説明

スーパーコイルDNAを固定する方法及びDNA修復を分析するための使用

スーパーコイルDNAサンプルを多孔性ポリマーフィルムの表面上に堆積させ、該スーパーコイルDNAを受動拡散によりその中に固定することからなる、スーパーコイルDNAを固定するための方法、本発明の方法により支持体を得る方法、及びDNA分布を分析するために該支持体を用いる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スーパーコイルDNAを固定する方法、及び支持体上に固定されたスーパーコイルDNAの、DNA修復の酵素反応を分析するための基質としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオチップは、生物医学的研究及び臨床診断のための必須の分析ツールになってきている。これらの強力なツールは、支持体上に固定されたDNAプローブ(オリゴヌクレオチド、cDNA、PCR増幅産物)、又はタンパク質プローブ(抗体、ペプチド)により数万〜数十万のサンプルを同時に分析することを可能にする。
【0003】
バイオチップは、多孔性フィルム[ナイロンで被覆されたガラス(Atlas arraysTM;Clontech);ヒドロゲルで被覆されたシリコーン(NanochipTM;Nanogen)、アクリルアミドポリマーのゲルであるHydrogelTMで被覆されたガラス(Perkin Elmer)、又はメタクリレートポリマーで被覆されたガラス(米国出願2005/0042363)]で任意に修飾された支持体(ガラス、ポリプロピレン、ポリスチレン、シリコーン、金属、ニトロセルロース又はナイロン)を用いて作製される。
【0004】
DNAプローブ又はタンパク質プローブを支持体に固定するのに、2種類の方法が用いられる。
* 予め合成したプローブの堆積と共有又は非共有結合形成による固定
プローブ(オリゴヌクレオチド(10〜25塩基)、ペプチド、cDNA又はPCR増幅フラグメント(最大で500 bp〜0.2 kb)、タンパク質(抗体))は、通常、自動ディストリビュータにより支持体上に堆積される(Lemmoら, Current Opinion in Biotechnology, 1998, 9:615〜617)。荷電されたプローブは、透過性の層(アガロースゲル)で被覆された微小電極をベースとする支持体の表面に堆積され、電気泳動によりゲル内に移動することができる(Hellerら, Electrophoresis, 2000, 21:157〜164)。
【0005】
さらに、コロニーハイブリダイゼーション技術の特定の場合において(Hanahan及びMeselson, Gene, 1983, 10:63〜67)、支持体上に堆積される細菌のコロニーは、ナイロン又はニトロセルロースのフィルタ上に移され、次いで、DNA (プラスミド又はコスミド)をフィルタ上に放出するように溶解される。
次いで、プローブは、共有結合若しくは非共有結合(疎水性、静電的)又はこれら2つの組み合わせにより、支持体上に固定される。
【0006】
共有結合は、通常、活性化された支持体の反応性官能基と、末端の一方で修飾されたプローブの反応性官能基との間で形成される(プローブについてリン酸基又はカルボン酸基、及び支持体についてアミン基、並びにその逆;プローブについてアミン基、及び支持体についてイソチオシアネート、アルデヒド又はエポキシ基;Zammateoら, Analytical Biochemistry, 2000, 208:143〜150)。
【0007】
支持体がポリアクリルアミドフィルムで被覆される場合、支持体は、ヒドラジンでの処理によるヒドラジド基の置換により活性化できる。3-メチルウリジン基で3'-修飾されたプローブは、過ヨウ素酸塩の存在下で酸化されて反応性アルデヒドを形成し、次いで支持体上に堆積される。ゲルのヒドラジン基とのプローブのアルデヒド基の反応は、DNAをアクリルアミドゲル中に固定する共有結合を形成する(Khrapkoら, DNA sequence, 1991, 6:375〜388; Yershovら, P.N.A.S., 1996, 93:4913〜4918)。ゲルの重合の間に、500ヌクレオチド未満の長さのアミノ化されたDNAフラグメントを固定することもできる(Rubinaら, Anal. Biochem., 2004, 325:92〜106)。
【0008】
ヒドロゲルで被覆された支持体は、特に、支持体の固定許容量を増加し、プローブの環境、感度及び検出閾値を改善することを可能にする。
さらに、UV照射又は1官能性若しくは2官能性のカップリング剤も、ポリ-L-リジンで被覆された支持体のアミン基と、DNAのチミジン残基(UV)又は修飾されたプローブのアミン基(グルタルアルデヒド)のいずれかとの間の共有結合を形成できる。
【0009】
非共有結合は、DNAとポリ-L-リジンで被覆された支持体との間の主に静電的相互作用を含む。
