説明

スプリングバランサ装置

【課題】スプリングバランサ装置において、ロック動作の性能を高め、かつロック動作後の復帰処理を容易に実施できるようにする。
【解決手段】回転主軸10Jに同軸固定された主歯車10Hと、その主歯車10Hに噛合しこの主歯車10Hを回転駆動する駆動歯車20Hと、駆動歯車20Hに噛合しつつこの駆動歯車20Hの回りを移動し主歯車10Hと噛み合うロック位置Lcに移動されることにより回転主軸10Jの回転を停止させるロック用歯車30Hとを備える。負荷検出部40で検出された駆動歯車20Hの回転負荷の値が所定の値以下のときには主歯車10Hとロック用歯車30Hとが噛み合わない位置ULcにロック用歯車30Hを退避させ、回転負荷の値が所定の値を超えたときにロック用歯車30Hをロック位置Lcに移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転主軸の回転をスプリングでバランスさせるスプリングバランサ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、上下方向に移動可能に保持された物体を任意の位置に静止させたり、あるいは、そのような物体の上下方向への移動に要する力を減少させたりするためのスプリングバランサ装置が知られている。
【0003】
このようなスプリングバランサ装置は、上下方向へ移動可能な物体に作用する重力を、この物体に対してスプリングにより作用させた力でバランスさせるものである(特許文献1参照)。
【0004】
このようなスプリングバランサ装置を搭載した装置として、放射線源を上下方向に移動可能に保持しつつ、天井に架設されたレール上を走行する天井走行懸垂器を備えた放射線撮影装置が知られている。
【0005】
この天井走行懸垂器は、重力の作用する放射線源に対しこの放射線源をワイヤで上方に吊り上げてその放射線源に作用する力をバランスさせて、放射線源を任意の位置に静止させることができる。
【0006】
このような天井走行懸垂器に配されたスプリングバランサ装置には、放射線源をワイヤで上方に吊り上げる力を作用させるために渦巻バネを用いたものが知られている。
【0007】
ここで、渦巻バネばねが破断すると、放射線源を上方に吊り上げる力が失われて放射線源に対して重力のみが作用するようになるのでこの放射線源は落下する。
【0008】
このようなバネの破断による放射線源の落下を防止することができるスプリングバランサ装置として、渦巻バネが破断するとこの渦巻バネが解けて渦巻バネの外径が拡大することを利用したものが知られている(特許文献2参照)。
【0009】
このような放射線源の落下を防止するロック機構を備えたスプリングバランサ装置は、放射線源を上方に吊り上げるワイヤを巻き上げるための回転主軸を有している。また、この回転主軸にはワイヤを巻き上げる方向に渦巻バネのバネ力が作用している。
【0010】
渦巻バネの破断によりこの渦巻バネの外径が拡大すると、渦巻バネを収容する円筒ドラムに配されているピンがこの円筒ドラムの外側に押し出される。この押し出されたピンが円筒ドラムの周りを囲う筐体の内側の溝に突き当たることにより、円筒ドラムに固定された回転主軸とこの回転主軸を軸止する筐体との互いの位置がピンを介して固定される。これにより、筐体に対する回転主軸の回転が停止するので放射線源の落下を止めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−199700号公報
【特許文献2】特開平11−222399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、上記ロック機構付のスプリングバランサ装置は、渦巻バネが破断してから、筐体内側の溝にピンが突き当たって放射線源の落下が止まるまでに放射線源が数十mm落下してしまうので、この落下距離を小さくしたいという要請がある。
【0013】
また、渦巻バネの外径が拡大して円筒ドラムに配されたピンを筐体内側の溝に突き当てる機構が複雑なため、破断した渦巻バネ等を交換して元のスプリングバランサ装置の状態に復帰させる作業、すなわち渦巻バネの破断時に放射線源の落下を止めるロック動作を実行した後の復帰処理が難しいという問題がある。
【0014】
そのため、渦巻バネが破断したときの修復を容易に行なえるようにし、かつ、放射線源の落下距離を小さくするためにロック動作の反応時間を短縮したいという要請がある。
【0015】
