説明

スルホン酸基含有ポリマー、その製造方法及びその用途

【課題】 物理的な耐久性をより向上させたスルホン酸基含有ポリマーを得ること及びそれを用いた高分子電解質膜、膜/電極接合体、燃料電池などを提供する。
【解決手段】下記化学式1で表される構造単位及び下記化学式1’で表される構造単位を少なくとも有することを特徴とするスルホン酸基含有ポリマー。
【化1】


[化学式1におけるXは−S(=O)−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、ベンゼン環との直接結合などを表す。化学式1’におけるArは電子吸引性基を有する2価の芳香族基を表す。n及びmは各構造単位のモル数で1以上の整数を表し、各構造単位の結合形態は、ランダム、交互、ブロックなど、いずれでもよい。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な分子構造のスルホン酸基含有ポリマーとその製造方法、該ポリマーの組成物、該ポリマーを用いた高分子電解質膜、膜/電極接合体、燃料電池などの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー効率や環境性に優れた新しい発電技術が注目を集めている。中でも高分子固体電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池はエネルギー密度が高く、また、他の方式の燃料電池に比べて運転温度が低いため起動、停止が容易であるなどの特徴を有するため、電気自動車や分散発電などの電源装置としての開発が進んできている。
【0003】
高分子固体電解質膜には通常プロトン伝導性の高分子電解質膜が使用される。高分子固体電解質膜にはプロトン伝導性以外にも、燃料の水素などの透過を防ぐ燃料透過抑止性や機械的強度などの特性が必要である。このような高分子固体電解質膜としては、例えばスルホン酸基を導入したパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを含む膜が知られている。しかしながら、分子中にフッ素を含むため、使用条件によっては排気ガス中に有害なフッ酸が発生することや、廃棄時に環境への負荷が大きいことなどが問題視されている。
【0004】
パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子電解質膜は、燃料電池の電解質膜としてバランスのよい特性を示すものの、コストや性能などで、より優れた膜を得るために、炭化水素系高分子電解質膜の開発が盛んに行われている。
【0005】
多くの炭化水素系高分子電解質膜には、ポリイミドやポリスルホンなどの耐熱性ポリマーに、スルホン酸基などのイオン性基を導入したポリマーが用いられている(例えば特許文献1を参照)。
【0006】
一般に炭化水素系高分子電解質膜では、パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子電解質膜に比べて耐久性に劣るため、物理的や化学的な補強が行われている。高分子電解質膜を構成するポリマーの分子量を大きくすることも、耐久性を向上させる手段の一つであるが、ポリマーの種類によっては高重合度のポリマーを得ることが困難であることがしばしば起こっていた。
【0007】
例えば、重縮合によって重合されるポリマーの場合、重合度が上がるにつれて反応点が減少し、見かけの反応速度が減少していくため、高分子量のポリマーを得ることが一般に困難である(例えば、特許文献1及び2を参照)。
【0008】
【特許文献1】特表2004−509224号公報
【特許文献2】特開2004−149779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、化学的な特性は従来のポリマーと同等でありながら、物理的な耐久性を向上させることを可能にする高重合度化が可能であり、高分子電解質膜に好適に用いることのできるポリマーを提供することであり、さらには、その製造方法、該ポリマーから得られる高分子電解質膜、及び膜/電極接合体、並びに該膜/電極接合体を用いた燃料電池の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、ついに本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、
【0011】
(1)下記化学式1で表される構造単位及び下記化学式1’で表される構造単位を少なくとも有することを特徴とするスルホン酸基含有ポリマー。
【0012】
【化1】

[化学式1において、Xは−S(=O)−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、オキシアルキレン基、アリーレン基、及びベンゼン環との直接結合からなる群より選ばれる1種以上の基を表す。化学式1’において、Arは電子吸引性基を有する2価の芳香族基から選ばれる1種以上の基を表す。n及びmはそれぞれの構造単位のモル数で1以上の整数を表し、化学式1及び化学式1’で表される構造単位の結合形態は、ランダム、交互、ブロック及びグラフトのいずれであってもよい。]
【0013】
(2)化学式1’におけるArが、下記化学式2〜5で表される構造から選ばれる一種以上の基である(1)に記載のスルホン酸基含有ポリマー。
【化2】

【0014】
(3)化学式1’におけるArが、化学式4又は5で表される構造である(2)に記載のスルホン酸基含有ポリマー。
【0015】
(4)RがSOY基とベンゼン環との直接結合である(1)〜(3)のいずれかに記載のスルホン酸基含有ポリマー。
【0016】
(5)化学式1及び化学式1’におけるn及びmが下記数式1を満たす(1)〜(4)のいずれかに記載のスルホン酸基含有ポリマー。
【0017】
0.05≦n/(n+m)≦0.70 (数式1)
【0018】
(6)0.5g/dLのN−メチル−2−ピロリドン溶液の30℃における対数粘度が2.0〜5.0dL/gである(1)〜(5)のいずれかに記載のスルホン酸基含有ポリマー。
【0019】
(7)(1)〜(6)に記載のスルホン酸基含有ポリマーからなる高分子電解質膜。
【0020】
(8)(1)〜(6)に記載のスルホン酸基含有ポリマーを含む組成物。
【0021】
(9)高分子電解質膜又は電極触媒層の少なくとも一方に、(1)〜(6)のいずれかに記載のスルホン酸基含有ポリマーを含む膜/電極接合体。
【0022】
(10)(9)に記載の膜/電極接合体を有する燃料電池。
【0023】
(11)下記化学式6で表される化合物を原料モノマーとして用いることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のスルホン酸基含有ポリマーの製造方法。
【0024】
【化3】

