説明

スロッシング防止構造

【課題】 支持部材で浮き屋根の振動を抑え、抵抗体で流体の運動を減衰させるスロッシング防止構造を提供すること。
【解決手段】 上下方向に伸縮する1対のアコーディオン機構29と、それらを連結する水平材25と、水平材25に固定された抵抗体27とからなるスロッシング防止構造5を、浮き屋根式タンク19の側壁に沿って複数基設置する。アコーディオン機構29には、上下方向の伸縮を制御する油圧ダンパ9を設ける。抵抗体27は、孔11を有する板状部材とする。アコーディオン機構29の上端部、下端部は、それぞれ、浮き屋根式タンク19の浮き屋根1、底版3に連結される。地震が発生すると、スロッシング防止構造5が、油圧ダンパ9でアコーディオン機構29の伸縮を制御して浮き屋根1の振動を減衰させつつ、アコーディオン機構29と抵抗体27とで、貯蔵された液体35の運動を減衰させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スロッシング防止構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のタンク内のスロッシングを防止する方法としては、(1)タンク内の液体の振動の固有周期が液位に依存して変化することを利用して地震動とスロッシング固有周期とが一致しないように液位を調節する方法、(2)スロッシングに伴う運動を妨げるように、タンクの側壁から抵抗体を設置し、流体運動のエネルギを減衰させる方法、などがあった(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開昭60−90186号公報
【0004】
浮き屋根を有する大規模な石油タンクでは、固有周期が地震の周期に比べて長いので、スロッシングは大きな問題とならないとされてきた。しかし、近年、地震動に関する研究が進み、長周期の地震動が存在し、浮き屋根式の石油タンクについてもスロッシングが発生する可能性があることが明らかになった。そこで、(3)浮き屋根から線条体を垂下させ、線条体に支持させた抵抗板を傾動させて、浮き屋根の揺動を抑止する方法が提案されていた(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献2】特開平9−142575号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、浮き屋根式タンクの浮き屋根には、油の受け入れや払い出しに伴って上下する油面に追随して上下し、油面と空気とが直接接触しないように被覆できる機能が要求される。(1)、(2)の方法は、浮屋根に要求される機能を満足しない。また、(3)の方法は、浮き屋根に要求される機能を満足するが、抵抗体の支持部材である線条体がスロッシング発生時にも浮き屋根の動きに追随するため、スロッシング防止効果が充分に発揮できない。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、支持部材で浮き屋根の振動を抑え、抵抗体で流体の運動を減衰させるスロッシング防止構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するための本発明は、浮き屋根式タンクのスロッシング防止構造であって、上端部が浮き屋根に連結され、下端部が底版またはアニュラー板に連結され、上下方向に伸縮する支持部材と、1対の前記支持部材の間に設置され、傾斜角度が変化する平板状の抵抗体とを具備し、前記1対の支持部材のうち少なくとも一方に設けられたダンパが前記支持部材の伸縮を制御することを特徴とするスロッシング防止構造である。
【0009】
抵抗体とは、孔を有する板状部材、複数のスリットを有する板状部材、格子状の板状部材等である。支持部材は、例えば、複数の棒材をラティス状に連結したアコーディオン機構であり、ダンパは、棒材の間に設けられて、アコーディオン機構の伸縮を制御する。
【0010】
抵抗体は、アコーディオン機構の伸縮に伴って傾斜角度が変化する。抵抗体は、対向するアコーディオン機構を連結する水平材に固定するのが望ましい。本発明のスロッシング防止構造は、浮き屋根式タンクの側壁に沿って配置される。
【0011】
