説明

セグメントにおけるPC鋼材の挿通方法

【課題】PC鋼材の取り扱いが容易になることで作業効率の向上が図れ、しかもPC鋼材の挿通作業を人力で行えるようにした。
【解決手段】セグメントリング10の円周方向にPC鋼線2を挿通する方法は、PC鋼線2を環状に巻いた状態で収納するフレーム体と、PC鋼線2の一端を固定すると共にフレーム体に回転可能に支持された回転支持軸とを備えた収納リール20が使用される。PC鋼線2を挿通させるためのセグメントリング10の所定箇所にPC鋼線2を収納した収納リール20を設置し、PC鋼線2の先端部を収納リール20から引き出してセグメントリング10の円周方向に挿通させて緊張するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールドトンネルにおいてセグメントリングの円周方向にプレストレスを導入する際に用いられるセグメントにおけるPC鋼材の挿通方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シールド工事において、リング状に組み立てられるコンクリートセグメントの円周方向にPC鋼線を挿通させて緊張させることで、そのセグメントリングにプレストレスを導入し、トンネルに作用する土圧・水圧に耐え得るように構築する方法がある。その施工は、長尺棒状のPC鋼線を坑内のセグメント組み立て位置に搬入し、セグメントリングの所定箇所からセグメントの円周方向に形成されているシース孔に人力で挿入している(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1は、セグメントリングにPC鋼線を挿通するためのシース孔を備えている。このシース孔は、セグメントリングの円周方向に一周してなり、その両端部がセグメントの内面に設けられた切欠部の定着端面で開口している。このシース孔に挿通されたPC鋼線は、その一端が一方の切欠部内で固定され、PC鋼線の他端が他方の切欠部内でセンターホールジャッキを用いて緊張して楔等を用いてセグメントに定着されている。
【特許文献1】特開平10−046991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような従来のPC鋼線の挿通方法には次のような問題点があった。
シールドトンネルの外径が大きくなると、セグメントの周方向に挿入されるPC鋼線の長さが長くなるうえ重量も大きくなることから、シールド掘削機の機械類が配置されている限られた坑内スペースでの作業や運搬作業において、長尺のPC鋼線は取り扱いにくいといった問題があった。
また、従来のPC鋼線の挿通作業では、シース孔に困難なく人力によって押し込むことができるPC鋼線の太さ(断面外径寸法)が例えば15mm程度までとされていた。つまり、15mm程度までのPC鋼線であれば人力で曲げることができる程度の柔軟性があり、直線状をなすPC鋼線をシース孔の曲線に沿うようにして曲げながら押し込むことで、シース孔の内面とPC鋼線との内周面摩擦力を小さくして送り込むことができた。ところが、それより太いPC鋼線では人力で曲げながら送り込むことができなくなり、上記の内周面摩擦力が大きくなることから、人力による挿入は困難であるという問題があった。そのため、断面外径寸法が大きく剛性の大きなPC鋼線が用いられるような例えばトンネル外径が6mを超えるシールドトンネルの場合では、油圧や電気等による機械・器具などを使用してPC鋼線をシース孔へ挿通させる作業となることから作業効率が低下するといった問題があった。
【0004】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、PC鋼材の取り扱いが容易になることで作業効率の向上が図れ、しかもPC鋼材の挿通作業を人力で行えるようにしたセグメントにおけるPC鋼材の挿通方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係るセグメントにおけるPC鋼材の挿通方法では、セグメントリングの円周方向にPC鋼材を挿通して緊張するようにしたセグメントにおけるPC鋼材の挿通方法であって、PC鋼材を環状に巻いた状態で収納するフレーム体と、PC鋼材の一端を固定すると共に該フレーム体に回転可能に支持された回転支持軸とを備えた収納リールを用い、PC鋼材を挿通させるためのセグメントリングの所定箇所にPC鋼材を収納した収納リールを設置する工程と、PC鋼材の他端を収納リールから引き出してセグメントリングの円周方向に挿通させる工程とを有することを特徴としている。