である。
【発明の効果】
【0025】
本発明による新規スルホン酸基含有ポリマーは、従来のスルホン酸基含有ポリマーに比べて短時間で高重合度のポリマーを得ることができ、燃料電池の高分子電解質膜として用いた場合に、高耐久性を可能にするという優れた効果を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において重量とは、質量を意味する。
【0027】
本発明のスルホン酸基含有ポリマーは、化学式1及び化学式1’で表される構造を有することを特徴とするスルホン酸基含有ポリマーである。化学式1におけるXは−S(=O)−基又は−C(=O)−基を表すが、−S(=O)−基であると、溶媒への溶解性が高まるため好ましい。また、−C(=O)−基であると、ポリマーに光架橋性を付与することが可能になるため好ましい。
【0028】
化学式1におけるYはH又は1価の陽イオンを表すが、燃料電池のプロトン交換膜として用いる場合には、YはHであることが好ましい。また、溶解、成形、製膜などの加工においては、YがHであるよりも1価の陽イオンであるほうが、スルホン酸基の熱安定性が高まるため好ましい。1価の陽イオンとしては、Na、K、Liなどのアルカリ金属イオンや、アンモニウムイオン、第四級アミン塩などが例として挙げることができ、Na、K、Liなどのアルカリ金属イオンが好ましい。アルカリ金属塩となっているスルホン酸基は、硫酸、塩酸、過塩素酸などの強酸又はその水溶液でポリマーを処理することによって、スルホン酸基に変換することができる。スルホン酸基を有するポリマーは高いプロトン伝導性を示し、プロトン交換樹脂や、プロトン交換膜として用いることができる。中でもプロトン交換膜は、固体高分子形燃料電池の電解質として用いることができ、本発明のポリマーを用いると優れた性能を有する燃料電池を得ることができる。
【0029】
化学式1におけるRは炭素数1〜10のアルキレン基、オキシアルキレン基、アリーレン基、及びベンゼン環との直接結合からなる群より選ばれる一種以上の基を表すが、アルキレン基であるとプロトン伝導性が向上するため好ましい。また、スルホン酸基とベンゼン環が直接結合している直接結合であると、熱やラジカルなどに対するスルホン酸基の安定性が高まり、プロトン伝導性にも優れるため、より好ましい。アルキレン基は、分岐を有するものよりも、直鎖のものが好ましい。アルキレン基の炭素数は1〜5がより好ましく、3〜4がより好ましい。具体的には、n−プロピレン基、n−ブチレン基が好ましい。オキシアルキレン基の炭素数は1〜5がより好ましく、3〜4がより好ましい。具体的には、オキシ−n−プロピレン基、オキシ−n−ブチレン基が好ましい。アリーレン基としては、オキシフェニレン基、フェニレン基、などを挙げることができる。
【0030】
化学式1で表される構造単位における、下記化学式7;
【0031】
【化4】

【0032】
で表される部分構造の具体例を以下に示すが、これらに限定されるわけではなく、スルホン酸基の一部及び全部が1価の陽イオンを形成しているものも含む。下記の部分構造のうち、化学式7A、7B、7C、及び7Dがより好ましく、化学式7A及び化学式7Bがさらに好ましい。
【0033】
【化5】

【0034】
化学式1’におけるArは、電子吸引性基を有する芳香族基である。電子吸引性基の例としては、スルホン基、カルボニル基、スルホニル基、ホスフィン基、シアノ基、トリフルオロメチル基などのパーフルオロアルキル基、ニトロ基、ハロゲン基などが挙げられ、シアノ基、スルホン基、カルボニル基が好ましい。芳香族基とは、芳香環を有する基を表す。芳香環を有する基としては、フェニレン基、ピリジレン基、ナフタレン基、アントラニレン基を挙げることができる。Arは、芳香環を有する基同士が電子吸引性基で連結されていてもよい。
【0035】
化学式1’におけるArの例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0036】
【化6】

【0037】
さらに、Arは化学式2〜5で表される構造から選ばれる一種以上の基であることが好ましい。化学式2の構造であると、溶媒への溶解性が高まるため好ましい。また、化学式3の構造であると、ポリマーに光架橋性を付与することが可能になるため好ましい。また、化学式4又は5の構造であると、ポリマーの膨潤性が小さくなるため好ましい。下記化学式2〜5の中でも、化学式4又は5の構造が好ましく、化学式5の構造が最も好ましい。
【0038】
本発明におけるスルホン酸基含有ポリマーは、本発明の効果を損なわない範囲において、化学式1で表される構造以外のその他の構造を含んでいてもよい。化学式1で表される以外のその他の構造は、ポリマー全体の0〜50質量%の範囲であることが好ましく、0〜20質量%の範囲であることが好ましく、0〜10質量%の範囲であることがさらに好ましい。
【0039】
その他の構造の例を以下に示すが、これらに限定されるわけではない。
【0040】
【化7】

