説明

スフレケーキ生地の製造方法

【課題】体積が大きくきめの細かい内相で、しっとりとしていながらねちゃつかないスフレケーキを得ることができるスフレケーキ生地の製造方法、及び、該特徴を有するスフレケーキを提供すること。
【解決手段】穀粉類100質量部に対し少なくとも乳蛋白質とゲル化剤と水とで構成される複合体を15〜100質量部添加することを特徴とするスフレケーキ生地の製造方法、及び、該スフレケーキ生地の製造方法によって得られたスフレケーキ生地を焼成することによって得られたスフレケーキ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体積が大きくきめの細かい内相で、しっとりとしていながらねちゃつかないスフレケーキを得ることができるスフレケーキ生地の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スフレとは、メレンゲに様々な材料を混ぜオーブンで焼いて作る、軽くふわふわとした食感ときめの細かな内相を特徴とする料理である。洋菓子においては、そのようなスフレ様の食感を示すケーキをスフレケーキと称し、広く普及し、幅広い年齢層から好まれている。
【0003】
その基本的な製法は、卵白と糖類を併せて起泡したメレンゲに、卵黄類、穀粉類、糖類、及び、チーズ等の風味成分等を炊きあげたカスタードクリームを、メレンゲの泡を潰さないように添加しさっくりと混合したスフレ生地を、湯煎焼きするというものである。
【0004】
しかし、メレンゲはその製造に熟練を要すること、及び、不安定で消泡しやすいため保存性が悪いという問題があり、また、カスタードクリームとの混合時に、メレンゲの泡を潰さないようにさっくりと混合する操作にはさらに熟練を要するものであった。
【0005】
そのため、そのような熟練した技を使用せずとも、安定して大量生産することができるスフレケーキの製造方法が各種検討されてきた。
【0006】
例えば、油脂、糖質、澱粉またはセルロース、蛋白質および増粘剤を含有してなる水中油型乳化組成物を添加する方法(たとえば特許文献1参照)、乳化剤及び気泡安定剤を添加し、配合材料をオ−ルインミックス法でホイップする方法(たとえば特許文献2参照)、粒径が30μmより大きい澱粉粒子を含有し、且つゲル化開始温度が37℃以上であり、熱可逆的にゲル化することを特徴とする加熱食品用クリーム類を使用する方法(たとえば特許文献3参照)などが提案されている。
【0007】
しかし、特許文献1に記載の方法は、セルロースを含有するため、その混合時に比重が落ちてしまい、体積の小さな、ねちゃついた食感のスフレケーキになってしまう問題があり、特許文献2に記載の方法は単に従来のスポンジケーキの比重を軽くしただけであるため、きめの粗い内相のスフレになってしまう問題があり、特許文献3に記載の方法は単にカスタードクリームに代えて特定の澱粉とゲル化剤を使用したクリームを使用することで、スフレの口溶けの向上を図ったものであり、体積や内相を改良するものではなかった。
【特許文献1】特開平6−253720号公報
【特許文献2】特開平7−213218号公報
【特許文献3】特開2003−135015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、体積が大きくきめの細かい内相で、しっとりとしていながらねちゃつかないスフレケーキを得ることができるスフレケーキ生地の製造方法、及び、該特徴を有するスフレケーキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく種々検討した結果、少なくとも乳蛋白質とゲル化剤と水とで構成される複合体を使用することで、上記問題を解決可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、穀粉類100質量部に対し少なくとも乳蛋白質とゲル化剤と水とで構成される複合体を15〜100質量部添加することを特徴とするスフレケーキ生地の製造方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、該スフレケーキ生地の製造方法によって得られたスフレケーキ生地を提供するものである。
【0012】
さらに、本発明は、該スフレケーキ生地を焼成して得られるスフレケーキを提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、体積が大きくきめの細かい内相で、しっとりとしていながらねちゃつかないスフレケーキを安定して得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
