説明

セマフォリン阻害剤としての新規化合物

【課題】神経傷害疾患や神経変性疾患の治療剤の提供。
【解決手段】


(R、RおよびRは、カルボキシル基等、R、RおよびRは、水酸基等。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セマフォリン阻害活性を有する新規な化合物、該化合物の微生物学的製造方法、および該化合物を有効成分として含有する神経再生促進剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
神経細胞は成体において分裂能を持っていない特殊な組織である。そのため一旦障害を受けると長期にわたって障害が続く。特に脳や脊髄といった中枢神経系では全く再生能がない。脊髄損傷に代表される外因性の傷害やアルツハイマー病、パーキンソン病といった神経変性疾患に対する治療方法がないことも、中枢神経における再生能が無いことが一つの原因になっているということができる。他方、末梢神経は再生能を有しており、一旦切断された後も軸索が再生し機能が回復する。しかしこの場合にも再生に要する期間は数ヶ月から1年以上と非常に長時間を要し、患者にとっての苦痛は大きい。更にこのように再生に長期間を要するために、その間に神経細胞が死滅し機能回復に至らない場合も多い。このように再生能を有する末梢神経の場合も、脳や脊髄といった中枢神経系の環境では全く伸長することはできない。そのため、中枢神経系には神経の伸長を阻止する物質が存在しているとされている。この中枢神経系に存在する神経再生阻害物質を抗体などで抑制すると一部ではあるが、中枢での神経再生が起こり、機能の回復も見られる。最近、この中枢神経再生阻害因子としてNogoが発見された(非特許文献1、2)。しかし、Nogoを阻害することによって、再生する神経線維は一部であり、他の再生阻害物質が存在するのではないかと考えられているが、インビボで神経の再生阻害に働いている因子は、これまで明らかにされていない。
【0003】
ところで、セマフォリンは、もともと発生期におけるバッタの神経系形成に関係する因子としてその遺伝子が単離されたものであるが、その後、線虫、魚、哺乳類さらにはある種のウイルスなどにも分布する大きな遺伝子ファミリーを形成していることが報告され、現在ではセマフォリン遺伝子は構造上8つの遺伝子サブファミリー、クラス、に分類されている(非特許文献3)。セマフォリンは神経成長円錐を退縮させ軸索の伸長を抑制する因子として同定された内因性のタンパク質であり、これまでに約20種の分子種が知られている(非特許文献3)が、多くのセマフォリンファミリーの大部分の機能について詳しいことはわかっていない。最も良く研究されているのがクラス3型と呼ばれるサブファミリーの遺伝子群であり、これらの翻訳産物はすべて分泌型蛋白質である。これらの遺伝子がコードする蛋白質はインビトロで強い神経突起伸長抑制活性、成長円錐退縮活性を有していることが知られているが、ある条件下では神経突起伸長に誘引的に作用するとの報告もある。中でも最も良く研究されているのがセマフォリン3A(Sema3A)(非特許文献4、5)であり、この蛋白は10pMという低濃度で短時間のうちに培養神経細胞の成長円錐退縮を誘発する。セマフォリンのインビボでの機能を解析する研究として、Sema3Aの受容体の一つのコンポーネントであるニューロピリン−1のノックアウトマウスの研究がなされている(非特許文献6)。当該ノックアウトマウスは胎生致死であるが、三叉神経など一部の神経系の走行異常、血管形成異常が起こることが知られている。一方、Sema3Aのノックアウトマウスでも同様の神経系の走行異常は認められるが、大きな異常も無く成体にまで発育する個体もあるとされており、生体内でのSema3Aの機能については未だ不明な点も多い。
【0004】
その他セマフォリンに関しては、セマフォリンW、セマフォリンY、セマフォリンZに対する抗体等のアンタゴニストやアンチセンスヌクレオチドを中枢神経の再生促進剤とすること(特許文献1,2,3)や、神経細胞とヒトコラプシンに特異的に結合する抗体とを接触させることにより、神経突起成長を誘導する方法(特許文献4)が知られている。しかし、セマフォリンを特異的に阻害する低分子化合物は、これまで全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO98/15628号公報
【特許文献2】WO98/11216号公報
【特許文献3】WO98/20928号公報
【特許文献4】米国特許第5416197号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nature 403, 434, 2000
【非特許文献2】Nature 403, 439, 2000
【非特許文献3】Cell 97, 551, 1999
【非特許文献4】Cell 75, 217, 1993
【非特許文献5】Cell 75, 1389, 1993
【非特許文献6】Neuron 19, 995, 1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、セマフォリン阻害活性を有する新規な化合物、該化合物の微生物学的製造方法、および該化合物を有効成分として含有する神経再生促進剤等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
セマフォリンは多くの作用を有していると考えられ、一部ではセマフォリンが神経の発生のみでなく再生にも関与しているとの考えもあったが、実際のところは全くわかっていなかった。本発明者らは、ペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)SPF−3059株の培養物中に見い出される化合物、SPF−3059−1等がセマフォリン阻害活性を有することを見い出すとともに、該化合物が、インビボにおいて、神経再生を促進することを明らかにした。更に、SPF−3059株の培養物を単離精製し、インビトロでセマフォリンの活性を阻害する物質をスクリーニングすることによって、セマフォリン阻害活性を有する新規な化合物を見い出した。本発明は、上記の知見に基づいて、完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1] 一般式(1)で表される化合物、またはその薬学上許容される塩。
【0010】
【化1】