【0010】
* in situでのプローブの合成及び固定
オリゴヌクレオチドチップ(Southernら, Genomics, 1992, 4, 1008〜1017)又はペプチドチップの製造にのみ用いることができるこの方法は、共有結合形成と、オリゴヌクレオチドの合成とを、特にマスク(機械的又はフォトリソグラフィのマスク)を用いて区切られた領域上で同時に行うことを可能にする。
【0011】
これらの方法は、多くの用途に適するバイオチップを得ることを可能にする:遺伝子分析(配列決定、マッピング、多形、変異、遺伝子コピー数、発現プロフィール)、及びタンパク質/リガンド相互作用の分析(イムノアッセイ;タンパク質とDNA分子又はRNA分子又は小分子との間の相互作用)。
【0012】
しかし、DNA修復活性の分析のようなある種の分析は、特定のDNAプローブ、すなわちスーパーコイル環状二本鎖DNA (スーパーコイルプラスミド)を用い、その構造は支持体へのDNAの固定の間に必ず保たれなければならず、DNAが支持体上に一旦固定されると一定に保持されなければならない。実際に、DNA修復を分析するために用いられる基質は、損傷を受けたプリン又はピリミジン塩基(酸化的、光誘発、化学的付加による損傷)、損傷を受けた糖、損傷を受けた二重らせん構造(鎖間又は鎖内の架橋、挿入剤(intercalated agents))、及び/又はプラスミドを種々の遺伝毒性物質で処理し次いでスクロース又はセシウム勾配でスーパーコイルプラスミドを精製することにより誘発された切断を有するスーパーコイルプラスミドである。スーパーコイルプラスミドの精製は、切断(弛緩構造)を含むプラスミドを除去することを可能にする。これは、DNAのスーパーコイル構造を保つ上記のその他の種類の損傷とは異なって、切断がプラスミドのスーパーコイル構造を破壊し、弛緩構造を形成するからである。未処理のスーパーコイルプラスミド(損傷を有さないプラスミド)は、コントロールとしての役目をなす。分析される生物学的サンプルは、損傷を含むスーパーコイルプラスミド(損傷プラスミド)と標識ヌクレオシド三リン酸との存在下でインキュベートされる。DNA修復活性は、続いて、コントロールプラスミドに比べて、損傷プラスミドに組込まれた標識の量を測定することにより定量される。
【0013】
プラスミドを支持体に固定する間、及びその後に支持体に固定されたプラスミドを保存する間に生じるDNAへの意図しない損傷、特に切断(一本鎖又は二本鎖)は、分析されるサンプル中に含まれる修復システムにより修復される。つまり、修飾された塩基に加えて、切断の存在は、付随的に発生する標識の取り込みを導き、これが定量されて特異的塩基修復応答をマスクする。さらに、切断は、プラスミドの弛緩を誘発し、よって生物学的媒質のヌクレアーゼがより容易に接近することを可能にし、プラスミド修復活性の増加を導く。最後に、弛緩構造は、望ましくない重合反応の開始を増進する。DNAへの意図しない損傷、特に切断の修復は、よって、特異的損傷の修復をマスク又は干渉する。研究する損傷の特異的シグナルは、よって、非特異的シグナルにより生じるバックグラウンドノイズ中に失われ、DNA修復の分析を困難、又は不可能にさえする。
【0014】
バイオチップの作製方法のほとんどは、大きいサイズで特定の構造を有するDNA、例えばプラスミド(スーパーコイル環状DNA)を、その完全性を保ちながら固定できない。
【0015】
実際に、特許出願FR 0216435号に記載されるようなポリ-L-リジンで被覆されたスライド上の非共有結合形成によるスーパーコイルDNAの固定は、安定にDNA構造を保つことができず、固定されたプラスミドを含む支持体は、DNAの固定後直ちに用いなければならず、その工業的な使用を制限する。ヌクレオシド間のリン酸基が負に荷電されているDNAと、ポリ-L-リジンのカチオン基との間の相互作用は、多少迅速に、プラスミドのスーパーコイル構造に不安定性を生み出し、DNA中に切断を出現させ、望ましくない修復反応の準備をもたらす。よって、コントロールとしての非修飾プラスミドの修復速度の増加が、堆積の直後に行った反応に比べて、ポリ-L-リジンスライド上の堆積の数時間後に観察される。コントロールプラスミドについて検出されるこの修復速度は、スライドの保存時間に比例して増加する。同じ現象が、DNAへの損傷を含むプラスミドについて発生し、予測される特異的応答をマスクする。よって、スライドは、プラスミドの堆積の後非常に迅速に用いなければならず、このことが工業的な使用についての主な不都合である。
【0016】
プラスミドが固定されたポリ-L-リジンスライドの保存は、さらに、プラスミドの堆積及びスライドの貯蔵の間の湿度環境にかなり依存する。しかし、このパラメータは精密に制御するのが困難であり、このことがスライドの不ぞろいな保存時間をもたらす。保存の不ぞろいな性質は、この技術の使用をさらに制限する。さらに、プラスミドの堆積は湿潤環境で任意に行うことができるが、この代替法は満足できるものではない。なぜなら、ポリ-L-リジンスライドへのプラスミドの付着がより非効率的になり、得られる修復シグナルが弱いからである。
