説明

セキュリティキットおよびセキュリティインク

本発明は、セキュリティインクとデコーダ基材とを含むセキュリティキットであって、該セキュリティインクが、少なくとも1種の着色剤と少なくとも1種のマーカー物質を含み、着色剤とマーカー物質とは反対の溶解性を有しており、該デコーダ基材が該マーカー物質を吸収することができる、セキュリティキットに関し、及びまた、セキュリティインクに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セキュリティインクとデコーダ基材とを含むセキュリティキットであって、該セキュリティインクが、着色剤とマーカー物質とを含み、着色剤とマーカー物質とは反対の溶解性を有しており、かつ該デコーダ基材が該マーカー物質を吸収することができる、セキュリティキットに関する。
【背景技術】
【0002】
多くの分野で、文書の信憑性を保証することに大きな関心がもたれている。偽造に対して保護することが知られている1つの方法は、めだたなさにより裸眼で気づかれなくする、付加的な二次情報を使用することである。印刷方法及び/又は印刷流体において、励起して蛍光を発し、それによって同様に、偽造防止のセキュリティを増すことができる有機分子を使用することがまた、知られている。しかしながら、これらの方法は、非常に高価な、及び/又は複雑な装置を必要とするか、或いはそれらの特異性が低いために、正確な識別をするために必要なはっきりした差異を与えることができないという欠点を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明の目的は、十分な特異性を与える手段と方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
今や、意外なことに、以下に記載される性質を有する、第1にセキュリティインクと第2にデコーダ基材とを提供することによって、この目的が達成されることを見いだした。
【0005】
本発明は、セキュリティインクとデコーダ基材とを含むセキュリティキットであって、該セキュリティインクが、少なくとも1種の着色剤と少なくとも1種のマーカー物質とを含み、着色剤とマーカー物質とが反対の溶解性を有しており、かつ該デコーダ基材が前記マーカー物質を吸収することができる、セキュリティキットに関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
好適な着色剤は、一般に、例えば、インクに使用されるすべての着色剤である。
【0007】
従って、キナクリドン顔料、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、ジオキサジン顔料、インジゴイド顔料、イソインドリノン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料若しくはピロロピロール顔料、又は分散染料、油溶性染料若しくはバット染料などの水不溶性着色剤が好適である。特に好ましいものとしては、C.I.Pigment Blue 15:4、C.I.Pigment Red 122、C.I.Pigment Yellow 74、C.I.Disperse Blue 60、C.I.Disperse Red 92、C.I.Disperse Yellow 114、特には、Carbon Blackがあげられる。
【0008】
しかしながら、極めて良好な水溶性を有するが、トルエン、アセトン、クロロホルム、リグロイン、ヘキサン、シクロヘキサン、エチルアセトアセテート、ジエチルエーテル、エタノール、メタノール、又は塩化メチレンなどの炭化水素に溶解性が乏しいかまたは不溶である着色剤も好適である。このような着色剤の例としては、C.I.Reactive Black 8及び31、C.I.Reactive Red 23、120、141、及び180、C.I.Direct Blue86及び199、C.I.Direct Yellow 86及び132、C.I.Direct Black 168、C.I.Acid Yellow 23、C.I.Acid Red 52、C.I.Acid Black 194、並びにC.I.Food Black 2が挙げられる。
【0009】
本発明の目的のためのマーカー物質は、例えば可溶性物質、例としては、C.I.Acid Yellow 83などの水溶性染料などであり、又は、例えば可溶性蛍光化合物、特には蛍光増白剤であるか、或いは、アゾカップリング反応でカップリング成分として作用することができる(すなわち、ジアゾニウム塩と反応してアゾ染料を形成する)有機化合物である。
【0010】
好ましい蛍光増白剤としては、特に、例えば、ジアミノスチルベンジスルホン酸系、ヘテロ芳香族エチレン誘導体系、クマリン系、ジアリールピラゾリン系、ナフチルイミド系、キノロン系若しくはベンゾオキサゾール系、ベンゾイソオキサゾール系、及びベンゾイミダゾール系に属する市販品がある。さらに、トリアゾール系及びベンゾチアゾール系の製品類に由来する、強く蛍光を発する化合物を有利に使用することができる。例として、7−アミノ−2−(4−アミノ−2−スルホフェニル)−2H−ナフト[1,2−d][1,2,3]−トリアゾール−5,9−ジスルホン酸又は2−(4−アミノフェニル)−6−メチルベンゾチアゾールを挙げることができる。
