説明

スピーカ用接着剤およびこれを用いたスピーカ

【課題】本発明は各種音響機器に使用されるスピーカとその組み立て用接着剤に関するものである。環境に優しく、プライマーレスによる工程削減による低コスト化・高信頼性を満たすスピーカを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は主鎖を構成する繰り返し単位が炭化水素系である末端反応性接着剤を、PP樹脂が使用される部位に使うことによって、工程数の削減を図ることができる環境面やコスト面に優れたスピーカを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
音響機器や映像機器に使用されるスピーカの組み立てに使用する接着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シックハウス、シックカー等に代表されるように近年になって住居空間において電気電子機器等の製品から揮発する揮発生有機化合物低減(以下VOC規制と記載)に対する要求が高まっている。接着剤を用いた貼り合せ構造体と言っても過言でないスピーカにおいては、VOC規制に対応し消費者に快適な製品を提供するためには、使用する接着剤に含まれる溶剤を減量させることが重要となる。
【0003】
スピーカ用接着剤としては、従来から溶剤型ゴム系接着剤も多く用いられており、トルエン、キシレン等の溶剤を含むとともに、クロロプレン/フェノール系接着剤のホルムアルデヒドに代表されるアルデヒド類を含有することが多く、VOC規制対応の対象となる化合物を多く含有する。
【0004】
VOC規制対応の接着剤として、無溶剤接着剤に着眼する方向で鋭意検討されており、主鎖の骨格が柔軟であり粘度低減が容易である変成シリコーン系接着剤(主鎖はオキシプロピレン系重合体で末端が加水分解性シリル基であり、ポリシロキサンの変性した変性シリコーンをさしていない)が主として検討されている。
【0005】
尚、この発明に関する先行技術文献としては、例えば特許文献1が知られている。
【特許文献1】特公平7−103358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スピーカ部品は、コスト・内部損失等の優れたポリプロピレン樹脂(以下PP樹脂と記載)をフレームや振動板に用いるケースが圧倒的に多い。しかしながらPP樹脂は難接着素材であり、前記先行技術においてもPP樹脂と接着する際は塩素化ポリオレフィン等とトルエン等の溶剤で溶かした環境に悪いプライマーをPP樹脂に塗布した後に接着剤を塗布することになる。以上のように環境面でもコスト面でも工程数アップによる課題を有するものであった。
【0007】
本発明はスピーカにおいてPP樹脂にもノンプライマーで使用できる無溶剤接着剤を使用して環境に優しく、低コストでスピーカ特性を満足できる接着剤を用いたスピーカを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は無溶剤でPP樹脂にも良好な接着性を示し低粘度化も可能な接着剤に関して鋭意検討を重ねた。
【0009】
すなわち、本発明は、スピーカの組み立てに使用される接着剤の主成分の主鎖が繰り返し単位が炭化水素であり、その数平均分子量が500以上で、かつ50000以下の重合体であり、末端反応で硬化する無溶剤接着剤を使用した構成としたものである。
【発明の効果】
【0010】
以上のように本発明は、PP樹脂においてもノンプライマーで使用でき、工程数の削減を図ることができる環境面やコスト面で優れたスピーカを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
接着剤の主成分は、PP樹脂の接着性の良好な炭化水素系のものであれば特に制限はない。入手が容易な柔軟なゴムになる点でポリイソプレン、ポリイソブチレンが好ましく、低粘度化の点では、分子構造のかさ高さが小さいポリイソプレンが最も好ましい。
【0012】
又、接着剤としての粘度は、低すぎると流れてしまう。又高すぎると塗布できない。室温(23℃)で500〜50000mPa・sが好ましい。
【0013】
接着剤の硬化機構としては硬化工程が容易な、湿気硬化や加熱硬化が挙げられる。
【0014】
湿気硬化の例としては、ウレタン化反応が反応条件設定や接着剤コストの点で好ましい。また耐熱性が求められる場合は、加水分解性シリル基の縮合反応が好ましい。
【0015】
本発明はヒドロシリル化反応等の加熱硬化も否定するものではない。
【0016】
本発明はジ(2−エチルヘキシル)フタレートやジブチルフタレート等の有害な粘度調整剤を用いて粘度や硬度を調整することを否定するものではないが、好ましくは数平均分子量が5000以下のプロセスオイル(炭化水素系)を用いることで環境に優しいとともに粘度調整剤のブリードアウトによる諸問題を解決できる。
【0017】
必要に応じ、本発明は接着性付与剤を接着剤中に添加できる。入手の容易さ・コスト・接着性付加効果の点で有機珪素化合物が好ましく、より好ましくはアミノシラン、エポキシシラン、アルキルシラン等のシランカップリング剤と呼ばれる化合物である。
【0018】
