説明

セパレータ及び鉛蓄電池

【課題】いずれかの極板の格子体がPb−Sb系合金からなる場合であっても、硫化水素を発生させずに、負極板からの水素発生を効率的に抑制することを可能とするセパレータ及びそれを用いてなる鉛蓄電池を提供する。
【解決手段】セパレータが、セパレータ本体と、前記セパレータ本体に担持され、硫黄により架橋されてなる粉末状の加硫ゴムとを備えているようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、いずれかの極板の格子体がPb−Sb系合金からなる場合であっても、硫化水素を発生させることなく、負極板からの水素発生を効率的に抑制することを可能とするセパレータ及びそれを用いてなる鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、比較的低価格でありながら安定した性能と高い信頼性とを有することから、自動車用の電池やバックアップ用の電池等に用いられている。一般的な鉛蓄電池は、正極板と負極板とを、セパレータを介して積層又は巻回して電槽に収納し、この電槽に希硫酸を主成分とする電解液を注液することにより製造される。
【0003】
このような鉛蓄電池の正極板及び負極板としては、鉛又は鉛系合金製の格子体に活物質を保持したものが用いられる。特に、アンチモン(Sb)が配合されたPb−Sb系合金を電極板の格子体に用いる鉛蓄電池(以下、Sb合金鉛蓄電池という。)は、正極板の耐蝕性や耐久性の点で他の鉛蓄電池より優れているが、一方で、その負極板からの水素発生速度は、アンチモンを配合していない鉛系合金を電極板の格子体に用いる鉛蓄電池(以下、非Sb合金鉛蓄電池という。)と比べて10倍以上大きいという問題を有する。この水素は電解液中の水が電気化学的に分解されて発生するものであるが、特に、長期間使用した鉛蓄電池では、水素発生速度が使用初期に比べてより一層大きくなる。
【0004】
この原因は電極板に含まれるアンチモンにある。負極格子体にPb−Sb系合金を用いたSb合金鉛蓄電池はもとより、正極格子体にPb−Sb系合金を用いたSb合金鉛蓄電池であっても、鉛蓄電池の保管中又は作動中に正極格子体から溶出したアンチモンが負極板上に析出する。アンチモンは鉛より水素過電圧が低いため、金属アンチモンの表面では同じ電位であっても鉛の表面に比べて水素発生の速度が100倍以上大きく、アンチモンが存在する負極板表面からは、それが存在しない場合に比べて著しく多量の水素が発生する。この水素発生を抑える有効な方法は確立されていないため、例えば、Sb合金鉛蓄電池を浮動充電で使用する場合には、非Sb合金鉛蓄電池を使用する場合よりも、蓄電池設備に大きい換気能力が必要であり、その分余計にコストがかかる。また、電解液中の水分解という、鉛蓄電池の性能維持には本来不要又は有害な化学反応に余分な電力が消費されるという問題もある。
【0005】
これに関して、水溶液中の重金属を硫黄化合物で捕捉し除去する方法が知られている(非特許文献1)。一般に重金属の硫化物の溶解度積は極めて小さく、従って、ある種の硫黄化合物は水中のアンチモン等の重金属を除去する有効な薬剤である。
【0006】
しかし、ほとんどの硫黄化合物は、鉛蓄電池の電解液のような強酸性水溶液中では有毒な硫化水素を発生させるため、鉛蓄電池の電解液には使用できない。近時、重金属汚染除去用に、ザンセート基等を持つ有機硫黄高分子が数種類実用化されたが、これらもやはり強酸性水溶液中ではゆっくりではあるものの分解され、硫化水素を発生するため、鉛蓄電池の電解液中での使用は不可能である。このため、強力なアンチモン捕捉物質ではあるものの、硫黄化合物を鉛蓄電池の電解液中で使いこなす技術は現在に至るまで見出されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】公害防止の技術と法規(水質) 2003年版、社団法人産業環境管理協会発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、上記現状に鑑み、いずれかの極板の格子体がPb−Sb系合金からなる場合であっても、硫化水素を発生させずに、負極板からの水素発生を効率的に抑制することを可能とするセパレータ及びそれを用いてなる鉛蓄電池を提供すべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、架橋成分として硫黄を含有するエボナイト等の加硫ゴムを、粉末状態で鉛蓄電池のセパレータに担持させることにより、いずれかの極板の格子体がPb−Sb系合金からなる場合であっても、硫化水素を発生させずに、負極板からの水素発生を効率的に抑制しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明に係るセパレータは、セパレータ本体と、前記セパレータ本体に担持され、硫黄により架橋されてなる粉末状の加硫ゴムとを備えていることを特徴とする。
