説明

スラリー吐出装置及びスラリーの吐出方法

【課題】吐出孔に残留スラリーが生じることを抑制することができるスラリー吐出装置を提供すること。
【解決手段】その内部に空洞4を有する第一の部材2と、空洞4と連通する吐出孔5がその内部に形成された複数の凸部6を有する第二の部材3と、を備え、凸部6の突出長さdが3〜5mmであり、隣接する凸部6どうしの中心間距離lが3〜13mmであるスラリー吐出装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスラリー吐出装置及びスラリーの吐出方法に関し、更に詳しくは、吐出孔に残留スラリーが生じることを抑制することができるスラリー吐出装置、及びスラリー残留量を低減し、吐出したスラリーの液面を種々の形状に精度良く形成することができるスラリーの吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排ガスや廃棄物の焼却時に発生する焼却排ガス等に含まれる、塵やその他の粒子状物質を捕集するため、セラミックスからなるハニカムフィルタが使用されている。特に、内燃機関から排出されるスート等の粒子状物質(以下、「PM」ともいう)を効率的に除去するために、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、「DPF」ともいう)が使用されている。
【0003】
DPFには、通常、粒子状物質の捕集効果を高めるために、セルの一方の端面と他方の端面に相補的な市松模様を呈するように目封止が施されている(例えば、特許文献1参照)。このような目封止は、焼成前のDPFの端面に粘着シート等を貼着し、画像処理を利用したレーザー加工等により、粘着シート等の目封止すべきセルに対応する部分にのみ孔開けをしてマスクを施し、そのマスクを介してスラリー中に浸漬した後、焼成することで形成している(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
目封止すべきセルに充填されるスラリーの深さは、均一であることが好ましい。これは、焼成する際に、部分的な収縮が生じることを抑制することができ、DPFの劣化を抑制することができるからである。スラリーを均一な深さで目封止すべきセルに充填させるために、浸漬するために用いられるスラリーの液面は、一定の高さで平面状に形成することが好ましい。
【0005】
しかしながら、浸漬するために用いられるスラリーの液面は、ロクロを用いて平面状に形成していたため、使用者の技能によって差が生じていた。そこで、スラリーの液面を、ロクロを用いずに一定の高さで平面状に形成することができるスラリー吐出装置が開発されている。
【0006】
【特許文献1】特開2007−296512号公報
【特許文献2】特開2001−300922号公報
【0007】
図3は、従来のスラリー吐出装置を用いてスラリーを吐出した状態の一例を示す模式図である。図3に示すように、スラリー吐出装置20を用いると、吐出孔5に残留スラリー21が生じる場合が多くあった。このような残留スラリー21が生じると、次に使用する際に、スラリーの物性に影響を及ぼし、DPFを劣化させるという問題がある。また、DPFは中心部と外周部でその圧力損失が異なる場合が多いため、セルに充填されたスラリーの深さを中心部と外周部で異なるようにして形成した目封止を有するDPFを製造する必要もある。従来の吐出装置21では、このような問題に対応することができなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、吐出孔に残留スラリーが生じることを抑制することができるスラリー吐出装置を提供することにある。また、その課題とするところは、スラリー残留量を低減し、吐出したスラリーの液面を種々の形状に精度良く形成することができるスラリーの吐出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、吐出孔がその内部に形成された所定の長さ及び間隔の凸部を第二の部材に有することによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。また、本発明のスラリー吐出装置を使用し、平面と凸部の突出端とを所定の距離隔ててスラリーを吐出することによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明によれば、以下に示すスラリー吐出装置及びスラリーの吐出方法が提供される。
【0011】
