説明

スライド式携帯端末機のスライド機構

【課題】第1部材との連結部と第2部材との連結部間にスペースを確保でき、また、一部品のみで構成可能で、容易に製造することができ、コストも安い付勢部材を備えたスライド式携帯端末機のスライド機構を提供する。
【解決手段】スライド式携帯端末機のスライド機構1は、表面に表示部を設ける第1筐体と表面に操作部を設ける第2筐体とをスライド自在に重合連結する板状の第1,第2部材2,3と、第1,第2部材間に配置する付勢部材5とを備え、付勢部材の弾性付勢によって第1,第2部材間にスライド方向への付勢が生じるように構成し、付勢部材5は、板面に平行方向に変形可能なバネ性を有する弓状の金属板からなり、一端に、第1部材に連結する第1連結部5bを設け、他端に、第2部材に連結する第2連結部5dを設け、第1,第2連結部間には、該部を板面に平行方向に弾性変形可能とする表裏貫通の溝部5eを複数設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライド式の携帯電話端末機や携帯情報端末機等のスライド式携帯端末機のスライド機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1、2のように、上下方向に長い2つの筐体の裏面と表面とを、スライド機構によって、上下方向にスライド自在に重合連結するスライド式携帯端末機は、前側にある第1筐体の表面に表示部を設け、後側にある第2筐体の表面に操作部を設け、第2筐体に対して第1筐体が、操作部を覆い隠す閉位置と出現する開位置にスライドして開閉する。
【0003】
スライド機構は、所定の間隙を設けて対向配置する矩形板状の第1,第2部材を、その左右側縁部で、上下方向にスライド自在に連結し、第1,第2部材の間隙に付勢部材を配置し、付勢部材の弾性付勢によって、第1,第2部材間にスライド方向への付勢が生じるように構成する。第1,第2部材が、第1筐体裏面と第2筐体表面とを、上下方向にスライド自在に重合連結し、付勢部材が、第2筐体に対して第1筐体が操作部を覆い隠す閉位置と出現する開位置とにスライドするのを補助する。
【0004】
スライド機構の付勢部材として、1本の金属線材からなる捩じりコイルバネを使用する特許文献1は、第1部材(第1筐体)が、スライド範囲内のどの位置にあっても、捩じりコイルバネの第1部材との連結部と第2部材との連結部間に、第1,第2筐体間を電気的に接続するフレキシブル基板の配線スペースを確保する。それにより、フレキシブル基板の配線を容易にし、フレキシブル基板がスライド操作を妨げないようにしてスライド量を大きくする。しかし、近年、スライド式携帯端末機の薄形化が進むと共に、多機能化により、スライド機構の厚み方向の組み付けスペースが減少し、スライド機構には薄型化が強く求められている。捩じりコイルバネは、コイル部で線材が交差して厚みが大きくなるという問題がある。
【0005】
スライド機構の付勢部材として、捩じりコイルバネの線材の厚みのみで構成可能なアクチュエータを使用する特許文献2は、スライド機構全体の厚みを薄く抑えることができる。しかし、アクチュエータでは、捩じりコイルバネのように第1部材との連結部と第2部材との連結部間にスペースが確保できず、また、複数の部品から構成されるため、捩じりコイルバネと比べて、製造が容易でなく、コストも高くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4405501号公報
【特許文献2】特許第4214169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記背景技術の下で、スライド式携帯端末のスライド機構には、捩じりコイルバネからなる従来の付勢部材と同様に、第1部材との連結部と第2部材との連結部間にスペースを確保でき、また、一部品のみで構成可能で、容易に製造することができ、コストも安い付勢部材であって、捩じりコイルバネからなる従来の付勢部材と比べて厚みを小さくすることができる付勢部材が求められている。
