説明

セキュリティー・ペーパーおよびその製造方法

本発明は少なくとも一部に耐用期間を延長すると共に流通に適応させるための汚損防止保護層(14)を備えた平面基体(12)を有し、銀行紙幣、パスポート、身分証明書等の有価証書の製造に使用されるセキュリティー・ペーパーに関するものである。本発明によれば、保護層が基体(12)に塗布され下部の基体(12)に接触しその微細孔を埋める自然乾燥ラッカーから成る第1下部ラッカー層(16)、および基体(12)を物理的および化学的作用から保護する第2上部ラッカー層(18)の少なくとも2つのラッカー層を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は少なくとも一部に耐用期間を延長すると共に流通に適応させるための汚損防止保護層を備えた平面基体を有し、銀行紙幣、パスポート、身分証明書等の有価証書の製造に使用されるセキュリティー・ペーパーに関するものである。また、本発明はかかるセキュリティー・ペーパーを有して成る有価証書、およびかかるセキュリティー・ペーパーの製造方法に関するものでもある。
【背景技術】
【0002】
多くの場合、銀行紙幣、株券、債券、証明書およびクーポン、小切手、高額入場券のような有価印刷物およびセキュリティー印刷物、並びにパスポートまたはその他の身分証明書のような偽造される危険があるその他の証書は、偽造防止機能を高める精巧な印刷イメージを備えている。この場合、絵素の少なくとも一部には、凹版印刷のように技術的に優れ、誰もが容易には利用できない印刷方法が用いられる。
【0003】
また、多くの場合、セキュリティー印刷物は模造が困難であると共に、素人でもその印刷、即ちその証書の真正がチェック可能な所謂セキュリティー素子も備えている。このようなセキュリティー素子には、例えば、有価証書表面の特定の領域において見える窓付きセキュリティー・スレッド、透明または金属化された型押ホログラムを備えた貼付箔、ブラインド型押、視角によって異なる情報を示す印刷技術または印刷技術と型押技術とによる所謂“潜像”、光学可変顔料を含み視角に応じて異なる色彩効果を示す印刷、あるいは、例えば、金、銀または青銅色を帯びた金属光沢を有する金属効果インクから成る印刷がある。
【0004】
銀行紙幣のような有価証書の重要な構成要素は平面基体である。この基体は、鋼版印画時における片面または両面カレンダリングによって一般的な触感が影響を受ける主としてコットン・ペーパーから成っていることが好ましい。銀行紙幣の触感は主として手触りおよび曲げ剛性によって決まる。また、変形および屈曲させると独特の音を発する。
【0005】
有価証書の耐用期間を延長すると共に流通に適応させるために汚損防止保護層を設けることが知られている。例えば、特許文献1は銀行紙幣全体に主としてセルロース・エステル、またはセルロース・エーテルを含み、超微粒子ワックスを少量含む保護層を設けることを提案している。超微粒子ワックスはオイル、インク・バインダー、またはその混合物に練り込むかまたは混合することによって分散される。その下にあるシートを黒色インクによって汚損することなく、印刷されたばかりのこの保護層を有するシートを積み重ねることができる。
【0006】
特許文献2には汚損防止被膜を備えた銀行紙幣用セキュリティー・ペーパーが開示されている。このセキュリティー・ペーパーは、汚損防止被膜を備えているにも関わらず、その印刷性、音および色彩のような一般的な特性が汚損防止被膜を備えていなものと比較して殆んど変わらない。この被膜塗料はバインダーのみを含み、その多孔性によって表面積が大きいすなわち表面が粗い銀行紙幣用ペーパーには充填材が充填されない。この被膜は表面が平滑になり汚れが付着しない程度、且つ前記のような特性が損なわれない程度の厚さに形成される。
【0007】
周知の保護層に共通しているのは、摩耗耐性があまり優れていないことである。一般に、水性ラッカーから成る従来の保護層は、厳しい要求条件を完全に満たすことはできない。例えば、高い汚損防止特性および粘着特性を有する保護層は液体の浸透耐性が優れておらず、またその逆に高い浸透耐性を有する保護層は汚損防止特性および粘着特性が優れていない。このため、これまで水性ラッカーは架橋剤を成す第二の成分を付加することによって、セキュリティー印刷、特に銀行紙幣の印刷における保護層の厳しい要求条件を満たしている。このような架橋剤は反応性が高く作業員が危険に晒される恐れがあるため適切な防護手段が講じられている。