それでは、本発明のスフレケーキ生地の製造方法で使用する、少なくとも乳蛋白質とゲル化剤と水とで構成される複合体(以下、複合体という)の構成成分について述べる。
【0015】
上記複合体を構成する乳蛋白質としては、特に制限されるものではないが、例えば、ホエイ蛋白質、カゼイン蛋白質の中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。本発明では乳蛋白質として、ホエイ蛋白質のみ、カゼイン蛋白質のみ、カゼイン蛋白質とホエイ蛋白質との併用のいずれでもよいが、ホエイ蛋白質とカゼイン蛋白質を併用するのが好ましい。
【0016】
上記乳蛋白質の含有量は、上記複合体中、好ましくは0.5〜5質量%、さらに好ましくは0.5〜4質量%、最も好ましくは0.5〜3質量%である。複合体中の乳蛋白質の含有量が0.5質量%より少なかったり、5質量%より多いと本発明の効果が得られにくいことに加え、得られるスフレケーキの食感がしっとりしたものにならないおそれがある。
【0017】
上記カゼイン蛋白質としては、αs1−カゼイン、αs2−カゼイン、β−カゼイン、γ−カゼイン、κ−カゼインの各単体や、これらの混合物、若しくはこれらを含有する食品素材であるアルカリカゼイン(カゼイネート)、酸カゼイン等があげられ、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
【0018】
上記ホエイ蛋白質としては、ラクトアルブミン、βラクトグロブリン、血清アルブミン、免疫グロブリン、プロテオースペプトンの各単体や、これらの混合物、若しくはこれらを含有する食品素材として、乳清蛋白質、ホエイ、ホエイパウダー、脱乳糖ホエイ、脱乳糖ホエイパウダー、ホエイ蛋白質濃縮物(WPC及び/又はWPI)等があげられ、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
【0019】
上記カゼイン蛋白質及び上記ホエイ蛋白質の両方を含有する食品素材として、例えば、生乳、牛乳、加糖練乳、加糖脱脂れん乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、脱脂乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、バターミルク、バターミルクパウダー、トータルミルクプロテイン(TMP)、脱脂粉乳、全粉乳、ミルクプロテインコンセントレート(MPC)、クリーム、クリームチーズ、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、ヨーグルト、乳酸菌飲料、サワークリ―ム、醗酵乳等があげられ、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
【0020】
特に、本発明では、上記乳蛋白質として、上記カゼイン蛋白質および上記ホエイ蛋白質の両方を含有する食品素材であって、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が、好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは2質量%以上、一層好ましくは4質量%以上、最も好ましくは5〜40質量%である食品素材(以下食品素材Aという)を用いるのが好ましい。
【0021】
また、上記食品素材Aは、乳由来のリン脂質を含有する乳原料である牛乳、ヤギ乳、ヒツジ乳、人乳等の乳から製造されたものであるのが好ましく、特に牛乳から製造されたものであるのが好ましい。
上記の食品素材Aとしては、クリームからバターを製造する際に生じる水相成分(バターミルク)や、クリームまたはバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分があげられる。
【0022】
上記のクリームからバターを製造する際に生じる水相成分は、その製法の違いにより組成が大きく異なるが、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が、通常0.5〜1.5質量%程度である。一方、クリームまたはバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分は、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が、大凡2〜15質量%であり、多量のリン脂質を含有している。
【0023】