【0008】
本発明の目的は、そのような付勢部材を備えるスライド式携帯端末機のスライド機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための第1の手段として、表面に表示部14を設ける第1筐体12と表面に操作部16を設ける第2筐体13とをスライド自在に重合連結する板状の第1,第2部材2,3と、上記第1,第2部材2,3間に配置する付勢部材5とを備え、上記付勢部材5の弾性付勢によって上記第1,第2部材2,3間にスライド方向への付勢が生じるように構成するスライド式携帯端末機のスライド機構において、上記付勢部材5は、板面に平行方向に変形可能なバネ性を有する弓状の金属板からなり、一端に、上記第1部材2に連結する第1連結部5bを設け、他端に、上記第2部材3に連結する第2連結部5dを設け、上記第1,第2連結部5b,5d間には、該部を板面に平行方向に弾性変形可能とする表裏貫通の溝部5eを複数設ける構成とした。
【0010】
第2の手段として、上記第1の手段において、上記第1,第2連結部5b,5dを、それぞれ、絞り形状にする構成とした。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、付勢部材5は、板面に平行方向に変形可能なバネ性を有する弓状の金属板からなり、一端に、第1部材2に連結する第1連結部5bを設け、他端に、第2部材3に連結する第2連結部5dを設け、第1,第2連結部5b,5d間に、該部を板面に平行方向に弾性変形可能とする表裏貫通の溝部5eを複数設けることで、捩じりコイルバネからなる従来の付勢部材と同様に、第1部材2との第1連結部5bと第2部材3との第2連結部5d間にスペースを確保でき、また、一部品のみで構成可能で、容易に製造することができ、コストも安い上に、捩じりコイルバネからなる従来の付勢部材と比べて厚みを小さくすることができ、そのような付勢部材5を備えるスライド式携帯端末機のスライド機構を提供することができる。
【0012】
また、第1,第2連結部5b,5dを、それぞれ、絞り形状にする場合は、第1,第2連結部5b,5dによって、付勢部材5の第1,第2部材2,3との高さ調整を行うことができると共に、付勢部材5の第1,第2連結部5b,5d間を第1,第2部材2,3と非接触に保持し、付勢部材5と第1,第2部材2,3との接触面積を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るスライド機構を示す分解斜視図である。
【図2】図1の付勢部材の説明図である。
【図3】図1に示すスライド機構を備えるスライド式携帯電話機であって、第1筐体が閉位置にある様子を示す正面図である。
【図4】図3のA−A線断面図である。
【図5】図8のB−B線断面図である。
【図6】付勢部材が見えるようにした図3相当図である。
【図7】第1筐体がスライド中間位置にある様子を示す図4相当図である。
【図8】第1筐体がスライド中間位置にある様子を示す図6相当図である。
【図9】第1筐体が閉位置にある様子を示す図4相当図である。
【図10】第1筐体が閉位置にある様子を示す図6相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図3ないし図6に示すように、スライド式携帯端末機の一例としてのスライド式携帯電話機11は、上下方向に長い2つの筐体12,13を備える。ここで、上下方向とは、図3,図4,図6における紙面上下方向で、図5における紙面に垂直な方向であり、2つの筐体12,13の長さ方向であって、2つの筐体12,13のスライド方向となる。また、図3,図6における紙面左右方向で、図4における紙面に垂直な方向、図5における紙面上下方向は、2つの筐体12,13のスライド方向と垂直な幅方向となる。さらに、図3,図6における紙面に垂直な方向で、図4,図5における紙面左右方向は、2つの筐体12,13のスライド方向及び幅方向と垂直な厚み方向となる。このようなスライド(長さ)方向、幅方向、厚み方向は、図4相当図である図7,図9、図6相当図である図8,図10においても同じである。
