説明

セパレータの製造方法、これから形成されたセパレータ、及びこれを含む電気化学素子の製造方法

本発明は、電気化学素子に使用できるセパレータの製造方法を開示する。本発明の製造方法によれば、電極に対する結着性が良好であり、電気化学素子の組み立て過程で無機物粒子が脱離される問題点が改善したセパレータを容易に製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年9月29日出願の韓国特許出願第10−2009−0092364号及び2010年8月11日出願の韓国特許出願第10−2010−0077145号に基づく優先権を主張し、該当出願の明細書および図面に開示された内容は、すべて本出願に援用される。
【0002】
本発明は、リチウム二次電池のような電気化学素子のセパレータの製造方法、これから形成されたセパレータ、及びこれを含む電気化学素子の製造方法に関するものであって、より詳しくは、無機物粒子とバインダー高分子との混合物からなった多孔性有機無機複合層が多孔性基材の少なくとも一面にコーティングされたセパレータの製造方法、これから形成されたセパレータ、及びこれを含む電気化学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、エネルギー貯蔵技術に対する関心が高まりつつある。携帯電話、カムコーダー、及びノートパソコン、さらには電気自動車のエネルギーまで適用分野が拡がるとともに、電気化学素子の研究と開発に対する努力が次第に具体化されている。電気化学素子はこのような面で最も注目される分野であり、その中でも、充放電可能な二次電池の開発に関心が寄せられている。最近にはこのような電池の開発において、容量密度及び比エネルギーを向上させるために、新たな電極と電池の設計に対する研究開発が行われている。
【0004】
1990年代の初めに開発されたリチウム二次電池は、水溶液電解液を用いるNi‐MH、Ni‐Cd、硫酸‐鉛電池などの従来型電池に比べて作動電圧が高くエネルギー密度が格段に大きいという長所から、現在使用されている二次電池のうち最も脚光を浴びている。しかし、このようなリチウムイオン電池は、有機電解液を用いることによる発火及び爆発などの安全問題を抱えており、またその製造に手間がかかるという短所がある。最近のリチウムイオン高分子電池は、上記のようなリチウムイオン電池の短所を改善し、次世代電池の1つとして挙げられているが、未だ電池の容量がリチウムイオン電池と比べて相対的に低く、特に低温における放電容量が不十分であるため、それに対する改善が至急に求められている。
【0005】
上記のような電気化学素子は多くのメーカにおいて生産中であるが、それらの安全性特性は相異なる様相を呈している。電気化学素子の安全性の評価及び安全性の確保は最も重要に考慮すべき事項である。特に、電気化学素子の誤作動によりユーザが傷害を被ることはあってはならなく、ゆえに、安全規格は電気化学素子内の発火及び発煙などを厳格に規制している。電気化学素子の安全性特性において、電気化学素子が過熱し、熱暴走が起きるか又はセパレータが貫通される場合は、爆発が起きる恐れが大きい。特に、電気化学素子のセパレータとして通常使用されるポリオレフィン系多孔性膜は、材料特性及び延伸を含む製造工程上の特性から100℃以上の温度で甚だしい熱収縮挙動を見せ、正極と負極との間の短絡を起こすという問題点がある。
【0006】
このような電気化学素子の安全性問題を解決するために、多数の気孔を有する多孔性基材の少なくとも一面に、無機物粒子とバインダー高分子との混合物をコーティングして多孔性有機無機複合コーティング層を形成したセパレータが提案された。例えば、特許文献1には、多孔性基材上に無機物粒子とバインダー高分子との混合物で形成された多孔性コーティング層を設けたセパレータに関する技術が開示されている。
【0007】
有機無機複合多孔性コーティング層が形成されたセパレータにおいて、多孔性基材上に形成された多孔性コーティング層に存在する無機物粒子が多孔性コーティング層の物理的形態を維持できる一種のスペーサの役割をすることで、電気化学素子が過熱したとき多孔性基材が熱収縮することを抑制するか、または、熱暴走時の両電極の短絡を防止するようになる。また、無機物粒子同士の間にはインタースティシャル・ボリューム(interstitial volume)が存在し、微細気孔を形成する。
【0008】