なお、このような問題は、放射線源をバランスさせる渦巻バネが破断する場合に限らず、スプリングバランサ装置に配されたバランサ用のスプリングが破断する場合に一般に生じる問題である。
【0016】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ロック動作の性能を高めることができ、かつロック動作後の復帰処理が容易なスプリングバランサ装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のスプリングバランサ装置は、正転方向への回転モーメントが作用する回転主軸に対して、スプリングにより発生させた正転方向とは反対の逆転方向への回転モーメントを作用させて、回転主軸の回転をバランスさせるロック機構付のスプリングバランサ装置であって、回転主軸を回転させるためこの回転主軸に同軸固定された主歯車と、主歯車に噛合しこの主歯車を回転駆動する駆動歯車と、駆動歯車に生じる回転負荷を検出する負荷検出手段と、回転主軸が正転方向へ回転するときに主歯車および駆動歯車それぞれの歯が両歯車の噛合位置に接近する側において前記一方の歯車とは異なる他方の歯車と噛み合うロック位置に移動されて、回転主軸の正転方向の回転を停止させるロック用歯車と、負荷検出手段で検出された回転負荷の値が所定の値以下のときには主歯車とロック用歯車とが噛み合わない位置にこのロック用歯車を退避させ、回転負荷の値が所定の値を超えたときにロック用歯車をロック位置に移動させるロック用歯車移動手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0018】
ロック用歯車は、主歯車および駆動歯車のいずれか一方の歯車の回転軸に一端が枢支されたアームの、前記一方の歯車の外周より外方に伸びた箇所に軸止され、この一方の歯車に噛合しつつその一方の歯車の回りを移動可能なものとすることができる。
【0019】
ロック用歯車をロック位置に位置させたときに、ロック用歯車の回転中心と主歯車の回転中心とを結ぶ直線とロック用歯車の回転中心と駆動歯車の回転中心とを結ぶ直線とのなす角度が85°以上、95°以下となるように構成することが望ましい。
【0020】
なお、上記角度は、各歯車の回転中心軸に対して直交する平面と、各歯車の回転中心軸とが交わる位置それぞれを各歯車の回転中心としたときに定められる角度である。
【0021】
前記スプリングバランサ装置は、天井走行懸垂式の放射線撮影装置の天井走行台に保持された放射線源の自重により回転主軸への正転方向の回転モーメントが加えられるようにこの放射線撮影装置に装着されたものとすることができる。
【0022】
前記スプリングバランサ装置は、条件式(1):G1>G2>G3を満足するものとすることができる。
【0023】
ただし、G1は、スプリングが破断しているときに、主歯車および駆動歯車により、ロック用歯車をロック位置に保持する保持力である。G2は、ロック用歯車移動手段により、ロック位置に位置しているロック用歯車を、主歯車とロック用歯車とが噛み合わない前記退避位置へ移動させるために作用させる力である。G3は、スプリングが破断していないときに、主歯車および前記駆動歯車により、ロック用歯車をロック位置に保持する保持力である。
【発明の効果】
【0024】
本発明のスプリングバランサ装置によれば、回転主軸に同軸固定された主歯車と、主歯車を駆動する駆動歯車と、駆動歯車に生じる回転負荷を検出する負荷検出手段と、ロック位置に移動されて回転主軸の正転方向の回転を停止させるロック用歯車と、負荷検出手段で検出された回転負荷の値が所定の値以下のときには主歯車とロック用歯車とが噛み合わない位置にロック用歯車を退避させ、回転負荷の値が所定の値を超えたときにはロック用歯車をロック位置に移動させるロック用歯車移動手段とを備えるようにしたので、ロック動作の性能を高めることができ、かつロック動作後の復帰処理を容易に行なうことができる。
【0025】
すなわち、上記3つの歯車を噛み合わせて回転主軸の回転をロックするロック機構と回転主軸の回転をスプリングでバランスさせる機構とを個別に設けることができるので、スプリングが破断したときの修理をロック機構の存在とは拘わりなく行なうことができ、破断したスプリングの修復、およびロック機構の修復をより容易に行なうことができる。
【0026】
また、このスプリングバランサ装置によれば、負荷検出手段による回転負荷の検出、およびロック用歯車のロック位置への移動の制御等を電気的に実行することができる。したがって、従来の機械的なロック動作、すなわち、例えば渦巻バネの破断により渦巻バネの外径が拡大して筐体内側の溝にピンを突き当てるロック動作を実行する場合に比して、ロック動作の反応時間を短縮することができる。