【0017】
この方法の別の不都合は、スライド上のプラスミド溶液の堆積の容量に関する。これは、数百ピコリットル程度である。しかし、堆積物中に含まれる水の蒸発速度は周囲湿度、周囲温度及び堆積する溶液中に存在する可能性があるアジュバントのような因子に依存するので、水の迅速な蒸発は、滴の周縁でのサンプルの濃縮と、それによる堆積物の均質性の欠如を導く危険性が常に存在する。堆積物の均質性の欠如は、堆積物のレベルで修復シグナルを定量する場合や、与えられた細胞媒質の修復能力を決定するため及び種々の媒質を互いに比較するために精密な定量が必要な場合に困難性をもたらす。それでもやはり、Rickmanら(Nucleic Acids Res., 2003, 31, e109)は、あるアジュバントが蒸発を遅延させることを示している。しかし、このような化合物の使用は、形態的不均質性又は堆積物のサイズの増加を導く。ある化合物が、堆積物の質の点で有利な結果を与えるようであるが、修復の研究には適さない。なぜなら、これらはホルムアミドの場合のようにプラスミドの変性を引き起こし得るからである(Rickmanら, 2003, 上記)。
【0018】
支持体へのDNAの共有結合形成は構想できない。なぜなら、これは応力を生じ、プラスミド上の切断の出現をもたらすからである。さらに、これは、DNAに損傷を導入し得る化学的及び/又は物理的な処理工程(加熱、UV照射)を含む。さらに、in situ合成法は、オリゴヌクレオチドチップの作製のためにのみ用いることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従って、DNAのスーパーコイル構造の完全性を維持し、DNAのその後の使用の目的、特に酵素的DNA修復反応における基質としての目的のためにこの構造を保持することを可能にするという点でこの分野における必要性をより充分に満たす、スーパーコイルDNAを支持体上に固定するための代替の方法を提供することに対する真の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、スーパーコイルDNAは、活性化されていないポリマーフィルムでの反応性官能基により活性化されていない(官能化されていない) DNAの受動拡散(passive diffusion)により、多孔性ポリマーフィルムに安定に固定できることを示した。これらの条件下において、固定されたDNAは、遺伝毒性物質への曝露により導入された損傷を含む場合であっても、そのスーパーコイル構造を数ヶ月間保持する。DNAは、固定されたDNAの大量のサンプルの調製と、特にDNA修復反応における基質としてのその後の使用の目的のためのその貯蔵とを可能にする多孔性ポリマーフィルムで被覆された小型支持体上に有利に固定される。
【0021】
従って、本発明の主題は、以下の工程;
- スーパーコイルDNAサンプルを多孔性ポリマーフィルムの表面上に堆積させ、
- スーパーコイルDNAを受動拡散により該多孔性ポリマーフィルムに固定させる
を含むことを特徴とする、スーパーコイルDNAを固定するための方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
定義
- スーパーコイルDNA:スーパーコイル環状二本鎖DNA分子、特にプラスミド。
- 多孔性ポリマーフィルム:1又は複数のポリマー鎖と溶媒とを含む三次元マトリクスの薄層であって、該マトリクスは、DNAのような巨大分子を含むことができる間隙(孔)を含む。ポリマーフィルムの厚さは、バックグラウンドノイズを制限できる程度に充分に小さい。フィルムの厚さは、好ましくは0.1 mm未満である。
- 固定:1又は複数のポリマー鎖と溶媒とからなる三次元マトリクス内での受動拡散によるDNAの浸透。
【0023】
これらの条件下で、当業者に知られる通常のバッファー、特にPBS、pH 7.4中で希釈されたスーパーコイルDNAは、電流の非存在下で多孔性ポリマーフィルムに浸透し(非電気泳動工程)、ポリマーフィルム又はDNAのいずれのその後の物理的又は化学的処理を行わずに、ポリマーマトリクスの間隙に固定される。このようにして固定されたスーパーコイルDNAは、数ヶ月間ポリマーフィルム中に安定に維持される。
【0024】
好ましい多孔性ポリマーの中でも、伸縮可能な(extendable)水性ポリマー(ヒドロゲル又は水性ゲル:多糖類、特にアガロース)、及び共有化学結合がポリマー鎖間に確立されてメッシュを形成するポリマー(ポリアクリルアミド)を挙げることができる。
【0025】
ポリマー中に固定されるDNAの量(固定許容量)は、ポリマーの性質及びその濃度に依存し、ヒドロゲルにDNA吸着剤を加えることにより増加できる。
