説明

スラグ鍋からの鉄鋼スラグ排出方法

【課題】スラグ鍋内に残留した鉄鋼スラグをスラグ鍋から排出する際に、スラグ鍋の内面に凸凹や亀裂等の損傷を生じさせず、また、作業時に大きな騒音が発生することもないようにする。
【解決手段】スラグ鍋1の内に残留した鉄鋼スラグ2をスラグ処理場でスラグ鍋1から排出する方法である。スラグ処理場までスラグ鍋1を搬送するスラグ鍋台車を傾動してスラグ鍋1から鉄鋼スラグ2を排出する際に、前記傾動位置でスラグ鍋1を揺動させる。
【効果】重機等で掻き出さなくても、スラグ鍋内に残留した鉄鋼スラグも排出できるので、スラグ鍋の内面に凸凹や亀裂等の損傷が生じず、スラグ鍋の損耗を抑制できる。また、スラグ鍋の内面に破砕具等が接触しないので、作業時の騒音も低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラグ鍋内に残留した鉄鋼スラグをスラグ鍋から排出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製銑及び製鋼工程において発生する溶融状態の鉄鋼スラグは、スラグ鍋に注入して製鉄所内のスラグ処理場まで移送した後、スラグ鍋台車を傾動してスラグ鍋から排出している。この排出に際し、スラグ鍋の傾動により排出できず、スラグ鍋内に残留固化した高温の鉄鋼スラグは、重機等を用いて正面側から掻き出していた。
【0003】
しかしながら、スラグ鍋内に残留固化した高温の鉄鋼スラグを、重機を用いて掻き出す場合、正面側での作業になるため、排出された鉄鋼スラグが重機側に崩れた場合は重機で火災が発生する危険性がある。重機の火災に至らない場合であっても、乗務員が火傷する危険性がある。また、排出した位置に水があると、水蒸気爆発が起こる危険性もある。
【0004】
このような危険をなくすには、高温の鉄鋼スラグの全量を常温まで冷却することになる。
【0005】
しかしながら、スラグ鍋の大きさによって時間は異なるものの、固化して常温になるまでの冷却には8時間程度が必要で、その冷却中はスラグ鍋を運用して次の鉄鋼スラグを受滓することができないので、運転効率が低下する。実際には、予備のスラグ鍋台車を運用することになるが、予備のスラグ鍋台車の数にも限りがあるため、運転効率は高い方が良いことは言うまでもない。
【0006】
また、掻き出し作業によってスラグ鍋の内面が損傷するため、補修が必要になる。この補修期間中は、スラグ鍋設備を運用することができないので、設備の余裕を減少する要因のひとつになる。
【0007】
前述の問題を解決するものとして、例えば特許文献1には、転炉スラグ鍋を傾転させても鍋外へ排出されずに鍋内に付着した転炉スラグを、遠隔操作でスラグ鍋内を任意に移動するアームと、振動機構を設けた鉄製の硬い破砕具により破砕して除去する方法が記載されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された方法は、破砕具でスラグ鍋内面に打撃を加えるため、スラグ鍋の内面に凸凹や亀裂等の損傷が生じ、スラグ鍋の損耗を防止することができないという問題がある。また、スラグ鍋の内面に破砕具が接触するため、作業時に大きな騒音が発生するという環境上の問題もある。
【0009】
また、特許文献2には、排滓鍋内に付着した大きな残滓を、クレーンに取付けられた付着滓排出設備によって排出する方法が記載されている。
【0010】
しかしながら、特許文献2に記載された方法も、排滓鍋内面に付着滓除去装置を挿入して打撃を加えるため、特許文献1に記載された方法と同様の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平5−45072号公報
【特許文献2】特開平5−45073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする問題点は、従来方法でスラグ鍋内に残留固化した鉄鋼スラグをスラグ鍋から排出する場合、スラグ鍋の内面に凸凹や亀裂等の損傷が生じ、スラグ鍋の損耗を防止することができず、また、作業時に大きな騒音が発生するという点である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のスラグ鍋からの鉄鋼スラグ排出方法は、