【0011】
前記粉末状の加硫ゴムは、平均粒子直径が350μm以下のものであることが好ましい。
【0012】
また、前記粉末状の加硫ゴムは、ゴム成分100重量部に対して硫黄を33〜52重量部含有するものであることが好ましい。
【0013】
前記粉末状の加硫ゴムが、ゴム成分100重量部に対して硫黄を50〜52重量部含有するものである場合は、前記セパレータ本体に1mあたり8g以上の前記粉末状の加硫ゴムが担持されていることが好ましい。
【0014】
前記粉末状の加硫ゴムが、ゴム成分100重量部に対して硫黄を40重量部以上50重量部未満含有するものである場合は、前記セパレータ本体に1mあたり15g以上の前記粉末状の加硫ゴムが担持されていることが好ましい。
【0015】
前記粉末状の加硫ゴムが、ゴム成分100重量部に対して硫黄を33重量部以上40重量部未満含有するものである場合は、前記セパレータ本体に1mあたり25g以上の前記粉末状の加硫ゴムが担持されていることが好ましい。
【0016】
このような本発明に係るセパレータを備えている鉛蓄電池もまた、本発明の1つである。すなわち本発明に係る鉛蓄電池は、正極板と、負極板と、これら極板間に配置されたセパレータとを備えた鉛蓄電池であって、前記セパレータが、本発明に係るものであることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る鉛蓄電池は、少なくともいずれか一方の極板の格子体がPb−Sb系合金からなるものである場合に好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、上述した構成よりなるので、いずれかの極板の格子体がPb−Sb系合金からなる場合であっても、硫化水素を発生させずに、負極板からの水素発生を効率的かつ大幅に低減することができる。このため、本発明によれば、鉛蓄電池設備に大きな換気能力は不要となり、また、水分解に消費される本来不要な電力を削減することができるので、特に大規模な鉛蓄電池設備においてコスト面から極めて有利である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】加硫ゴムにおける硫黄配合量と水素発生抑制効果との関係を示す図である。
【図2】加硫ゴムにおける硫黄配合量と水素発生抑制効果の持続性との関係を示す図である。
【図3】加硫ゴムにおける硫黄配合量及び加硫ゴム粉末のセパレータへの担持量と、水素発生抑制効果の持続性との関係を示す図(サンプル電池z、d10〜d40、e10〜e30、c40)である。
【図4】加硫ゴムにおける硫黄配合量及び加硫ゴム粉末のセパレータへの担持量と、水素発生抑制効果の持続性との関係を示す図(サンプル電池z、f10〜f30、g05〜g30)である。
【図5】加硫ゴムにおける硫黄配合量及び加硫ゴム粉末のセパレータへの担持量と、水素発生抑制効果の持続性との関係を示す図(サンプル電池z、h05〜h30)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係る鉛蓄電池の実施形態について説明する。
【0021】
本発明に係る鉛蓄電池は、例えば、二酸化鉛を活物質の主成分とする正極板と、鉛を活物質の主成分とする負極板と、これら極板の間に介在するセパレータとからなる極板群を備えたものであり、当該極板群が希硫酸を主成分とする電解液に浸漬されてなるものである。前記正極板及び負極板は、いずれも格子体を備えたものであり、当該格子体にペースト状の活物質を充填することにより各極板が形成される。前記電解液及び活物質としては特に限定されず、目的・用途に応じて公知のものから適宜選択して用いることができる。
【0022】