【0041】
化学式1及び化学式1’におけるn及びmは、それぞれ1以上の整数であり、n/(n+m)が0.01〜1の範囲にあればよいが、0.05〜0.70の範囲が好ましく、0.1〜0.6の範囲がより好ましく、0.2〜0.5の範囲がさらに好ましい。本発明の高分子電解質膜を、水素を燃料とする燃料電池に用いる場合には、n/(n+m)は0.4〜0.6の範囲であることが好ましい。本発明の高分子電解質膜を、メタノールなどの液体を燃料とする燃料電池に用いる場合には、n/(n+m)は0.05〜0.4の範囲であることが好ましく、0.1〜0.35の範囲であることがより好ましい。n+mは2〜100000の範囲にあればよいが、10〜10000の範囲がより好ましく、50〜1000の範囲がさらに好ましい。n+mが10よりも小さいと、分子量が小さく、膜などの成形体を得ることが困難になる場合がある。n+mが10000よりも大きいと、溶液の粘度が著しく増加するなど、加工に支障をきたす場合がある。
【0042】
本発明のスルホン酸基含有ポリマーは、イオン交換樹脂や、高分子電解質膜、吸湿樹脂、吸湿膜、透湿膜、電解膜などに用いることができ、特に高分子電解質膜として用いることが好ましい。さらに、本発明のスルホン酸基含有ポリマーを用いた高分子電解質膜は、スルホン酸基をスルホン酸型にすることでプロトン交換膜として用いることができ、燃料電池用プロトン交換膜に特に適している。また、本発明のスルホン酸基含有ポリマーは、高分子電解質膜などを、電極、触媒と接合する際に、接着剤として用いることにも適している。
【0043】
本発明の高分子電解質膜は、電極や触媒を接合して膜/電極接合体とすることができる。また、本発明の高分子電解質膜以外の膜に対して、電極や触媒との接着剤として、本発明のスルホン酸基含有ポリマーを用いることができる。本発明のスルホン酸基含有ポリマーを接着剤として用いる場合には、化学式1におけるYがHであって、スルホン酸基が酸型であることが好ましい。スルホン酸基が陽イオンと塩を形成している状態で用いる場合には、接合後、酸処理によってスルホン酸基を酸型にすることもできる。
【0044】
本発明のスルホン酸基含有ポリマーは、適当な溶媒に溶解、分散して組成物として用いることもできる。用いることのできる溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホンアミド、N−モルフォリンオキサイドなどの非プロトン性有機極性溶媒や、メタノール、エタノールなどのアルコール系溶媒、アセトンなどのケトン系溶媒、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒などの極性溶媒、及びこれらの有機溶媒の混合物、並びに水との混合物を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
ポリマー溶液の濃度は0.1〜50質量%の範囲が好ましい。溶液から、膜、繊維などを成形する場合には、濃度が5〜50質量%の範囲にあることがより好ましく、10〜40質量%の範囲がさらに好ましい。溶液を接着剤として用いる場合には、濃度が0.1〜20質量%の範囲であるとより好ましい。溶液を接着剤として用いる場合には、Pt、PT−Ruなどの触媒を担持したカーボン粒子や、フッ素樹脂など、他の成分を含んでいてもよい。
【0046】
本発明のおけるスルホン酸基含有ポリマーにおいて、好ましい構造の具体例である化学式10A〜化学式10Pを以下に示すが、本発明の範囲は、以下に限定されるものではない。
【0047】
【化8】

【0048】
【化9】

【0049】
本発明のスルホン酸基含有ポリマーは、化学式11〜化学式13で表される化合物を必須成分として含むモノマーの混合物から芳香族求核置換反応により重合することができる。
【0050】
【化10】

