説明

スルホコハク酸モノエステルの製造方法

【課題】 低臭性のスルホコハク酸モノエステルの製造法の提供。
【解決手段】 炭素数8〜20のアルコールに炭素数2〜4のアルキレンオキシドを付加させて得られる、アルカリ金属水酸化物及び/又は有機酸のアルカリ金属塩を特定割合で含有する、アルコールのアルキレンオキシド付加物を、仕込モル比にて、(無水マレイン酸)/(アルコールのアルキレンオキシド付加物)=1.05〜1.15、反応温度85℃以下、不活性ガス雰囲気下で無水マレイン酸と反応させることによりマレイン酸モノエステルを合成する第1工程、及び第1工程で得られたマレイン酸モノエステルと亜硫酸アルカリ金属塩及び/又はアルカリ金属水酸化物を含有する酸性亜硫酸アルカリ金属塩とを反応させてスルホコハク酸モノエステルを合成する第2工程からなる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はシャンプー及びバブルバス用基剤として有用な低臭性スルホコハク酸モノエステルの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】スルホコハク酸モノエステルは低刺激であることから、最近シャンプー用基剤として評価されつつあるが、品質面、特に臭気については必ずしも充分満足できるものではないのが実情である。
【0003】スルホコハク酸モノエステルの製造方法としては、一般に次の反応式で示すごとく無水マレイン酸とエトキシレート等のアルコール類とよりマレイン酸モノエステルを合成し、これに亜硫酸ソーダ及び/又は苛性ソーダを含む酸性亜硫酸ソーダを当モル量の水の存在下反応させてスルホコハク酸モノエステルを合成する方法が広く知られている。
【0004】
【化2】


【0005】低臭性のスルホコハク酸モノエステルを製造するためには、その反応中間体であるマレイン酸モノエステル(以下、モノエステルと記す)を低臭性とすることが必須である。モノエステルはアルコールのエチレンオキシド付加物(以下エトキシレートと記す)と無水マレイン酸とを反応させることにより得られるが、モノエステルを低臭性とする為には、モノエステル化収率を向上させること、即ち未反応エトキシレートを残存させないことが重要である。モノエステル化収率を向上させる方法に関して無水マレイン酸とエトキシレートのモル比を(無水マレイン酸)/(エトキシレート)=0.96〜1.04として、且つ0.05〜5重量%の有機酸のアルカリ金属塩を添加するという条件にて、モノエステル化反応を行うことが提案されており(特公昭60-33098号)、モノエステル化収率にて95〜99モル%が達成されるような記載がある。しかしながら、この公報に記載された方法を実際に追試した結果、エトキシレートのモノエステル化収率は95モル%程度が上限であり、低臭性モノエステルを得るための方法としては不満足であった。従ってこのような方法で得られたモノエステルを用いても低臭性の充分なスルホコハク酸モノエステルを得ることが困難であった。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、低臭性のスルホコハク酸モノエステルの製造方法を確立すべく、鋭意検討の結果、炭素数8〜20の直鎖及び/又は分岐鎖のアルコールに炭素数2〜4のアルキレンオキシドを付加させることにより得られるアルカリ金属水酸化物及び/又は有機酸のアルカリ金属塩を含有する、アルコールのアルキレンオキシド付加物(以下、オキシド付加物と記す)と無水マレイン酸を特定条件下にてエステル化反応させてモノエステルを製造すれば、モノエステル化反応率ほぼ100%が達成され、このようにして得られたモノエステルはこれ自体低臭性であり、ついでこのモノエステルを亜硫酸アルカリ金属塩及び/又はアルカリ金属水酸化物を含有する酸性亜硫酸アルカリ金属塩と反応させることにより極めて低臭性のスルホコハク酸モノエステルが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】即ち本発明は、次の2つの工程よりなるスルホコハク酸モノエステルの製造方法を提供するものである。
【0008】<第1工程>炭素数8〜20を有する直鎖及び/又は分岐鎖のアルコールに炭素数2〜4のアルキレンオキシドを付加させることにより得られる、アルカリ金属水酸化物及び/又は有機酸のアルカリ金属塩を下記式に示す割合で含有する、オキシド付加物
【0009】
【数2】


【0010】を次の(i)(ii)(iii)のエステル化条件下(i) 仕込モル比にて(無水マレイン)/(オキシド付加物)=1.05〜1.15(ii) 反応温度85℃以下(iii) 不活性ガス雰囲気下無水マレイン酸と反応させることにより一般式(I)で表わされるマレイン酸モノエステルを合成する工程。
【0011】
【化3】