【0016】
2つの筐体12,13は、長さが幅よりも大きい縦長であって、厚みが幅よりも小さい薄型の直方体形状(箱形状)のものである。また、2つの筐体12,13間では厚みが異なるだけで、長さ及び幅は同じであり、2つの筐体12,13は、位置ずれすることなく前後に重ね合わせることができる。さらに、2つの筐体12,13は、厚みが薄い一方の筐体12裏面(背面:後面)とそれよりも厚みが厚い他方の筐体13表面(正面:前面)とを重ね合わせるように、前後に重合配置する。
【0017】
前側に配置する第1筐体12表面と後側に配置する第2筐体13裏面とを、スライド機構1によって、上下方向にスライド自在に重合連結し、第1筐体12表面に上下方向に長く縦長な矩形状の表示部14を設け、その表示部14の上部に受話部15を設け、第2筐体13表面の下部に操作部16を設け、その操作部16の下部に送話部17を設け、第2筐体13に対して第1筐体12が、操作部16及び送話部17を覆い隠す閉位置(図9,図10に示す位置)と出現する開位置(図3,図4,図6に示す位置)とにスライドして開閉するように構成する。
【0018】
表示部14は液晶ディスプレイや有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ等によって構成し、受話部15はレシーバ等によって構成し、送話部17はマイクロホン等によって構成し、操作部16には、電話をかけたり切ったりするために必要な発信キー、電源・終話キー、ダイヤルキー等の各種操作・入力キーを設ける。
【0019】
また、スライド式携帯電話機11は、第1,第2筐体12,13間を電気的に接続するフレキシブル基板(FPC)18を備える。
【0020】
フレキシブル基板18は、第1筐体12の内部に設けた第1基板(リッジト基板又フレキシブル基板)19と第2筐体13の内部に設けた第2基板(リッジト基板又フレキシブル基板)20間を電気的に接続するフレキシブル配線基板(フレキシブルPWB)を構成するもので、縦長な矩形状を有しており、長手方向が上下方向に向くように配置し、一端部18aを第1基板19に、他端部18bを第2基板20に接続する。
【0021】
フレキシブル基板18の中間部は、第1筐体12裏面と第2筐体13表面より外部に引き出す。フレキシブル基板18の中間部は、第1筐体12のスライド量(スライドストローク)よりも長い長さを有し、その途中に折り返し部18cを設けており、第1筐体12裏面と第2筐体13表面との間隙で、第1筐体12のスライドに連動して上下方向にローリング可能に、下方向に開いた側面視U字形に配置する。それにより、フレキシブル基板18は、第1筐体12のスライドを許容しながら、第2基板20から第1基板19に電源や電気信号を伝達する。
【0022】
次に、スライド機構1の構造について説明する。
【0023】
図1に示すように、スライド機構1は、前後一対の第1,第2部材2,3と、左右一対のガイド部材4a,4bと、1つの付勢部材5と、2本の連結ピン6a,6bとで構成する。
【0024】
第1部材2は、第1筐体12の一部になるもので、上下方向に長い1枚の矩形金属板からなり、第1筐体12の裏面キャビットを構成する。第1部材2の左右側縁部には、上下方向に平行に延びる幅狭で全長にわたって幅一定な板状の左右係合部2a,2bを形成する。第1部材2の中央部と左右係合部2a,2bとの間には低い段差部2c,2dを設けており、左右係合部2a,2bは、第1部材2の中央部よりも一段低い面に配置する。左右係合部2a,2bと段差部2c,2dとは、第1部材2の左右側縁部をL字形に曲げるこよによって形成される。第1部材2の中央部における上下方向略中間で、左右一側に片寄せた1箇所には、表裏貫通の小さい円形の付勢部材取付孔2eを設ける。