[式中、Rは水素原子またはカルボキシル基を表し、Rは水素原子または水酸基を表し、RおよびRは以下の[I]〜[IX]のいずれかを表す。
【0011】
[I]RおよびRは結合して、式(2):
【0012】
【化2】

(式中、Rは水素原子またはカルボキシル基を表し、Rは水素原子または水酸基を表す。)
で表される2価基を表す。
【0013】
[II]RおよびRは結合して、式(3):
【0014】
【化3】

(式中、RおよびRは前記と同義である。)
で表される2価基を表す。
【0015】
[III]RおよびRは結合して、式(4):
【0016】
【化4】

(式中、RおよびRは前記と同義である。)
で表される2価基を表す。
【0017】
[IV] RおよびRは結合して、式(5):
【0018】
【化5】

[式中、RおよびRは前記と同義である。]
で表される2価基を表す。
【0019】
[V] Rは水素原子を表し、Rは式(6):
【0020】
【化6】

で表される基を表す。
【0021】
[VI] RおよびRは結合して、式(7):
【0022】
【化7】

(式中、RおよびRは前記と同義である。)
で表される2価基を表す。
【0023】
[VII] Rは式(8):
【0024】
【化8】

(式中、Rは水素原子またはカルボキシル基を表し、Rは水素原子または水酸基を表す。)
で表される基を表し、Rは式(9):
【0025】
【化9】

(式中、R及びRは前記と同義である。)
で表される基を表す。
【0026】
[VIII] RおよびRは結合して、式(10):
【0027】
【化10】

(式中、RおよびRは前記と同義である。)
で表される2価基を表す。
【0028】
[IX] RおよびRは結合して、式(11):
【0029】
【化11】

で表される2価基を表す。]
【0030】
[2] 一般式(12):
【0031】
【化12】

(式中、R、R、RおよびRは、上記[1]と同義である。)
で表される、上記[1]記載の化合物、またはその薬学上許容される塩。
【0032】
[3] 一般式(12)において、RおよびRが、カルボキシル基であり、Rが水酸基又は水素原子であり、Rが水酸基である、上記[2]記載の化合物、またはその薬学上許容される塩。
【0033】
[4] 一般式(13):
【0034】
【化13】

(式中、R、R、RおよびRは上記[1]と同義である。)
で表される、上記[1]記載の化合物、またはその薬学上許容される塩。
【0035】
[5] 一般式(13)において、RおよびRがカルボキシル基であり、RおよびRが水酸基である、上記[4]記載の化合物、またはその薬学上許容される塩。
【0036】
[6] 一般式(14):
【0037】
【化14】

[式中、R、R、RおよびRは上記[1]と同義である。]
で表される上記[1]記載の化合物、またはその薬学上許容される塩。
【0038】
[7] 一般式(14)において、RおよびRがカルボキシル基であり、RおよびRが水酸基である、上記[6]記載の化合物、またはその薬学上許容される塩。
【0039】
[8] 一般式(15):
【0040】
【化15】

(式中、R、R、RおよびRは上記[1]と同義である。)
で表される上記[1]記載の化合物、またはその薬学上許容される塩。
【0041】
[9] 一般式(15)において、RおよびRがカルボキシル基であり、RおよびRが水酸基である、上記[8]記載の化合物、またはその薬学上許容される塩。
【0042】
[10] 一般式(16):
【0043】
【化16】

(式中、RおよびRは上記[1]と同義である。)
で表される上記[1]記載の化合物、またはその薬学上許容される塩。
【0044】
[11] 一般式(16)において、Rが、カルボキシル基を表し、Rが、水酸基を表す上記[10]記載の化合物、またはその薬学上許容される塩。
【0045】
[12] 一般式(17):
【0046】
【化17】

(式中、R、R、R及びRは、上記[1]と同義である。)
で表される上記[1]記載の化合物、またはその薬学上許容される塩。
【0047】
[13] 一般式(17)において、RおよびRがカルボキシル基を表し、RおよびRが水酸基を表す、上記[11]記載の化合物、またはその薬学上許容される塩。
【0048】
[14] 一般式(18):
【0049】
【化18】