本発明では、PC鋼材を環状に巻いた状態の収納リールを用いてセグメントリングの周方向にそのPC鋼材を挿通することで、収納リールに巻かれた状態で収納されているPC鋼材は、収納リールから外れて送出される(解放される)ときに生じる反発力、つまり環状に巻かれてなる状態から直線に戻ろうとする力が収納リールを回転させる力となり、挿通方向にPC鋼材の先端部が前進するように作用する。そのため、挿入されるPC鋼材と、例えばこのPC鋼材を挿通させるためにセグメントリングの円周方向に形成されるシース孔との間に生じる内周面摩擦力に対する押し込み力を大きくして送り込むことができる。
【0006】
また、本発明に係るセグメントにおけるPC鋼材の挿通方法では、収納リールは、収納されているPC鋼材の送出方向を、セグメントリングにおけるPC鋼材の挿通口に向けて設置することが好ましい。
本発明では、収納リールより引き出されたPC鋼材の延長線上に挿通口が配置されることになるため、スムーズにセグメントリングの円周方向にPC鋼材を送り込むことができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明のセグメントにおけるPC鋼材の挿通方法によれば、PC鋼材を収納リールに巻かれた状態で収納できるため、例えばトンネル外径が6mを超えるようなシールドトンネルにおいて重量が大きく長尺をなすPC鋼材が用いられる場合であっても、運搬作業や狭いスペースとなる坑内での作業において取り扱いが容易となるといった効果が得られる。さらに、このような長尺のPC鋼材がコンパクトに収納リールに収納されることから、取り扱う際の安全性の向上を図ることができる。
また、収納リールに巻かれた状態で収納されているPC鋼材は、収納リールから外れて送出される(解放される)ときに生じる反発力が収納リールを回転させる力となり、挿通方向にPC鋼材の先端部が前進する推進力となる。そのため、挿入されるPC鋼材と、例えばこのPC鋼材を挿通させるためにセグメントリングの円周方向に形成されるシース孔との間に生じる内周面摩擦力に対する押し込み力を大きくして送り込むことができる。すなわち、内周面摩擦力に対して挿入時に人が負担する押し込み力を減少させることができる。したがって、人力によって容易に曲げることができないようなPC鋼材、すなわち断面外径寸法が大きく剛性の高いPC鋼材を使用するようなトンネル外径をなすシールドトンネルであっても、例えば油圧機械など補助機械を用いることなく、人力で挿入作業を行うことができ、施工効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態によるセグメントにおけるPC鋼材の挿通方法について、図1乃至図7に基づいて説明する。
図1は本発明の実施の形態によるPC鋼材の挿通作業状態を説明するトンネルの一部破断断面図、図2は図1に示す挿通作業箇所の拡大図、図3はPC鋼線の挿通部を示す斜視図、図4はセグメントリングの底盤部を示す平面図、図5は収納リールを示す図であって、(a)はその平面図、(b)は(a)のA−A線矢視図、図6はPC鋼線の挿入作業状態を示す平面図、図7は挿通されたPC鋼線の緊張作業状態を示す一部破断断面図である。
【0009】
図1に示すように、本実施の形態によるセグメントにおけるPC鋼材の挿通方法は、例えば雨水貯留や送水などを目的とする大きな内水圧が作用する円形断面のシールドトンネルに採用され、覆工用のセグメントの円周方向をPC鋼線2(PC鋼材)によって連結する場合に適用されている。そして、このPC鋼線2をセグメントに挿通する際には、PC鋼線2を環状に巻いた状態で収納してなる収納リール20が用いられている(詳しくは後述する)。
【0010】
