説明

スピーカ共用システム

【目的】騒音キャンセルと並行して音楽再生を長時間継続しても、スピーカの周波数特性が変化しないようにして騒音キャンセルを正常に行なえるようにする「スピーカ共用システム」を提供する。
【構成】オーディオ装置と騒音キャンセル装置とでスピーカを共用するスピーカ共用システムにおいて、オーディオ信号のレベル、あるいはオーディオ信号と騒音キャンセル信号の合成信号のレベルを検出し、該検出レベルが設定レベル以上になったか監視し、検出レベルが設定レベル以上になったとき騒音キャンセルを停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスピーカ共用システムに関わり、特に、オーディオ装置と騒音キャンセル装置とでスピーカを共用するスピーカ共用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
騒音対策としては、従来より騒音と逆位相の騒音キャンセル音をスピ−カから放射して騒音を低減する方法(アクティブ制御)が脚光を浴び、工場やオフィス、自動車などの室内空間の一部に実用化されている。
図4は従来の騒音キャンセルを実現する装置の構成図であり(特許文献1参照)、11は騒音源であるエンジン、12はエンジン回転数Rを検出する回転数センサ、13はエンジン回転数Rに応じた周波数を有する一定振幅の正弦波信号を参照信号xとして発生する参照信号発生部である。騒音源がエンジンの場合、エンジン回転により発生するノイズは周期性を有し(周期性ノイズ)、その周波数はエンジン回転数に依存する。例えば、4気筒エンジンの場合、車室内に発生する周期性ノイズはエンジン回転数の2次高調波が支配的であり、アイドル回転時に車室内に発生するノイズの周波数は20Hz、回転数が3600rpmの時に車室内に発生するノイズの周波数は120Hzである。参照信号発生部13は、2次高調波の正弦波データをROM(図示せず)に記憶しておき、そのデータを必要に応じて読み出して出力することにより参照信号xを生成する。
【0003】
14は騒音キャンセルコントローラであり、参照信号発生部13から発生する参照信号xを入力されると共に、車室内の騒音キャンセル位置(観測点であり例えば運転者の耳元近傍)における騒音Snとキャンセル音Scの合成音信号をエラ−信号eとして入力され、該エラ−信号のパワーが最小となるように適応信号処理を行って騒音キャンセル信号yを出力する。騒音キャンセルコントローラ14は、適応信号処理部14aと、デジタルフィルタ構成の適応フィルタ14bと、参照信号xにスピーカから騒音キャンセル点までのキャンセル音伝搬系の伝搬特性(伝達関数)を畳み込んで信号処理用参照信号rを作成するフィルタ(フィルタードX信号作成用フィルタ)14cを有している。15は適応フィルタ14bの出力信号(騒音キャンセル信号y)をアナログの騒音キャンセル信号に変換するDAコンバータ、16はキャンセル音周波数帯域外の高周波信号を除去するローパスフィルタLPF、17は騒音キャンセル信号を増幅するパワ−アンプ、18は騒音キャンセル音Scを放射するキャンセルスピ−カ、19は騒音キャンセル点に配置され、騒音Snとキャンセル音Scの合成音を検出し、合成音信号をエラ−信号eとして出力するエラ−マイク、20はエラー信号eを増幅するアンプ、21は周期性ノイズの帯域外の騒音信号を除去するローパスフィルタ、22はローパスフィルタ出力をデジタルに変換するADコンバータである。
【0004】
適応信号処理部14aは騒音キャンセル点におけるエラー信号eとフィルタ14cを介して入力される信号処理用参照信号rを入力され、これら信号を用いて騒音キャンセル点における騒音をキャンセルするように適応信号処理を行って適応フィルタ14bの係数を決定する。例えば適応信号処理部14aは周知のLMS (Least Mean Square)適応アルゴリズムに従って、エラ−マイク19から入力されたエラ−信号eが最小となるように適応フィルタ14bの係数を決定する。適応フィルタ14bは適応信号処理部14aにより決定された係数に従って参照信号xにデジタルフィルタ処理を施して騒音キャンセル信号yを出力する。尚、参照信号xは、消去したい騒音Snと相関の高い信号でなくてはならず、参照信号と相関のない音は消去されない。
【0005】
