説明

スプール痕が見えない顎歯模型用の歯牙およびその製造方法

【課題】天然歯牙を用いずに、エナメル質、デンチン質それぞれの切削感が得られる顎歯模型用歯牙の提供。
【解決手段】無機粉末焼成体、またはアルミナ粉末焼成体、または樹脂組成物もしくは樹脂に無機粉末を混合したコンポジットからなり、エナメル部分を射出成型して作製した後に、デンチン部分を射出成型して作製する多層成型方法により成型した顎歯模型用歯牙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科医師を目指す学生が、口腔内作業を体験し、治療の練習をする顎歯模型用に用いる歯牙である。
【背景技術】
【0002】
口腔内治療練習用の顎歯模型用の歯牙は、エポキシ樹脂、メラミン樹脂で製造されることが多く、一般に普及している。
しかし、エポキシ樹脂、メラミン樹脂では作製されたものは単色のものが多く、天然歯牙と異なる感覚となるものが多かった。天然歯牙に近づける為にも、多層に材料を成型することが求められていた。更に切削感が異なることから支台歯形成や窩洞形成の練習をしても実際の口腔内での作業をした場合では異なる切削感、作業性から当惑する事が多かった。具体的には、エポキシ樹脂、メラミン樹脂は天然歯より軟らかく実際の治療より容易に切削してしまう傾向にあり、治療の為に天然歯を切削する折は硬いために思った様に切削できない傾向にあった。硬い天然歯でも、デンチン部分は硬いが、エナメル部分は更に硬い構造となっている。その結果、強く削ってしまい、上手く形体を作れないことが発生する可能性もある。
【0003】
エポキシ樹脂、メラミン樹脂よりも、もう少し、硬い材料を求められた結果、コンポジットタイプのものが市販されている。コンポジットタイプの歯牙であっても、デンチン部分とエナメル部分が同一の材料が使用されることから同一の切削感であるから、天然歯と切削感が異なる。この歯牙を使用して支台歯形成や窩洞形成の練習をしても実際の口腔内での作業をした場合では異なる切削感、作業性から当惑する事が多かった。滑る感覚があり、天然歯とは大きく違う切削感である。
【0004】
製造方法においても、多くの方法が試されており、樹脂やコンポジットなどを何層にもプレスして、層構造を作り出し、歯牙を作製する方法が試みられている。しかし、この方法ではアンダーカットの構造を十分に表現できないばかりか、樹脂が周りに流れ出るバリ部分ができる為、旨く成型できなかった。更に層同士の界面にて材料が流れ、その流れにより界面剥離が起こることがあった。
【0005】
特開2005-234250には、表面層となるエナメル質層と内部層となる象牙質層とを人工的に模して形成した歯冠部及び歯根部からなる歯科実習用多層模型歯において、前記エナメル質層が、模型歯先端から歯頸線を超えて歯根部側に延びており、少なくとも、前記歯冠部との隣接部及びその近傍の前記歯根部の表面が、該歯冠部の前記エナメル質層により覆われるようにして一体的に形成されていることを特徴とする歯科実習用多層模型歯が紹介されている。
【0006】
エナメル質層が歯頸線を超えて歯根部側に延びて成型する方法により、歯冠部の欠けを解決している。しかしこの方法では形状が天然歯牙と異なるデンチンとエナメルの関係となり、切削練習用模型として、マージン部の切削において天然歯と大きく異なるものとなる。
また実施例において、エナメル質層、象牙質層及び歯根部が一体化された後の形状を有する金型内に充填・固化し、象牙質層及び歯根部が一体化された成形品を得た。得られた成形品のエナメル質層となる部分および歯根部の表面層となる部分を切削除去した成形品を、再び先の金型内に装着し、エナメル質層となるジメタクリロキシエチルトリメチルヘキサメチレンジウレタンにシリカを配合した材料を充填・固化することで、象牙質層・歯根部とエナメル質層が一体化された歯科実習用多層模型歯を得たとある。