【0025】
第2部材3は、第2筐体13の一部になるもので、上下方向の長さが第1部材2よりも短い1枚の矩形金属板からなり、第2筐体13の表面上部キャビネットを構成する。第2部材3の左右側縁部には、上下方向に平行に延びる溝形状の左右ガイド部3a,3bを形成する。左右ガイド部3a,3bは、第2部材3の幅方向中央部に向かって開口するコ字形の断面形状を有する。左右ガイド部3a,3bは、第2部材3の左右側縁部をコ字形に曲げることによって形成される。第2部材3の中央部における上下方向略中間で、左右一側に片寄せた1箇所には、表裏貫通の小さい円形の付勢部材取付孔3cを設ける。
【0026】
第1部材2の付勢部材取付孔2eと第2部材3の付勢部材取付孔孔3cとは、第1筐体12裏面と第2筐体13表面とを対向配置したとき、左右逆側に位置するように設ける。
【0027】
ガイド部材4a,4bは、それぞれが、断面コ字形の細長い樹脂製の棒状体からなり、左右ガイド部3a,3bと同じ長さを有し、左右ガイド部3a,3bの内側に挿入固定可能となっている。
【0028】
連結ピン6a,6bは、それぞれが、断面円形の短い軸部の一端に円板状の頭部を有する金属ピンからなる。
【0029】
図2(A),図2(B)にも示すように、付勢部材5は、ステンレスやリン青銅等の薄いの金属平板をプレス加工することによって製造され、板面に平行方向に変形可能なバネ性を有する1枚の弓形状の薄い金属平板からなる。付勢部材5の一端には、中央に一方の連結ピン6aの軸部を挿通可能な表裏貫通の小さい連結孔5aを有して第1部材2に連結する第1連結部5bを設け、付勢部材5の他端には、中央に他方の連結ピン6bの軸部を挿通可能な表裏貫通の小さい連結孔5cを有して第2部材3に連結する第2連結部5dを設ける。また、付勢部材5の第1連結部5bと第2連結部5d間には、該部を板面に平行方向に弾性変形可能とする表裏貫通の細幅な弓形状の溝部5eを幅方向に略平行して複数設ける。ここでは溝部5eを2本設けてある。この溝部5eの形状や本数によって、付勢部材5の弾力性を調整することができるようになっている。また、第1,第2連結部5b,5dは、それぞれの連結対象(第1,第2部材2,3)に向かって逆向きに絞り込んだ絞り形状に形成する。ここでは第1,第2連結部5b,5dを、それぞれ、円形のカップ形状に形成する。
【0030】
このような、付勢部材5は、その弓形状によって、第1部材2(第1筐体12)がスライド範囲内のどの位置にあっても、付勢部材5の第1,第2連結部5b,5d間に、下方向に開いたスペース(空間)8を確保することができるようになっている。
【0031】
図5,図6に示すように、左右ガイド部材4a,4bは、第2部材3の左右ガイド部3a,3bの内側に嵌着され、接着剤等によって固定される。第1部材2の左右係合部2a,2bは、第2部材3の左右ガイド部材4a,4bに摺動自在に挿入係合される。それにより、第1,第2部材2,3は、それらの左右側縁部で、上下方向にスライド自在に連結され、所定の間隙を設けて対向配置される。
【0032】
付勢部材5は、第1,第2部材2,3の間隙に配置するもので、一方の連結ピン6aの軸部を、第2部材3の側より第1連結部5bの中央にある連結孔5aに通し、その軸部の先端を、第1部材2の付勢部材取付孔2eに挿入固定し、第1連結部5bを一方の連結ピン6aを介して第1部材2の付勢部材取付孔2e位置に回転可能に連結し、他方の連結ピン6bの軸部を、第1部材2の側より第2連結部5dの中央にある連結孔5cに通し、その軸部の先端を、第2部材3の付勢部材取付孔3cに挿入固定し、第2連結部5dを他方の連結ピン6bを介して第2部材3の付勢部材取付孔3c位置に回転可能に連結し、それにより、第1部材2と第2部材3とを付勢部材5によって連結し、付勢部材5の弾性付勢によって、第1,第2部材2,3間にスライド方向(上下方向)への付勢が生じるように構成する。
