説明

スプラウト栽培用培地構造及び同培地構造を備えたスプラウト栽培キット並びにスプラウト栽培用多孔質基材

【課題】従来の栽培方法により栽培されたスプラウトに比して食の安全性が確保できるスプラウト栽培用培地構造及び同培地構造を備えたスプラウト栽培キットを提供する。
【解決手段】本発明に係るスプラウト栽培用培地構造では、発芽後の新芽を食するための種子と、同種子の下方に配置され前記種子が発芽した際に伸延する根を定着させるための多孔質基材とがバインダーにより接着されたスプラウト栽培用培地構造であって、前記多孔質基材は、無漂白パルプを加熱成形したものであることを特徴とすることとした。また、本発明に係るスプラウト栽培キットでは、開口部を有する有底容器の内部に、上述のスプラウト栽培用培地構造を備えたスプラウト栽培用培地を収容してなることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプラウト栽培用培地構造及び同培地構造を備えたスプラウト栽培キット並びにスプラウト栽培用多孔質基材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スーパーやデパートなどの食品売り場において、大根種子の新芽である貝割れ大根や、マメ科植物の種子の新芽であるアルファルファなど、多くの新芽野菜が販売されている。
【0003】
このような発芽した種子の新芽(新芽野菜)はスプラウトと称され、食卓に上る機会が増えている。
【0004】
特に、これらのスプラウトは、極めて活発に細胞分裂が行われている過程にあるため、種子の状態では存在していなかった栄養成分が合成されていたり、酵素類が豊富に含まれているなど、食物栄養学の観点からも注目されつつある。
【0005】
そこで、近年、家庭でも手軽にスプラウトを栽培する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−28479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来のスプラウトの栽培では、種子が発芽した際に伸延する根を定着させるための多孔質基材として、合成樹脂製のスポンジが用いられており、食の安全性において不安があった。
【0008】
すなわち、市販品に比してより安全で新鮮なスプラウトを求めて自家栽培が行われることが多い中、合成樹脂製のスポンジは樹脂成分や溶剤の溶出が懸念され、必ずしも安心、安全なスプラウトを提供できるとは言い難いものであった。
【0009】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、従来の栽培方法により栽培されたスプラウトに比して食の安全性が確保できるスプラウト栽培用培地構造及び同培地構造を備えたスプラウト栽培キット並びにスプラウト栽培用多孔質基材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記従来の課題を解決するために、請求項1に記載のスプラウト栽培用培地構造では、発芽後の新芽を食するための種子と、同種子の下方に配置され前記種子が発芽した際に伸延する根を定着させるための多孔質基材とがバインダーにより接着されたスプラウト栽培用培地構造であって、前記多孔質基材は、無漂白パルプを加熱成形したものであることとした。
【0011】
また、請求項2に記載のスプラウト栽培用培地構造では、前記無漂白パルプは、5〜500μmの繊維径とした綿状の繊維集合体であることに特徴を有する。
【0012】
また、請求項3に記載のスプラウト栽培用培地構造では、請求項1又は請求項2に記載のスプラウト栽培用培地構造において、前記多孔質基材は、60〜150℃にて1〜36時間加熱することにより成形したものであることに特徴を有する。
【0013】
また、請求項4に記載のスプラウト栽培用培地構造では、請求項1〜3いずれか1項に記載のスプラウト栽培用培地構造において、前記バインダーは、水溶性の増粘多糖類であることに特徴を有する。
【0014】
また、請求項5に記載のスプラウト栽培用培地構造では、請求項4に記載のスプラウト栽培用培地構造において、前記水溶性の増粘多糖類は、α化デンプンであることに特徴を有する。
【0015】
また、請求項6に記載のスプラウト栽培キットでは、開口部を有する有底容器の内部に、請求項1〜5に記載のスプラウト栽培用培地構造を備えたスプラウト栽培用培地を収容してなることとした。
【0016】