【0027】
また、ロック用歯車をロック位置に位置させたときに、ロック用歯車の回転中心と主歯車の回転中心とを結ぶ直線とロック用歯車の回転中心と駆動歯車の回転中心とを結ぶ直線とのなす角度を85°以上、95°以下とすれば、このロック用歯車をロック位置に移動させて主歯車へ噛み合わせる動作をよりスムーズに実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第実施の形態によるスプリングバランサ装置の概略構成を示す正面図
【図2】上記スプリングバランサ装置の概略構成を示す平面図
【図3】ロック機構が解除された状態のスプリングバランサ装置の様子を示す正面図
【図4】上記スプリングバランサ装置が搭載された天井走行懸垂式の放射線撮影装置を示す斜視図
【図5】上記放射線撮影装置中のスプリングバランサ装置部分を拡大して示す拡大斜視図
【図6A】モータにより放射線源を鉛直方向に移動させるときのフローチャート
【図6B】上記図6Aに続くフローチャート
【図7A】手動により放射線源を鉛直方向に移動させるときのフローチャート
【図7B】上記図7Aに続くフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。図1は本発明の実施の形態によるロック機構付きのスプリングバランサ装置の概略構成を示す正面図、図2は上記スプリングバランサ装置の概略構成を示す平面図、図3はロック動作を解除しているときのスプリングバランサ装置の様子を示す正面図である。なお、図1はロック動作が実行された状態を示す図であり、図2、3はロック動作が解除されている状態を示す図である。
【0030】
図4は上記スプリングバランサ装置が搭載された天井走行懸垂式の放射線撮影装置を示す斜視図、図5は上記放射線撮影装置中のスプリングバランサ装置が搭載されている部分の構造を拡大して示す拡大斜視図である。
【0031】
図示の本発明の実施の形態によるロック機構付のスプリングバランサ装置100は、正転方向(図中矢印RA方向)への回転モーメントが作用する回転主軸10Jに対して、スプリングである渦巻バネSpにより発生させた上記正転方向RAとは反対の逆転方向(図中矢印RB方向)への回転モーメントを作用させて、回転主軸10Jの回転をバランスさせるものである。
【0032】
このスプリングバランサ装置100は、回転主軸10Jを回転させるためこの回転主軸10Jに同軸固定された主歯車10Hと、主歯車10Hと常に噛合しこの主歯車10Hを回転駆動するための駆動歯車20Hと、駆動歯車20Hを回転駆動するとともにこの駆動歯車20Hに生じる回転負荷を検出する負荷検出部を兼ねるモータ部40とを備えている。
【0033】
また、このスプリングバランサ装置100は、駆動歯車20Hに一端が枢支されたアーム25の他端に軸止され、駆動歯車20Hに噛合しつつ駆動歯車20Hの回りを移動可能なロック用歯車30Hを備えている。このロック用歯車30Hは、回転主軸10Jが正転方向RAに回転するときに、主歯車10Hおよび駆動歯車20Hそれぞれの歯が両歯車の噛合位置Poに接近する側(図中矢印Fで示す側)において主歯車10Hと噛み合うロック位置Lcに移動されて回転主軸10Jの正転方向RAの回転を停止させるものである。
【0034】
なお、ロック用歯車30Hは、ロック用軸30Jに同軸固定されており、アーム25の他端である、駆動歯車20Hの外周より外方に伸びた個所にロック用軸30Jを介して軸止されている。
【0035】
さらに、このスプリングバランサ装置100は、負荷検出手段を兼ねるモータ部40で検出された回転負荷の値が所定の値以下のときには主歯車10Hとロック用歯車30Hとが噛み合わない退避位置ULcにこのロック用歯車30Hを位置させ、回転負荷の値が所定の値を超えたときにはロック用歯車30Hをロック位置Lcに移動させるロック用歯車移動部50を備えている。
【0036】
このロック用歯車30Hは、主歯車10Hの回転主軸に一端が枢支されたアーム25の他端に軸止され、主歯車10Hに噛合しつつこの主歯車10Hの回りを移動可能なものであり、回転主軸10Jが正転方向RAに回転するときに、主歯車10Hおよび駆動歯車20Hそれぞれの歯が互に接近する側(図中矢印Fで示す側)において駆動歯車20Hと噛み合うロック位置に移動されて回転主軸10Jの正転方向の回転を停止させるものである。
【0037】
