説明

スプレー剤塗布方法及びスプレー剤塗布装置

【課題】金型に離型剤などのスプレー剤を塗布するスプレーノズルにおいて、簡単な構成により、実際にスプレー剤の詰まりが発生した場合の不具合を未然に防止する。
【解決手段】鋳造用の金型1・2の成形面1a・2aに離型剤などのスプレー剤を塗布するスプレー剤塗布方法において、スプレーノズル4からスプレー剤を噴霧するとともに、金型1・2のスプレー剤噴霧箇所の温度を検出し、スプレー剤噴霧開始後から、予め設定される所定時間が経過するまでの間に、検出される金型の温度が予め設定される所定温度を下回らない場合、スプレーノズル4に異常が発生したと判断し、警報を発する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造用の金型において、鋳造製品の離型性を高めるため成形面に塗布される離型剤などのスプレー剤の塗布方法及び塗布装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ダイカストマシン等の鋳造装置においては、軽合金鋳物などの鋳造の際、鋳造製品の金型からの離型性を高めるため、溶湯を注湯する前の型開き状態の金型に対して、その成形面(キャビティ面)に離型剤が塗布される。離型剤は、離型剤攪拌槽などにて水または油との混合・攪拌により液状とされ、塗布装置のスプレーノズルから金型の成形面にスプレー塗布される。
金型の成形面に塗布される離型剤は、鋳造による金型からの輻射熱の影響により、あるいは何等かの原因で一定時間以上鋳造が停止され、離型剤が再度塗布されるまでの時間間隔が開いた場合など、スプレーノズルの先端部に離型剤が固着して詰まりが発生することがある。
【0003】
このように、離型剤によってスプレーノズルに詰まりが発生した場合、スプレーノズルからの離型剤の噴霧が不可能となることもあり、この場合、離型剤が金型の成形面に塗布されないため、鋳造製品の金型からの離型性を低下させ、ひいては鋳造製品が金型から離型できないという不具合も発生する。
また、離型剤を塗布する工程を含めた一連の鋳造工程が自動的に繰り返し行われる場合、スプレーノズルの詰まりが発生すると、金型の成形面に離型剤が十分な量、あるいはまったく塗布されないにも関わらず鋳造装置が停止しないため、金型の焼き付きが発生し、その後、異常が検知されて装置が停止することがあった。
【0004】
こうしたスプレーノズルにおける離型剤の詰まりを防止するための技術が、特許文献1に開示されている。本文献においては、スプレー剤(離型剤)または金型冷却用の水が供給されるスプレーノズルを備える金型スプレー装置が示されており、それぞれの噴霧量がコントロールされスプレーされる構成となっている。そして、このスプレー装置により、まず、水を金型にスプレーして金型を冷却した後、この金型にスプレー剤をスプレーし、スプレー完了後に再度水に切り替えてスプレーノズル先端部の洗浄を行う金型スプレー方法が開示されている。
【0005】
また、離型剤は、鋳造製品の金型からの離型性を高める機能を有しているが、金型の温度には離型剤の塗布に適した温度(例えば200〜300℃)が存在する。
つまり、金型の成形面の表面温度が、離型剤の塗布に適した温度よりも高い状態では、離型剤の蒸発が激しくその付着率が低くなり、逆に成形面の表面温度が、離型剤の塗布に適した温度よりも低い状態では、離型剤が付着しにくかったり余分な離型剤が残ったりし、残った離型剤はいわゆる湯回り性低下の原因ともなる。
従って、離型剤を塗布する際に、金型の温度が離型剤の塗布に適した温度に下がるまで、離型剤を塗布することも行われている。
【0006】
しかし、鋳造製品の形状やサイズ等にもよるが、金型の温度は、その成形空間(キャビティ)内に注湯される溶湯からの受熱量が異なるため、部位によって差が生じる場合がある。つまり、例えば、成形空間内に注湯される溶湯が通過する湯口近傍の金型温度は、湯口から離れた部位における金型温度よりも高くなる。このように金型の温度が不均一である場合、金型の成形面に対して一様に離型剤を塗布すると、前述したように適量の離型剤が塗布されない部位が生じることとなる。
【0007】
このような金型の温度の不均一さに起因する離型剤塗布に際する不具合を解決するための技術が、特許文献2に開示されている。本文献においては、金型の成形面に近い部位であって湯口からの距離が異なる複数の位置にそれぞれ温度センサを設けるとともに、各温度センサに対応して複数の噴霧装置を設けている。これにより、各温度センサで測定した測定結果に基づいて各噴霧装置による離型剤の塗布量を決定し、成形面全域に亘って金型温度に応じた適量の離型剤を塗布する離型剤の塗布方法が開示されている。