(式中、R、R、R、R、RおよびRは上記[1]と同義である。)
で表される上記[1]記載の化合物、またはその薬学上許容される塩。
【0050】
[15] 一般式(18)において、RおよびRはカルボキシル基であり、R、RおよびRが水酸基である、上記[14]記載の化合物、またはその薬学上許容される塩。
【0051】
[16] 一般式(18)において、Rが水素原子である、上記[15]記載の化合物、またはその薬学上許容される塩。
【0052】
[17] 一般式(19):
【0053】
【化19】

(式中、R、R、RおよびRは上記[1]と同義である。)
で表される上記[1]記載の化合物、またはその薬学上許容される塩。
【0054】
[18] 一般式(19)において、RおよびRが水酸基である、上記[17]記載の化合物、又はその薬学上許容される塩。
【0055】
[19] 一般式(19)において、Rがカルボキシル基である、上記[18]記載の化合物、又はその薬学上許容される塩。
【0056】
[20] 一般式(19)において、Rがカルボキシル基である、上記[19]記載の化合物、又はその薬学上許容される塩。
【0057】
[21] 一般式(20):
【0058】
【化20】

(式中、R及びRは、上記[1]と同義である。)
で表される上記[1]記載の化合物、またはその薬学上許容される塩。
【0059】
[22] 一般式(20)において、Rがカルボキシル基であり、Rが水酸基である、上記[21]記載の化合物、またはその薬学上許容される塩。
【0060】
[23] ペニシリウム属に属するSPF-3059株より得ることができ、下記の物理的性質および化学的性質を有し、かつセマフォリン阻害活性を有する化合物。
(a)高速電子衝撃質量スペクトルm/z値(M+H)+:545;
(b)分子式:C281612
(c)紫外可視吸収スペクトルλmax(メタノール中)nm(ε):213(41700)、286(29500)、338sh(14900)、429sh(6500);
(d)赤外吸収スペクトルνmax(KBr)cm−1: 3358、3073、1700、1674、1631、1464、1276、1248;
(e)H核磁気共鳴スペクトル(DMSO-d6中、500MHz):スペクトルのチャートを第1図に示す;
(f)13C核磁気共鳴スペクトル(DMSO-d6中、125MHz):スペクトルのチャートを第2図に示す;
【0061】
[24] ペニシリウム属に属するSPF-3059株より得ることができ、下記の物理的性質および化学的性質を有し、かつセマフォリン阻害活性を有する化合物。
(a)高速電子衝撃質量スペクトルm/z値(M+H)+:561;
(b)分子式:C281613
(c)紫外可視吸収スペクトルλmax(メタノール中)nm(ε):219(34300)、257(28900)、311(28600)、404(14600)、450(14400);
(d)赤外吸収スペクトルνmax(KBr)cm−1:3154、1657、1605、1468、1279;
(e)H核磁気共鳴スペクトル(DMSO-d6中):スペクトルのチャートを第3図に示す;
(f)13C核磁気共鳴スペクトル(DMSO-d6中):スペクトルのチャートを第4図に示す;
【0062】
[25] ペニシリウム属に属するSPF-3059株より得ることができ、下記の物理的性質および化学的性質を有し、かつセマフォリン阻害活性を有する化合物。
(a)高速電子衝撃質量スペクトルm/z値(M+H)+:669;
(b)分子式:C342015
(c)紫外可視吸収スペクトルλmax(メタノール中)nm(ε):213(54600)、235sh(39400)、312(31300)、350(24200);
(d)赤外吸収スペクトルνmax(KBr)cm−1:3348、1766、1707、1644、1588、1464、1301;
(e)H核磁気共鳴スペクトル(DMSO-d6中、500MHz):スペクトルのチャートを第5図に示す;
(f)13C核磁気共鳴スペクトル(DMSO-d6中、125MHz):スペクトルのチャートを第6図に示す;
【0063】
[26] ペニシリウム属に属するSPF-3059株より得ることができ、下記の物理的性質および化学的性質を有し、かつセマフォリン阻害活性を有する化合物。
(a)高速電子衝撃質量スペクトルm/z値(M+H)+:549;
(b)分子式:C282012
(c)紫外可視吸収スペクトルλmax(メタノール中)nm(ε):227(30200)、282sh(13500)、315(13900)、356(11000);
(d)赤外吸収スペクトルνmax(KBr)cm−1:3396、1688、1662、1622、1470、1294;
(e)H核磁気共鳴スペクトル(DMSO-d6中、500MHz):スペクトルのチャートを第7図に示す;
(f)13C核磁気共鳴スペクトル(DMSO-d6中、125MHz):スペクトルのチャートを第8図に示す;
【0064】
[27] 上記[1]〜[26]のいずれか記載の化合物、またはその薬学上許容される塩を有効成分として含有することを特徴とするセマフォリン阻害剤。
【0065】
[28] セマフォリンが、クラス3型セマフォリンであることを特徴とする、上記[27]記載のセマフォリン阻害剤。