多孔性基材に形成された有機無機複合多孔性コーティング層が上述の機能を良好に発現するためには、無機物粒子が所定含量以上に十分含有されなければならない。しかし、無機物粒子の含量が高くなるにつれてバインダー高分子の含量は相対的に低くなるので、電極との結着性が低下し、巻き取りなど電気化学素子の組み立て過程で発生する応力や外部との接触によって多孔性コーティング層の無機物粒子が脱離され易い。セパレータの電極に対する結着性が低下すれば電気化学素子の性能が低下し、脱離された無機物粒子は電気化学素子の局部的な欠点として作用して電気化学素子の安全性に悪影響を及ぼすことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】韓国特許公開第2007−0019958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、上述の問題点を解決して、電極に対する結着性が良好であり、電気化学素子の組み立て過程で無機物粒子が脱離される問題点が改善したセパレータを容易に製造できる方法、これから形成されたセパレータ、及びこれを含む電気化学素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を達成するために、本発明のセパレータの製造方法は、
(S1)気孔を有する多孔性基材を用意するステップと、
(S2)無機物粒子が分散しており、第1バインダー高分子が第1溶媒に溶解されたスラリーを上記多孔性基材の少なくとも一面上にコーティングするステップと、
(S3)上記コーティングされたスラリーの上に第2バインダー高分子が第2溶媒に溶解されたバインダー溶液をコーティングするステップと、
(S4)上記第1溶媒及び第2溶媒を同時に乾燥処理して、上記第2溶媒が乾燥されながら形成された気孔を含み第2バインダー高分子からなった多孔性高分子の外郭層が形成されるようにし、上記第1溶媒が乾燥されながら無機物粒子が第1バインダー高分子によって相互連結及び固定され、且つ、無機物粒子同士の間に存在するインタースティシャル・ボリュームによって形成された気孔を含む多孔性有機無機複合内部層が形成されるようにするステップと、を含む。
【0012】
本発明のセパレータの製造方法において、上記多孔性基材はポリオレフィン系多孔性膜であることが望ましく、多孔性基材の厚さは1ないし100μm(マイクロメーター)であることが望ましい。
【0013】
本発明のセパレータの製造方法において、無機物粒子の平均粒径は0.001ないし10μmであることが望ましく、無機物粒子としては、誘電率定数が5以上の無機物粒子、またはリチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子をそれぞれ単独でまたはこれらを混合して使用することができる。
【0014】
本発明のセパレータの製造方法において、無機物粒子と第1バインダー高分子との重量比は50:50ないし99:1であることが望ましく、第1バインダー高分子及び第2バインダー高分子の溶解度指数は相互独立して、それぞれ15ないし45Mpa1/2であることを用いることが望ましい。このような第1バインダー高分子及び第2バインダー高分子としては、ポリフッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン、ポリフッ化ビニリデン‐トリクロロエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、エチレンビニルアセテート共重合体、ポリエチレンオキサイド、ポリアリレート、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルセルロース、シアノエチルスクロース、プルラン、カルボキシルメチルセルロースなどをそれぞれ単独でまたはこれらのうち2種以上を混合して使用することができる。
【0015】
また、本発明のセパレータの製造方法の(S3)ステップにおいて、バインダー溶液内の第2バインダー高分子の含量は0.1ないし30重量%であることが、乾燥過程において十分な気孔が形成されるようにし、電極との結着性を高めるのに有利である。
【0016】
このような方法で製造された本発明のセパレータは、正極と負極との間に介在させて電極とラミネーティングすることで、リチウム二次電池やスーパーキャパシタ素子のような電気化学素子を製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の方法によって製造されたセパレータは、次のような特性を奏する。
【0018】
第一、有機無機複合内部層の表面に形成された多孔性高分子の外郭層は、セパレータの電極に対する結着性を良好にすることで、ラミネーションが容易になるようにする。
【0019】
第二、多孔性高分子の外郭層は、有機無機複合内部層の無機物粒子が外部に脱離されることを防止する網のような役割を果たすことで、無機物粒子の脱離による問題点を防止する。また、このような多孔性高分子の外郭層の機能によって有機無機複合内部層の無機物粒子含量を高めることができるようになるので、セパレータの安定性がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施例によってセパレータを製造する方法を概略的に示す工程図である。
