粒径を、0.50〜0.80μmとすることが、焼成工程でのリチウムとの反応性が良好となる点及びリチウムマンガンニッケル系複合酸化物の出力特性が向上する点から、特に好ましい。
【0025】
なお、噴霧原料スラリー中の固形分の平均粒径とは、噴霧原料スラリーがマンガン源及びニッケル源を含有する場合は、マンガン源及びニッケル源の混合物の平均粒径を指し、また、噴霧原料スラリーがマンガン源、ニッケル源及びM源を含有する場合は、マンガン源、ニッケル源及びM源の混合物の平均粒径を指す。また、この固形分の平均粒径は、レーザー回折・散乱法により測定される。
【0026】
混合と粉砕を同時に行うことができる湿式粉砕装置としては、メディアミルを用いることが、噴霧原料スラリー中の原料粒子の平均粒径を前記範囲となるように制御することが容易になる点で好ましい。メディアミルとしては、ビーズミル、ボールミル、ペイントシェーカー、アトライタ、サンドミル等が挙げられる。
【0027】
混合と粉砕を同時に行うことができる湿式粉砕装置を用いる場合、湿式粉砕装置の処理条件を適宜選択することにより、混合及び粉砕処理後のスラリー、すなわち、噴霧原料スラリー中の固形分の平均粒径を制御することができる。
【0028】
混合と粉砕を同時に行うことができる湿式粉砕装置として、例えば、ビーズミルを用いて湿式粉砕処理を行う場合、スラリー濃度、分散剤の使用の有無や濃度、ビーズの粒径、ミル周波数、湿式粉砕の処理回数、投入速度等の湿式粉砕条件を、適宜選択することにより、混合及び粉砕処理を行い得られる噴霧原料スラリー中の固形分の平均粒径を調節する。
【0029】
噴霧原料スラリー調製工程で、マンガン源及びニッケル源、又はマンガン源、ニッケル源及びM源を、分散媒中で粉砕するときに、必要により、ポリカルボン酸アンモニウム系等の分散剤などの添加剤をスラリー中に加えてもよい。
【0030】
(b)噴霧乾燥工程
噴霧乾燥工程は、噴霧原料スラリー調製工程で調製した噴霧原料スラリーを噴霧乾燥して噴霧乾燥物を得る工程である。
噴霧乾燥工程を行い得られる噴霧乾燥物は、マンガン源及びニッケル源、又はマンガン源、ニッケル源及びM源からなる造粒物であり、マンガン源及びニッケル源の粒子、又はマンガン源及びニッケル源及びM源の粒子の凝集体であるが、噴霧乾燥工程を行うことにより、造粒物の粒子状態が密な球状のものが得られる。そのため、本発明のスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物の製造方法では、焼成工程で均一にLiが分散し熱がかかるため、最終製品として、一次粒子が密な二次粒子からなるリチウムマンガンニッケル系複合酸化物を得ることができる。
【0031】
本発明者らによれば、リチウムマンガンニッケル系複合酸化物の二次粒子の凝集の程度もリチウム二次電池の電池性能に影響し、一次粒子が小さく密になっている凝集体粒子を得ることで、リチウム二次電池の電極密度、粒子間の導電性、充放電時に対する結晶の強度等の性能をいっそう向上させることができることを見出した。また、この噴霧乾燥工程を行うことにより容易に一次粒子が密になっている二次粒子からなるリチウムマンガンニッケル系複合酸化物が得られるという利点も有する。
【0032】
噴霧乾燥工程において、噴霧原料スラリーを噴霧乾燥する方法としては、噴霧原料スラリーの液滴を高温の気体中に噴霧して、スラリー中の分散媒を蒸発させることができる方法であれば、特に制限されず、通常の噴霧乾燥方法が用いられる。例えば、噴霧乾燥装置内に、乾燥用の気体を供給しつつ、装置内の温度を乾燥温度に保った状態で、回転円盤ノズル、2流体及び4流体ノズル等の噴霧ノズルから、装置内に、スラリーの液滴を噴霧する方法が挙げられる。
【0033】
噴霧乾燥工程において、噴霧原料スラリーを噴霧乾燥するときの噴霧乾燥温度は、好ましくは200〜320℃、特に好ましくは230〜300℃である。噴霧原料スラリーを噴霧乾燥するときの噴霧乾燥温度が上記範囲より低いと、水分が残り、内部に空隙ができるようになる傾向があり、一方、噴霧乾燥温度が上記範囲より高いと、二次粒子径が非常に増大する傾向がある。
【0034】
噴霧乾燥工程において、噴霧原料スラリーを噴霧するときのスラリーの液滴の大きさであるが、好ましくは噴霧乾燥物の径が5.0〜20.0μm、特に好ましくは噴霧乾燥物の径が10.0〜18.0μmとなるようなスラリーの液滴の径が選択される。
【0035】
噴霧乾燥物の平均粒径は、レーザー回折・散乱法により求められる平均粒径で、5.0〜20.0μm、好ましくは10.0〜18.0μmである。噴霧乾燥物の平均粒径が上記範囲にあることにより、最終的に得られるリチウムニッケルマンガン系複合酸化物で電池を作製する際、電極への塗布工程の安定性が増し、微粒の発生が極力抑えられ、電池の安全性が良好なものとなる。
【0036】
(c)加熱処理工程
加熱処理工程は、噴霧乾燥物を加熱処理して、微粒子分の含有量が低減された加熱処理物を得る工程である。
加熱処理工程で得られる加熱処理物の具体的な構造は明らかでないが、ニッケルの酸化物とマンガンの酸化物の混合物またはニッケル及びマンガンの複合酸化物、あるいは、ニッケルの酸化物とマンガンの酸化物とM元素の酸化物の混合物またはニッケル、マンガン及びM元素の複合酸化物であると推定される。