【特許文献1】欧州特許第0256170号明細書
【特許文献2】国際公開第00/00697号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は従来技術の欠点を回避したセキュリティー・ペーパーおよびその製造方法を明らかにするという課題に基づくものである。特に、優れた汚損防止機能および液体の浸透に対する耐性を付与することにより、セキュリティー・ペーパーの耐用期間を延長する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題はメイン・クレームの特性を有するセキュリティー・ペーパーによって解決される。有価証書およびセキュリティー・ペーパーの製造方法はメイン・クレームと同格のクレームの主題であり、本発明の有益な開発成果は従属クレームの主題である。
【0010】
本発明による保護層は、基体に塗布され下部の基体に接触しその微細孔を埋める自然乾燥ラッカーから成る第1下部ラッカー層、および基体を物理的および化学的作用から保護し、液体およびインクに対する優れた浸透防止機能を保証する第2上部ラッカー層の少なくとも2つのラッカー層を備えている。
【0011】
本発明は、基体の窪み、不規則領域、および微細孔を予め自然乾燥ラッカーによって埋めておけば、放射線硬化ラッカーの優れた特性をセキュリティー・ペーパーにも利用できるという発見に基づいている。放射線硬化ラッカー、特にUV乾燥ラッカー(以下、“UVラッカー”と称する)には、放射線硬化を行った後、基体の質、放射電力、開始系、およびモノマー系に応じ、一般に残留モノマーおよび遊離光開始剤が非常に反応性の高い成分として基体の窪みおよび微細孔に残るという不都合がある。(UV:紫外線)
この問題は、UVラッカーが、例えば、セキュリティー・ペーパーの紙繊維複合体に浸透する場合に増大する。その結果、UVラッカーの完全な重合は不可能となる。しかし、本発明により、基体に接触してその微細孔を埋める下部ラッカー層、および物理的および化学的影響から基体を保護する上部ラッカー層の少なくとも2つのラッカー層を組み合わせることにより、UVラッカーの優れた特性をセキュリティー・ペーパーに充分活用できることが明らかになった。
【0012】
セキュリティー・ペーパーの平面基体は、とりわけ、未印刷または印刷済みのコットン・ペーパーで形成される。セキュリティー証書および銀行紙幣のような有価証書に用いられるコットン・ペーパーには微細な孔が多いと共に、微小な突起および窪みによって表面が粗いため、本発明による下部ラッカー層を使用しない場合には、これらに放射線硬化ラッカー層の残留モノマーおよび光開始剤が堆積する。
【0013】
下部ラッカー層は水性分散系ラッカー層から成ることができ、平滑かつ連続した層が基体に形成される厚さに塗布されることが好ましい。また、下部ラッカー層は、機械的作用または、例えば、吸湿による繊維の膨張によってラッカー層に亀裂が生じないよう弾性を有していることが好ましい。これにより、銀行紙幣に特徴的な触感、即ち、ストレスを受けた際の曲げ剛性や音が長期間保持されるという利点が得られる。これは、特に、極端な気候の下および機械的ストレスを受けたときに好ましい効果をもたらす。弾性ラッカーは弾性を得ることができるポリウレタン系が好ましい。特に、脂肪族ポリエステル系ポリウレタンまたはスチレン−アクリル系ポリウレタン水性分散体が好ましい。必要な塗布量は、特に使用ラッカー、使用基体材料およびその粗さ、微細孔のサイズおよび多孔率に左右されることは言うまでもない。
【0014】
上部ラッカー層は放射線硬化ラッカーおよび/または自然乾燥ラッカーが好ましく、特に、汚損防止機能を強化するシリコーンおよび/またはワックスを含むラッカーが好ましい。特に、放射線硬化ラッカー層はUV架橋結合ラッカー層(以下、“UVラッカー”)が好ましい。物理的および化学的耐性が非常に高く、その分だけ質が向上すると共に要求条件を満たすことができる。特に、物理的耐性が高いことにより、摩耗耐性が向上しセキュリティー・ペーパーの耐用期間が延びる。更に、耐薬品性が高いことにより、保護層が水分およびインクのような液体の浸透を長期にわたり効果的に防止することができる。
【0015】