【0033】
この際、第1,第2連結部5b,5dを、それぞれ、絞り形状に形成してあるので、第1,第2連結部5b,5dによって、付勢部材5の第1,第2部材2,3に対する高さ調整を行うことができ、付勢部材5を第1,第2部材2,3の間隙に、それらと平行に配置することができる。また、付勢部材5の第1,第2連結部5b,5d間を第1,第2部材2,3と非接触で平行に保持して、付勢部材5と第1,第2部材2,3との接触面積を小さくすることができる。
【0034】
こうしてスライド機構1は、第1,第2部材2,3によって、第1筐体12裏面と第2筐体13表面を上下方向にスライド自在に重合連結し、付勢部材5によって、第2筐体13に対して第1筐体12が、操作部16を覆い隠す閉位置(図9,図10に示す位置)と出現する開位置(図3,図4,図6に示す位置)とにスライドするのを補助するように構成する。
【0035】
また、付勢部材5は、第1部材2(第1筐体12)がスライド範囲内のどの位置にあっても、付勢部材5の弓形状が常に下方向に開放されるような向きで、第1,第2部材2,3の間隙に装着されており、付勢部材5の弓形状によって第1,第2連結部5b,5d間に確保したスペース8に、フレキシブル基板18の中間部の上部を、第1,第2部材2,3の間隙を通して、下方より挿入配置する。それにより、フレキシブル基板18の配線を容易にし、フレキシブル基板18がスライド操作を妨げないようにしてスライド量を大きくするようにしてある。
【0036】
次に、スライド機構1の作用(スライド式携帯電話機11のスライド操作)について説明する。
【0037】
まず、図9,図10に示すように、スライド式携帯電話機11を使用していない携帯時には、第2筐体13に対して第1筐体12全体が重合し、第1筐体12は、第2筐体13の操作部16及び送話部17を覆い隠す閉位置にある。この際、スライド機構1は、第2部材3に対して第1部材2の上部が対向し、第2部材3に固定した連結ピン6bよりも下方に第1部材2に固定した連結ピン6aが位置し、第2部材3に連結ピン6bを介して連結した付勢部材5の右端の第2連結部5dよりも第1部材2に連結ピン6aを介して連結した付勢部材5の左端の第1連結部5bが下方に位置する。第1,第2連結部5b,5dがそのような位置関係にある付勢部材5は、第1,第2連結部5b,5dの中心間の直線距離を拡大しようとする付勢力よって、第2部材3に対して第1部材2を下方向へ付勢し、第1筐体12をその下方向へのスライド終端位置である閉位置に保持する。また、付勢部材5の第1,第2連結部5b,5d間に確保したスペース8には、フレキシブル基板18の中間部の上部が下方より挿入配置される。
【0038】
続いて、スライド式携帯電話機11を使用するに当たって、閉位置にある第1筐体12を上方向へスライドさせると、スライド機構1は、第1部材2が左右ガイド部材4a,4bをガイドとして上方向へスライドする。この際、第2部材3に固定した連結ピン6bは静止しているのに対し、第1部材2に固定した連結ピン6aは上方向へ移動し、付勢部材5は全体的に連結ピン6bを中心に回転しながら、第1,第2連結部5b,5dの中心間の直線距離を漸次縮小する。このように第1,第2連結部5b,5dの中心間の直線距離が縮小するスライド工程において付勢部材5は、第1,第2連結部5b,5d間の弓形状の曲率を大きくするように、溝部5eを介して板面に平行方向に圧縮変形し、第1,第2連結部5dの中心間の直線距離を拡大する方向の弾性エネルギーを蓄える。
【0039】