【0026】
上記の方法の第一の有利な実施形態によると、ポリマーフィルムはポリアクリルアミドヒドロゲルである。これは、5%〜15%の50:1〜5:1 アクリルアミド:メチレンビスアクリルアミド混合物を含むことが好ましく、好ましくは5%〜15%の19:1混合物である。
【0027】
上記の方法の第二の有利な実施形態によると、ポリマーフィルムは、0.1%〜5%のDNA吸着剤、例えばゼラチン、コラーゲン又は多糖類、例えばアガロース、デキストラン又はグルコース若しくはスクロースポリマー、或いは該吸着剤の混合物を含む。該吸着剤は、好ましくはアガロース、好ましくは融点が有利には40℃未満の低融点アガロースである。
【0028】
上記の実施形態の有利な態様によると、ポリマーフィルムは、10%の19:1 アクリルアミド:メチレンビスアクリルアミド混合物と、0.8%の低融点アガロースとを含むポリアクリルアミドヒドロゲルである。
【0029】
上記の方法の第三の有利な実施形態によると、上記のスーパーコイルDNAは、プラスミドである。
【0030】
上記の方法の第四の有利な実施形態によると、上記のスーパーコイルDNAは、遺伝毒性物質により誘発された損傷を含む。好ましくは、該損傷は、単離プラスミド又は該プラスミドを含む細胞を、物理的又は化学的な遺伝毒性物質で処理することにより誘発された。この損傷の中でも、プリン又はピリミジン塩基への損傷(酸化的、光誘発、化学的付加による損傷)、糖への損傷、二重らせん構造への損傷(鎖間又は鎖内の架橋、挿入剤)、及び切断を挙げることができる。
【0031】
上記の方法の第五の有利な実施形態によると、多孔性ポリマーフィルムは、当業者に公知の適切な支持体、例えばガラス、金属、シリコーン又はプラスチックの支持体上に堆積される。これは、好ましくは、マイクロチップタイプの小型支持体である。これは、好ましくはガラススライドである。
【0032】
本発明の主題は、上記で定義される固定方法により得ることができる固定されたスーパーコイルDNAを含む、多孔性ポリマーフィルムで被覆された支持体でもある。
これは、有利には、損傷を受けたスーパーコイルDNAを含むポリアクリルアミドヒドロゲルで被覆されたガラススライドである。
【0033】
支持体の表面でのポリマーフィルムの重合及び堆積は、当業者に公知の通常の技術に従って行われる。本発明を行うために、全ての既知の技術を用いることができる。多孔性ポリマー、例えばポリアクリルアミドヒドロゲルは、アクリルアミドと重合手段とを含む水溶液から調製される。例えば、(i) 5%〜15%のアクリルアミド:メチレンビスアクリルアミド混合物(50:1〜5:1、好ましくは19:1)、(ii) 0%〜5%の上記で定義したようなDNA吸着剤、好ましくは多糖類、特に低融点アガロース、及び(iii) ラジカルの源、例えば0.001%〜0.1%の過硫酸アンモニウムと0.001%〜0.5%のTEMED (N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン)である。
【0034】
容易に調製されるポリマー組成物を用いることもでき、特にHydroGelTM (Perkin Elmer; www.perkinelmer.com/proteomics)のようなヒドロゲルである。
【0035】
支持体は、例えば、アミノシランで予め被覆されたガラススライドである。ヒドロゲルの水溶液は、その後、カバーガラスのような適切な手段を用いて支持体上に堆積され広げられて、薄い均質な層を形成する。ヒドロゲルは、用いる重合手段に応じて、任意に加熱又は紫外線への曝露により重合される。このようにして得られるポリマーフィルムで被覆された支持体は、好ましくは加熱により任意に乾燥できる。
【0036】
DNA、特にプラスミドは、Current Protocols in Molecular Biology (Frederick M. Ausubel, 2000, Wiley and Son Inc., Library of Congress, USA)に記載されるような標準的なプロトコルを用いて、通常の分子生物学的技術に従って調製される。
【0037】
遺伝毒性剤でのDNAの処理は、特許出願FR 0216435号に記載されるような標準的なプロトコルに従って、当業者に知られる通常の方法に従って行われる。
【0038】
スーパーコイルDNA画分は、特許出願FR 0216435号に記載されるような標準的なプロトコルに従って、スクロース勾配及び/又は塩化セシウム勾配遠心分離により単離される。
スーパーコイルDNAは、標準的なバッファー、例えばPBS、pH 7.4中で、好ましくは5及び100μg/mlの間、有利には20〜40μg/mlの濃度に希釈される。
スーパーコイルDNAは、次いで、ヒドロゲルで被覆された支持体の領域上に、例えば圧電ロボットのようなロボットを用いて、堆積される。