更に、UVラッカーを使用することにより、セキュリティー・ペーパー、特に銀行紙幣の触感を選択的に様々に変化させることができる。最上部の保護層の脆性、ラスターおよび平滑性のパラメータを調整することにより、保護層を施したペーパーの触感、特に曲げ剛性、平滑性および音を直接様々に変化させることができる。セキュリティー・ペーパーの所定の触感、特に所定の平滑性、曲げ剛性および/または音が得られるよう、とりわけ脆性および表面張力を勘案してUVラッカー層の成分を選択することが好ましい。
【0016】
完全架橋UVラッカーの他に、カチオン架橋ラッカーも放射線硬化ラッカーとして用いることができる。
【0017】
上部ラッカー層としての自然乾燥ラッカー層は水性分散系ラッカーから成り、例えば、スチレン−アクリルをベースとするポリウレタン成分を含んでいないことが好ましい。
【0018】
同様に、水性分散系ラッカー成分のような自然乾燥ラッカー、および放射線硬化ラッカー成分の両方を含むハイブリッド・ラッカーを上部ラッカー層に用いることもできる。ハイブリッド・ラッカーを乾燥させる場合、まず、例えば、熱によって水分を物理的に除去し、次いで、例えば、UV放射線によって放射線硬化ラッカー成分を硬化させる。適切なハイブリッド・ラッカーには、例えば、脂肪族ウレタン・アクリレートおよび適切なモノマーまたはオリゴマーをベースとする水性分散体、特に、光開始剤を含むアクリレートをベースとする水性分散体がある。
【0019】
好ましい実施の形態において、上部層が下部層の上に直接形成される。別の方法として、水性分散系ラッカーから成る別のラッカー層を上部および下部ラッカー層の間に設けることができる。
【0020】
保護層のラッカー層の粘着性が互いに調和し高い結合力を有していることが好ましい。特に、上部ラッカー層を下部ラッカー層の上に直接形成する場合、下部層の成分を適切に選択することにより、後から形成される放射線硬化ラッカーに対し最適な粘着性が得られるようにする。好ましい実施の形態において、ラッカー系のガラス転移温度を下げることにより、下部ラッカー層の湿潤性を最適化している。これにより、粘着性および粘着を助長する力が向上する。
【0021】
別の好ましい実施の形態において、上部ラッカー層または下部ラッカー層が無色透明である。特に、印刷が施されている基体が可能な限りよく見えるようにしたい場合には、両方のラッカー層を無色透明にすることもできる。この場合、セキュリティー・ペーパーの保護効果および感触は完全に維持される。しかし、少なくとも1つのラッカー層を着色することもできる。これにより、別の基体材料を積み重ねることなく有価証書に淡い色調を持たせることができる。
【0022】
別の好ましい実施の形態において、少なくとも上部ラッカー層に抗菌加工が施される。
【0023】
更に、下部ラッカー層が1〜6g/m、好ましくは2〜4g/mの塗布量によって基体上部に形成されていることが有益であることが立証されている。これは、未乾燥の湿潤状態の(例えば、40%の固形成分を含む水性分散系ラッカー)の好ましい範囲である約5〜10g/mに相当している。いずれにしても、平面基体の不規則な窪みおよび微細孔を埋める層厚が必要である。上部ラッカー層の基体上における塗布量は、これより僅かに少なく、約0.5〜3g/m、好ましくは1〜2g/mである。これは架橋結合していない状態における好ましい範囲である約1〜2g/mに相当している。この理由は、UV系は所謂100%系(固形成分100%)であるからである。表面が既に平滑化されている場合、および/または凹版印刷によって圧縮されている場合には、この値は更に小さい値の範囲になり、未加工のペーパーまたは凹版印刷の裏面の場合には更に大きい値の範囲になる。
【0024】
好ましい開発成果によれば、文字またはパターンが基体に印刷され、印刷が施された基体に保護層が形成される。これによりその印刷も保護される。また、光学可変素子を埋め込んだ、例えば、文字またはパターンを成すギャップを保護層に設けるか、または後からそこに埋め込むこともできる。
【0025】
別の好ましい実施の形態によれば、基体全体に保護層が形成される。同様に、例えば、銀行紙幣に用いられるセキュリティー・ペーパーの平面基体の主たる2つの面に汚損防止保護層が形成されることが好ましい。
【0026】
また、本発明は前記種類のセキュリティー・ペーパーを備えた銀行紙幣、クーポン、証明書、パスポート、身分証明書等の有価証書を含んでいる。
【0027】