この方法ではエナメル部分のスプール痕を消すことはできず、作成後に研磨などが必要であった。更に射出成形体は、成型後時間が経ったものや、成型体を切削した切削表面は次の成形体との接着に問題が生じ、十分な接着を行なえなかった。
【0007】
実開平1‐90068には、エナメル質層に金雲母結晶[NaMg3(Si3AlO10)F2]およびリチア・アルミナ・シリカ系結晶(Li2O・Al2O3・2SiO2,Li2O・Al2O3・4SiO2)が同時に析出したビッカース硬さ350〜450に制御されたガラス・セラミックスから構成され、歯根層には、ポリオール(主剤)に白色・赤色および黄色の着色剤を加え、さらにイソシアネートプレポリマー(硬化剤)を混入してシリコーンゴム母型に真空下で注入して、常温で硬化させ事前に準備をし、エナメル質層と歯根層との間に介在し、両者を合着している象牙質認識層はオペーク色を呈した接着性レジンで形成されていることが示している。
【0008】
しかしながら、エナメル質層が金雲母結晶やリチア・アルミナ・シリカ系結晶にて構成されたものでは天然歯に比べ、切削感が硬すぎるため使用に耐える物ではなく、更に象牙質認識層は接着性レジンで形成されている為、接着剤の切削感が柔らかすぎる為、使用に耐える物ではなかった。また、この射出成形体は、成型後時間が経ったものや、成型体を切削した切削表面は次の成形体との接着に問題が生じ、十分な接着を行なえなかった。
【0009】
特開平5−224591には、天然歯と極めて類似した切削性を有し、歯科教育切削実習用として好適な歯牙模型を提供することが示されている。主要構成成分として、無機物粉体と架橋型樹脂とを、重量比で20%対80%乃至70%対30%の割合で含有している。
【0010】
本発明の歯牙模型を構成する無機物粉体としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、チタニア、シリカ、等々が紹介され、上記化合物に限定されるものではなく、各種の無機物粉体を用いることができる。
しかし、エナメルとデンチンとの界面剥離を解決する記載はされていない。更にこの方法ではエナメル部分のスプール痕を消すことは解決できなかった。また更に射出成形体は、成型後時間が経ったものや、成型体を切削した切削表面は次の成形体との接着に問題が生じ、十分な接着を行なえなかった。
【0011】
今までの開発では材料開発等はされているものの、顎歯模型独特のエナメル及びデンチンとの界面剥離を解決する方法は示されていない。また、これらの方法ではエナメル部分のスプール痕を消すことはできず、作成後に研磨などが必要であった。更に射出成形体は、成型後時間が経ったものや、成型体を切削した切削表面は次の成形体との接着に問題が生じ、十分な接着を行なえなかった。
更にエナメル部分とデンチン部分の切削性の違いを示せる歯牙模型ではなかった。更にこの切削感を実現する為の具体的な組成としての開示がなく、それらの製造方法についても記載されていない。
顎歯模型はこれらの課題を抱えているにも関わらず、研究報告されているものは見当たらない。
【0012】
【特許文献1】特開2005-234250
【特許文献2】実開平1‐90068
【特許文献3】特開平5−224591
【特許文献4】特開平5−241498
【特許文献5】特開平5−241499、
【特許文献6】特開平5−241500
【特許文献7】特開2004−94049
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来の顎歯模型用歯牙は、デンチンとエナメル間で成型の樹脂が流れ込まないという問題があり、更にエナメル射出時にデンチンの形状を変形させる問題が生じていた。また、歯牙模型においてはエナメル形状は重要な形状であり、エナメルの外表にスプールラインが来ない様にする技術が求められていた。
今まではデンチンエナメル間での剥離が見られ、十分な接着ができないため、歯頚部分の切削体験が十分に出来なかった。生産技術も確立していなかった為、切削時に残存微小部分が剥がれ落ちるなどの、問題があった。