【0051】
化学式11において、Xは−S(=O)−基又は−C(=O)−基を、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、オキシアルキレン基、アリーレン基、SOY基とベンゼン環との直接結合のいずれかを表すが、アルキレン基であるとプロトン伝導性が向上するため好ましい。また、スルホン酸基とベンゼン環が直接結合している直接結合であると、熱やラジカルなどに対するスルホン酸基の安定性が高まり、プロトン伝導性にも優れるため、より好ましい。アルキレン基は、分岐を有するものよりも、直鎖のものが好ましい。アルキレン基の炭素数は1〜5がより好ましく、3〜4がより好ましい。具体的には、n−プロピレン基、n−ブチレン基が好ましい。オキシアルキレン基の炭素数は1〜5がより好ましく、3〜4がより好ましい。具体的には、オキシ−n−プロピレン基、オキシ−n−ブチレン基が好ましい。アリーレン基としては、オキシフェニレン基、フェニレン基、などを挙げることができる。YはH又は1価の陽イオンを表すが、Na、K、Liなどのアルカリ金属イオンが好ましい。Zはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ基からなる群より選ばれる1種以上の基を表す。
【0052】
化学式11で表される化合物の具体例としては、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、及びそれらのスルホン酸基が1価陽イオン種との塩になったもの等が挙げられる。1価陽イオン種としては、ナトリウム、カリウムや他の金属種や各種アミン類等でも良く、これらに制限されるわけではない。化学式11で表される化合物のうち、スルホン酸基が塩になっている化合物の例としては、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸カリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸カリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸カリウム−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸カリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸カリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルケトンなどを挙げることができる。
【0053】
化学式12において、Arは電子吸引性基を有する2価の芳香族基を、Zはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ基からなる群より選ばれる1種以上の基を表す。Arにおける、電子吸引性基の例としては、スルホン基、カルボニル基、スルホニル基、ホスフィン基、シアノ基、トリフルオロメチル基などのパーフルオロアルキル基、ニトロ基、ハロゲン基などが挙げられ、シアノ基、スルホン基、カルボニル基が好ましい。Arにおける、芳香族基とは、芳香環を有する基を表す。芳香環を有する基としては、フェニレン基、ピリジレン基、ナフタレン基、アントラニレン基を挙げることができる。Arは、芳香環を有する基同士が電子吸引性基で連結されていてもよい。
【0054】
化学式12で表される化合物としては、同一芳香環にハロゲン、ニトロ基などの求核置換反応における脱離基と、それを活性化する電子吸引性基を有する化合物を挙げることができる。具体例としては、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリル、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、デカフルオロビフェニル等が挙げられるがこれらに制限されることなく、芳香族求核置換反応に活性のある他の芳香族ジハロゲン化合物、芳香族ジニトロ化合物、芳香族ジシアノ化合物なども使用することができる。
【0055】
化学式12で表される化合物の具体例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。中でも化学式12A、12B、12C、12D、12O、12P、12Q、及び12Rが好ましく、12C、12D、12Q、及び12Rがより好ましく、12D及び12Rがさらに好ましい。
【0056】
【化11】