[1]その内部に空洞を有する第一の部材と、前記空洞と連通する吐出孔がその内部に形成された複数の凸部を有する第二の部材と、を備え、前記凸部の突出長さが3〜5mmであり、隣接する前記凸部どうしの中心間距離が3〜13mmであるスラリー吐出装置。
【0012】
[2]前記第二の部材の外周部における前記凸部の内部に形成された前記吐出孔の孔径と、前記第二の部材の中心部における前記凸部の内部に形成された前記吐出孔の孔径が、非同一である前記[1]に記載のスラリー吐出装置。
【0013】
[3]前記第二の部材の外周部における前記凸部の内部に形成された前記吐出孔の孔径が、前記第二の部材の中心部における前記凸部の内部に形成された前記吐出孔の孔径に比して大きい前記[1]又は[2]に記載のスラリー吐出装置。
【0014】
[4]前記吐出孔の孔径が、前記第二の部材の中心部から外周部に向かって連続的に拡大又は縮小する前記[1]又は[2]に記載のスラリー吐出装置。
【0015】
[5]前記第二の部材の外周部における吐出方向の長さと、前記第二の部材の中心部における吐出方向の長さが、非同一である前記[1]〜[4]のいずれかに記載のスラリー吐出装置。
【0016】
[6]前記第二の部材の外周部における吐出方向の長さが、前記第二の部材の中心部における吐出方向の長さに比して短い前記[1]〜[5]のいずれかに記載のスラリー吐出装置。
【0017】
[7]前記第二の部材の吐出方向の長さが、前記第二の部材の中心部から外周部に向かって連続的に伸張又は短縮する前記[1]〜[5]のいずれかに記載のスラリー吐出装置。
【0018】
[8]前記[1]〜[7]のいずれかに記載のスラリー吐出装置の前記空洞にスラリーを充填する充填工程と、平面を有する容器の前記平面の上方に、前記平面と前記凸部の突出端とを3〜10mmの距離に隔てた状態で前記凸部の突出端を対向させるとともに、前記スラリーを前記平面上に吐出する吐出工程と、を有するスラリーの吐出方法。
【0019】
[9]前記吐出工程が、前記平面上に吐出したスラリーを、前記平面上に1〜10mmの高さで保持する工程である前記[8]に記載のスラリー吐出方法。
【0020】
[10]前記スラリーの粘度が、10〜1000dP・sである前記[8]又は[9]に記載のスラリーの吐出方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明のスラリー吐出装置は、吐出孔に残留スラリーが生じることを抑制することができるという効果を奏するものである。
【0022】
また、本発明のスラリーの吐出方法によれば、スラリー残留量を低減し、吐出したスラリーの液面を種々の形状に精度良く形成することができるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0024】
1.スラリー吐出装置
図1は、本発明のスラリー吐出装置の一実施形態を示す模式図である。図1に示すように、本実施形態のスラリー吐出装置1は、その内部に空洞4を有する第一の部材2と、空洞4と連通する吐出孔5がその内部に形成された複数の凸部6を有する第二の部材3と、を備えている。図1に示すようなスラリー吐出装置1を用いると、スラリーは第一の部材2の導入孔7から空洞4に充填した後、空洞4から第二の部材3のそれぞれの吐出孔5へ均等に流入し、凸部6から吐出される。
【0025】
また、図2は、本発明のスラリー吐出装置の一実施形態を示す底面図である。図2に示すように、本実施形態のスラリー吐出装置1は、第一の部材2と、吐出孔がその内部に形成された複数の凸部6を有する第二の部材3と、を備えている。図2において、第二の部材3の形状は円形であるが、本発明のスラリー吐出装置において、第二の部材の形状は特に限定されるものではなく、その目的に応じて適宣設計することができる。例えば、吐出したスラリーをDPFの目封止に使用する場合、DPFの外形状に適合するように設計することが好ましい。より具体的には、円形、楕円形、四角形等の形状に設計することができる。
【0026】
1.1 第一の部材
第一の部材2は、その内部に空洞4を有するものである。空洞4の大きさは、充填させるスラリーが均等に第二の部材3の吐出孔5に流入可能な大きさであれば良い。なお、図1において、スラリーを空洞4に充填させる導入孔7は、第一の部材2の上方に形成されているが、本発明のスラリー吐出装置はこの位置に限定されるものではなく、スラリーが均等に第二の部材3の吐出孔5に流入可能な限り、任意の位置に形成しても良い。
【0027】
1.2 第二の部材