すなわち本発明では、上記食品素材Aとして、クリームまたはバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分を使用することが好ましい。
【0024】
上記のクリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の製造方法は、例えば以下の通りである。まず、牛乳を遠心分離して得られる脂肪濃度30〜40質量%のクリームをプレートで加温し、遠心分離機によってクリームの脂肪濃度を70〜95質量%まで高める。次いで、乳化破壊機で乳化を破壊し、再び遠心分離機で処理することによってバターオイルが得られる。本発明で用いられる上記水相成分は、最後の遠心分離機での処理工程でバターオイルの副産物として発生するものである。
【0025】
また、上記のバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の製造方法は、例えば以下の通りである。まず、バターを溶解機で溶解し熱交換機で加温する。これを遠心分離機で分離することによってバターオイルが得られる。本発明で用いられる上記水相成分は、最後の遠心分離機での分離工程でバターオイルの副産物として発生するものである。該バターオイルの製造に用いられるバターとしては、通常のものが用いられる。
本発明では、上記乳蛋白質として、上記のクリームからバターを製造する際に生じる水相成分(バターミルク)や、クリームまたはバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分を、さらに濃縮したもの、乾燥したもの、冷凍処理をしたもの等を用いることも可能である。但し、乳由来のリン脂質は、高温加熱するとその機能が低下するため、加熱する際の温度は、100℃未満であることが好ましい。さらに、溶剤を用いて濃縮したものは風味上の問題から用いないことが好ましい。
【0026】
また、本発明では、上記食品素材A中のリン脂質の一部または全部がリゾ化されたリゾ化物を使用することもできる。該リゾ化物は、食品素材Aをそのままリゾ化したものであってもよく、また食品素材Aを濃縮した後にリゾ化したものであってもよい。また、得られたリゾ化物に、さらに濃縮あるいは噴霧乾燥処理等を施してもよい。
【0027】
上記食品素材A中のリン脂質をリゾ化するには、上記食品素材AをホスホリパーゼAで処理すればよい。ホスホリパーゼAは、リン脂質分子のグリセロール部分と脂肪酸残基とを結びつけている結合を切断し、この脂肪酸残基を水酸基で置換する作用を有する酵素である。ホスホリパーゼAは、作用する部位の違いによってホスホリパーゼA1とホスホリパーゼA2とに分かれるが、ホスホリパーゼA2が好ましい。ホスホリパーゼA2の場合、リン脂質分子のグリセロール部分の2位の脂肪酸残基が選択的に切り離される。
【0028】
上記食品素材Aにおける乳由来の固形分中のリン脂質の定量方法は、例えば以下のような方法にて測定することができる。但し、抽出方法等については食品素材Aの形態等によって適正な方法が異なるためこの定量方法に限定されるものではない。
【0029】
まず、食品素材の脂質を、Folch法を用いて抽出する。次いで、抽出した脂質溶液を湿式分解法(日本薬学会編、衛生試験法・注解2000 2.1食品成分試験法に記載の湿式分解法に準じる)にて分解した後、モリブデンブルー吸光度法(日本薬学会編、衛生試験法・注解2000 2.1食品成分試験法に記載のリンのモリブデン酸による定量に準じる)によりリン量を求める。求められたリン量から以下の計算式を用いて食品素材の乳固形分100g中のリン脂質の含有量(g)を求める。
【0030】
リン脂質(g/100g)=〔リン量(μg)/(食品素材−食品素材の水分(g))〕×25.4×(0.1/1000)
【0031】
また、上記食品素材Aは、乳酸菌を接種して乳酸発酵物としてもよく、必要により水や乳糖等の資化性糖を添加してから乳酸菌を接種して乳酸発酵物としてもよい。この場合、乳酸菌を接種して乳酸発酵物とした食品素材Aを、殺菌して複合体に配合してもよいし、殺菌せずに複合体に配合してもよい。
【0032】
次に、上記複合体の構成成分であるゲル化剤について述べる。
【0033】
