説明

スピーカ装置

【課題】振動体に発生する複数の磁界毎に磁石を配置しなくとも音を出力できるようにする。
【解決手段】配線パターン12−1,12−3,12−5に流れる信号の電圧がバイアス電圧より大きくなると、配線パターン12−1,12−3,12−5に流れる信号の電圧がバイアス電圧より小さくなり、配線パターン12−1〜12−6の周囲に発生した磁界により振動体10は壁部23B側へ変位する。また、配線パターン12−1,12−3,12−5に流れる信号の電圧がバイアス電圧より小さくなると、配線パターン12−1,12−3,12−5に流れる信号の電圧がバイアス電圧より大きくなり、配線パターン12−1〜12−6の周囲に発生した磁界により振動体10は壁部23A側へ変位する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されているスピーカは、振動膜と複数の永久磁石を有しており、振動膜の両面には渦巻き状のコイルが複数配置されている。また、この渦巻き状コイルに対向するようにコイルから所定距離だけ離れて永久磁石が配置されており、渦巻き状コイルに電流が流されると、フレミングの左手の法則により、振動膜上において渦巻き状コイルが配置されている面と垂直方向に力が働いて振動膜が変位する。そして、渦巻き状コイルに音響信号を供給すると、音響信号に応じて渦巻き状コイルに流れる電流が変化し、これに応じて振動膜に働く力も変化することとなり、振動膜が振動して音響信号に応じた音声がスピーカから発生する。
【0003】
【特許文献1】特開2001−333493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示されたスピーカにおいては、振動膜を振動させるために複数の渦巻き状コイルに対応して、渦巻き状コイルの数と同数の磁石を必要としている。このため、製造時においては磁石の配置に手間がかかるという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した背景の下になされたものであり、振動体に発生する複数の磁界毎に磁石を配置しなくとも音を出力できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために本発明は、板状で表面から裏面に貫通する貫通孔を備え、磁性を有する第1部材と、板状で表面から裏面に貫通する貫通孔を備え、前記第1部材と離れて対向し磁性を有する第2部材と、前記第1部材から前記第2部材側へ突出すると共に前記第2部材と離れ、磁性を有し各々離れて並んで位置する複数の第1凸部と、前記第2部材から前記第1部材側へ突出すると共に前記第1部材及び前記第1凸部と離れ、磁性を有し各々離れて並んで位置する複数の第2凸部と、面状で可撓性を備え、導線を面内に有する振動体とを有し、前記振動体は、前記第1部材、前記第2部材、前記第1凸部および前記第2凸部により形成された蛇行した空間内において前記導線が前記第1凸部の間および前記第2凸部の間に位置するように位置し、前記第1凸部の間にある部位は、前記導線に電流が流れると前記第1凸部の方向へ変位するように前記導線が配置されており、前記第2凸部の間にある部位は、前記導線に電流が流れると前記第2凸部の方向へ変位するように前記導線が配置されているスピーカ装置を提供する。
【0007】
上記構成においては、前記導線は渦巻き状に配線されており、前記振動体は渦巻き状の配線パターンを複数有するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、振動体に発生する複数の磁界毎に磁石を配置しなくとも音を出力できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、本発明の一実施形態に係るスピーカ装置1の外観を模式的に示した図、図2は、スピーカ装置1の断面を模式的に示した図、図3は、スピーカ装置1の分解斜視図である。図に示したようにスピーカ装置1は、大別すると振動体10、有孔板20U,20L、スペーサ30とで構成されている。
なお、図中の振動体10、有孔板20U,20L、スペーサ30等の各構成要素の寸法は、構成要素の形状を容易に理解できるように実際の寸法とは異ならせてある。また、図面において、「○」または「□」の中に「・」が記載されたものは図面の裏から表に向かう方向を意味するものとし、「○」または「□」の中に「×」が記載されたものは図面の表から裏に向かう方向を意味するものとする。
【0010】
(スピーカ装置1の各部の構成)
スペーサ30は、合成樹脂で形成されており、その形状は図3に示したように矩形の枠形となっている。スペーサ30は、音響信号が入力される端子30A,30B,30C,30Dを有している。