【0066】
[29] クラス3型セマフォリンが、セマフォリン3Aであることを特徴とする、上記[28]記載のセマフォリン阻害剤。
【0067】
[30] セマフォリンが、クラス6型セマフォリンであることを特徴とする、[27]記載のセマフォリン阻害剤。
【0068】
[31] クラス6型セマフォリンが、セマフォリン6Cであることを特徴とする、上記[30]記載のセマフォリン阻害剤。
【0069】
[32] 上記[27]〜[31]のいずれか記載のセマフォリン阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする、神経伸長反発因子阻害剤。
【0070】
[33] 上記[27]〜[31]のいずれか記載のセマフォリン阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする、成長円錐退縮活性及び/又はコラーゲンゲル中での神経伸長阻害活性の抑制作用を有する薬剤。
【0071】
[34] 上記[27]〜[31]のいずれか記載のセマフォリン阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする、神経再生促進剤。
【0072】
[35] 上記[27]〜[31]のいずれか記載のセマフォリン阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする神経障害疾患及び/又は神経変性疾患の予防若しくは治療剤。
【0073】
[36] 上記[27]〜[31]のいずれか記載のセマフォリン阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする、脊髄神経の損傷及び/又は末梢神経の損傷を伴う疾患の予防若しくは治療剤。
【0074】
[37] 上記[27]〜[31]のいずれか記載のセマフォリン阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする、嗅覚異常症、外傷性神経傷害、脳梗塞性神経障害、顔面神経麻痺、糖尿病性神経症、緑内障、網膜色素変性症、アルツハイマー病、パーキンソン病、神経変性疾患、筋発育不全性側索硬化症、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、脳梗塞、又は外傷性神経変性疾患の予防若しくは治療剤。
【0075】
[38] ペニシリウム属に属する微生物を培養して、その培養物から化合物を採取することを特徴とする、上記[1]〜[26]のいずれか記載の化合物、その薬学上またはその薬学上許容される塩の製造方法。
【0076】
[39] ペニシリウム属に属する微生物が、ペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)SPF−3059株であることを特徴とする上記[38]記載の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】SPF−3059−10のH−NMRスペクトル(DMSO−d)を示す図である。
【図2】SPF−3059−10の13C−NMRスペクトル(DMSO−d)を示す図である。
【図3】SPF−3059−18のH−NMRスペクトル(DMSO−d)を示す図である。
【図4】SPF−3059−18の13C−NMRスペクトル(DMSO−d)を示す図である。
【図5】SPF−3059−31のH−NMRスペクトル(DMSO−d)を示す図である。
【図6】SPF−3059−31の13C−NMRスペクトル(DMSO−d)を示す図である。
【図7】SPF−3059−41のH−NMRスペクトル(DMSO−d)を示す図である。
【図8】SPF−3059−41の13C−NMRスペクトル(DMSO−d)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0078】
本発明において、セマフォリンとは、およそ500アミノ酸残基からなる類似構造のセマフォリンドメインを有する蛋白質の総称であり(Neuron 14, 941-948, 1995)、現在までに約20種以上が報告されているが、これら公知のセマフォリンに限定されるものではない。かかるセマフォリンとしては、ヒト等の哺乳類のセマフォリン、好ましくは文献(Cell 97, 551, 1999)において定義されたクラス3型,4型,5型又は6型のセマフォリン、更に好ましくはクラス3型又はクラス6型セマフォリンを例示することができ、最も好ましくはクラス3型セマフォリンにおいてはセマフォリン3A(Cell 75, 217, 1993、Cell 75, 1389, 1993)を、またクラス6型セマフォリンにおいてはセマフォリン6C(国際公開第98/11216号パンフレット、Moll.Cell.Neurosci.13,9-23(1999))を例示することができる。これらセマフォリンをコードする遺伝子の配列情報は、GenBankデータベースや前記文献等において公開されている。また、本発明におけるセマフォリンには、天然型・組換え型のタンパク質に限ることなく、膜結合型セマフォリンの細胞外ドメインのみを発現可溶化させたもの、抗体やアルカリホスファターゼなどの他のタンパク質との融合タンパク質、あるいはヒスタグやフラグなどのタグを付けたもの、さらには一部のアミノ酸を欠失、置換、付加させた変異体なども含まれる。