【特許文献1】特開2001−162213号公報
【特許文献2】特開平8−174174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
確かに特許文献1に示されている金型スプレー方法は、スプレーノズルにおける離型剤の詰まりを防止することができると考えられるが、これは未然防止策であるため、実際にスプレーノズルに離型剤の詰まりが発生した場合、これを直接検知することはできない。つまり、スプレーノズルに離型剤の詰まりが発生しているのか否かを判断することは不可能である。これでは、実際にスプレーノズルの詰まりが発生した場合、前述したように、離型剤を塗布する工程を含めた一連の鋳造工程が自動的に繰り返し行われる場合などにおいて不具合が生じる。
【0009】
また、特許文献2に示されている離型剤の塗布方法においては、実際の金型の温度分布に即して離型剤を塗布しようとすると、例えば、金型が大きく成形面の面積が広い場合など、多数の温度センサや噴霧装置が必要となり、また、各温度センサは金型に埋設して設けられるため、構造の複雑化やコスト高を招くおそれがあり、メンテナンス上も好ましくない。
【0010】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、金型に離型剤などのスプレー剤を塗布するスプレーノズルにおいて、簡単な構成により、実際にスプレー剤の詰まりが発生した場合の不具合を未然に防止することができるスプレー剤塗布方法及びスプレー剤塗布装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0012】
即ち、請求項1においては、鋳造用の金型の成形面にスプレー剤を塗布するスプレー剤塗布方法において、スプレーノズルからスプレー剤を噴霧するとともに、金型のスプレー剤噴霧箇所の温度を検出し、スプレー剤噴霧開始後から、予め設定される所定時間が経過するまでの間に、検出される金型の温度が予め設定される所定温度を下回らない場合、前記スプレーノズルに異常が発生したと判断するものである。
【0013】
請求項2においては、前記スプレー剤塗布方法において、前記スプレーノズルに異常が発生したと判断した場合に、異常が発生した旨の警報を発するものである。
【0014】
請求項3においては、鋳造用の金型の成形面にスプレー剤を塗布するスプレー剤塗布装置において、スプレー剤を噴霧するスプレーノズルを有する噴霧装置と、金型の温度を検出する金型温度検出手段と、前記金型温度検出手段により検出される金型の温度が、予め設定される所定温度を下回るようにスプレー剤の噴霧を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記スプレーノズルからのスプレー剤噴霧開始後から、予め設定される所定時間が経過するまでの間に、前記金型温度検出手段により検出される金型の温度が前記所定温度を下回らない場合、前記スプレーノズルの異常が発生したと判断するものである。
【0015】
請求項4においては、前記スプレー剤塗布装置において、前記スプレーノズルに異常が発生したと判断した場合に、異常が発生した旨の警報を発する警報手段を備えるものである。
【0016】
請求項5においては、前記金型温度検出手段を、前記噴霧装置に設けたものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0018】
請求項1においては、スプレー剤の噴霧を開始してから一定以上時間が経過しても金型の温度が下がらない場合に、スプレーノズルに異常が発生したと判断することにより、スプレー剤塗布装置を自動停止させることができる。これにより、実際にスプレー剤の詰まり等のスプレーノズルの異常が発生した場合の不具合を未然に防止することができる。
【0019】
請求項2においては、スプレーノズルに異常が発生した旨の警報を発することにより、オペレータに異常が発生した旨を報知することができる。これにより、警報の発生とともに自動的に、または警報を察知したオペレータによって装置を停止させることで、装置停止後の処置(スプレーノズルの詰まりを取り除く等のスプレーノズルの異常の解消)を迅速に行うことができ、安全性の向上を図ることができる。
【0020】