図1に示すシールドトンネル1は、周知のシールド掘削機(図示省略)による掘進と共に、セグメントを組み立てるためのエレクタ(つまり、セグメント把持装置)を用いて円筒形状をなすスキンプレートの内側でセグメントがリング状(セグメントリング10)に構築されている。セグメントリング10は、コンクリート製のセグメントをなす複数のセグメント10a〜10fから組み合わされている。そして、セグメントリング10は、その円周方向に挿通されたPC鋼線2が緊張され、セグメントの円周方向にプレストレスが導入されている。なお、本実施の形態によるPC鋼線2としては、例えばアンボンドPC鋼より線などが使用される。そのPC鋼線2の外径寸法は、例えば21.8mm程度(19本より線を使用の場合)となる。
【0011】
図1乃至図3に示すように、セグメントリング10には、その円周方向に連通していてPC鋼線2を挿通するためのシース孔11がセグメントリングあたり3箇所(図4参照)形成されている(これを挿通部T1、T2、T3(図4参照)とする)。つまり、図3、図4に示すように、各シース孔11は、各セグメント10a〜10f間で連続するように設けられ、セグメントリング10の円周方向に略一周してセグメントの内面に設けられた緊張側凹部12及び固定側凹部13(後述する)の開口部12a、13aに連通している。ここで、開口部12aは、本発明の挿通口に相当する。
そして、各シース孔11は、緊張側凹部12から固定側凹部13(本実施の形態では緊張側凹部12よりトンネル切羽側)に向かって螺旋状に形成されている。
さらに、シース孔11は、その両端部11a、11bにおいて、セグメントリング10の底盤部10Aの所定箇所に埋設された定着部材14(後述する)に連通した状態で接続されている。
【0012】
また、図3及び図4に示すように、セグメントリング10には、上述したように底盤部10Aの内側表面を一部切り欠いてなる緊張側凹部12、固定側凹部13が設けられている。緊張側凹部12と固定側凹部13とは、互いにトンネル軸方向にずれた位置に配置されている。そして、各凹部12、13は、セグメントリング10の円周方向側に位置する一端面において、シース孔11に接続する開口部12a、13a(後述する定着部材14の貫通孔14a、14bの端面を露出させる面)が形成されている。図3に示すように、緊張側凹部12の底面は、開口部12a側からその反対側に向かってセグメントの内面に向かう斜面12bをなしている。
【0013】
固定側凹部13では、開口部13aから固定側凹部13内に引き出されたPC鋼線2の先端部2aが固定部材(図示省略)によって固定される(図4参照)。緊張側凹部12では、PC鋼線2を斜面12bに沿わせるようにしてシース孔11に挿入させるための挿通口をなし、挿入完了後にPC鋼線2の末端部2bをセンターホールジャッキ30(図7参照)で把持して緊張させる。
【0014】
図3、図4に示すように、定着部材14は、上述したように緊張側凹部12と固定側凹部13の各開口部12a、13aに連通する二つの貫通孔14a、14bを有し、緊張側凹部12と固定側凹部13との間に介在され、両者12、13に接続した状態でセグメントに埋設されている。つまり、一方の貫通孔14aは、その一端が緊張側凹部12の開口部12aに接続され、他端がシース孔11に連通している。そして、他方の貫通孔14bは、その一端が固定側凹部13の開口部13aに接続され、他端がシース孔11に連通している。定着部材14は、セグメントリング10内を略一周して挿通されたPC鋼線2の両端2a、2bがそれぞれ貫通孔14a、14bを通過して緊張側凹部12及び固定側凹部13に引き出されるようになっている。
【0015】
次に、PC鋼線2を内部に収納し、上記シース孔11にPC鋼線2を挿入する際に用いる収納リール20の構成について、図5などを用いて説明する。
図5(a)及び(b)に示すように、本収納リール20は、セグメントリング10の周長より長い寸法をなす1条のPC鋼線2を2条分収納できるようになっている。収納リール20は、略かご形状をなし、内部にPC鋼線2を環状に巻いた状態で収納するフレーム体21と、フレーム体21の中心において回転可能に支持された回転支持軸22と、回転支持軸22に固定されていてPC鋼線2の一端(末端部2b)を固定する第一固定ホルダ23と、フレーム体21の所定位置に固定されてPC鋼線2の他端(先端部2a)を固定する第二固定ホルダ24とから概略構成されている。回転支持軸22は、図示しないベアリングを介してフレーム体21に取り付けられている。
このように構成される収納リール20は、回転支持軸22の軸方向を上下方向に向けた状態で、運搬時或いはPC鋼線2の挿通作業時に使用される。