また、請求項7に記載のスプラウト栽培キットでは、請求項6に記載のスプラウト栽培キットにおいて、前記開口部を閉塞する蓋体を備えたことに特徴を有する。
【0017】
また、請求項8に記載のスプラウト栽培用多孔質基材では、パルプ集積材を粉砕して綿状繊維集合体とした無漂白パルプを、滅菌処理水にて膨潤された状態で形成枠内へ静置し、同形成枠の底面より前記滅菌処理水を排液した後、加熱して成形することとした。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る本発明では、発芽後の新芽を食するための種子と、同種子の下方に配置され前記種子が発芽した際に伸延する根を定着させるための多孔質基材とがバインダーにより接着されたスプラウト栽培用培地構造であって、前記多孔質基材は、無漂白パルプを加熱成形したものであることを特徴とすることとしたため、従来の栽培方法により栽培されたスプラウトに比して食の安全性が確保できるスプラウト栽培用培地構造を提供することができる。
【0019】
また、請求項2に係る本発明では、前記無漂白パルプは、5〜500μmの繊維径とした綿状の繊維集合体であることとしたため、高い保水性と抗菌性を発揮させることができる。
【0020】
また、請求項3に係る本発明では、前記多孔質基材は、60〜150℃にて1〜36時間加熱することにより成形したため、湿潤状態とした際にも形状を保つことができ、しかも、多孔質基材に付着する細菌の初発菌数を可及的に低減させることができる。
【0021】
また、請求項4に係る本発明では、前記バインダーは、水溶性の増粘多糖類であることとしたため、乾燥状態においては種子を多孔質基材上にしっかりと固定することができ、また、湿潤状態となると速やかに溶解して種子の発芽を妨げることがない。
【0022】
また、請求項5に係る本発明では、前記水溶性の増粘多糖類は、α化デンプンであることとしたため、食における安全性の高いスプラウトを栽培することのできるスプラウト栽培用培地構造を構築することができる。
【0023】
また、請求項6に係る本発明では、開口部を有する有底容器の内部に、請求項1〜5に記載のスプラウト栽培用培地構造を備えたスプラウト栽培用培地を収容してなるスプラウト栽培キットとしたため、従来の栽培方法により栽培されたスプラウトに比して食の安全性が確保できるスプラウト栽培キットを提供することができる。
【0024】
また、請求項7に係る本発明では、前記開口部を閉塞する蓋体を備えたため、閉蓋時には容器内部に温室効果を生起させて、栽培速度を高めることができる。
【0025】
また、請求項8に係る本発明では、パルプ集積材を粉砕して綿状繊維集合体とした無漂白パルプを、滅菌処理水にて膨潤された状態で形成枠内へ静置し、同形成枠の底面より前記滅菌処理水を排液した後、加熱して成形したため、従来の栽培方法により栽培されたスプラウトに比して食の安全性が確保できるスプラウト栽培用多孔質基材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態に係るスプラウト栽培キット及び本実施形態に係るスプラウト栽培用培地構造を備えたスプラウト栽培用培地を示した説明図である。
【図2】多孔質基材の表面を示した断面図である。
【図3】スプラウトの栽培過程を示した説明図である。
【図4】他の実施形態に係るスプラウト栽培キットの構成を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、発芽後の新芽を食するための種子と、同種子の下方に配置され前記種子が発芽した際に伸延する根を定着させるための多孔質基材とがバインダーにより接着されたスプラウト栽培用培地構造であって、前記多孔質基材は、無漂白パルプを加熱成形したものであることを特徴とするスプラウト栽培用培地構造を提供するものである。
【0028】
ここで、発芽後の新芽を食するための種子は特に限定されるものではなく、例えば、ひまわり、ラディッシュ、からし菜、クレソン、ブロッコリー、シソ、エンドウ豆、ルッコラ、ソバ、レッドキャベツ、レタス、ムラサキウマゴヤシ、ゴマ、大豆、グリーンマッペ等の種子を用いることができる。
【0029】
また単に植物の育成を楽しむ目的で、遺伝子操作により四葉のクローバーを特異的に高頻度に芽吹く種子を利用したり、撫でると香りを出す香草、ハーブ類の種子を用いても良い。
【0030】