上記ゲル化剤としては、アルギン酸、アルギン酸塩(アルギン酸アンモニウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸ナトリウム)、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ペクチン、LMペクチン、HMペクチン、ローカストビーンガム、グアーガム、ジェランガム、タラガントガム、キサンタンガム、カラギーナン、カードラン、タマリンドシードガム、カラヤガム、タラガム、トラガントガム、アラビアガム、ゼラチン、海藻抽出物、海藻エキス、寒天の中から選ばれた1種又は2種以上を用いるのが好ましいが、中でも、複合体の形成能が高いことやスフレケーキの食感が良好となる点で、好ましくはアルギン酸、アルギン酸塩、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、グアーガムの中から選ばれた1種または2種以上を併用して用いるのがよい。
【0034】
上記の複合体中の上記ゲル化剤の含有量は、好ましくは0.01〜5質量%、さらに好ましくは0.02〜5質量%、最も好ましくは0.05〜3質量%である。複合体中のゲル化剤の含有量が0.01質量%より少なかったり、5質量%よりも多いと、本発明の効果が得られにくい。
【0035】
なお、上記複合体中の水の含有量は、好ましくは30〜90質量%、さらに好ましくは35〜85質量%、最も好ましくは35〜80質量%である。複合体中の水の含有量が30質量%より少ないと、複合体中の水相中のゲル化剤濃度が高くなり、複合体がスフレケーキ生地へ均一に分散しにくいことに加え、得られるスフレケーキの食感がしっとりしたものにならないおそれがある。また90質量%よりも多いと、得られるスフレケーキの内相が悪くなりやすい。なお、ここでいう水とは、水道水や天然水等の水の他、牛乳、液糖等の水分も含めたものである。
【0036】
本発明で用いる複合体には、糖類・甘味料、金属イオン封鎖剤、セルロースやセルロース誘導体、澱粉類、穀類、油脂、乳化剤、無機塩、有機酸塩、キモシン等の蛋白質分解酵素、トランスグルタミナーゼ、ラクターゼ(βガラクトシダーゼ)、αアミラーゼ、βアミラーゼ、グルコアミラーゼ、イソアミラーゼ等の澱粉分解酵素、プルラナーゼ、ペントサナーゼ、ペクチナーゼ、インベルターゼ、ヘミセルラーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、カタラーゼ、リポキシゲナーゼ、リポキシナーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、スルフィドリルオキシダーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、パーオキシダーゼ、ジグリセライド、植物ステロール、植物ステロールエステル、食塩、岩塩、海塩、果汁、濃縮果汁、果汁パウダー、乾燥果実、果肉、野菜、野菜汁、香辛料、香辛料抽出物、ハーブ、直鎖デキストリン・分枝デキストン・環状デキストン等のデキストリン類、乳製品、卵製品、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、その他各種食品素材全般、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム、臭素酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ヨウ素酸カリウム等の酸化剤、システイン、グルタチオン等の還元剤、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、プロピオン酸、プロピオン酸ナトリウム、グリシン、しらこ蛋白抽出物、ポリリジン、エタノール等の保存料、着香料、苦味料、調味料等の呈味成分、着色料、酸化防止剤、pH調整剤、強化剤等を配合してもよい。
【0037】
上記糖類としては、特に制限されるものではないが、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、デキストリン等があげられる。また、上記甘味料としては、スクラロース、アセスルファムカリウム、ステビア、アスパルテーム等があげられる。本発明で用いる複合体ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0038】
上記糖類や上記甘味料の含有量は、上記複合体中、糖類や甘味料の総量で好ましくは30質量%以下とする。
【0039】
上記金属イオン封鎖剤は、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、鉄イオン等を封鎖するものであり、その具体例としては、ピロリン酸四ナトリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、ウルトラポリリン酸ナトリウム、第三リン酸カリウム等の各種リン酸塩、並びにクエン酸、酒石酸等の有機酸塩類、及び炭酸塩等の無機塩類があげられる。本発明で用いる複合体ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0040】