【図2】本発明の実施例1のセパレータの製造工程中、高分子溶液をコーティングせずに、スラリーのみをコーティング及び乾燥させたセパレータのSEM写真である。
【図3】本発明の実施例1のセパレータのSEM写真である。
【図4】本発明の比較例1のセパレータのSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付された図面を参照して本発明の望ましい実施例を詳しく説明する。これに先立ち、本明細書及び請求範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者自らは発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則して本発明の技術的な思想に応ずる意味及び概念で解釈されねばならない。したがって、本明細書に記載された実施例及び図面に示された構成は、本発明のもっとも望ましい一実施例に過ぎず、本発明の技術的な思想のすべてを代弁するものではないため、本出願の時点においてこれらに代替できる多様な均等物及び変形例があり得ることを理解せねばならない。
【0022】
本発明のセパレータの製造方法を詳しく説明すれば、次のようである。
【0023】
まず、気孔を有する多孔性基材を用意する(S1ステップ)。
【0024】
このような多孔性基材としては、多様な高分子で形成された多孔性膜や不織布など電気化学素子に通常使用される多孔性基材であれば、全て使用することができる。例えば、電気化学素子、特に、リチウム二次電池のセパレータとして使用されるポリオレフィン系多孔性膜や、ポリエチレンテレフタレート繊維からなる不織布などを使用でき、その材質や形態は目的に応じて多様に選択することができる。例えば、ポリオレフィン系多孔性膜は、高密度ポリエチレン、線形低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンのようなポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリペンテンなどのポリオレフィン系高分子をそれぞれ単独でまたはこれらを混合した高分子で形成でき、不織布もポリオレフィン系高分子またはこれより耐熱性の高い高分子を用いた繊維で製造することができる。多孔性基材の厚さは特に制限されないが、望ましくは1ないし100μm、より望ましくは5ないし50μmである。多孔性基材に存在する気孔の大きさ及び気孔度も特に制限されないが、それぞれ0.001ないし50μm及び10ないし95%であることが望ましい。
【0025】
次いで、無機物粒子が分散しており、第1バインダー高分子が第1溶媒に溶解されたスラリーを上記多孔性基材の少なくとも一面上にコーティングする(S2ステップ)。
【0026】
無機物粒子は電気化学的に安定していれば、特に制限されない。すなわち、本発明で使用できる無機物粒子は、適用する電気化学素子の作動電圧範囲(例えば、Li/Li基準で0〜5V)で酸化及び/または還元反応を起こさないものであれば、特に制限されない。特に、無機物粒子として誘電率の高い無機物粒子を使用する場合、液体電解質内の電解質塩、例えばリチウム塩の解離度増加に寄与し、電解液のイオン伝導度を向上させることができる。
【0027】
上述した理由から、上記無機物粒子は誘電率定数が5以上、望ましくは10以上の高誘電率無機物粒子を含むことが望ましい。誘電率定数が5以上の無機物粒子の非制限的な例としては、BaTiO、Pb(Zr,Ti)O(PZT)、Pb1−xLaZr1−yTi(PLZT、ここで、0<x<1、0<y<1)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O‐PbTiO(PMN‐PT)、ハフニア(HfO)、SrTiO、SnO、CeO、MgO、NiO、CaO、ZnO、ZrO、Y、Al、TiO、SiCまたはこれらの混合体などが挙げられる。
【0028】