【0039】
本発明の主題は、10%の19:1 アクリルアミド:メチレンビスアクリルアミド混合物と0.8%の低融点アガロースを含む水性組成物の、スーパーコイルDNAを固定するための使用でもある。
【0040】
本発明の主題は、上記で定義されるような多孔性ポリマーフィルムに固定されたスーパーコイルDNAの、生物学的媒質中でのDNA修復を分析するための基質としての使用でもある。
DNA修復は、特に、出願FR 0216435号に記載されるDNA修復のための全体的及び特異的な能力の定量的評価のための方法に従って、分析できる。
【0041】
生物学的媒質中でのDNA修復の分析、及び特に生物学的媒質中でのDNA修復のための全体的及び特異的な能力の定量的評価は、与えられた媒質の修復プロフィールの確立、DNA修復に関連する疾患の診断、与えられた生物学的媒質の修復能力についての物理的又は化学的処置の影響の評価、及び生物学的媒質の修復システムを調節可能な物質のスクリーニングを可能にする。
【0042】
スーパーコイルDNA (損傷を含むDNA (損傷スーパーコイルプラスミド)及びコントロールDNA (スーパーコイルプラスミド))を固定するためのポリ-L-リジンの代わりのヒドロゲルの使用は、特に生物学的媒質中のDNA修復活性の測定において、以下の利点を有する。
- ヒドロゲルに固定されたプラスミドの安定性:
ヒドロゲル被覆支持体、例えばアクリルアミドポリマー上に固定されたプラスミドは、DNAへの損傷にもかかわらずそのスーパーコイル構造を、湿度の観点から制御されていない環境中で数週間保持する。よって、固定されたプラスミドを含む大量のスライドを同時に調製でき、数週間後にそれらを用いるまで容易に貯蔵できる。
【0043】
- DNA修復検出感度
修復シグナルの値の範囲はより広く、このことが、修復活性が分析されるサンプルのより正確な分析、特に、分析されるサンプル間の差に関してよりよい区別を可能にする。
【0044】
上記の態様に加えて、本発明は、酵素的DNA修復反応の基質としてのヒドロゲル中に固定された損傷スーパーコイルDNAの使用の実施例、及び添付の図面に言及する以下の記載から明らかになるその他の態様も含む。添付の図面において:
- 図1は、ポリアクリルアミドヒドロゲルで被覆されたガラススライド上に固定された損傷スーパーコイルDNAの、85日間の+4℃での安定性を示す。種々の物理的及び化学的物質により誘発された損傷を示すスーパーコイルプラスミドDNAは、実施例1に記載されるようにして調製され、次いで、コントロール(未処理)プラスミドを用いて希釈して、PBSバッファー中のプラスミドの全濃度を40μg/mlに維持した:損傷プラスミドのみ(4/4);30μg/mlの損傷プラスミドと10μg/mlのコントロールプラスミド(3/4);20μg/mlの損傷プラスミドと20μg/mlのコントロールプラスミド(1/2)。未処理のプラスミドDNAは、コントロールとして用いた。DNAサンプルを、ポリアクリルアミドヒドロゲルで被覆したガラススライド上に堆積させ、次いで、スライドを+4℃にて1、3、71及び85日間(D1、D3、D71及びD85)保存した後に、蛍光の放射を測定することによりDNA修復を評価した。蛍光の値は、任意の単位(a.u.)で表す。T:コントロール。UVC:UVC照射(0.3 J/cm2)。endo:ナフタレンエンドペルオキシドでの処理。DDE:トランス,トランス-2,4-デカジエナールでの処理。CIS:シスプラチンでの処理。PSO:ソラレンでの処理。ABA:塩基脱落部位の誘発。U:ウラシルの導入。
【0045】
- 図2は、ポリ-L-リジンで被覆されたガラススライド上に固定された損傷スーパーコイルDNAの+4℃での安定性を示す。種々の物理的及び化学的物質により誘発された損傷を示すスーパーコイルプラスミドDNAは、実施例1に記載されるようにして調製され、次いで、コントロール(未処理)プラスミドを用いて希釈して、PBSバッファー中のプラスミドの全濃度を40μg/mlに維持した:損傷プラスミドのみ(4/4);30μg/mlの損傷プラスミドと10μg/mlのコントロールプラスミド(3/4);20μg/mlの損傷プラスミドと20μg/mlのコントロールプラスミド(1/2)。未処理のプラスミドDNAは、コントロールとして用いた。DNAサンプルを、ポリ-L-リジンで被覆したガラススライド上に堆積させ、次いで、DNA修復を、堆積の直後に蛍光の放射を測定することにより(D0)評価したか、又はスライドを+4℃に1日間保存(D1)した後にDNA修復を評価した。T:コントロール。UVC:UVC照射(0.3 J/cm2)。endo:ナフタレンエンドペルオキシドでの処理。DDE:トランス,トランス-2,4-デカジエナールでの処理。CIS:シスプラチンでの処理。PSO:ソラレンでの処理。ABA:塩基脱落部位の誘発。U:ウラシルの導入。