前記のようなセキュリティー・ペーパーを製造する場合、ステップa)において平面基体を供給し、ステップb)において汚損防止保護層を基体に形成する。まずステップb)において下部の基体に接触しその微細孔を埋める下部層として自然乾燥ラッカー層を基体に塗布し、次いでステップb)において、上部層として物理的および化学的作用から基体を保護するラッカー層を塗布することにより保護層が形成される。
【0028】
2つのラッカー層を“ウェット・オン・ウェット”形成できない場合には、下部ラッカー層を乾燥させた後に上部ラッカー層を形成する。充分に長い待ち時間の間、例えば、長い経路を通してシートを移送する間に乾燥させることができる。ラッカー塗布を早める場合、生産技術および経済的観点から付加手段によって自然乾燥を促進することが好ましい。この場合、熱風送風機および/または赤外線放射体を有する乾燥機を使用することが好ましい。
【0029】
本発明は使用する平面基体が印刷済みまたは未印刷のコットン・ペーパーである場合、特に大きな効果をもたらす。
【0030】
好ましい実施の形態によれば、保護層を形成する前に印刷イメージが印刷される。別の方法または追加として、下部ラッカー層を基体上に形成した後、そこに印刷イメージを印刷することができる。次いで、上部ラッカー層が下部ラッカー層および一般に下部ラッカー層の一部のみを占めている印刷イメージ上に形成される。勿論、上部ラッカー層にも印刷を施すことは可能である。
【0031】
フレキソ印刷によって、下部、上部、または両方のラッカー層が形成されることが好ましい。これにより1〜8g/mの塗布量によってラッカー層が形成されることが好ましい。別の好ましい実施の形態において、下部、上部、または両方のラッカー層がスクリーン印刷によって形成される。この場合、5〜15g/mの塗布量によってラッカー層が形成されることが好ましい。本発明の更に別の実施の形態によれば、下部および/または上部ラッカー層がオフセット印刷、ドライ・オフセット印刷、または間接活版印刷によって形成される。
【0032】
特に好ましい実施の形態によれば、ステップa)において提供される平面基体は1つのものが多数複写されて成る有価ペーパー・シートであり、これに対しステップb)、ステップb)、およびステップb)が同時に実行される。下部および上部ラッカー層が枚葉給紙式ラッカー塗布設備のラインによって、即ち一連の操作によって基体上に形成されることが特に好ましい。
【0033】
前記方法を実行する装置は、下部自然乾燥ラッカー層を基体上に形成する第1ラッカー塗布モジュール、前記下部ラッカー層を乾燥する中間乾燥機、上部ラッカー層を形成する第2ラッカー塗布モジュール、および前記上部ラッカー層を硬化、および/または乾燥する最終乾燥機を備えていることが好ましい。
【0034】
層厚を一定にするため、前記第1および第2ラッカー塗布モジュールは、チャンバー付きドクター・ブレード、アニロックス・ローラー、およびプレート・シリンダーを備えたフレキソ印刷ユニットであることが好ましい。アニロックス・ローラーは、体積および/または密度によってラッカー塗布速度が決まる小さなセルを有していることが好ましい。チャンバー付きドクター・ブレードはアニロックス・ローラーに対向して配され、セルにラッカーを注入すると同時に余剰ラッカーを擦り取る。アニロックス・ローラーにより、好ましくはゴム・ブランケットから成るプレート・シリンダーにラッカーが移送される。ゴム・ブランケットにより、最終的にラッカーが平面基体、特にペーパー・シートまたはペーパー・ウェブに転写される。
【0035】
更に、ラッカーの粘度および架橋剤の濃度を調整するラッカー調整装置を備えていることが好ましい。ラッカー調整装置は放射線硬化成分を含むラッカーの粘度および流動作用を調整する調質装置を備えていることが好ましい。このように、ラッカー塗布速度に影響を及ぼす変数は2つ、即ち、セルの体積とラッカーの粘度のみであるため、このようなチャンバー付きドクター・ブレードを備えたフレキソ印刷ユニットにより、均一、均質、かつ粘着性のあるラッカー・フィルムをシート全体に再現可能かつ非常に長期にわたり形成することができるラッカー塗布方法を実現することができる。
【0036】
中間乾燥機は制御可能なIR(赤外線)と熱風とを組み合わせた乾燥機であることが好ましい。同様に、高速乾燥を可能とする2つの乾燥器モジュールが中間乾燥機に用いられることが好ましい。最終乾燥機は上部ラッカー層の硬化に必要な波長および層厚に対応した出力制御可能なUV乾燥器モジュールを備えていることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態および効果について説明する。図は明確さを旨とし、実際の寸法および比率を示すものではない。