上記金属イオン封鎖剤の含有量は、上記複合体中、好ましくは1質量%以下とする。
【0041】
上記セルロースやセルロース誘導体としては、微小繊維状セルロース、結晶セルロース、粉末セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースがあげられ、上記澱粉類としては、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、モチ米澱粉等の澱粉や、澱粉をアミラーゼ等の酵素で処理したもの、アセチル化アジピン酸架橋澱粉・アセチル化リン酸架橋澱粉・アセチル化酸化澱粉・オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム・ヒドロキシプロピル澱粉・ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉・リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉・リン酸化澱粉・酸化澱粉・酢酸澱粉等、澱粉に対し酸処理やアルカリ処理・エステル化・アセチル化・リン酸架橋化・加熱・湿熱等の化学的・物理的処理を行った化工澱粉、更にこれら化工澱粉を水に溶け易い様にあらかじめ加熱処理により糊化させた澱粉があげられる。本発明で用いる複合体ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0042】
上記のセルロースやセルロース誘導体及び澱粉類の含有量は、上記複合体中、セルロースやセルロース誘導体及び澱粉類の総量で好ましくは5質量%以下とする。
【0043】
上記油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、カカオ脂、サル脂、牛脂、豚脂、乳脂、魚油、鯨油等の各種の植物油脂及び動物油脂、並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択された一又は二以上の処理を施した加工油脂や、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)等があげられる。本発明では、これらの油脂の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0044】
上記油脂の含有量は、上記複合体中、好ましくは0〜70質量%、さらに好ましくは0〜65質量%、最も好ましくは0〜60質量%である。
【0045】
また、油脂を含む場合、その乳化形態は、水中油型乳化物、油中水型乳化物、二重乳化物として用いることもできるが、本発明では、水相が外相となる乳化状態である、水中油型乳化物や二重乳化物とするのが好ましい。
【0046】
上記乳化剤としては、レシチン、酵素処理レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0047】
上記乳化剤の含有量は、上記複合体中好ましくは0〜5質量%、さらに好ましくは0〜2質量%、最も好ましくは0〜1質量%である。
【0048】
次に本発明で用いる好ましい複合体の製造方法について説明する。
(1)1つめの製造方法としては、水に乳蛋白質、ゲル化剤と必要によりその他の成分を添加して、水相とする。油脂を含む場合は油脂と、必要によりその他の成分を添加した油相を用意し、上記水相と混合し、乳化する。
(2)2つめの製造方法としては、水に乳蛋白質を加え、必要によりその他の成分を添加し、これに乳酸菌を接種して適宜調温して乳酸醗酵を行う。さらにゲル化剤と必要によりその他の成分を添加して、水相とする。油脂と必要によりその他の成分を添加した油相を用意し、上記水相と混合し、乳化する。
(3)3つめの製造方法としては、水に乳蛋白質を加え、必要によりその他の成分を添加し、これに乳酸菌を接種して適宜調温して乳酸発酵を行う。さらに乳蛋白質とゲル化剤と必要によりその他の成分を添加して、水相とする。油脂と必要によりその他の成分を添加した油相を用意し、上記水相と混合し、乳化する。
【0049】
そして、上記(1)〜(3)の操作後、必要に応じて加熱殺菌を行なう。該加熱殺菌の方法としては、インジェクション式、インフュージョン式、マイクロ波等の直接加熱方式、又は、バッチ式、プレート式、チューブラー式、掻き取り式等の間接加熱方式があり、UHT、HTST、LTLT等の60〜160℃の加熱処理を行なえば良い。