本発明における格子体としては特に限定されず、例えば、鉛、Pb−Sb系合金、Pb−Ca系合金等からなるものが挙げられるが、なかでも本発明は、後述するように、負極板上のアンチモンに起因する水素発生を伴う自己放電を防止するのに有効であるので、少なくともいずれか一方の極板の格子体がPb−Sb系合金からなる場合に好適である。なお、少なくともいずれか一方の極板の格子体がPb−Sb系合金からなる鉛蓄電池としては、正極板の格子体のみがPb−Sb系合金からなるものであってもよく、負極板の格子体のみがPb−Sb系合金からなるものであってもよく、又は、正極板及び負極板の両方の格子体がPb−Sb系合金からなるものであってもよい。
【0023】
前記Pb−Sb系合金としては、アンチモンが不純物として含まれているのではなく、例えば、1.5重量%程度以上のアンチモンが実質的又は意図的に配合されているものであれば特に限定されず、目的・用途に応じて公知のものから適宜選択して用いることができる。このようなPb−Sb系合金としては、Pb及びSbのみからなるものに限定されず、更に、他の金属元素を含有していてもよい。前記他の金属元素としては特に限定されず、例えば、As、Sn、Cu、Se、S、Al等が挙げられる。Asは共晶部分の耐蝕性を改善して、粒界腐食を防止し、Snは格子鋳造時に鋳型内での溶湯の流れを良くするとともに、正極板において格子体と活物質との界面に絶縁層が生成することを防ぐことができる。Cu、Se、Sは、鋳造時の割れを防止する核化剤として作用し、Alは鉛合金の溶湯の表面を被覆し、酸化を防ぐことができる。
【0024】
本発明におけるセパレータは、セパレータ本体と、前記セパレータ本体に担持され、硫黄により架橋されてなる粉末状の加硫ゴムとを備えたものである。
【0025】
前記セパレータ本体としては特に限定されず、目的・用途に応じて公知のセパレータから適宜選択して用いることができる。このような公知のセパレータとしては、例えば、ポリエチレン等の合成樹脂繊維や、ガラス繊維、パルプ等の天然繊維等を抄紙してなる不織布状ものや、ポリエチレン等の合成樹脂やゴム等を押し出し成形してなる多孔性のものが挙げられる。
【0026】
前記加硫ゴムとしては、硫黄により架橋されたものであれば特に限定されず、例えば、天然ゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、イソプレンゴム(IR)、エチレン−プロピレンゴム(EPDM)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)等が挙げられるが、なかでも、比較的多量の硫黄が配合されたエボナイトが好適に用いられる。
【0027】
前記加硫ゴムは、原料ゴム及び硫黄の他に、更に、例えば、加硫促進剤、老化防止剤、増量剤、補強剤、軟化剤等を含有していてもよい。
【0028】
本発明に係る鉛蓄電池では、セパレータに粉末状の加硫ゴム(以下、加硫ゴム粉末ともいう。)が担持されていることにより、いずれかの極板の格子体がPb−Sb系合金からなる場合であっても、負極板からの水素発生を効率的に抑制することが可能となる。この作用機構としては未だ充分には解明されていないが、加硫ゴムは、原料ゴムに硫黄や硫黄化合物を加え加熱して得られるものであるので、加硫ゴム中の硫黄を含む高分子が重金属を補足する機能を備えているものと考えられる。また、加硫ゴム中の含硫黄高分子は強酸の中でも分解しないので、鉛蓄電池の電解液中でも重金属を捕捉することが可能であると考えられる。そして、加硫ゴム中の含硫黄高分子が微量ではあるものの電解液中に遊離して、負極活物質や負極格子体上に析出した金属アンチモンや鉛の表面を被覆することによって、負極板における水素発生反応を抑制し、また、網目構造を有する加硫ゴム内に存在する硫黄や、加硫ゴムから電解液中へ遊離した含硫黄高分子が、電解液中に溶出したアンチモンイオンを捕捉することにより負極板上への金属アンチモンの析出を防止することによっても、負極板における水素発生反応を抑制すると推測される。また、加硫ゴム中の硫黄は共有結合により高分子に固定されているので、水素と反応して有毒な硫化水素を発生させることもない。
【0029】
なお、鉛蓄電池のセパレータとしてゴム製のものが知られているが、例えば、エボナイト製のものには、脆く割れやすい等の問題点がある。これに対して、本発明では粉末状の加硫ゴムをセパレータ本体に担持させることにより、セパレータ本体は所望のものを自由に選択して用いることができるので、セパレータ本体としてゴム製以外のものを用いることにより、上述のようなゴム製セパレータの有する問題点を回避しつつ、アンチモン補足機能を発現することができる。
