説明

スラリー組成物

【課題】長期間保存しても粘度の上昇、沈降分離が起こりにくく分散性の高い安価な黒色無機酸化物スラリーを提供する。
【解決手段】黒色無機酸化物(A)と、アミン価及び酸価を有する水溶性分散剤(B)と、有機溶剤(C)とを含み、水溶性分散剤はアミン価が30mgKOH/g以上かつ酸価が30mgKOH/g以上であり、前記黒色無機酸化物(A)は、スラリー化後の最大一次粒径が1μm以下であるスラリー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色無機酸化物を含むスラリー組成物の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
黒色無機酸化物を含むスラリー組成物は、塗料用、インキ用、トナー用、ゴム・プラスチック用、電子材料用等に広く使用されている。
【0003】
電子材料等の用途では、他の材料との混合が行われやすいように、微粒化された黒色無機酸化物を高濃度に含み、かつ低粘度のスラリーであることが特に要求されている(特許文献1,2)。
【0004】
また、近年、前記黒色無機酸化物を含むスラリーは、さらなる高濃度化の要求が強まっており、スラリーを長期保存しても、粘度の上昇、沈降分離が起こりにくく分散性の高い黒色無機酸化物スラリーの要求が強くなってきた。
【0005】
このような要求に対して、無機酸化物粉末の微粒子スラリーを作製しようとする場合、多量の有機溶剤を用いない限り、スラリー化は困難であり、高濃度の黒色無機酸化物スラリーを得ることは困難であるといった問題を有していた。
【0006】
また、無機酸化物を含有するスラリーを作製する際に、分散剤を添加することによりスラリーの粘度を下げ、機械的せん断力を加えることにより微粒子スラリーとする試みもある。しかしながら、このような試みでは、長期保存した場合、溶剤と無機酸化物粉末が分離したり、スラリーの粘度上昇が起きたりする問題があった。
【特許文献1】特開2005−289653
【特許文献2】特開2006−306710
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、微粒化された黒色無機酸化物を高濃度に含むスラリーであっても、長期間保存による粘度の上昇や、沈降分離が起こりにくい、分散性に優れた安価な黒色無機酸化物スラリーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、微粒化された黒色無機酸化物を分散したスラリー組成物の分散剤として、酸価、アミン価が共に30mgKOH/g以上を有する水溶性の両性系分散剤を用いることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
即ち、上記課題を解決することができる本発明のスラリー組成物は以下のとおりである。
【0010】
(1)黒色無機酸化物(A)と、アミン価及び酸価を有する水溶性分散剤(B)と、有機溶剤(C)とを含み、前記水溶性分散剤(B)はアミン価が30mgKOH/g以上かつ酸価が30mgKOH/g以上であり、前記黒色無機酸化物(A)は、その最大一次粒径が1μm以下であることを特徴とするスラリー組成物。
【0011】
(2)その配合割合は、質量%で、黒色無機酸化物(A)50〜90%と、水溶性分散剤(B)0.1〜25質量%と、有機溶剤(C)1〜49.9質量%とを含むものが望ましい。
【0012】
(3)黒色無機酸化物(A)は、Ni,Co及びMnからなる群から選択された1種類以上の金属を含むことが望ましい。
【0013】
(4)水溶性分散剤は、分散剤の10質量%水溶液が、pH6.0〜10.0であることが好ましい。
【0014】
(5)有機溶剤は、アルコール系、エステル系、及びエーテル系から選択された溶剤の1種類以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、上記のアミン価と酸価を有する水溶性分散剤を用いているので、微粒化された黒色無機酸化物を高濃度に含むスラリーであっても、長期間保存による粘度の上昇や、沈降分離が起こりにくい、分散性が高く安定した、しかも安価な黒色無機酸化物スラリーを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明のスラリー組成物について詳細に説明する。
【0017】
黒色無機酸化物(A)
黒色無機酸化物は、その組成は限定されるものではないが、特にニッケル、コバルト、マンガンのうち少なくとも1種類以上からなる無機酸化物が好ましい。具体的には、四三酸化コバルトや、Ni10〜40重量%、Co10〜70重量%、及びMn10〜70重量%の範囲にあるニッケルコバルトマンガン複合酸化物などが挙げられる。