本発明では、上端部が浮き屋根に連結され、下端部が底版またはアニュラー板に連結され、上下方向に伸縮する支持部材と、1対の支持部材の間に設置され、傾斜角度が変化する平板状の抵抗体とを有するスロッシング防止構造を、浮き屋根式タンクに設ける。スロッシング防止構造では、1対の支持部材のうち少なくとも一方に設けられたダンパを用いて、支持部材の伸縮を制御する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、支持部材で浮き屋根の振動を抑え、抵抗体で流体の運動を減衰させるスロッシング防止構造を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1は、垂直に切断した浮き屋根式タンク19の斜視図、図2は、浮き屋根式タンク19の水平断面図である。図1は、浮き屋根式タンク19を図2のB−Bに示す位置で切断した図、図2は、浮き屋根式タンク19を図1のA−Aに示す位置で切断した図である。
【0014】
図1に示すように、浮き屋根式タンク19は、浮き屋根1、底版3、側壁21、シール23、スロッシング防止構造5等からなる。側壁21は、例えば円筒状であり、底版3は、側壁21の下端面に設けられる。浮き屋根1は、側壁21の内部に配置される。シール23は、浮き屋根1と側壁21の間に配置される。スロッシング防止構造5は、図2に示すように、浮き屋根式タンク19の側壁21の内壁面37に沿って、所定の間隔で配置される。
【0015】
浮き屋根式タンク19の内部には、石油等の液体35が貯蔵される。浮き屋根1は、液体35と空気とが直接接触しないように液体35を被覆する。
【0016】
図3は、スロッシング防止構造5の斜視図である。図3に示すようにスロッシング防止構造5は、1対のアコーディオン機構29、1対のアコーディオン機構29の間に配置された抵抗体27、対向するアコーディオン機構29を連結する水平材25等からなる。アコーディオン機構29は、抵抗体27を支持するための支持部材である。スロッシング防止構造5は、水平材25が浮き屋根式タンク19の側壁21に略平行となるように配置される。
【0017】
アコーディオン機構29は、棒材をラティス状に配置し、棒材である斜材13の交差部(中央部及び端部)を固定ピン17によって連結したものである。固定ピン17は、斜材13同士を回転可能に連結する。
【0018】
アコーディオン機構29の上端部の斜材13aは、固定ピン17aによって、浮き屋根1の下面に固定された固定治具15に連結される。アコーディオン機構29の下端部の斜材13bは、固定ピン17aによって、底版3の上面に固定された固定治具15に連結される。
【0019】
アコーディオン機構29では、水平高さが同じである1組の固定ピン17の間に、油圧ダンパ9が固定される。油圧ダンパ9は、複数組の固定ピン17のうち、例えば、最下段の1組に設置される。油圧ダンパ9は、1対のアコーディオン機構29の双方に設置してもよいし、一方のみに設置してもよい。
【0020】
抵抗体27は、複数の孔11を有する板状部材である。抵抗体27は、斜材13のうち、浮き屋根式タンク19の側面21側の端部が中央側の端部より高い位置にある斜材13cに平行となるように配置される。抵抗体27は、2辺が水平材25に固定される。図3では、水平材25と斜材13cとをあらかじめ枠状に形成したものを図示したが、固定ピン17によって水平材25と斜材13cとを連結してもよい。
【0021】
図4は、スロッシング防止構造5の垂直断面図である。図4は、浮き屋根式タンク19を図2のC−Cに示す位置で切断した図である。図4の(a)図は、浮き屋根式タンク19に貯蔵された液体35の液位が高い場合のスロッシング防止構造5の状態を示す。図4の(b)図は、液体35の液位が低い場合のスロッシング防止構造5の状態を示す。
【0022】
図4に示すように、アコーディオン機構29は、固定ピン17を中心として斜材13を回転させて斜材13の傾斜角度を変化させることにより、上下方向に伸縮する。このとき、斜材13の傾斜角度と同様に、抵抗体27の傾斜角度も変化する。油圧ダンパ9は、水平方向に伸縮して、アコーディオン機構29の上下方向の伸縮を制御する。
【0023】
浮き屋根式タンク19に貯蔵された液体35の入出荷時に液位がゆっくりと上昇または下降した場合には、図4の(a)図および(b)図に示すように、浮き屋根1及び底版3に連結したアコーディオン機構29が徐々に伸縮することにより、浮き屋根1が液位の変動に追随して上下する。シール23は、浮き屋根1に追随して浮き屋根1と側壁21との間を封じる。
【0024】