【0011】
振動体10は、PET(polyethylene terephthalate、ポリエチレンテレフタレート)で形成された膜状のフィルムの表面に導線を配線したものである。振動体10は、可撓性を有しており、自在に曲げることが可能となっている。なお、フィルムの素材はPETに限定されるものではなく、他の合成樹脂であってもよい。また、振動体10においては、導線をフィルムで挟み、導線が露出しないようにしてもよい。
振動体10の一方の面には導線を渦巻き状にした配線パターン12−1〜12−6が形成されている(以下、振動体10については、配線パターン12−1〜12−6が形成されている面を表面といい、配線パターン12−1〜12−6が形成されていない側の面を裏面という)。
振動体10において配線パターン12−1,12−3,12−5は、表面側から見ると時計回りで外側から内側へ渦巻き状に形成されており、配線パターン12−2,12−4,12−6は、表面側から見ると反時計回りで外側から内側へ渦巻き状に形成されている。また、振動体10の表面には音響信号が入力される入力端14A,14B,14C,14Dが設けられている。
【0012】
なお、配線パターン12−1の内側の端部と配線パターン12−3の外側の端部の間、そして、配線パターン12−3の内側の端部と配線パターン12−5の外側の端部の間は、フィルムを貫通し導電性を有するスルーホール(図示略)と裏面に設けられた配線(図示略)で接続されており、配線パターン12−2の内側の端部と配線パターン12−4の外側の端部の間、そして、配線パターン12−4の内側の端部と配線パターン12−6の外側の端部の間もスルーホールと裏面に設けられた配線で接続されている。
【0013】
また、配線パターン12−1の外側の端部は入力端14Aと接続され、配線パターン12−5の内側の端部は、スルーホールおよび裏面に設けられた配線を介して入力端14Bと接続されている。また、配線パターン12−2の外側の端部はスルーホールおよび裏面に設けられた配線を介して入力端14Cと接続され、配線パターン12−6の内側の端部は、スルーホールおよび裏面に設けられた配線を介して入力端14Dと接続されている。
つまり、入力端14A、配線パターン12−1,12−3,12−5および入力端14Bは電気的に接続されており、入力端14Aから入力端14Bの方向へ電流を流すと、配線パターン12−1,12−3,12−5においては表面側から見ると時計回りに電流が流れる。
また、入力端14C、配線パターン12−2,12−4,12−6および入力端14Dは電気的に接続されており、入力端14Cから入力端14Dの方向へ電流を流すと、配線パターン12−2,12−4,12−6においては表面側から見ると反時計回りに電流が流れる。
【0014】
有孔板20Lは、矩形の板状の平板部22Aと、平板部22Aから垂直に立ち上がった複数の矩形で板状の壁部23Aで構成されており、その素材は強磁性体となっている。なお、複数の壁部23Aは等間隔で平行に並んでおり、そのZ方向の高さは、スペーサ30のZ方向の高さより低くなっている。
また、有孔板20Uも、平板部22Aと同様の平板部22Bと、平板部22Bから垂直に立ち上がった複数の矩形の壁部23Bで構成されており、その素材は強磁性体となっている。なお、複数の壁部23Bも等間隔で平行に並んでおり、そのZ方向の高さは、スペーサ30のZ方向の高さより低くなっている。
なお、有孔板20U,20Lは、表面から裏面に貫通した複数の貫通孔21を有しており、空気の通過が可能となっているため、音響透過性が確保されている。
【0015】
(スピーカ装置1の構成)
スピーカ装置1においては、有孔板20Lの壁部23Aが設けられている側にスペーサ30が固定されている。なお、スペーサ30を有孔板20Lに固定する際には接着剤を用いてもよく、また、ネジにより固定してもよい。また、スペーサ30において平板部22Aが固定されている側と反対側には、有孔板20Uの壁部23Bが設けられている側が固定されている。
ここで、図2に示したように、有孔板20Uと有孔板20Lが対向した状態にあっては、壁部23Aと壁部23BがX方向へ距離をおいて等間隔で交互に位置しており、壁部23Aは平板部22Bから離れ、壁部23Bは平板部22Aから離れているため、スピーカ装置1の内部においては、図2に示したように、Z方向に蛇行した空間40が存在する。
【0016】
次に振動体10は、表面を有孔板20Uに向けて空間40内に配置されており、有孔板20Uと有孔板20Lの間においてZ方向に蛇行し、入力端14Aが端子30Aに接続され、入力端14Bが端子30Bに接続されている。また、入力端14Cが端子30Cに接続され、入力端14Dが端子30Dに接続されている。