請求項3においては、スプレー剤の噴霧を開始してから一定以上時間が経過しても金型の温度が下がらない場合に、スプレーノズルに異常が発生したと判断することにより、スプレー剤塗布装置を自動停止させることができる。これにより、実際にスプレー剤の詰まり等のスプレーノズルの異常が発生した場合の不具合を未然に防止することができる。
【0021】
請求項4においては、スプレーノズルに異常が発生した旨の警報を発することにより、オペレータに異常が発生した旨を報知することができる。これにより、警報の発生とともに自動的に、または警報を察知したオペレータによって装置を停止させることで、装置停止後の処置を迅速に行うことができ、安全性の向上を図ることができる。
【0022】
請求項5においては、金型の大きさや形状に関わらず、簡単な構成で、金型の成形面全域に亘って金型温度に応じた適量の離型剤を塗布することができるとともに、スプレーノズルに異常が発生したことの判断または異常が発生した際に発せられる警報の正確性を向上することができる。
また、金型温度検出手段が、金型内に埋設されることがないので、金型温度検出手段のメンテナンス性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、発明の実施の形態を説明する。
本発明に係るスプレー剤塗布方法は、例えば、自動車用エンジンのシリンダブロック等のように、アルミニウム合金などの軽合金鋳物を鋳造する鋳造金型において、鋳造製品の離型性を高めるため成形面に塗布される離型剤の塗布方法として適用される。なお、本発明におけるスプレー剤としては、離型剤に限定されるものではなく、例えば保湿剤などの種々のスプレー剤に適用することができる。
【0024】
図1は、本発明に係るスプレー剤塗布装置の構成を示す図である。本図に示すように、スプレー剤塗布装置により離型剤が塗布される対象である金型は、例えば、雄型構造の固定金型1と、この固定金型1に対して近接離間方向に移動可能に設けられる雌型構造の可動金型2とから開閉自在に構成される。また、これら固定金型1及び可動金型2の少なくともいずれかには、溶湯を注湯する湯口(図示略)が設けられる。
【0025】
そして、固定金型1と可動金型2とが閉じられた状態で、固定金型1の成形面(キャビティ面)1aと可動金型2の成形面とで構成される成形空間(キャビティ)内に、前記湯口を介して注湯される溶湯が充填されて冷却固化された後、金型1・2が型開きされ、鋳造製品が取り出される。
この型開きされた金型1・2から鋳造製品が取り出される際、鋳造製品の金型1・2からの離型性を高め、鋳造製品の型離れを円滑に行わせるため、スプレー剤塗布装置により、溶湯を注湯する前の型開き状態の金型1・2に対して、各成形面1a・2aに離型剤が塗布される。
【0026】
スプレー剤塗布装置は、離型剤を噴霧するスプレーノズル4を有する噴霧装置3と、金型1・2の温度を検出する金型温度検出手段としての温度センサ5と、離型剤の噴霧を制御する制御装置6とを備えている。
【0027】
噴霧装置3は、アーム3aの下端部に取り付けられており、このアーム3aは、図示せぬロボット等により、上下・左右・前後方向に移動可能とされる。つまり、噴霧装置3は、アーム3aを介して、型開き状態の金型1・2間に挿入自在に設けられるとともに、金型1・2間にてそれぞれの成形面1a・2aに対して上下・左右・前後方向に移動可能に構成される。
また、噴霧装置3には、前記スプレーノズル4が金型1・2の成形面1a・2aに対向可能に設けられている。すなわち、噴霧装置3には、図示せぬ離型剤タンクから流通経路を介して離型剤が供給され、この離型剤がスプレーノズル4から金型1・2の成形面1a・2aに対して噴霧される。
【0028】
温度センサ5は、例えば、赤外放射温度計などの非接触式のセンサが用いられる。温度センサ5は、制御装置6と接続されており、該温度センサ5により検出される金型1・2の温度(成形面1a・2aの温度)は、制御装置6へと送られる。
なお、温度センサ5としては、赤外放射温度計に限定されるものではなく、離型剤を塗布する工程を含めた一連の鋳造工程において金型からの輻射熱に対して耐熱性を有し、電気的制御に利用しやすいものであれば、種々の温度センサを用いることができる。
また、金型1・2の温度を検出する金型温度検出手段は、噴霧装置3と別体に設けてもよい。この場合、金型温度検出手段としては、例えば、金型1・2の成形面1a・2aの温度分布を画像として表すサーモグラフィーを用いることが考えられる。
【0029】