【0079】
例えば、セマフォリン6C(Sema6C)は膜結合型タンパク質であり、Sema6Cの有する活性の促進・抑制作用を利用して阻害剤の活性を測定する場合等においては、通常Sema6Cの細胞外ドメインが使用される。Sema6Cの細胞外ドメインには2つのアイソフォームが知られているが(国際公開第98/11216号パンフレット及びMoll.Cell.Neurosci.13,9-23(1999))、そのいずれも成長円錐退縮活性を有している。かかるSema6Cの細胞外ドメインと、マーカータンパク質及び/又はペプチドタグとを結合させた融合タンパク質も、Sema6C活性を損なわない限り、被験物質の活性を測定する場合等において有利に用いることができ、マーカータンパク質としては、例えばアルカリホスファターゼ(Cell 63,185-194 (1990))、抗体のFc領域(Genbank accession number M87789)、HRPなどの従来よく知られたマーカータンパク質を、またペプチドタグとしては、例えばミックタグ、ヒスタグ、フラグタグなどの従来よく知られたペプチドタグを挙げることができる。
【0080】
また本発明においてセマフォリン阻害剤とは、上記セマフォリンのいずれかが有する活性、例えば、細胞の遊走活性、細胞死誘導活性、細胞の球状化や成長円錐の退縮といった細胞の形態変化、神経突起伸長抑制あるいは促進活性、神経細胞の樹状突起の伸長促進あるいは抑制活性、神経軸索ガイダンス活性などを阻害する物質をいい、かかるセマフォリン阻害剤としては、前記セマフォリン活性を阻害する物質であれば特に制限されるものではないが、好ましくは中枢及び/又は末梢における神経再生促進作用を有する化合物、より好ましくはセマフォリンの有する成長円錐退縮活性及び/又はコラーゲンゲル中での神経伸長阻害活性の抑制作用を有する化合物、さらに好ましくはセマフォリンの有する成長円錐退縮活性とコラーゲンゲル中での神経伸長阻害活性の両方に対して抑制作用を有する化合物を挙げることができる。
【0081】
中枢及び/又は末梢における神経再生促進作用とは、脳及び脊髄などからなる中枢(組織)、及び/又は該中枢(組織)以外の周辺・末梢部である体表や体内の諸器官である末梢(組織)における神経の再生を促進する作用を言う。ここで中枢における神経再生促進作用には、網膜神経や大脳皮質神経のような、中枢領域にある神経細胞体から軸索を出し同じく中枢にある他の神経細胞に投射する神経の再生促進作用のみならず、嗅神経、後根神経節感覚神経の中枢性線維等の、末梢に存在する神経細胞体から出る神経であっても、神経軸索が再生される環境が中枢(組織)であるときの神経再生促進作用も含まれる。また、末梢における神経再生促進作用としては、末梢にある神経細胞体から出て末梢組織の中を伸びる神経の再生促進作用のみならず、中枢(脳及び脊髄など)にある神経細胞体から出る神経であっても、再生される環境が末梢(組織)であるときの神経再生促進作用も含まれる。後者としては具体的に、脊髄運動神経、交感神経・副交感神経といった自律神経系の節前神経等の神経再生促進作用を例示することができる。また坐骨神経のように、前記の両方の神経を含む神経の再生促進作用も含まれる。そして、本発明のセマフォリン阻害剤としては、中枢及び末梢における神経再生促進作用を有する化合物が特に好ましい。なお、前記において中枢(組織)とは、脳、延髄、脊髄、眼などからなる組織で詳しくは血液脳関門・血液網膜関門といった構造によって高分子量物質の輸送が制限されている領域であり、末梢組織とは身体のそれ以外の領域を指す。一般に、神経線維は末梢組織の中では再生が可能であるが、中枢組織の中では再生することができない。
【0082】
上記セマフォリンの有する成長円錐退縮(コラプス)活性とは、神経細胞(通常は神経節の組織片)をインビトロで所定時間培養し、伸長した神経突起とその神経突起先端の成長円錐を観察しうる状態にした後、所定の濃度(例えば、約3ユニット/ml;なお、1ユニット/mlは50%の成長円錐を退縮させるセマフォリンの濃度をいう)のセマフォリンを加えさらに所定時間(例えば1時間)培養を続けた後に観察される成長円錐を消失させる活性をいう。伸長した神経突起とその神経突起先端の成長円錐を観察しうる状態とするために、神経細胞のインビトロでの培養は通常10時間から20時間行われるが、神経の種類、培養条件によって適宜変更することができる。そして、例えばこの実験系において、セマフォリンを添加する約1時間前にあらかじめ適当濃度の化合物を加えておいた場合に、セマフォリンによる成長円錐の退縮が抑制されたとき、かかる化合物をセマフォリン阻害剤、特にセマフォリンの成長円錐退縮活性の抑制作用を有する化合物ということができる。また、かかる成長円錐退縮活性の抑制作用を有する化合物としては特に制限されるものではないが、100μg/ml以下、好ましくは30μg/ml以下、より好ましくは10μg/ml以下、最も好ましくは3μg/ml以下の濃度で前記抑制作用を示すものを例示することができる。さらに、セマフォリン阻害剤としては、神経細胞やセマフォリン発現細胞等の細胞の増殖に実質的に影響を与えることがない化合物が、本発明のセマフォリン阻害剤の効果を確認する上で、また、医薬品として用いた場合の安全性の点で好ましい。
