説明

スライム吸引硬化材注入工法と装置

【課題】従来、地盤硬化材注入は発生するスライムを吸入して硬化材噴流の到達距離の伸長や地内圧の調整をしているが、対象地盤の地内圧が所定値を超えると過剰吸引が起こり、折角注入された硬化材がスライムとして排出されて無駄になったり、造成される硬化材層が痩細化したりする問題がある。
【解決手段】スライム吸入孔5に調整可能に開閉するシャッター55を付設し、ロッド先端部に地内圧測定センサー54を設けて、硬化材の注入圧による対象地盤の内圧変動に対応するスライム吸引をシャッターの開閉調整によって行ない、過剰吸引を防止すると共に適正なスライム吸入力を保持するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟弱地盤の安定、構築物の基礎、トンネル掘削における地山の支保等を目的とし造成される硬化材注入構造体の造成のための地盤硬化材注入に用いるスライム吸引硬化材注入工法と装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、硬化材注入構造体の造成は対象地盤に挿入した注入ロッドから地盤硬化材を高圧噴射により注入して行われてきたが、硬化材注入圧によって対象地盤の内圧が高まり、その調整が問題となっている。
【0003】
対象地盤の内圧調整については、注入ロッド挿入孔を通じてエアリフトにより余剰スライムを揚送する方法が長く行われてきたが充分な効果が得られず、特に注入ロッドを水平方向に挿入する場合には適用することが出来なかった。
【0004】
そこで、注入ロッドにスライム吸入孔を開口させ、注入ロッド内の多重分隔経路によって構成された排出経路を通じて余剰スライムを排出する方法(例えば特許文献1参照)が開発されている。
【0005】
スライム吸入孔の設定により、余剰スライムの系統的な処理が可能となり、成果を挙げることができたが、スライム吸入孔の開口だけでは搬送力が弱く充分な内圧調整を行うことが出来なかったため、注入ロッド内の排出経路底部にスライム排出方向にジェット流を噴射するジェット噴射孔を設け、更にその外側に排出経路内を旋回する旋回流を噴射する旋回流噴射ノズルを配置して注入ロッド内部においてスライム吸入力と排出力を推進する方法(例えば特許文献2参照)も開発されている。
【特許文献1】特公平8ー11889号公報
【特許文献2】特許第2602386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スライム吸入孔から吸入されたスライムの排出については、上記のように排出経路底部にスライム排出方向にジェット流を噴射するジェット噴射孔を設け、排出経路内を旋回する旋回流を噴射する旋回流噴射ノズルを配置する等してスライム吸入力と排出力を推進しているが、対象地盤の地内圧が所定値を超えると過剰吸引が起こり、折角注入された硬化材がスライムとして排出されて無駄になったり、造成される硬化材層が痩細化したりする問題がある。
【0007】
また、挿入された注入管ロッドが地下水層に遭遇したりすると、多量の水がスライムと共にスライム排出経路に流入し作業スペースに溢出して作業継続が困難になる等の不都合があり、他方、硬化材注入が長時間継続したり注入深度が深くなると、途中でロッドの継足しや取外しを行なわなければならないため、その都度、ロッドの内圧が下がり裸孔となっている硬化材噴射ノズルやスライム吸入孔から土砂が侵入して硬化材等の圧送経路やスライム排出経路に目詰まりを生じるという問題がある。
【0008】
特に、水平方向に挿入される注入ロッドの場合には、硬化材の注入圧による対象地盤の内圧変動が捉え難くいので地内圧との関係で適正なスライム吸入力を保持することが困難であるという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以上の問題点に対処するため、重合噴射ノズルから上部に所定間隔を置いた部位に、地内圧測定センサーの測定値によって開閉するシャッターを設けたスライム吸入孔を開口させ、スライム吸入孔から吸入したスライムを排出する排出経路の底部に、スライム排出方向にジェット流を噴射するジェット噴射孔を設け、その上部に所定間隔を置いてエアーを噴射するバックエアーノズルを排出経路内壁に配置した注入ロッドを用いるようにした。
【0010】
即ち、スライム吸入孔に調整可能に開閉するシャッターを付設し、ロッド先端部に地内圧測定センサーを設けることにより、硬化材の注入圧による対象地盤の内圧変動に対応するスライム吸引をシャッターの開閉調整によって行ない、過剰吸引を防止すると共に適正なスライム吸入力を保持するものである。
【0011】