なお、ロック用歯車30Hをロック位置Lcに位置させたときに、ロック用歯車30Hの回転中心30Cと主歯車の回転中心10Cとを結ぶ直線L13とロック用歯車30Hの回転中心30Cと駆動歯車20Hの回転中心20Cとを結ぶ直線L32とのなす角度αは85°以上、かつ95°以下となるように構成されている。
【0038】
負荷検出部を兼ねるモータ部40は、駆動軸20Jを回転させるモータ42と、このモータ42を駆動するモータ駆動部44とを有している。このモータ駆動部44は、モータ42の回転軸である駆動軸20Jに加えられる負荷すなわち、駆動軸20Jに同軸固定された駆動歯車20Hに加えられる回転負荷を検出するものでもある。モータ駆動部44で検出された、駆動歯車20Hに加えられる回転負荷を示す値は、後述の負荷判定部56に入力される。
【0039】
ロック用歯車移動部50は、ソレノイド52と、このソレノイドを駆動するソレノイド駆動部54と、モータ駆動部44で検出され入力された回転負荷の値が所定値以下であるか否か(所定値を超えているか)を判定する負荷判定部56とを有している。
【0040】
負荷判定部56には、モータ駆動部44で検出された、駆動歯車20Hに加えられている回転負荷を示す値が常時リアルタイムで入力されている。
【0041】
この負荷判定部56は、入力された回転負荷の値が所定値以下であるか否か(所定値を超えているか)を示す判定結果をソレノイド駆動部54に入力する。
【0042】
ソレノイド駆動部54に対して、回転負荷の値が所定値以下であることを示す判定結果が負荷判定部56から入力された場合には、このソレノイド駆動部54が、ソレノイド52を駆動してロック用歯車30Hを退避位置ULcに位置させる。
【0043】
また、ソレノイド駆動部54に対して、回転負荷の値が所定値を超えていることを示す判定結果が負荷判定部56から入力された場合には、このソレノイド駆動部54がソレノイド52の駆動を解除することによりロック用歯車30Hがロック位置Lcに移動される。
【0044】
上記ソレノイド駆動部54によるロック用歯車30Hの駆動については後述する。
【0045】
アーム25中のロック用軸30Jを軸止する側には当付部25Qが配置されており、この当付部25Qが常にソレノイド52の直進軸52Jの先端に当て付けられるように、駆動軸20Jに枢支されたアーム25がバネ(図示は省略)により付勢されている。
【0046】
筐体60には、上記主歯車10Hが同軸固定されている回転主軸10J、駆動歯車20Hが同軸固定されている駆動軸20Jが軸止されている。また、この筐体60には、モータ42、ソレノイド52、および渦巻バネSpの外周端が固定されている。
【0047】
また、筐体60に軸止されている回転主軸10Jには、上記主歯車10Hが同軸固定されるとともに、渦巻バネSpの内周端が固定されており、さらにワイヤEを巻き上げるための傾斜ドラム62が同軸固定されている。なお、上記のように、渦巻バネSpの内周端が回転主軸10Jに固定され、外周端が筐体60に固定されている。
【0048】
一端が傾斜ドラム62に固定されたワイヤEの他端は、上下方向に移動可能な放射線源230に固定されている。
【0049】
ここで、放射線源230の自重によりワイヤEが図中−X方向に引かれると、傾斜ドラム62を介して回転主軸10Jを正転方向RAに回転させる回転モーメントが生じる。一方、この正転方向RAの回転モーメントは、渦巻バネSpにより生じる回転主軸10Jを逆転方向RBに回転させる回転モーメントによって相殺される。すなわち、回転主軸10Jを正転方向RAに回転させる回転モーメントと逆転方向RBに回転させる回転モーメントとが釣り合うことにより回転主軸10Jの回転はバランスする。これにより、ワイヤEに吊られた放射線源230を上下方向の任意の位置で静止させることができる。
【0050】
ここで、ワイヤEを傾斜ドラム62で巻き上げるにしたがって、ワイヤEを巻上るときの径が小さくなるため、放射線源230の自重によって回転主軸10Jに加えられる正転方向RAの回転モーメントが小さくなる。一方、傾斜ドラム62でワイヤEを巻き上げるにしたがって、渦巻バネSpが解かれるため、渦巻バネSpに貯えられているバネ力により回転主軸10Jに加えられる逆転方向RBの回転モーメントも小さくなる。このような構成により、放射線源230が上下方向のどこに位置していても、回転主軸10Jに加えられる正転方向RAの回転モーメントと逆転方向RBの回転モーメントとを釣合わせることができる。
【0051】
以下、上記ロック機構付きのスプリングバランサ装置の作用について説明する。
【0052】