また、無機物粒子としては、リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子、すなわちリチウム元素を含むが、リチウムを貯蔵せず、リチウムイオンを移動させる機能を有する無機物粒子を使用することができる。リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子の非制限的な例としては、リチウムホスフェート(LiPO)、リチウムチタンホスフェート(LiTi(PO、0<x<2、0<y<3)、リチウムアルミニウムチタンホスフェート(LiAlTi(PO、0<x<2、0<y<1、0<z<3)、14LiO‐9Al‐38TiO‐39Pなどのような(LiAlTiP)系列ガラス(0<x<4、0<y<13)、リチウムランタンチタネート(LiLaTiO、0<x<2、0<y<3)、Li3.25Ge0.250.75などのようなリチウムゲルマニウムチオホスフェート(LiGe、0<x<4、0<y<1、0<z<1、0<w<5)、LiNなどのようなリチウムナイトライド(Li、0<x<4、0<y<2)、LiPO‐LiS‐SiSなどのようなSiS系列ガラス(LiSi、0<x<3、0<y<2、0<z<4)、LiI‐LiS‐PなどのようなP系列ガラス(Li、0<x<3、0<y<3、0<z<7)またはこれらの混合物などが挙げられる。
【0029】
また、無機物粒子の平均粒径には特別な制限がないが、均一な厚さのコーティング層の形成及び適切な孔隙率のため、0.001ないし10μmであることが望ましい。0.001μm未満の場合は分散性が低下し、10μmを超過すれば、形成されるコーティング層の厚さが増加する恐れがある。
【0030】
第1バインダー高分子は、ガラス転移温度(glass transition temperature、T)が−200ないし200℃の高分子を使用することが望ましい。これは最終的に形成されるコーティング層の柔軟性及び弾性などのような機械的物性を向上できるためである。
【0031】
また、第1バインダー高分子は必ずしもイオン伝導能力を有する必要はないが、イオン伝導能力を有する高分子を使用する場合、電気化学素子の性能を一層向上させることができる。したがって、第1バインダー高分子はなるべく誘電率定数が高いことが望ましい。実際、電解液における塩の解離度は電解液溶媒の誘電率定数に依存するため、第1バインダー高分子の誘電率定数が高いほど電解質における塩の解離度を向上させることができる。このような第1バインダー高分子の誘電率定数は1.0ないし100(測定周波数=1kHz)が使用可能であり、特に10以上であることが望ましい。
【0032】
上述した機能の外に、第1バインダー高分子は、液体電解液に含浸するときゲル化することで、高い電解液含浸率(degree of swelling)を示すことができる。これにより、溶解度指数が15ないし45MPa1/2の高分子を使用することが望ましく、より望ましい溶解度指数は、15ないし25MPa1/2及び30ないし45MPa1/2である。したがって、ポリオレフィン類のような疎水性高分子よりは、多くの極性基を有する親水性高分子を使用することが望ましい。溶解度指数が15MPa1/2未満であるか又は45MPa1/2を超過する場合、通常の電池用液体電解液によって含浸(swelling)し難いためである。
【0033】
このような第1バインダー高分子の非制限的な例としては、ポリフッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン、ポリフッ化ビニリデン‐トリクロロエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、エチレンビニルアセテート共重合体、ポリエチレンオキサイド、ポリアリレート、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルセルロース、シアノエチルスクロース、プルラン、カルボキシルメチルセルロースなどが挙げられる。
【0034】
無機物粒子と第1バインダー高分子との重量比は、例えば50:50ないし99:1が望ましく、より望ましくは70:30ないし95:5である。第1バインダー高分子に対する無機物粒子の含量比が50:50未満であれば、高分子の含量が多くなり、形成されるコーティング層の気孔の大きさ及び気孔度が減少し得る。無機物粒子の含量が99重量部を超過すれば、第1バインダー高分子の含量が少ないため、形成されるコーティング層の耐剥離性が低下することがある。
【0035】
第1バインダー高分子の溶媒(すなわち、第1溶媒)としては、使用しようとする第1バインダー高分子と溶解度指数が類似し、沸点が低いものが望ましい。これは、均一な混合と、以降の溶媒の除去を容易にするためである。使用可能な第1溶媒の非制限的な例としては、アセトン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、N‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)、シクロヘキサン、水またはこれらの混合体などが挙げられる。
【0036】
無機物粒子が分散しており、第1バインダー高分子が第1溶媒に溶解されたスラリーは、第1バインダー高分子を第1溶媒に溶解した後、無機物粒子を添加し、これを分散させて製造できる。無機物粒子は、適正な大きさに破砕した状態で添加できるが、第1バインダー高分子の溶液に無機物粒子を添加した後、無機物粒子をボールミル法などを用いて破砕しながら分散させることが望ましい。