【0011】
本発明の意味でマーカー物質として作用することができるカップリング成分は、特に一連のピリドン系、ピラゾロン系、アミノベンゼン誘導体、ヒドロキシベンゼン誘導体、アミノナフタレン誘導体、及びヒドロキシナフタレン誘導体に由来する。
【0012】
本発明の意味で好ましいマーカー物質は、例えば、C.I.Fluorescent Brightners 127、184、199及び393などの、プラスチック及び合成繊維用の市販の蛍光増白剤などの水不溶性化合物、及びまた他の、スルホン酸基又はカルボン酸基(例えば、C.I.Solvent Yellow 160)などの水可溶化置換基をもたない強く蛍光を発する物質、並びにまた、特に、C.I.Fluorescent Brightners 85、113、186、190、220、及び260などの、綿及び紙などのセルロース繊維用の市販の蛍光増白剤などの水溶性物質、及びまた他の、スルホン酸基又はカルボン酸基などの水溶性置換基を有する強く蛍光を発する物質である。
【0013】
着色剤とマーカー物質とは、反対の溶解性を有さなければならない。本発明において、このことは、例えば、着色剤が水不溶性である場合、マーカー物質は水溶性でなければならず、そして着色剤が水溶性である場合、マーカー物質は水不溶性でなければならないことを意味する。
【0014】
本発明におけるセキュリティインクは、好ましくは、水不溶性着色剤、および、それゆえに、水溶性マーカー物質を含む水性インクである。特に好ましい本発明におけるセキュリティインクは、マーカー物質として、蛍光化合物、又はアゾカップリング反応でカップリング剤として作用することができる有機化合物を含む市販の各種カーボンブラックインクである。さらに、蛍光化合物と、アゾカップリング反応でカップリング成分として作用することができる有機化合物との混合物をマーカー物質として含むカーボンブラックインクが、特に好ましい。この場合のマーカー物質の量は、セキュリティインクの総重量を基準として、好ましくは0.01〜2重量%である。
【0015】
本発明の文脈におけるデコーダ基材は、マーカー物質を吸収することができ、その表面でマーカー物質が可視であるか、又は可視化され得る基材である。この基材は、吸収性があり、それゆえに、マーカー物質が溶解する、水及び/又は有機液体を、捕捉することができるデコーダ基材を含む。好ましいデコーダ基材は、シート状の、織物基材または非織物基材である。特に好ましいシート状の織物基材は、例えば、セルロース、綿、羊毛、絹、ポリアミド(ナイロン)、ポリアクリロリトリル、ポリプロピレン、又はポリエステルからできているものである。特に好ましいシート状の非織物基材は、例えば、紙、ポリエステル、ポリウレタン、ゴム、ニトロセルロース、又は皮革からできているものである。とりわけ好ましいデコーダ基材は、ろ紙である。
【0016】
本発明のセキュリティキットは、紙基材又はシート状プラスチック基材などの筆記可能な基材または印刷可能な基材に該セキュリティインクを用いて印刷または記載することによって有利に使用される。
【0017】
このように作製された文書を信憑性について試験する場合に、マーカー物質は、原本又は印刷物の小領域からデコーダ基材に転写され、そしてデコーダ基材上で可視であるか、又は可視化される。
【0018】
マーカー物質の転写および可視化については、その物質に依存する。例えば、使用されるマーカー物質が水溶性蛍光化合物である場合、好ましいデコーダ基材はろ紙であり、このろ紙を水で湿めらせて、数秒間試験基材と密接に接触させる。デコーダ基材の表面に拡散したマーカー物質は、紫外線への暴露および特有の蛍光の帰属によって同定することができる。使用されるマーカー物質が、アゾカップリング反応でカップリング剤として作用することができる有機化合物である場合、同様に、湿ったろ紙への転写が適切である。次いで、ろ紙表面で好適なジアゾニウム塩(例えば、市販のfast salt)と接触させ、その後発現したアゾ染料の特徴付けを行う。
【0019】
マーカー物質に依存して、さらなる検出方法もまた用いることができる。言及し得る一例は、近赤外分光法の検出方法である。
【0020】
本発明のセキュリティキットは、セキュリティインクとデコーダ基材のみでなく、またさらなる手段を含んでもよい。このようなさらなる手段の例としては、マーカー物質の検出に必要な手段、例えば、アゾカップリング反応でカップリング剤として作用することができる有機化合物を検出するための各種ジアゾニウム塩(fast salts)があげられる。
【0021】
デコーダ基材に浸透でき、そしてマーカー物質を試験下の文書より抽出することができる溶媒または溶媒混合物も可能である。