【実施例】
【0046】
しかし、これらの実施例は、本発明の主題を説明するためにのみ与えられ、限定を構成しないことが理解されるべきである。
【0047】
実施例:ヒドロゲルに固定されたDNAの、DNA修復分析用の基質としての使用
ポリ-L-リジン又はヒドロゲルのいずれかで被覆された支持体上に固定されたDNAの修復を比較するのに用いたDNA修復試験の原理は、特許出願FR 0216435号に記載される。
【0048】
1) 材料及び方法
a) 損傷を含むスーパーコイルDNAの調製
プラスミド(pBluescript II, Stratagene)を、大腸菌(E. coli)のXL1 blue MRF'株(Stratagene)を供給業者により供給されたプロトコルに従って形質転換することにより作製する。プラスミドは、Plasmid midi kitTM (Qiagen)を用いて精製し、PBSバッファー(10 mMリン酸塩, pH 7.4, 137 mM NaCl, 2 mM KCl)中で希釈する。
【0049】
プラスミドは、その中に損傷を導入するために、以下に示す種々の物理的又は化学的物質を用いて処理する:
- UVC照射(UVC)
PBS中の溶液のプラスミド(25μl; 40μg/ml)に、254 nmで照射するランプを用いて照射する。受容線量は、0.3 J/cm2 (図1及び2)又は0.03、0.06及び0.12 J/cm2 (図3)である。
【0050】
- ナフタレンエンドペルオキシドでの処理(Endo)
20μlの50 mMナフタレンエンドペルオキシド(N,N'-ジ(2,3-ジヒドロキシプロピル)-1,4-ナフタレンジプロパンアミド 1,4-エンドペルオキシド、J. Biol. Chem., 2000, 275, 40601〜40604に記載されるようにして調製)を、PBS中に1 mg/mlのプラスミド200μlと、37℃にて2時間インキュベートする。
【0051】
- トランス,トランス-2,4-デカジエナールでの処理(DDE)
PBS中に1 mg/mlのプラスミド200μlを、200μlの0.2 M炭酸/重炭酸バッファー, pH 9.2、及び200μlのテトラヒドロフランと混合し、ここに4μlのDDE (5.7 M)及び12μlのH2O2 (8.8 M)を加える。混合物を暗所にて50℃で16時間インキュベートする。次いで、DDEを、ジクロロメタンを用いる2回の抽出により除去する。
【0052】
- シスプラチンでの処理(CIS)
PBS中に1 mg/mlのプラスミド150μlを、ジメチルスルホキシド(DMSO)中に15 mg/mlのシス-ジアミンジクロロ白金(II)の溶液1μlと、37℃にて2時間処理する。
【0053】
- ソラレンでの処理(PSO)
PBS中に1 mg/mlのプラスミド150μlを、120μMのソラレンの溶液20μlと混合し、365 nmで、1.48 J/cm2の線量で照射する。
【0054】
- 塩基脱落部位の創出(ABA)
1 mg/mlのプラスミド100μlを、12μlのKCl (2 M)を含有するクエン酸ナトリウム0.05 M、pH 4.8中で、70℃にて4時間インキュベートする。
【0055】
- ウラシルの導入(U)
プラスミド(pBluescript II, Stratagene)を、供給業者により供給されたプロトコルに従って、ウラシル-DNA-グリコシラーゼ活性欠損の大腸菌株(UNG-)の形質転換により作製する。プラスミドは、Plasmid midi kitTM (Qiagen)、次いでスクロース勾配を用いて精製する。
次いで、処理したプラスミドを、出願FR 0216435号に記載されるようにして沈殿させ、スクロース勾配で精製し、少なくとも90%のスーパーコイルプラスミドを含有する画分を回収する。損傷を含むスーパーコイルDNAの種々の調製物、及び損傷を有さないスーパーコイルDNAを含む未処理のコントロールプラスミドは、PBS中で40μg/mlに希釈する。
【0056】
b) 支持体の調製及びDNAの堆積
ポリ-L-リジンで被覆されたガラススライドは、VWR Internationalから得る。
【0057】
b1) ポリアクリルアミドヒドロゲルで被覆されたガラススライドの調製
ガラススライド(76×26 mm)をスライドホルダに入れ、次いで、4 mlのバインド-シラン(3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン)及び220μlの氷酢酸を全容量1リットルの蒸留水中に含む溶液中で、撹拌しながら1時間インキュベートする。次いで、スライドを蒸留水で3回及びエタノールで1回すすぎ、吸引フード内で乾燥させる。
【0058】
