説明

スピーカ駆動方法およびその装置

【課題】振動板の振動振幅が小さくても大きな出力音圧が得られるようにする。
【解決手段】入力端子10からは再生しようとする音声信号が入力される。高周波信号源12からは一定周波数で一定振幅の高周波信号が出力される。この高周波信号の周波数は可聴周波数よりも高く、再生しようとする音声信号の上限周波数の例えば10〜1000倍に設定する。振幅変調回路14は高周波信号を音声信号で振幅変調する。この振幅変調された高周波信号は音声信号波形の極性に応じて同じ極性方向にのみ振れる波形を有する。振幅変調された高周波信号はアンプ16で増幅されてスピーカ18を駆動する。スピーカ18は印加電圧に振動板の変位量が追従する形式のスピーカで、静電型スピーカ、圧電型スピーカ等で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は静電型スピーカ、圧電型スピーカ等印加電圧に振動板の変位量が追従する形式のスピーカの駆動方法および駆動装置に関し、発声しようとする音声信号で直接スピーカを駆動する従来の駆動方法に比べて、振動板の同じ振動振幅に対して該音声信号の出力音圧がより大きく得られるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
従来のスピーカの駆動方法は発声しようとする音声信号で直接スピーカを駆動するものであった。この駆動方法によればスピーカから発する音の大きさ(音圧)は振動板が動かす空気の体積によって決まる。すなわち大きな音を出すためには振動板が動かす空気の体積を大きくする必要がある。ここで振動板によって動かす空気の体積は振動板の面積と振動振幅の掛け算で与えられるので、大きな音を出すためには振動板の面積を大きくするか振動振幅を大きくする必要がある。ただし振動振幅を大きくすることは難しいため、結果として面積の大きな振動板(すなわち口径が大きいスピーカ)が必要であった。
【0003】
【特許文献1】特許第3000982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は上述の点に鑑みてなされたもので、発声しようとする音声信号で直接スピーカを駆動する従来の駆動方法に比べて、振動板の同じ振動振幅に対して該音声信号の出力音圧がより大きく得られるようにしたスピーカの駆動方法および駆動装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明のスピーカ駆動方法は印加電圧に振動板の変位量が追従する形式のスピーカを使用し、該スピーカを音声信号で振幅変調した、可聴周波数よりも高い高周波信号で駆動することにより、該スピーカを振幅変調していない同じ音声信号で駆動した場合に比べて、振動板の同じ振動振幅に対して該音声信号の出力音圧がより大きく得られるようにしたものであって、前記振幅変調した高周波信号を音声信号波形の極性と同じ極性方向にのみ振れる信号としたものである。
【0006】
この発明によれば、スピーカを音声信号で振幅変調した、可聴周波数よりも高い高周波信号で駆動することにより、後述するように、発声しようとする音声信号で直接スピーカを駆動した場合に比べて、振動板の同じ振動振幅に対してより大きな音を発生させることができる。しかもスピーカを駆動する高周波信号は可聴周波数よりも高い周波数の信号であるので人の耳には音声信号の音しか聞こえない。
【0007】
なおダイナミック型スピーカの場合は高周波信号を印加してもその電圧波形どおりに振動しないので、この発明による効果は期待できない。したがってこの発明は印加電圧に振動板の変位量が追従する静電型、圧電型等のスピーカについて好適に適用することができる。また超音波を音声信号で振幅変調して放射するスピーカとしてパラメトリックアレイスピーカが従来より知られているが(例えば上記特許文献1記載のもの)、これはパラメトリックアレイの原理を利用して超指向性を得るスピーカであり、この発明によるものとは異なる。
【0008】
この発明において前記高周波信号の周波数は、再生しようとする音声信号の上限周波数の10〜1000倍、より好ましくは100〜1000倍が望ましい。
【0009】
この発明のスピーカ駆動装置はこの発明のスピーカ駆動方法を実行することを特徴とするものである。このスピーカ駆動装置は例えば、音声信号を入力する入力端子と、高周波信号を前記音声信号で振幅変調した信号を出力する振幅変調回路とを具備して構成することができる。またこのスピーカ駆動装置は既に音声信号で振幅変調済みの高周波信号を受信してスピーカを駆動する装置として構成することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
この発明のスピーカ駆動装置の実施の形態を図1に示す。ここではアナログ信号処理によるシステムを示すがディジタル信号処理によるシステムとして構成することもできる。入力端子10からは再生しようとする音声信号が入力される。高周波信号源12からは一定周波数で一定振幅の高周波信号が出力される。この高周波信号の周波数は再生しようとする音声信号の上限周波数の例えば10〜1000倍、より好ましくは100〜1000倍に設定することができる。例えば再生しようとする音声信号の上限周波数が20kHzであれば、高周波信号の周波数は200kHz〜20MHz、より好ましくは2MHz〜20MHzに設定することができる。振幅変調回路14は高周波信号を音声信号で振幅変調する。振幅変調された高周波信号はアンプ16で増幅されて1個のスピーカ(スピーカユニット)18を駆動する。スピーカ18は印加電圧に振動板の変位量が追従する形式のスピーカで、静電型スピーカ、圧電型スピーカ等で構成される。
【0011】
図1のスピーカ駆動装置の動作波形を図2に示す。これは音声信号波形の極性と同じ極性方向にのみ振れる高周波信号でスピーカを駆動するようにしたものである。(a)は音声信号、(b)は高周波信号である。振幅変調回路14は高周波信号を音声信号で振幅変調して(c)に示す振幅変調された高周波信号を出力する。この振幅変調された高周波信号は音声信号波形の極性に応じて同じ極性方向にのみ振れる波形を有する。この波形は通常の振幅変調で得られる両極性方向に対称に振れる高周波信号のうち、音声信号波形と同じ極性の成分のみを取り出すことにより得られる。この振幅変調された高周波信号でスピーカ18を駆動すると、高周波成分は可聴周波数よりもはるかに高いので人の耳には聞こえず、その包絡線成分である音声信号成分のみが聞こえる。
【0012】
ここで図2(c)の振幅変調された高周波信号でスピーカ18を駆動する場合の音声信号成分の音圧を求める。単純化のため単音の場合について説明する。いま音声信号の角振動数をω、高周波信号の角振動数をω0(ω0>>ω)とする。このときスピーカ18の振動板の、面に垂直な方向の原点からの変位y(t)が時間に応じて次式となるように駆動する。
【数1】