スラグ鍋内に残留した鉄鋼スラグをスラグ鍋から排出する際に、スラグ鍋の内面に凸凹や亀裂等の損傷を生じさせず、また、作業時に大きな騒音が発生することもないようにするために、
スラグ鍋内に残留した鉄鋼スラグをスラグ処理場でスラグ鍋から排出する方法であって、
スラグ処理場まで前記スラグ鍋を搬送するスラグ鍋台車を傾動してスラグ鍋から鉄鋼スラグを排出する際に、前記傾動位置でスラグ鍋を揺動させることを最も主要な特徴としている。
【0014】
本発明では、スラグ処理場までスラグ鍋を搬送するスラグ鍋台車を傾動してスラグ鍋から鉄鋼スラグを排出する際に、前記傾動位置でスラグ鍋を揺動させるだけで、重機等で掻き出さなくても、スラグ鍋内に残留した鉄鋼スラグも排出することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、スラグ鍋内に残留した高温の鉄鋼スラグを常温まで冷却することなく、可能な限り高温状態のまま、危険な正面側から重機等で掻き出さずに、簡単な設備で安全に排出できる。また、重機等で掻き出さないので、スラグ鍋の内面に凸凹や亀裂等の損傷が生じず、スラグ鍋の損耗を抑制できる。また、スラグ鍋の内面に破砕具等が接触しないので、作業時の騒音も低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)はスラグ鍋からの鉄鋼スラグを排出する際の発明例の概略説明図、(b)は同じく比較例の概略説明図である。
【図2】スラグ排出率の騒音への影響を調査した結果を示した図で、従来例、比較例発明例1〜4の振幅と排滓率、騒音値の関係を示した図である。
【図3】スラグ排出率の騒音への影響を調査した結果を示した図で、従来例、比較例発明例5〜8の周波数と排滓率、騒音値の関係を示した図である。
【図4】スラグ排出率の騒音への影響を調査した結果を示した図で、従来例、比較例発明例8〜13の排出率と騒音値を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、スラグ鍋内に残留した鉄鋼スラグをスラグ鍋から排出する際に、スラグ鍋の内面に凸凹や亀裂等の損傷を生じさせず、また、作業時に大きな騒音が発生することもないようにするという目的を、スラグ鍋台車の傾動位置でスラグ鍋を揺動させることで実現した。
【実施例】
【0018】
以下、本発明のスラグ鍋からの鉄鋼スラグ排出方法を説明する。
本発明は、スラグ鍋内に残留固化した高温の鉄鋼スラグを、重機等を用いて掻き出す作業を実施することなく、スラグ鍋から排出する方法に関するものである。
【0019】
先に説明したように、製銑および製鋼工程にて発生する鉄鋼スラグは、スラグ鍋を傾動して排出できなかった場合、鉄鋼スラグを常温まで冷却固化した後に製鉄所内のスラグ処理場まで移送し、重機を使用してスラグ鍋から排出している。
【0020】
このスラグ鍋を傾動して鉄鋼スラグを排出する際に、本発明では、排出後に実施する散水作業で水蒸気爆発による危険をなくすために800℃まで冷却した鉄鋼スラグを内部に有するスラグ鍋を傾動させた位置で揺動させることを主要な特徴としているのである。
【0021】
このような本発明では、スラグ鍋の内部に残留した高温の鉄鋼スラグを、重機等を用いて正面側から掻き出すことなく排出することができる。その際、傾動したスラグ鍋の背面側から揺動することで、高温の鉄鋼スラグが排出される危険な正面側を避けて作業することができ、作業の安全を確保できる。
【0022】
また、本発明では、スラグ鍋の内部に残留した高温の鉄鋼スラグの重機等を用いた掻き出し作業がないので、スラグ鍋の内面の損傷が低減されてスラグ鍋の補修コストが低減するのと共に前記掻き出し作業時に発生する打撃音等の騒音も低減する。
【0023】
さらに、本発明では、正面側からの掻き出し作業を必要としないので、スラグ鍋の内部の鉄鋼スラグを常温まで冷却しなくても、スラグ鍋から排出することができ、冷却時間の短縮が可能となって、スラグ鍋台車の運転効率に余力を持たせることができる。そして、設備余力が生まれることにより、スラグ鍋台車の設備投資コストを抑制することもできる。