【0037】
多孔性基材にコーティングするスラリーのローディング量は、最終的に形成されるコーティング層が5ないし20g/m2になるように調節することが、コーティング層の機能及び高容量電池に対する適合性を考慮すれば望ましい。
【0038】
それから、コーティングされたスラリーの上に第2バインダー高分子が第2溶媒に溶解されたバインダー溶液をコーティングする(S3ステップ)。
【0039】
第2バインダー高分子と第2溶媒としては、それぞれ前述した第1バインダー高分子と第1溶媒とを使用できるが、第1バインダー高分子と第2バインダー高分子及び第1溶媒と第2溶媒は互いに同一であっても、同一でなくても良い。バインダー溶液内の第2バインダー高分子の含量は0.1ないし30重量%であることが、乾燥過程において十分な気孔が形成されるようにし、電極との結着性を高めるのに有利である。また、バインダー溶液のローディング量は最終的に形成されるコーティング層が0.1ないし3.0g/m2になるように調節することが、コーティング層の多孔度及び電極に対する結着性を考慮すれば望ましい。
【0040】
前述した(S2)のスラリーコーティングステップ及び(S3)のバインダー溶液コーティングステップは、スロットダイコーティング、スライドコーティング、カーテンコーティングなど多様な方法を用いて連続的にまたは非連続的に行うことができる。特に、生産性の面から、(S2)のスラリーコーティングステップ及び(S3)のバインダー溶液コーティングステップは連続的にまたは同時に行うことが望ましい。最も望ましい例が図1に示されている。
【0041】
図1を参照すれば、(S2)のスラリーコーティングステップ及び(S3)のバインダー溶液コーティングステップを行うために、2個のスロット3a、3bを有するダイ1が用いられる。第1スロット3aを通じて、無機物粒子が分散しており、第1バインダー高分子が第1溶媒に溶解されたスラリー7が供給される。また、第2スロット3bを通じて、第2バインダー高分子が第2溶媒に溶解されたバインダー溶液5が供給される。回転するローラーに多孔性基材9が供給されれば、多孔性基材9上にスラリー7がコーティングされ、連続的にスラリー7上にバインダー溶液5がコーティングされる。
【0042】
最後に、多孔性基材上にコーティングされたスラリー及びバインダー溶液に存在する第1溶媒及び第2溶媒を同時に乾燥処理し、上記第2溶媒が乾燥されながら形成された気孔を含み第2バインダー高分子からなった多孔性高分子の外郭層が形成されるようにし、上記第1溶媒が乾燥されながら無機物粒子が第1バインダー高分子によって相互連結及び固定され、且つ、無機物粒子同士の間に存在するインタースティシャル・ボリュームによって形成された気孔を含む多孔性有機無機複合内部層が形成されるようにする(S4ステップ)。
【0043】
本発明の(S4)ステップにおいて、スラリー及びバインダー溶液に存在する第1溶媒及び第2溶媒を同時に乾燥処理すべき理由は、次のようである。
【0044】
(S3)ステップの結果物を乾燥機などに通過させれば、スラリー上にコーティングされたバインダー溶液がまず熱や熱風を与えられるようになる。したがって、外郭部にコーティングされたバインダー溶液内の第2溶媒がスラリー内の第1溶媒より先に乾燥する。すなわち、第2溶媒が第1溶媒より先に乾燥が完了して気孔が形成された第2バインダー高分子からなった多孔性高分子の外郭層が形成される。次いで、スラリー内の第1溶媒の乾燥が完全に終了すると、無機物粒子が第1バインダー高分子によって相互連結及び固定され、且つ、無機物粒子同士の間に存在するインタースティシャル・ボリュームによって気孔が形成される。
【0045】
このように多孔性高分子の外郭層が先に形成された後スラリー内の第1溶媒の乾燥が完了するので、形成された多孔性高分子の外郭層が無機物粒子同士の間によく浸透されずに独立的な外郭層(スキン層)をなすことになる。このように独立して形成された多孔性高分子の外郭層はセパレータの電極に対する結着性を増大させるのに有利であるので、ラミネーションを容易にする。また、多孔性高分子の外郭層は高分子有機無機複合内部層の無機物粒子が電池の組み立て過程で外部と接触することを防止することで、有機無機複合内部層から脱離されることを防止する。なお、多孔性高分子の外郭層は有機無機複合内部層の無機物粒子の中で一部が相互接着力の欠如によって内部層から脱離される場合、脱離された無機物粒子が外部に流出することを防止する網のような役割ができる。したがって、このような多孔性高分子の外郭層の機能によって有機無機複合内部層の無機物粒子の含量を高めることができるので、セパレータの安定性がさらに向上する。
