説明

スプリンクラー装置用管継手

【課題】スプリンクラー装置用の管継手を汎用樹脂材料を用いて成形し、スプリンクラーヘッドの接続部分における停滞水の発生を確実に防止して給水用配管内に常に清潔な水を流す。
【解決手段】主管部11の側部に分岐部12が突出したT字形のスプリンクラー装置用管継手1を硬質塩化ビニル樹脂を用いて成形する。分岐部12内には流路を区画する短冊形の仕切板13を設け、この仕切板13はその短手幅方向の軸線と主管部11の管軸O1の投影交差角度が鋭角となるように配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の天井に取り付けられる、水道水供給圧を利用して水を噴射するスプリンクラー装置用の管継手に関する。
【背景技術】
【0002】
火災を検知して消火用水を自動で散水するスプリンクラー装置として、天井裏に設置された上水道の給水用配管から装置内に水を取り入れ、水道水供給圧を利用して水を噴射する方式のものが知られている。
かかる方式の装置にあっては、水道水の給水用配管の途中部分にスプリンクラーヘッドが取り付けられるため、給水用配管とスプリンクラーヘッドの連結部分の流路に、いわゆる「死水」と呼ばれる停滞水が生じることがある。
上水道の給水用配管の途中の流路に停滞水が発生すると、滞った水の塩素濃度が低下して不衛生となり上水道として使用することができなくなるため、前記方式のスプリンクラー装置において停滞水の防止は極めて重要な課題である。
【0003】
そこで、停滞水の発生を防止する機能を備えた管継手や、これを用いたスプリンクラー装置が提案されている。
例えば下記特許文献1では、合成樹脂製の仕切板を内部に備えた鋼製の管継手と散水装置が一体化したスプリンクラー装置が提案されている。また、特許文献2では、スプリンクラーヘッドが連結される管継手の内部流路を仕切板で左右に仕切り、水道水が仕切られた流路を往復してスプリンクラーヘッドを通過するように設けたスプリンクラー装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−191968号公報
【特許文献2】実開平4−40667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、給水用配管とスプリンクラーヘッドを接続する管継手として停滞水が生じないように内部に仕切板を設けた構造のものが使用されているが、従来のものは何れも青銅鋳物などの金属材料により成形されており、停滞水防止機能を備えた汎用樹脂製の管継手はなく、そのため部材コストが高くならざるを得ないのが実情である。
また、内部に仕切板を設けた従来の管継手は、その一側の受口から他側の受口へと通ずる内部流路の流水方向に対し、これに垂直に交差するように向けて仕切板を設置してあるため、前記管継手の分岐側の先端に設けられたスプリンクラーヘッドとの間の内部流路で水の循環が不十分となって停滞水が出来やすかった。製品の組み合わせにより、管継手の分岐側の先端部分とスプリンクラーヘッドまでの距離が長くなると、より水の循環が不十分となって停滞水が発生し易くなることは避けられない。
前述の通り、停滞水は水道水の品質を劣化させて水道水を使用できなくすることから、給水用配管にスプリンクラーヘッドを直結する方式の装置においては停滞水が生じないようにする確実な対策を講じる必要があり、管継手の停滞水防止機能についても、停滞水が絶対に生じないように、機能性をより向上させることが望まれる。
【0006】
本発明は従来技術の有するこのような問題点に鑑み、水道水供給圧を利用して水を噴射するスプリンクラー装置用の管継手を汎用樹脂材料を用いて成形するとともに、給水用配管とスプリンクラーヘッドの接続部分における停滞水の発生を確実に防止し、給水用配管内に常に清潔な水を流すことができるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、主管部の側部に分岐部が突出したT字形の管継手であって前記主管部の両端に給水用配管が接続する受口、分岐部の端部にスプリンクラーヘッドが取り付けられるヘッド接続口が設けられた合成樹脂製のスプリンクラー装置用管継手において、分岐部内に流路を区画する短冊形の仕切板が設けられ、且つこの仕切板はその短手幅方向の前記主管部の管軸方向に対する投影交差角度が所定の角度をなすように配置されていることを特徴とする。
また、本発明は前記構成において、仕切板はその表面に凹溝又は凸筋が形成されてなることを特徴とする。
【0008】