【0016】
フレーム体21は、回転支持軸22の軸方向を上下方向に向けた状態で、フレーム体21A、21B(図5(b)参照)を上下2段に重ねたものである。各フレーム体21A、21Bは、それぞれ環状に巻いた状態の1条のPC鋼線2を回転支持軸22と同軸に収納し、回転支持軸22とその外周に配される外周規制フレーム21a、21a、…とを複数の横連結部材21b、21b、…で接続した構造をなしている。この外周規制フレーム21aは、収納したPC鋼線2の巻き束が巻いている径方向で外側に広がらないように規制するものである。
そして、外周規制フレーム21aの内側には、回転支持軸22の回転方向に回転するガイドローラ25が適宜数配置されている。つまり、収納されているPC鋼線2は、引き出されるときにガイドローラ25の回転によりスムーズに送出される。
また、各フレーム体21A、21Bにおいて、上側に位置する横連結部材21bは、外周側の一部が開閉可能な蓋部21cとなっている。蓋体21cを開いたときにPC鋼線2の巻き束をフレーム体21の内側に収容する構成となっている。
【0017】
さらに、第一固定ホルダ23は、回転支持軸22からその径方向外側に張り出した先端部に固定され、回転支持軸22と共に回転するものである。
図5(b)に示すように、第一固定ホルダ23及び第2固定ホルダ24は、PC鋼線2の断面外径寸法よりも少し大きな円孔23a、24aを有し、その円孔23a、24aにPC鋼線2の端部2a、2bを挿入し、このPC鋼線2の側面を例えば図示しないボルトなどで締め付けることで固定することができる。
また、フレーム体21には、回転支持軸22を上下方向に向けて配置したときに、その上部中心の位置に吊り部材26が設けられている。
このように構成される収納リール20は、断面外径寸法が大きく剛性が大きなPC鋼線をコンパクトに収容することができ、PC鋼線2の搬送が容易になり、坑内におけるセグメントへの挿入作業がしやすくなる。
【0018】
次に、上述した収納リール20を用いてセグメントにPC鋼線を挿通させる方法について図5、図6、図7などを用いて説明する。なお、図6では挿通部T1のみが記載されているが、図4と同様に挿通部T2、T3が設けられているものとして以下説明する。
先ず、図5(a)、(b)に示すように、収納されるPC鋼線2は上述したように断面外径寸法が20mmを超えることから人力で環状となるように曲げながら収納リール20内に収納させるには困難な太さであり、予め工場などで適宜な機械を用いて1条分のPC鋼線2を収納リール20の各フレーム体21A、21B内に収まるように環状に巻いて結束した巻き束の状態でトンネル現場に搬入しておく。現場では、フレーム体21の蓋体21cを開き、結束されたPC鋼線2をその状態のままフレーム体21内に収容して蓋体21cを閉じる。そして、先に収納リール20に収容されたPC鋼線2の一端(末端部2b)を第一固定ホルダ23に固定し、その後、PC鋼線2の巻き束を解いてから他端(先端部2a)を第二固定ホルダ24に固定する。このような手順により、収納リール20の上下2段の各フレーム体21A、21Bに1条ずつのPC鋼線2、2がセットされる。
【0019】
そして、坑内では、1リング分の掘削長でシールド掘進がなされ、シールド掘削機の後部でセグメントリング10を組み立てる(図1参照)。
次に、図2及び図6に示すように、PC鋼線2をセットした収納リール20を坑内のセグメント組み立て箇所に搬入する。ここで、収納リール20は、その吊り部材26にフックなどを掛けて吊り上げることができ、例えばシールド掘削機に具備されている図示しない搬送装置やエレクタを使用して所定位置に収納リール20の回転支持軸22(図5参照)が略上下方向にとなるように、且つ収納されているPC鋼線2の先端部2a(第二固定ホルダ24の位置)を緊張側凹部12側に向けて設置される。
このときの収納リール20の設置位置は、PC鋼線2の送出方向が、シース孔11の軸方向の延長線上となるように配置させることが好ましいとされる。つまり、収納リール20より引き出されたPC鋼線2の延長線上に緊張側凹部12(シース孔11の軸方向)が配置されることになるため、スムーズにセグメントリング10の円周方向にPC鋼線2を送り込むことができる。
【0020】