さらに、新芽を食するのは、ヒトに限定されるものではない。例えば、犬の好むブタクサの種子など、愛玩動物が食するスプラウトとして利用することもできる。さらに密生した状態で発芽成長させた後に、適宜間引き、成長させベビーリーフなどとして提供してもよい。
【0031】
また、多孔質基材は無漂白パルプを加熱成形したものである。ここで、無漂白パルプは、5〜500μmの繊維径とした綿状の繊維集合体で形成しても良い。このような構成とすることにより、従来の合成樹脂にて形成されたスポンジに比して、湿潤状態とした際にも形状を保つことができ、1gの栽培用培地あたり5〜20mLと飛躍的に保水力を高めることができる為、少量の水で手間無く植物の育成をすることができる。
【0032】
なお、一般に知られる漂白パルプは塩素等により漂白されていることが多く、その副次的な効果として塩素の強力な殺菌力により、付着している微生物を極めて少ないのが特徴である。
【0033】
しかしながら、スプラウト栽培用の多孔質基材の原料として勘案すると、塩素等の強力な殺菌成分はできるだけ避けることが望ましい。
【0034】
そこで、本実施形態に係るスプラウト栽培用培地構造にて使用する多孔質基材では、無漂白パルプを用いることとしている。
【0035】
特に、無漂白パルプは、上述のような細径の繊維とすることにより、スプラウトの根と無漂白パルプとの接触面積が増加するとともに、無漂白パルプに含まれるリグニンや芳香族化合物等の微生物増殖抑制成分により、人体への安全性の高い極めて優れた抗菌効果が発揮されることとなる。
【0036】
すなわち、スプラウトの根や毛根を、微生物増殖抑制成分を有するパルプの細繊維で緻密に覆うことができ、根部において微生物に繁殖の暇を可及的与えることなく、衛生的な栽培を可能とすることができる。
【0037】
また、多孔質基材は、無漂白パルプを5〜500μmの繊維径の綿状繊維集合体としてパルプ集積材を粉砕し、同1gあたり5〜100mlの滅菌処理水にて膨潤、形成枠へ静置し、1〜100mL/分の流速にて形成枠底面より滅菌処理水を排液した後、60〜150℃にて1〜36時間、より好ましくは75〜125℃にて4〜12時間加熱することにより成形すると良い。
【0038】
パルプ集積材の粉砕は、無漂白パルプを5〜500μmの繊維径の綿状とすることが可能であれば特に限定されるものではなく、例えば、ミルやミキサー等により行うことも可能である。
【0039】
ここで滅菌処理水とは、滅菌処理が施された水を意味するものである。滅菌処理水について具体的に例示すると、例えば、濾過滅菌が施された水や、0.01〜2%の次亜塩素酸を含有する水道水、1〜33%の過酸化水素を含有する過酸化水素水、光触媒にて多量の活性酸素種を含有させた光触媒反応水とすることができる。なお、滅菌処理水として0.01〜2%の次亜塩素酸を含有する水道水を用いた場合、無漂白パルプの加熱成型時に次亜塩素酸の大部分が揮発するため、多孔質基材への残存は無視できる程度となる。また、過酸化水素も同様に、加熱によって揮発するため、残存のおそれがない。このように、加熱により揮発する成分によって滅菌処理が行われた水であれば、上述の滅菌処理水として使用することができる。
【0040】
滅菌処理水の排水は、1〜100mL/分の流速にて成形型枠の底面部より行うのが好ましい。このような排水速度で排水することにより、無漂白パルプのそれぞれの繊維を立体的に互いに絡ませて、成形された多孔質基材を厚手の不織布のような状態とすることができ、保水性や保形性、根の定着性を良好とすることができる。なお、排水速度が1mL/分を下回ると、繊維同士の絡み合いが少なくなるため好ましくなく、また、100mL/分を上回ると、繊維同士の絡み合いが過度となり、根の定着性が悪化するため好ましくない。
【0041】
本操作にて、成形後の形態を、例えば3cm径の星型のシートから、30×60cm大の大きな平板状シートとして様々な形に形成する事が可能となり、一般家庭のキッチン菜園より、土壌を持ちこむことの出来ないレストラン、大規模災害時の被災者用非常食、宇宙空間での生鮮野菜類の提供用途として軽量な培地として利用する事が可能となる。
【0042】
上記温度帯及び時間にて加熱成形を行うことで、多孔質基材に水分を含ませて膨潤させた際にも型くずれすることなく、しかも、多孔質基材を構成する無漂白パルプに付着した細菌類の菌数を効果的に低減させて、スプラウト栽培時の腐敗を可及的防止することができる。
【0043】
しかも、多孔質基材を形成する無漂白パルプに含まれる微生物増殖抑制成分の揮発を可及的抑制しつつも、繊維内部から繊維表面に表出させることができ、スプラウト栽培時の腐敗防止に寄与することとなる。
