説明

スライス決定装置、磁気共鳴イメージング装置、スライス設定方法、およびプログラム

【課題】被検体ごとに最適な位置にスライスを決定することが可能なスライス決定装置、磁気共鳴イメージング装置、スライス決定方法、およびプログラムを提供する。
【解決手段】基準軸VとWとの原点Oを中心として、基準軸V上の線分αβを回転角Φ=Φ1だけ回転させる。線分αβを回転角Φ1だけ回転させることによって、点αおよびβは、それぞれ点α’およびβ’に移動する。次に、線分α’β’を、オフセット量T=t1だけ平行移動させることによって、基準スライスSrを設定する。基準スライスSrを設定した後、基準スライスSrに基づいて、残りのスライスの位置を設定することによって、スライスS1〜Snを設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体にスライスを設定するスライス決定装置、磁気共鳴イメージング装置、スライス設定方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング装置で被検体の頭部を撮影する場合、被検体の頭部にスライスを設定する必要がある。近年、スライスを短時間で設定できるようにするため、スライスを自動的に設定する方法が提案されている(非特許文献1参照)。また、スライスを自動的に設定する方法として、標準脳に予めスライスを設定しておき、被検体の画像データから抽出した脳を標準脳にマッチングさせ、標準脳に設定されたスライスを、抽出した脳に逆変換する方法が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Itti L, Chang L, Mangin JF, Darcourt J andErnst T, Robust multimodality registration for brain mapping, Human Brain Map,vol.5, pp3-17, 1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
脳は、被検体によって様々な形状を有している。したがって、標準脳に設定されたスライスを、抽出した脳に逆変換する場合、或る被検体の脳に対してはスライスを所望の位置に設定することができるが、別の被検体の脳に対しては、スライスが所望の位置から大きくずれてしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑み、スライスを所望の位置から大きくずれないように設定することが可能なスライス決定装置、磁気共鳴イメージング装置、スライス決定方法、およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の問題を解決する本発明のスライス決定装置は、
被検体に複数の特徴点を設定する特徴点設定手段と、
上記複数の特徴点に基づいて基準軸を決定する基準軸決定手段と、
上記基準軸に基づいて、複数のスライスを設定するスライス設定手段と、
を有している。
また、本発明のスライス決定方法は、
被検体に複数の特徴点を設定する特徴点設定ステップと、
上記複数の特徴点に基づいて基準軸を決定する基準軸決定ステップと、
上記基準軸に基づいて、複数のスライスを設定するスライス設定ステップと、
を有している。
また、本発明のプログラムは、
被検体に複数の特徴点を設定する特徴点設定処理と、
上記複数の特徴点に基づいて基準軸を決定する基準軸決定処理と、
上記基準軸に基づいて、複数のスライスを設定するスライス設定処理と、
を計算機に実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、被検体に設定された複数の特徴点に基づいて基準軸を決定し、この基準軸に基づいて、複数のスライスを設定している。したがって、スライスを所望の位置から大きくずれないように設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1の実施形態の磁気共鳴イメージング装置1の概略図である。
【図2】MRI装置1の動作フローの一例を示す図である。
【図3】再構成された被検体の頭部の三次元画像DVを概略的に示す図である。
【図4】頭部8aの正中面におけるサジタル画像である。
【図5】脳梁8dおよび脳幹8eの輪郭が強調された画像を示す一例である。
【図6】3つの輪郭モデルを概略的に示す図である。