第二の部材3は、空洞4と連通する吐出孔5がその内部に形成された複数の凸部6を有するものであり、凸部6の突出長さd及び隣接する凸部6どうしの中心間距離lが所定の値をとるものである。このような凸部6を有することで、吐出孔5からスラリーを吐出させた場合に、吐出孔5に残留スラリーが生じることを抑制することができる。
【0028】
凸部6の突出長さdは、3〜5mmであり、3.5mm以上、5mm未満であることが好ましく、4mm以上、5mm未満であることが更に好ましい。突出長さdがこの範囲外であると、スラリー吐出装置1に残留するスラリーの量が多くなる場合がある。また、図1においては、凸部6の突出長さdは全て同一であるが、本発明のスラリー吐出装置はこれに限定されるものではなく、第二の部材3の外周部における吐出長さと、第二の部材3の中心部における吐出長さが、非同一であっても良い。例えば、中心部から外周部に向かって等間隔で短縮、又は伸長する、といったようにしても良い。尚、本明細書中、第二の部材の外周部とは、吐出したスラリーの最外周からその5mm内側までの領域をいう。また、第二の部材の中心部とは、中心から半径で50mm以内の領域をいう。
【0029】
隣接する凸部6どうしの中心間距離lは、3〜13mmであり、4〜12mmであることが好ましく、6〜10mmであることが更に好ましい。中心間距離lがこの範囲外であると、スラリー吐出装置1に残留するスラリーの量が多くなったり、スラリーの液面を種々の形状に精度良く形成することができなくなったりする場合がある。尚、中心間距離lは第二の部材3の底面全体に亘って均一であることが好適であるが、目的に応じて、中心部を短くしたり、外周部を短くしたりする等、任意の設定が可能である。中心間距離lを均一としない場合には、吐出孔5全体の30%以上が上述の範囲内となっていることが必要であり、50%以上が上述の範囲内となっていることが好ましく、全てが上述の範囲内となっていることが最も好ましい。
【0030】
中心間距離は上述の範囲内であれば、第二の部材の外周部における中心間距離と第二の部材の中心部における中心間距離が、非同一であっても良く、第二の部材の外周部における中心間距離が、第二の部材の中心部における中心間距離に比して長いことがより好ましい。このように中心間距離を任意に設定することは、吐出したスラリーの液面の形状を精度良く好適に形成するのに利用することができる。
【0031】
図1においては、吐出孔5の孔径が、第二の部材3の中心部から外周部に向かって一定である例を示しているが、本発明のスラリー吐出装置はこれに限定されるものではなく、第二の部材の外周部における凸部の内部に形成された吐出孔の孔径と、第二の部材の中心部における凸部の内部に形成された吐出孔の孔径が、非同一であっても良い。より具体的には、図4Aに示すように、第二の部材33の外周部における凸部36の内部に形成された吐出孔35の孔径が、第二の部材33の中心部における凸部38の内部に形成された吐出孔37の孔径に比して大きい例や、図4Bに示すように、第二の部材43の外周部における凸部46の内部に形成された吐出孔45の孔径が、第二の部材の中心部における凸部48の内部に形成された吐出孔47の孔径に比して小さい例を挙げることができる。このように吐出孔の孔径を変化させる結果、大孔径部分はスラリーを多く吐出させ、小孔径部分は少なく吐出させることができる。従って、例えば、吐出したスラリーをDPFの目封止に使用する場合、用途上の応用例として、排ガス流量が大きい中心部はスラリーを多く吐出させて目封止を強固に配設することができる。また、製造上の応用例としては、第一の部材2の形状故に外周部に吐出圧力がかかり難い傾向がある場合には、外周部を相対的に大孔径として中心部とのバランスを図ることもできる。
【0032】
また、図6Aに示すように、吐出孔75の孔径を、第二の部材73の中心部から外周部に向かって連続的に拡大しても良い。あるいは図7Bに示すように、吐出孔85の孔径は、第二の部材83の中心部から外周部に向かって連続的に縮小しても良い。このように、吐出孔の孔径を、第二の部材の中心部から外周部に向かって連続的に拡大又は縮小することで、スラリーの液面を平面状に形成するのではなく、例えば、凸状や凹状等、種々の形状に精度良く形成することができる。
【0033】
吐出孔の形状は特に限定されるものではなく、例えば、円形・四角形・三角形等がある。例えば円形と同等のぬれ縁長さを有する多角形の吐出孔を用いることにより、円形のと出孔で吐出した際と同等の品質を得られる。吐出孔の配列(即ち、凸部の配列)も特に限定されるものではなく、ランダム状に配置する、放射状に配置する、碁盤の目状に配置する等、任意に適宣選択して配置することができる。これらの中でも、吐出孔の間隔(即ち、中心間距離l)を制御し易い等の観点で、碁盤の目状に配置することが好ましい。