【0044】
加熱成形時の温度が60℃を下回ると、成形性が悪化するとともに微生物の初発菌数を低減させる効果が見られなくなる。また、加熱成形時の温度が150℃を上回ると成形性は向上し生菌数は低下するものの、無漂白パルプ中に含まれる微生物増殖抑制成分の揮発が著しくなり、スプラウト栽培中の腐敗防止効果が低減してしまう。
【0045】
また、加熱成形時間が1時間を下回ると、成形性が悪化するとともに微生物の初発菌数を低減させる効果が見られなくなる。また、加熱成形時間が36時間を上回っても、成形性の向上や生菌数の低減に顕著な変化は見られず、微生物増殖抑制成分の揮発が進行するため好ましくない。
【0046】
本実施形態に係るスプラウト栽培用培地構造では、種子は多孔質基材にバインダーによって固定されている。
【0047】
種子は種の保存の法則により、密生区においては発芽遅延が起こり、育成のバラつきを生じる。また発芽遅延を生じた種子は、培地上で腐れ培地汚染の原因となる。そのため適切な密度で培地に蒔く、専門性の高い手技を必要とする。
【0048】
種子が多孔質基材上に固定されていない場合を仮定すると、種子は振動等によって偏りが生じ、均一な発芽が行われないおそれがある。また、均一な発芽を行わせるためには、多孔質基材上に細かな種子を均一に並べ直すという煩雑な作業が必要となる。
【0049】
一方、本実施形態に係るスプラウト栽培用培地構造では、種子は多孔質基材にバインダーによって固定されているため、スプラウトの栽培者は、栽培前に多孔質基材上に種子を均一に並べる必要がなく、適切に管理された密度で、簡便且つ均一なスプラウトの栽培を行うことができる。
【0050】
また、バインダーは水溶性の増粘多糖類を用いるのが好ましい。バインダーを水溶性とすることにより、多孔質基材を膨潤させた際にバインダーの結合力が減衰し、種子の発芽を阻害することがない。したがって、発芽率を向上させることができ、できるだけ多くのスプラウトを収穫することが可能となる。また、バインダーを水溶液の状態で多孔質基材の表面に噴霧することにより、後述する浸潤層を形成することができ、発根した種子の根部を多孔質基材に確実に定着させることができる。
【0051】
また、バインダーを増粘多糖類とすることにより、栽培されたスプラウトの食品としての安全性をより向上させることができる。
【0052】
このような水溶性の増粘多糖類に属するバインダーは特に限定されるものではないが、より好ましい一例としてα化されたデンプンを挙げることができる。
【0053】
α化デンプンは、多孔質基材の乾燥時において種子を固定するのに十分な結着力を生起することが可能でありながら、多孔質基材が膨潤した際において過度な粘性を発揮することがなく、栽培したスプラウトがべたつくなどの弊害を可及的防止することができる。
【0054】
種子の多孔質基材への固定は、多孔質基材上に均一に播いた種子上に、水溶性増粘多糖類の水溶液を噴霧して乾燥させることにより行うことができる。
【0055】
具体的には、例えば水溶性の増粘多糖類としてα化デンプンを用いた場合には、0.5〜1.5%(w/w)のα化デンプン水溶液を、多孔質基材上の種子に1cm2あたり50〜200μl程度噴霧して1時間以内に20〜40℃にて乾燥させることで、種子を多孔質基材上に結着させることができる。
【0056】
α化デンプン水溶液の濃度が0.5%(w/w)を下回ると、種子を十分に結着できなくなるおそれがあり、また、1.5%(w/w)を上回ると種子の発芽を阻害したり、スプラウトにべたつきが生じるおそれがあるため好ましくない。
【0057】
このα化デンプン水溶液の濃度は、使用する種子の乾燥重量によって異なり、レタスやルッコラといった0.01g程度の軽く小さな種子であれば、0.5%(w/w)程度の濃度で結着可能であるが、カイワレ大根や瓜といった0.02〜0.05g程度の大きな種子であれば、1.5%(w/w)程度の濃度が必要となる。
【0058】
また、噴霧量が50μl/cm2を下回ると種子を十分に結着できなくなるおそれがあり、また、200μl/cm2を上回ると種子の発芽を阻害したり、スプラウトにべたつきが生じるおそれがあるだけでなく、乾燥に時間を要することとなり、乾燥途中に空気中の微量な細菌類が付着し培地感染を生じるため、好ましくない。
【0059】
また、乾燥時間が6時間を超えると、種子が発芽してしまうおそれがあるため好ましくない。
【0060】