【図7】輪郭モデルM1を微分画像Idの脳梁8dに対してアフィン変換する前の様子と、アフィン変換した後の様子を示す図である。
【図8】アフィン変換した後の輪郭モデルM1を、脳梁8dの前端部Fに基づいて変形する前の様子と、変形した後の様子を示す図である。
【図9】脳梁8dの尾端部Bの輪郭OTのモデル化と、脳幹8eの上部Uの輪郭OPのモデル化とを行った後の様子を示す図である。
【図10】サジタル画像(図3参照)と3つの特徴点P12、P23、およびP33との位置関係を示す図である。
【図11】設定された基準軸の一例を示す図である。
【図12】基準スライスSrの設定方法の説明図である。
【図13】設定されたスライスの一例を示す図である。
【図14】第2の実施形態において設定された特徴点P12、P23、およびQ1を示す図である。
【図15】設定された基準軸の一例を示す図である。
【図16】基準スライスSr’の設定方法の説明図である。
【図17】設定されたスライスの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定されることはない。
【0010】
(1)第1の実施形態
図1は、本発明の第1の実施形態の磁気共鳴イメージング装置1の概略図である。
【0011】
磁気共鳴イメージング装置(以下、MRI(Magnetic
Resonance Imaging)装置と呼ぶ)1は、コイルアセンブリ2と、テーブル3と、受信コイル4と、制御装置5と、入力装置6と、表示装置7とを有している。
【0012】
コイルアセンブリ2は、被検体8が収容されるボア21と、超伝導コイル22と、勾配コイル23と、送信コイル24とを有している。超伝導コイル22は静磁場B0を印加し、勾配コイル23は勾配パルスを印加し、送信コイル24はRFパルスを送信する。
【0013】
テーブル3は、クレードル31を有している。クレードル31は、z方向および−z方向に移動するように構成されている。クレードル31がz方向に移動することによって、被検体8がボア21に搬送される。クレードル31が−z方向に移動することによって、ボア21に搬送された被検体8は、ボア21から搬出される。
【0014】
受信コイル4は、被検体8の頭部8aに取り付けられている。受信コイル4が受信したMR(Magnetic Resonance)信号は、制御装置5に伝送される。
【0015】
制御装置5は、コイル制御手段51〜スライス設定手段59を有している。
【0016】
コイル制御手段51は、パルスシーケンスが実行されるように、勾配コイル23および送信コイル24を制御する。
【0017】
再構成手段52は、受信コイル4が受信したMR(Magnetic
Resonance)信号に基づいて、画像を再構成する。
【0018】
正中面決定手段53は、再構成された画像に基づいて、正中面を決定する。
【0019】
輪郭強調手段54は、画像再構成手段52によって再構成された画像の中の所定の部位の輪郭を強調する。
【0020】
モデル化手段55は、記憶部に記憶された輪郭モデルM1、M2、およびM3(図6参照)に基づいて、所定の部位の輪郭をモデル化する。
【0021】
記憶部56は、輪郭モデルM1、M2、およびM3と、回転角Φ=φ1およびオフセット量T=t1の値(図12参照)を記憶している。記憶部56は、例えば、ハードディスクやリームーバブルディスクである。
【0022】
特徴点設定手段57は、モデル化された所定の部位の輪郭に特徴点を設定する。
【0023】
基準軸設定手段58は、特徴点設定手段57が設定した特徴点に基づいて基準軸を決定する。
【0024】
スライス設定手段59は、基準軸設定手段58が設定した基準軸に基づいて、スライスを設定する。
【0025】
尚、コイル制御手段51〜スライス設定手段59は、各手段を実行するためのプログラムを制御装置5にインストールすることにより実現されている。ただし、プログラムを用いずに、ハードウェアのみで実現してもよい。
【0026】
入力装置6は、オペレータ9の操作に応じて、種々の命令を制御装置5に入力する。
【0027】
表示装置7は、種々の情報を表示する。
【0028】
MRI装置1は、上記のように構成されている。次に、MRI装置1の動作について説明する。
【0029】
図2は、MRI装置1の動作フローの一例を示す図である。
【0030】