【0083】
また上記セマフォリンの有するコラーゲンゲル中での神経伸長阻害活性とは、例えばセマフォリン産生細胞と神経細胞(通常は神経節)とを共に含むコラーゲンゲル中で観察される神経伸長阻害活性をいう。そして当該神経伸長阻害活性の抑制作用とは、コラーゲンゲル中でのセマフォリン活性を持続的に阻害する活性であり、例えばコラーゲンゲル中で神経細胞と近接してセマフォリン産生細胞を培養し、通常一晩以上経過した後に神経突起伸長を観察したときに、セマフォリン産生細胞と逆側へ伸長している神経突起に比べてセマフォリン産生細胞の方へは1/3以下しか伸長しない実験条件において、その物質存在下で培養すると1/2以上の長さにまで伸長することのできる活性をいう。また、かかるコラーゲンゲル中での神経伸長阻害活性の抑制作用を有する化合物としては特に制限されるものではないが、100μg/ml以下、好ましくは30μg/ml以下、より好ましくは10μg/ml以下、最も好ましくは3μg/ml以下の濃度で前記抑制作用を示すものを例示することができる。
【0084】
上記セマフォリンの2種類の活性測定において用いられるセマフォリンとしては、天然型のセマフォリンに限定されることなく、前記の膜結合型のセマフォリンの細胞外ドメインのみを発現可溶化させたもの、抗体やアルカリホスファターゼなどの他のタンパク質との融合タンパク質、あるいはヒスタグや、フラグなどのタグを付けたもの、一部のアミノ酸を変化させたものなども使用することができる。また、培養に用いる神経細胞としては、ニワトリ7日齢、8日齢の胎仔から取り出した後根神経節が便利であるが、ニワトリ以外の動物の後根神経節、また、後根神経節以外の交感神経節、網膜神経節、上頚神経節など、インビトロ培養下において神経突起を伸長する神経細胞であればどのような神経細胞でも用いることができる。培養条件としては、神経突起の伸長を観察でき、セマフォリンの活性が測定できる条件であれば、特に制限されるものではない。
【0085】
本発明におけるセマフォリン阻害剤の作用機序は、以下のように考えられる。すなわち、セマフォリンの神経突起伸長抑制活性あるいは成長円錐退縮活性の発現は、まずセマフォリンが神経細胞表面(成長円錐)上のレセプターに結合することに始まる。セマフォリンの結合したレセプターから細胞内にシグナルが伝達され最終的にアクチン繊維の脱重合が惹起され、その結果として神経突起伸長抑制、成長円錐退縮が生じる。セマフォリン活性阻害はこれら一連の反応のいずれかの部分を阻害・遮断することで達成される。上記セマフォリンのレセプターとしては、前述のセマフォリンのいずれかのレセプターであればよく、セマフォリンが結合することができれば、その改変体や、その一部のコンポーネントであってもよい。具体的には、ニューロピリン−1、プレキシン(国際公開WO01/405457)等が例示される。そして、本発明のセマフォリン阻害剤は、作用機序により限定されるものではなく、また上記の作用機序において、いずれの段階を阻害するものであっても本発明の範疇に含まれる。すなわち、上記セマフォリンのレセプター結合からアクチン繊維脱重合までに至る細胞内情報伝達に関わる反応を阻害することによりセマフォリン活性を阻害する化合物もまた、本発明の範疇に含まれる。なお、セマフォリンのレセプター結合阻害活性を測定する方法としては、当業者により適宜選択される方法であればどのような方法であってもよく、例えば、前述の抗体やアルカリホスファターゼなどの他のタンパク質を融合したセマフォリン、あるいはヒスタグや、フラグなどのタグを付けたセマフォリンを、被験物質存在下において当該セマフォリンレセプターあるいはレセプターコンポーネントを発現する細胞に対して結合させることで、セマフォリンのレセプター結合阻害活性を測定する方法を例示することができる。
【0086】
前記一般式(1)及び(12)〜(20)において、Rは水素原子もしくはカルボキシル基を表し、好ましくはカルボキシル基を表す。また、Rは水素原子もしくは水酸基を表し、好ましくは水酸基を表す。
【0087】
前記一般式(1)、(12)〜(15)、及び(17)〜(19)において、Rは水素原子もしくはカルボキシル基を表し、好ましくはカルボキシル基を表す。また、Rは水素原子もしくは水酸基を表し、好ましくは水酸基を表す。
【0088】
前記一般式(18)において、Rは水素原子もしくは水酸基を表し、好ましくは水酸基を表す。
【0089】
本発明のセマフォリン阻害剤を構成する化合物として、具体的には、後述する本件明細書実施例に記載された化合物を例示することができる。
【0090】
前記一般式(1)、及び(12)〜(20)のいずれかで表される化合物、またはその薬学上許容される塩は、本発明者らが大阪府内土壌より分離したペニシリウム属に属するカビ、ペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)SPF−3059株の培養物より、SPF−3059株の培養物からセマフォリン阻害活性を指標とする等して、得ることができる。