【0034】
図1においては、第二の部材3の吐出方向の長さfが、第二の部材3の中心部から外周部に向かって一定である例を示しているが、本発明のスラリー吐出装置はこれに限定されるものではなく、例えば図5Aや図5Bに示すように、第二の部材の外周部における吐出方向の長さと、第二の部材の中心部における吐出方向の長さが、非同一であっても良い。より具体的には、図5Aに示すように、第二の部材53の吐出方向の長さfを、第二の部材53の中心部から外周部に向かって連続的に短縮しても良く、あるいは図5Bに示すように、第二の部材63の中心部から外周部に向かって連続的に伸長しても良い。このように吐出方向の長さfを非同一にする結果、流路抵抗に違いが生じ、短い部分はスラリーを多く吐出させ、長い部分は少なく吐出させることができる。従って、例えば、吐出したスラリーをDPFの目封止に使用する場合、用途上の応用例として、排ガス流量が大きい中心部はスラリーを多く吐出させて目封止を強固に配設することができる。また、製造上の応用例としては、第一の部材2の形状故に外周部に吐出圧力がかかり難い傾向がある場合には、外周部の吐出方向の長さfを相対的に短くして中心部とのバランスを図ることもできる。更に、このように第二の部材の吐出方向の長さfを、第二の部材の中心部から外周部に向かって連続的に伸長又は短縮することで、スラリーの液面を平面状に形成するのではなく、例えば、凸状や凹状等、種々の形状に精度良く形成することができる。また、図5Aに示すようなスラリー吐出装置51を用いてスラリーを吐出する際には、その圧力損失を制御することができ、外周部にある吐出孔の内部にスラリーが残留することを更に抑制することができる。
【0035】
2.スラリーの吐出方法
本発明のスラリーの吐出方法は、「1.スラリー吐出装置」に記載のスラリー吐出装置の空洞にスラリーを充填する充填工程と、平面を有する容器の平面の上方に、平面と凸部の突出端とを3〜10mmの距離に隔てた状態で凸部の突出端を対向させるとともに、スラリーを平面上に吐出する吐出工程と、を有する。このような方法でスラリーを吐出することで、スラリー吐出装置に残留するスラリーの量を低減することができ、吐出したスラリーの液面を種々の形状に精度良く形成することができる。
【0036】
図7は、本発明のスラリーの吐出方法の一実施形態によりスラリーを吐出した状態の一例を示す模式図である。なお、図7においては、スラリー吐出装置は図1に示したスラリー吐出装置1を用いているが、本発明のスラリー吐出方法に使用されるスラリー吐出装置はこれに限定されるものではなく、例えば、図4〜6に示したスラリー吐出装置31、41、51、61、71、81を使用しても良い。なお、以下の説明では、図1に記載したスラリー吐出装置1を使用したものとして記載する。
【0037】
図7に示すように、スラリー吐出装置1は、平面11を有する容器10の上方に、平面11と凸部6の突出端12とを所定の距離Wに隔て、凸部6の突出端12を平面11と対向させた状態で配置されている。また、平面11上には、所定の高さTでスラリー13が保持されている。更に、スラリー吐出装置1の吐出孔5には、図3に示すような、残留スラリー21が生じない。
【0038】
2.1 充填工程
充填工程は、スラリー吐出装置1の第一の部材2の内部に存する空洞4にスラリーを充填させる工程である。充填方法は特に限定されるものではなく、例えば、導入孔7から充填するといった方法で行う。
【0039】
スラリーは、少なくともセラミック粉末と、スラリー用分散媒を混練することにより調製することができる。セラミック粉末の種類は特に限定されなく、例えば、炭化珪素粉末やコージェライト粉末等を好適に用いることができる。スラリー用分散媒の好適例としては、アセトン、エタノール、メタノール等の有機溶媒や水等がある。
【0040】
スラリーには、必要に応じて、結合剤、解膠剤等の添加剤を更に加えても良い。結合剤としては、ポリビニルアルコール(PVA)等の樹脂やでんぷん等の多糖類系の材料を用いることができる。また、加熱によってゲル化する特性を有する熱ゲル硬化性の結合剤を併用することがより好ましい。熱ゲル硬化性の結合剤としては、メチルセルロースを好適に用いることができる。
【0041】
スラリーの粘度は、10〜1000dP・sであることが好ましく、50〜500dP・sであることが更に好ましく、100〜300dP・sであることが特に好ましい。粘度が10dP・s未満であると、平面11上に所定の高さTで保持されない場合がある。一方、1000dP・s超であると、吐出したスラリーの液面の形状を種々の形状に精度良く形成できない場合がある。