【0050】
次に、均質化機にて均質化する。均質化機としては、例えば、ケトル型チーズ乳化釜、ステファンミキサーの様な高速せん断乳化釜、スタティックミキサー、インラインミキサー、ホモゲナイザー、コロイドミル、ディスパーミル等があげられる。この均質化処理は、2段式ホモゲナイザーを用いて、例えば、1段目3〜100MPa、2段目0〜5MPaの均質化圧力にて行なっても良い。
【0051】
均質化後、必要に応じて冷却しても良い。冷却方法は、例えば、ボーテーター、コンビネーター、パーフェクター等の急冷可塑化機にて急冷可塑化処理を行う方法でも良く、チューブラー式、掻取式等の熱交換機によって冷却する方法でも良い。別の方法として、適当な容器に充填した後に、水浴、氷浴、冷蔵庫、冷凍庫等で冷却する方法も挙げられる。
【0052】
なお、本発明のスフレケーキ生地の製造方法では、上記複合体以外は、一般のケーキ原料を使用することができる。
【0053】
すなわち、本発明のスフレケーキ生地の製造方法で使用することのできるケーキ原料としては、穀粉類、糖類、ケーキ用起泡剤組成物、甘味料、油脂類、卵類、牛乳、水、食塩、澱粉類、乳化剤、調味料、香辛料、着香料、着色料、ココア、チョコレート、ナッツ類、ヨーグルト、チーズ、抹茶、紅茶、コーヒー、豆腐、黄な粉、豆類、野菜類、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、果物、ハーブ、肉類、魚介類、保存料、日持ち向上剤等を適宜用いることができる。
【0054】
なお、上記穀粉類としては、小麦粉、薄力粉、中力粉、強力粉、小麦胚芽、全粒粉、小麦ふすま、デュラム粉、大麦粉、米粉、ライ麦粉、ライ麦全粒粉、大豆粉、ハトムギ粉等をあげることができ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いるのがよい。
また、上記ケーキ用起泡剤組成物としては、ケーキ用起泡剤、ケーキ用起泡性乳化脂、ケーキ用流動ショートニング等の起泡性を有する製菓素材が挙げられる。
【0055】
また、上記糖類としては、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、デキストリン等を用いることができる。
【0056】
上記甘味料としては、スクラロース、アセスルファムカリウム、ステビア、アスパルテーム等を用いることができる。
【0057】
上記油脂類としては、マーガリン、ショートニング、バター、粉末油脂、液状油等を用いることができる。
【0058】
上記卵類としては、全卵、生卵黄、殺菌全卵、殺菌卵黄、加塩全卵、加塩卵黄、加糖全卵、加糖卵黄、生卵白、殺菌卵白等を用いることができる。
【0059】
以下、本発明のスフレケーキ生地の製造方法について詳述する。
【0060】
本発明のスフレケーキ生地の製造方法は、穀粉類100質量部に対し少なくとも乳蛋白質とゲル化剤と水とで構成される複合体を15〜100質量部、好ましくは20〜80質量部、より好ましくは30〜60質量部添加するものである。
【0061】
ここで、本発明のスフレケーキ生地の製造方法では、上記複合体を添加する以外は一般のスフレケーキ生地の製造方法と同様にして製造することができるが、上記複合体を用いることで生地安定性が向上することから、メレンゲとカスタードクリームを混合するという一般のスフレケーキ生地の製造法以外にも、カスタードクリームを使用しない一般のスポンジケーキ生地の製造方法である、後粉法、オールインミックス法であっても製造可能であり、本発明では、後粉法を用いることが、よりきめの細かい内相のスフレケーキを安定して得ることが可能な点で好ましい。
【0062】
なお、後粉法には、全卵を起泡する共立て法と卵白を起泡する別立て法があり、そのどちらでも問題なく用いることができるが、より安定して製造可能であることから、共立て法を用いることが好ましい。
【0063】
なお、上記複合体の添加、混合方法は特に制限されず、スフレケーキ生地製造時のいずれかの段階で添加し、得られるスフレケーキ生地中に均質に混合されていればよいが、体積の大きなスフレケーキを得るためには、その好ましい添加、混合方法は以下のとおりである。
【0064】
メレンゲとカスタードクリームを混合する一般のスフレケーキの製造方法においては、カスタードクリームに複合体を添加、混合後、メレンゲと混合することが好ましい。
【0065】
また、後粉法においては、共立て法の場合は全卵を起泡する際に同時に複合体を添加、起泡後、穀粉類をさっくりと混合することが好ましく、別立て法の場合は卵黄を主体とする生地に複合体を添加、混合後、メレンゲとさっくりと混合することが好ましい。