制御装置6は、離型剤の噴霧を制御するに際し、離型剤を所定時間だけ塗布した場合に、温度センサ5により検出される金型1・2の温度が、予め設定される所定温度を下回るように制御する。
すなわち、前述したように、離型剤は、鋳造製品の金型からの離型性を高める機能のほか、金型の温度を離型剤の塗布に適した温度にまで下げる機能を果たすため、離型剤を噴霧することにより、金型1・2の成形面1a・2aの表面温度を離型剤の塗布に適した温度にまで冷却する。
ここで、前記所定温度は、金型の温度を離型剤の塗布に適した温度として例えば200〜300℃の範囲内の温度に設定され、制御装置6において予め設定され記憶される。以下、制御装置6に設定される所定温度をTnとする。
【0030】
このような構成により、噴霧装置3が金型1・2間を移動するとともに、温度センサ5により金型1・2の各部位の温度を検出しながら、金型1・2の各部位の温度が所定温度Tnを下回るようにスプレーノズル4から離型剤を噴霧し、成形面1a・2aに離型剤を塗布していく。
ここで、噴霧装置3による各成形面1a・2aに対する噴霧箇所(移動経路)及び各噴霧箇所における噴霧量や噴霧時間は、金型1・2の形状やサイズ等に応じて制御装置6において予め設定され記憶されている。すなわち、制御装置6は、前記ロボット等を制御してアーム3aを移動させることにより噴霧装置3を噴霧箇所に移動させるとともに、各噴霧箇所において、スプレーノズル4からの噴霧量を調整したり各噴霧箇所における噴霧時間を調整したりすることにより、適量(金型1・2の温度が、予め設定される所定温度Tnを下回るだけの量)の離型剤が噴霧されるように、離型剤の噴霧を制御する。
【0031】
具体的には、金型1・2間において、噴霧装置3が制御装置6により予め設定された噴霧箇所に移動されると、前記離型剤タンクから噴霧装置3に離型剤が供給され、スプレーノズル4から離型剤が噴霧される。ここで、温度センサ5により、その噴霧箇所における離型剤塗布前後の金型温度が検出され、温度センサ5により検出される金型温度は制御装置6に送られる。
制御装置6は、温度センサ5により検出される金型温度と、予め設定されている所定温度Tnとを比較し、温度センサ5により検出される金型温度が、所定温度Tnを下回るように離型剤の噴霧量・噴霧時間を制御する。ここでは、制御装置6は、噴霧開始から所定時間Soを経過した時点で金型温度が所定温度Tnを下回るように、離型剤の噴霧量を制御することとする。
そして、制御装置6は、噴霧装置3を所定の移動経路を移動させながら、金型1・2の成形面1a・2aに対して各噴霧箇所において順次離型剤を塗布していく。
【0032】
このように、金型1・2に対して離型剤を塗布するに際し、制御装置6は、スプレーノズル4から離型剤噴霧開始後、予め設定される所定時間Sn内に、温度センサ5により検出される金型1・2の温度が所定温度Tnを下回らない場合、スプレーノズル4の異常(以下、「スプレーノズル異常」という。)が発生したと判断する。
【0033】
前記所定時間Snは、例えば、離型剤を噴霧することにより、その噴霧箇所における金型の温度が所定温度Tnを下回るまでにかかる前記所定時間Soなどに基づいて設定される。所定時間Snは、例えば、所定時間Soと同じ時間、または所定時間Soに一定の余裕時間Smを加えた時間に設定される。
すなわち、離型剤の塗布を開始してから、所定時間Snを経過したにも関わらず、温度センサ5により検出される金型温度が所定温度Tnよりも低下しないということは、スプレーノズル4の先端部に離型剤が詰まる等して、スプレーノズル4から正常に離型剤が噴霧されていない状態が発生しているということであり、この状態をスプレーノズル異常が発生したと判断する。なお、前記所定時間Sn・Soおよび余裕時間Smは、制御装置6に設定されている。
【0034】
このように、制御装置6が、離型剤の噴霧を開始してから一定以上時間が経過しても金型の温度が下がらない場合に、スプレーノズル異常が発生したと判断することにより、スプレー剤塗布装置を自動停止させることができる。これにより、実際に離型剤の詰まり等のスプレーノズル異常が発生した場合の不具合を未然に防止することができる。
【0035】
また、前述したように、スプレーノズル異常が発生したと判断された場合には、異常が発生した旨の警報を発することもできる。
スプレーノズル異常が発生した旨を報知する警報を行う方法としては、例えば、スプレー剤塗布装置がオペレータにより操作される場合、その操作パネルにスプレーノズル異常が発生した旨を表示することや、ブザーや音声による警告、ランプ点灯による警告、またはこれらの組合せなどが考えられる。