本発明はスピーカ製造時の工程の必要に応じて粘着性付与剤を用いることができる、テルペン系化合物やアクリル系化合物が挙げられるが環境と効果の点でアクリル系接着剤が好ましい。粘着性付与剤を多く入れると、低温での接着強度が弱くなる。又少なすぎると、コンタクト性が発現しない。0.2wt%〜10wt%が良く、最も好ましくは3wt%〜5wt%が良い。
【0019】
本発明の接着剤の最良な形態としては
分子量3000〜5000の水酸基末端ポリイソプレン:50〜90%
ポリイソシアネート :3〜10%
プロセスオイル :1〜10%
シランカップリング剤 :0.5〜3%
アクリル系粘着性付与剤 :1〜10%
であるが、この最良の形態は、本発明を何ら限定するものではない。
【0020】
次に最良な利用形態の一例を示すが、本発明を何ら限定するものではない。
【0021】
図1にスピーカの構造を示す。フレーム26と振動板27はPPが用いられることが非常に多い。実施の形態としてはフレーム26とエッジ29の接合、フレーム26とヨーク23の接合、振動板27とエッジ29の接合、振動板27とボイスコイル28の接合に好ましい。良好な接着性を示し信頼性の高いスピーカとなる。またエッジ29がエラストマーであるときには、フレーム26のPP樹脂に対するノンプライマー化とともに、溶剤型ゴム系接着剤を使用すると膨潤するが、本発明では膨潤しないため個体間の音バラツキの少ないスピーカとなる。
【0022】
尚、マグネット21、上部プレート22、ヨーク23により磁気ギャップ25を有する磁気回路24は構成されている。
【0023】
そしてこのスピーカを自動車等に搭載することで環境の向上や生産性の向上を図ることができる。
【0024】
数平均分子量が3500のポリイソプレンを主としたポリイソシアネートで硬化させる接着剤を用いて図1のPP樹脂製フレーム26とウレタンエラストマー製のエッジ29を、ノリシロ5mmでプライマーを塗布せずに接合した。
【0025】
完成したスピーカを25mm幅に切り取り剥離強度を測定した。比較のために、変成シリコーン系湿気硬化接着剤およびトルエンに溶かしたクロロプレン系接着剤でも実施した。
【0026】
エッジの膨潤の有無および接着強度の比較結果を(表1)に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
本発明のスピーカは良好な接着強度を示し信頼性の高いものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明にかかるスピーカは環境に優しく、製造工程を削減でき、良好なスピーカ特性を示すため非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施の形態におけるスピーカの断面図
【符号の説明】
【0031】
21 マグネット
22 上部プレート
23 ヨーク(下部プレート)
24 磁気回路
25 磁気ギャップ
26 フレーム
27 振動板
28 ボイスコイル
29 エッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカの組み立てに使用される接着剤であって
主鎖の繰り返し単位が炭化水素であり、その数平均分子量が500以上50000以下の重合体を主な成分とし、末端反応で硬化する無溶剤接着剤を使用したスピーカ。
【請求項2】
接着剤の23℃での粘度が500mPa・s以上で、かつ50000mPa・s以下である請求項1記載のスピーカ。
【請求項3】
主鎖の炭化水素がイソプレンである請求項1記載のスピーカ。
【請求項4】
接着剤の硬化機構が湿気硬化型である請求項1記載のスピーカ。
【請求項5】
湿気硬化機構がウレタン化反応である請求項4記載のスピーカ。
【請求項6】
湿気硬化機構が加水分解性シリル基の縮合反応である請求項4記載のスピーカ。
【請求項7】
粘度調整剤として、数平均分子量5000以下のプロセスオイルを含有する請求項1記載のスピーカ。
【請求項8】
接着性付与剤を0.2wt%〜10wt%添加した請求項1記載のスピーカ。
【請求項9】
接着性付与剤が有機珪素系化合物である請求項8記載のスピーカ。
【請求項10】
粘着性付与剤を1wt%〜10wt%添加した請求項8記載のスピーカ。
【請求項11】
粘着性付与剤がアクリル系である請求項10記載のスピーカ。
【請求項12】
磁気回路に結合されたフレームがポリプロピレンを主成分とし、その外周部に結合されるエッジの接合箇所に請求項1記載の接着剤を用いたスピーカ。
【請求項13】
エッジの材質がエラストマーである請求項12記載のスピーカ。
【請求項14】
PPを主成分とした振動板と振動板以外の部品の接着に請求項1記載の接着剤を用いたスピーカ。
【請求項15】
自動車に搭載されることを特徴とする請求項1記載のスピーカ。

【図1】
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【公開番号】特開2007−324982(P2007−324982A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−153388(P2006−153388)
【出願日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】