上述のような条件でα化デンプン水溶液を噴霧して乾燥させることにより、発芽したり、種子が発芽能力を失うおそれがなく、種子を多孔質基材上に結着させることができる。
【0061】
また、前述のα化デンプン水溶液中には、植物の育成を助長する成分や、スプラウトに含有させて人や動物などに摂取させたい成分などの補助成分を含有させても良い。
【0062】
このような補助成分は、多孔質基材の乾燥によって揮発しない成分であれば特に限定されるものではなく、例えば、ミネラル成分とすることができる。バインダーと共にミネラル成分を含有させることにより、植物の生育を助長しつつ、人がスプラウトを摂取することによりミネラルの補給を行うことができ、育成したスプラウトの付加価値をより高めることができる。
【0063】
上述してきたスプラウト栽培用培地構造を有するスプラウト栽培用培地は、所定の容器に収容してスプラウト栽培キットとすることができる。
【0064】
このようなスプラウト栽培キットは、一般家庭などにおいて水分を供給するだけで、簡便に安全なスプラウトを栽培することが可能となる。
【0065】
特に、本実施形態に係るスプラウト栽培キットでは、スプラウト栽培用培地を収容する容器として開口を有する有底の容器を備えることとしている。
【0066】
このような構成とすることにより、栽培中のスプラウトに直に触れることのできるインテリアとして利用することも可能となる。
【0067】
また、スプラウト栽培用培地を収容する容器は、開口を閉塞する蓋体を備えるようにしても良い。
【0068】
例えばこの蓋体は、多孔質基材を膨潤させた時から、発芽後間もない時期(栽培するスプラウトの種類によって異なるが、例えば2〜3日)まで開口に取付ておくことで、容器内を気密状且つ水密状に密閉して植物の成長に由来する二酸化炭素を充満させて温室効果を生起させ、スプラウトの生長をより促進させることができる。
【0069】
また、水分の揮発を防止して、多孔質基材の上部表面が乾燥するのを効果的に防止することができる。
【0070】
以下、本実施形態に係るスプラウト栽培用培地構造及びスプラウト栽培キットについて、図面を参照しながら詳説する。
【0071】
図1は本実施形態に係るスプラウト栽培キットA1及び本実施形態に係るスプラウト栽培用培地構造を備えたスプラウト栽培用培地Bを示した説明図である。図1(a)に示すように、スプラウト栽培キットA1は、蓋部10を備えた容器11と、同容器11内に収容されたスプラウト栽培用培地Bとで構成している。
【0072】
容器11は、上部開口12を有する容器本体13を備えており、蓋部10は、この上部開口12を気密及び水密状に閉塞可能なものとしている。
【0073】
スプラウト栽培用培地Bは、図1(b)に示すように、無漂白パルプで形成した多孔質基材15と、同多孔質基材15上に載置固定された発芽後の新芽を食するための種子としてのレタス種子16とを備えている。
【0074】
多孔質基材15は、繊維径5〜300μm、繊維長1〜30mmの無漂白パルプ繊維を集合させたウール状集合体3gを50mLの滅菌処理水にて膨潤させ、これを、波縁円形状の成形型枠内に0.1〜1g/cm3の密度で収容し、成形型枠の底面に設けた排液コックを開いて2.5mL/分の流速にて排水した後、東京理化器械株式会社製送風定温乾燥器にて75℃で12時間加熱することにより形成したものである。
【0075】
レタス種子16は、上述の多孔質基材15上に1cm2あたり5〜15個播種されている。
【0076】
また、レタス種子16は、バインダーとしてのα化デンプンによって、多孔質基材15上に結着固定されており、搬送時の振動等によって容易に移動しないようにしている。
【0077】
具体的には、図2に示すように、多孔質基材15上に載置されているレタス種子16は、α化デンプンにより形成された結着被膜17によって固定されている。
【0078】
この結着被膜17は、多孔質基材15上にばらまかれたレタス種子16の上から、1%α化デンプン水溶液を噴霧して乾燥させることにより形成されている。なお、本実施形態では、結着被膜17は、1%α化デンプン水溶液を1cm2あたり50μl程度噴霧して、2時間、30℃にて乾燥させて形成したものである。
【0079】
また、多孔質基材15の表層部近傍には、噴霧されたα化デンプン水溶液が浸潤することにより浸潤層18が形成されている。
【0080】
この浸潤層18は、多孔質基材15の形状を保つとともに、発根したレタス種子16の根部を、多孔質基材15の表層部近傍に定着し易くするための役割を有している。