【0036】
このように、スプレーノズル異常が発生した旨の警報を発することにより、オペレータに異常が発生した旨を報知することができる。これにより、警報の発生とともに自動的に、または警報を察知したオペレータによって装置を停止させることで、装置停止後の処置(スプレーノズル4の詰まりを取り除く等のスプレーノズル異常の解消)を迅速に行うことができ、安全性の向上を図ることができる。
つまり、前述の如く警報を発し、その後の対処を可能とすることにより、離型剤を塗布する工程を含めた一連の鋳造工程が自動的に繰り返し行われる場合、スプレーノズルの詰まりが発生すると、金型の成形面に離型剤が十分な量、あるいはまったく塗布されないにも関わらず鋳造装置が停止しないため、金型の焼き付きが発生し、その後、異常が検知されて装置が停止する等の不具合を未然に防止することができる。
【0037】
以下、金型1・2に離型剤が塗布される際の一連の処理について、その一例を図2に示すフローチャートを用いて説明する。
まず、制御装置6により、金型1・2間において噴霧装置3が所定の噴霧箇所の位置まで移動され、スプレーノズル4から離型剤の噴霧が開始される(ステップS10)。ここで、前述の如く制御装置6は、金型1・2の温度が所定温度Tnを下回るように噴霧量・噴霧時間を制御しながら離型剤を塗布する。
そして、離型剤の噴霧開始から、所定時間Snが経過すると(ステップS20)、制御装置6は、温度センサ5により検出される、離型剤を噴霧している部位の金型温度に基づいて、その金型温度が所定温度Tnを下回ったか否かを判断する(ステップS30)。
【0038】
前記ステップS30において、制御装置6は、温度センサ5により検出される金型温度が所定温度Tnを下回ってないと判断した場合、スプレーノズル異常が発生したと判断して、異常が発生した旨の警報を発する(ステップS40)。つまり、制御装置6は、スプレーノズル異常が発生したと判断した場合に、異常が発生した旨の警報を発する警報手段の一例である。なお、警報手段は、制御装置6とは別個に設けてもよい。
制御装置6は、警報を発した後は、スプレー剤塗布装置の運転を停止する(ステップS50)。
一方、ステップS30において、温度センサ5により検出される金型温度が、所定温度Tnを下回ったと判断した場合、制御装置6は、通常運転を継続する(ステップS60)。つまり、制御装置6は、噴霧装置3を次の噴霧箇所へ移動させて離型剤の噴霧を行うか、あるいは噴霧装置3を金型1・2間の外へ移動させて次の鋳造に備える。
【0039】
また、本発明に係るスプレー剤塗布装置においては、金型1・2の温度を検出する金型温度検出手段としての温度センサ5を、噴霧装置3に設けることが好ましい。
例えば、図1に示すように、温度センサ5を噴霧装置3においてスプレーノズル4の下方などに設けることにより、噴霧装置3のスプレーノズル4が設けられる側と同じ側に温度センサ5を設ける。これにより、噴霧装置3の移動にともない、スプレーノズル4によって離型剤が噴霧されている部位の金型温度を部位ごとに測定することができる。
【0040】
このように、温度センサ5を金型1・2間にて移動可能な噴霧装置3に設けることにより、金型の大きさや形状に関わらず、簡単な構成で、金型1・2の成形面1a・2a全域に亘って金型温度に応じた適量の離型剤を塗布することができるとともに、スプレーノズル異常が発生したことの判断や異常が発生した際に発せられる警報の正確性を向上することができる。
すなわち、噴霧装置3に温度センサ5を設けることにより、金型1・2間で移動する噴霧装置3が位置し、実際に噴霧が行われている箇所の金型温度を検出することができるので、温度センサ5により検出される金型温度が金型1・2の温度分布により即したものとなることから、金型温度に応じた適量の離型剤を塗布することができる。これにともない、温度センサ5により検出される金型温度に基づいて制御装置6により行われる、スプレーノズル異常の発生の判断や警報の発生が、より実際のスプレーノズル4の状態に即したものとすることができる。
また、温度センサ5が金型1・2内に埋設されることもないので、温度センサ5のメンテナンス性の向上を図ることができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例について説明する。
スプレーノズル4として、一般に使用されているスプレーノズル(例えば、スプレーイングシステムスジャパン(株)製)を用い、温度センサ5としては、赤外放射温度計((株)キーエンス製)を用いた。