【0038】
図1および2は本発明の1つの実施の形態による二重保護層14を備えた銀行紙幣10の断面構造を示している。コットン・ペーパーの紙繊維複合体12の上部に形成された保護層14は、水性分散ラッカーから成る下部ラッカー層16と、その上部に形成されたUV硬化ラッカーから成る上部ラッカー層18とを有している。
【0039】
下部ラッカー層16がコットン・ペーパーの紙繊維複合体12に接触し、その毛管を埋めている。下部ラッカー層16は表面が平滑かつ粘着性を有し、その後塗布されるUVラッカーが最適に粘着するのに必要な量のラッカーによって形成される。
【0040】
UVラッカー18の成分は、銀行紙幣が所望の触感および汚損防止特性を有するよう選択される。特に、銀行紙幣が所望の触感および音を有するようUVラッカーの脆性が調整される。銀行紙幣の汚損防止特性は選択したUVラッカーの表面張力によって実質的に決まる。UVラッカーの高い物理的および化学的耐性により、銀行紙幣10が高い摩耗耐性と水分および液体浸透耐性とを得ることができる。また、UVラッカーの材料パラメータの選択に幅があるため、これまでセキュリティー印刷において困難であった新しい触感および音特性を銀行紙幣に付与することができる。
【0041】
図1および2の実施の形態において、3g/mの水性分散ラッカー16および1.5g/mのUVラッカー18がコットン・ペーパー12に塗布されている。本実施の形態においては、水性分散ラッカー16はスチレン−アクリル系ポリマーを含み、UVラッカー18はアクリレート系である。
【0042】
図1および2は未印刷のペーパー上に形成された保護層14を示しているが、基体12は印刷済みのものであってもよいことは言うまでもない。このことが図3に示してある。文字またはパターンから成る印刷イメージ20が銀行紙幣10のコットン・ペーパー12に印刷され、保護層14が印刷イメージ20および基体12に施されている。別の方法または追加として、図4に示すように、印刷イメージ22を下部ラッカー層16と上部UVラッカー層18との間に配することもできる。
【0043】
図5は2つのラッカー層から成る本発明の組合せ被膜を形成するための枚葉給紙式ラッカー塗布設備30を示している。枚葉給紙式ラッカー塗布設備30は、ラッカー調整装置(図示せず)、2つのラッカー塗布ユニット32および36、中間乾燥機34、および最終乾燥機38を備えている。
【0044】
ラッカー調整装置はラッカーの粘度および架橋剤の濃度を調整する。UVラッカーの粘度および流動作用が調質装置によって調整される。
【0045】
第1および第2ラッカー塗布ユニット32、36は、各々チャンバー付きドクター・ブレード、アニロックス・ローラー、およびプレート・シリンダーを備えた最新のフレキソ印刷ユニットである。アニロックス・ローラーは、小さなセルを有して成り、その体積によってラッカー塗布速度が決まる。チャンバー付きドクター・ブレードはアニロックス・ローラーに対向して配され、セルにラッカーを注入すると同時に余剰ラッカーを擦り取る。アニロックス・ローラーにより、本実施の形態ではゴム・ブランケットから成るプレート・シリンダーにラッカーが移送され、ゴム・ブランケットにより、最終的に被覆を施す有価証書シートにラッカーが転写される。
【0046】
また、連続したウェブに保護層を施すこともできる。これは、特に印刷が施されていないペーパー・ウェブに対して行われる。
【0047】
中間乾燥機として使用するIRと熱風とを組み合わせた乾燥機34は、2つの乾燥器モジュールを備え、高速でラッカーを塗布した場合でも充分な乾燥能力を備えている。最終乾燥機38において、UVラッカー層がUV集中光の照射により硬化されると共に、保護層が赤外線放射と熱風とにより更に乾燥される。最終乾燥機38の乾燥器モジュールの出力および波長は、UVラッカーの硬化に必要な波長および有価証書シート上における層厚に対応している。
【0048】
(実施例1)
フレキソ印刷のラッカー塗布ユニット1において、20cm3/mのローラーにより乾燥時約2.0g/mの塗布速度で下部弾性ラッカー層をコットン・ペーパーに塗布した。弾性ラッカーはスチレン−アクリル系ポリウレタンをベースとする水性分散体である(品名:Proell社のL51073)。