次いで、収納リール20内のPC鋼線2の先端部2aを第二固定ホルダ24から取り外し、その先端部2aを持って回転支持軸22を回転させて収納リール20から引き出して、緊張側凹部12の開口部12a(定着部材14の貫通孔14a)に挿入し、さらにシース孔11の奥(開口部12aより上向き)へ押し込むようにして送り出す。
このとき、収納リールに巻かれた状態で収納されているPC鋼線2は、収納リール20から外れて送出される(解放される)ときに生じる反発力(図5(a)に示す矢印E1方向)、つまり環状に巻かれてなる状態から直線に戻ろうとする力が収納リール20を回転させる力となり、挿通方向(図6の矢印E2方向)にPC鋼線2の先端部2aが前進するように作用する。
【0021】
さらに、挿入中のPC鋼線2の先端部2aがセグメントリング10の頂部(図1に示すトンネル頂部P)を通過して挿入方向が上方向きから下方向きに送り込まれるときには、トンネル頂部PからPC鋼線2の先端部2aまでのPC鋼線2の自重が挿入方向に作用することになる。したがって、トンネル頂部PからPC鋼線2の先端部2aまでの自重が下向きの推進力として作用することから、内周面摩擦力に対して挿入時に人が負担する押し込み力を減少させることができる。
【0022】
次いで、図7に示すように、PC鋼線2をセグメントリング10の円周方向にほぼ一周させ、その先端部2aを固定側凹部13からセグメント内側へ引き出す。その後、PC鋼線2の先端部2aと定着部材14の貫通孔14b(図4参照)の内面との間に例えば図示しない楔材などを押し込み、先端部2aを固定する。
一方、PC鋼線2の末端部2bは、R型管31及び緊張手段をなすセンターホールジャッキ30に挿通する。このセンターホールジャッキ30により、PC鋼線2を把持し、R型管31を介して定着部材14に反力を負担させてPC鋼線2を緊張する。そして、固定側と同様に図示しない楔材などを押し込み、PC鋼線2を定着部材14に定着する。その後、センターホールジャッキ30やR型管31を撤去し、PC鋼線2の余分長を切断して完成する。このようにして、PC鋼線2を緊張させることによって、セグメントリング10の円周方向にプレストレスを導入することができる。
【0023】
このようにして作業員が人力により収納リール20からPC鋼線2を送り出すことができ、セグメントリング10のほぼ全周にわたってPC鋼線2を挿入することができ、挿通部T1に続いて挿通部T2、T3において同様の手順でPC鋼線2を挿通させて緊張する。
ここで、各挿通部T1、T2、T3をそれぞれ同時に挿通、緊張作業を行ってもよい。つまり先に各挿通部T1、T2、T3においてほぼ同時にPC鋼線2の挿通を行い、その後、各挿通部T1、T2、T3においてほぼ同時に緊張作業を行うようにしてもよい。
【0024】
上述のように本実施の形態によるセグメントにおけるPC鋼材の挿通方法では、PC鋼線2を収納リール20に巻かれた状態で収納できるため、例えばトンネル外径が6mを超えるようなシールドトンネルにおいて重量が大きく長尺をなすPC鋼線が用いられる場合であっても、運搬作業や狭いスペースとなる坑内での作業において取り扱いが容易となるといった効果が得られる。さらに、このような長尺のPC鋼線がコンパクトに収納リール20に収納されることから、取り扱う際の安全性の向上を図ることができる。
また、収納リール20に巻かれた状態で収納されているPC鋼線2は、収納リール20から外れて送出される(解放される)ときに生じる反発力が収納リール20を回転させる力となり、挿通方向にPC鋼線2の先端部2aが前進する推進力となる。そのため、挿入されるPC鋼線2とシース孔11との間に生じる内周面摩擦力に対する押し込み力を大きくして送り込むことができる。すなわち、内周面摩擦力に対して挿入時に人が負担する押し込み力を減少させることができる。したがって、人力によって容易に曲げることができないようなPC鋼材、すなわち断面外径寸法が大きく剛性の高いPC鋼材を使用するトンネル外径をなすシールドトンネルであっても、人力で挿入作業を行うことができ、施工効率を向上させることができる。
【0025】