放射線源230がワイヤEで吊られて上下方向に移動可能な状態であるときは、ロック機構が解除されている。
【0053】
このようにロック機構が解除されているときには、モータ駆動部44で検出され負荷判定部56に入力される回転負荷の値(駆動歯車20Hを介して駆動軸20Jに加えられている回転負荷を示す値)は所定値以下である。
【0054】
所定値以下の回転負荷を示す値が入力されたソレノイド駆動部54は、ソレノイド52を駆動させて、このソレノイド52の直進軸52Jがソレノイド52内に引き込まれるようにする。すなわち、ソレノイド駆動部54から電力を供給して駆動されたソレノイド52は、ソレノイド52に内蔵されたコイルバネ(図示は省略)の力に抗して直進軸52Jを移動させ、この直進軸52Jをソレノイド52内に引き込む。これにより、ソレノイド52の直進軸52Jは図中矢印−X方向に移動した状態となる(図3参照)。
【0055】
なお、ソレノイド52に内蔵されたコイルバネは、直進軸52Jをソレノイド52から押し出す力(+X方向に移動させる力)を付与するものである。すなわち、このソレノイド52は、電力が供給されず駆動されないときには、コイルバネの力により直進軸52Jがソレノイド52から+X方向へ押し出された状態となり、電力が供給されて駆動されたときには、コイルバネの力に抗して直進軸52Jがソレノイド52内(−X方向へ)に引き込まれた状態となるように構成されている。
【0056】
また、ソレノイド52の直進軸52Jの先端にアーム25の当付部25Qが当付けられるように、このアーム25が常に付勢されているので、アーム25に軸止されたロック用歯車30Hも図中−X方向に付勢されている。したがって、ロック用歯車30Hは、ソレノイド52に電力が供給されているときに、主歯車10Hとロック用歯車30Hとが噛み合わない退避位置ULcに位置している。
【0057】
このようにロック動作が解除された状態において、渦巻バネSpが破断したとする。
【0058】
渦巻バネSpが破断すると、この渦巻バネSpにより回転主軸10Jに加えられていた逆転方向RBの回転モーメントが略ゼロとなり、この回転主軸10Jに加えられる回転モーメントのバランスが崩れる。すなわち、放射線源230の自重による正転方向RAの回転モーメントのみが回転主軸10Jに加えられるようになる。
【0059】
回転主軸10Jに加えられた正転方向RBの回転モーメントは、主歯車10H、駆動歯車20H、および駆動軸20Jを介してモータ42に加えられる。
【0060】
すなわち、このモータ42の回転軸である駆動軸20Jには、放射線源230の自重に応じた回転モーメントが加えられることになる。
【0061】
ここで、モータ42は、渦巻バネSpが破断しても、この渦巻バネSpが破断する以前と同様の所定の動作を実行しようとする。このような状態におけるモータ42の負荷は非常に大きくなり、このモータ42に加えられた非常に大きな負荷はモータ駆動部44で検出される。
【0062】
このモータ駆動部44で検出された回転負荷は負荷判定部56に入力され、負荷判定部56から、所定値を越えた回転負荷を示す値が入力されたことを示す判定結果がソレノイド駆動部54に入力されると、ソレノイド駆動部54はソレノイド52の駆動を停止する。すなわち、ソレノイド52への電力供給を遮断する。電力供給が停止されたレノイド52は、このソレノイド52に内蔵されたコイルバネのバネ力のみを受けた直進軸52Jが+X方向に押し出される(図1参照)。
【0063】
直進軸52Jがソレノイド52から押し出されるときには、アーム25の−X方向への付勢力の抗して、この直進軸52Jがアーム25を+X方向に移動させる。
【0064】
このアーム25の+X方向への移動により、このアーム25に軸止されたロック用歯車30Hが、駆動歯車20Hと噛合しつつロック位置Lcに移動され、ロック用歯車30Hと主歯車10Hが噛み合わされる。
【0065】
ロック用歯車30Hが、主歯車10Hの歯と駆動歯車20Hの歯とが互に近寄る側において両歯と噛み合わされることにより、3つの歯車が互いに噛み合わされて主歯車10Hに固定されている回転主軸10Jの回転が停止される。これにより回転主軸10Jがロックされる。
【0066】
このようなロック機構の駆動により、回転主軸10Jの回転がロックされ、ワイヤEの巻き上げおよび巻き戻しが停止するので放射線源230の落下も止まる。これにより、ロック動作が完了する。
【0067】
なお、上記3つの歯車が互に噛み合わされたときに、駆動歯車20Hに加えられる回転負荷すなわち駆動軸20Hを介してモータ42に加えられる負荷の大きさは、所定の値以下にはならないので、このように3つの歯車が噛み合わされてロックされた状態が維持される。