【0049】
ラッカー塗布ユニット2において、9cm3/mのローラーにより乾燥時約1.8g/mの塗布速度で上部第2ラッカー層を前記第1ラッカー層に塗布した。第2ラッカーはUVラッカーである(品名:Proell社のUVL50733+UVL50734、混合比3:2)。
【0050】
(実施例2)
実施例1と同様の二層被膜を形成した。但し、ラッカー塗布ユニット2において、20cm3/mのローラーを使用し、乾燥時約2.0g/mの塗布速度でラッカーを塗布した。第2ラッカーはハイブリッド・ラッカーである(品名:Proell社のL50807+L50806、混合比1:1)。
【0051】
(実施例3)
フレキソ印刷のラッカー塗布ユニット1において、13cm3/mのローラーにより乾燥時約1.3g/mの塗布速度で下部弾性ラッカー層をコットン・ペーパーに塗布した。弾性ラッカーはスチレン−アクリル系ポリウレタンをベースとする水性分散体である(品名:Proell社のL51073)。ラッカー塗布ユニット2において、13cm3/mのローラーにより乾燥時約1.3g/mの塗布速度で上部第2ラッカー層を前記第1ラッカー層に塗布した。第2ラッカーはスチレン−アクリルをベースとした水性分散体である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の1つの実施の形態による二重保護層を備えた銀行紙幣の詳細断面図。
【図2】図1の銀行紙幣の層構造を示す概略図。
【図3】本発明の別の実施の形態による設計の異なる銀行紙幣の層構造を示す図。
【図4】本発明の別の実施の形態による設計の異なる銀行紙幣の層構造を示す図。
【図5】本発明を実行する枚葉給紙式ラッカー塗布設備の概略図。
【符号の説明】
【0053】
10 銀行紙幣
12 基体
14 保護層
16 下部ラッカー層
18 上部ラッカー層
20、22 印刷イメージ
30 枚葉給紙式ラッカー塗布設備
32、36 ラッカー塗布ユニット
34 中間乾燥機
38 最終乾燥機


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部に耐用期間を延長すると共に流通に適応させるための汚損防止保護層(14)を備えた平面基体(12)を有して成り、有価証書の製造に用いられるセキュリティー・ペーパーであって、
前記保護層(14)が、
前記基体(12)に塗布され、下部の該基体(12)に接触しその微細孔を埋める自然乾燥ラッカーから成る第1下部ラッカー層(16)、および
前記基体(12)を物理的および化学的作用から保護する第2上部ラッカー層(18)
の少なくとも2つのラッカー層(16、18)を有して成ることを特徴とするセキュリティー・ペーパー。
【請求項2】
前記基体が未印刷(12)または印刷済み(12、20)コットン・ペーパーから成っていることを特徴とする請求項1記載のセキュリティー・ペーパー。
【請求項3】
前記第1下部ラッカー層(16)が前記基体上部において平滑かつ連続した層を成していることを特徴とする請求項1または2記載のセキュリティー・ペーパー。
【請求項4】
前記第1下部ラッカー層が弾性を有していることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のセキュリティー・ペーパー。
【請求項5】
前記第1下部ラッカー層(16)が水性分散ラッカー層から成っていることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載のセキュリティー・ペーパー。
【請求項6】
前記第1下部ラッカー層がポリウレタンを含んでいることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載のセキュリティー・ペーパー。
【請求項7】
前記第1下部ラッカー層が脂肪族ポリエステル系ポリウレタン、またはスチレン−アクリル系ポリウレタン水性分散体をベースにしていることを特徴とする請求項1〜6いずれか1項記載のセキュリティー・ペーパー。
【請求項8】
前記第2上部ラッカー層(18)が放射線硬化および/または自然乾燥ラッカー層から成っていることを特徴とする請求項1〜7いずれか1項記載のセキュリティー・ペーパー。
【請求項9】
前記ラッカー層がUV架橋ラッカー層、水性分散ラッカー層、またはハイブリッド・ラッカー層から成っていることを特徴とする請求項8記載のセキュリティー・ペーパー。