【0024】
前記本発明において、スラグ鍋を揺動させるために加える振動の振幅は、10mm以上、100mm未満とすることが望ましい。10mm未満では振幅が小さいために固着した鉄鋼スラグを排出できない場合があり、100mmを超える場合は振幅が大きいために打撃を加えた場合と同様の騒音が発生するためである。
【0025】
また、スラグ鍋を揺動させるために加える振動の周波数は、10Hz以上、40Hz以下が望ましい。10Hz未満では周波数が低いために固着した鉄鋼スラグを排出できない場合があるからである。一方、40Hzを超える場合は周波数が高いために打撃を加えた場合と同様の騒音が発生するためである。
【0026】
また、本発明において、スラグ鍋を揺動させるために加える振動は、打撃や掻き出しの場合のような間欠的な力を加えるのではなく、振動発振機等を対象物に接触させたまま連続的な力を加えてスラグ鍋を揺動させるものであり、振動を加えてスラグ鍋を揺動させることでスラグ鍋から鉄鋼スラグを排出する必要がある。
【0027】
スラグ鍋を揺動させる方法は、特に限定されないが、例えば重機の先端に、地固め機に採用される振動発振機を取付け、スラグ鍋の背面から接触させることでスラグ鍋に振動を加えて揺動させる方法や、スラグ鍋台車に直接振動発振機を取付けてスラグ鍋に振動を加えて揺動させる方法が考えられる。また、軌条上のスラグ鍋台車を軌条と一緒に正逆転させることによりスラグ鍋台車全体に振動を加えて揺動させる方法でもよい。
【0028】
なお、前記地固め機に採用される振動発振機は、油圧モータにより一対の偏心ロータを高速回転させ、垂直方向は左右のロータの遠心力を合成し、水平方向の遠心力は左右のロータで相殺して横振動が発生しない構成の起振部で生じた振動を転圧板に伝える構成である。
【0029】
前記本発明において、スラグ鍋内に溶融状態の鉄鋼スラグを注入する前に、予めスラグ鍋内に粒度調整された粒状の鉄鋼スラグを敷詰めて、スラグ鍋の内面に溶融状態の鉄鋼スラグが直接触れないようにすれば、冷却時における鉄鋼スラグとスラグ鍋の固着を防止することができる。従って、鉄鋼スラグの排出が良好になって、排出作業に要する時間を短縮することができる。
【0030】
この本発明において、予めスラグ鍋内に敷詰める鉄鋼スラグは、粒径が10mm以上、200mm以下であることが望ましく、100mm以下がより望ましい。粒径が200mmを超える場合は、鉄鋼スラグが大きすぎるためにスラグ鍋の内面と溶融した鉄鋼スラグが直接触れる部分を減らすことができず、冷却時における鉄鋼スラグとスラグ鍋の固着を防止することができないからである。一方、粒径が10mm未満の場合は鉄鋼スラグを破砕整粒する工程が複雑になってコスト悪化につながること、スラグ鍋内に敷詰める際に発塵が著しく環境上の問題が発生するためである。
【0031】
また、前記本発明において、スラグ鍋内に溶融状態の鉄鋼スラグを注入する前に、予めスラグ鍋内に粉状の消石灰又は石灰石のスラリーを塗布して、スラグ鍋の内面に溶融状態の鉄鋼スラグが直接触れないようにしても、冷却時における鉄鋼スラグとスラグ鍋の固着を防止でき、鉄鋼スラグの排出が良好になって、排出作業に要する時間を短縮できる。
【0032】
この本発明において、予めスラグ鍋内に塗布する消石灰又は石灰石のスラリーは、粒径が3mm以下であることが望ましく、1mm以下がより望ましい。粒径が3mmを超える場合は、消石灰又は石灰石の粒子が大きすぎるためスラグ鍋の内面に付着しにくく、溶融した鉄鋼スラグが直接触れる部分を減らすことができず、冷却時における鉄鋼スラグとスラグ鍋の固着を防止することができないからである。また、スラリー濃度(=100×[(消石灰又は石灰石)/{(消石灰又は石灰石)+水}]%)は、塗布された消石灰又は石灰石の付着量を増加させる点から5%以上が望ましく、スラリー輸送配管内での詰まり発生を防止する点から20%以下が望ましい。さらに、次工程でスラグ鍋内に溶融状態の鉄鋼スラグを注入する際に、スラリー塗布後の残留水分による水蒸気爆発の危険をなくすため、鉄鋼スラグを排出した直後に塗布することが望ましく、スラリー塗布時の鍋の温度は300℃以上であることが望ましい。