【0068】
このようなロック機構により、渦巻バネSpが破断してから回転主軸10Jの回転がロックされるまでの放射線源230の落下距離、すなわち渦巻バネSpが破断したときの放射線源230の落下距離を数mmとすることができる。
【0069】
一方、従来のロック機構である、渦巻バネが破断したときに渦巻バネの外径が拡大して筐体の内側の溝にピンが突き当たるように構成したロック機構では、渦巻バネが破断したときの放射線源230の落下距離は数十mmである。
【0070】
なお、ロック動作の完了後、このロック動作を解除するために、ロック位置Lcに位置させているロック用歯車30Hを退避位置ULcに移動させるときには、主歯車10Hと駆動歯車20Hとロック用歯車30Hとの噛み合いを緩めてから、ロック用歯車30Hを退避位置ULcに移動させることが望ましい。例えば、放射線源230に対してこの放射線源230を上方に引き上げる力を作用させつつ、ロック用歯車30Hを退避位置ULcへ移動させることにより、ロック位置Lcに位置するロック用歯車30Hをスムーズに退避位置ULcへ移動させることができる。
【0071】
以下にロック動作が解除されるときの条件について詳しく説明する。
【0072】
ロック動作が解除されているときは、回転主軸10Jの回転によるワイヤEの巻き上げおよび巻き戻しが可能な状態である。一方、ロック動作が実行されているときは、回転主軸10Jの回転によるワイヤEの巻き上げおよび巻き戻しが停止されている状態である。
【0073】
ここで、ロック動作が実行されているときは、渦巻バネが破断してロック状態となっている場合と、渦巻バネは破断していないが単にワイヤEの巻き上げおよび巻き戻し動作の停止中にロック状態となっている場合とがある。
【0074】
ロック動作の実行後にロック状態を解除できるか否か、すなわち、ソレノイド52への電力供給を停止することによりロック用歯車30Hを退避位置ULcへ移動させることができるか否かは、ロック用歯車30Hを退避位置ULcへ移動させるためのアーム25に加えられる上記付勢力(ロック用歯車30Hを軸止するアーム25がバネにより付勢される力)に依存する。
【0075】
渦巻バネが破断してロック状態となっている場合、回転主軸10Jには常に正転方向RAへのみ回転モーメントが作用している。このような場合には、ロック用歯車30Hが主歯車10Hと駆動歯車20Hとの噛合点Poに引き込まれるように両歯車と強く噛み合っている。
【0076】
そのため、ソレノイド52への電力供給を停止して直進軸52Jを-X方向へ移動させても、ロック用歯車30Hを−X方向へ移動させるための上記アーム25を介したバネの付勢力では、ロック用歯車30Hを退避位置ULcへ移動させることはできず、ロック状態を解除することはできない。
【0077】
一方、渦巻バネは破断していないがロック状態となっている場合、回転主軸10Jに作用する正転方向RAへの回転モーメントと逆転方向RBへの回転モーメントとは釣合っている。このような場合には、ロック用歯車30Hが、主歯車10Hおよび駆動歯車20Hと噛み合う力は小さくなっている。
【0078】
したがって、ソレノイド52への電力供給を停止して直進軸52Jを-X方向へ移動させれば、ロック用歯車30Hを−X方向へ移動させるための上記アーム25を介したバネの付勢力により、ロック用歯車30Hを退避位置ULcへ移動させることができ、ロック状態を解除することができる。
【0079】
すなわち、条件式(1):G1>G2>G3を満足するように、スプリングバランサ装置100が構成されている。
【0080】
ここで、G1は、渦巻バネSpが破断しているときに、主歯車10Hおよび駆動歯車20Hにより、ロック用歯車30Hをロック位置Lcに保持する保持力である。
【0081】
また、G2は、ロック用歯車移動部50により、ロック位置Lcに位置しているロック用歯車30Hを主歯車10Hとロック用歯車30Hとが噛み合わない退避位置ULcへ移動させるために作用させる力である。
【0082】
また、G3は、渦巻バネSpが破断していないときに、主歯車10Hおよび駆動歯車20Hにより、ロック用歯車30Hをロック位置Lcに保持する保持力である。
【0083】
なお、上記スプリングバランサ装置100は、後述する天井走行懸垂式の放射線撮影装置の天井走行台である天井走行懸垂器201に保持された放射線源230の自重により回転主軸10Jに対して正転方向RAの回転モーメントが加えられるように、この放射線撮影装置200に装着されているものとすることができる。