該SPF−3059株は次のような菌学的性質を有する。
【0091】
(a)培養的・形態的性質
麦芽エキス寒天培地上で、コロニーの生育は遅く、25℃、21日で直径2.8〜2.9cm、綿毛状を呈し、コロニー表面は白色又は黄色、コロニー裏面は濃い黄色であり、可溶性色素の産生及び胞子形成は認められない。ポテト・グルコース寒天培地上では、コロニーの生育は遅く、25℃、21日で直径3.2〜3.3cm、綿毛状を呈し、コロニー表面の色は白色又はクリーム色、コロニー裏面は濃い黄色又は黄褐色であり、可溶性色素の産生及び胞子形成は認められない。ツアペック寒天培地上では、コロニーの生育は遅く、25℃、21日で直径3.1〜3.2cm、綿毛状を呈し、コロニー表面は白色又は灰色、コロニー裏面はクリーム色であり、可溶性色素の産生及び胞子形成は認められない。オートミール寒天培地(日本製薬製放線菌培地No.3「ダイゴ」)上では、コロニーの生育は遅く、25℃、21日で直径2.0〜2.1cm、綿毛状を呈し、コロニー表面は白色、灰緑色又は黄色、コロニー裏面はクリーム色又は灰色であり、可溶性色素の産生は認められないが、分生胞子を形成する。分生子柄は平滑、長さ5〜20μmであり、分生子柄の先端に3〜6個のフィアライドを単輪生する。フィアライドは長さ3〜4μmであり、その先端から分生子が2〜10個の連鎖を形成する。分生子は球形で、直径2.2〜2.4μm、表面には縦に通常10本のしわがある。テレオモルフは認められない。
【0092】
(b)生理学的性質
1.生育pH範囲
サブローブロス中、27℃、3日間の振盪培養における生育は次の通り。
pH 生育
3.1 −
4.5 +
5.5 ++
7.1 +++
8.0 ++
9.0 ±
10.0 −
2.生育温度範囲
オートミール寒天培地上、38℃、5日間の培養で生育が認められる。
【0093】
以上の菌学的性質より、本菌株をペニシリウム属に属する菌株であると同定し、ペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)SPF−3059と命名した。本菌株は、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブタペスト条約に基づき、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号FERM BP−7663として寄託されている。
【0094】
上記SPF−3059株の培養に使用される培地は液状でも固体でもよいが、通常は液体培地による振盪培養又は通気撹拌培養が有利である。使用する培地は、特に限定されるものではないが、炭素源としては、例えばグルコース、ショ糖、グリセリン、デンプン、デキストリン、糖蜜等が用いられ、また窒素源としては、例えばペプトン、カザミノ酸等の蛋白質加水分解物、肉エキス、酵母エキス、大豆粉、綿実粉、コーンスティープリカー、ヒスチジン等のアミノ酸類等の有機窒素源や、アンモニウム塩や硝酸塩等の無機窒素源が用いられる。その他、浸透圧調整、pH調整、微量成分の補給等のために、各種リン酸塩、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸カルシウム等の無機塩類を添加することも可能である。さらに菌の生育を促進する目的で、各種ビタミン類、核酸関連化合物等を添加しても良い。なお、培養期間中に、シリコン油、ポリプロピレングリコール誘導体、大豆油等の消泡剤を添加することも可能である。そして、培養温度としては、好ましくは20〜35℃の範囲、より好ましくは25〜30℃の範囲の温度を挙げることができ、培地のpHとして例えば、中性付近の範囲を挙げることができ、培養期間としては例えば、5〜10日間の範囲を例示することができる。
【0095】
本発明の一般式(1)及び(12)〜(20)のいずれかで表される化合物を培養液から単離・精製するには、微生物の生産する二次代謝物の培養物から、通常使用される単離・精製手段を用いることができる。培養液上清から目的物を単離・精製する場合は、培養濾液からの通常の単離・精製法、例えば溶媒抽出、イオン交換樹脂、吸着クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、薄層クロマトグラフィー等を用いることができ、これらの単離・精製法は単独又は組み合わせて行うことができる。また、培養菌体から目的物を単離・精製する場合は、濾過又は遠心分離等の手段で集めた菌体を、アセトン、メタノール等の水溶性有機溶媒を用いて直接抽出することができ、抽出物は培養液上清からの単離・精製と同様の方法で、目的化合物を得ることができる。該目的化合物は、水、メタノール、エタノール、アセトン、酢酸エチル、クロロホルム、エーテル等の適当な溶媒を用いて、約1当量の塩基を作用させることによって、塩とすることもできる。
【0096】