【0018】
また、本発明では、この黒色無機酸化物は、スラリー化後の最大一次粒径で1μm以下とする必要がある。この理由は、前記黒色無機酸化物のスラリー化後の最大一次粒径が1μmよりも大きくなると黒色無機酸化物含有スラリー中の黒色無機酸化物粉末が沈降分離しやすくなり、長期保存した場合、スラリー中の溶剤と黒色無機酸化物の分離が生じやすくなり、長期安定な分散性の高い黒色無機酸化物スラリーとなりにくいからである。
【0019】
黒色無機酸化物のうち、四三酸化コバルトは、常法に従ってコバルト水酸化物を650度程度で焼成し、焼成後粉砕することにより得られる。
【0020】
ニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、ニッケルコバルトマンガンのオキシ水酸化物もしくは水酸化物を焼成することにより調製することができる。具体的には、原料として、ニッケル、コバルト、マンガンの水溶性塩を用いた金属塩混合水溶液に水酸化アルカリを加え、これを中和することにより得られるニッケルコバルトマンガン水酸化共沈体を用いる。この原料を用いれば任意の組成を原子レベルで均一に分散することができる。次いで、この水酸化共沈体を例えば500℃〜800℃で焼成することによって、このニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得ることができる。この場合、焼成条件等を調節することによりニッケルコバルトマンガン複合酸化物の一次粒径を制御することができる。次いで、上記黒色無機酸化物を、ボールミル、ピンミル、ジェットミル等で粉砕して用いることが出来る。
【0021】
水溶性分散剤(B)
本発明に使用される水溶性分散剤は、酸価、アミン価が共に30mgKOH/g以上である。このような分散剤を用いることにより、分散性の高い長期に安定なスラリーを得ることができる。長期に安定な分散性のためには、共に30mgKOH/g以上であることが必須である。また、酸価、アミン価の一方のみが30mgKOH/g以上で、他方が30mgKOH/g未満の場合、たとえ一方の数値のみを相当量高めても上記の本発明の目的を達成することができない。それらの理由は必ずしも明らかでないが、水溶性分散剤のアミン価或いは酸価の何れかが30mgKOH/g未満であると、黒色無機酸化物スラリーの長期保存時に、スラリー中の溶剤と黒色無機酸化物との間で分離が生じやすくなる為、長期に安定な分散性の高い黒色無機酸化物スラリーとなりにくいと考えられる。
【0022】
また、本発明に用いる分散剤(B)は水溶性のものを用いる。その理由は、分散剤が水溶性でないと、黒色無機酸化物スラリーの長期保存時に、スラリー中の溶剤と黒色無機酸化物との間で分離が生じやすくなり、長期に安定な分散性の高い黒色無機酸化物スラリーとなりにくいからである。
【0023】
また、上記水溶性分散剤(B)は、その10質量%水溶液のpHが6.0〜10.0であることが好ましい。分散剤の10質量%水溶液pHが6.0よりも小さくなると黒色無機酸化物スラリー中の無機酸化物と分散剤が反応することにより、長期保存した場合、スラリー中の無機酸化物の溶解を生ずる可能性がある。一方、分散剤の10質量%水溶液pHが10.0よりも大きくなると黒色無機酸化物スラリーの長期保存時に、スラリー中の溶剤と黒色無機酸化物との間で分離が生じやすくなり、長期に安定な分散性の高い黒色無機酸化物スラリーとならない。
【0024】
このような水溶性分散剤(B)としては、上述した特性を有する両性系分散剤であれば周知のものを用いることが出来、具体的には、Disperbyk-180, Disperbyk-187(いずれもビックケミー社製製、商品名)等が挙げられる。
【0025】
有機溶剤(C)
有機溶剤は、特に限定されるものではないが、アルコール系、エステル系、エーテル系、グリコール系溶剤が好ましく用いられる。例えば、市販のトリプロピレングリコールモノメチルエーテル(日本乳化剤社製)を使用することが可能である。
【0026】
(A)、(B)、(C)の配合割合
(A)、(B)、(C)成分の配合割合は、スラリー全量を100質量部とした場合、黒色無機酸化物(A)を50〜90質量、水溶性分散剤(B)を0.1〜25質量部、有機溶剤(C)を、1〜49.9重量部、好ましくは、黒色無機酸化物(A)を60〜85質量部、水溶性分散剤(B)を0.1〜15質量部、有機溶剤(C)を、10〜39.9質量部である。
【0027】
他の配合成分
本発明の目的を損なわない限り、上記組成物に他の分散剤、添加剤、更には常套的に添加する成分等が含まれても良い。
【0028】
スラリー組成物の製法