【0046】
本発明とは異なり、第1バインダー高分子が第1溶媒に溶解されたスラリーコーティング層を先に乾燥して有機無機複合多孔性コーティング層を形成した後、第2バインダー高分子が第2溶媒に溶解されたバインダー溶液を塗布すれば、バインダー溶液が無機物粒子同士の間に存在するインタースティシャル・ボリュームに侵透することになる。これによって、有機無機複合多孔性コーティング層の気孔率が大きく低下して電池の性能に悪影響を及ぼすようになり、独立的な高分子外郭層(スキン層)の形成が難しくなる。これによって電極に対する結着性を増大させるために形成する高分子外郭層の機能が低下し、外部に対する無機物粒子の接触及び流出を防止する網としての機能も低下する。
【0047】
上述した方法によって製造されたセパレータを、正極と負極との間に介在させてラミネーティングすることで電気化学素子を製造することができる。電気化学素子は電気化学反応をする全ての素子を含み、具体的には、あらゆる種類の一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池またはスーパーキャパシタ素子のようなキャパシタなどが挙げられる。特に、上記二次電池のうちリチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池またはリチウムイオンポリマー二次電池などを含むリチウム二次電池が望ましい。
【0048】
本発明のセパレータと共に適用される正極と負極の両電極は、特に制限されず、当業界で周知の通常の方法によって電極活物質を電極電流集電体に結着した形態で製造することができる。上記電極活物質のうち正極活物質の非制限的な例としては、従来電気化学素子の正極に使用される通常の正極活物質が使用可能であり、特にリチウムマンガン酸化物、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウム鉄酸化物、またはこれらを組み合わせたリチウム複合酸化物を使用することが望ましい。負極活物質の非制限的な例としては、従来電気化学素子の負極に使用される通常の負極活物質が使用可能であり、特にリチウム金属またはリチウム合金、炭素、石油コークス(petroleum coke)、活性化炭素、グラファイトまたはその他炭素類などのようなリチウム吸着物質などが望ましい。正極電流集電体の非制限的な例としては、アルミニウム、ニッケルまたはこれらの組合せによって製造されるホイルなどがあり、負極電流集電体の非制限的な例としては、銅、金、ニッケル、銅合金、またはこれらの組合せによって製造されるホイルなどがある。
【0049】
本発明の電気化学素子で使用可能な電解液は、Aのような構造の塩であって、AはLi、Na、Kのようなアルカリ金属陽イオンまたはこれらの組合せからなるイオンを含み、BはPF、BF、Cl、Br、I、ClO、AsF、CHCO、CFSO、N(CFSO、C(CFSOのような陰イオンまたはこれらの組合せからなるイオンを含む塩が、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、N‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)、エチルメチルカーボネート(EMC)、γ‐ブチロラクトンまたはこれらの混合物からなる有機溶媒に溶解または解離されたものであるが、これに限定されることはない。
【0050】
上記電解液の注入は、最終製品の製造工程及び求められる物性に応じて、電池製造工程のうち適宜なステップにおいて行えばよい。すなわち、電池組立て前または電池組立ての最終ステップなどにおいて注入すればよい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例を挙げて詳しく説明する。しかし、本発明による実施例は多くの他の形態に変形され得、本発明の範囲が後述する実施例に限定されると解釈されてはならない。本発明の実施例は当業界で平均的な知識を持つ者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0052】
実施例1
PVdF‐CTFE(ポリフッ化ビニリデン‐クロロトリフルオロエチレン共重合体)及びシアノエチルプルランを10:2の重量比でそれぞれアセトンに添加し、50℃で約12時間以上溶解させて高分子溶液を製造した。製造した高分子溶液に、BaTiO粉末を高分子混合物/活性炭素粉末が10/90の重量比になるように添加し、12時間以上ボールミル法を用いて無機物粒子を破砕及び分散することでスラリーを製造した。このように製造したスラリーの無機物粒子の粒径は平均600nmであった。
【0053】