【0057】
【化12】

【0058】
上述の芳香族求核置換反応において、化学式11〜13で表される化合物とともに他の各種活性化ジハロゲン芳香族化合物やジニトロ芳香族化合物、ビスフェノール化合物、ビスチオフェノール化合物をモノマーとして併用することもできる。
【0059】
その他のビスフェノール化合物又はビスチオフェノール化合物の例としては、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、4,4’−ビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ハイドロキノン、レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、1,4-ベンゼンジチオール、1,3-ベンゼンジチオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-チオビスベンゼンチオール、4,4’-オキシビスベンゼンチオール、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、ジアリルビスフェノールA、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナントレン−10−オキシド、フェノールフタレイン、4−エチルレゾルシノール、4−ヘキシルレゾルシノール、2−ヘキシルハイドロキノン、2−オクチルハイドロキノン、2−オクダデシルハイドロキノン、2−ターシャリーブチルハイドロキノン、2,5−ジターシャリーブチルハイドロキノン、2,5−ジターシャリーアミルハイドロキノン、2,2’−ジヘキシル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1−オクチル−2,6−ジヒドロキシナフタレン、2−ヘキシル−1,5−ジヒドロキシナフタレン等が挙げられるが、この他にも芳香族求核置換反応によるポリアリーレンエーテル系化合物の重合に用いることができる各種芳香族ジオール又は各種芳香族ジチオールを使用することもでき、上記の化合物に限定されるものではない。
【0060】
本発明におけるスルホン酸基含有ポリマーを芳香族求核置換反応により重合する場合、化学式11〜13で表される構造の化合物と、必要に応じて他の活性化ジハロゲン芳香族化合物やジニトロ芳香族化合物や芳香族ジオール類又は芳香族ジチオール類を加えて、塩基性化合物の存在下で反応させることで重合体を得ることができる。モノマー中の反応性のハロゲン基又はニトロ基と、反応性のヒドロキシ基及びチオール基のモル比は任意のモル比にすることで、得られるポリマーの重合度を調整することができるが、好ましくは0.8〜1.2であり、より好ましくは0.9〜1.1であり、0.95〜1.05であるとさらに好ましく、1であると最も高重合度のポリマーを得ることができる。
【0061】
重合は、0〜350℃の温度範囲で行うことができるが、50〜250℃の温度であることが好ましい。0℃より低い場合には、十分に反応が進まない傾向にあり、350℃より高い場合には、ポリマーの分解も起こり始める傾向がある。反応は、無溶媒下で行うこともできるが、溶媒中で行うことが好ましい。使用できる溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、スルホランなどを挙げることができるが、これらに限定されることはなく、芳香族求核置換反応において安定な溶媒として使用できるものであればよい。これらの有機溶媒は、単独でも2種以上の混合物として使用されても良い。
【0062】
塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられるが、芳香族ジオール類や芳香族ジメルカプト化合物を活性なフェノキシド構造にしうるものであれば、これらに限定されず使用することができる。塩基性化合物は、ビスフェノール化合物及びビスチオフェノール化合物の総和に対して100モル%以上の量を用いると良好に重合することができ、好ましくはビスフェノール化合物又はビスチオフェノール化合物の総和に対して105〜125モル%の範囲である。ビスフェノール化合物又はビスチオフェノール化合物の量が多くなりすぎると、分解などの副反応の原因となるので好ましくない。
【0063】
また、上記重合反応において、塩基性化合物を用いずに、ビスフェノール化合物又はビスチオフェノール化合物を、イソシアネート化合物と反応させてカルバモイル化したものと、活性化ジハロゲン芳香族化合物やジニトロ芳香族化合物とを直接反応させることもできる。
【0064】
芳香族求核置換反応においては、副生物として水が生成する場合がある。この際は、重合溶媒とは関係なく、トルエンなどを反応系に共存させて共沸物として水を系外に除去することもできる。水を系外に除去する方法としては、モレキュラーシーブなどの吸水材を使用することもできる。芳香族求核置換反応を溶媒中で行う場合、得られるポリマー濃度として5〜50質量%となるようにモノマーを仕込むことが好ましい。5質量%よりも少ない場合は、重合度が上がりにくい傾向がある。一方、50質量%よりも多い場合には、反応系の粘性が高くなりすぎ、反応物の後処理が困難になる傾向がある。重合反応終了後は、反応溶液より蒸発によって溶媒を除去し、必要に応じて残留物を洗浄することによって、所望のポリマーが得られる。また、反応溶液を、ポリマーの溶解度が低い溶媒中に加えることによって、ポリマーを固体として沈殿させ、沈殿物の濾取によりポリマーを得ることもできる。また副生する塩類を濾過によって取り除いてポリマー溶液を得ることもできる。
【0065】
また、本発明におけるスルホン酸基含有ポリマーは、後で述べる方法により測定したポリマー対数粘度が0.1dL/g以上であることが好ましい。対数粘度が0.1dL/gよりも小さいと、高分子電解質膜として成形したときに、膜が脆くなりやすくなる。対数粘度は、1.0dL/g以上であることがさらに好ましく、2.0dL/g以上であることが好ましい。一方、対数粘度が5dL/gを超えると、ポリマーの溶解が困難になるなど、加工性での問題が出てくるようになる。なお、対数粘度を測定する溶媒としては、一般にN−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドなどの極性有機溶媒を使用することができるが、これらに溶解性が低い場合には濃硫酸を用いて測定することもできる。
【0066】
本発明におけるスルホン酸基含有ポリマーのイオン交換容量は、0.1meq/gであることが好ましいが、3.5meq/g以下であることがさらに好ましい。イオン交換容量が小さくなるとプロトン伝導性が低下する。イオン交換容量が大きくなると、プロトン伝導性は増大するが、同時に膜が膨潤したり、水に溶解してしまったりする問題が起きやすくなる。より好ましい範囲は0.5〜3.5meq/g、さらに好ましい範囲は、1.0〜2.5meq/gである。
【0067】
本発明における高分子電解質膜は任意の厚みにすることができるが、10μm以下であると所定の特性を満たすことが困難になるので10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。また、300μmを超えると製造が困難になるため、300μm以下であることが好ましい。
【0068】