【0030】
特に本発明においては、加硫ゴムがセパレータ上に粉末状態で担持されているので、加硫ゴムと電解液との接触面積を充分に確保することができ、セパレータ1mあたりの加硫ゴム担持量が数十グラム程度の少量であっても充分な水素発生抑制効果を発揮することができる。このような本発明によれば、材料費の上昇及びセパレータのイオン伝導性能の低下が起こらないので、工業的に有利である。
【0031】
前記粉末状の加硫ゴムは、平均粒子直径が350μm以下のものであることが好ましい。平均粒子直径が350μmを超えると、負極からの水素発生を充分に抑制することができなくなる場合がある。これは、加硫ゴム粉末が大きすぎると、その表面積を充分に確保できなくなり、この結果、加硫ゴムから電解液中への含硫黄高分子の遊離量が低下し、また、加硫ゴム内に存在する硫黄と電解液中のアンチモンイオンとの反応速度が低下するためであると推測される。
【0032】
このような加硫ゴム粉末の製造方法としては特に限定されず、固形ゴムを原料とする方法であってもよく、ラテックスを原料とする方法であってもよいが、例えば、ベール状の加硫ゴムをボールミル等で粉砕することにより粉末状の加硫ゴムを得ることができる。本発明で用いられる加硫ゴム粉末の平均粒子直径の下限としては特に限定されないが、例えば、加硫ゴムをボールミルにより粉砕し粉末状とする場合、得られる加硫ゴム粉末の平均粒子直径の下限は1μm程度である。得られた加硫ゴム粉末の平均粒子直径は、例えば、マイクロトラック式粒度分布測定装置により測定することができる。このような加硫ゴム粉末の粒度分布はおおむねロジン・ラムラー式に従うので、その体積平均径(Mean Volume Diameter、MV)をもって平均粒子直径とすればよい。
【0033】
前記加硫ゴムにおける硫黄の配合量は、ゴム成分100重量部に対して33〜52重量部であることが好ましい。硫黄の配合量が33重量部未満であると、水素発生を抑制する効果が不充分であるか、又は、その持続性に劣り、一方、硫黄の配合量が52重量部を超えると硫化水素が発生することがある。
【0034】
この点をより詳しく述べると、硫黄により架橋された加硫ゴムは、原料ゴムの2重結合の部分が硫黄により橋かけされているが、実際には全ての2重結合が均一に硫黄1原子で架橋されるわけではなく、硫黄は多様な結合形態で加硫ゴム中に存在する。そして、所定量を超えて多量の硫黄を配合すると、架橋部分がC−S−Cではなく、酸との反応性が高いC−S−Cの硫黄同士の結合になったり、遊離硫黄や、酸との反応性が高い硫黄化合物が増加したりする。このため、加硫ゴムに所定量を超えて多量の硫黄を配合すると、硫化水素の発生が引き起こされると考えられる。
【0035】
また、前記加硫ゴム粉末のセパレータ本体への担持量は、原料ゴム100重量部に対する硫黄の配合量が50〜52重量部である場合は、セパレータ本体1mあたり8g以上であることが好ましく、原料ゴム100重量部に対する硫黄の配合量が40重量部以上50重量部未満である場合は、セパレータ本体1mあたり15g以上であることが好ましく、原料ゴム100重量部に対する硫黄の配合量が33重量部以上40重量部未満である場合は、セパレータ本体1mあたり25g以上であることが好ましい。前記加硫ゴム粉末のセパレータ本体への担持量が少ないと、水素発生の抑制効果が長期間持続せず、早期に水素発生が増加に転じる傾向にある。
【0036】
この点をより詳しく述べると、鉛蓄電池では、正極格子体がPb−Sb系合金からなる場合、正極板から溶出したアンチモンが負極板上に析出し、一方、負極格子体がPb−Sb系合金からなる場合、そのアンチモンが極板の表面に析出し、これらアンチモンの溶出・析出は電池の使用期間を通じて進行する。このため、負極板での水素発生速度は使用期間を通して増加する傾向にある。従って、粉末状の加硫ゴムをセパレータに担持させると、加硫ゴムが、電解液中のアンチモンイオンを捕捉するか、又は、負極板上のアンチモンを不活性化する能力を保持する間は負極板からの水素発生が抑制されるが、そのアンチモン捕捉能力が飽和するか、又は、捕捉速度が小さくなると水素発生速度が増加する。従って、鉛蓄電池の寿命を通して水素発生を抑制する効果を維持するためには、所定量以上の加硫ゴム粉末をセパレータに担持することが必要であると推測される。