ポリアクリルアミドヒドロゲルは水溶液であり、これは、10%のアクリルアミドとメチレンビスアクリルアミドとの19:1混合物、0.8%の低融点アガロース(Tebu-Bio)、0.06%の過硫酸アンモニウム、及び0.065%のTEMED (N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン)を含むPBSバッファー(又はTBEバッファー)からも調製できる。100μlのこの溶液を、上記のようにして調製したガラススライド(76×26 mm)上に均一に堆積させ、カバーガラスを用いて薄くかつ均等に広げる。カバーガラスで覆われたスライドを40℃にて5分間加熱して、ゲルが固まることを可能にする。次いで、カバーガラスを除去し、ゲルを有するスライドを、ヒドロゲルを乾燥させるために40℃で3分間再加熱する。ポリアクリルアミドヒドロゲルで被覆されたスライドは、+4℃で保存する。これらは、使用前に少なくとも24時間、+4℃にて保存することが好ましい。
【0059】
b2) DNAサンプルの堆積
サンプル中の全プラスミド濃度は、PBSバッファー中に40μg/mlであり、より具体的には、図1及び2による:損傷プラスミドのみ(4/4);30μg/mlの損傷プラスミド及び10μg/mlのコントロールプラスミド(3/4);20μg/mlの損傷プラスミド及び20μg/mlのコントロールプラスミド(1/2)。損傷を受けていないスーパーコイルプラスミドDNAを、コントロールとして用いる。
【0060】
3滴のDNAサンプル(約500ピコリットルの全容量)を、圧電ロボット(Scieflexarrayer, Scienion)を用いて、スライドの各領域上に堆積させる。
ポリ-L-リジン被覆スライドは、堆積の直後(D0)に用いるか、又は4℃にて24時間保存(D1)した後に、DNA修復を分析する(D1)。
【0061】
4℃にて24時間のDNAの受動固定の後に、ヒドロゲルで被覆したスライドを、DNA修復の分析のために用いる(D1)か、又は同じ温度で種々の期間保存した後に、DNA修復を分析する(D3、D71、D85)。
【0062】
c) 修復反応及び修復シグナルの測定
DNA修復システムを含有しそうな細胞溶解物(25μl;HeLa細胞からの核抽出物のタンパク質0.6 mg/ml;Cil Biotech)と、生物学的媒質のタンパク質が修復反応を行うために必要な種々の化合物(5μlのATGバッファー(200 mM Hepes KOH pH 7.8, 356 mM MgCl2, 2.5 mM DTT, 1.25 pM dATP, 1.25 pM dGTP, 1.25 pM TTP, 17%グリセロール, 10 mM EDTA, 250μg/mlクレアチンホスホキナーゼ, 50 mMホスホクレアチン, 10 mM ATP, 1.25μM dCTP-Cy5))とを含有する溶液(30μl)を、固定DNAの種々のサンプルを含有するスライドの各領域に堆積させる。スライドを、30℃にて3時間インキュベートする。次いで、スライドを、0.5%のTween 20含有PBS (3分間を2回)、及び蒸留水(3分間を2回)中で連続して洗浄する。遠心分離(800 rpm、3分)により乾燥させた後に、蛍光シグナルを測定し(Genepix 4200Aスキャナ, Axon)、Genepix Pro 5.1ソフトウェア(Axon)を用いて分析する。シグナルを、各領域のシグナルの中央値に関して標準化する。
【0063】
2) 結果
a) DNA修復評価の感度における改善
ヒドロゲルで被覆されたスライド上に固定されたDNAは、DNAサンプルの受動固定の後に行われたDNA修復測定の比較(図1)により示されるように、DNA修復活性の検出感度を増加させることができる。
実際に、修復を研究したDNA損傷の種類に関係なく、ポリ-L-リジンの使用に比べて(D0での種々の損傷について9000〜12000の任意の単位のシグナル)、ポリアクリルアミドヒドロゲルの使用は、DNA修復シグナルを、より大きい範囲の値のうちで得ることを可能にする(D1での種々の損傷について11000〜20000の任意の単位のシグナル)。この違いは、ヒドロゲル中に固定されたDNAの量及び/又は質、並びにこの媒質中の修復反応の効率の改善により説明できるであろう。
【0064】
b) 固定DNAの安定性
ヒドロゲルで被覆されたスライド上に固定されたDNAは、ヒドロゲル上のDNAの堆積後の種々の時間で行ったDNA修復試験の結果(図1)により示されるように、2ヶ月を越えて安定である。D71において、DNA修復活性は、修復を研究した損傷の種類に関係なく、D1で検出されたものに匹敵する。さらに、コントロールDNAを用いてD1に観察されたバックグラウンドノイズがより低いことは、ヒドロゲル中のDNAの固定の間のDNA構造がよりよく保たれていることを反映している。
【0065】