エンジン11が回転すると、その回転数Rは回転数センサ12により検出され、参照信号発生部13はエンジン回転数Rに応じた周波数の参照信号xを発生し、騒音キャンセルコントローラ14に入力する。この時、エンジン11から発生した周期性を有するエンジン音(周期性ノイズ)は、所定の伝達関数を有する騒音伝搬系を有する空中を伝播して騒音キャンセル点に至り、騒音Snとなる。エラ−マイク19は騒音Snとキャンセル音Scの差であるエラ−信号eを出力し、騒音キャンセルコントローラ14は、LMS適応アルゴリズムに従って、該エラ−信号eのパワーが最小となるように騒音キャンセル信号yを出力する。
【0006】
この図4の騒音キャンセル装置は、オーディオ装置と無関係に設計、構成されるため、DAコンバータやパワーアンプ、スピーカがオーディオ装置と騒音キャンセル装置の両方で必要となり、システムの大型化やコストアップの要因になる。そこで、図5に示すようオーディオ装置と騒音キャンセル装置とでDAコンバータやパワーアンプ、スピーカを共用するシステムが提案されている(特許文献2)。図5において、図4と同一部分には同一符号を付している。
オーディオユニット51は図示しないオーディオソース(CDプレーヤ、ミニディスクプレーヤ等)から入力するディジタルオーディオデータDADに種々の加工(周波数特性、音量、音質調整等)を施して出力する。加算部52はオーディオユニット51から入力するオーディオ信号Aと騒音キャンセルコントローラ14から入力する騒音キャンセル信号yを加算し、DAコンバータ53はオーディオ信号と騒音キャンセル信号の合成信号をアナログ信号に変換し、ローパスフィルタ54はオーディオ周波数帯域外の不要信号を該アナログ信号より除去し、パワーアンプ55は合成信号を増幅してスピーカ56に入力し、該スピーカよりオーディオ音Saと騒音キャンセル音Scを車室内空間に放射する。
騒音キャンセル点に配置されたエラーマイク19は、騒音Snとキャンセル音Scの合成音(オーディオ音声も含む)を検出し、合成音信号をエラ−信号eとしてアンプ20、ローパスフィルタ21、ADコンバータ22を介して騒音キャンセルコントローラ14に入力する。騒音キャンセルコントローラ14は、LMS適応アルゴリズムに従って、該エラ−信号eのパワーが最小となるように騒音キャンセル信号yを発生して加算部52に入力する。以後、上記と同様の制御が繰り返されて最終的に騒音がキャンセルされる。なお、参照信号xはキャンセルしたい騒音と相関を有する必要があり、参照信号xと相関のないもの、例えばオーディオ音声はキャンセルされない。
また、オーディオ装置と騒音キャンセル装置とでスピーカを共用するシステムにおいて、スピーカ出力レベルが音を歪ませるレベル以上になったとき、オーディオ信号の出力レベルを所定分低下させる従来技術がある(特許文献3参照)。
【特許文献1】特許3432845号
【特許文献2】特開5−11773号公報
【特許文献3】特許3508152号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2のシステム(図5)では、音楽信号再生時、音楽信号とキャンセル音信号が合成され、低域周波数成分が増強されてスピーカに入力する。長時間このような状況が続くと、スピーカに低域再生による負担が蓄積され、時間の経過と共にスピーカ周波数特性が変化し、これにより車室内音響伝達特性が変化する。特に、音楽信号の低域周波数成分のパワーが大きいときこの傾向が強い。スピーカ周波数特性が変化して車室内音響伝達特性が変化すると、騒音キャンセルコントローラ14のフィルタ14cは、正確にスピーカから騒音キャンセル点までのキャンセル音伝搬系の伝達特性を表現できず、該伝達特性を参照信号xに畳み込んで信号処理用参照信号rを作成することができなくなり、騒音キャンセル動作に不具合が生じる。たとえば、適応フィルタ14bのフィルタ係数が収束せず、発散して車室内の騒音が大きくなる恐れがある。
特許文献3は、スピーカから出力される音の歪みを防止するものであり、上記の騒音キャンセル動作の不具合を防止するものではない。また、特許文献3のシステムはオーディオ信号レベルを低下させるものであるため音量変換に起因する違和感が発生する。
本発明の目的は、騒音キャンセルと並行して音楽再生を長時間継続してもスピーカの周波数特性が変化しないようにすることである。
本発明の別の目的は、騒音キャンセルと並行して音楽再生を長時間継続しても騒音キャンセルを正常に行なえるようにすることである。
本発明の別の目的は、オーディオ信号レベルを制御することなくスピーカの周波数特性が変化しないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、オーディオ装置と騒音キャンセル装置とでスピーカを共用するスピーカ共用システムである。