【0037】
噴霧乾燥工程で得られる噴霧乾燥物は、前述したように、マンガン源及びニッケル源、又はマンガン源、ニッケル源及びM源からなる造粒物であり、平均粒径が5.0〜20.0μm、好ましくは10.0〜18.0μmの球状の凝集体であるが、造粒しきれなかったものあるいは凝集体が崩れて生じた粒径が1.0μm以下の微粒子分を、通常0.5質量%以上含有する。
【0038】
本発明者らは、この粒径が1.0μm以下の微粒子分が多いと、後述するマンガン溶出量が多くなることを見出した。そして、本発明者らは、噴霧乾燥物を加熱処理することで、この微粒子分がより大きな粒子の凝集体粒子に溶着し凝集体粒子と微粒子分が結合して、微粒子分が凝集体粒子に取り込まれた加熱処理物が得られること、また、加熱処理工程を行い得られる加熱処理物は、後述するリチウム源との混合のときにおいても、粒径1.0μm以下の微粒子分の発生が抑制されることを見出した。
なお、特開2005−194106号公報に記載された共枕法の原料となるマンガンニッケル複合水酸化物は、多孔質であり、特開2005−194106号公報でも、マンガンニッケル複合水酸化物の加熱処理を行うが、この加熱処理は、多孔体を緻密なものに変化させることを目的とするものであって、本発明のように微粒子分を低減するためのものではない。
【0039】
加熱処理工程では、噴霧乾燥物を加熱処理することにより、粒径1.0μm以下の微粒子分を0.5質量%以下、好ましくは0.1質量%以下まで低減させる。なお、この微粒子分の含有量はより少ない方が好ましいが、0.01質量%以下に低減することは技術的に困難なので、0.01質量%以上が好ましい。
【0040】
加熱処理工程では、加熱処理の温度及び時間を適宜調整することにより、粒径1.0μm以下の微粒子分を前記含有量の範囲にすることができる。
【0041】
加熱処理工程での加熱処理の温度は、好ましくは850〜1100℃、特に好ましくは900〜1050℃である。加熱処理温度が850℃より低くなるとニッケルとマンガンの複合酸化物の生成が進み難くなり易く、また、微粒子の結合が弱くなりリチウム化したときに凝集体が崩れて微粒子が再び現れるようになり、一方、加熱処理温度が1100℃を超えると固結が進み、粒子が大きくなり過ぎ、出力特性が低下してしまう傾向がある。
【0042】
加熱処理工程での加熱処理の時間は、加熱処理温度等の条件にもよるが、通常は、1時間以上、好ましくは4〜8時間である。
【0043】
加熱処理工程での加熱処理の雰囲気は、酸化性雰囲気であり、一般的には大気中である。
【0044】
加熱処理工程を行い得られる加熱処理物の平均粒径は、レーザー回折・散乱法により求められる平均粒径で、5.0〜20.0μm、好ましくは10.0〜18.0μmである。加熱処理物の平均粒径は、噴霧乾燥物の平均粒径を調節することにより、調節される。
【0045】
また、加熱処理工程を行い得られる加熱処理物のBET比表面積は、好ましくは0.30〜1.50m/g、特に好ましくは0.40〜1.20m/gである。加熱処理物のBET比表面積が上記範囲にあることにより、リチウムとの反応性が良好となり、高い出力時でも十分な容量を得るリチウムマンガンニッケル系複合酸化物が得られる。
【0046】
また、加熱処理工程を行い得られる加熱処理物のタップ密度は、好ましくは0.80〜2.00g/cm、特に好ましくは0.90〜1.80g/cmである。加熱処理物のタップ密度が上記範囲にあることにより、リチウム源と混合して焼成する際に熱を均一にかけることができ結晶の成長を統一させることで粒子の一部微粒化によるサイクル容量維持率の低下及び粗粒化による出力特性の低下を防ぎ、また大量生産も可能になる。
【0047】
また、加熱処理物、つまり、凝集体の粒子形状は、球状であることが好ましいが、その形状が球状とみなせる形状である限り、必ずしも真球であることを要しない。粒子が球状であることで粉体の流動性が良くなり、後のリチウム源との混合の際に均等に混ざりやすくなる。これにより結晶の成長を統一させて粒子の一部微粒化によるサイクル容量維持率の低下及び粗粒化による出力特性の低下を防ぐことができる。
【0048】
加熱処理工程を行った後、得られる加熱処理物を、一旦冷却する。また、必要により、冷却した加熱処理物を軽く粉砕する。
【0049】
(d)焼成工程
焼成工程は、加熱処理物とリチウム源とを混合し、得られた焼成原料混合物を特定温度範囲で焼成して、焼成物を得る工程である。
【0050】
なお、焼成工程を行い得られる焼成物の組成は、一般式(1)で表されるスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物と基本的には同じであり、X線回折分析において単相の一般式(1)で表されるスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物である。
【0051】
焼成工程に係るリチウム源としては、特に制限されず、例えば、LiOH・HO、LiO等のリチウムの酸化物又は水酸化物;LiCO、LiNO、LiSO等のリチウムの無機塩;アルキルリチウム、酢酸リチウム等の有機リチウム化合物などが挙げられる。これらのうち、リチウム源としては、LiOH・HO、LiCOが好ましい。
【0052】