【0081】
このようなスプラウト栽培キットA1においてスプラウトS(本実施形態ではレタススプラウト)を栽培する際には、まず図3(a)に示すように、蓋部10を開放し、上部開口12からスプレー等の噴霧器20により、1cm2当たり0.1〜2ml程度の水を霧状に噴霧する。
【0082】
特に、本実施形態に係るスプラウト栽培用培地構造では、多孔質基材15が高い保水性を有しているため、微生物の繁殖を招くおそれのある過度な水分の供給を行う必要がなく、霧状の水分で十分スプラウトSの栽培を行うことができる。
【0083】
また、スプラウト栽培用培地B上に水分が付着すると、結着被膜17が溶解してレタス種子16の周囲から流れ落ち、レタス種子16の発芽を妨げない状態となる。
【0084】
次に、図3(b)に示すように蓋部10により上部開口12を気密及び水密状に閉蓋し、常温下にて静置する。
【0085】
これにより、レタス種子16は発芽及び発根することとなる。また、発芽及び発根に伴い、レタス種子16の呼吸によって生じる二酸化炭素が容器11内に蓄積され、温室効果を生起してレタス種子16の生育を助長する。なお、レタス種子16の発芽及び発根の時点では、光合成は未だ盛んではないため、二酸化炭素の消費は少ないか、無視できる程度である。
【0086】
また、蓋部10は上部開口12を気密及び水密状に閉蓋しているため、容器11外への水分の蒸発は極めて少なく、浸潤層18が水分によって潤って適度な粘性が生起され、レタス種子16より発根した根部の定着を助長する。また、ホコリや落下菌等の混入も防止される。
【0087】
次に、発芽した芽が閉蓋状態の蓋部10の裏面に到達する程度に生育した時点で、蓋部10を上部開口12から取り外し、芽をそのまま上方へ生育伸長させる。
【0088】
そして図3(c)に示すように、芽が十分に伸長した時点で、スプラウトSを多孔質基材15から取り外して収穫し喫食することとなる。
【0089】
このようにして得られたスプラウトSは、上述の本実施形態に係るスプラウト栽培用培地構造を備えたスプラウト栽培用培地B上で収穫されたものであるため、従来の栽培方法により栽培されたスプラウトに比して食の安全性が確保されることとなる。
【0090】
次に、他の実施形態に係るスプラウト栽培キットA2について図4を参照しながら説明する。ここで説明する他の実施形態に係るスプラウト栽培キットA2は、前述のスプラウト栽培キットA1に比して、蓋部10を備えていない点や、外装容器30に装着可能としてる点で構成を異にしている。なお、以下の説明において前述のスプラウト栽培キットA1と同様の構成については、同じ符号を付して説明を省略する。
【0091】
スプラウト栽培キットA2は、具体的には図4(a)に示すように、上部開口32を有する容器31と、同容器31の内部に収容されたスプラウト栽培用培地Bと、容器31が収容・装着される外装容器30とで構成している。
【0092】
容器31は、前述の容器11と略同様の構成を有しているが、スプラウト栽培キットA2を構成する外装容器30に形成された外装容器開口33より内部に収容可能に構成している。
【0093】
そして、スプラウト栽培キットA1と同様に、噴霧器20等により水分をスプラウト栽培用培地Bに対して供給することで、図4(b)に示すようにスプラウトSを得ることができる。
【0094】
このようにして得られたスプラウトSは、前述の蓋部10による温室効果や容器11外への水分の蒸発抑制効果を享受しながら栽培されたスプラウトSではないものの、本実施形態に係るスプラウト栽培用培地構造を備えたスプラウト栽培用培地B上で収穫されたものであるため、従来の栽培方法により栽培されたスプラウトに比して食の安全性が確保されることとなる。
【0095】
上述してきたように、本実施形態に係るスプラウト栽培用培地構造では、発芽後の新芽を食するための種子(例えば、レタス種子16)と、同種子の下方に配置され前記種子が発芽した際に伸延する根を定着させるための多孔質基材(例えば、結着被膜17)とがバインダー(例えば、水溶性増粘多糖類やα化デンプン)により接着されたスプラウト栽培用培地構造であって、前記多孔質基材は、無漂白パルプを加熱成形したものであることとしたため、従来の栽培方法により栽培されたスプラウトに比して食の安全性が確保されたスプラウト(例えば、スプラウトS)を栽培することができる。
【0096】