本発明の第1のスピーカ共用システムは、オーディオ信号レベルを検出するオーディオ信号レベル検出部、オーディオ信号レベルが設定レベル以上になったか監視する監視部、オーディオ信号レベルが設定レベル以上になったとき騒音キャンセルを停止する騒音キャンセル部を備えている。
本発明の第2のスピーカ共用システムは、オーディオ信号と騒音キャンセル信号の合成信号レベルを検出する信号レベル検出部、合成信号レベルが設定レベル以上になったか監視する監視部、合成信号レベルが設定レベル以上になったとき騒音キャンセルを停止する騒音キャンセル部を備えている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、オーディオ装置と騒音キャンセル装置とでスピーカを共用するスピーカ共用システムにおいて、オーディオ信号レベルを検出し、該オーディオ信号レベルが設定レベル以上になったときに騒音キャンセルを停止するようにしたから、低域周波数成分のパワーが増強されてスピーカに入力することがなくなる。このため、本発明によれば、騒音キャンセルと並行して音楽再生を長時間継続しても、スピーカの周波数特性が変化しないようにでき、騒音キャンセルを正常に行なうことができる。
また、本発明によれば、オーディオ信号レベルを制御せず、騒音キャンセルを停止することにより大きな低域周波数成分がスピーカに入力するのを防止できる。このため、オーディオ音量変化に起因する違和感は発生しない。また、騒音キャンセルを停止する際、オーディオ信号レベルが大きいため、マスキング効果により騒音は聞こえにくくなっており騒音キャンセルを停止しても問題はない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(A) 第1実施例
図1は第1実施例のオーディオ装置と騒音キャンセル(ANC:Active Noise Control)装置とでスピーカを共用するスピーカ共用システムの構成図である。
騒音キャンセルは図5で説明したように行なわれる。すなわち、エンジンが回転すると、参照信号発生部13はエンジン回転数に応じた周波数の参照信号xを発生し、騒音キャンセルコントローラ14に入力する。この時、エンジンから発生した周期性を有するエンジン音(周期性ノイズ)は、所定の伝達関数を有する騒音伝搬系を有する空中を伝播して騒音キャンセル点に至り、騒音Snとなる。騒音キャンセルコントローラ14は、LMS適応アルゴリズムに従って、エラ−信号eのパワーが最小となるように騒音キャンセル信号yを出力する。
【0011】
オーディオユニット51は図示しないオーディオソースから入力するディジタルオーディオデータDADに種々の加工(周波数特性、音量、音質調整等)を施して出力する。加算部52はオーディオユニット51から入力するオーディオ信号Aと騒音キャンセルコントローラ14から入力する騒音キャンセル信号yを加算し、DAコンバータ53はオーディオ信号と騒音キャンセル信号の合成信号をアナログ信号に変換し、ローパスフィルタ54はオーディオ周波数帯域外の不要信号を該アナログ信号より除去し、パワーアンプ55は合成信号を増幅してスピーカ56に入力し、該スピーカよりオーディオ音Saと騒音キャンセル音Scを車室内空間に放射する。
騒音キャンセル点に配置されたエラーマイク19は、騒音Snとキャンセル音Scの合成音(オーディオ音声も含む)を検出し、合成音信号をエラ−信号eとしてアンプ20に入力し、ローパスフィルタ21は周期性ノイズの帯域外の騒音信号を除去し、ADコンバータ22はローパスフィルタ出力をデジタルに変換して騒音キャンセルコントローラ14に入力する。騒音キャンセルコントローラ14は、前述のようにLMS適応アルゴリズムに従って、エラ−信号eのパワーが最小となるように騒音キャンセル信号yを発生して加算部52に入力する。以後、上記と同様の制御が繰り返されて最終的に騒音がキャンセルされる。
【0012】
かかる騒音キャンセルとオーディオ音出力が並行して行なわれているとき、オーディオ信号検出ユニット60のローパスフィルタ61は騒音キャンセル(ANC)動作周波数範囲内の低周波オーディオ信号成分を通過、出力する。ANC動作周波数範囲は例えば30Hz〜120Hzである。レベル検出部62はローパスフィルタ61から出力するオーディオ信号の低周波信号レベルを検出し、比較部63はオーディオ信号の低周波信号レベルが設定レベルTH(図2(A)参照)より大きいかチェック、比較結果を騒音キャンセルコントローラ14に入力する。なお、設定レベルTHは、オーディオ信号とキャンセル音信号を合成したとき、該合成信号のパワーがスピーカの周波数特性を劣化させる合成信号レベルTH′に応じたオーディオ信号のレベルである。たとえば、設定レベルTHは、該合成信号レベルTH′より騒音キャンセル音信号レベルNLを差し引いた値である。