加熱処理物とリチウム源との混合割合は、焼成により前記一般式(1)で表されるスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物の組成になるような混合割合とする。具体的には、マンガン、ニッケル及び必要により添加されるM元素の合計モル数に対するリチウムのモル数の比(Li/(Mn+Ni+M))が、0.48〜0.55、好ましくは0.49〜0.52であり、スピネル構造を取る量論比0.5にできる限り近い値とすることが特に好ましい。
【0053】
加熱処理物とリチウム源とを混合する方法としては、例えば、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、リボンブレンダー、V型混合機等の機械的撹拌手段を用いて、加熱処理物とリチウム源とを混合する方法が挙げられる。
【0054】
加熱処理物とリチウム源を混合して得られる焼成原料混合物を焼成するときの焼成温度は、850〜1100℃、好ましくは900〜1000℃である。焼成原料混合物の焼成温度が、850℃未満だと、リチウムと加熱処理物との反応が不十分になり、一方、1100℃を超えるとリチウムマンガンニッケル複合酸化物の酸素の欠損量が大きくなり過ぎ、サイクル容量維持率の劣化を招く。
【0055】
焼成工程で、焼成原料混合物を焼成するときの焼成雰囲気は、大気雰囲気又は酸素雰囲気が挙げられる。焼成工程で、焼成原料混合物を焼成するときの焼成時間は、特に制限されないが、一般に5時間以上、好ましくは8〜12時間、焼成することにより、X線回折分析において単相のリチウムニッケルマンガン系複合酸化物が得られる。
【0056】
焼成工程おける昇温速度及び降温速度は、100〜200℃/h、好ましくは140〜160℃/hである。昇温速度及び降温速度が100℃/h未満では製造効率が低下する恐れがあり、一方、昇温速度及び降温速度が200℃/hを超えると所望の電池性能が得られ難くなるばかりか、焼成鉢(炉)の割れ等が生じ易くなる。
【0057】
焼成工程を行った後、得られた焼成物を一旦冷却する。冷却温度は50℃以下とし、簡便には室温まで冷却する。また、必要により、冷却した焼成物を、解砕又は解砕及び粉砕する。
【0058】
焼成工程を行い得られる焼成物は、X線回折分析において単相の一般式(1)で表されるスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物である。焼成工程を行い得られる焼成物のBET比表面積は、好ましくは0.20〜0.80m/gであり、特に好ましくは0.30〜0.70m/gである。このような範囲のBET比表面積を有する焼成物を得るには、焼成工程での焼成時間を適切に調整すればよく、焼成時間は、具体的には5〜15時間が好ましく、8〜12時間が特に好ましい。
【0059】
焼成工程を行い得られる焼成物は、BET比表面積が上記範囲であることに加え、レーザー回折・散乱法により求められる平均粒径が10.0〜20.0μmであることが好ましく、12.0〜18.0μmであることがより好ましい。焼成物の平均粒径が前記範囲内であることが、電極密度、タップ密度及び比表面積が好適な範囲に入り、さらに充放電サイクル特性等の電池性能が向上することから特に好ましい。このような範囲の平均粒径を有する焼成物を得るには、加熱処理物の平均粒径を前記範囲内とし、焼成工程で、前記焼成温度及び焼成時間で反応を行えばよい。
【0060】
(e)アニール処理工程
アリール処理工程は、焼成工程を行い得られた焼成物を特定温度範囲で加熱するアニール処理を行う工程である。
【0061】
アニール処理工程を施すことにより、焼成工程を行い得られた焼成物に比べて、リチウムマンガンニッケル系複合酸化物のマンガンの溶出量が低減され、また、得られるリチウムマンガンニッケル系複合酸化物を正極活物質として用いたリチウム二次電池において5V放電容量領域/(5V放電容量領域+4V放電容量領域)の比率を向上させることができる。焼成工程を行い得られた焼成物は酸素の欠損があるが、特定の温度範囲でアニール処理することで、スピネル中の酸素欠損の構造が補修され、溶出の原因と考えられる三価のマンガンが、溶出しにくいと考えられる四価のマンガンに変化するためと考えられる。また、三価のマンガンが四価のマンガンに変化することで、クローン効率が向上する。即ち不可逆容量が小さくなるものと考えられる。
【0062】
アニール工程において、焼成物をアニール処理する温度は、500〜700℃、好ましくは550〜650℃である。アニール処理する温度が、500℃未満だと、短時間での十分な酸素の補償がし難くなり、一方、700℃を超えると逆に酸素の放出反応が進むようになる。
【0063】
アニール処理の雰囲気は、通常大気中、又は酸素濃度が20wt%以上の酸素雰囲気で行われる。アニール処理の時間は、スピネル中の酸素欠損の構造が十分に補修される時間行われ、この時間は長ければ長いほどスピネル中の酸素欠損の構造の補修にはよいが、あまりにも長いと返ってサイクル特性が低下する傾向があるので、この辺のバランスを考慮するとアニール処理の時間は15分〜15時間であることが好ましく、1〜15時間であることが特に好ましく、2〜10時間がより好ましい。
【0064】