【0037】
前記加硫ゴム粉末のセパレータ本体への担持量の上限としては特に限定されないが、コストやセパレータのイオン伝導性の観点から、1mあたり60g以下であることが好ましい。
【0038】
前記加硫ゴム粉末をセパレータ本体に担持させる方法としては特に限定されないが、例えば、セパレータ本体が抄紙法により製造されるものである場合は、原料繊維にバインダー及び加硫ゴム粉末を加えてこれらを抄紙することにより、加硫ゴム粉末をセパレータ本体に担持することができ、一方、セパレータ本体が押し出し成形により製造されるものである場合は、押し出し成形されたセパレータ本体にバインダー等を用いて加硫ゴム粉末を付着させることにより、加硫ゴム粉末をセパレータ本体に担持することができる。
【0039】
本発明に係る鉛蓄電池の製造方法としては特に限定されないが、例えば、まず、常法により作製した正極板と負極板とを、本発明に係るセパレータを介して交互に組み合わせて未化成の極板群を作製する。次いで、未化成の極板群を電槽に挿入した後、極板群の溶接、セル間の接続、及び、蓋の接着を行い、端子溶接して組立てを完了してから、希硫酸を主成分とする電解液を注液し、電槽化成する。このようにして本発明の鉛蓄電池を製造することができる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0041】
<試験1>加硫ゴムにおける硫黄配合量の評価
ガラス繊維に、合成樹脂バインダーと、表1に示す組成の加硫ゴム粉末をセパレータ1m当たり20g加え、抄紙法によりセパレータを作製した。加硫ゴム粉末としては、天然ゴム、硫黄の他に、加硫促進剤(チウラム)を全体の0.2重量%配合して加硫した加硫ゴムをボールミルで粉砕し、マイクロトラック式粒度分布測定装置により体積平均径が135〜155μmと測定されたものを使用した。
【0042】
両極板の格子体がPb−Sb系合金からなるGSユアサ社製の200Ah2V形ベント式鉛蓄電池(HS−200)を用いて、上記の各セパレータを極間全てに配置したサンプル電池(a20〜i20)を各種類とも3セルずつ作製した。また、比較例として、加硫ゴム粉末を担持させていない抄紙式ガラス繊維セパレータを用いたサンプル電池zを3セル作製した。これらのサンプル電池に対して、30℃において、放電電流20Aで7時間の通電と、充電電流20Aで9時間の通電とを交互に行うサイクルを30回繰り返した後、45℃で端子間電圧が2.30Vとなるように浮動充電を行った。なお、45℃における4年間の浮動充電は、室温(25℃)換算で15年程度の浮動充電に相当し、この期間は電池寿命にほぼ匹敵する。
【0043】
浮動充電開始後、それぞれの電池から発生する気体を定期的に20時間連続で収集しその量を測定した。測定した気体発生量を、サンプル電池zの浮動充電開始から49日目の気体発生量を100とする相対値で表した値を表1と図1に示し、またその推移を図2に示す。なお、いずれも3サンプルの平均値により評価した。
【0044】
なお、鉛蓄電池から発生する気体には酸素と水素が体積比で1対2の割合で含まれるが、本試験ではこの両方を合わせて測定した。水素発生速度と気体発生速度とは略比例するので、以下の説明では、気体発生速度の測定をもって水素発生速度の測定とする。
【0045】
【表1】

【0046】
表1及び図1に示すように、天然ゴム100重量部に対して硫黄30〜55重量部を配合した加硫ゴム粉末C〜Iをセパレータに担持させたサンプル電池c20〜i20では、電池の浮動充電開始から49日目の気体発生速度が加硫ゴム粉末を担持していないセパレータを用いたサンプル電池zに比較して大幅に減少した。一方、硫黄配合量が天然ゴム100重量部に対して25重量部以下の加硫ゴム粉末A、Bを担持させたセパレータを用いたサンプル電池a20及びb20では、電池の浮動充電開始から49日目の気体発生速度はサンプル電池zに比較してわずかに減少しただけであった。
【0047】
また、図2に示すように、サンプル電池e20〜h20の気体発生速度は、加硫ゴム粉末を担持していないセパレータを用いたサンプル電池zの気体発生速度に比較して明らかに減少し、その効果は4年間持続した。一方、サンプル電池c20及びd20では、初期には気体発生速度が低下したものの、その効果は長くは続かなかった。