成型後において、割れ、剥がれ、チジレなども発生し、生産性も十分ではなかった。
従来の顎歯模型用歯牙は、天然歯形体をしているものの切削感が異なる。天然歯の切削感を体験するために、抜去歯を切削するなどの工夫は見られた。抜去歯は人体や動物からの材料であり衛生上の問題があり、衛生管理も十分に行なわないと感染の可能性があり、自由な練習を妨げられ感染予防を十分に行なわなければならなかった。また、天然生体であるため腐敗の問題があり、保存にも十分な注意が必要であった。
【0014】
このような理由から、天然歯牙を用いずに歯牙の切削感を体験する方法が求められれていた。特に歯牙のエナメル部分からデンチン部分の切削感が変るところが求められており、当然にして、エナメル部分はエナメル質の切削感、デンチン部分はデンチン質の切削感が求められていたが、それを解決する方法は見つかっていなかった。
研究の結果、天然歯牙の切削感を出す為には無機系の焼成体を用いることが必要であるが無機系の材料の硬さを制御することは難しいためにこれらを制御しながら、エナメル部分およびデンチン部分を製造することは難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は治療練習用の顎歯模型用の歯牙であって、デンチン部分とエナメル部分からなり、エナメル部分を射出成型して作製した後に、デンチン部分を射出成型して作製する多層成型方法により成型することを特徴とする顎歯模型用歯牙である。
【0016】
本発明は治療練習用の顎歯模型用の歯牙であって、デンチン部分およびエナメル部分が無機粉末焼成体からなることを特徴とする顎歯模型用歯牙である。
本発明は歯牙組成が一次粒子径2〜5μmのAl粉末焼成体からなることを特徴とする顎歯模型用歯牙である。
【0017】
本発明は治療練習用の顎歯模型用の歯牙であって、エナメル部分の組成が平均粒子系1〜8μmのAl粉末をバインダーで混練し成型機で成形する工程、デンチン部分の組成が平均粒子系1〜8μmのAl粉末をバインダーで混練し、多層成型方法により成型することを特徴とする請求項1記載の顎歯模型用歯牙である。エナメル組成及びデンチン組成の90%以上が同一組成であることが好ましい。組成が大きく異なると成型時の収縮により、界面で割れることがある。
【0018】
本発明は治療練習用の顎歯模型用の歯牙であって、エナメル部分およびデンチン部分が樹脂組成物または樹脂に無機粉末を混合したコンポジットからなることを特徴とする請求項1記載の顎歯模型用歯牙である。
【0019】
本発明は顎歯模型用歯牙であって、デンチン部分の射出成型及び、エナメル部分を射出成型の成型条件として、射出圧力は、5〜200MPa、射出保持圧力は、5〜150MPa、型締め圧力は10〜1500tであることを特徴とする顎歯模型用歯牙の製造方法である。
【0020】
本発明は顎歯模型用歯牙であって、デンチン部分の射出成型及び、エナメル部分を射出成型の成型条件として、エナメル部分の射出成型した後、デンチン部分を射出材料を射出するまでの時間が、1層目の成型後〜72時間以内であることを特徴とする顎歯模型用歯牙の製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明は歯牙模型作製時に発生していたエナメル部分の材料が成型時に端の方の薄い部分まで成型できず、剥がれの問題や歯頚部に微小のエナメル部分が残った場合の剥がれなどを防止することができる。更に成形性を向上し、不良品の発生を防ぎ、バリを少なくすることができる。
通常はスプールが表面に残るか、研磨にて処理することが必要であるが、今回の発明でエナメルの外表にスプール痕(樹脂の射出跡)が残らない様にできる。
また、射出時のデンチン部分の変形を押さえることができる。多層成型では界面の位置を正確に制御することは難しく多少の変形は仕方がないが、歯牙模型は大きな変形をもたらすことは歯牙の再現の観点から重要であり、これらを解決する要望が強かった。