ステップS1において、オペレータ9は入力装置6を操作して、制御装置5に撮影命令を入力する。制御装置5のコイル制御手段51(図1参照)は、撮影命令に応答して、被検体8の頭部8aが撮影されるように、勾配コイル23および送信コイル24を制御する。受信コイル4は、被検体8からのMR信号を受信する。受信コイル4が受信したMR信号は、制御装置5の再構成手段52に伝送され、被検体8の頭部8aの画像が再構成される。
【0031】
図3は、再構成された被検体の頭部の三次元画像DVを概略的に示す図である。
【0032】
三次元画像DVには、脳8b、脳梁8d、脳幹8e、および小脳8fなどのデータが含まれている。画像再構成した後、ステップS2に進む。
【0033】
ステップS2では、正中面決定手段53が、三次元画像DVに対して、正中面を決定する。第1の実施形態では、脳8bの大脳縦裂8cを通るサジタル断面を、正中面と規定している。したがって、正中面決定手段53は、正中面を決定するために、三次元画像DVの中から、大脳縦裂8cを検出する。以下に、大脳縦裂8cを検出方法について簡単に説明する。
【0034】
大脳縦裂8cは脳の左脳と右脳との間の溝の部分であり、脳8bをMRI装置1で撮影した場合、大脳縦裂8cにおけるMR信号の強度と、左脳および右脳の組織(白質、灰質など)におけるMR信号の強度が異なる。第1の実施形態では、このMR信号の強度の違いに着目して、大脳縦裂8cを検出している。例えば、T1強調で脳を撮影すると、脳の各部位の信号強度の中で、大脳縦裂8cの信号強度が最小となる。したがって、脳の中で、信号強度の小さくなる場所を探し出すことができれば、大脳縦裂8cを検出することができるので、正中面を決定することができる。
【0035】
図4は、頭部8aの正中面におけるサジタル画像である。
【0036】
正中面における断面には、脳8b、脳梁8d、および脳幹8eなどが含まれている。正中面を決定した後、ステップS3に進む。
【0037】
ステップS3では、輪郭強調手段54(図1参照)が、図4に示すサジタル画像の脳梁8dおよび脳幹8eの輪郭を強調する処理を実行する。
【0038】
図5は、脳梁8dおよび脳幹8eの輪郭が強調された画像を示す一例である。
【0039】
第1の実施形態では、後述するステップS4において、脳梁8dの輪郭の一部と、脳幹8eの輪郭の一部をモデル化する処理が行われるので(図7〜図9参照)、その前処理として、ステップS3では、脳梁8dの輪郭Lcと、脳幹8eの輪郭Lsを強調する処理が行われる。第1の実施形態では、サジタル画像(図3参照)の微分画像Idを作成することによって、脳梁8dの輪郭Lcと、脳幹8eの輪郭Lsとを強調している(図5参照)。微分画像Idでは、MR信号の信号値が急激に変化する部分が強調して描出される。脳梁8dの輪郭Lcおよび脳幹8eの輪郭Lsは、信号値が急激に変化するので、脳梁8dの輪郭Lcおよび脳幹8eの輪郭Lsは強調して描出される。図5では、脳梁8dの輪郭Lcおよび脳幹8eの輪郭Lsは、白く描出されており、強調されていることが分かる。輪郭を強調した後、ステップS4に進む。
【0040】
ステップS4では、モデル化手段55が、M1このモデル化は、3つの輪郭モデルを用いて行われる。以下に、これらの3つの輪郭モデルについて説明する。
【0041】
図6は、3つの輪郭モデルを概略的に示す図である。
【0042】
図6(a)は、脳梁8dの前端部Fの輪郭OFをモデル化するための輪郭モデルM1であり、図6(b)は、脳梁8dの尾端部Bの輪郭OTをモデル化するための輪郭モデルM2である。図6(c)は、脳幹eの上部Uの輪郭OPをモデル化するための輪郭モデルM3である。3つの輪郭モデルM1、M2、およびM3は、点と曲線とによって表されたモデルである。輪郭モデルM1は、5つの点P11〜P15と、4つの曲線L11〜L14とによって表されており、輪郭モデルM2は、5つの点P21〜P25と、4つの曲線L21〜L24とによって表されている。また、輪郭モデルM3は、5つの点P31〜P35と、4つの曲線L31〜L34とによって表されている。輪郭モデルM1、M2、およびM3は、記憶部55に記憶されている。
【0043】
以下に、脳梁8dの前端部Fの輪郭OF、脳梁8dの尾端部Bの輪郭OT、および脳幹8eの上部Uの輪郭OPをモデル化する手順について説明する。
【0044】
モデル化手段55(図1参照)は、記憶部55から、輪郭モデルM1を読み出し、輪郭モデルM1を、微分画像Idにおける脳梁8dの前端部Fの輪郭OFに対して位置決めするためのアフィン変換を行う。
【0045】