また、重合噴射ノズルに硬化材噴射圧力によって開閉するシャッターを設け、硬化材噴射の中断或いは休止とノズルシャッターの開閉を連動させるようにし、硬化材注入が長時間継続したり注入深度が深くなって、途中でロッドの継足しや取外しが行なわれると、硬化材噴射圧も中断されるのでノズルシャッターが自動的に閉鎖され、硬化材噴射ノズルから硬化材等の圧送経路やスライム排出経路に土砂が侵入するのを防止するようにした。
【0012】
更に、スライム排出経路内壁に設ける排出補助ジェット孔をバックエアーノズルに変えてスライムの比重を低下させるに止め、排出補助としての排出方向への推進を強制的なものから調整地内圧に対応する無理のない推進力として、対象地盤の地内圧とスライム吸引力の均衡を図るようにした。
【実施例】
【0013】
以下図面に従って本発明の実施例を説明する。1は注入ロッドで操作機構(目的に応じて水平方向への前進、後退など形態が異なる)2によって支持され、下降、上昇、回転若しくは360度往復回動等の作動を与えられる。
【0014】
注入ロッド1の先端部側壁には核ノズル31、囲周ノズル32によって構成される重合噴射ノズル3が設けられ、重合噴射ノズルから上部に所定間隔を置いた部位に、地内圧測定センサー54の測定値によって開閉するシャッター55を設けたスライム吸入孔5が設定されている。
【0015】
重合噴射ノズル3は、スイベル4を介して供給経路11により供給される硬化材の供給圧によってシャッター33を開口して硬化材を核ノズル31から噴射し、供給経路12により供給されるエアーをその周囲を囲む囲周ノズル32を通じてそれぞれ地中に噴射する。
【0016】
5はスライム吸入孔で、重合噴射ノズル3の上部に所定の間隔を置いて開口し、噴射ノズル3からの噴射作動によって生ずる余剰スライムをその内圧エネルギーを利用して吸入し、スライム処理機構に揚送する。51は核ノズル31に硬化材を供給する硬化材供給経路、52は囲周ノズル32に圧縮空気を供給するエア供給経路、53はジェット供給経路である。
【0017】
スライム吸入孔5から下部に所定間隔を置いた部位には、地内圧測定センサー54が設定され、注入ロッド先端部における対象地盤の地内圧が常に測定されて操作部に表示されるようになっている。注入ロツド内部は並列する多孔経路となっており、噴射ノズル3やスライム吸入孔5の各開口部に開口する多孔経路を有している。
【0018】
スライム吸入孔5が開口する排出経路6の底部には、中央にスライム排出方向にジェット流を噴射するジェット噴射孔7、その上部の排出経路内壁にはエアーを噴射するバックエアー噴射ノズル8が設定されている。
【0019】
更に、排出経路6の内壁には所定間隔毎にバックエアーもしくはジェット噴射による中継ノズル9が必要に応じて配置される。
【0020】
以上のような装置システムにより、先ず、注入ロッド1は操作機構2によって回転を与えられ、削孔水供給経路13から削孔水を噴出しながら、メタルクラウン10により対象地盤を穿孔し対象地盤Xに推進挿入される。
【0021】
所定深度において、供給経路11により供給される硬化材の供給圧によってシャッター33を開口して重合噴射ノズル3の核ノズル31から地盤硬化材を、囲周ノズル32からエアーを噴射しながら注入ロッド1を回動させながら後退させると高圧高速の硬化材噴流が対象地盤を切削し撹拌して、その軌跡に沿った硬化材注入層が造成されて行く。
【0022】
一方、噴射ノズル3から噴射され、噴射による破砕力を失って飽和状態となった泥水スライムや硬化材噴射圧によって変動する対象地盤地内圧は、地内圧測定センサー54によって測定され、これが所定値以上に上昇すると油圧ライン14にオイルが供給されてシャッター55が測定値に対応して開放されて行く。
【0023】
シャッター55は地内圧測定センサー54によって表示される測定値に従って操作される油圧ユニット56によって開度調整され、スライム吸入孔開度表示用デジタルメーターに表示される。シャッター55が開放されると、後続噴射によってスライム自体に蓄積された内圧エネルギーと排出経路6の吸引負圧によって、地内圧を上昇させている余剰スライムがスライム吸入孔5から吸入される。
【0024】
吸入されたスライムは、排出経路6の底部に開口するジェット噴射孔7、その上部の排出経路内壁に設定されたバックエアー噴射ノズル8による搬送流に乗り必要に応じて中継ノズルにより加速されて、排出経路6を通じてスライム処理機構に送入されるが、吸入によって対象地盤の地内圧が低下するとシャッター55の開度を調整して吸入量を減少させて硬化材注入の均衡を図る。
【0025】
また、途中でロッドの継足しや取外しを行なう場合には、シャッター33とシャッター55を予め閉鎖することができるので、ロッドの取外し時にその内圧が一時に低下して、スライム吸入孔や硬化材噴射ノズルから硬化材等の圧送経路やスライム排出経路に土砂が侵入するのを防止することを可能とした。