【0048】
また、硫黄の配合量が天然ゴム100重量部に対して55重量部である加硫ゴム粉末Iをセパレータに担持させたサンプル電池i20では、電解液から僅かに硫化水素臭が生じた。
【0049】
<試験2>加硫ゴム粉末の担持量の評価
次に、初期に水素発生の抑制効果が観察された加硫ゴム粉末C〜Hを用いて、セパレータへの加硫ゴム粉末の担持量を検討した。
【0050】
加硫ゴム粉末C〜Hを表2に示す量で担持させたセパレータを試験1と同様にして作製し、これらのセパレータを用いて、試験1と同様にして、同種類のサンプル電池(c40〜h30)を3セルずつ用意した。ただし、サンプルd20、e20、f20、g20、h20、zは新たに試作せず、試験1のデータを使った。加硫ゴム粉末C〜Hとしては、マイクロトラック式粒度分布測定装置により体積平均径が135〜155μmと測定されたものを使用した。
【0051】
これらのサンプル電池に対し、30℃において、放電電流20Aで7時間の通電と、充電電流20Aで9時間の通電とを交互に行うサイクルを30回繰り返した後、45℃で端子間電圧が2.30Vとなるように浮動充電を行い、試験1と同様にして、7日以降の各サンプル電池の気体発生速度を測定した。その結果を表2と図3〜5とに示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2及び図3〜5に示すように、加硫ゴム粉末Dを担持させたセパレータを用いたサンプル電池d10〜d40では、測定開始直後にはいずれも水素発生抑制効果が顕著に見られたが、加硫ゴム粉末の担持量が少ないものほど早くに水素発生が増加に転じた。4年の測定期間を通して水素発生抑制効果が見られたのは、加硫ゴム粉末Dをセパレータに30g/m以上担持させたサンプル電池d30及びd40であった。
【0054】
加硫ゴム粉末Eを担持させたセパレータを用いたサンプル電池e10〜e30では、測定開始直後にはいずれも水素発生抑制効果が顕著に見られたが、加硫ゴム粉末の担持量が少ないものほど早くに水素発生が増加に転じた。4年の測定期間を通して水素発生抑制効果が見られたのは、加硫ゴム粉末Eをセパレータに20g/m以上担持させたサンプル電池e20及びe30であった。
【0055】
加硫ゴム粉末Fを担持させたセパレータを用いたサンプル電池f10〜f30では、測定開始直後にはいずれも水素発生抑制効果が顕著に見られたが、添加量が少ないものほど早くに水素発生が増加に転じた。4年の測定期間を通して水素発生抑制効果が見られたのは、加硫ゴム粉末Fをセパレータに20g/m以上添加したサンプル電池f20及びf30であった。
【0056】
加硫ゴム粉末Gを担持させたセパレータを用いたサンプル電池g05〜g30では、測定開始直後にはいずれも水素発生抑制効果が顕著に見られたが、加硫ゴム粉末の担持量が少ないものほど早くに水素発生が増加に転じた。4年の測定期間を通して水素発生抑制効果が見られたのは、加硫ゴム粉末Gをセパレータに10g/m以上担持させたサンプル電池g10〜g30であった。
【0057】
加硫ゴム粉末Hを担持させたセパレータを用いたサンプル電池h05〜h30では、測定開始直後にはいずれも水素発生抑制効果が顕著に見られたが、加硫ゴム粉末の担持量が少ないものほど早くに水素発生が増加に転じた。4年の測定期間を通して水素発生抑制効果が見られたのは、加硫ゴム粉末Gをセパレータに10g/m以上担持させたサンプル電池h10〜h30であった。
【0058】
加硫ゴム粉末Cを40g/mセパレータに担持させたサンプル電池c40では、測定開始直後には水素発生抑制効果が顕著に見られたが、比較的早くに水素発生が増加し始め、4年後には水素発生抑制効果がほとんど見られなくなった。
【0059】
この結果、天然ゴムに対する硫黄配合量が所定量より少ない加硫ゴム粉末では、セパレータに対する加硫ゴム粉末の担持量を多くしても、室温(25℃)換算で15年程度の使用期間中に亘りその効果を持続させるに充分には水素発生を抑制する効果が向上しないことが明らかとなった。
【0060】
また、天然ゴムに対する硫黄配合量が所定量より多い加硫ゴム粉末であっても、室温(25℃)換算で15年程度の使用期間中に亘りその効果を持続させるためには、セパレータに対する加硫ゴム粉末の混合量が所定量以上必要であることが明らかになった。加えて、ゴム成分100重量部に対して硫黄を52重量部を越えて過剰に配合すると硫化水素を発生させる恐れがあるので、硫黄分の過剰な配合は好ましくないことも明らかとなった。