なお、本実施形態においては、配線パターン12−1のX方向の中央部分、配線パターン12−3のX方向の中央部分、配線パターン12−5のX方向の中央部分の各々が壁部23Aと平板部22Bとの間に位置し、配線パターン12−2のX方向の中央部分、配線パターン12−4のX方向の中央部分、配線パターン12−6のX方向の中央部分の各々が壁部23Bと平板部22Aとの間に位置するように振動体10が曲げられて配置されている。
【0017】
(スピーカ装置1の動作)
次に、スピーカ装置1の動作について説明する。図4(a)は、配線パターン12−1,12−3,12−5に供給される信号を例示した図であり、図4(b)は、配線パターン12−2,12−4,12−6に供給される信号を例示した図である。
ここで、図4(a)の信号は、正相の音響信号であり、図4(b)の信号は、図4(a)の信号の逆相の信号である。なお、図4(a),図4(b)に示したように、音響信号は、信号の電圧の最小値が0V以下とならないように予め定められた電圧のバイアス電圧に重畳されている。
【0018】
また、図5は、スピーカ装置1の作用を説明するための図であり、スピーカ装置1の断面を模式的に示している。なお、同図においては、配線パターン12−1〜12−6の導線の断面を示す「□」の中に「・」が記載されたものは図面の裏から表に向かって電流が流れていることを意味し、「□」の中に「×」が記載されたものは図面の表から裏に向かって電流が流れていることを意味している。また、図中の二点鎖線上の矢印は、配線パターン12−1〜12−6に電流が流れたことにより生じる磁界の方向を表している。
【0019】
図4(a),図4(b)に示した信号がスピーカ装置1に供給された場合、まず、バイアス電圧のみが供給されている時点では、配線パターン12−1,12−3,12−5においては、入力端14Aから入力端14Bの方向へ電流が流れ、配線パターンの外側端から内側端に向けて電流が流れる。すると、配線パターンの周囲においては図5に示したように右ネジの法則に従って磁界が発生する。
また、配線パターン12−2,12−4,12−6においては、入力端14Cから入力端14Dの方向へ電流が流れ、これらの配線パターンにおいても外側端から内側端に向けて電流が流れ配線パターンの周囲においても磁界が発生する。
ここで、配線パターン12−1,12−3,12−5と、配線パターン12−2,12−4,12−6に流れる電流値は同じであるため、配線パターン12−1,12−3,12−5の周囲に発生する磁界と、配線パターン12−2,12−4,12−6の周囲に発生する磁界の強さは同じとなる。
【0020】
次に、配線パターン12−1,12−3,12−5に供給される正相の音響信号において、電圧がバイアス電圧より大きくなると、配線パターン12−1,12−3,12−5の周囲の磁界の強さもバイアス電圧のみが供給されているときと比較して大きくなる。一方、配線パターン12−2,12−4,12−6においては、配線パターン12−1,12−3,12−5に供給される信号と逆相の信号が供給されるため、配線パターン12−1,12−3,12−5に供給される信号の電圧がバイアス電圧より大きくなっている時点では、信号の電圧はバイアス電圧より小さくなり、配線パターン12−2,12−4,12−6の周囲の磁界の強さもバイアス電圧のみが供給されているときと比較して小さくなる。
ここで、配線パターン12−1,12−3,12−5に周囲に生じる磁界の強さが、配線パターン12−2,12−4,12−6の周囲に生じる磁界の強さより大きくなるため、振動体10において配線パターン12−1,12−3,12−5のある部位は壁部23B側へ変位する。
【0021】
次に、配線パターン12−1,12−3,12−5に供給される正相の音響信号において、電圧がバイアス電圧より小さくなると、配線パターン12−1,12−3,12−5の周囲の磁界の強さもバイアス電圧のみが供給されているときと比較して小さくなる。一方、配線パターン12−2,12−4,12−6においては、配線パターン12−1,12−3,12−5に供給される信号と逆相の信号が供給されるため、配線パターン12−1,12−3,12−5に供給される信号の電圧がバイアス電圧より小さくなっている時点では、信号の電圧はバイアス電圧より大きくなり、配線パターン12−2,12−4,12−6の周囲の磁界の強さもバイアス電圧のみが供給されているときと比較して大きくなる。
ここで、配線パターン12−2,12−4,12−6に周囲に生じる磁界の強さが、配線パターン12−1,12−3,12−5の周囲に生じる磁界の強さより大きくなるため、振動体10において配線パターン12−2,12−4,12−6のある部位は壁部23A側へ変位する。