本発明の黒色無機酸化物スラリーを製造する方法は、特に限定されるものではないが、粉砕効率が高い湿式分散装置が推奨される。具体的には、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、湿式ジェットミル等に代表される湿式粉砕機が挙げられるが、分散効率、粉砕効率、生産性から考えるとビーズミルがもっとも好ましい。
【0029】
上記黒色無機酸化物スラリーを製造する装置の一例を図1に示す。図1の装置は、ビーズミル(1)、撹拌翼を備えた撹拌機(2)、スラリー槽(3)、スラリー輸送ポンプ(4)より構成された装置である。上記ビーズミルは、黒色無機酸化物スラリー作製時の粉砕により発熱を伴う為、冷却ジャケットを備えたビーズミルであることが好ましい。
【0030】
黒色無機酸化物粉末を、予めスラリー槽(3)で有機溶剤と分散剤を混合した混合溶剤に加え、撹拌することにより予備スラリーとすることが出来る。
【0031】
上記予備スラリーをスラリー輸送ポンプ(4)により、直径0.03〜1mmのビーズを充填率50%〜95%で備え、ローター周速5〜20m/sのビーズミル(1)に輸送し、ビーズミル(1)の出口側からスラリーが排出され、スラリー槽(3)にスラリーが戻る。上記運転を繰り返すことにより循環運転を行い、黒色無機酸化物スラリーを得ることが可能である。
【0032】
粉砕効率は、ビーズミルで使用されるビーズ径と黒色無機酸化物の一次粒径と凝集粒径に依存する。ビーズミルで使用されるビーズ径は、0.03〜1mmで使用可能であるが、より小さいビーズ径の使用が好ましく、0.3mm以下のビーズを使用することが好ましい。
【0033】
ビーズミルで使用されるビーズの材質は、特に限定されるものではなく、ジルコニアビーズ、アルミナビーズ、窒化ケイ素ビーズを使用できるが、粉砕効果、耐磨耗性の観点からジルコニアビーズを使用することが好ましい。
【0034】
得られた黒色無機酸化物スラリーは、異物の除去の観点から、目開き10μm以下、好ましくは、目開き5μm以下のフィルターで処理されることが好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例を示す。以下に、本発明を具体的な実施例及び比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、この実施例において、%は特に言及しない限り質量%を意味する。なお、実施例におけるスラリー化後の黒色無機酸化物の物性等は各々次のようにして測定した。
【0036】
(a)レーザー回折法によるスラリー中の黒色無機酸化物粉末の粒径
アルコール系溶剤(エタノールもしくは、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル)で希釈した黒色無機酸化物スラリーを適量滴下分散後、マイクロトラック9320HRA(×100)(日機装社製)の試料室に希釈溶媒として0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用いて、10〜20分間超音波分散後、黒色無機酸化物スラリー中の黒色無機酸化物粉末の粒径を測定した。尚、得られる粒度分布曲線において、その累積頻度が50%の粒径を意味する平均粒径を平均粒径D50とした。また、累積頻度が100%の粒径を意味する最大粒径を最大粒径D100とした。
【0037】
(b)SEM一次粒径
FE SEM(電界放射型走査型電子顕微鏡)で20,000〜70,000倍の写真を撮影し、200個の一次粒子のフェレー径を測定した。尚、測定した200個の一次粒子のフェレー径の内、最大のものを最大一次粒径とする。また、得られる粒度分布曲線において、その累積頻度が50%の粒径を意味する平均粒径を一次粒径D50とした。
【0038】
(c)黒色無機酸化物スラリーの長期保存後の分散性
黒色無機酸化物スラリー約400gをサンプル容器(直径55mm、高さ95mm)に採取し、室温(25℃)にて30日間サンプル保存後、サンプル容器の上部(液面から10mm)及び底部(底面から10mm)のスラリーをそれぞれ約10gルツボに採取後、600℃で1時間熱処理し、溶剤及び分散剤を加熱除去することにより、サンプル容器の上部及び底部の固形分濃度を求めた。
【0039】
また、黒色無機酸化物スラリーの長期保存後のスラリー濃度分布は(式1)で求めた。
【0040】
(底部固形分濃度−上部固形分濃度)×100/底部固形分濃度 …(式1)
(d)黒色無機酸化物スラリーの長期保存後の粘度安定性
黒色無機酸化物スラリー約400gをサンプル容器(直径55mm、高さ95mm)に採取し、TOKIMEC社製VISCOMETER(型式:B8H)を用いてローター速度100rpm、ローターNo.5の条件で粘度測定を行い、その値を初期粘度とした。