【0026】
以上のように重合噴射ノズル3から高圧噴射された硬化材はスライム吸入によって密度調整され、空隙率の増した周辺土壌を撹拌混合して地盤硬化材注入層Aが造成されるので、これを順次並列させるなどして所定構造に連続させて行くものである。
【0027】
本発明は以上のように構成したので、対象地盤の地内圧等に全面的に依存し、地下水等の状況に対応し得なかったスライム吸入では達成し得なかった水平注入の場合のスライム排出を強力に行うことができるとともに、吸引ポンプでは達成し得なかった中継ノズルによる排出力の完全な補完を可能とした。
【0028】
更に、積極的にスライム吸入孔の吸引力を造成し調整するので、質量の高い泥水スラッジを含むスライムを噴射ノズルの直近において吸引除去すると共に、噴射圧を効果的にして硬化材噴流の到達距離を伸長できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施例による水平方向の施工状況を示す全体説明図
【図2】注入ロッド先端モニター部の構造を模式的に示した拡大縦断面図
【図3】注入ロッド先端モニター部の多孔構造を横断面として示し、スライム吸入孔のシャッター開閉機構を模式的に示した説明図
【符号の説明】
【0030】
1 注入ロッド
11 注入ロッドの硬化材供給経路
12 注入ロッドのエアー供給経路
13 注入ロッドの削孔水供給経路
14 注入ロッドの油圧ライン
15 削孔水供給経路の逆止弁
2 操作機構
3 重合噴射ノズル
31 核ノズル
32 囲周ノズル
33 重合噴射ノズルの開閉シャッター
4 スイベル
5 スライム吸入孔
51 圧力センサーケーブル
52 バックエア供給経路
53 ジェット供給経路
54 地内圧測定センサー
55 スライム吸入孔の開閉シャッター
56 スライム吸入孔シャッター開閉油圧ユニット
6 スライム排出経路
7 ジェット噴射孔
8 バックエアー噴射ノズル
9 ロッド中継ボルト
10 ロッドクラウン
A 硬化材注入層
X 対象地盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合噴射ノズルから上部に所定間隔を置いた部位に、地内圧測定センサーの測定値によって開閉するシャッターを設けたスライム吸入孔を開口させ、スライム吸入孔から吸入したスライムを排出する排出経路の底部に、スライム排出方向にジェット流を噴射するジェット噴射孔を設け、その上部に所定間隔を置いてエアーを噴射するバックエアーノズルを排出経路内壁に配置した注入ロッドを対象地盤中に挿入し、所定深度において重合噴射ノズルの囲周ノズルからエアー、核ノズルから硬化材を噴射しつつロッドを回動後退させながら硬化材を注入し、硬化材注入と共に地内圧測定センサーによって測定される対象地盤の地内圧に対応してスライム吸入孔シャッターの開放調整を行なって対象地盤の地内圧を調整することを特徴とするスライム吸引硬化材注入工法
【請求項2】
重合噴射ノズルに硬化材噴射圧力によって開閉するシャッターを設け、硬化材噴射の中断或いは休止とノズルシャッターの開閉を連動させるようにした請求項1記載のスライム吸引硬化材注入工法
【請求項3】
重合噴射ノズルから上部に所定間隔を置いた部位に、地内圧測定センサーの測定値によって開閉するシャッターを設けたスライム吸入孔を開口させ、スライム吸入孔から吸入したスライムを排出する排出経路の底部に、スライム排出方向にジェット流を噴射するジェット噴射孔を設け、その上部に所定間隔を置いてスライム排出方向にエアーを噴射するバックエアーノズルを排出経路内壁に配置した注入ロッドと、この注入ロッドに推進、回動等の作動を与える駆動機構とから成るスライム吸引硬化材注入装置
【請求項4】
注入管ロッドに設定する重合噴射ノズルに硬化材噴射圧力によって開閉するシャッターを設けるようにした請求項3記載のスライム吸引硬化材注入装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−45836(P2006−45836A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−226353(P2004−226353)
【出願日】平成16年8月3日(2004.8.3)
【出願人】(599038075)有限会社タック (4)
【出願人】(392012261)東興建設株式会社 (28)
【出願人】(391051049)株式会社エステック (28)
【出願人】(000128027)株式会社エヌ・アイ・ティ (18)
【Fターム(参考)】