【0022】
本発明におけるセキュリティインクのあるものは知られている。例えば、KR10 2004 0060393A号の要約書には、不溶性顔料に加えて蛍光染料も含むインクが記載されている。その一方で、マーカー物質として、アゾカップリング反応でカップリング成分として作用することができる有機化合物を含むセキュリティインクは、なお依然として新規である。
【0023】
本発明は、それゆえ、少なくとも1つの水不溶性着色剤と、アゾカップリング反応でカップリング成分として作用することができる有機化合物とを含む水性セキュリティインクを提供する。
【0024】
好ましい水不溶性着色剤と、アゾカップリング反応でカップリング成分として作用することができる有機化合物とは、それぞれ、上記で好ましいとして特定された、着色剤と化合物とである。
【0025】
本発明におけるセキュリティインクは、例えば、インクの総重量を基準として、0.1重量%〜50重量%、好ましくは1重量%〜30重量%、さらに好ましくは1重量%〜15重量%の量で着色剤を含む。
【0026】
アゾカップリング反応でカップリング成分として作用することができる有機化合物は、本発明のセキュリティインク中に、デコーダ基材上に発現されたアゾ染料を信頼できるものとして検出することを可能とするのに少なくとも十分な量で存在していなければならない。
【0027】
通常、セキュリティインクの総重量を基準として、0.01重量%〜2重量%がこの目的に十分である。
【0028】
本発明におけるセキュリティインクは、当然ながら、さらにインクに通例の助剤および添加物も含む。当業者であればこれら助剤および添加物について知るところである。
【0029】
本発明のセキュリティキットの利点は、文書の信憑性の試験を大きな技術的費用や複雑さ無しで実際上どこでも実施することができるという理由から、特にその使い易さにある。例えば、上述の方法は、さらに予備処理すること無く、市販の印刷紙および印刷機を使用してマーク入り文書を作製することができるので、情報担体の製造に関して特別に必要なこともまったくない。一方、デコーダ基材によるその後の同定がないと、マーキングを認識できず、その結果、製品がマークされているのか直ちには全く明らかではない。
【0030】
以下の実施例は本発明を例示するものである。
【実施例】
【0031】
実施例1
カーボンブラックをベースとした100gの市販の黒色インク(black ink)と1gのC.I.Fluorescent Brighter 220とを混合した。このインクを用いて印刷した文書の信憑性について、少量の水で湿らせた綿布を文書の印刷領域に約5秒間押圧することによって保証した。綿布上の押印(imprint)を紫外線下で可視化した。
【0032】
実施例2
C.I Pigment Blue 15:4、C.I.Pigment Red 122、およびC.I.Pigment Yellow 74をベースとした100gの市販の顔料インクと0.1gのC.I.Fluorescent Brightner 260とを混合した。このインクを用いて印刷した文書の信憑性について、少量の水で湿らせたセルロースろ紙を文書の印刷領域に約5秒間押圧することによって保証した。セルロースろ紙上の押印を紫外線下で可視化した。
【0033】
実施例3
カーボンブラックをベースとした100gの市販のインクと0.5gの7−アミノ−2−(4−アミノ−2−スルホフェニル)−2H−ナフト[1,2−d][1,2,3]トリアゾール−5,9−ジスルホン酸とを混合した。このインクを用いて印刷した文書の信憑性について、少量の水で湿らせた羊毛布を文書の印刷領域に約5秒間押圧することによって保証した。羊毛布上の押印を紫外線下で可視化した。
【0034】
実施例4
C.I.Disperse Blue 60、C.I.Disperse Red 92、およびC.I.Disperse Yellow 114をベースとした100gの市販のインクと0.5gのC.I.Fluolescent Brightner 260とを混合した。このインクを用いて印刷した文書の信憑性について、少量の水で湿らせたセルロースろ紙を文書の印刷領域に約5秒間押圧することによって保証した。セルロースろ紙上の押印を紫外線下で可視化した。
【0035】
実施例5
カーボンブラックをベースとした100gの市販のインクと、0.1gのC.I.Fluorescent Brightner 186及び1gの4−アミノ−5−ヒドロキシナフタレン−2,7−ジスルホン酸とを混合した。このインクを用いて印刷した文書の信憑性について、少量の水で湿らせたセルロースろ紙を文書の印刷領域に約5秒間押圧することによって保証した。セルロースろ紙上の押印を紫外線下で可視化した。次いで、ろ紙をFast Scarlet VD saltの水溶液でコートした。赤い染料が発現された。
【0036】
実施例6