【請求項10】
前記第2上部ラッカー層がシリコーンおよび/またはワックスを含んでいることを特徴とする請求項1〜9いずれか1項記載のセキュリティー・ペーパー。
【請求項11】
前記UV架橋ラッカー層がアクリレート系、前記水性分散ラッカー層がスチレン−アクリレート系、前記ハイブリッド・ラッカー層が脂肪族ウレタン・アクリレートおよび光開始剤を含むアクリレートから成る系をベースにしていることを特徴とする請求項9記載のセキュリティー・ペーパー。
【請求項12】
所定の触感、特に所定の平滑性、音、および/または曲げ剛性が得られるよう、脆性および表面張力を勘案して前記上部ラッカー層(18)の成分が選択されることを特徴とする請求項8記載のセキュリティー・ペーパー。
【請求項13】
前記第2上部ラッカー層(18)が前記第1下部ラッカー層(16)の上部に直接配されていることを特徴とする請求項1〜12いずれか1項記載のセキュリティー・ペーパー。
【請求項14】
前記上部ラッカー層(18)と下部(16)ラッカー層との間に水性分散ラッカーから成る別のラッカー層が配されていることを特徴とする請求項1〜13いずれか1項記載のセキュリティー・ペーパー。
【請求項15】
前記保護層のラッカー層(16、18)が互いに調和し、高い結合力を有していることを特徴とする請求項1〜14いずれか1項記載のセキュリティー・ペーパー。
【請求項16】
前記下部ラッカー層(16)のガラス転移温度が低く、それによって粘着性および粘着を助長する力が向上していることを特徴とする請求項1〜15いずれか1項記載のセキュリティー・ペーパー。
【請求項17】
前記上部ラッカー層(18)および/または下部(16)ラッカー層が無色透明であることを特徴とする請求項1〜16いずれか1項記載のセキュリティー・ペーパー。
【請求項18】
前記上部ラッカー層(18)に抗菌加工が施されていることを特徴とする請求項1〜17いずれか1項記載のセキュリティー・ペーパー。
【請求項19】
前記下部ラッカー層(16)が1〜6g/m、好ましくは2〜4g/mの塗布量によって前記基体(12)上部に形成されていることを特徴とする請求項1〜18いずれか1項記載のセキュリティー・ペーパー。
【請求項20】
前記上部ラッカー層(18)が0.5〜3g/m、好ましくは1〜2g/mの塗布量によって前記基体(12)上部に形成されていることを特徴とする請求項1〜19いずれか1項記載のセキュリティー・ペーパー。
【請求項21】
前記基体(12、20)に文字またはパターン(20)が印刷され、前記保護層(14)が該印刷を施した基体(12、20)に塗布されるおよび/または前記第1下部ラッカー層(16)に印刷が施され、該印刷を施した第1下部ラッカー層(16)に前記第2上部ラッカー層(18)が塗布されるおよび/または該第2ラッカー層に印刷が施されていることを特徴とする請求項1〜20いずれか1項記載のセキュリティー・ペーパー。
【請求項22】
前記保護層(14)が少なくとも1つのギャップを備えていることを特徴とする請求項1〜21いずれか1項記載のセキュリティー・ペーパー。
【請求項23】
前記ギャップにセキュリティー素子が埋め込まれていることを特徴とする請求項22記載のセキュリティー・ペーパー。
【請求項24】
前記保護層(14)が前記基体(12)全体に形成されていることを特徴とする請求項1〜21いずれか1項記載のセキュリティー・ペーパー。
【請求項25】
前記平面基体(12)の主たる2つの面に汚損防止保護層(14)が形成されていることを特徴とする請求項1〜24いずれか1項記載のセキュリティー・ペーパー。
【請求項26】
請求項1〜25いずれか1項記載のセキュリティー・ペーパーを有して成る有価証書。
【請求項27】
a)平面基体を供給するステップ、および
b) 前記基体に汚損防止保護層を塗布するステップ、
の各ステップを有して成る、有価証書用セキュリティー・ペーパーの製造方法であって、
前記ステップb)が、
)前記保護層の下部層として、前記基体に接触しその微細孔を埋める自然乾燥ラッカー層を塗布するステップ、および
)前記基体を物理的および化学的作用から保護する前記保護層の上部層を塗布するステップ
の各ステップを有して成ることを特徴とする方法。
【請求項28】
前記上部塗布層が放射線硬化および/または自然乾燥層であり、