続いて、図7、図8に示すように、第1筐体12をさらに上方向へスライドさせると、第2筐体13の操作部16及び送話部17が徐々に出現し、第1筐体12は、そのスライド中間位置に到達する。この際、スライド機構1は、第1部材2が左右ガイド部材4a,4bをガイドとしてさらに上方向へスライドし、第2部材3に対して第1部材2の上下中間部が対向し、第1部材2に固定した連結ピン6aが第2部材3に固定した連結ピン6bと同じ高さ位置(上下位置)に移動し、第1,第2連結部5b,5dの中心間を結ぶ直線が第1部材2のスライド方向に対して垂直になり、第1,第2連結部5b,5dの中心間の直線距離が最小になる。このように第1,第2連結部5b,5dが同じ高さ位置に並び、第1,第2連結部5b,5dの中心間の直線距離が最小になるスライド中間位置において付勢部材5は、最大に圧縮変形し、最大の弾性エネルギーを蓄える。この際、付勢部材5の付勢方向は、第1部材2のスライド方向と垂直の方向となり、第1部材2は、上方向及び下方向いずれの方向にもスライドしない。
【0040】
続いて、第1筐体12をさらに上方向へスライドさせると、第1筐体12は、そのスライド中間位置を越える。この際、スライド機構1は、第1筐体12がスライド中間位置を越えた時点で、第1部材2に連結ピン6aを介して連結した付勢部材5の左端の第1連結部5bと第2部材3に連結ピン6bを介して連結した付勢部材5の右端の第2連結部5dとの上下の位置関係が逆転し、第1,第2連結部5b,5dの中心間の直線距離が縮小するスライド工程から拡大するスライド工程に転じる。すなわち第1部材2が左右ガイド部材4a,4bをガイドとしてさらに上方向へスライドし、第1部材2に固定した連結ピン6aが第2部材3に固定した連結ピン6bよりも上方へ移動し、第1,第2連結部5b,5dの中心間の直線距離が最小から漸次拡大する。このように第1,第2連結部5b,5dの中心間の直線距離が拡大するスライド工程に入ったときの付勢部材5は、第1,第2連結部5b,5dの中心間の直線距離が縮小するスライド工程において蓄えた弾性エネルギーを開放し、第1,第2連結部5b,5dの中心間の直線距離を拡大しようとする付勢力によって、第1部材2を上方向へ付勢し、第1筐体12と一体に第1部材2を左右ガイド部材4a,4bをガイドとしてさらに上方向へスライドさせる。
【0041】
そして、図3,図4,図6に示すように、付勢部材5の付勢力によって、最終的に第1部材2は、左右ガイド部材4a,4bをガイドとして、上方向へのスライド終端位置までスライドし、第1筐体12を、上方向へのスライド終端位置である開位置までスライドさせ、その開位置に保持する。こうして、第1筐体12を開位置にスライドさせ、第2筐体13に対して第1筐体12を上方向に位置ずれさせることにより、第2筐体13の操作部16及び送話部17は完全に出現し、スライド式携帯電話機11を使用することができる。
【0042】
第1筐体12を開位置より元の閉位置にスライドさせるときには、上記と逆の動作(操作)となる。
【0043】
このように、付勢部材5の付勢力によって、第1筐体12を閉位置から手で上方向へスライドさせる際、スライド中間位置の手前で離すとスライド前の閉位置に復帰するが、スライド中間位置を僅かでも超えて離すと第1筐体12はそのまま開位置まで上方向へスライドする。また、第1筐体12を開位置より手で下方向へスライドさせる際、スライド中間位置より手前で離すとスライド前の開位置に復帰するが、スライド中間位置を僅かでも超えて離すと第1筐体12はそのまま閉位置まで下方向へスライドする。すなわち付勢部材5によって、第2筐体3に対して第1筐体2が、操作部16を覆い隠す閉位置と出現する開位置にスライドするのを補助する。
【0044】
また、第1筐体12が閉位置と開位置との間でスライドする際、フレキシブル基板18の中間部は、第1筐体12の上下方向のスライドに連動して、折り返し部18cの位置を上下方向に変位させながら、付勢部材5を配置した第1,第2部材2,3の間隙で上下方向にローリングするが、その際、付勢部材5もまた、第1部材12の上下方向のスライドに連動して、第2部材3に固定した連結ピン6bを中心に回転しながら、フレキシブル基板18の折り返し部18cとの距離を略一定に保ちつつ、第1部材12のスライド範囲全体にわたり、付勢部材5の第1,第2連結部5b,5d間にフレキシブル基板18の中間部の上部を下方より挿入配置可能なスペース8、すなわちフレキシブル基板18の配線スペース8を確保する。