図1を用いて本発明の管継手の構成を説明すれば、図示されるように、本発明の管継手1は主管部11の側部に分岐部12が垂直に突出したT字形の管継手であり、主管部11の両端には水道水の給水用配管(図示せず)が接続する受口11a、11b、分岐部12の端部にはスプリンクラーヘッド(図示せず)が取り付けられるヘッド接続口12aを設けるとともに、分岐部12内に流路を区画する仕切板13を一体に設けて形成してある。
【0009】
より詳しくは、給水用配管が接続する主管部11の受口11a、11bは、各種の給水用配管、すなわち鋼管や銅管、樹脂製の架橋ポリエチレン管、ポリブデン管、硬質ポリ塩化ビニル管等が接続できるように設けてある。また、分岐部12のヘッド接続口12aには金属雌ネジ14が埋め込まれ、市販のスプリンクラーヘッドが接続できるように設けてある。
【0010】
また、分岐部12の内部に設けた仕切板13は、当該分岐部12の内部流路を縦に二分して区画する幅を有する短冊形の薄肉な板材であり、その上端を主管部11の内部流路の中心近傍、下端をヘッド接続口12aの上端に臨ませ、且つ、図2に示されるように、主管部11の管軸O1を通る水平面上に仕切板13を投影したときに、仕切板13の短手幅方向に沿った軸線Sの前記管軸O1に沿った方向に対する投影交差角度θが所定の角度をなすように配置して、分岐部12の内部に一体に固定してある。
【0011】
このように構成された本発明の管継手1は、主管部11の受口11aに入口側の給水用配管、受口11bに出口側の給水用配管、分岐部12のヘッド接続口12aにスプリンクラーヘッドをそれぞれ接続して設置され、図3に示されるように、受口11aに接続された給水用配管から主管部11内に給水された水を、同図中の破線で示すように、仕切板13でその一部は主管部11の内部流路を通して受口11bへ、一部は仕切板13で区画された分岐部12の内部流路を通してヘッド接続口12aへとそれぞれ分配し、ヘッド接続口12aへと分配された水は仕切板13の下端部を迂回して受口11b側へと流出させることで、スプリンクラーヘッドの接続部近傍に停滞水が生じることを防止するものである。図3中、符番O2は分岐部12の管軸である。
【0012】
ここで、主管部11の管軸O1方向に対する仕切板13の短手幅方向の軸線Sの投影交差角度θは30〜80°の範囲内であることが好ましい。より好ましい投影交差角度θは35〜75°であり、このうち40〜70°の範囲がさらに好ましい。
前記範囲内に仕切板13を配置すれば、ヘッド接続口12aに向かって流れる水に流速差がつくことで渦流が発生し易くなり、常時水の流れが形成されるため停滞水防止の観点から有効である。また、仕切板13を、角度を付けて配置することで、配管内の圧力損失を軽減することが可能である。
さらに仕切板13に貫通孔を形成した構成であれば、配管内の圧力損失の軽減により効果がある。
【0013】
またさらに、図4に示されるように、仕切板13の表面に凹溝13aが形成されていれば、前記内部流路を流れる水が仕切板表面の凹溝13aに接触して乱流を生じさせ、前記と同様に常時水の流れが形成されて内部流路内を循環することで、停滞水の発生を防止することができる。
凹溝13aは、仕切板13に沿って流れる水に乱流を生じさせるように機能するものであれば、仕切板13の表面に設ける数や断面形状、長さ等は問わず、また、図4(B)に示されるように、仕切板13の長手方向に沿って設ける他に、短手方向に沿って或いは任意の方向に設けてもよい。
すなわち、図4に示されるように、仕切板13の表面に断面角形の凹溝13aを設けたり、図5(A)に示されるように、仕切板13の表面に複数の凹溝13a、13aを設けたり、或いは同図(B)に示されるように、断面半円状に湾曲した凹溝13aを設けたりしてもよい。なお、図示した仕切板13はその表裏両面に凹溝13aを設けてあるが、前記内部流路の少なくとも上流側に凹溝13aが設けてあれば水の乱流を生じさせることが可能であり、仕切板13の上流側の面にのみ凹溝13aが設けられていればよい。
また、図5(C)に示されるように、前記凹溝13aに代えて、仕切板13に沿って流れる水に乱流を生じさせるように機能する適宜な断面形状の凸筋13bを仕切板13の表面に任意の方向に沿って一つ以上設けてもよい。
【0014】
本発明の管継手の成形に用いる汎用樹脂としては、PVC、ABS、PP、PE、架橋PEなどの樹脂原料を使用可能であるが、コスト面、及び小規模グループホームへのスプリンクラー設備に関する法改正が近年実施され、それに伴ってスプリンクラー用の給水用配管としての当該ポリ塩化ビニル管の使用量が増加していることを考慮すると、管継手も硬質塩化ビニル系樹脂を使用して成形することが好ましい。
【0015】