本発明の方法によれば、デンチン部分、エナメル部分両方とも天然歯と同じ様な切削感を得られ、エナメル部分からデンチン部分へ移行する切削感が天然歯に近いことから、模型であっても天然歯牙を削る練習が容易に行なえる。
抜去歯は生体からの材料であり衛生上の問題があるため、感染予防等の処置を取らなくても安全に用いることができ、抜去歯の様な体感ができる歯牙が求められていた。また、衛生管理も特に必要なく、腐敗の恐れもない材料が求められていた。
本発明の歯牙を用いて支台歯形成、窩洞形成をすることによって、一早く天然歯牙と同様な切削感を体験でき、形成体験が容易に行える。また、これらの形成技術を早く取得することができる。
本顎歯模型用歯牙は人体の中で最も硬い天然歯牙の代用物質で、通常の材料では切削時に軟らかく感じてしまうのに対し、天然歯牙と同様な切削感を得ることができる。口腔内での400000回転/分という高速回転するダイヤモンド研削材(エアータービン使用)を用いた切削と同じような切削体験ができる。
【0022】
成形において高速回転する切削体と接触する為、顎との適合性が重要であり、更に、エナメルとデンチンの適合性も求められることから精密に成形できるCIM(セラミック インジェクション モールド)技術を用いることが好ましい。
更に、歯牙模型の歯冠の形状も重要であり、支台歯形成や窩洞形成の目標となり隆起部分や窩、咬頭などが正確に表現されていることが重要であり、CIMでの成形が適している。
本発明の歯牙は歯質と同じように白色、アイボリー色、乳白色、半透明色とすることができるため、視覚的にも天然歯に近い切削体験をすることができる。好ましくは白色、アイボリー色、乳白色である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
顎歯模型用歯牙とは、大学などで顎歯模型を用いて口腔内の治療行為をシミュレーションや治療の練習をするために用いられる歯牙であって、本発明は歯牙を切削し、形成する為に用いられる場合に関する。特に天然歯牙と切削性が近似した歯牙であって、窩洞形成、支台歯形成の練習に用いられる歯牙に関する。
【0024】
本発明用いられる歯牙組成はセラミックス、樹脂、コンポジット材料などを用いることができる。
歯模型の歯牙組成としては、一般的に公知のものを用いることが可能であり、、例えば、セラミックス等の磁器あるいはアクリル、ポリスチレン、ポリカーボネイト、ポリエステル等の熱可塑性の合成樹脂材料やこれら熱可塑性材料に架橋性材料を添加した樹脂材料や、メラミン、ユリア、不飽和ポリエステル、フェノール、エポキシ等の熱硬化性の合成樹脂材料や、トリメチロールプロパントリメタクリレートやジメタクリロキシエチルトリメチルヘキサメチレンジウレタン等の重合性モノマー材料などを用いる事ができる。
さらには、これらの主原料にガラス繊維、カーボン繊維、パルプ、合成樹脂繊維等の有機、無機の各種強化繊維、タルク、シリカ、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、ガラス粉末等の各種充填材、顔料や染料等の着色剤、あるいは耐候剤や帯電防止剤等の各種添加剤を添加したものを用いることができる。
【0025】
エナメル層に比べ、デンチン層には容易に切削できる材料を用いる事が好ましい。特に樹脂製エナメル層には各種充填剤と混合されていることが好ましい。
これらの熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、架橋剤を添加した樹脂、充填剤を添加した樹脂の本発明を用いると、特にエナメル部分の剥がれの問題や歯頚部に微小のエナメル部分が残った場合の剥がれなどを防止するすることができる。
【0026】