また、本実施形態に係るスプラウト栽培キット(例えば、スプラウト栽培キットA1,A2)では、開口部(例えば、上部開口12,32)を有する有底容器(例えば、容器11,31)の内部に、請求項1〜5に記載のスプラウト栽培用培地構造を備えたスプラウト栽培用培地(例えば、スプラウト栽培用培地B)を収容してなることとしたため、従来の栽培方法により栽培されたスプラウトに比して食の安全性が確保されたスプラウト(例えば、スプラウトS)を栽培することができる。
【0097】
また、本実施形態に係るスプラウト栽培用多孔質基材では、パルプ集積材を粉砕して綿状繊維集合体とした無漂白パルプを、滅菌処理水にて膨潤された状態で形成枠内へ静置し、同形成枠の底面より前記滅菌処理水を排液した後、加熱して成形したため、従来の栽培方法により栽培されたスプラウトに比して食の安全性が確保されたスプラウト(例えば、スプラウトS)を栽培することができる。
【0098】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【0099】
上記各実施形態において開口は容器の上部に設けたが、これに限定されるものではなく、例えば、容器の側面部に設けることとしても良い。この場合、容器側方からスプラウトの摘み取りが容易となる。
【0100】
また、上記各実施形態において多孔質基材の形状は波縁円形状としたがこれに限定されるものではなく、截頭円錐形状や平面視矩形、三角形、多角形、所定のキャラクタ形状など適宜意匠性を持たせても良い。
【0101】
また、スプラウト栽培キットA2は蓋部10を備えないこととしたが、蓋部10を備えるように構成しても良い。蓋部10を更に備えることにより、温室効果や容器外への水分の蒸発抑制効果を享受することができる。
【符号の説明】
【0102】
10 蓋部
11 容器
12 上部開口
13 容器本体
15 多孔質基材
16 レタス種子
17 結着被膜
18 浸潤層
20 噴霧器
30 外装容器
31 容器
32 上部開口
A1 スプラウト栽培キット
A2 スプラウト栽培キット
B スプラウト栽培用培地
S スプラウト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発芽後の新芽を食するための種子と、同種子の下方に配置され前記種子が発芽した際に伸延する根を定着させるための多孔質基材とがバインダーにより接着されたスプラウト栽培用培地構造であって、
前記多孔質基材は、無漂白パルプを加熱成形したものであることを特徴とするスプラウト栽培用培地構造。
【請求項2】
前記無漂白パルプは、5〜500μmの繊維径とした綿状の繊維集合体であることを特徴とする請求項1に記載のスプラウト栽培用培地構造。
【請求項3】
前記多孔質基材は、60〜150℃にて1〜36時間加熱することにより成形したものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスプラウト栽培用培地構造。
【請求項4】
前記バインダーは、水溶性の増粘多糖類であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載のスプラウト栽培用培地構造。
【請求項5】
前記水溶性の増粘多糖類は、α化デンプンであることを特徴とする請求項4に記載のスプラウト栽培用培地構造。
【請求項6】
開口部を有する有底容器の内部に、請求項1〜5に記載のスプラウト栽培用培地構造を備えたスプラウト栽培用培地を収容してなるスプラウト栽培キット。
【請求項7】
前記開口部を閉塞する蓋体を備えたことを特徴とする請求項6に記載のスプラウト栽培キット。
【請求項8】
パルプ集積材を粉砕して綿状繊維集合体とした無漂白パルプを、滅菌処理水にて膨潤された状態で形成枠内へ静置し、同形成枠の底面より前記滅菌処理水を排液した後、加熱して成形したスプラウト栽培用多孔質基材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−27315(P2013−27315A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163414(P2011−163414)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(504246694)有限会社K2R (6)
【出願人】(594103138)アグリ食品有限会社 (1)
【出願人】(594103149)中原採種場株式会社 (2)
【Fターム(参考)】