騒音キャンセルコントローラ14は、オーディオ信号の低周波信号レベルが設定レベルTHより小さければ騒音キャンセル制御を続行し、設定レベルTHより大きければ、騒音キャンセル制御を停止してy=0にする。この結果、騒音キャンセル信号がオーディオ信号に重畳されることがなくなり低周波信号レベルが低下し、低周波の大パワーが長時間スピーカに入力して、該スピーカの周波数特性を変化することから防止する。
また、騒音キャンセルコントローラ14は、騒音キャンセル停止時に、オーディオ信号の低周波信号レベルが設定レベルTHより小さくなれば、騒音キャンセル制御を再開する。
以上では、設定レベルTHとして1つ設定した場合であるが、図2(B)に示すように、騒音キャンセル制御を停止するレベルTH1と騒音キャンセル制御を再開するレベルTH2との間にヒステリシスを設けても良い。このようにヒステリシスを設けることにより、騒音キャンセル制御のオン・オフが頻繁に繰り返されるのを防止することができる。
【0013】
第1実施例によれば、低域周波成分のパワーが増強されてスピーカに入力することがないため、騒音キャンセルと並行して音楽再生を長時間継続しても、スピーカの周波数特性が変化しないようにでき、騒音キャンセルを正常に行なうことができる。また、第1実施例によれば、オーディオ信号レベルを制御しないため音量変化に起因する違和感をなくすことができる。この際、オーディオ信号レベルが大きいため、マスキング効果により騒音が聞こえにくくなり騒音キャンセルを停止しても問題はない。
【0014】
(B)第2実施例
図3は第2実施例のオーディオ装置と騒音キャンセル装置とでスピーカを共用するスピーカ共用システムの構成図であり、図1の第1実施例と同一部分には同一符号を付している。図1と異なる点は、オーディオ信号検出ユニット60が、加算部52から出力されるオーディオ信号と騒音キャンセル信号の合成信号のレベルを検出し、該合成信号レベルが設定レベルTH′以上になったとき騒音キャンセルを停止し、設定レベル以下になったとき騒音キャンセルを再開する点である。なお、設定レベルTH′は合成信号がスピーカの周波数特性を劣化させるレベルである。
第2実施例によっても第1実施例と同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施例のオーディオ装置と騒音キャンセル装置とでスピーカを共用するスピーカ共用システムの構成図である。
【図2】騒音キャンセル制御を停止する設定レベルの説明図である。
【図3】第2実施例のオーディオ装置と騒音キャンセル装置とでスピーカを共用するスピーカ共用システムの構成図である。
【図4】従来の騒音キャンセルを実現する装置の構成図である。
【図5】従来の騒音キャンセルを実現するシステムの別の構成図である。
【符号の説明】
【0016】
13 参照信号発生部
14 騒音キャンセルコントローラ
19 エラーマイク
21 ローパスフィルタ
51オーディオユニット
52 加算部
54 ローパスフィルタ
55 パワーアンプ
56 スピーカ
60 オーディオ信号検出ユニット
61 ローパスフィルタ
62 レベル検出部
63 比較部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーディオ装置と騒音キャンセル装置とでスピーカを共用するスピーカ共用システムにおいて、
オーディオ信号レベルを検出するオーディオ信号レベル検出部、
オーディオ信号レベルが設定レベル以上になったか監視する監視部、
オーディオ信号レベルが設定レベル以上になったとき騒音キャンセルを停止する騒音キャンセル部、
を備えたことを特徴とするスピーカ共用システム。
【請求項2】
オーディオ装置と騒音キャンセル装置とでスピーカを共用するスピーカ共用システムにおいて、
オーディオ信号と騒音キャンセル信号の合成信号レベルを検出する信号レベル検出部、
合成信号レベルが設定レベル以上になったか監視する監視部、
合成信号レベルが設定レベル以上になったとき騒音キャンセルを停止する騒音キャンセル部、
を備えたことを特徴とするスピーカ共用システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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