【0012】〔但し、R:C8〜C20の直鎖及び/又は分岐鎖のアルキル基及び/又はアルケニル基A:C2〜C4のアルキレン基n:平均値が1〜10の数〕
<第2工程>第1工程で得られたマレイン酸モノエステルと亜硫酸アルカリ金属塩及び/又はアルカリ金属水酸化物を含有する酸性亜硫酸アルカリ金属塩とを反応させてスルホコハク酸モノエステルを合成する工程。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明において使用されるオキシド付加物の原料となるアルコールとしては炭素数8〜20のものが好ましく、オクタノール、デカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール、オレイルアルコール等が挙げられ、直鎖又は分岐鎖を有していてもよい。
【0014】本発明においてこれらのアルコールに炭素数2〜4のアルキレンオキシドを付加させる際には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物を触媒として使用するが、その使用量は7.0モル%以下であることが好ましい。このオキシド付加物製造工程において0.5〜7.0モル%のアルカリ金属水酸化物を触媒として使用した場合には、次のモノエステル化工程前にアルカリ金属水酸化物及び/又は有機酸のアルカリ金属塩を新たに添加する必要がないし、一方、オキシド付加物製造工程において0.5モル%より少ない量のアルカリ金属水酸化物を触媒として使用した場合には、次のモノエステル化工程前に新たにアルカリ金属水酸化物及び/又は有機酸のアルカリ金属塩を添加してモノエステル化工程に於いてアルカリ金属イオン濃度が0.5〜7.0モル%となるように調製する必要がある。
【0015】
【数3】


【0016】本発明において用いられるオキシド付加物はアルカリ金属アルコラート及び/又はオキシド付加物製造工程において触媒として使用されたアルカリ金属水酸化物の一部を含有するが、これらを未中和のままモノエステル化工程に供しても良いし、又は低臭、若しくは無臭の有機酸、例えば乳酸、グリコール酸、クエン酸、コハク酸、マレイン酸、フタル酸等で中和後オキシド付加物をモノエステル化工程に供しても良い。炭素数1〜5のアルキル基又はアルケニル基を有するモノカルボン酸、例えば酢酸、アクリル酸等は有臭であるため好ましくない。
【0017】本発明において上記オキシド付加物と無水マレイン酸の仕込みモル比は(無水マレイン酸)/(オキシド付加物)=1.05〜1.15であり、このモル比の範囲を保つことが重要である。即ち、モル比がこの範囲より小さい場合にはモノエステル化収率は低下する。またモル比がこの範囲より大きい場合には、未反応の無水マレイン酸が増加することにより、スルホン化工程でマレイン酸がスルホン化されたスルホコハク酸ナトリウムが必要以上に副生する為好ましくない。無水マレイン酸とオキシド付加物の仕込モル比を上記の範囲に保つことにより得られたモノエステルは、これ自体低臭性でありこのモノエステルを使用してスルホコハク酸モノエステルを製造した場合極めて低臭性のものが得られるという点で上記の仕込モル比は臨界的意義を有する。一方、特公昭60-33098号に記載の方法で得られたモノエステルを使用した場合には本発明と全く同じ反応条件でスルホコハク酸モノエステルを製造しても低臭性のスルホコハク酸モノエステルが得られない。この点から本発明は特公昭60-33098号と峻別されるべきである。
【0018】本発明のモノエステル化工程において、反応温度は85℃以下であることが必要であり、この温度以上ではマレイン酸のジエステルが副生する傾向があり、モノエステル化収率が低下する。また反応系を不活性ガス雰囲気、好ましくは窒素雰囲気に保つことは反応物の着色防止及び臭気の悪化の防止の為に必要である。またモノエステル化工程前にジブチルヒドロキシトルエン(BHT)などの酸化防止剤を添加しておくことも反応物の着色防止及び臭気の悪化を防止する手段となる。
【0019】本発明において、このようにして得られたモノエステルは公知の方法にて亜硫酸アルカリ金属塩及び/又はアルカリ金属水酸化物を含有する酸性亜硫酸アルカリ金属塩と反応させることができ、結果として得られたスルホコハク酸モノエステルは極めて低臭性である。その反応条件としてはモル比にて(亜硫酸アルカリ金属塩及び/又はアルカリ金属水酸化物を含有する酸性亜硫酸アルカリ金属塩)/(モノエステル)=1.10〜1.30であり、反応温度は70℃であり、窒素雰囲気であることが好ましい。反応時間は一般的に4〜5時間である。
【0020】
【発明の効果】本発明の方法によれば極めて低臭性のスルホコハク酸モノエステルを製造することができ、このようにして得られるスルホコハク酸モノエステルはシャンプー用基剤として最適である。
【0021】
【実施例】次に実施例を挙げ本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例にて制約されるものではない。
【0022】実施例1〜2オートクレーブにラウリルアルコール1モルと水酸化カリウム0.01モルを仕込み窒素雰囲気下でエチレンオキシド3モルを反応させエトキシレートを合成した。アルカリ触媒を中和剤で中和せずに又はグリコール酸で中和したあと、別の反応器にエトキシレートを移し無水マレイン酸1.1モル、BHTをエトキシレートに対して500ppm仕込み、窒素雰囲気で80℃でエステル化反応を行った。結果は表1の通りであった。尚、エトキシレートのモノエステル化収率は酸価より算出した。モノエステルの臭気についてはパネラー(5人)により判定し、判定は次の基準とした。
【0023】
◎…無臭○…微臭△…やや臭気あり×…臭気あり実施例3実施例1において原料アルコールにC12-13のオキソアルコール(MW=194)を用いた以外は実施例1と同様に行った。その結果は表1の通りであった。
【0024】実施例4オートクレーブにC12-13のオキソアルコール(MW=194)1モルと水酸化カリウム0.03モルを仕込み、窒素雰囲気下でプロピレンオキシド2モルを反応させ、プロポキシレートを合成した。プロポキシレートを中和せずに別の反応器に移し、無水マレイン酸1.1モル、BHTをプロポキシレートに対して500ppm仕込み、窒素雰囲気下、80℃でエステル化反応を行った。結果は表1の通りであった。
【0025】実施例5オートクレーブにラウリルアルコール1モルと水酸化カリウム0.03モルを仕込み、窒素雰囲気下でエチレンオキシド1モルを反応させ、更にプロピレンオキシドを1モル反応させ、オキシド付加物を合成した。オキシド付加物を中和せずに別の反応器に移し、無水マレイン酸1.1モル、BHTをオキシド付加物に対して500ppm仕込み、窒素雰囲気下、80℃でエステル化反応を行った。結果は表1の通りであった。
【0026】比較例1実施例1において、エトキシ化後触媒を吸着処理により除去した以外は実施例1と同様に行った。その結果は表1の通りであった。
【0027】比較例2実施例1において、モノエステル化仕込モル比(無水マレイン酸)/(エトキシレート)を1.02とした以外は実施例1と同様に行った。その結果は表1の通りであった。
【0028】比較例3特公昭60-33098号記載の方法で、エステル化総仕込量に対して酢酸ナトリウム0.5重量%(2.5モル%) 添加し、仕込モル比1.01、反応温度70℃でモノエステル化を行った。その結果は表1の通りであった。
【0029】比較例4実施例4において、モノエステル化仕込モル比(無水マレイン酸)/(プロポキシレート)を1.02とした以外は実施例4と同様に行った。その結果は表1の通りであった。
【0030】比較例5実施例5において、モノエステル化仕込モル比(無水マレイン酸)/(オキシド付加物)を1.02とした以外は実施例5と同様に行った。その結果は表1の通りであった。
【0031】実施例1〜5及び比較例1〜5に於けるエステル化反応収率及びモノエステルの臭いについて表1に示した。
【0032】
【表1】