以上、本発明によるセグメントにおけるPC鋼材の挿通方法の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態ではセグメントリングあたり3条のPC鋼線2としているが、とくにこの数量に限定されることはなく、PC鋼線2の本数は、トンネル外径、セグメントの厚さ、内水圧の大きさなどの条件に基づいて設定されるものである。
また、本実施の形態による収納リール20は、上下2段のフレーム体21A、21Bを有して2条のPC鋼線2、2を収納できる構成となっているが、収納リール20におけるフレーム体21は単数でも3段以上であってもかまわなく、搬送時や、坑内設置箇所における取り扱いを考慮して設定すればよい。そして、PC鋼線2を収納する収納リールとして、電線などの巻き束用の周知のリールを使用することができる。
さらに、本実施の形態では剛性が大きく断面外径寸法の大きなPC鋼線2としているが、このような太さのPC鋼線であることに限定されることはなく、人力で曲げることができる断面外径寸法で15mm程度以下のPC鋼線の挿入作業に収納リール20を用いても勿論かまわない。
そして、本実施の形態ではPC鋼線2をセグメントリングの円周方向に挿通するものであるが、シールドトンネルの軸方向、すなわちセグメントリングの円周方向と直角方向に複数のセグメントをPC鋼線で緊張するように設計されている場合においても、同様に収納リールのPC鋼線の送出方向をシース孔の方向に合致させることで適用することができる。
また、本実施の形態で用いた断面外径寸法(21.8mm)以上の太さのPC鋼線を使用する場合などでは、上述した収納リール20を使用する挿通方法に加え、人力による押し込み力を補助するための機械を使用してもかまわない。例えば、その挿通補助機械として、電動などで回転駆動される一対のローラ間にPC鋼線を挟持させ、そのローラの回転によってシース孔11への押し込み力(収納リール20から送出力)を与える機械を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態によるPC鋼材の挿通作業状態を説明するトンネルの一部破断断面図である。
【図2】図1に示す挿通作業箇所の拡大図である。
【図3】PC鋼線の挿通部を示す斜視図である。
【図4】セグメントリングの底盤部を示す平面図である。
【図5】収納リールを示す図であって、(a)はその平面図、(b)は(a)のA−A線矢視図である。
【図6】PC鋼線の挿入作業状態を示す平面図である。
【図7】挿通されたPC鋼線の緊張作業状態を示す一部破断断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 シールドトンネル
2 PC鋼線(PC鋼材)
2a 先端部(他端)
2b 末端部(一端)
10 セグメントリング
11 シース孔
12 緊張側凹部(挿通口)
13 固定側凹部
14 定着部材
20 収納リール
30 センターホールジャッキ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セグメントリングの円周方向にPC鋼材を挿通して緊張するようにしたセグメントにおけるPC鋼材の挿通方法であって、
前記PC鋼材を環状に巻いた状態で収納するフレーム体と、前記PC鋼材の一端を固定すると共に該フレーム体に回転可能に支持された回転支持軸とを備えた収納リールを用い、
前記PC鋼材を挿通させるための前記セグメントリングの所定箇所に前記PC鋼材を収納した前記収納リールを設置する工程と、
前記PC鋼材の他端を前記収納リールから引き出して前記セグメントリングの円周方向に挿通させる工程と、
を有することを特徴とするセグメントにおけるPC鋼材の挿通方法。
【請求項2】
前記収納リールは、前記収納されているPC鋼材の送出方向を、前記セグメントリングにおける前記PC鋼材の挿通口に向けて設置するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のセグメントにおけるPC鋼材の挿通方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−69541(P2008−69541A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−248247(P2006−248247)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】