管継手の成形に用いる硬質塩化ビニル系樹脂は、例えばポリ塩化ビニル単独重合体;塩化ビニルモノマーと、この塩化ビニルモノマーと共重可能な不飽和結合を有するモノマーとの共重合体;塩化ビニル以外の(共)重合体に塩化ビニルをグラフト共重合したグラフト共重合体などが挙げられる。これらは単独で使用されてもよく、二種以上が併用されてもよい。また、必要に応じて前記ポリ塩化ビニル系樹脂を塩素化してもよい。
【0016】
前記塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有するモノマーとしては、特に限定されず、例えばエチレン、プロピレン、ブチレンなどのα−オレフィン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;ブチビニルエーテル、セチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチルアクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル類;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのN−置換マレイミド類などが挙げられる。これらは単独で使用されてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0017】
前記塩化ビニルをグラフト共重合する重合体としては、塩化ビニルをグラフト共重合するものであれば特に限定されず、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素共重合体(EVACO)、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート−一酸化炭素共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリウレタン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレンなどが挙げられる。これらは単独で使用されてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0018】
前記硬質塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、特に限定されるものではないが、小さくなると成形体の物性低下が起こり、大きくなると溶融粘度が高くなって成形が困難になるため、400〜1600が好ましく、600〜1300が特に好ましい。また、異なる重合度を持つポリ塩化ビニル樹脂を混ぜて使用してもよい。
なお、平均重合度とは、複合塩化ビニル系樹脂をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、濾過により不溶成分を除去した後、濾液中のTHFを乾燥除去して得た樹脂を資料とし、日本工業規格 JIS K−6721「塩化ビニル樹脂試験方法」に準拠して測定した平均重合度を意味する。
【0019】
前記硬質塩化ビニル系樹脂の重合方法は、特に限定されず、従来公知の任意の重合方法を採用することができ、例えば塊状重合方法、溶液重合方法、乳化重合方法、懸濁重合方法などが挙げられる。
【0020】
前記硬質塩化ビニル系樹脂の塩素化方法としては、特に限定されず、従来公知の塩素化方法を採用することができ、例えば熱塩素化方法、光塩素化方法などが挙げられる。
【0021】
前記硬質塩化ビニル系樹脂は、いずれも樹脂組成物としての性能を阻害しない範囲で架橋、変性して用いてもよい。この場合、予め架橋、変性した樹脂を用いてもよく、添加剤などを配合する際に、同時に架橋、変性してもよく、或いは樹脂に前記成分を配合した後に架橋、変性してもよい。
前記樹脂の架橋方法についても、特に限定はなく、硬質塩化ビニル系樹脂の通常の架橋方法、例えば各種架橋剤、過酸化物を使用する架橋、電子線照射による架橋、水架橋性材料を使用した方法などが挙げられる。
【0022】
また、前記樹脂配合物には熱安定剤を併用することが好ましい。熱安定剤としては、特に限定されないが、鉛系安定剤、有機スズ安定剤、高級脂肪酸金属塩(金属石ケン)などが挙げられ、これらが単独で或いは複合して用いられる。
【0023】
鉛系安定剤としては、例えば鉛白、塩基性亜硫酸鉛、三塩基性硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、二塩基性フタル鉛、三塩基性マレイン酸鉛、シリカゲル共沈ケイ酸鉛、二塩基性ステアリン酸鉛、ステアリン酸鉛、ナフテン酸鉛などが挙げられる。