ポリ-L-リジン被覆スライド上に固定されたDNAとの比較により、コントロールDNAサンプル及び損傷DNAの両方でのDNA修復シグナルにおける迅速な増加(D1)とともに、より高いバックグラウンドノイズがコントロールDNAを用いてD0に観察され、このことはDNA中の追加の切断の出現を示す。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】ポリアクリルアミドヒドロゲルで被覆されたガラススライド上に固定された損傷スーパーコイルDNAの、85日間の+4℃での安定性を示す。
【図2】ポリ-L-リジンで被覆されたガラススライド上に固定された損傷スーパーコイルDNAの+4℃での安定性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
- スーパーコイルDNAサンプルを、多孔性ポリマーフィルムの表面上に堆積させ、
- 前記スーパーコイルDNAを受動拡散により前記多孔性ポリマーフィルムに固定させる
を含むことを特徴とする、スーパーコイルDNAを固定する方法。
【請求項2】
前記多孔性ポリマーが、ポリアクリルアミドヒドロゲルであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリアクリルアミドヒドロゲルが、5%〜15%の50:1〜5:1のアクリルアミド:メチレンビスアクリルアミド混合物を含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリアクリルアミドヒドロゲルが、5%〜15%の19:1のアクリルアミド:メチレンビスアクリルアミド混合物を含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリマーフィルムが、0.1%〜5%のDNA吸着剤を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記吸着剤が多糖類であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記吸着剤がアガロースであることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記吸着剤が低融点アガロースであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリアクリルアミドヒドロゲルが、10%の19:1のアクリルアミド:メチレンビスアクリルアミド混合物と、0.8%の低融点アガロースとを含むことを特徴とする請求項4〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記スーパーコイルDNAがプラスミドであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記スーパーコイルDNAが、遺伝毒性物質により誘発された損傷を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記多孔性ポリマーフィルムが、適切な支持体上に堆積されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記支持体がガラススライドであることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の方法により得ることができる、固定されたスーパーコイルDNAを含む多孔性ポリマーフィルムで被覆された支持体。
【請求項15】
損傷を受けたスーパーコイルDNAを含むポリアクリルアミドヒドロゲルで被覆されたガラススライドであることを特徴とする請求項14に記載の支持体。
【請求項16】
10%の19:1のアクリルアミド:メチレンビスアクリルアミド混合物と、0.8%の低融点アガロースとを含む水性組成物の、スーパーコイルDNAを固定するための使用。
【請求項17】
請求項1〜13のいずれか1項で定義される多孔性ポリマーフィルムに固定されたスーパーコイルDNAの、DNA修復を分析するための基質としての使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−546398(P2008−546398A)
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−517529(P2008−517529)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【国際出願番号】PCT/FR2006/001378
【国際公開番号】WO2006/136686
【国際公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(506315103)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE
【住所又は居所原語表記】25,rue Leblanc Immeuble(Le Ponant D),75015 PARIS,France
【Fターム(参考)】