【0084】
以下、スプリングバランサ装置100を天井走行懸垂式の放射線撮影装置に配置した場合について説明する。
【0085】
上記のように、このスプリングバランサ装置100は、天井走行懸垂式の放射線撮影装置の天井走行台である天井走行懸垂器201に保持された放射線源230の自重により回転主軸10Jへ正転方向RAの回転モーメントが加えられるように、この放射線撮影装置200に装着されている。
【0086】
天井走行懸垂式の放射線撮影装置の備える天井走行懸垂器201は、天井に架設されたX方向に延びる固定レール211、この固定レール211の延びる方向(X方向)に対して直交する方向(Y方向)に延びるレールであって、固定レール211に懸架された状態でこの固定レール211の延びる方向(X方向)へ走行可能な可動レール212、この可動レール212に懸架された状態でこの可動レール212の延びる方向(Y方向)へ移動可能な水平移動台213、この水平移動台213の下側に取り付けられた支柱であって、多段繰り出し方式により鉛直方向(Z方向)へ伸縮可能な伸縮支柱214と、上記XおよびY方向への水平移動台213の移動、およびZ方向への伸縮支柱214の伸縮を行うための各駆動モータ(図示は省略)とを備えている。
【0087】
放射線源230は、一端が水平移動台213に固定された伸縮支柱214の他端に取り付けられている。
【0088】
このように構成された天井走行懸垂器201より、放射線源230を水平方向(XおよびY方向)と鉛直方向(Z方向)とへ移動させることができる。
【0089】
放射線源30を吊り上げてバランスさせるスプリングバランサ装置100は、水平移動台213に配置されている。
【0090】
スプリングバランサ装置100の備える傾斜ドラム62によって巻き上げられるワイヤEの先端は、伸縮支柱214の下端、すなわち、放射線源230の上部に固定されている。この放射線源230に固定されたワイヤEは、筒状に形成された伸縮支柱214の内部を通って伸縮支柱214の上端の開口部214Kからこの伸縮支柱214の外部へ伸び、水平移動台213に設けられたプーリ213Pを介して傾斜ドラム62に巻きつくように施設されている。
【0091】
このようにワイヤEを施設することにより、放射線源30の重量をスプリングバランサ装置100でバランスさせることができる。
【0092】
なお、天井走行懸垂器201は、ロック用歯車30Hをロック位置Lcに移動させて放射線源320の鉛直方向への移動を停止させるロック機構の他に、伸縮支柱214を多段繰り出しする各支柱の位置関係を固定して放射線源320の上下方向への移動を停止させるブレーキ機構(図示は省略)をも有している。
【0093】
以下に、天井走行懸垂器201に配置されたスプリングバランサ装置100におけるロック動作とブレーキ動作とのタイミングについて説明する。
【0094】
放射線源230の自重をバランスさせる力を発生させるために渦巻バネSpを用いたスプリングバランサ装置100を採用した場合、スプリングバランサ装置100の使用時に渦巻バネSpに生ずる最大応力はこの渦巻バネSpの材料の降伏点付近となるため、応力振幅の繰り返し(経年劣化)によりこの渦巻バネSpが破断することがある。
【0095】
例えば、90kgの質量を有する放射線源のバランスを保持するためのスプリングバランサ装置として3本の渦巻バネを備えているものを採用する場合に、3本の渦巻バネのうちの1本が破断すると、30kg分のアンバランスが生じ放射線源が下がり始める。
【0096】
この対策のため、放射線源の停止時は、ブレーキを掛けるとともにスプリングバランサ装置の回転主軸の回転をロックしている。
【0097】
ブレーキ動作を解除するときには、スプリングバランサ装置のロック動作も同時に解除する。
【0098】
渦巻バネが破断していないときの通常の停止時は、ブレーキの動作遅れやブレーキ滑り時間等を考慮して、ブレーキにより放射線源を停止させたときから1秒後に、スプリングバランサ装置のロック動作を実行するようにする。
【0099】
スプリングバランサ装置により質量90kgの放射線源を保持しているときに、3本のうちの1本の渦巻バネが破断すると、モータに対して質量30kg分に相当する過負荷がかかり、過負荷検出が動作してモータが停止するとともに、ロック動作が遅れることなく実行される。
【0100】
上記ロック動作とブレーキ動作とのタイミングについて以下の表1にまとめて示す。
【0101】