【0033】実施例6〜10、比較例6〜10実施例1〜5及び比較例1〜5で得られたマレイン酸モノエステル1モルに対して、亜硫酸ナトリウム1.15モルを水溶液中で、窒素雰囲気中70℃で5Hr反応させた。このようにして得られたスルホコハク酸モノエステルについて臭気を判定した。その方法及び基準については実施例1〜5及び比較例1〜5記載の方法と同様である。その結果を表2に示す。
【0034】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】 次の2つの工程よりなるスルホコハク酸モノエステルの製造方法。
<第1工程>炭素数8〜20を有する直鎖及び/又は分岐鎖のアルコールに炭素数2〜4のアルキレンオキシドを付加させることにより得られる、アルカリ金属水酸化物及び/又は有機酸のアルカリ金属塩を下記式に示す割合で含有する、アルコールのアルキレンオキシド付加物
【数1】


を次の(i)(ii)(iii)のエステル化条件下(i) 仕込モル比にて(無水マレイン酸)/(アルコールのアルキレンオキシド付加物)=1.05〜1.15(ii) 反応温度85℃以下(iii) 不活性ガス雰囲気下無水マレイン酸と反応させることにより一般式(I)で表わされるマレイン酸モノエステルを合成する工程。
【化1】


〔但し、R:C8〜C20の直鎖及び/又は分岐鎖のアルキル基及び/又はアルケニル基A:C2〜C4のアルキレン基n:平均値が1〜10の数〕
<第2工程>第1工程で得られたマレイン酸モノエステルと亜硫酸アルカリ金属塩及び/又はアルカリ金属水酸化物を含有する酸性亜硫酸アルカリ金属塩とを反応させてスルホコハク酸モノエステルを合成する工程。

【公開番号】特開2001−151747(P2001−151747A)
【公開日】平成13年6月5日(2001.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−339730
【出願日】平成11年11月30日(1999.11.30)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】