また、上述のスラリーに使用された高分子混合物と溶媒とを使用して、高分子の濃度が2.0重量%である高分子溶液を用意した。
【0054】
このように製造されたスラリーと高分子溶液とを、図1に示したスロットダイを通じて厚さ12μmのポリエチレン多孔性膜(気孔度45%)の一面に連続的にコーティングした。スラリーのローディング量及び高分子溶液のローディング量は最終的に形成される多孔性有機無機複合内部層及び多孔性高分子外郭層コーティング層のローディング量が12.5g/m2及び1.8g/m2になるように調節した。
【0055】
次いで、コーティングが完了した基材を60℃に調節された乾燥機に通過させてスラリーと高分子溶液とに含まれた溶媒を乾燥させることで、セパレータを完成した。
【0056】
完成したセパレータのガーレー(Gurley)値は384sec/100mLと良好であった。
【0057】
一方、セパレータの結着性を評価するために、実施例1のセパレータを互いにラミネーティングした後結着力を測定した結果、9.3gf/cmと優れた結着力を見せた。これから、実施例1のセパレータは、電極との結着性に優れていることが分かる。
【0058】
一方、図2は本発明の実施例1のセパレータ製造工程中、高分子溶液をコーティングせずに、スラリーのみをコーティング及び乾燥させたセパレータのSEM写真であり、図3は本発明の実施例1のセパレータのSEM写真である。図3を参照すれば、実施例1によって最外郭に多孔性高分子の外郭層が形成されたことが確認できる。
【0059】
実施例2
最終的に形成された多孔性高分子外郭層のローディング量が0.6g/m2になるように高分子溶液のローディング量を変更したことを除いては、実施例1と同一の方法でセパレータを完成した。
【0060】
完成したセパレータのガーレー値は368sec/100mLと良好であった。
【0061】
一方、セパレータの結着性を評価するために、実施例2のセパレータを互いにラミネーティングした後結着力を測定した結果、8.1gf/cmと優れた結着力を見せた。これから、実施例2のセパレータは、電極との結着性に優れていることが分かる。
【0062】
比較例1
多孔性基材にスラリーをコーティングした後溶媒を乾燥させてから、高分子溶液をコーティングして乾燥させたことを除いては、実施例1と同一の方法でセパレータを完成した。
【0063】
完成したセパレータのガーレー値は552sec/100mLであり、これは、実施例1及び2より大きく増加した数値である。
【0064】
セパレータの結着性を評価するために、比較例1のセパレータを互いにラミネーティングした後結着力を測定した結果、3.7gf/cmであって、実施例1及び2よりも低い結着力を見せた。
【0065】
図4は比較例1によって製造したセパレータのSEM写真である。図面を参照すれば、完成したセパレータの表面は表面粗度が増加したことが分かる。すなわち、比較例1のセパレータは、電極に対する結着性を増大させるために形成した高分子外郭層の機能が低下したことが確認できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(S1)気孔を有する多孔性基材を用意するステップと、
(S2)無機物粒子が分散しており、第1バインダー高分子が第1溶媒に溶解されたスラリーを上記多孔性基材の少なくとも一面上にコーティングするステップと、
(S3)上記コーティングされたスラリーの上に第2バインダー高分子が第2溶媒に溶解されたバインダー溶液をコーティングするステップと、及び
(S4)上記第1溶媒及び第2溶媒を同時に乾燥処理して、上記第2溶媒が乾燥されながら形成された気孔を含み第2バインダー高分子からなった多孔性高分子の外郭層が形成されるようにし、上記第1溶媒が乾燥されながら無機物粒子が第1バインダー高分子によって相互連結及び固定され、且つ、無機物粒子同士の間に存在するインタースティシャル・ボリュームによって形成された気孔を含む多孔性有機無機複合内部層が形成されるようにするステップとを含んでなる、セパレータの製造方法。
【請求項2】
前記多孔性基材が、ポリオレフィン系多孔性膜である、請求項1に記載のセパレータの製造方法。
【請求項3】
前記多孔性基材の厚さが1μmないし100μmである、請求項1に記載のセパレータの製造方法。
【請求項4】
前記無機物粒子の平均粒径が0.001μmないし10μmである、請求項1に記載のセパレータの製造方法。
【請求項5】
前記無機物粒子が、誘電率定数が5以上の無機物粒子、リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子、及びこれらの混合物からなる群より選択された無機物粒子である、請求項1に記載のセパレータの製造方法。
【請求項6】