本発明におけるスルホン酸基含有ポリマーは、単体として使用することができるが、他のポリマーとの組み合わせによる樹脂組成物として使用することもできる。これらのポリマーとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12などのポリアミド類、ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリル酸エステル類、ポリメチルアクリレート、ポリアクリル酸エステル類などのアクリレート系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンやジエン系ポリマーを含む各種ポリオレフィン、ポリウレタン系樹脂、酢酸セルロース、エチルセルロースなどのセルロース系樹脂、ポリアリレート、アラミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾールなどの芳香族系ポリマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ベンゾオキサジン樹脂などの熱硬化性樹脂等、特に制限はない。ポリベンズイミダゾールやポリビニルピリジンなどの塩基性ポリマーとの樹脂組成物は、ポリマー寸法性の向上のために好ましい組み合わせといえる、これらの塩基性ポリマー中に、さらにスルホン酸基を導入しておくと、組成物の加工性がより好ましいものとなる。これら樹脂組成物として使用する場合には、本発明のルホン酸基含有ポリマーは、樹脂組成物全体の50質量%以上100質量%未満含まれていることが好ましい。より好ましくは70質量%以上100質量%未満である。本発明のルホン酸基含有ポリマーの含有量が樹脂組成物全体の50質量%未満の場合には、この樹脂組成物を含む高分子電解質膜のスルホン酸基濃度が低くなり良好なイオン伝導性が得られない傾向にあり、また、スルホン酸基を含有するユニットが非連続相となり伝導するイオンの移動度が低下する傾向にある。なお、本発明の組成物は、必要に応じて、例えば酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、粘着付与剤、可塑剤、架橋剤、粘度調整剤、静電気防止剤、抗菌剤、消泡剤、分散剤、重合禁止剤、などの各種添加剤を含んでいても良い。
【0069】
本発明の高分子電解質膜は、本発明のスルホン酸基含有イオン交換樹脂を含む組成物から、押し出し、圧延又はキャストなど任意の方法で得ることができる。中でも適当な溶媒に溶解した溶液から成形することが好ましい。溶液から成形体を得る方法は従来から公知の方法を用いて行うことができる。例えば、加熱、減圧乾燥、化合物を溶解する溶媒と混和することができる化合物非溶媒への浸漬等によって、溶媒を除去し成形体を得ることができる。溶媒が、有機溶媒の場合には、加熱又は減圧乾燥によって溶媒を留去させることが好ましい。この際、必要に応じて他の化合物と複合された形で成形することもできる。溶解挙動が類似する化合物と組み合わせた場合には、良好な成形ができる点で好ましい。このようにして得られた成形体中のスルホン酸基は陽イオン種との塩の形のものを含んでいても良いが、必要に応じて酸処理することによりフリーのスルホン酸基に変換することもできる。
【0070】
本発明におけるスルホン酸基含有ポリマー及びその樹脂組成物から高分子電解質膜を成形する手法として最も好ましいのは、溶液からのキャストであり、キャストした溶液から上記のように溶媒を除去して高分子電解質膜を得ることができる。当該溶液としてはN−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒を用いた溶液や、場合によってはアルコール系溶媒等も挙げることができる。溶媒の除去は、乾燥によることが高分子電解質膜の均一性からは好ましい。また、化合物や溶媒の分解や変質を避けるため、減圧下できるだけ低い温度で乾燥することもできる。また、溶液の粘度が高い場合には、基板や溶液を加熱して高温でキャストすると溶液の粘度が低下して容易にキャストすることができる。キャストする際の溶液の厚みは特に制限されないが、10〜2000μmであることが好ましい。より好ましくは50〜1500μmである。溶液の厚みが10μmよりも薄いと高分子電解質膜としての形態を保てなくなる傾向にあり、2000μmよりも厚いと不均一な膜ができやすくなる傾向にある。溶液のキャスト厚を制御する方法は公知の方法を用いることができる。例えば、アプリケーター、ドクターブレードなどを用いて一定の厚みにしたり、ガラスシャーレなどを用いてキャスト面積を一定にしたりして溶液の量や濃度で厚みを制御することができる。キャストした溶液は、溶媒の除去速度を調整することでより均一な膜を得ることができる。例えば、加熱する場合には最初の段階では低温にして蒸発速度を下げたりすることができる。また、水などの非溶媒に浸漬する場合には、溶液を空気中や不活性ガス中に適当な時間放置しておくなどして化合物の凝固速度を調整することができる。高分子電解質膜として使用する場合、膜中のスルホン酸基は金属塩になっているものを含んでいても良いが、適当な酸処理によりフリーのスルホン酸に変換することもできる。この場合、硫酸、塩酸、等の水溶液中に加熱下あるいは加熱せずに膜を浸漬処理することで行うことも効果的である。
【0071】
本発明の膜/電極接合体は、本発明の高分子電解質膜を電極と接合することによって得ることができる。
電極は、電極材料と、その表面に形成された触媒を含む層(電極触媒層)とからなり、電極材料としては、公知の材料を用いることができる。例えば、カーボンペーパーやカーボンクロスなど、導電性の多孔質材料を用いることができるが、それらに限定されるものではない。カーボンペーパーやカーボンクロスなど、導電性の多孔質材料は、撥水処理、親水処理などの表面処理がされたものを用いることもできる。触媒には、公知の材料を用いることができる。例えば、白金、白金とルテニウムなどの合金などを挙げることができるが、それらに限定されるものではない。
触媒は公知の任意の形態で用いることができ、例えば触媒微粒子を坦持させたカーボン粒子を用いることができるが、それらに限定されるものではない。
触媒や触媒を坦持した粒子を含む電極触媒層には、接着剤を用いることができ、接着剤としては、プロトン伝導性を有する樹脂を用いることができる。
【0072】
この接合体の作製方法としては、従来から公知の方法を用いて行うことができ、例えば、電極表面に接着剤を塗布し高分子電解質膜と電極とを接着する方法又は高分子電解質膜と電極とを加熱加圧する方法等がある。接着剤としては、ナフィオン(商品名)溶液など公知のものを用いてもよいし、本発明の高分子電解質膜を構成するポリマーと同種のポリマー組成物を主成分としたものを用いてもよいし、他の炭化水素系プロトン伝導性ポリマーを主成分とするものを用いてもよい。電極反応に必要な白金、白金−ルテニウム合金などの触媒は、カーボンなどの導電性粒子に坦持させたものを、上記接着剤中に分散させておくことで、電極触媒層を得ることができる。電極と高分子電解質膜の接合体を作製する方法は、電極表面に塗布して接着する方法が好ましい。本発明の高分子電解質膜及びポリマー組成物は適度な軟化温度を有するため、加圧加熱によって高分子電解質膜と電極とを接合する方法に特に適している。
【0073】
本発明の燃料電池は、本発明の高分子電解質膜又は高分子電解質膜/電極接合体を用いて作製することができる。本発明の燃料電池は、例えば酸素極と、燃料極と、それぞれの極に挟まれて配置された高分子電解質膜と、酸素極側に設けられた酸化剤の流路と、燃料極側に設けられた燃料の流路を有するものである。このような一つの単位セルを導電性のセパレーターで連結することによって燃料電池スタックを得ることができる。
【0074】