【0022】
このように本実施形態に係るスピーカ装置1においては、バイアス電圧に重畳された音響信号の電圧変化に応じて配線パターン12−1,12−3,12−5の周囲と配線パターン12−2,12−4,12−6の周囲に発生する磁界の強さが変化し、各配線パターン周囲の磁界の強さに応じて振動体10が変位する。振動体10の変位方向と変位量は、音響信号の振幅の変化に対応したものとなるため、振動体10は音響信号の振幅に応じて振動し、その振動状態(振動数、振幅、位相)に応じた音が振動体10から発生する。そして、発生した音は、有孔板20Uと有孔板20Lを通り抜けてスピーカ装置1の外部に放射される。
【0023】
本実施形態によれば、渦巻き状の配線パターン12−1〜12−6の各々に対応して磁石を配置しなくとも、振動体10を振動させて音を出すことができる。つまり、製造時においては磁石の配置に手間がかかることなく、スピーカ装置1を容易に製造することができる。
【0024】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。例えば、上述の実施形態を以下のように変形して本発明を実施してもよい。
【0025】
上述した実施形態においては、渦巻き状の配線パターンの数は6つとなっているが、配線パターンの数は6つに限定されるものではなく、6つ以上であってもよい。
また、壁部23A,23Bについても上述した実施形態においては、その数が三つとなっているが、配線パターンの数に合わせて壁部23A,23Bを配置してもよい。
また、配線パターンを複数設ける場合、複数行および複数列となるように配線パターンを設けてもよい。
また、配線パターンの渦巻きの回数は、図に示した回数に限定されるものではなく、図に示した回数以上となるように配線パターンを形成してもよい。
【0026】
上述した実施形態においては、平板部22Aと壁部23Aは一体化されており、平板部22Bと壁部23Bは一体化されているが、一体化せずに別々に形成した後、壁部を平板部に固定するようにしてもよい。
【0027】
上述した実施形態においては、振動体10の一方の面に配線パターンが設けられているが、配線パターン12−1,12−3,12−5を表面に設け、配線パターン12−1,12−3,12−5を裏面に設けるというように、振動体10の両面に配線パターンを設けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係るスピーカ装置1の外観の模式図である。
【図2】同実施形態に係るスピーカ装置1の断面の模式図である。
【図3】同実施形態に係るスピーカ装置1の分解斜視図である。
【図4】スピーカ装置1に入力される音響信号を例示した図である。
【図5】スピーカ装置1の作用を説明するための図である。
【符号の説明】
【0029】
1・・・スピーカ装置、10・・・振動体、12−1〜12−6・・・配線パターン、20U,20L・・・有孔板、21・・・貫通孔、22A,22B・・・平板部、23A,23B・・・壁部、30・・・スペーサ、30A〜30D・・・端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状で表面から裏面に貫通する貫通孔を備え、磁性を有する第1部材と、
板状で表面から裏面に貫通する貫通孔を備え、前記第1部材と離れて対向し磁性を有する第2部材と、
前記第1部材から前記第2部材側へ突出すると共に前記第2部材と離れ、磁性を有し各々離れて並んで位置する複数の第1凸部と、
前記第2部材から前記第1部材側へ突出すると共に前記第1部材及び前記第1凸部と離れ、磁性を有し各々離れて並んで位置する複数の第2凸部と、
面状で可撓性を備え、導線を面内に有する振動体と
を有し、
前記振動体は、前記第1部材、前記第2部材、前記第1凸部および前記第2凸部により形成された蛇行した空間内において前記導線が前記第1凸部の間および前記第2凸部の間に位置するように位置し、
前記第1凸部の間にある部位は、前記導線に電流が流れると前記第1凸部の方向へ変位するように前記導線が配置されており、前記第2凸部の間にある部位は、前記導線に電流が流れると前記第2凸部の方向へ変位するように前記導線が配置されている
スピーカ装置。
【請求項2】
前記導線は渦巻き状に配線されており、前記振動体は渦巻き状の配線パターンを複数有することを特徴とする請求項1に記載のスピーカ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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