また、図6Aにモータにより放射線源を鉛直方向に移動させるときのフローチャートを、図6Bに上記図6Aに続くフローチャートを示す。図7Aに手動により放射線源を鉛直方向に移動させるときのフローチャートを、図7Bに上記図7Aに続くフローチャートを示す。
【表1】

【0102】
上記のように、本発明のスプリングバランサ装置によれば、スプリングが破断したときのロック動作の反応時間を短縮することができるとともに、スプリングが破断したときのロック動作後の復帰処理を容易に行なうことができる。
【0103】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない限りにおいて、種々変更することが可能である。
【0104】
なお、この回転主軸の回転をロックするロック機構は、上記のような主歯車と駆動歯車とを備えてはいるがロック機構を備えていない一般のスプリングバランサ装置に対して後付けすることもできる。
【符号の説明】
【0105】
10J 回転主軸
10H 主歯車
20H 駆動歯車
30H ロック用歯車
40 負荷検出部
Lc ロック位置
ULc 退避位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正転方向への回転モーメントが作用する回転主軸に対して、スプリングにより前記正転方向とは反対の逆転方向への回転モーメントを作用させて、前記回転主軸の回転をバランスさせるロック機構付のスプリングバランサ装置であって、
前記回転主軸を回転させるため該回転主軸に同軸固定された主歯車と、
前記主歯車に噛合し該主歯車を回転駆動する駆動歯車と、
前記駆動歯車に生じる回転負荷を検出する負荷検出手段と、
前記回転主軸が正転方向へ回転するときに前記主歯車および前記駆動歯車それぞれの歯が該両歯車の噛合位置に接近する側において他方の歯車と噛み合うロック位置に移動されて、前記回転主軸の正転方向の回転を停止させるロック用歯車と、
前記負荷検出手段で検出された回転負荷の値が所定の値以下のときには前記主歯車と前記ロック用歯車とが噛み合わない位置に該ロック用歯車を退避させ、前記回転負荷の値が所定の値を超えたときに前記ロック用歯車を前記ロック位置に移動させるロック用歯車移動手段とを備えたことを特徴とするスプリングバランサ装置。
【請求項2】
前記ロック用歯車は、前記主歯車および前記駆動歯車のいずれか一方の歯車の回転軸に一端が枢支されたアームの、前記一方の歯車の外周より外方に伸びた箇所に軸止され、該一方の歯車に噛合しつつ該一方の歯車の回りを移動可能であることを特徴とする請求項1記載のスプリングバランサ装置。
【請求項3】
前記ロック用歯車を前記ロック位置に位置させたときに、前記ロック用歯車の回転中心と前記主歯車の回転中心とを結ぶ直線と前記ロック用歯車の回転中心と前記駆動歯車の回転中心とを結ぶ直線とのなす角度が85°以上、95°以下となることを特徴とする請求項1または2記載のスプリングバランサ装置。
【請求項4】
前記スプリングバランサ装置が、天井走行懸垂式の放射線撮影装置の天井走行台に保持された放射線源の自重により前記回転主軸への正転方向の回転モーメントが加えられるように該放射線撮影装置に装着されたものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載のスプリングバランサ装置。
【請求項5】
以下の条件式(1)を満足するものであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載のスプリングバランサ装置。
G1>G2>G3・・・(1)
ただし、
G1:前記スプリングが破断しているときに、前記主歯車および前記駆動歯車により、前記ロック用歯車を前記ロック位置に保持する保持力
G2:前記ロック用歯車移動手段により、前記ロック位置に位置している前記ロック用歯車を、前記主歯車と前記ロック用歯車とが噛み合わない前記退避位置へ移動させるために作用させる力
G3:前記スプリングが破断していないときに、前記主歯車および前記駆動歯車により、前記ロック用歯車を前記ロック位置に保持する保持力

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【公開番号】特開2011−68419(P2011−68419A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218371(P2009−218371)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】