前記誘電率定数が5以上の無機物粒子が、BaTiO、Pb(Zr,Ti)O(PZT)、Pb1−xLaZr1−yTi(PLZT、ここで、0<x<1、0<y<1)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O‐PbTiO(PMN‐PT)、ハフニア(HfO)、SrTiO、SnO、CeO、MgO、NiO、CaO、ZnO、ZrO、SiO、Y、Al、SiC及びTiOからなる群より選択されたいずれか1つの無機物粒子またはこれらの2種以上の混合物である、請求項5に記載のセパレータの製造方法。
【請求項7】
前記リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子が、リチウムホスフェート(LiPO)、リチウムチタンホスフェート(LiTi(PO、0<x<2、0<y<3)、リチウムアルミニウムチタンホスフェート(LiAlTi(PO、0<x<2、0<y<1、0<z<3)、(LiAlTiP)系列ガラス(0<x<4、0<y<13)、リチウムランタンチタネート(LiLaTiO、0<x<2、0<y<3)、リチウムゲルマニウムチオホスフェート(LiGe、0<x<4、0<y<1、0<z<1、0<w<5)、リチウムナイトライド(Li、0<x<4、0<y<2)、SiS(LiSi、0<x<3、0<y<2、0<z<4)系列ガラス及びP(Li、0<x<3、0<y<3、0<z<7)系列ガラスからなる群より選択されたいずれか1つの無機物粒子またはこれらの2種以上の混合物である、請求項5に記載のセパレータの製造方法。
【請求項8】
前記無機物粒子と第1バインダー高分子との重量比が50:50ないし99:1である、請求項1に記載のセパレータの製造方法。
【請求項9】
前記第1バインダー高分子及び第2バインダー高分子の溶解度指数が相互に独立して、それぞれ15ないし45Mpa1/2である、請求項1に記載のセパレータの製造方法。
【請求項10】
前記第1バインダー高分子及び第2バインダー高分子が、相互に独立して、それぞれポリフッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン、ポリフッ化ビニリデン‐トリクロロエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、エチレンビニルアセテート共重合体、ポリエチレンオキサイド、ポリアリレート、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルセルロース、シアノエチルスクロース、プルラン及びカルボキシルメチルセルロースからなる群より選択されたいずれか1つのバインダー高分子またはこれらの2種以上の混合物である、請求項1に記載のセパレータの製造方法。
【請求項11】
前記第1溶媒及び第2溶媒が、相互に独立して、それぞれアセトン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、N‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)、シクロヘキサン及び水からなる群より選択されたいずれか1つの溶媒またはこれらの2種以上の混合物である、請求項1に記載のセパレータの製造方法。
【請求項12】
前記バインダー溶液内の第2バインダー高分子の含量が0.1ないし30重量%である、請求項1に記載のセパレータの製造方法。
【請求項13】
前記バインダー溶液のローディング量が、前記第2バインダー高分子からなる多孔性高分子の外郭層が0.1g/m2ないし3.0g/m2に形成されるように調節される、請求項1に記載のセパレータの製造方法。
【請求項14】
請求項1〜13の何れか一項に記載のセパレータの製造方法によって製造された、セパレータ。
【請求項15】
電気化学素子の製造方法であって、
セパレータを請求項1〜13の何れか一項に記載の製造方法によって製造し、
正極と負極との間に前記セパレータを介在させてラミネーティングするステップを含んでなる、電気化学素子の製造方法。
【請求項16】
前記電気化学素子がリチウム二次電池である、請求項15に記載の電気化学素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2013−506259(P2013−506259A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−531997(P2012−531997)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【国際出願番号】PCT/KR2010/005279
【国際公開番号】WO2011/040704
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】