図7(a)は、輪郭モデルM1を微分画像Idの脳梁8dに対してアフィン変換する前の様子を示す図、図7(b)は、輪郭モデルM1を微分画像Idの脳梁8dにアフィン変換した後の様子を示す図である。
【0046】
尚、図7(a)および(b)では、微分画像Idの脳梁8dは、説明の便宜上、線図で示されている。
【0047】
モデル化手段55は、アフィン変換によって、輪郭モデルM1を、微分画像Idにおける脳梁8dの前端部Fの輪郭OFに対して位置合わせする。図7(a)および(b)を比較すると、アフィン変換によって、輪郭モデルM1が、脳梁8dの前端部Fの輪郭OFに対して位置合わせされていることが分かる。
【0048】
ただし、脳梁8dの形状は個人差があるので、輪郭モデルM1をアフィン変換しただけでは、脳梁8dの前端部Fの輪郭OFを十分な精度でモデル化できないことがある。そこで、第1の実施形態では、アフィン変換した後の輪郭モデルM1を、脳梁8dの前端部Fに基づいて変形する。この変形を行うために、モデル化手段55は、アフィン変換した後の輪郭モデルM1を、脳梁8dの前端部Fに基づいて変形する。
【0049】
図8(a)は、アフィン変換した後の輪郭モデルM1を、脳梁8dの前端部Fに基づいて変形する前の様子を示す図、図8(b)は、アフィン変換した後の輪郭モデルM1を、脳梁8dの前端部Fに基づいて変形した後の様子を示す図である。
【0050】
図8から、変形処理によって、輪郭モデルM1が、脳梁8dの前端部Fの輪郭OFに対して精度よくフィッティングしていることが分かる。
上記のようにして、脳梁8dの前端部Fの輪郭OFがモデル化される。
【0051】
以下、同様にして、脳梁8dの尾端部Bの輪郭OTと、脳幹8eの上部Uの輪郭OPについても、モデル化を行う。
【0052】
図9は、脳梁8dの尾端部Bの輪郭OTのモデル化と、脳幹8eの上部Uの輪郭OPのモデル化とを行った後の様子を示す図である。
【0053】
脳梁8dの尾端部Bの輪郭OTは、輪郭モデルM2を用いてモデル化され、一方、脳幹8eの上部Uの輪郭OPは、輪郭モデルM3を用いてモデル化される。
このようにして、モデル化を行った後、ステップS5に進む。
【0054】
ステップS5では、特徴点設定手段57(図1参照)が、モデル化された脳梁8dの前端部Fの輪郭OFと、尾端部Bの輪郭OTと、脳幹8eの輪郭OPに、特徴点を設定する。第1の実施形態では、脳梁8dの前端部Fの輪郭OFについては、輪郭モデルM1の点P12が特徴点として設定され、脳梁8dの尾端部Bの輪郭OTについては、輪郭モデルM2の点P23が特徴点として設定される(図9参照)。脳幹8eの輪郭OPについては、点P33が特徴点として設定される。
【0055】
図10は、サジタル画像(図3参照)と3つの特徴点P12、P23、およびP33との位置関係を示す図である。
【0056】
3つの特徴点P12、P23、およびP33を設定した後、ステップS6に進む。
【0057】
ステップS6では、基準軸設定手段58(図1参照)が、特徴点P12、P23、およびP33に基づいて、基準軸を設定する。
【0058】
図11は、設定された基準軸の一例を示す図である。
【0059】
第1の実施形態では、3つの特徴点P12、P23、およびP33に基づいて、互いに直交する2本の基準軸VおよびWを設定する。基準軸VおよびWは、3つの特徴点P12、P23、およびP33の回帰直線である。基準軸VおよびWを設定した後、ステップS7に進む。
【0060】
ステップS7では、スライス設定手段59が、被検体の頭部に設定される複数のスライスS1〜Snのうち、スライスS1〜Snの基準となる基準スライスSrを設定する(後述する図13参照)。第1の実施形態では、基準スライスSrは、脳梁8dの前側の湾曲部分c1と、脳梁8dの尾端部Bと脳幹8eとに挟まれる領域c2とを通過するように設定される。以下に、基準スライスSrの設定方法について説明する。
【0061】
図12は、基準スライスSrの設定方法の説明図である。
【0062】
図12(a)は、基準スライスSrが設定されるまでの手順を説明する図である。
【0063】
第1の実施形態では、図12(a)に示すように、基準軸VとWとの原点Oを中心として、基準軸V上の線分αβを回転角Φ=φ1だけ回転させる。線分αβを回転角φ1だけ回転させることによって、線分αβは、線分α’β’に移動する。
【0064】
次に、線分α’β’を、オフセット量T=t1だけ平行移動させる。
【0065】