【0045】
以上、本実施形態に係るスライド式携帯端末機11のスライド機構1は、表面に表示部14を設ける第1筐体12と表面に操作部16を設ける第2筐体13とをスライド自在に重合連結する板状の第1,第2部材2,3と、第1,第2部材2,3間に配置する付勢部材5とを備え、付勢部材5の弾性付勢によって第1,第2部材2,3間にスライド方向への付勢が生じるように構成するもので、付勢部材5は、板面に平行方向に変形可能なバネ性を有する弓状の金属板からなり、一端に、第1部材2に連結する第1連結部5bを設け、他端に、第2部材3に連結する第2連結部5dを設け、第1,第2連結部5a,5b間には、該部を板面に平行方向に弾性変形可能とする表裏貫通の溝部5eを複数設ける構成とした。
【0046】
上記のように構成した付勢部材5は、第1,第2連結部5d間に第1,第2筐体12,13間を電気的に接続するフレキシブル基板18の配線スペース8を確保することができる。
【0047】
また、上記のように構成した付勢部材5は、一部品のみで構成可能で、プレス加工で容易に製造することができ、コストも安くすることができる。
【0048】
また、上記のように構成した付勢部材5は、金属板の厚みのみで構成することができ、捩じりコイルバネからなる従来の付勢部材と比べて厚みを小さくすることができる。
【0049】
よって、上記のように構成した付勢部材5は、捩じりコイルバネからなる従来の付勢部材と同様に、第1部材2との第1連結部5bと第2部材3との第2連結部5d間にスペースを確保でき、また、一部品のみで構成可能で、容易に製造することができ、コストも安い上に、捩じりコイルバネからなる従来の付勢部材と比べて厚みを小さくすることができる。
【0050】
また、第1,第2連結部5a,5b間に、該部を板面に平行方向に弾性変形可能とする表裏貫通の溝部5eを複数設ける付勢部材5は、溝部5eの形状や本数によって、付勢部材5の弾力性を調整することができる。
【0051】
また、本実施形態では、付勢部材5の第1,第2連結部5b,5dを、それぞれ、絞り形状に形成してあるので、第1,第2連結部5b,5dによって、付勢部材5の第1,第2部材2,3との高さ調整を行うことができると共に、付勢部材5の第1,第2連結部5b,5d間を第1,第2部材2,3と非接触で平行に保持して、付勢部材5と第1,第2部材2,3との接触面積を小さくすることができる。
【0052】
ところで、本実施形態においては、ガイド部材4a,4bの固定に接着剤等を用いたが、圧入や係止構造を用いてもよい。また、左右係合部2a,2bと左右ガイド部3a,3bとの間に樹脂製の左右ガイド部材4a,4bを設けたが、ガイド部材4a,4bを設けることなく、左右係合部2a,2bを左右ガイド部3a,3bに直接摺動自在に挿入係合して、第1,第2部材2,3をスライド自在に連結してもよい。また、付勢部材5は、第1,第2連結部5b,5dを第1,第2部材2,3に引っ掛ける構造で連結してもよい。また、付勢部材5の金属表面に微細なディンプルを形成することで、付勢部材5の第1,第2部材2,3との摩擦を低減するようにしてもよい。その際、投射材(主にスチールショットやスチールビーズと呼ばれる小さな鋼球)を空気圧または機械力により付勢部材5の金属表面にぶつけるショットピーニングでディンプルを形成することで、付勢部材5の表面層に残留圧縮応力を生じさせると共に軽い加工硬化をおこさせ、応力や疲れによる破壊強度を増すことができる。また、付勢部材5の絞り形状の第1連結部5bと第1部材2間及び絞り形状の第2連結部5dと第2部材3間に、それぞれ、樹脂ワッシャーを挟み込み、樹脂ワッシャーによって、付勢部材5の第1,第2部材2,3との高さ調整、付勢部材5の第1,第2連結部5b,5dの第1,第2部材2,3との摩擦を低減したり絶縁を図るようにしてもよい。