【0061】
<試験3>加硫ゴム粉末のサイズの評価
加硫ゴムEをボールミルで粉砕し、表3に示す体積平均径を有する加硫ゴム粉末を、それぞれセパレータ1mあたり30g担持させたセパレータを試験1と同様にして作製した。
【0062】
次いで、得られたセパレータを用い、試験1と同様にして、同種類のサンプル電池(e−ア〜e−カ)を3セルずつ作製した。ただし、サンプルe−ウは新たに試作せず、試験2のe30のデータを使用した。
【0063】
なお、加硫ゴム粉末の体積粒度分布はマイクロトラック式粒度分布測定装置を用いて測定した。加硫ゴム粉末の粒度分布はおおむねロジン・ラムラー式に従うので、その体積平均径をもって特性を代表する値とした。
【0064】
これらのサンプル電池に対し、30℃において、放電電流20Aで7時間の通電と、充電電流20Aで9時間の通電とを交互に行うサイクルを30回繰り返した後、45℃で端子間電圧が2.30Vとなるように浮動充電を行い、試験1と同様にして、浮動充電開始から49日目及び210日目に各サンプル電池の気体発生速度を測定した。その結果を表3に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
表3に示すように、体積平均径が135μm以下の加硫ゴム粉末を使用したサンプル電池e−ア〜e−ウでは、浮動充電開始から49日目の気体発生速度が既にサンプル電池zの40%程度に減少し、体積平均径が296μmの加硫ゴム粉末を使用したサンプル電池e−エでは、浮動充電開始から49日目の気体発生速度はサンプル電池zの70%程度であったが、210日目には50%程度まで減少したので、いずれも実用上充分な水素発生抑制効果が確認できた。
【0067】
一方、体積平均径が400μm以上の加硫ゴム粉末を使用したサンプル電池e−オ及びe−カでは、浮動充電開始から49日目の気体発生速度がサンプル電池zの80%以上で、サンプル電池e−ア〜e−エと比較して明らかに大きく、210日目には気体発生速度がより一層大きくなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータ本体と、前記セパレータ本体に担持され、硫黄により架橋されてなる粉末状の加硫ゴムとを備えていることを特徴とするセパレータ。
【請求項2】
前記粉末状の加硫ゴムは、平均粒子直径が350μm以下のものである請求項1記載のセパレータ。
【請求項3】
前記粉末状の加硫ゴムが、ゴム成分100重量部に対して硫黄を33〜52重量部含有するものである請求項1又は2記載のセパレータ。
【請求項4】
前記粉末状の加硫ゴムが、ゴム成分100重量部に対して硫黄を50〜52重量部含有するものであり、前記セパレータ本体に1mあたり8g以上担持されている請求項1、2又は3記載のセパレータ。
【請求項5】
前記粉末状の加硫ゴムが、ゴム成分100重量部に対して硫黄を40重量部以上50重量部未満含有するものであり、前記セパレータ本体に1mあたり15g以上担持されている請求項1、2又は3記載のセパレータ。
【請求項6】
前記粉末状の加硫ゴムが、ゴム成分100重量部に対して硫黄を33重量部以上40重量部未満含有するものであり、前記セパレータ本体に1mあたり25g以上担持されている請求項1、2又は3記載のセパレータ。
【請求項7】
正極板と、負極板と、これら極板間に配置されたセパレータとを備えた鉛蓄電池であって、
前記セパレータが、請求項1、2、3、4、5又は6記載のものであることを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項8】
少なくともいずれか一方の極板の格子体がPb−Sb系合金からなるものである請求項7記載の鉛蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−113957(P2012−113957A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261794(P2010−261794)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】