また、有機スズ系安定剤としては、例えばジブチル錫メルカプト、ジオクチル錫メルカプト、ジメチル錫メルカプトなどのメルカプチド類;ジブチル錫マレート、ジブチル錫マレートポリマー、ジオクチル錫マレート、ジオクチル錫マレートポリマーなどのマレート類;ジブチル錫メルカプトジブチル錫ラウレート、ジブチル錫ラウレートポリマーなどのカルボキシレート類が挙げられる。
【0024】
高級脂肪酸金属塩としては、例えばステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、リシノール酸カルシウム、ステアリン酸ストロンチウム、ステアリン酸バリウム、ラウリン酸バリウム、リシノール酸バリウム、ステアリン酸カドミウム、ラウリン酸カドミウム、リシノール酸カドミウム、ナフテン酸カドミウム、2−エチルヘキソイン酸カドミウム、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸亜鉛、2−エチルヘキソイン酸亜鉛、ステアリン酸鉛、二塩基性ステアリン酸鉛、ナフテン酸鉛などが挙げられる。
【0025】
前記熱安定剤の配合割合は、特に限定されないが、硬質塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、0.3〜10.0質量部とすることが好ましい。
すなわち、安定剤の配合割合が0.3質量部未満であると、成形時における硬質塩化ビニル系樹脂の熱安定剤が確保され難く、成形中に炭化物が出やすくなる虞があり、10.0質量部を超えると、押出機スクリューによる混練効果が十分に得られなくなり、成形性が悪くなる虞がある。
【0026】
なお、本発明で使用する樹脂組成物中には、その物性を損なわない範囲で、滑剤、加工助剤、衝撃改質剤、耐熱向上剤、酸化防止剤、熱安定化助剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、可塑剤、熱可塑性エラストマーなどの添加剤が添加されていてもよい。
【0027】
前記滑剤としては、内部滑剤、外部滑剤が挙げられる。
内部滑剤は、成形加工時の溶融樹脂の流動粘度を下げ、摩擦発熱を防止する目的で使用される。内部滑剤としては、特に限定されず、例えばブチルステアレート、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、エポキシ化大豆油、グリセンモノステアレート、ステアリン酸、ビスアミドなどが挙げられる。これらは単独で使用されてもよく、二種以上が併用されてもよい。
外部滑剤は、成形加工時の溶融樹脂と金属面との滑り効果を上げる目的で使用される。外部滑剤としては、特に限定されず、例えばパラフィンワックス、ポリオレフィンワックス、エステルワックス、モンタン酸ワックスなどが挙げられる。これらは単独で使用されてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0028】
前記加工助剤としては、特に限定されず、例えば質量平均分子量10万〜200万のアルキルアクリレート−アルキルメタクリレート共重合体などのアクリル系加工助剤などが挙げられる。前記アクリル系加工助剤としては、特に限定されず、例えばn−ブチルアクリレート−メチルメタクリレート共重合体、2−エチルヘキシルアクリレート−メチルメタクリレート−ブチルメタクリレート共重合体などが挙げられる。これらは単独で使用されてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0029】
前記衝撃改質剤としては、特に限定されず、例えばメタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS)、塩素化ポリエチレン、アクリルゴムなどが挙げられる。
【0030】
前記耐熱向上剤としては、特に限定されず、例えばα−メチルスチレン系、N−フェニルマレイミド系樹脂などが挙げられる。
【0031】
前記酸化防止剤としては、特に限定されず、例えばフェノール系抗酸化剤などが挙げられる。
【0032】
前記熱安定化助剤としては、特に限定されず、例えばエポキシ化大豆油、リン酸エステル、ポリオール、ハイドロタルサイト、ゼオライトなどが挙げられる。これらは単独で使用されてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0033】
前記光安定剤としては、特に限定されず、例えばヒンダードアミン系などの光安定剤が挙げられる。
【0034】
前記紫外線吸収剤としては、特に限定されず、例えばサリチル酸エステル系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系などの紫外線吸収剤が挙げられる。
【0035】