【0033】
また、本発明において、スラグ鍋内に溶融状態の鉄鋼スラグを注入する際に、スラグ鍋を揺動させた状態で注入するようにしても、スラグ鍋内への鉄鋼スラグの残留固着を防止することができ、鉄鋼スラグの排出が良好になる。
【0034】
また、スラグ鍋内に溶融状態の鉄鋼スラグを注入する前に、予めスラグ鍋内に粒度調整された粒状の鉄鋼スラグを敷詰めておいた後、或いは、粉状の消石灰又は石灰石のスラリーを塗布した状態で、スラグ鍋内に溶融状態の鉄鋼スラグを注入する際に、スラグ鍋を揺動させた状態で注入すれば、鉄鋼スラグの排出がさらに良好になる。
【0035】
以下に、本発明の効果を確認するために行った試験結果について説明するが、これは本発明の一例であって、内容を限定するものではない。
【0036】
下記表1に試験条件を、図1にスラグ排出試験の概略を示す。なお、試験は容量が50トンのスラグ鍋に40トンの鉄鋼スラグを注入して行った。
【0037】
【表1】

【0038】
表1中の従来例は、スラグ鍋内に溶融状態の鉄鋼スラグを注入し、鉄鋼スラグが冷却固化した後(約800℃)にスラグ鍋を傾動したものである。
【0039】
また、比較例は、図1(b)に示すように、スラグ鍋1の内に溶融状態の鉄鋼スラグ2を注入し、鉄鋼スラグ2が冷却固化した後(約800℃)にスラグ鍋1を傾動させ、スラグ鍋1の背面から重機3に取付けた鉄製の硬い破砕具4で打撃を加えたものである。
【0040】
一方、発明例1〜7は、図1(a)に示すように、スラグ鍋1の内に溶融状態の鉄鋼スラグ2を注入し、鉄鋼スラグ2が約800℃になるまで冷却した後にスラグ鍋2を傾動させてスラグ鍋2を揺動させたものである。スラグ鍋1の揺動は、重機3の先端に取付けた振動発振機5をスラグ鍋1の背面から接触させてスラグ鍋1に振動を加えることにより行った。
【0041】
予めスラグ鍋内に、発明例8は粒径が200mm以下、発明例9は粒径が100mm以下の粒状の鉄鋼スラグを敷詰めた後に溶融状態の鉄鋼スラグを注入し、鉄鋼スラグが約800℃になるまで冷却した後にスラグ鍋を傾動させてスラグ鍋を揺動させたものである。スラグ鍋を揺動させる方法は、発明例1〜7と同じである。
【0042】
発明例10は、スラグ鍋内に振動を加えて揺動させながら溶融状態の鉄鋼スラグを注入し、約800℃になるまで冷却した後にスラグ鍋を傾動させた状態でスラグ鍋を揺動させたものである。スラグ鍋を揺動させる方法は、発明例1〜7と同じである。
【0043】
発明例11は、予めスラグ鍋内に粒径が200mm以下の粒状の鉄鋼スラグを敷詰めた後に、スラグ鍋に振動を加えて揺動させながら溶融状態の鉄鋼スラグを注入し、約800℃になるまで冷却した後にスラグ鍋を傾動させた状態でスラグ鍋を揺動させたものである。スラグ鍋を揺動させる方法は、発明例1〜7と同じである。
【0044】
発明例12は、予めスラグ鍋内に粒径が3mm以下の粉状の消石灰を濃度10%に調整したスラリーを塗布した後に、溶融状態の鉄鋼スラグを注入し、鉄鋼スラグが約800℃になるまで冷却した後にスラグ鍋を傾動させてスラグ鍋を揺動させたものである。スラグ鍋を揺動させる方法は、発明例1〜7と同じである。
【0045】
発明例13は、予めスラグ鍋内に粒径が3mm以下の粉状の消石灰を濃度10%に調整したスラリーを塗布した後に、スラグ鍋に振動を加えて揺動させながら溶融状態の鉄鋼スラグを注入し、約800℃になるまで冷却した後にスラグ鍋を傾動させた状態でスラグ鍋を揺動させたものである。スラグ鍋を揺動させる方法は、発明例1〜7と同じである。
【0046】
前記従来例、比較例、発明例1〜13の試験結果を下記表2及び図2〜図4に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表2及び図2〜4に示す、スラグ鍋からの鉄鋼スラグの排出時の排滓率は次式に示す計算により行った。また騒音は、10m地点における近接騒音測定にて行った。
【0049】
排滓率(%)=(試験期間中の各条件において約800℃に冷却した後の鉄鋼スラグがスラグ鍋から排出された台数/試験期間中の各条件におけるスラグ鍋の台数の合計)×100