100gの市販の水溶性インクと0.2gのC.I.Fluorescent Brightner 127とを混合した。このインクを用いて印刷した文書の信憑性について、少量のアセトンで湿らせたセルロースろ紙を文書の印刷領域に約5秒間押圧することによって保証した。セルロースろ紙上の押印を紫外線下で可視化した。さらに、マーカー物質を近赤外分光法記録により同定した。
【0037】
実施例7
100gの市販の水溶性インクと0.5gのC.I.Solvent Yellow 160とを混合した。このインクを用いて印刷した文書の信憑性について、少量のトルエンで湿らせたセルロースろ紙を文書の印刷領域に約5秒間押圧することによって保証した。ろ紙上に紫外線下で蛍光を発する緑黄色の染料が存在した。
【0038】
実施例8
100gの市販の水溶性インクと0.2gの2−(4−アミノ−フェニル)−6−メチルベンゾチアゾールとを混合した。このインクを用いて印刷した文書の信憑性について、ニトロセルロース帯片を文書の印刷領域に約5秒間押圧することによって保証した。ニトロセルロース帯片上の押印を紫外線下で可視化した。
【0039】
実施例9
カーボンブラックをベースとした100gの市販のインクと0.5gのC.I.Acid Yellow 83とを混合した。このインクを用いて印刷した文書の信憑性について、少量の水で湿らせたポリアミド(ナイロン)布を文書の印刷領域に約5秒間押圧することによって保証した。布上に、紫外線下で蛍光を発する緑黄色の染料が存在した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セキュリティインクとデコーダ基材とを含むセキュリティキットであって、前記セキュリティインクが、少なくとも1種の着色剤と少なくとも1種のマーカー物質とを含み、着色剤とマーカー物質とは反対の溶解性を有しており、かつ前記デコーダ基材が前記マーカー物質を吸収することができる、セキュリティキット。
【請求項2】
使用される着色剤が、キナクリドン顔料、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、ジオキサジン顔料、インジゴイド顔料、イソインドリノン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料若しくはピロロピロール顔料、又は分散染料、油溶性染料若しくはバット染料である、請求項1に記載のセキュリティキット。
【請求項3】
カーボンブラックが着色剤として使用される、請求項1に記載のセキュリティキット。
【請求項4】
使用される前記マーカー物質が、可溶性蛍光化合物、又はアゾカップリング反応でカップリング成分として作用することができる有機化合物を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のセキュリティキット。
【請求項5】
使用される前記デコーダ基材が、セルロース、綿、羊毛、絹、ポリアミド(ナイロン)、ポリアクリロニトリル、ポリプロピレン若しくはポリエステルからできているシート状織物基材、又は紙、ポリエステル、ポリウレタン、ゴム、ニトロセルロース若しくは皮革からできているシート状非織物基材を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のセキュリティキット。
【請求項6】
少なくとも1種の水不溶性着色剤と、アゾカップリング反応でカップリング成分として作用することができる有機化合物とを含む水性セキュリティインク。
【請求項7】
アゾカップリング反応でカップリング成分として作用することができる前記有機化合物が、一連のピリドン、ピラゾロン、アミノベンゼン誘導体、ヒドロキシベンゼン誘導体、アミノナフタレン誘導体、又はヒドロキシナフタレン誘導体に由来する化合物である、請求項6に記載の水性セキュリティインク。
【請求項8】
筆記可能または印刷可能な基材が、前記セキュリティインクを用いて筆記され、又は印刷され、そしてこのように作製された文書が、前記マーカー物質を原本若しくは印刷物の小領域から前記デコーダ基材上に転写し、前記マーカー物質が前記デコーダ基材上で可視であるか又は可視化されることによって信憑性について試験される、請求項1〜5のいずれか一項に記載のセキュリティキットの使用。

【公表番号】特表2008−533267(P2008−533267A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−501308(P2008−501308)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【国際出願番号】PCT/EP2006/060768
【国際公開番号】WO2006/100201
【国際公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(503412791)ダイスター・テクスティルファルベン・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・ドイッチュラント・コマンデイトゲゼルシャフト (40)
【Fターム(参考)】