アニール処理における昇温速度及び降温速度は、100〜200℃/h、好ましくは140〜160℃/hである。アニール処理における昇温速度及び降温速度が100℃/h未満だと、製造効率が低下する恐れがあり、一方、昇温速度及び降温速度が200℃/hを超えると、所望の電池性能が得られ難くなるばかりか、焼成鉢(炉)の割れ等が生じ易くなる。
【0065】
アニール処理を行った後、アニール処理物を冷却し、必要により解砕又は解砕及び粉砕を行って、目的物である一般式(1)で表されるリチウムマンガンニッケル系複合酸化物が得られる。
【0066】
アニール処理工程を行い得られるアニール処理物、すなわち、本発明のスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物の製造方法を行い得られるスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物は、下記一般式(1):
LiNiMn4−w (1)
(式中、0.9<x<1.1、0.4≦y≦0.6、1.4≦z≦1.6、0≦a≦0.2、y+z+a=2.0、0≦w<2であり、MはNi及びMn以外の原子番号11以上の元素を示す。)
で表わされ、焼成工程を行い得られる焼成物と同様に、X線回折分析において単相の一般式(1)で表されるスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物である。
【0067】
一般式(1)中、xは好ましくは0.92〜1.04、yは好ましくは0.45〜0.54、zは好ましくは1.46〜1.55、aは好ましくは0.002〜0.025、wは好ましくは0.00〜0.20である。
【0068】
本発明のスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物の製造方法を行い得られるリチウムマンガンニッケル系複合酸化物は、BET比表面積が0.20〜0.80m/g、特に0.30〜0.70m/gであることがマンガン溶出量が低くなる点で好ましい。また、本発明のスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物の製造方法を行い得られるリチウムマンガンニッケル系複合酸化物は、レーザー回折・散乱法から求められる平均粒径が8.0〜20.0μm、特に10.0〜18.0μmであることが、電極密度が向上すること及び電極塗料として取扱い易い点から好ましい。さらには、本発明のスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物の製造方法を行い得られるリチウムマンガンニッケル系複合酸化物のタップ密度は、1.20〜2.50g/cm、特に1.30〜2.40g/cmであることが電極密度が向上すること及び電極塗料として取扱い易い点から好ましい。
【0069】
本発明のスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物の製造方法を行い得られるスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物は、マンガンの溶出量が低減されたものであり、リチウム二次電池における正極活物質として特に有用である。本発明のスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物の製造方法を行い得られるスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物をリチウム二次電池の正極活物質として用いることにより、充放電サイクル特性に優れ、且つクーロン効率、放電容量維持率及び5V放電容量領域/(5V放電容量領域+4V放電容量領域)の比率が高いリチウム二次電池を提供することができる。
【0070】
リチウム二次電池は、正極、負極、セパレータ及びリチウム塩を含有する非水電解液を有している。正極は、例えば、正極集電体上に正極合剤を塗布乾燥して形成されるものである。
【0071】
本発明のリチウム二次電池用正極合剤は、本発明のスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物の製造方法により得られるスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物からなる正極活物質、導電剤、結着剤及び必要により添加されるフィラー等を含む。
【0072】
正極集電体としては、構成された電池において化学変化を起こさない電子伝導体であれは特に制限されるものでないが、例えば、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、チタン、焼成炭素、アルミニウムやステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀を表面処理させたもの等が挙げられる。
【0073】
導電剤としては、例えば、天然黒鉛及び人工黒鉛等の黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、炭素繊維や金属、ニッケル粉等の導電性材料が挙げられ、天然黒鉛としては、例えば、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛及び土状黒鉛等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。導電剤の配合比率は、正極合剤中、1〜50質量%、好ましくは2〜30質量%である。