前記式中における「鉄鋼スラグがスラグ鍋から排出された」か否かは目視判断により行った。
【0050】
表2及び図2〜図4に示した試験結果より、従来例、比較例に比べて、本発明では以下の効果が得られることが判明した。
【0051】
従来例では、スラグ鍋の背面から破砕具で打撃を加えたり、スラグ鍋内に残留固化した鉄鋼スラグを掻き出す作業がないので、排出作業時の騒音は65.0dBであったが、その反射としてスラグ鍋からの鉄鋼スラグの排滓率は6.0%であった。
【0052】
また、比較例では、スラグ鍋の背面から破砕具で打撃を加えることで、84.0%の排滓率を確保できたが、その反射として排出作業時の騒音は108.0dBであった。また、スラグ鍋の背面から破砕具で打撃を加えたので、スラグ鍋の外側が凹、内側が凸になって、鍋内面が滑らかなお椀形ではなくなる損傷が見られた。このような変形が著しくなるとヒョウタン型となって、くびれ部の影響でスラグの排出が阻害されることになる。また、打撃を加えるためスラグ鍋に亀裂が生じる場合もある。亀裂が生じた場合は、スラグ鍋を修理(溶断、研削、肉盛等)する必要があり、補修費用がかかるため粗鋼の製造コストが悪化する。
【0053】
すなわち、従来例は排滓率の点から、比較例は騒音の点で、満足できる排出方法とは言えなかった。
【0054】
これに対して、発明例1〜13の場合は、傾動位置でスラグ鍋を揺動させることで、何れも70%以上の排滓率を確保でき、良好な鉄鋼スラグ排出効果が得られた。また、傾動位置でスラグ鍋を揺動させるだけであるため、排出作業時の騒音は何れの場合も100dB以下であり、スラグ鍋にも損傷は見られなかった。
【0055】
さらに、発明例1〜13の場合は、 鉄鋼スラグを常温まで冷却する必要がないため、冷却時間の短縮が可能となり、スラグ鍋台車の運転効率に余力を持たせることができた。
【0056】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0057】
例えば上記の例では、振動発振機として、地固め機に採用される振動発振機を採用したものを示したが、傾動位置でスラグ鍋を揺動させるものであれば、他の振動発振機を採用しても良い。また、同様に振動発振機の振幅や周波数も試験で実施したものに限らない。
【符号の説明】
【0058】
1 スラグ鍋
2 鉄鋼スラグ
3 重機
4 破砕具
5 振動発振機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラグ鍋内に残留した鉄鋼スラグをスラグ処理場でスラグ鍋から排出する方法であって、
スラグ処理場まで前記スラグ鍋を搬送するスラグ鍋台車を傾動してスラグ鍋から鉄鋼スラグを排出する際に、前記傾動位置でスラグ鍋を揺動させることを特徴とするスラグ鍋からの鉄鋼スラグ排出方法。
【請求項2】
スラグ鍋内に溶融状態の鉄鋼スラグを注入する際、予めスラグ鍋内に粒状の鉄鋼スラグを敷詰めた状態で、溶融状態の鉄鋼スラグを注入することを特徴とする請求項1に記載のスラグ鍋からの鉄鋼スラグ排出方法。
【請求項3】
スラグ鍋内に溶融状態の鉄鋼スラグを注入する際、予めスラグ鍋内に粉状の消石灰又は石灰石のスラリーを塗布した状態で、溶融状態の鉄鋼スラグを注入することを特徴とする請求項1に記載のスラグ鍋からの鉄鋼スラグ排出方法。
【請求項4】
スラグ鍋内に溶融状態の鉄鋼スラグを注入する際、スラグ鍋を揺動させた状態で溶融状態の鉄鋼スラグを注入することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のスラグ鍋からの鉄鋼スラグ排出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−44034(P2013−44034A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183803(P2011−183803)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】