図12(b)は、オフセット量T=t1の説明図である。
【0066】
オフセット量T=t1は、図12(b)に示すように、線分α’β’を、基準軸Vに沿ってv1だけ平行移動させるとともに、基準軸Wに沿ってw1だけ平行移動させるための移動量を表している。
【0067】
線分α’β’をオフセット量T=t1だけ移動させることによって、点α’およびβ’は、それぞれ点α’’およびβ’’に移動する(図12(a)参照)。第1の実施形態では、線分α’’β’’が、基準スライスSrとして設定される。
【0068】
尚、上記の回転角Φ=φ1およびオフセット量T=t1は、記憶部56(図1参照)に予め記憶されている。スライス設定手段59は、記憶部56に記憶された回転角Φ=φ1およびオフセット量T=t1に従って、線分αβを線分α’’β’’に移動させることにより、基準スライスSrを設定している。回転角φ1およびオフセット量t1は、線分α’’β’’が湾曲部分c1と領域c2とを通過するように決定された値である。回転角φ1およびオフセット量t1の値を決定する方法としては、例えば、以下に示す方法(1)および(2)が考えられる。
【0069】
(1)標準的な形状の脳を有するボランティアの脳データを用いて、回転角φ1およびオフセット量t1の値を決定する。具体的には、標準的な形状の脳に対して線分αβを設定し、線分αβを線分α’’β’’に変換する場合に、線分α’’β’’が湾曲部分c1と領域c2とを通過するのに必要な回転角Φおよびオフセット量Tを計算する。この計算値を、回転角φ1およびオフセット量t1として採用することが考えられる。
(2)複数人のボランティアの脳データを用いて、回転角φ1およびオフセット量t1の値を決定する。具体的には、各ボランティアの脳に対して線分αβを設定し、線分αβを線分α’’β’’に変換する場合に、線分α’’β’’が湾曲部分c1と領域c2とを通過するのに必要な回転角Φおよびオフセット量Tをボランティアごとに計算する。そして、ボランティアごとに計算された回転角Φおよびオフセット量Tについて、回転角Φの平均値とオフセット量Tの平均値を計算し、この平均値を、回転角φ1およびオフセット量t1として採用することが考えられる。
【0070】
上記のようにして、基準スライスSrが設定された後、ステップS8に進む。
【0071】
ステップS8では、スライス設定手段59(図1参照)が、基準スライスSrに基づいて、残りのスライスを設定する。
【0072】
図13は、設定されたスライスの一例を示す図である。
【0073】
第1の実施形態では、基準スライスSrに基づいて、等間隔に並ぶn枚のスライスS1〜Snを設定する。
【0074】
スライスS1〜Snが設定されたら、ステップS9に進み、設定されたスライスS1〜Snに基づいて、被検体8が撮影される。
【0075】
第1の実施形態では、被検体8の脳8bに設定された特徴点P12、P23、およびP33に基づいて基準軸VおよびWを決定し、基準軸V上の線分αβを回転角φ1およびオフセット量t1に従って移動させ、スライスS1〜Snを設定している。したがって、スライスS1〜Snは、被検体8の脳8bに設定された特徴点P12、P23、およびP33を基準にして決定される。特徴点P12、P23、およびP33の相対的な位置関係は、どの被検体の脳であってもそれほど大きな違いはない。したがって、特徴点P12、P23、およびP33を基準にしてスライスS1〜Snを設定することによって、どの被検体に対しても、スライスS1〜Snを所望の位置から大きくずれないように設定することができる。
【0076】
尚、第1の実施形態では、線分αβを回転角φ1だけ回転し、更に、オフセット量t1だけ平行移動することによって、基準スライスSrを決定しているが、線分αβを、回転、平行移動させる以外の方法で基準スライスSrを決定してもよい。
【0077】
また、第1の実施形態では、微分画像Idに基づいて、脳梁8dの輪郭Lcの一部をモデル化している。しかし、微分画像Idに脳梁8dの確率アトラスを乗算することによって、微分画像Idから脳梁8dだけを抽出し、抽出された脳梁8dに基づいて、脳梁8dの輪郭Lcの一部をモデル化してもよい。微分画像Idに対して脳梁8dの確率アトラスを乗算することによって、脳梁8d以外の部位は除外できるので、輪郭モデルM1およびM2を脳梁8dの輪郭に容易に位置合わせすることができ、脳梁8dの輪郭を更に高精度にモデル化することができる。同様の理由から、脳幹8eの輪郭の一部をモデル化する場合にも、微分画像Idに脳幹8eの確率アトラスを乗算することによって、微分画像Idから脳幹8eだけを抽出し、抽出された脳幹8eに基づいて、脳幹8eの輪郭Lsの一部をモデル化してもよい。