さらには、付勢部材5の絞り形状の第1連結部5bと連結ピン6aの頭部間及び絞り形状の第2連結部5dと連結ピン6bの頭部間にも、樹脂ワッシャーを挟み込み、付勢部材5の第1,第2連結部5b,5dの連結部6a,6bとの摩擦を低減したり絶縁を図るようにしてもよい。また、付勢部材5の絞り形状の第1,第2連結部5b,5dの内周縁(連結孔5c,5dの周囲)に、インサート成形によって樹脂を配し、付勢部材5の第1,第2連結部5b,5dの連結部6a,6bとの摩擦を低減したり絶縁を図るようにしてもよい。また、付勢部材5の第1,第2連結部5b,5dを絞り形状とせず、平板状とする場合も、片側又は両側に樹脂ワッシャーを挟み込んだり、内周縁にインサート成形によって樹脂を配し、付勢部材5の第1,第2部材2,3との高さ調整、第1,第2部材2,3及び連結部6a,6bとの摩擦を低減したり絶縁を図るようにしてもよい。
【0053】
また、本実施形態においては、1つのスライド機構1に1つの付勢部材5を備えたが、1つのスライド機構1に複数の付勢部材5を備えてもよい。例えば、2つの付勢部材5を第1,第2部材2,3の間隙に左右対称で左右方向に並べて配置することで、左右の付勢部材5の間、すなわちスライド機構1の中央部にフレキシブル基板18の配線スペース8を確保すると共に、左右の付勢部材5の第1,第2連結部5b,5d間、すなわちスライド機構1の左右両側部にもスペース8を確保することができる。このように複数の付勢部材5を左右方向に並べて配置する構造は、左右方向に長い横長の第1,第2筐体を上下方向にスライド自在に重合連結するスライド機構に有効となる。また、上下方向に長い縦長の第1,第2筐体を左右方向にスライド自在に重合連結するスライド機構では、複数の付勢部材5を上下方向に並べて配置する構造が有効となる。
【0054】
また、本実施形態のスライド機構1は、スライド式携帯電話機の他、PDA等のスライド式携帯情報端末、電子辞書等のスライド式携帯電子機器のスライド機構として利用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 スライド機構
2 第1部材
3 第2部材
5 付勢部材
5a 第1連結部
5b 第2連結部
5e 溝部
11 スライド式携帯電話機
12 第1筐体
13 第2筐体
14 表示部
16 操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に表示部を設ける第1筐体と表面に操作部を設ける第2筐体とをスライド自在に重合連結する板状の第1,第2部材と、上記第1,第2部材間に配置する付勢部材とを備え、上記付勢部材の弾性付勢によって上記第1,第2部材間にスライド方向への付勢が生じるように構成するスライド式携帯端末機のスライド機構において、上記付勢部材は、板面に平行方向に変形可能なバネ性を有する弓状の金属板からなり、一端に、上記第1部材に連結する第1連結部を設け、他端に、上記第2部材に連結する第2連結部を設け、上記第1,第2連結部間には、該部を板面に平行方向に弾性変形可能とする表裏貫通の溝部を複数設けることを特長とするスライド式携帯端末機のスライド機構。
【請求項2】
上記第1,第2連結部を、それぞれ、絞り形状にすることを特長とする請求項1に記載のスライド式携帯端末機のスライド機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−244234(P2012−244234A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109527(P2011−109527)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000194918)ホシデン株式会社 (527)
【Fターム(参考)】