スロッシングが発生するような周期の地震が発生した際には、アコーディオン機構29は、油圧ダンパ9の作用により、簡単には伸縮しないように制御される。また、アコーディオン機構29が浮き屋根1と底版3とを連結しているので、浮き屋根1の振動が減衰する。
【0025】
地震によるスロッシング発生時の液体35の動きは、側壁21の内壁面37付近では上下方向が主体となる。スロッシング発生時には、抵抗材27およびアコーディオン機構29が液体35の上下の流れに抵抗することにより、スロッシングの振動エネルギが減衰する。
【0026】
このように、本実施の形態では、アコーディオン機構29で浮き屋根1と底版3とを連結して浮き屋根1の振動を減衰させ、アコーディオン機構29とそれに支持された抵抗体27とで流体の運動を減衰させることにより、浮き屋根式タンク19に発生するスロッシングを防止できる。
【0027】
なお、図2では、浮き屋根式タンク19内に8基のスロッシング防止構造5を設置したが、スロッシング防止構造5の設置数は8基でなくてもよい。図5は、他の浮き屋根式タンク19aの水平断面図を示す。図5に示すように、スロッシング防止構造5の設置数を、例えば6基としてもよい。
【0028】
また、図3では、孔11を有する抵抗体27を図示したが、抵抗体の仕様はこれに限らない。図6は、他の抵抗体の平面図である。図6の(a)図は、抵抗体27aを示す。抵抗体27aは、複数のスリットを有する板状部材である。抵抗体27aは、例えば、アコーディオン機構29の斜材13cに、複数の棒材31を間隔をあけて固定することにより形成される。
【0029】
図6の(b)図は、抵抗体27bを示す。抵抗体27bは、格子状の板状部材である。抵抗体27bは、例えば、アコーディオン機構29の水平材25や斜材13cに格子材33を固定することにより形成される。
【0030】
さらに、本実施の形態では、アコーディオン機構29の下端部を底版3に固定したが、アニュラー板に固定してもよい。スロッシング防止構造5を設置する浮き屋根式タンクの水平断面は、円形に限らない。
【0031】
以上、添付図面を参照しながら本発明にかかるスロッシング防止構造の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】垂直に切断した浮き屋根式タンク19の斜視図
【図2】浮き屋根式タンク19の水平断面図
【図3】スロッシング防止構造5の斜視図
【図4】スロッシング防止構造の垂直断面図
【図5】他の浮き屋根式タンク19aの水平断面図
【図6】他の抵抗体の平面図
【符号の説明】
【0033】
1………浮き屋根
3………底版
5………スロッシング防止構造
9………油圧ダンパ
11………孔
13、13a、13b、13c………斜材
15………固定治具
17………固定ピン
19、19a………浮き屋根式タンク
21………側壁
25………水平材
27、27a、27b………抵抗体
29………アコーディオン機構
35………液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮き屋根式タンクのスロッシング防止構造であって、
上端部が浮き屋根に連結され、下端部が底版またはアニュラー板に連結され、上下方向に伸縮する支持部材と、
1対の前記支持部材の間に設置され、傾斜角度が変化する平板状の抵抗体と、
を具備し、
前記1対の支持部材のうち少なくとも一方に設けられたダンパが前記支持部材の伸縮を制御することを特徴とするスロッシング防止構造。
【請求項2】
前記抵抗体が、孔を有する板状部材、複数のスリットを有する板状部材、または、格子状の板状部材であることを特徴とする請求項1記載のスロッシング防止構造。
【請求項3】
前記支持部材が、複数の棒材をラティス状に連結したアコーディオン機構であり、前記ダンパが、前記棒材の間に設けられることを特徴とする請求項1記載のスロッシング防止構造。
【請求項4】
前記抵抗体が、前記アコーディオン機構の伸縮に伴って傾斜角度が変化するように、対向する前記アコーディオン機構を連結する水平材に固定されることを特徴とする請求項3記載のスロッシング防止構造。
【請求項5】
前記浮き屋根式タンクの側壁に沿って配置されることを特徴とする請求項1記載のスロッシング防止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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