【0078】
(2)第2の実施形態
第1の実施形態では、3つの特徴点P12、P23、およびP33に基づいてスライスS1〜Snを設定しているが、別の特徴点を用いてスライスを設定してもよい。第2の実施形態では、第1の実施形態とは別の特徴点を用いてスライスを設定する方法について、図14〜図17とともに図2を参照しながら説明する。
【0079】
図14〜図17は、第2の実施形態におけるスライスの設定方法の説明図である。
【0080】
図14は、第2の実施形態において設定された特徴点P12、P23、およびQ1を示す図である。
【0081】
第2の実施形態では、ステップS5(図2参照)において、3つの特徴点P12、P23、およびQ1が設定される。特徴点P12およびP23は、第1の実施形態における特徴点P12およびP23と同じであるが、特徴点Q1は、第1の実施形態とは異なり、小脳8fに定められている。これらの特徴点P12、P23、およびQ1を設定した後、ステップS6に進む。
【0082】
ステップS6では、特徴点P12、P23、およびQ1に基づいて、基準軸を設定する。
【0083】
図15は、設定された基準軸の一例を示す図である。
【0084】
第2の実施形態では、3つの特徴点P12、P23、およびQ1に基づいて、互いに直交する2本の基準軸V’およびW’を設定する。基準軸V’およびW’は、3つの特徴点P12、P23、およびQ1の回帰直線である。図15と図11とを比較すると、第1の実施形態と第2の実施形態とでは、基準軸が異なる位置に設定されていることが分かる。基準軸V’およびW’を設定した後、ステップS7に進む。
【0085】
ステップS7では、被検体8の頭部8aに設定される複数のスライスS1’〜Sn’(図17参照)のうち、スライスS1’〜Sn’の基準となる基準スライスSr’を設定する。第2の実施形態では、基準スライスSr’は、脳梁8dの前方の湾曲部分c1と、小脳8fの中央部分c3とを通過するように設定される。以下に、基準スライスSr’の設定方法について説明する。
【0086】
図16は、基準スライスSr’の設定方法の説明図である。
【0087】
図16(a)は、基準スライスSr’が設定されるまでの手順を説明する図である。
【0088】
第2の実施形態では、図16(a)に示すように、基準軸V’とW’との原点Oを中心として、基準軸W’上の線分αβを回転角Φ=φ2だけ回転させる。線分αβを回転角φ2だけ回転させることによって、線分αβは、線分α’β’に移動する。
【0089】
次に、線分α’β’を、オフセット量T=t2だけ平行移動させる。
【0090】
図16(b)は、オフセット量T=t2の説明図である。
【0091】
オフセット量T=t2は、図16(b)に示すように、線分α’β’を、基準軸V’に沿ってv2だけ平行移動させるとともに、基準軸W’に沿ってw2だけ平行移動させるための移動量を表している。
【0092】
線分α’β’をオフセット量T=t2だけ移動させることによって、点α’およびβ’は、それぞれ点α’’およびβ’’に移動する(図16(a)参照)。第2の実施形態では、線分α’’β’’が、基準スライスSr’として設定される。
【0093】
尚、上記の回転角Φ=φ2およびオフセット量T=t2は、第1の実施形態と同様に、解剖学的に標準的な脳構造を有するボランティアの脳データや、複数人のボランティアの脳データを用いて決定された値である。
【0094】
上記のようにして、基準スライスSr’が設定された後、ステップS8に進み、基準スライスSr’に基づいて、残りのスライスを設定する。
【0095】
図17は、設定されたスライスの一例を示す図である。
【0096】
第2の実施形態では、基準スライスSr’に基づいて、等間隔に並ぶn枚のスライスS1’〜Sn’を設定する。図17と図13とを比較すると、スライスの設定位置が異なっていることが分かる。
【0097】
スライスS1’〜Sn’が設定されたら、ステップS9に進み、設定されたスライスS1’〜Sn’に基づいて、被検体8が撮影される。
【0098】