【0066】
さらにオールインミックス法の場合は、起泡する前の生地に添加し、同時に起泡することが好ましい。
【0067】
なお、本発明のスフレケーキ生地は、上記スフレケーキの製造方法によって得られたものであり、脱泡が抑制されており、安定したスフレケーキの製造が可能であるという特徴を有するものである。
【0068】
また、本発明のスフレケーキは、上記スフレケーキ生地を焼成することにより得られたものであり、体積が大きくきめの細かい内相で、しっとりとしていながらねちゃつきがない良好な食感を有するものである。
【0069】
焼成方法については特に制限されず、通常の複合体を含まない場合の条件と同様で問題なく、固定オーブン、連続オーブン、リールオーブン、ラックオーブンなど適宜使用可能であり、また、湯煎焼き、直焼きのいずれであってもよい。
【0070】
しかし、本発明のスフレケーキ生地は生地安定性が高く、また、焼成中の水分の蒸散が少ないいため、特に湯煎焼きでなくとも十分な品質のスフレケーキを得ることが可能である。そのため、本発明では、固定オーブン、又は、連続オーブンを使用し、直焼きすることが好ましい。
【実施例】
【0071】
次に、本発明で用いる複合体の製造例、実施例及び比較例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、これらは本発明を何ら制限するものではない。
【0072】
<複合体の製造>
〔製造例1〕複合体Aの製造
ホエイパウダー(蛋白質含有量12質量%)0.5質量部、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含、蛋白質含有量12質量%、乳固形分38質量%、乳固形分中のリン脂質の含有量3.7質量%有量9.8質量%)5.5質量部、上白糖3質量部、乳酸0.1質量部、食塩0.5質量部を水50.3質量部に溶解し水相とした。一方、パーム油のランダムエステル交換油脂35質量部を溶解し、、キサンタンガム0.02質量部、タマリンドシードガム0.08質量部、リン酸架橋化工澱粉5質量部を添加、分散し、油相を調製した。
上記水相に、上記油相を添加、乳化し水中油型組成物とし、これを掻取式熱交換器にて90℃で1分間加熱殺菌し、掻取式熱交換器にて60℃に冷却した。次いでイズミフードマシナリー製2段式ホモゲナイザーにて均質化後、ポリエチレン袋に密封し、20℃まで24時間かけて冷却しゲル化させ、本発明で用いる、乳蛋白質とゲル化剤と水とで構成される、複合体Aを得た。
【0073】
〔製造例2〕複合体Bの製造
塩化カルシウム0.2質量部、ホエイパウダー(蛋白質含有量12質量%)3質量部、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量12質量%、乳固形分38質量%、乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)5.5質量部を水67質量部に溶解した。さらに乳酸0.1質量部、食塩0.5質量部、乳糖10質量部を添加し、十分に撹拌して混合液を得た。
一方、パーム油12質量部に、アルギン酸ナトリウム0.5質量部、アルギン酸0.3質量部、低粘性アルギン酸ナトリウム0.5質量部、低粘性アルギン酸0.4質量部を添加、分散し、油相を調製した。
上記混合液に、上記油相を添加、乳化し水中油型組成物とし、これを掻取式熱交換器にて90℃で1分間加熱殺菌し、掻取式熱交換器にて60℃に冷却した。次いでイズミフードマシナリー製2段式ホモゲナイザーにて均質化後、ポリエチレン袋に密封し、20℃まで24時間かけて冷却しゲル化させ、本発明で用いる、乳蛋白質とゲル化剤と水とで構成される、水中油型乳化物である、複合体Bを得た。
【0074】
〔製造例3〕複合体Cの製造
クリームチーズ10質量部、ホエイパウダー(蛋白質含有量12質量%)4質量部、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量12質量%、乳固形分38質量%、乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)3質量部、ミルクプロテインコンセントレート(蛋白質含有量80質量%)1質量部及びクエン酸ナトリウム0.8質量部を、水53.1質量部に加え、これをプレート式熱交換器にて85℃で3分間加熱殺菌したものに、乳酸菌スターターを加えて28℃にて乳酸醗酵を行った。これにLMペクチン1質量部、グアーガム0.1質量部及びゼラチン0.5質量部を加え、さらにサラダ油25質量部及びばれいしょ由来の膨潤抑制糊化澱粉1. 5質量部を加え、よく撹拌した。これをプレート式熱交換器にて85℃で3分間加熱殺菌し、掻取式熱交換器にて60℃に冷却し、イズミフードマシナリー製2段式ホモゲナイザーにて1段目20MPa、2段目2MPaの均質化圧力にて均質化後、ポリエチレン袋に密封して静置し、5℃に冷却して、本発明で用いる、乳蛋白質とゲル化剤と水とで構成される、水中油型乳化物である、複合体Cを得た。