本発明の高分子電解質膜は、固体高分子形燃料電池に適している。本発明の高分子電解質膜は、電極触媒層との接合性、出力特性、耐久性に優れている。本発明の高分子電解質膜は、燃料にメタノール、ジメチルエーテル、ギ酸などの液体や、水素などの気体などを用いる燃料電池に好適に用いることができ、電解膜、分離膜など、高分子電解質膜としても公知の任意の用途に用いることができる。
【実施例】
【0075】
以下本発明を、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。なお、各種測定は次のように行った。
【0076】
<対数粘度>
ポリマー粉末を0.5g/dLの濃度でN−メチルピロリドンに溶解し、30℃の恒温槽中でウベローデ型粘度計を用いて粘度測定を行い、対数粘度ln[ta/tb]/cで評価した(taは試料溶液の落下秒数、tbは溶媒のみの落下秒数、cはポリマー濃度)。
【0077】
<プロトン伝導性>
自作測定用プローブ(テトラフルオロエチレン樹脂製)上で短冊状膜試料の表面に白金線(直径:0.2mm)を押しあて、25℃の水中又は80℃、95%の恒湿恒温槽に試料を保持し、白金線間のインピーダンスをSOLARTRON社1250FREQUENCY RESPONSE ANALYSERにより測定した。極間距離を変化させて測定し、極間距離とC−Cプロットから見積もられる抵抗測定値をプロットした勾配から以下の式により膜と白金線間の接触抵抗をキャンセルした導電率を算出した。
導電率[S/cm]=1/膜幅[cm]×膜厚[cm]×抵抗極間勾配[Ω/cm]
【0078】
<水素を燃料とする燃料電池(PEFC)の発電評価>
デュポン社製20%ナフィオン(商品名)溶液に、市販の40%Pt触媒担持カーボン(田中貴金属工業社 燃料電池用触媒 TEC10V40E)と、少量の超純水及びイソプロパノールを加えた後、均一になるまで撹拌し、触媒ペーストを調製した。この触媒ペーストを、カーボンペーパー(東レ社製 TGPH−060)に白金の付着量が0.5mg/cmになるように均一に塗布・乾燥して、電極触媒層付きガス拡散層を作製した。上記の電極触媒層付きガス拡散層の間に、高分子電解質膜を、電極触媒層が膜に接するように挟み、ホットプレス法により130℃、2MPaで3分間加圧、加熱することにより、膜−電極接合体とした。この接合体をElectrochem社製の評価用燃料電池セルFC25−02SPに組み込んでセル温度80℃で、アノード及びカソードにそれぞれ75℃で加湿した水素と空気を供給して発電特性を評価した。開始直後における電流密度が0.5A/cmにおける出力電圧を初期特性とした。また、耐久性評価として、1時間に1回の割合で開回路電圧を測定しつつ上記の条件で連続運転を行った。開回路電圧が開始直後の値よりも10%以上低下したときの時間を耐久時間とした。耐久性評価は1000時間を上限として行った。
【0079】
<イオン交換容量>
100℃で1時間乾燥し、窒素雰囲気下室温で一晩放置した試料の質量を量り、水酸化ナトリウム水溶液と撹拌処理した後、塩酸水溶液による逆滴定でイオン交換容量を求めた。
【0080】
<実施例1>
3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン(略号:SDS) 60.00g、2,6−ジクロロベンゾニトリル(略号:DCB) 26.74g、4,4’−ジメルカプトビフェニル(略号:MBP) 60.61g、炭酸カリウム 42.20g、乾燥したモレキュラーシーブ3−A 32gを1000mLの四つ口フラスコに計り取り、窒素を流した。380mLのN−メチル−2−ピロリドン(略号:NMP)を入れて、撹拌しながら、反応温度を195〜200℃に上昇させて系の粘性が十分上がるのを目安に反応を続けた(約4時間)。放冷の後、沈降しているモレキュラーシーブを除いて水中にストランド状に沈殿させた。得られたポリマーは、沸騰水中で1時間洗浄した後、乾燥した。ポリマーの対数粘度は2.44dL/gを示した。得られたポリマーの重水素化ジメチルスルホキシド中室温で測定したH−NMRスペクトルを図1に示した。ポリマー7gをNMP28gに溶解し、ホットプレート上ガラス板に約400μm厚にキャストして80℃で0.5時間、120℃で0.5時間、150℃で0.5時間加熱した後、ガラス板からフィルムを剥離した。得られたフィルムは室温の純水に1日浸漬した後、2mol/Lの濃度の硫酸水溶液に2時間浸漬した。その後、洗浄水が中性になるまでフィルムを純水で洗浄し、空気中に放置して乾燥して、高分子電解質膜を得た。得られた高分子電解質膜について評価を行った。
【0081】
<実施例2〜11>
モノマーの種類及び仕込み量を変更した他は実施例1と同様にして高分子電解質膜を作製し、評価を行った。
【0082】
<実施例12>
DCBN 13.37g、MBP 16.67g、炭酸カリウム 11.61g、乾燥したモレキュラーシーブ3−A 10gを200mL四つ口フラスコに計り取り、窒素を流した。70mLのNMPを入れて、撹拌しながら、反応温度を195〜200℃に上昇させて系の粘性が十分上がるのを目安に反応を続けた(約3時間)。放冷の後、沈降しているモレキュラーシーブを除いて水中にストランド状に沈殿させた。得られたポリマーは、沸騰水中で1時間洗浄した後、乾燥した。これをポリマーAとする。別の200mL四つ口フラスコに、S−DCDPS 25.00g、MBP 11.36g、炭酸カリウム 7.91g、乾燥したモレキュラーシーブ3−A 10gを200mL四つ口フラスコに計り取り、窒素を流した。100mLのNMPを入れて、撹拌しながら、反応温度を195〜200℃に上昇させて系の粘性が十分上がるのを目安に反応を続けた(約3時間)。その後、先に重合したポリマーA 20.31gを60mLのNMPに溶解したものを加え、さらに1時間反応させた。放冷の後、沈降しているモレキュラーシーブを除いて水中にストランド状に沈殿させ、ブロック共重合ポリマーを得た。得られたポリマーは、沸騰水中で1時間の洗浄を2回行った後、乾燥した。得られたポリマー7gをNMP28gに溶解し、ホットプレート上ガラス板に約400μm厚にキャストして80℃で0.5時間、120℃で0.5時間、150℃で0.5時間加熱した後、ガラス板からフィルムを剥離した。得られたフィルムは室温の純水に1日浸漬した後、2mol/Lの濃度の硫酸水溶液に2時間浸漬した。その後、洗浄水が中性になるまでフィルムを純水で洗浄し、空気中に放置して乾燥して、高分子電解質膜を得た。得られた高分子電解質膜について評価を行った。
【0083】
<比較例1〜11>
モノマーの種類及び仕込み量を変更した他は実施例1と同様にして高分子電解質膜を作製し、評価を行った。
【0084】
<比較例12>
重合時間を16時間に変更した他は比較例1と同様にして高分子電解質膜を作製し、評価を行った。
【0085】
実施例及び比較例の高分子電解質膜の評価結果を表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
表1における略号は以下の化合物を表す。
SDS:3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン
SBP:3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロベンゾフェノン
BSS:3,3’−ジ−n−ブチルスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン
DCB:2,6−ジクロロベンゾニトリル
DCS:4,4’−ジクロロジフェニルスルホン
CBP:4,4’−ジクロロベンゾフェノン
MBP:4,4’−ジメルカプトビフェニル
BP :4,4’−ビフェノール
【0088】
比較例における高分子電解質膜を構成するポリマーの構造式を以下に示す。
【0089】
【化13】