前記顔料としては、特に限定されず、例えばアゾ系、フタロシアニン系、スレン系、染料レーキ系などの有機顔料、酸化物系、クロム酸モリブデン系、硫化物・セレン化物系、フェロシアニン化物系などの無機顔料が挙げられる。
【0036】
前記可塑剤としては、特に限定されず、例えばジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペートなどの可塑剤が挙げられる。なお、前記硬質塩化ビニル系樹脂組成物には可塑剤が添加されていてもよいが、成形品の耐熱性を低下させることがあるため、多量に使用することはあまり好ましくない。
【0037】
前記熱可塑性エラストマーとしては、特に限定されず、例えばアクリルニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体や塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体などの塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらは単独で使用されてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0038】
また、水圧試験などの短期性能、及び脈動試験などの長期性能を満足すれば、工場内で発生する再生原料を添加してもよい。
【0039】
このように構成される本発明の管継手は、例えば以下の成形工程により製造することができる。
例えば成形材料として硬質塩化ビニル樹脂を用いる場合、主管部の両端に給水用配管に接合可能な受口、分岐部の端部に金属雌ネジが埋め込まれたヘッド接続口を備え、さらに分岐部内に仕切板が一体に設けたT字形の管継手を成形するため、所定の硬質塩化ビニル樹脂を射出成形機に投入、溶融させ、金型内のスプルー、ランナーに前記溶融樹脂を通して各々の形状及び接続口を備えた管継手を成形する。このときの温度は、組成、添加剤などによって適宜に調整する必要があるが、一般的には150〜230℃が好ましく、金型温度は20〜50℃までが好ましい。
【0040】
また、別の製造方法として、給水用配管に接合可能な受口を三つ備えたT字形の管継手と、端部に金属雌ネジが埋め込まれたヘッド接続口を備えていて管内部に仕切板が一体に設けられた管状の継手をそれぞれ別の成形工程で成形する。それぞれの継手は、前記と同様に、所定の硬質塩化ビニル樹脂を射出成形機に投入、溶融させ、金型内のスプルー、ランナーに前記溶融樹脂を通して成形され、このときの温度も、組成、添加剤などによって適宜に調整され、一般的には150〜230℃が好ましく、金型温度は20〜50℃までが好ましい。
そして、別個に成形されたT字形の管継手と管状の管継手を取り揃え、T字形の管継手の分岐部の受口内に管状の管継手を挿入して接着固定することで、本発明の管継手が形成される。この場合、金属雌ネジが埋め込まれたヘッド接続口を備えた管状の継手に、別加工で作製された仕切板を接着固定して一体化させるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、スプリンクラー装置用の管継手を、汎用樹脂を用いて安価に成形することができ、また、給水用配管とスプリンクラーヘッドの接続部分における停滞水の発生を確実に防止し、給水用配管内に常に清潔な水を流すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の管継手の半面を破断して示した正面外観図である。
【図2】図1の管継手の分岐部端部側から見た外観図である。
【図3】図1の管継手の横断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態における管継手の分岐部端部側から見た外観図(A)と仕切板を平面で表わした概略横断面図(B)である。
【図5】本発明のさらに他の実施形態における管継手の分岐部端部側から見た外観図であり、(A)は仕切板に複数の凹溝を設けた形態、(B)は仕切板に断面半円状の凹溝を設けた形態、(C)は仕切板に凸筋を設けた形態を各々示している。
【図6】本発明の実施例における試験の測定系を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の管継手の好適な実施の形態を実施例と比較例の評価結果に基づき説明する。なお、本発明はこれら実施例の形態に限定されるものではない。
【0044】
〔実施例1〕
硬質塩化ビニル樹脂を用い、前記図1〜図3に示された管継手1を成形した。仕切板13の短手幅方向の軸線Sと主管部11の管軸O1との投影交差角度θは45°に設定した。なお、管継手1の主管部11の呼び径は25、分岐部12の呼び径は13とした。