【0042】
2.2 吐出工程
吐出工程は、スラリー吐出装置1を容器10の平面11の上方に、平面11と凸部6の突出端12とを所定の距離Wに隔てた状態で凸部6の突出端12を対向させるとともに、スラリー吐出装置1の第一の部材2に存する空洞4の内部に充填させたスラリーを吐出孔5から平面11上に吐出する工程である。また、吐出工程は、平面11上に1〜10mmの高さTでスラリー13を保持する工程であることが好ましい。1〜10mmの高さTの範囲内となる様、高さTを測定しながら吐出させる手法も好適であるが、量産工程においてより簡便に所望の高さTを得るには、予め、充填工程においてどれだけの容積のスラリーを充填し、それを吐出すれば所望の高さTを実現できるかを予備調査しておき、スラリーの充填量で制御するという方法をとることもできる。
【0043】
平面11と凸部6の突出端12とを隔てた距離Wは、3〜10mmであり、4〜9mmであることが好ましく、5〜8mmであることが更に好ましい。距離Wがこの範囲外であると、スラリー吐出装置1に残留するスラリーの量が多くなったり、吐出したスラリーの液面形状にばらつきが生じたりする場合がある。
【0044】
平面11上に保持されたスラリー13の高さTは、1〜10mmであることが好ましく、2〜9mmであることが更に好ましく、3〜8mmであることが特に好ましい。高さTが1mm未満であると、スラリー吐出装置1に残留するスラリーの量が多くなる場合がある。一方、10mm超であると、スラリー吐出装置1に残留するスラリーの量が多くなったり、スラリーの液面を種々の形状に精度良く形成することができなくなったりする場合がある。尚、高さTは、容器の内側面にゲージを設けておく、或いはスラリー吐出後にゲージを立てる等の簡便な方法にて、測定可能である。また、スラリーの高さはスラリー吐出直後に測定することとし、吐出したスラリーが吐出されたままの形状をしている場合には、その頂の高さとし、吐出されたままの形状を保持していない場合には、吐出直後の形状で最も高い高さとする。
【0045】
また、スラリー13の高さTと距離Wの関係として、好ましくはT≦Wであり、更に好ましくはT≦0.9Wであり、特に好ましくはT≦0.8Wである。そして、高さTは平面全体に亘って均一(フラット状)である必要はなく、目的に応じて中央部を長くしたり(凸状)、外周部を長くしたり(凹状)等、任意に選択することができる。この場合、少なくとも高さTが上述の範囲を満たしている部分が存在することが必要であり、更に最も高さTが低い部分が上述の範囲を満たしていることが好ましく、何れの部分の高さTも上述の範囲を満たしていることが最も好ましい。なお、スラリー13の高さTは、スラリー吐出装置の吐出長さ、中心間距離、吐出孔の孔径勾配、平面と吐出端の距離により制御することができる。
【0046】
本発明のスラリーの吐出方法を用いて吐出したスラリーは、例えば、ハニカム構造体を目封止するための目封止材として好適に用いることができる。吐出されたスラリーは、従来のものとは異なり、液面を任意の形状に精度良く形成することができる。従って、ハニカム構造体をDPFとして使用する場合に、圧力損失が大きいセルには浅く、圧力損失が小さいセルには深く目封止を充填させる等任意に設定することができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」は、特に断らない限り質量基準である。また、各種物性値の測定方法、及び諸特性の評価方法を以下に示す。
【0048】
[スラリー液面の形状]:容器の平面に吐出したスラリーの液面を、レーザー変位計(商品名「LK−G35」、キーエンス社製)を用いて測定した。1回の吐出について中心部(中心からφ50mm以内)で設定した吐出スラリ−の高さTに対して、高低差バラツキが±0.2mm以内である場合を「バラツキ小」と評価し、±0.2mmより大きい場合を「バラツキ大」と評価した。更に、「バラツキが小」と評価した場合には、中心部と外周部(吐出したスラリーの最外周より5mm内側)での高さTの差が0.3mm未満の場合を「フラット」と評価し、中心部が外周部に比べて0.3〜0.5mm高い場合を「やや凸」と評価し、中心部が外周部に比べて0.5mm以上高い場合を「凸」と評価した。また、中心部が外周部に比べて0.3〜0.5mm低い場合を「やや凹」と評価し、中心部が外周部に比べて0.5mm以上低い場合を「凹」と評価した。