【0041】
また、初期粘度測定後、室温(25℃)にて30日間サンプル保存後、初期粘度測定と同様な測定を行い、その値を保存後粘度とした。また、黒色無機酸化物スラリーの30日保存後の粘度増加率は(式2)で求めた。
【0042】
(保存後粘度−初期粘度)×100/初期粘度 …(式2)
(実施例1)
一次粒子が凝集して二次粒子を形成した球状のコバルト水酸化物を、焼成温度650℃で10時間熱処理し、次いで粉砕することにより、平均粒径D50が0.50μm、最大粒径D100が5.5μmの四三酸化コバルトを得た。
【0043】
得られた四三酸化コバルト15kgを、溶剤2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート5.09kgと分散剤DISPERBYK187(ビックケミー社製)0.21kgの混合溶液に、四三酸化コバルト粉末の凝集した粉末塊が混合溶液中に残らないように撹拌機を用いて1時間撹拌し、予備スラリーを得た。尚、ビーズミルベッセル内及び配管等に溶剤2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレートが1.12kg存在することを確認した。
【0044】
このようにして得られた予備スラリーを、直径0.1mmジルコニアビーズを体積換算で充填率85%充填されたローターの回転周速12m/sビーズミル(アシザワ・ファインテック社製LMZ4型)ヘポンプにて導入して循環、湿式粉砕を行った。レーザー回折法による粒径測定でスラリー粒径が平衡に達したところを終点とした。
【0045】
なお、使用した分散剤の特性(酸価、アミン価、10質量%水溶液pH,水溶性)は表1に示した。以下の実施例及び比較例も同様である。
【0046】
(実施例2)
有機溶剤としてトリプロピレングリコールモノメチルエーテル、分散剤としてDISPERBYK180(ビックケミー社製)を用いたこと以外は、(実施例1)と同様にして黒色無機酸化物スラリーを得た。
【0047】
(実施例3)
ビーズミルのローター回転周速を9.0m/sとしたこと以外は、(実施例2)と同様にして黒色無機酸化物スラリーを得た。
【0048】
(実施例4)
四三酸化コバルト15kgを有機溶剤トリプロピレングリコールモノメチルエーテル4.24kgと分散剤DISPERBYK180(ビックケミー社製)1.07kgの混合溶液で予備スラリーとしたこと以外は、(実施例2)と同様にして黒色無機酸化物スラリーを得た。
【0049】
(実施例5)
四三酸化コバルト15kgを有機溶剤トリプロピレングリコールモノメチルエーテル3.17kgと分散剤DISPERBYK180(ビックケミー社製)2.14kgの混合溶液で予備スラリーとしたこと以外は、(実施例2)と同様にして黒色無機酸化物スラリーを得た。
【0050】
(実施例6)
四三酸化コバルト15kgを有機溶剤トリプロピレングリコールモノメチルエーテル2,09kgと分散剤DISPERBYK180(ビックケミー社製)3.21kgの混合溶液で予備スラリーとしたこと以外は、(実施例2)と同様にして黒色無機酸化物スラリーを得た。
【0051】
(実施例7)
Ni:Co:Mn=10:45:45である組成のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を焼成温度800℃で10時間熱処理し、次いで粉砕することにより得られた、平均粒径D50が1.53μm、最大粒径D100が4.6μmのニッケルコバルトマンガン複合酸化物を用いたこと以外は、(実施例2)と同様にして黒色無機酸化物スラリーを得た。
【0052】
(実施例8)
Ni:Co:Mn=20:20:60である組成のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を焼成温度650℃で10時間熱処理し、次いで粉砕することにより得られた、平均粒径D50が0.62μm、最大粒径D100が3,89μmのニッケルコバルトマンガン複合酸化物を用いたこと以外は、(実施例2)と同様にして黒色無機酸化物スラリーを得た。
【0053】
(実施例9)
Ni:Co:Mn=20:60:20である組成のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を焼成温度650℃で10時間熱処理し、次いで粉砕することにより得られた、平均粒径D50が0.95μm、最大粒径D100が3.89μmのニッケルコバルトマンガン複合酸化物を用いたこと以外は、(実施例2)と同様にして黒色無機酸化物スラリーを得た。
【0054】
(実施例10)