【0090】
表1より、本発明におけるスルホン酸基含有ポリマーは、短時間で高重合度のポリマーを得ることができ、工業的に有用である。また、高分子電解質膜としたときにも、プロトン伝導性は、従来の構造の高分子電解質膜と同等である。さらに本発明の高分子電解質膜を用いた燃料電池は、従来の高分子電解質膜を用いた燃料電池よりも耐久性が改善されていることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明のスルホン酸基含有ポリマーは、従来のスルホン酸基含有ポリマーに比べてポリマーの物理的な耐久性をより向上しているため、燃料電池用高分子電解質膜に用いることによって燃料電池の特性を大きく改善することができ、産業界に寄与すること大である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明における実施例1で合成したポリマーを、VARIAN社製GEMINI−200を用いて、重水素化ジメチルスルホキシド中室温で測定したH−NMRスペクトルである。
【符号の説明】
【0093】
1.DMSO:重水素化ジメチルスルホキシド中のジメチルスルホキシドに由来するシグナル。
2.HO:ポリマーに吸着した水に由来するシグナル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される構造単位及び下記化学式1’で表される構造単位を少なくとも有することを特徴とするスルホン酸基含有ポリマー。
【化1】

[化学式1において、Xは−S(=O)−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、オキシアルキレン基、アリーレン基、及びベンゼン環との直接結合からなる群より選ばれる1種以上の基を表す。化学式1’において、Arは電子吸引性基を有する2価の芳香族基から選ばれる1種以上の基を表す。n及びmはそれぞれの構造単位のモル数で1以上の整数を表し、化学式1及び化学式1’で表される構造単位の結合形態は、ランダム、交互、ブロック及びグラフトのいずれであってもよい。]
【請求項2】
化学式1’におけるArが、下記化学式2〜5で表される構造から選ばれる一種以上の基である請求項1に記載のスルホン酸基含有ポリマー。
【化2】

【請求項3】
化学式1’におけるArが、化学式4又は5で表される構造である請求項2に記載のスルホン酸基含有ポリマー。
【請求項4】
RがSOY基とベンゼン環との直接結合である請求項1〜3のいずれかに記載のスルホン酸基含有ポリマー。
【請求項5】
化学式1及び化学式1’におけるn及びmが下記数式1を満たす請求項1〜4のいずれかに記載のスルホン酸基含有ポリマー。
0.05≦n/(n+m)≦0.70 (数式1)
【請求項6】
0.5g/dLのN−メチル−2−ピロリドン溶液の30℃における対数粘度が2.0〜5.0dL/gである請求項1〜5のいずれかに記載のポリマー。
【請求項7】
請求項1〜6に記載のスルホン酸基含有ポリマーからなる高分子電解質膜。
【請求項8】
請求項1〜6に記載のスルホン酸基含有ポリマーを含む組成物。
【請求項9】
高分子電解質膜又は電極触媒層の少なくとも一方に、請求項1〜6のいずれかに記載のスルホン酸基含有ポリマーを含むことを特徴とする膜/電極接合体。
【請求項10】
請求項9に記載の膜/電極接合体を有する燃料電池。
【請求項11】
下記化学式6で表される化合物を原料モノマーとして用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のスルホン酸基含有ポリマーの製造方法。
【化3】


【図1】
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【公開番号】特開2008−120956(P2008−120956A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−308610(P2006−308610)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】