【0075】
<スフレケーキ生地及びスフレケーキの製造>
【0076】
複合体A〜Cを用い、下に記したスフレケーキの配合・製法(共立て法による後粉法)により、実施例1〜3及び比較例1のスフレケーキ生地、及び、スフレケーキを製造した。
【0077】
〔実施例1〕
全卵150質量部、上白糖110質量部、液糖10質量部、ケーキ用起泡性乳化脂(「トルテ」:株式会社ADEKA製)25質量部、牛乳20質量部、ベーキングパウダー1質量部、液状油15質量部、複合体40質量部をミキサーボウルに投入し、これをたて型ミキサーにセットし、ワイヤーホイッパーを使用して、低速10秒混合後、高速3分ホイップした。ここに小麦粉(薄力粉)100質量部を添加し、低速30秒混合した後、さらに中速20秒混合し、スフレケーキ生地を得た。
6号のケーキ型に底紙と側紙をあて、ここに得られたスフレケーキ生地350gを流しいれ、固定オーブンを使用し、170℃で30分直焼きし、スフレケーキを得た。
【0078】
〔実施例2〕
上記複合体Aに代えて上記複合体Bを使用した以外は実施例1と同様の配合・製法で、実施例2のスフレケーキ生地、および、スフレケーキを得た。
【0079】
〔実施例3〕
上記複合体Aに代えて上記複合体Cを使用した以外は実施例1と同様の配合・製法で、実施例3のスフレケーキ生地、および、スフレケーキを得た。
【0080】
〔比較例1〕
上記複合体Aを使用しない以外は実施例1と同様の配合・製法で、比較例1のスフレケーキ生地、および、スフレケーキを得た。
【0081】
得られたスフレケーキは常温で1日保存した後、体積、内相について下記評価基準に従って評価し、結果を表1に記載した。
【0082】
<体積評価基準> 単位=ml
◎:700以上
○:650以上700未満
△:600以上650未満
×:600未満
【0083】
<内相の評価試験>
◎:きめが極めて細かく良好な内相であった。
○:きめが細かく良好な内相であった。
△:きめが粗く、不良な内相であった。
×:目がつまり、不良な内相であった。
××:シンがあり極めて不良な内相であった。
【0084】
<食感の評価試験>
◎:極めてしっとりとしていながらねちゃつかない、極めて良好な食感であった。
○:しっとりとしていながらねちゃつかない、良好な食感であった。
△:しとりが感じられない不良な食感であった。
×:しっとりしているが、ねちゃつきが強い不良な食感であった。
【0085】
【表1】

【0086】
上記評価結果からわかるとおり、穀粉類100質量部に対し少なくとも乳蛋白質とゲル化剤と水とで構成される複合体を15〜100質量部添加する方法で得られた、実施例1〜3のスフレケーキは、体積、内相、食感とも良好なものであった。
【0087】
それに対し、少なくとも乳蛋白質とゲル化剤と水とで構成される複合体を使用しなかった、比較例1のスフレケーキは、体積は良好であるが、内相のきめが粗く、食感もしとりの感じられないものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉類100質量部に対し少なくとも乳蛋白質とゲル化剤と水とで構成される複合体を15〜100質量部添加することを特徴とするスフレケーキ生地の製造方法。
【請求項2】
上記乳蛋白質として、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が0.5重量%以上である食品素材を用いる請求項1記載のスフレケーキ生地の製造方法。
【請求項3】
後粉法を用いることを特徴とする請求項1又は2記載のスフレケーキ生地の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のスフレケーキ生地の製造方法により得られたスフレケーキ生地。
【請求項5】
請求項4記載のスフレケーキ生地を焼成して得られたスフレケーキ。

【公開番号】特開2009−82097(P2009−82097A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258475(P2007−258475)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】