Co:Mn=1:1である組成のコバルトマンガン複合水酸化物を焼成温度700℃で10時間熱処理し、次いで粉砕することにより得られた、平均粒径D50が0.92μm、最大粒径D100が4.6μmのコバルトマンガン複合酸化物を用いたこと以外は、(実施例2)と同様にして黒色無機酸化物スラリーを得た。
【0055】
(比較例1)
四三酸化コバルト15kgを、有機溶剤2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート8.63kgと分散剤DISPERBYK182(ビックケミー社製)0.25kgの混合溶液に、四三酸化コバルト粉末の凝集した粉末塊が混合溶液中に残らないように撹拌機を用いて1時間撹拌して作製した予備スラリーを使用したこと以外は、(実施例1)と同様にして黒色無機酸化物スラリーを得た。
【0056】
(比較例2)
分散剤としてDISPERBYK163(ビックケミー社製)を用いたこと以外は、(実施例2)と同様にして黒色無機酸化物スラリーを得た。
【0057】
(比較例3)
四三酸化コバルト15kgを、有機溶剤トリプロピレングリコールモノメチルエーテル4.67kgと分散剤DISPERBYK185(ビックケミー社製)0.64kgの混合溶液で予備スラリーとしたこと以外は、(実施例2)と同様にして黒色無機酸化物スラリーを得た。
【0058】
(比較例4)
分散剤としてDISPERBYK191(ビックケミー社製)を用いたこと以外は、(実施例2)と同様にして黒色無機酸化物スラリーを得た。
【0059】
(比較例5)
コバルト水酸化物を焼成温度800℃で10時間熱処理し、次いで粉砕することにより、平均粒径D50を1.16μm、最大粒径D100を4.63μmとした四三酸化コバルトを用いたこと以外は、(実施例1)と同様にして黒色無機酸化物スラリーを得た。
【0060】
(比較例6)
四三酸化コバルト15kgを、有機溶剤トリプロピレングリコールモノメチルエーテル4.88kgと分散剤DISPERBYK140(ビックケミー社製)0.43kgの混合溶液で予備スラリーとしたこと以外は、(実施例2)と同様にして黒色無機酸化物スラリーを得た。
【0061】
実施例及び比較例の黒色無機酸化物スラリーの物性値及びスラリー保存特性を表1にまとめる。尚、本発明者は、本スラリー保存試験において、30日間保存後のスラリー濃度分布が50%以下、粘度増加率が250%以下の条件を満足することにより、長期保存特性に優れた黒色無機酸化物スラリーであることを確認している。
【0062】
実施例1では、黒色無機酸化物粉末として四三酸化コバルトを用い、分散剤として酸価が35mgKOH/g、アミン価が35mgKOH/gである両性系の水溶性分散剤1質量%用いることにより得られた最大一次粒径0.49μmである黒色無機酸化物スラリーは、30日保存後のスラリーであってもスラリーの濃度分布幅は10%であり、粘度増加率は189%であった。
【0063】
実施例2〜6では、黒色無機酸化物粉末として四三酸化コバルトを用い、分散剤として酸価が95mgKOH/g、アミン価が95mgKOH/gである両性系の水溶性分散剤を1〜15質量%用いることにより得られた最大一次粒径0.53μm以下である黒色無機酸化物スラリーは、30日保存後のスラリーであってもスラリーの濃度分布幅は35%以下であり、粘度増加率は172%以下であった。
【0064】
実施例7では、黒色無機酸化物粉末としてNi:Co:Mn:10:45:45組成のニッケルコバルトマンガン複合酸化物を用い、分散剤として酸価が95mgKOH/g、アミン価が95mgKOH/gである両性系の水溶性分散剤を1質量%用いることにより得られた最大一次粒径0.75μmである黒色無機酸化物スラリーは、30日保存後のスラリーであってもスラリーの濃度分布幅は20%であり、粘度増加率は121%であった。
【0065】
実施例8では、黒色無機酸化物粉末としてNi:Co:Mn=20:20:60組成のニッケルコバルトマンガン複合酸化物を用い、分散剤として酸価が95mgKOH/g、アミン価が95mgKOH/gである両性系の水溶性分散剤を3質量%用いることにより得られた最大一次粒径0.63μmである黒色無機酸化物スラリーは、30日保存後のスラリーであってもスラリーの濃度分布幅は12%であり、粘度増加率は45%であった。
【0066】
実施例9では、黒色無機酸化物粉末としてNi:Co:Mn=20:60:20組成のニッケルコバルトマンガン複合酸化物を用い、分散剤として酸価が95mgKOH/g、アミン価が95mgKOH/gである両性系の水溶性分散剤を3質量%用いることにより得られた最大一次粒径0.58μmである黒色無機酸化物スラリーは、30日保存後のスラリーであってもスラリーの濃度分布幅は10%であり、粘度増加率は39%であった。