電磁放射線を照射し前記上部層を架橋結合、硬化および/または乾燥するステップc)を更に有して成ることを特徴とする請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記平面基体が印刷済みまたは未印刷コットン・ペーパーであることを特徴とする請求項27または28記載の方法。
【請求項30】
前記下部塗布層が弾性を有する、特に水性分散ラッカー層であることを特徴とする請求項27〜29いずれか1項記載の方法。
【請求項31】
前記基体の微細孔を埋め平滑かつ粘着性のある表面を該基体に形成するのに必要な塗布量によって前記下部ラッカー層を形成することを特徴とする請求項27〜30いずれか1項記載の方法。
【請求項32】
2.5〜15g/m、好ましくは5〜10g/m(湿潤重量)の塗布量によって前記下部ラッカー層を形成することを特徴とする請求項27〜31いずれか1項記載の方法。
【請求項33】
前記下部ラッカー層を乾燥させた後に前記上部層を塗布することを特徴とする請求項27〜32いずれか1項記載の方法。
【請求項34】
前記上部塗布ラッカー層がUV架橋ラッカー層、水性分散ラッカー層、またはハイブリッド・ラッカー層であることを特徴とする請求項27〜33いずれか1項記載の方法。
【請求項35】
前記セキュリティー・ペーパーが所定の触感、特に所定の平滑性、音、および/または曲げ剛性が得られるよう、脆性および表面張力を勘案して前記上部ラッカー層の成分を選択することを特徴とする請求項27〜34いずれか1項記載の方法。
【請求項36】
前記基体に印刷イメージを印刷した後に前記保護層を塗布することを特徴とする請求項27〜35いずれか1項記載の方法。
【請求項37】
前記下部ラッカー層を塗布した後、該下部ラッカー層に印刷イメージを印刷するおよび/または前記上部ラッカー層を塗布した後、該上部ラッカー層に印刷イメージを印刷することを特徴とする請求項27〜36いずれか1項記載の方法。
【請求項38】
凹版印刷によってラッカー未塗装または塗装済みの前記基体に印刷を施すことを特徴とする請求項27〜37いずれか1項記載の方法。
【請求項39】
前記下部ラッカー層および/または上部ラッカー層をフレキソ印刷によって形成することを特徴とする請求項27〜38いずれか1項記載の方法。
【請求項40】
前記フレキソ印刷によって形成する前記ラッカー層全体の量が3〜12g/mであることを特徴とする請求項39記載の方法。
【請求項41】
前記下部および/または上部ラッカー層をスクリーン印刷によって形成することを特徴とする請求項27〜38いずれか1項記載の方法。
【請求項42】
前記スクリーン印刷によって形成する前記ラッカー層全体の量が5〜15g/mであることを特徴とする請求項41記載の方法。
【請求項43】
前記下部ラッカー層および/または上部ラッカー層をオフセット印刷または間接活版印刷によって形成することを特徴とする請求項27〜38いずれか1項記載の方法。
【請求項44】
前記保護層を前記基体全体に形成することを特徴とする請求項27〜43いずれか1項記載の方法。
【請求項45】
前記平面基体の主たる2つの面に汚損防止保護層を形成することを特徴とする請求項27〜44いずれか1項記載の方法。
【請求項46】
前記ステップa)において供給する前記平面基体が、1つのものが複数複写されて成る有価ペーパー・シートであり、該シートに対しそれぞれ前記ステップb)、b1)およびb2)を一連の操作によって実行することを特徴とする請求項27〜45いずれか1項記載の方法。
【請求項47】
前記下部ラッカー層および上部ラッカー層を枚葉給紙式ラッカー塗布設備のラインによって前記基体に塗布することを特徴とする請求項27〜46いずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−517266(P2006−517266A)
【公表日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−501718(P2006−501718)
【出願日】平成16年2月3日(2004.2.3)
【国際出願番号】PCT/EP2004/000973
【国際公開番号】WO2004/072378
【国際公開日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(596007511)ギーゼッケ ウント デフリエント ゲーエムベーハー (47)
【氏名又は名称原語表記】Giesecke & Devrient GmbH
【Fターム(参考)】