【0049】
[スラリー吐出量の評価]:充填したスラリーと、吐出したスラリーの質量差を電子天秤(商品名「GX−12K」、エーアンドデイ社製)を用いて測定し、5質量%以内である場合を「○」と評価し、5〜8質量%である場合を「△」と評価し、8質量%超である場合を「×」と評価した。
【0050】
[スラリーの粘度(dP・s)]:回転粘度計(商品名「VT−04F」、RION社製)により測定した。
【0051】
(スラリーの調製)
セラミックス粉末を100部、水を50部、メチルセルロースを5部、それぞれ加えて混練することでスラリーを調製した。
【0052】
(実施例1)
本発明のスラリー吐出装置を用い、調製した粘度200dP・sのスラリーを吐出した。より具体的には、図2に示すような底面(吐出孔が碁盤の目並びに配置されている)を有し、図6Aに示すように、凸部76の突出長さdが3mmで一定で、吐出方向の長さfが13mmで一定で、隣接する凸部76どうしの中心間距離lが8mmで一定で、吐出孔75の形状が「円形」であり、スラリー吐出装置71のサイズが20cmであり、吐出孔の孔径71(第二の部材の中心部における吐出孔の孔径が2.0mm)を中心部から外周部に向かって連続的に7/100倍拡大したスラリー吐出装置71を用いて、容器の平面と凸部の突出端との距離Wを5mmと設定し、吐出したスラリーの高さを3mmとし、スラリー液面の形状予定を「フラット」とした条件でスラリーを吐出した。スラリー吐出量の評価は「○」であり、スラリーの液面の形状は「フラット」であり、スラリーの液面のばらつきは小さかった。
【0053】
(実施例2〜16)
表1に記載した条件としたこと以外は、実施例1と同様にしてスラリーを吐出した。評価結果を併せて表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
(実施例17〜32)
表2に記載した条件としたこと以外は、実施例1と同様にしてスラリーを吐出した。評価結果を併せて表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
(比較例1〜12)
表3に記載した条件としたこと以外は、実施例1と同様にしてスラリーを吐出した。評価結果を併せて表3に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
本発明のスラリー吐出方法を用いてスラリーを吐出させた場合は、スラリー吐出装置のサイズ、吐出孔の形状、吐出孔の孔径勾配、凸部の吐出長さに係らず、スラリー吐出量の評価は「○」又は「△」(実施例9,14)であり、中心部でのスラリーの高低差が「バラツキが小」であり、スラリーの液面の形状を所望の形状又はそれに近い形状(実施例9,14)とすることができる。一方、本発明のスラリー吐出方法を用いずにスラリーを吐出させた場合、より具体的には、凸部の突出長さが所望の範囲に無い場合(比較例1〜4)や吐出させたスラリーの高さが短い場合(比較例7)は、スラリー吐出量の評価が「×」である。また、隣接する凸部どうしの中心間距離が所望の範囲に無い場合(比較例5、6)、吐出させたスラリーの高さが高い場合(比較例8)、容器の平面と凸部の突出端との距離が所望の範囲に無い場合(比較例9、10)は、スラリー吐出量の評価が「×」であることに加えて、中心部でのスラリーの高低差が「バラツキが大」であり、スラリーの液面の形状を所望の形状にすることができない。更に、著しく高い又は低い値の粘度のスラリーをと出した場合(比較例5,6)は、スラリー吐出量の評価は「△」であり、中心部でのスラリーの高低差が「バラツキが小」であるが、スラリーの液面の形状を所望の形状にすることができない。
【0060】
(比較例11)
従来のスラリー吐出装置、即ち、凸部が形成されていないスラリー吐出装置を用いてスラリーを吐出させた。従来のスラリー吐出装置を用いてスラリーを吐出した状態の一例を示す模式図を図3に示す。図3からわかるように、従来のスラリー吐出装置を用いると、吐出孔に残留スラリーが生じる場合がある。
【0061】
実施例1と比較例11の結果から、本発明のスラリー吐出装置を用いてスラリーを吐出させることで、吐出孔に残留スラリーが生じることを抑制することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のスラリー吐出装置及びそれを用いたスラリー吐出方法は、DPF等の目封止の配設に経済的かつ効率的に使用することができる。そのため、公害防止等の環境対策、高温ガスからの製品回収等の用途として用いられるフィルタの製造に好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明のスラリー吐出装置の一実施形態を示す模式図である。