そして、金型1・2としては、専用のテストピース金型を使用し、鋳造圧800トンのダイカストマシンにて離型剤塗布を実施した。
【0042】
金型への離型剤塗布は、金型の成形面を5箇所に分割して噴霧装置3による噴霧箇所を5箇所とし、各箇所の金型温度が250℃となるように(所定温度Tnを250℃に設定し)噴霧量・噴霧時間を設定して離型剤の噴霧を制御した。
【0043】
このような構成で、1日の工場稼動時間を昼勤・夜勤の2直で鋳造を行った場合、従来においては、平均3直(例えば、1日目の昼勤・夜勤、2日目の昼勤の計3直)でスプレーノズルの詰まりが発生していた。この場合、ダイカストマシンが全自動であるため、スプレーノズルに詰まりが発生した後も機械が停止せずに鋳造を行ってしまって、金型に焼き付き(鋳造製品が金型に張り付く現象)が発生することがあり、焼き付きが発生した後に異常を検知して、ダイカストマシンが停止することとなっていた。
しかし、本発明を採用することにより、スプレーノズル異常として事前にスプレーノズルの詰まりを検知することができ、焼き付きが発生する前にダイカストマシンを停止することができた。
【0044】
また、従来においては、金型に離型剤を塗布するに際し、金型のある箇所の温度を代表温度とし、この代表温度が例えば250℃となるように離型剤の塗布量・塗布時間を設定していたため、連続50ショットの鋳造を行うと、金型の種々の部位で焼き付きが発生した。
しかし、本発明に係るスプレー剤塗布装置を用い、前述の如く噴霧装置3による噴霧箇所を5箇所とし、各箇所の金型温度が250℃となるように離型剤の塗布を行うと、連続300ショットの鋳造を行っても金型の焼き付きが発生しないことを確認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係るスプレー剤塗布装置の構成を示す図。
【図2】警報発生の処理の一例を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0046】
1 固定金型
2 可動金型
3 噴霧装置
4 スプレーノズル
5 温度センサ
6 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造用の金型の成形面にスプレー剤を塗布するスプレー剤塗布方法において、
スプレーノズルからスプレー剤を噴霧するとともに、金型のスプレー剤噴霧箇所の温度を検出し、
スプレー剤噴霧開始後から、予め設定される所定時間が経過するまでの間に、検出される金型の温度が予め設定される所定温度を下回らない場合、
前記スプレーノズルに異常が発生したと判断することを特徴とするスプレー剤塗布方法。
【請求項2】
前記スプレー剤塗布方法において、前記スプレーノズルに異常が発生したと判断した場合に、異常が発生した旨の警報を発することを特徴とする請求項1に記載のスプレー剤塗布方法。
【請求項3】
鋳造用の金型の成形面にスプレー剤を塗布するスプレー剤塗布装置において、
スプレー剤を噴霧するスプレーノズルを有する噴霧装置と、
金型の温度を検出する金型温度検出手段と、
前記金型温度検出手段により検出される金型の温度が、予め設定される所定温度を下回るようにスプレー剤の噴霧を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記スプレーノズルからのスプレー剤噴霧開始後から、予め設定される所定時間が経過するまでの間に、前記金型温度検出手段により検出される金型の温度が前記所定温度を下回らない場合、前記スプレーノズルの異常が発生したと判断することを特徴とするスプレー剤塗布装置。
【請求項4】
前記スプレー剤塗布装置において、前記スプレーノズルに異常が発生したと判断した場合に、異常が発生した旨の警報を発する警報手段を備えることを特徴とする請求項3に記載のスプレー剤塗布装置。
【請求項5】
前記金型温度検出手段を、前記噴霧装置に設けたことを特徴とする請求項3または請求項4に記載のスプレー剤塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−341284(P2006−341284A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−169484(P2005−169484)
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】