第2の実施形態では、被検体8の脳8bに設定された特徴点P12、P23、およびQ1に基づいて基準軸VおよびWを決定し、基準軸V上の線分αβを回転角φ2およびオフセット量t2に従って移動させ、スライスS1’〜Sn’を設定している。したがって、スライスS1’〜Sn’は、被検体8の脳8bに設定された特徴点P12、P23、およびQ1を基準にして決定される。特徴点P12、P23、およびQ1の相対的な位置関係は、どの被検体の脳であってもそれほど大きな違いはない。したがって、特徴点P12、P23、およびQ1を基準にしてスライスS1’〜Sn’を設定することによって、どの被検体に対しても、スライスS1’〜Sn’を所望の位置から大きくずれないように設定することができる。
【0099】
尚、第1の実施形態では、3つの特徴点P12、P23、およびP33に基づいて基準スライスSrが設定され、第2の実施形態では、3つの特徴点P12、P23、およびQ1に基づいて基準スライスSr’が設定されている。しかし、撮影条件に応じて、基準スライスSr又はSr’を選択的に設定できるようにしてもよい。
【0100】
第1および第2の実施形態では、3つの特徴点に基づいて基準軸を設定しているが、2つの特徴点に基づいて基準軸を設定したり、4つ以上の特徴点に基づいて基準軸を設定してもよい。
【0101】
第1および第2の実施形態では、基準軸は、3つの特徴点の回帰直線であるが、基準軸は、必ずしも回帰直線である必要はない。
【符号の説明】
【0102】
1 MRI装置
2 コイルアセンブリ
3 テーブル
4 受信コイル
5 制御装置
6 入力装置
7 表示装置
8 被検体
8a 頭部
8b 脳
8c 大脳縦裂
8d 脳梁
8e 脳幹
8f 小脳
9 オペレータ
21 ボア
22 超伝導コイル
23 勾配コイル
24 送信コイル
31 クレードル
51 コイル制御手段
52 再構成手段
53 正中面決定手段
54 輪郭強調手段
55 モデル化手段
56 記憶部
57 特徴点設定手段
58 基準軸設定手段
59 スライス設定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に複数の特徴点を設定する特徴点設定手段と、
前記複数の特徴点に基づいて基準軸を決定する基準軸決定手段と、
前記基準軸に基づいて、複数のスライスを設定するスライス設定手段と、
を有する、スライス決定装置。
【請求項2】
前記スライス設定手段は、
前記基準軸に基づいて、前記複数のスライスのうちの基準スライスを設定し、前記基準スライスに基づいて、残りのスライスを設定する、請求項1に記載のスライス決定装置。
【請求項3】
前記スライス設定手段は、
前記基準軸上の線分を所定の回転角だけ回転させ、前記所定の回転角だけ回転した前記線分を所定の移動距離だけ移動させることによって、前記基準スライスを設定する、請求項1に記載のスライス決定装置。
【請求項4】
前記回転角の値および前記移動距離の値を記憶する記憶部を有する、請求項3に記載のスライス決定装置。
【請求項5】
前記基準軸決定手段は、
前記複数の特徴点に基づいて、第1の基準軸と第2の基準軸とを決定し、
前記スライス設定手段は、
前記第1の基準軸の回転角と、前記第1の基準軸の移動距離とを設定することによって、前記基準スライスを設定する、請求項2〜4のうちのいずれか一項に記載のスライス決定装置。
【請求項6】
前記基準軸は、前記複数の特徴点に基づいて計算された回帰直線である、請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のスライス決定装置。
【請求項7】
請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載のスライス決定装置を有する磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
被検体に複数の特徴点を設定する特徴点設定ステップと、
前記複数の特徴点に基づいて基準軸を決定する基準軸決定ステップと、
前記基準軸に基づいて、複数のスライスを設定するスライス設定ステップと、
を有する、スライス決定方法。
【請求項9】
被検体に複数の特徴点を設定する特徴点設定処理と、
前記複数の特徴点に基づいて基準軸を決定する基準軸決定処理と、
前記基準軸に基づいて、複数のスライスを設定するスライス設定処理と、
を計算機に実行させるためのプログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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