本発明の歯牙の組成はセラミックスから作製されることが好ましい。本発明の歯牙の組成はアルミナ系、ジルコニア系、シリカ系、窒化アルミ、窒化ケイ素などのセラミックスまたはガラスから作製される。また、アルミナ系、ジルコニア系で作製されることは好ましい。アルミナ系、ジルコニア系とはアルミナまたはジルコニアが焼成体組成の60%〜100%、好ましくは80%〜100%、更に好ましくは95%〜100%であることである。特にアルミナの組成が50%〜100%、好ましくは70%〜100%、更に好ましくは90%〜100%であることである。歯牙の組成がアルミナ粉末から成形されることが好ましい。
無機系材料の平均粒子径が1.0〜8.0μmが好ましい。
焼成温度に関しては組成によって異なるが、シリカ等のガラス成分が多い場合は焼成温度が800〜1200℃、アルミナの場合は1200〜1600℃の焼成温度、好ましくは1400〜1550℃の焼成温度となる。
セラミックスでデンチン、アルミナを成形する場合には、顔料等で色分けすることが好ましい。
【0027】
エナメル部分を先に成型すると、エナメルが薄く小さいことから、クラックや割れが発生することもあり、歩留りが低下することもある。この問題を解決する為には以下の生産時の2層目の成型タイミングで解決することを見出した。
【0028】
これらの材料を用いて射出成形する場合に、以下の条件が最も重要であることを見出した。
二層目の成型体が成型される1層目の接着面は、切削物で切削された面ではなく、射出成型された金型面であることが必要であることを見出した。
また、1層目の成型後から2層目の射出までの時間が短い方が好ましいことが分かった。1層目の成型後〜10日以内に2層目の成型体を成型することが好ましく、更に好ましくは成型後〜72時間、成型後〜24時間、成型後〜6時間、成型後〜10分が好ましいことが分かった。
【0029】
10日以上経過すると、表面が硬化して、次の成型物が精度よく、接着できない。72時間が経過すると、二層目の成型体が適合し辛くなる。成型体が冷めない10分以内が最も好ましい。
射出成形後二層目の射出成型が遅れる、成型体の変性が起こり内部応力が緩和されずに、時間が経つにつれて、剥がれやチッピングが多くなる。時間が経てば歩留りがどんどん悪くなる。
1層目の成型後とは1層目の成型加工が完了した時であり、成型加工を行なった後、金型を外す時または金型を外せる時のどちらか早い方である。即ち、型締め圧力を開放する
【0030】
更に、射出圧力は、5〜200MPaであることが好ましく、更に好ましくは40〜150MPa、60〜90MPaであることがもっとも好ましいことがわかった。
射出保持圧力は、5〜150MPaであることが好ましく、更に好ましくは20〜110MPa、20〜60MPaであることがもっとも好ましいことがわかった。
射出圧力、保持圧力が低いと表面の光沢が悪くなり、引けが大きくなり、微小部分には射出されていないこともある。射出圧力、保持圧力が高いと脆くなり、剛性が無くなり、バリが多くなる。これらの原因から、歩留りが悪くなる。
型締め圧力は10〜1500tであることが好ましく、更に好ましくは15〜1000t、更に好ましくは30〜900t、更に好ましくは100〜200tであることがもっとも好ましいことがわかった。型締め圧力が低いとバリが多くなり、成形性が悪くなり、微細部分に成型ができないなどの問題が発生する。型締め圧力が高いと、金型の傷みが激しく、長期間使用できないなどの問題が発生する。これらの原因から、歩留りが悪くなる。
エナメル質表面にスプールラインが来ない用に、エナメル質とデンチン質の界面にスプールラインを設けることが好ましい。また、エナメル質を成型する金型のデンチンとの界面形状を形成する金型部分が2つ以上の金型部品からなることが好ましい。
【実施例】
【0031】
(セラミックス)
歯牙形体のエナメル部分を成型後に続けてデンチン部分を成型できるようにメス型の金型(2色成型用金型)を掘出し、目的形状を射出成形できる金型を作製した。エナメル部分もデンチン部分も成型後、脱脂、焼成により収縮が発生する為、その部分を事前に大きく計算して金型を作製した。
【0032】