【0074】
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ジアセチルセルロース、ポリビニルピロリドン、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム、ポリエチレンオキシドなどの多糖類、熱可塑性樹脂、ゴム弾性を有するポリマー等が挙げられ、これらは1種または2種以上組み合わせて用いることができる。結着剤の配合比率は、正極合剤中、2〜30質量%、好ましくは5〜15質量%である。
【0075】
フィラーは、正極合剤において正極の体積膨張等を抑制するものであり、必要により添加される。フィラーとしては、構成された電池において化学変化を起こさない繊維状材料であれば何でも用いることができるが、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、ガラス、炭素等の繊維が用いられる。フィラーの添加量は特に限定されないが、正極合剤中、0〜30質量%が好ましい。
【0076】
負極は、例えば、負極集電体上に負極材料を塗布乾燥して形成される。負極集電体としては、構成された電池において化学変化を起こさない電子伝導体であれは特に制限されるものでないが、例えば、ステンレス鋼、ニッケル、銅、チタン、アルミニウム、焼成炭素、銅やステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀を表面処理させたもの、及びアルミニウム−カドミウム合金等が挙げられる。
【0077】
負極材料としては、特に制限されるものではないが、例えば、炭素質材料や金属複合酸化物、リチウム金属、リチウム合金等が挙げられる。炭素質材料としては、例えば、難黒鉛化炭素材料、黒鉛系炭素材料等が挙げられる。金属複合酸化物としては、例えば、Sn1−p(式中、Mは、Mn、Fe、Pb及びGeから選ばれる1種以上の元素を示し、MはAl、B、P、Si、周期律表第1族、第2族、第3族及びハロゲン元素から選ばれる1種以上の元素を示し、0<p≦1、1≦q≦3、1≦r≦8を示す)、チタン酸リチウム等の化合物が挙げられる。
【0078】
セパレータとしては、大きなイオン透過度を持ち、所定の機械的強度を持った絶縁性の薄膜が用いられる。耐有機溶剤性と疎水性からポリプロピレンなどのオレフィン系ポリマーあるいはガラス繊維あるいはポリエチレンなどからつくられたシートや不織布が用いられる。セパレータの孔径としては、一般的に電池用として有用な範囲であればよく、例えば、0.01〜10μmである。セパレータの厚みとしては、一般的な電池用の範囲であればよく、例えば5〜300μmである。なお、後述する電解質としてポリマーなどの固体電解質が用いられる場合には、固体電解質がセパレータを兼ねるようであってもよい。また、放電や充放電特性を改良する目的で、ピリジン、トリエチルフォスファイト、トリエタノールアミン、イオン性液体等の化合物を電解質に添加してもよい。
【0079】
リチウム塩を含有する非水電解質は、非水電解質とリチウム塩とからなるものである。非水電解質としては、非水電解液又は有機固体電解質が用いられる。非水電解液としては、例えば、N−メチル−2−ピロリジノン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、メチルエチルカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロキシフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、蟻酸メチル、酢酸メチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、3−メチル−2−オキサゾジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、ジエチルエーテル、1,3−プロパンサルトン等の非プロトン性有機溶媒の1種または2種以上を混合した溶媒が挙げられる。
【0080】
有機固体電解質としては、例えば、ポリエチレン誘導体又はこれを含むポリマー、ポリプロピレンオキサイド誘導体又はこれを含むポリマー、リン酸エステルポリマー等が挙げられる。リチウム塩としては、上記非水電解質に溶解するものが用いられ、例えば、LiClO、LiBF、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiB10Cl10、LiAlCl、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、四フェニルホウ酸リチウム等の1種または2種以上を混合した塩が挙げられる。
本発明のリチウム二次電池用正極合剤は、本発明のスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物の製造方法により得られるスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物からなる正極活物質、導電剤、結着剤及び必要により添加されるフィラー等を含む。