【0067】
実施例10では、黒色無機酸化物粉末としてCo:Mn=1:1組成のコバルトマンガン複合酸化物を用い、分散剤として酸価が95mgKOH/g、アミン価が95mgKOH/gである両性系の水溶性分散剤を1質量%用いることにより得られた最大一次粒径0.82μmである黒色無機酸化物スラリーは、30日保存後のスラリーであってもスラリーの濃度分布幅は21%であり、粘度増加率は136%であった。
【0068】
比較例1〜3では、黒色無機酸化物粉末として四三酸化コバルトを用い、分散剤としてアミン価が10〜18mgKOH/gであるカチオン系分散剤を1〜3%用いることにより得られた最大一次粒径0.49μm以下である黒色無機酸化物スラリーは、30日保存後のスラリーは溶剤と固形分が分離し、ハードケーキング(黒色無機酸化物が硬く沈殿した状態)を起した。
【0069】
比較例4では、黒色無機酸化物粉末として四三酸化コバルトを用い、分散剤として酸価が30mgKOH/g、アミン価が20mgKOH/gである両性系の水溶性分散剤を1質量%用いることにより得られた最大一次粒径0.53μmである黒色無機酸化物スラリーは、30日保存後のスラリーは溶剤と固形分が分離し、ソフトケーキング(黒色無機酸化物が柔らかく沈殿した状態)を起した。
【0070】
比較例5では、黒色無機酸化物粉末として四三酸化コバルトを用い、分散剤として酸価が35mgKOH/g、アミン価が35mgKOH/gである両性系の水溶性分散剤を1質量%用いることにより得られた最大一次粒径1.16μmである黒色無機酸化物スラリーは、30日保存後のスラリーは溶剤と固形分が分離し、ソフトケーキング(黒色無機酸化物が柔らかく沈殿した状態)を起した。
【0071】
比較例6では、黒色無機酸化物粉末として四三酸化コバルトを用い、分散剤として酸価が72mgKOH/g、アミン価が76mgKOH/gである水溶性でない両性系分散剤を2%用いることにより得られた最大一次粒径0.45μmである黒色無機酸化物スラリーは、30日保存後のスラリーは溶剤と固形分が分離し、ソフトケーキング(黒色無機酸化物が柔らかく沈殿した状態)を起した。
【0072】
以上の点を鑑み、本発明において得られる黒色無機酸化物スラリーは、微粒化された固形分の高い黒色無機酸化物からなるスラリーであって、長期間保存しても粘度の上昇、沈降分離の起こりにくい分散性の高い安価な黒色無機酸化物スラリーを提供できる。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】スラリー組成物の製造装置の一例を示す図。
【符号の説明】
【0074】
1…冷却ジャケットを備えたビーズミル、2…撹拌翼を備えた撹拌機、3…反応槽、4…スラリー輸送ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒色無機酸化物(A)と、アミン価及び酸価を有する水溶性分散剤(B)と、有機溶剤(C)とを含み、前記水溶性分散剤(B)はアミン価が30mgKOH/g以上かつ酸価が30mgKOH/g以上であり、前記黒色無機酸化物(A)は、スラリー化後の最大一次粒径が1μm以下であることを特徴とするスラリー組成物。
【請求項2】
質量%で、黒色無機酸化物(A)50〜90%と、水溶性分散剤(B)0.1〜25質量%と、有機溶剤(C)1〜49.9質量%とを含む請求項1記載のスラリー組成物。
【請求項3】
黒色無機酸化物(A)は、Ni,Co及びMnからなる群から選択された1種類以上の金属を含む請求項1又は2に記載のスラリー組成物。
【請求項4】
水溶性分散剤は、分散剤の10質量%水溶液が、pH6.0〜10.0であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスラリー組成物。
【請求項5】
有機溶剤は、アルコール系、エステル系、及びエーテル系から選択された溶剤の1種類以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のスラリー組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−148681(P2009−148681A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327879(P2007−327879)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(591021305)太陽インキ製造株式会社 (327)
【出願人】(390005681)伊勢化学工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】