エナメル部分の原料としてのCIM用アルミナ ペレット(Alが68%、SiOが2%、平均粒径5.0μm、ステアリン酸30%)1kgを作製した。次に、デンチン部分の原料としてのCIM用アルミナ ペレット(Alが68%、SiOが2%、平均粒径5.0μm、ステアリン酸30%、デンチン色にする無機顔料少量)5kgを作製した。歯牙形体の金型に、下記金型条件で手順に沿って射出成形しそれぞれの射出体20個ずつ作製した。
このときの成型条件を以下に示す。
実施例1〜10及び比較例1〜4、6〜9は1層目の射出成形後3分後に2層目の成型を実施した。比較例5及び10は1層目の射出成形の10日後に2層目の成型を実施した。
【0033】
【表1】

【0034】
作製された射出体を、脱脂、焼成(1400度、係留時間15分)として焼成体を得た。それぞれの焼成体を以下の試験を行なった。
【0035】
【表2】

バリ状況:成型体のバリの程度(良:◎、使用可:○、使用不可:×)
空気巻込:成型体中やデンチン部分・エナメル部分間への空気の巻き込みがあるかどうかの試験で、焼成体を切断し確認した。(良:◎、使用可:○、使用不可:×)
接着性:エナメル部分とデンチン部分間の接着状況を確認した。ダイヤモンドバーで0.5mm程度にエナメル部分を残して切削を行い状況を監察した。(良:◎、使用可:○、使用不可:×)
切削感:エナメル部分とデンチン部分の切削感を確認した。支台歯成形を行い切削状況を確認した。(良:◎、使用可:○、使用不可:×)
【0036】
(エポキシ樹脂)
歯牙形体のエナメル部分の成型後に続けてデンチン部分の成型できるようにメス型の金型(2色成型用金型)を掘出し、目的形状を射出成形できる金型を作製した。
【0037】
エナメル部分の原料としてのエポキシ樹脂(ジャパン エポキシ レジン株式会社製、硬化剤を添加した。白色にするため、酸化チタンを10%添加した。)5kgを用いた。デンチン部分の原料としてのエポキシ樹脂(ジャパン エポキシ レジン株式会社製、硬化剤を添加した。アイボリー色にするため、酸化チタンを10%、黄色無機顔料0.3%添加した。)5kgを用いた。歯牙形体の金型に、下記金型条件で手順に沿って射出成形しそれぞれの射出体20個ずつ作製した。
実施例11〜20及び比較例11〜14、16〜19は1層目の射出成形後3分後に2層目の成型を実施した。比較例15及び20は1層目の射出成形の10日後に2層目の成型を実施した。
このときの成型条件として、金型温度160℃として他の条件を以下に示す。
【0038】
【表3】

型締め圧力(t)、射出圧力(MPa)、
射出保持力(MPa)、射出保持時間(秒)
【0039】
作製された射出体を、130℃24時間に保管し、成型体を得た。それぞれの成型体を以下の試験を行なった。
【0040】
【表4】

【0041】
(コンポジット)
エポキシ樹脂の試験と同じメス型の金型(2色成型用金型)を利用し試験を行った。
【0042】
エナメル部分の原料としてのコンポジット樹脂(ジメタクリロキシエチルトリメチルヘキサメチレンジウレタン(新中村化学社製)トリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学社製)を70:30(wt%)の比で配合し、この樹脂30%に平均粒子径5μmのガラスフィラー70%を加えて作製した。)5kgを用いた。歯牙形体の金型に、下記金型条件で手順に沿って射出成形しそれぞれの射出体20個ずつ作製した。
このときの成型条件として、あらかじめコンポジットを70℃に加温し、金型温度160℃として他の条件を以下に示す。
実施例21〜30及び比較例21〜24、26〜29は1層目の射出成形後3分後に2層目の成型を実施した。比較例25及び30は1層目の射出成形の10日後に2層目の成型を実施した。
【0043】
【表5】

型締め圧力(t)、射出圧力(MPa)、
射出保持力(MPa)、射出保持時間(秒)
【0044】
作製された射出体を、130度24時間に保管し、成型体を得た。それぞれの成型体を以下の試験を行なった。
【0045】