【0081】
本発明のリチウム二次電池は、正極合剤として、本発明の正極合剤、すなわち、本発明のスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物の製造方法により得られるスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物を含む正極合剤を用いるリチウム二次電池である。
【0082】
リチウム二次電池の形状はボタン、シート、シリンダー、角等いずれにも適用できる。本発明に係るリチウム二次電池の用途は、特に限定されないが、例えば、ノートパソコン、ラップトップパソコン、ポケットワープロ、携帯電話、コードレス子機、ポータブルCDプレーヤー、ラジオ等の電子機器、自動車、電動車両、ゲーム機器等の民生用電子機器が挙げられる。
【実施例】
【0083】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0084】
(実施例1〜3)
(a)噴霧原料スラリー調製工程
炭酸マンガン(平均粒径27.3μm)及び水酸化ニッケル(平均粒径20.3μm)を、Ni原子:Mn原子のモル比が25:75の割合となるように秤量し、これに純水を加えて固形分濃度が25.0質量%のスラリーを作成した。次いで、ビーズミル(スターミルLMZ4 アシザワファインテック社製)に水を加え、更に、ビーズミルに、直径0.5mmのジルコニアボールを仕込み、平均粒径が表1に示す値となるように、粉砕強度(周速)と送液速度(流速)、処理回数の条件を制御しながら、湿式粉砕処理を行い、25.0質量%のスラリー濃度の噴霧原料スラリーを調製した。
なお、スラリー中の固形分の平均粒径を、レーザー回折・散乱法(日機装社製、マイクロトラックMT3300EXII粒度分析計、MTEX−SDU)により求めた。
【0085】
(b)噴霧乾燥工程
次いで、上記で調製した噴霧原料スラリーを、入口の温度を表2の温度に設定したスプレードライヤーに、表2に示した供給速度で供給し、凝集体の粒子形状が球状の噴霧乾燥物を得た。得られた噴霧乾燥物の諸物性を表2に示す。また、実施例3で得られた噴霧乾燥物のSEM写真を図1に示す。
【0086】
<平均粒径、微粒子分の含有量>
噴霧乾燥物の平均粒径を、日機装社製、マイクロトラックMT3300EXII粒度分析計、MTEX−SDUにより測定した。また、噴霧乾燥物に含有される粒径1.0μm以下の微粒子分の含有量を、上記マイクロトラックMT3300EXII粒度分析計により測定した。
<タップ密度>
メスシリンダーを完全に乾燥させ、空のメスシリンダーの質量を測定する。薬包紙に試料を約30gはかりとる。漏斗を使用し、100mlメスシリンダ−中に試料を移し入れる。メスシリンダ−を自動T.D測定装置(ユアサアイオニクス(株)製、デュアルオ−トタップ)にセット、タッピング回数を500回に調整し、タッピングを行い、試料面の目盛りを読み取り、メスシリンダーの重量を測定して算出する(タッピング高さ 3.2mm、タッピングペ−ス200回/分)
【0087】
(c)加熱処理工程
上記で調製した球状の噴霧乾燥物を、大気雰囲気下で、表3に示す条件で大気炉にて加熱し、凝集体の粒子形状が球状の加熱処理物を得た。得られた加熱処理物の諸物性を表3に示す。
なお、加熱処理物の平均粒径、粒径1.0μm以下の微粒子分の含有量及びタップ密度の測定方法は、前記(b)工程と同様である。また、実施例3で得られた加熱処理物のSEM写真を図2に示す。
【0088】
(d)焼成工程
得られた球状の加熱処理物と炭酸リチウム(平均粒径6.1μm)とを、噴霧乾燥物物のNi原子及びMn原子の合計のモル数(A)に対するLi原子のモル数の比(Li/A)が表4の割合になるように秤量し、混合処理を行い焼成原料混合物を得た。
上記で得られた焼成原料混合物を表3に示す温度と時間、大気雰囲気下に大気炉で焼成し、冷却後に軽く粉砕して、二次粒子の粒子形状が球状の焼成物を得た。なお、得られた焼成物をX線回折分析したところ、いずれの実施例のものも、単相のリチウムマンガンニッケル系複合酸化物であることを確認した。
【0089】
(e)アニール処理工程
上記で得られた焼成物を大気中、表3に示す温度と時間でアニール処理し、冷却後に粉砕及び分級を行って、Li1.0Ni0.5Mn1.5で表わされる二次粒子の粒子形状が球状のスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物を得た。
なお、アニール処理後のリチウムマンガンニッケル系複合酸化物をX線回折分析したところ、単相のリチウムマンガンニッケル系複合酸化物であることを確認した。また、実施例3で得られたリチウムマンガンニッケル系複合酸化物のSEM写真を図3に示す。
【0090】
(比較例1)
(a)噴霧原料スラリー調製工程において、噴霧原料スラリー中の固形分の平均粒径が1.81μmのものを調製して用いた以外は、実施例1と同様にしてLi1.0Ni0.5Mn1.5で表わされるスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物を得た。