【図2】本発明のスラリー吐出装置の一実施形態を示す底面図である。
【図3】従来のスラリーの吐出装置を用いてスラリーを吐出した状態の一例を示す模式図である。
【図4A】本発明のスラリー吐出装置の他の実施形態を示す模式図である。
【図4B】本発明のスラリー吐出装置の更に他の実施形態を示す模式図である。
【図5A】本発明のスラリー吐出装置の更に他の実施形態を示す模式図である。
【図5B】本発明のスラリー吐出装置の更に他の実施形態を示す模式図である。
【図6A】本発明のスラリー吐出装置の更に他の実施形態を示す模式図である。
【図6B】本発明のスラリー吐出装置の更に他の実施形態を示す模式図である。
【図7】本発明のスラリーの吐出方法の一実施形態によりスラリーを吐出した状態の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0064】
1,31,41,51,61,71,81:スラリー吐出装置、2:第一の部材、3,33,43,53,63,73,83:第二の部材、4:空洞、5,55,65,75,85:吐出孔、6,56,66,76,86:凸部、35,45:第二の部材の外周部における吐出孔、36,46:第二の部材の外周部における凸部、37,47:第二の部材の中心部における吐出孔、38,48:第二の部材の中心部における凸部、7:導入孔、d:突出長さ、l:中心間距離、f:吐出方向の長さ、10:容器、11:平面、12:突出端、13:スラリー、W:平面と凸部の突出端との距離、T:スラリーの高さ、20:スラリー吐出装置、21:残留スラリー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その内部に空洞を有する第一の部材と、
前記空洞と連通する吐出孔がその内部に形成された複数の凸部を有する第二の部材と、を備え、
前記凸部の突出長さが3〜5mmであり、
隣接する前記凸部どうしの中心間距離が3〜13mmであるスラリー吐出装置。
【請求項2】
前記第二の部材の外周部における前記凸部の内部に形成された前記吐出孔の孔径と、前記第二の部材の中心部における前記凸部の内部に形成された前記吐出孔の孔径が、非同一である請求項1に記載のスラリー吐出装置。
【請求項3】
前記第二の部材の外周部における前記凸部の内部に形成された前記吐出孔の孔径が、前記第二の部材の中心部における前記凸部の内部に形成された前記吐出孔の孔径に比して大きい請求項1又は2に記載のスラリー吐出装置。
【請求項4】
前記吐出孔の孔径が、前記第二の部材の中心部から外周部に向かって連続的に拡大又は縮小する請求項1又は2に記載のスラリー吐出装置。
【請求項5】
前記第二の部材の外周部における吐出方向の長さと、前記第二の部材の中心部における吐出方向の長さが、非同一である請求項1〜4のいずれか一項に記載のスラリー吐出装置。
【請求項6】
前記第二の部材の外周部における吐出方向の長さが、前記第二の部材の中心部における吐出方向の長さに比して短い請求項1〜5のいずれか一項に記載のスラリー吐出装置。
【請求項7】
前記第二の部材の吐出方向の長さが、前記第二の部材の中心部から外周部に向かって連続的に伸張又は短縮する請求項1〜5のいずれか一項に記載のスラリー吐出装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のスラリー吐出装置の前記空洞にスラリーを充填する充填工程と、
平面を有する容器の前記平面の上方に、前記平面と前記凸部の突出端とを3〜10mmの距離に隔てた状態で前記凸部の突出端を対向させるとともに、前記スラリーを前記平面上に吐出する吐出工程と、を有するスラリーの吐出方法。
【請求項9】
前記吐出工程が、前記平面上に吐出したスラリーを、前記平面上に1〜10mmの高さで保持する工程である請求項8に記載のスラリー吐出方法。
【請求項10】
前記スラリーの粘度が、10〜1000dP・sである請求項8又は9に記載のスラリーの吐出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−104947(P2010−104947A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281337(P2008−281337)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】