【0045】
〔実施例2〕
前記実施例1と同様に管継手1を成形した。仕切板13の短手幅方向の軸線Sと主管部11の管軸O1との投影交差角度θは67.5°に設定した。
【0046】
〔実施例3〕
前記実施例1と同様の管継手1に、図4(A)に示した如く仕切板13の表面に凹溝13aを設けて、管継手1を成形した。仕切板13の短手幅方向の軸線Sと主管部11の管軸O1との投影交差角度θは45°に設定した。
【0047】
〔比較例1〕
硬質塩化ビニル樹脂を用い、主管部11と分岐部12は、前記図1〜図3に示された管継手1と同一構成であるが、分岐部12内に仕切板13が設置されていない管継手を成形した。
【0048】
〔比較例2〕
実施例1と同様に管継手1を成形した。仕切板13の短手幅方向の軸線Sと主管部11の管軸O1との投影交差角度θは90°に設定した。
【0049】
〔比較例3〕
実施例1と同様に管継手1を成形した。仕切板13の短手幅方向の軸線Sと主管部11の管軸O1との投影交差角度θは22.5°に設定した。
【0050】
前記実施例及び比較例で成形した各管継手について停滞水の防止効果の確認試験を行った。
確認試験は、図6に示される測定系を構成して行った。すなわち、管継手1の受口11aに給水用配管、受口11bに排水用配管を接続し、ヘッダ接続口12aには上端部周面に雄ネジが形成され、下端部が閉鎖された長さ100mm程度の透明な硬質塩化ビニルパイプを接続する。そして、給水用配管から管継手1に給水する一方、受口11bからの排水流量が一定の流量となるように排水用配管に接続されたバルブを調整する。
【0051】
次いで、管継手1の受口11aから受口11bに水が一定の量で流水することが確認されたならば、一旦、図6に示された硬質塩化ビニルパイプ内を赤色の染色水で満たしてこれをヘッダ接続口12aに接続し、その後、給水用配管11aから管継手1内に一定の流量の水を給水する。管継手1に給水された水は、分岐部12から前記硬質塩化ビニルパイプ内に流れこんで染色水を排出させ、硬質塩化ビニルパイプ内染色水が排出した部分(水が流れ込んだ部分)は透明になる。
そして、各管継手1について、排水流量が10(L/分)となるようにバルブを調整した場合に、給水開始から1分後の、硬質塩化ビニルパイプ内における、当初の赤色の染色水から透明な水に入れ替わった透明部の長さを測定し調査した。
【0052】
調査結果を表1に示す。
なお、表中の「評価」は、給水開始から1分後に、透明部長さが40mm以上となったものに、停滞水防止に有効であるとして「○」を付し、40mmより短かかったものに「×」を付した。
【0053】
【表1】

【0054】
表1より明らかなように、管継手1の分岐部12内に仕切板13を、実施例1、2及び3の角度の配置した場合は、前記各比較例のものよりも透明部の長さが長くなっており、ヘッダ接続口12a近傍における滞留水の発生防止効果が高いことを確認することができる。
さらに、仕切板13の表面に凹溝13を設けた実施例3では、透明部の長さが実施例1、2よりも長くなり、仕切板13の表面に凹溝13aを設けることが、滞留水の発生防止により効果があることを確認することが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 管継手、11 主管部、11a,11b 受口、12 分岐部、12a ヘッダ接続口、13 仕切板、13a 凹溝、13b 凸筋、14 金属雌ネジ、O1 主管部の管軸、O2 分岐部の管軸、S 仕切板の短手幅に沿った軸線、θ 投影交差角度




【特許請求の範囲】
【請求項1】
主管部の側部に分岐部が突出したT字形の管継手であって前記主管部の両端に給水用配管が接続する受口、分岐部の端部にスプリンクラーヘッドが取り付けられるヘッド接続口が設けられた合成樹脂製のスプリンクラー装置用管継手において、
分岐部内に流路を区画する短冊形の仕切板が設けられ、且つこの仕切板はその短手幅方向の前記主管部の管軸方向に対する投影交差角度が30〜80°の範囲内であるように配置されていることを特徴とするスプリンクラー装置用管継手。
【請求項2】
仕切板はその表面に凹溝又は凸筋が形成されてなることを特徴とする請求項1に記載のスプリンクラー装置用管継手。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−72898(P2012−72898A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183034(P2011−183034)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】