なお、得られたリチウムマンガンニッケル系複合酸化物をX線回折分析したところ単相のリチウムマンガンニッケル系複合酸化物であることを確認した。
【0091】
(比較例2)
(c)加熱処理工程での加熱処理を600℃で8時間として、加熱処理物の平均粒径が12.0μmであり、且つ粒径1.0μm以下の微粒子分の含有量が1.0質量%、BET比表面積が14.65m/g、タップ密度が1.01g/cmとした以外は、実施例2と同様にしてLi1.0Ni0.5Mn1.5で表わされるスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物を得た。
なお、得られたリチウムマンガンニッケル系複合酸化物をX線回折分析したところ単相のリチウムマンガンニッケル系複合酸化物であることを確認した。
【0092】
(比較例3)
(d)焼成工程の焼成温度を800℃で12時間にした以外は実施例3と同様にしてリチウムマンガンニッケル系複合酸化物を得た。
なお、得られたリチウムマンガンニッケル系複合酸化物をX線回折分析したところ単相のリチウムマンガンニッケル系複合酸化物であることを確認した。
【0093】
(比較例4)
(e)アニール処理工程を行わなかったこと以外は実施例2と同様にしてLi1.0Ni0.5Mn1.5で表わされるスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物を得た。
なお、得られたリチウムマンガンニッケル系複合酸化物をX線回折分析したところ単相のリチウムマンガンニッケル系複合酸化物であることを確認した。
【0094】
(参考例1)
市販のニッケルとマンガンの共沈体(田中化学社製)を用いて、加熱処理工程の加熱処理を900℃で8時間行い、焼成工程の焼成を900℃で12時間行い、アニール処理工程のアニール処理を600℃で15時間行い、リチウムマンガンニッケル系複合酸化物を得た。また、参考例1で得られたリチウムマンガンニッケル系複合酸化物のSEM写真を図4に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
【表3】

【0098】
【表4】

【0099】
<リチウムニッケルマンガン複合酸化物の物性評価>
実施例、比較例及び参考例で得られたリチウムニッケルマンガン複合酸化物について、平均粒径、BET比表面積、タップ密度、加速試験によるマンガンの溶出量を求めた。また、その結果を表5に示す。
【0100】
(平均粒径の測定)
リチウムニッケルマンガン系複合酸化物(二次粒子)の平均粒子を、レーザー回折・散乱法により求めた。また、実施例3及び比較例2で得られたリチウムマンガンニッケル系複合酸化物の粒度分布図を図5及び図6にそれぞれ示した。
【0101】
(タップ密度)
(b)の工程と同様にして測定した。
【0102】
(マンガン溶出量の測定)
0.5000gのリチウムマンガンニッケル系複合酸化物を密閉可能なテフロン(登録商標)容器に入れた。この容器を120℃に加熱された真空乾燥器に一晩入れて水分を除去した。容器を真空乾燥機から取り出した後、ドライエアー雰囲気下で10.0mlの電解液をテフロン(登録商標)容器内へ入れ容器の蓋をした。電解液はエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの体積比1:2混合液1リットルにLiPF1モルを溶解したものであった。容器を上下に振って複合酸化物と電解液とをしっかり混合させた後、容器を60℃の恒温槽に入れて24時間放置した。この間、数時間に1回は容器を振って両者を混合させた。24時間経過後、容器を恒温槽から取り出し、容器内の電解液を0.45μmのフィルターで濾過した。2.0gの濾液を100mLのメスフラスコに入れ、そのメスフラスコに超純水:エタノール=9:1(重量比)の混合溶媒を加えて希釈し定容した。メスフラスコをよく振った後、原子吸光分析法でマンガンの濃度を定量した。その定量値に基づいて、リチウムマンガンニッケル系複合酸化物1.0gあたりにつき電解液中にどれだけマンガンが溶解したかを換算してマンガン溶出量を求めた。
【0103】
【表5】

【0104】
<電池性能試験>
(1)リチウム二次電池の作製
実施例、比較例及び参考例で得られたリチウムマンガンニッケル系複合酸化物95質量量%、黒鉛粉末2.5質量%、ポリフッ化ビニリデン2.5質量%を混合して正極剤とし、これをN−メチル−2−ピロリジノンに分散させて混練ペーストを調製した。混練ペーストをアルミ箔に塗布したのち乾燥、プレスして直径15mmの円盤に打ち抜いて正極板を得た。
この正極板を用いて、セパレーター、負極、正極、集電板、取り付け金具、外部端子、電解液等の各部材を使用してコイン型リチウム二次電池を製作した。このうち、負極は金属リチウム箔を用い、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとメチルエチルカーボネートの25:60:15混練液1リットルにLiPF6を1モルを溶解したものを使用した。
【0105】
(2)電池性能の評価
<初期放電容量>
リチウム二次電池について、25℃で初期放電容量を測定した。充電は、電流値0.5Cで5.0VまでCCCV(0.05Cの電流値となったら充電終了)で行い、放電は電流値0.2Cで3.0VまでCCで行なった。