(但し、Δは高周波信号による駆動周期(=2π/ω0)、Aは振動板の振動振幅)

振動板の変位y(t)によって生じる音圧p(t)は、y(t)の時間に関する二回微分に比例するので、
【数2】

(但し、Bは比例定数)

と表される。このp(t)に含まれるω成分が音声信号成分による音圧の振幅である。なおこの式は正確にはデルタ関数の項が存在するが、このデルタ関数の項による成分は高周波であり音圧には変換されないのでここではこのデルタ関数を無視している。
【0013】
それではp(t)に含まれるω成分(音声信号成分による音圧の振幅)がどのような大きさになるかを次に求める。いま積分範囲をLとするとp(t)のsinωt成分ps(ω)は、
【数3】

【0014】
次にp(t)のcosωt成分pc(ω)は、
【数4】

【0015】
以上をまとめると、
【数5】

【0016】
次に「式5」のGs(ωΔ)、Gc(ωΔ)を求める。
【数6】

【0017】
よって「式5」のps(ω)、pc(ω)は、
【数7】

【0018】
次に「式5」のFs(ω)、Fc(ω)を求める。
【数8】

【0019】
ここで積分公式
【数9】

を利用すると、
【数10】

【0020】
また、
【数11】

【0021】
よって「式7」のps(ω)、pc(ω)は、「式11」、「式10」で求められたFc(ω)、Fs(ω)をそれぞれ用いて、
【数12】

【0022】
以上によりp(t)のsinωt成分ps(ω)とcosωt成分pc(ω)が求められた。これによればω0>>ωであるので主成分はps(ω)である。図2(c)の振幅変調された高周波信号でスピーカ18を駆動する場合の音声信号成分による音圧の振幅はABω02/πとなる。音声信号で直接駆動する従来の駆動方法による音圧の振幅はABω2であるので、振動板の振動振幅Aが同じである場合、図2(c)の振幅変調された高周波信号で駆動する方が音声信号で直接駆動する方法に比べて(ABω02/π)/ABω2=ω02/πω2倍大きな音圧が得られることになる。逆に言えば、同じ音圧を出すために必要な振動板の振動振幅はπω2/ω02倍ですむことになる。したがって図2(c)の振幅変調された高周波信号でスピーカ18を駆動する方法によれば、高周波信号の角振動数ω0を大きくすることにより、スピーカ18の振動板の振動振幅Aが小さいままで大きな音圧を得ることができる。したがって音声信号で直接駆動する従来の駆動方法と同じ音圧を得る場合には、該従来の駆動方法に比べて振動板面積を小さくしてスピーカを小型にすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明のスピーカ駆動装置の実施の形態を示すブロック図である。
【図2】図1のスピーカ駆動装置の動作波形図である。
【符号の説明】
【0024】
10…音声信号入力端子、12…高周波信号源、14…振幅変調回路、18…静電型スピーカ、圧電型スピーカ等の印加電圧に振動板の変位量が追従する形式のスピーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加電圧に振動板の変位量が追従する形式のスピーカを使用し、
該スピーカを音声信号で振幅変調した、可聴周波数よりも高い高周波信号で駆動することにより、
該スピーカを振幅変調していない同じ音声信号で駆動した場合に比べて、振動板の同じ振動振幅に対して該音声信号の出力音圧がより大きく得られるようにした方法であって、
前記振幅変調した高周波信号が音声信号波形の極性と同じ極性方向にのみ振れる信号であるスピーカ駆動方法。
【請求項2】
前記スピーカが静電型スピーカまたは圧電型スピーカである請求項1記載のスピーカ駆動方法。
【請求項3】
前記高周波信号の周波数が、再生しようとする音声信号の上限周波数の10〜1000倍、より好ましくは100〜1000倍である請求項1または2記載のスピーカ駆動方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載のスピーカ駆動方法を実行することを特徴とするスピーカ駆動装置。
【請求項5】
印加電圧に振動板の変位量が追従する形式のスピーカを駆動する装置であって、
音声信号を入力する入力端子と、
高周波信号を前記音声信号で振幅変調した信号を出力する振幅変調回路とを具備し、
前記スピーカを前記音声信号で振幅変調した高周波信号で駆動することにより、該スピーカを振幅変調していない同じ音声信号で駆動した場合に比べて、振動板の同じ振動振幅に対して該音声信号の出力音圧がより大きく得られるようにした装置であって、
前記振幅変調した高周波信号が音声信号波形の極性と同じ極性方向にのみ振れる信号であるスピーカ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−171043(P2009−171043A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4669(P2008−4669)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】