【表6】

【0046】
(エポキシ樹脂2)
歯牙形体のデンチン部分の成型後に続けてエナメル部分の成型できるようにメス型の金型(2色成型用金型)を掘出し、目的形状を射出成形できる金型を作製した。
エナメル部分の原料としてのエポキシ樹脂(ジャパン エポキシ レジン株式会社製、硬化剤を添加した。白色にするため、酸化チタンを10%添加した。)5kgを用いた。デンチン部分の原料としてのエポキシ樹脂(ジャパン エポキシ レジン株式会社製、硬化剤を添加した。アイボリー色にするため、酸化チタンを10%、黄色無機顔料0.3%添加した。)5kgを用いた。歯牙形体の金型に、下記金型条件で手順に沿って射出成形しそれぞれの射出体20個ずつ作製した。
【0047】
【表7】

【0048】
作製された射出体を、130度24時間に保管し、成型体を得た。それぞれの成型体を以下の試験を行なった。
【0049】
【表8】

デンチンの変形:スプールラインを舌側の歯頚部分に作製した為、デンチンがエナメル唇側方向に変形している。デンチンの変形度合い観察し、その形状からどの程度変形しているかを確認した。良:◎、使用可:○、使用不可:×)
上で示した実施例はすべて良であった。しかし、今回の比較例31、32、33ではすべて大きな変形が見られた。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】エナメル成型時にエナメル部分とデンチン部分との界面にスプールラインを設けた本発明の歯牙
【図2】エナメル成型時にエナメル部分の舌側部分にスプールラインを設けた比較例の歯牙
【符号の説明】
【0051】
1 実施例のスプールラインの位置
2 比較例のスプールラインの位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療練習用の顎歯模型用の歯牙であって、デンチン部分とエナメル部分からなり、エナメル部分を射出成型して作製した後に、デンチン部分を射出成型して作製する多層成型方法により成型することを特徴とする顎歯模型用歯牙。
【請求項2】
治療練習用の顎歯模型用の歯牙であって、デンチン部分およびエナメル部分が無機粉末焼成体からなることを特徴とする請求項1記載の顎歯模型用歯牙。
【請求項3】
治療練習用の顎歯模型用の歯牙であって、エナメル部分の組成が平均粒子系1〜8μmのAl粉末をバインダーで混練し成型機で成形する工程、デンチン部分の組成が平均粒子系1〜8μmのAl粉末をバインダーで混練し、多層成型方法により成型することを特徴とする請求項1記載の顎歯模型用歯牙。
【請求項4】
治療練習用の顎歯模型用の歯牙であって、デンチン部分およびエナメル部分が樹脂組成物または樹脂に無機粉末を混合したコンポジットからなることを特徴とする請求項1記載の顎歯模型用歯牙。
【請求項5】
請求項1〜4記載の射出成型にて成型する顎歯模型用歯牙であって、成型条件が、射出圧力は5〜200MPa、射出保持圧力は5〜150MPa、型締め圧力は10〜1500tであることを特徴とする顎歯模型用歯牙の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5記載の顎歯模型用歯牙であって、デンチン部分の射出成型及び、エナメル部分を射出成型の成型条件として、エナメル部分の射出成型した後、デンチン部分を射出材料を射出するまでの時間が、1層目の成型後〜10日以内であることを特徴とする顎歯模型用歯牙の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−312841(P2007−312841A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−142877(P2006−142877)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(390011143)株式会社松風 (125)
【Fターム(参考)】