【0106】
<10サイクル目のクーロン効率>
前述の初期放電容量の測定に用いたリチウム二次電池について、10サイクル目の放電容量及び10サイクル目の充電容量を測定し、10サイクル目の放電容量/10サイクル目の充電容量×100から10サイクル目のクーロン効率を算出した。
【0107】
<20サイクル目の放電容量維持率>
前述の初期放電容量の測定に用いたリチウム二次電池について、1サイクル目の放電容量及び20サイクル目の充電容量を測定し、20サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量×100から20サイクル目の放電容量維持率を算出した。
【0108】
<20サイクル目のエネルギー維持率>
前述の初期放電容量の測定に用いたリチウム二次電池について、1サイクル目のエネルギー密度(放電容量×電圧)及び20サイクル目のエネルギー密度を求め、20サイクル目のエネルギー密度/1サイクル目のエネルギー密度×100から20サイクル目のエネルギー維持率を算出した。
【0109】
<最高平均作動電圧>
前述の初期放電容量の測定に用いたリチウム二次電池について、測定したサイクルの中で50%放電時の作動電圧が最も高かった時のサイクルの電圧を最高作動電圧とした。
【0110】
<4.5−5.0V/3.0−5.0Vの放電容量比>
前述の初期放電容量の測定に用いたリチウム二次電池について、5V放電容量領域/(5V放電容領域+4V放電容領域)の比率を確認するため、放電時のCut電圧を4.5Vと3.0Vとして4.5〜5.0Vの放電容量/3.0〜5.0Vの放電容量×100から放電容量比を算出した。
【0111】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明によれば、共沈法によらず、リチウム二次電池の正極活物質として用いたときに、充放電サイクル特性に優れ、且つクローン効率、及び5V放電容量領域/(5V放電容量領域+4V放電容量領域)の比率が高いリチウム二次電池とすることができるスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物の製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガン源及びニッケル源、又はマンガン源、ニッケル源及びM源とを湿式混合及び粉砕して、固形分の平均粒径が1.00μm以下の噴霧原料スラリーを得る噴霧原料スラリー調製工程と、
該噴霧原料スラリーを噴霧乾燥して噴霧乾燥物を得る噴霧乾燥工程と、
該噴霧乾燥物を加熱処理して、平均粒径が5.0〜20.0μmであり且つ粒径1.0μm以下の微粒子分の含有量が0.5質量%以下である加熱処理物を得る加熱処理工程と、
該加熱処理物と、リチウム源とを混合して焼成原料混合物を得、次いで、該焼成原料混合物を850〜1100℃で焼成して、焼成物を得る焼成工程と、 該焼成物を500〜700℃でアニール処理して、下記一般式(1):
LiNiMn4−w (1)
(式中、0.9<x<1.1、0.4≦y≦0.6、1.4≦z≦1.6、0≦a≦0.2、y+z+a=2.0、0≦w<2であり、MはNi及びMn以外の原子番号11以上の元素を示す。)
で表されるスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物を得るアニール処理工程と、
を有することを特徴とするスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記加熱処理工程で、前記噴霧乾燥物を加熱処理するときの加熱処理温度が850〜1100℃であることを特徴とする請求項1記載のスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記加熱処理物のBET比表面積が0.40〜1.50m/gであることを特徴とする請求項1又は2記載のスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記加熱処理物のタップ密度が0.80〜2.00g/cmであることを特徴とする請求項1乃至3記載のスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4記載の方法によって製造されたスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物。
【請求項6】
請求項1乃至4記載の方法によって製造されたスピネル型リチウムルマンガンニッケル系複合酸化物を含むリチウム二次電池用正極合剤。
【請求項7】
正極合剤として、請求項1乃至4記載の方法によって製造されたスピネル型リチウムマンガンニッケル系複合酸化物を含む正極合剤を用いるリチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−10677(P2013−10677A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145753(P2011−145753)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】