また、本発明のセマフォリン阻害剤を構成する化合物においては、それらの塩、好ましくは医薬的又は獣医薬的に許容される塩も本発明の範疇に含まれる。ここで、塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩等の無機塩基塩や、トリエチルアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、ピリジニウム塩、ジイソプロピルアンモニウム塩等の有機塩基塩や、アルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸塩などを挙げることができる。
【0097】
本発明の脊髄神経の損傷及び/又は末梢神経の損傷を伴う疾患を含む神経障害疾患及び/又は神経変性疾患の予防若しくは治療剤は、神経伸長反発因子阻害剤、特に上記セマフォリン阻害剤を有効成分とする前記の神経再生促進剤を含有するものであれば特に制限されるものではないが、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤などの各種調剤用配合成分を添加することができる。またこれら予防若しくは治療剤は、経口的又は非経口的に投与することができる。すなわち通常用いられる投与形態、例えば粉末、顆粒、カプセル剤、シロップ剤、懸濁液等の剤型で経口的に投与することができ、あるいは、例えば溶液、乳剤、懸濁液等の剤型にしたものを注射の型で非経口投与することができる他、スプレー剤の型で鼻孔内投与することもできる。
【0098】
投与量及び投与回数は、投与法と患者の年齢、体重、病状等によって異なるが、病床部位に局所的に投与する方法が好ましい。神経の再生には通常数日から数ヶ月以上の期間を要するので、その間セマフォリンの活性を抑制するために1回又は2回以上投与することが好ましい。2回以上投与するときは連日あるいは適当な間隔をおいて繰り返し投与することが望ましい。投与量は一回当たりセマフォリン阻害剤として数百μg〜2g、好ましくは数十mg以下を用いることができ、投与回数を減らすために徐放性製剤を用いたり、オスモティックポンプなどで長期間にわたって少量ずつ投与することもできる。そして、これらのいずれの投与方法においても、作用部位においてセマフォリンの活性を充分に阻害する濃度になるような投与経路、投与方法を採用することが好ましい。
【0099】
上記脊髄神経の損傷及び/又は末梢神経の損傷を伴う疾患を含む神経障害疾患及び/又は神経変性疾患としては、末梢神経や中枢神経の傷害、変性疾患、すなわち老化等に起因する嗅覚異常症、脊髄損傷などの外傷による嗅覚以外の神経傷害、脳梗塞などに起因する神経障害、顔面神経麻痺、糖尿病性神経症、緑内障、網膜色素変性症、アルツハイマー病やパーキンソン病、ALSといった神経変性疾患、筋発育不全性側索硬化症、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、脳梗塞、外傷性神経変性疾患などを具体的に挙げることができる。さらに、受容体がニューロピリンである点が共通であるVEGF165が関与する血管新生を伴う疾患も、対象となる。
【0100】
また、本発明の神経再生促進剤の用途は、神経障害疾患及び/又は神経変性疾患の予防若しくは治療剤等の医薬品に限定されることなく、動物薬、さらにはセマフォリンシグナル阻害剤として産業上重要な実験試薬としても利用が可能である。本発明の神経再生促進剤はセマフォリン阻害剤を有効成分として含むことから、末梢神経である嗅神経の再生や、脳や脊髄の中の嗅球、大脳皮質、海馬、線条体、視床、間脳、中脳、小脳、橋、延髄、精髄、網膜などにあって脳脊髄関門で区切られた領域である中枢内での神経の再生を促進する。
【実施例】
【0101】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0102】
(本発明の化合物の製造)
グルコース2%、ショ糖5%、綿実粉2%、硝酸ナトリウム0.1%、L−ヒスチジン0.1%、リン酸2カリウム0.05%、塩化カリウム0.07%、硫酸マグネシウム7水和物0.0014%を含み、pH7.0に調整した培地10mlを50ml容の三角フラスコに分注しオートクレーブで滅菌した。これに斜面培養したペニシリウム・エスピーSPF−3059株(FERM BP−7663)を1白金耳接種し、27℃、180rpmにて4日間回転振盪培養して前々培養とした。500ml容三角フラスコ5本に上記と同じ組成の培地を125mlずつ分注しオートクレーブで滅菌した後、上記の前々培養液を4mlずつ添加し、27℃、180rpmにて4日間回転振盪培養して前培養とした。50リットル容ジャーファーメンターに、グルコース1.43%、ショ糖3.57%、綿実粉1.43%、硝酸ナトリウム0.07%、L−ヒスチジン0.07%、リン酸2カリウム0.036%、塩化カリウム0.05%、硫酸マグネシウム7水和物0.001%、アデカノールLG−295S(旭電化製消泡剤)0.01%を含み、pH7.0に調整した培地を30リットル分注し、高圧蒸気滅菌(121℃、20分)した後、上記の前培養液を500ml添加し、27℃、400rpm、通気量15リットル/分にて9日間通気攪拌培養した。
【0103】
培養終了後、培養液を10,000rpmにて10分間遠心分離して上清液と菌体に分離した。菌体画分を30リットルのアセトンで抽出し、濾過、濃縮後、水溶液となったところで10リットルの酢酸エチル−蟻酸(99:1)で2回抽出した。抽出液を減圧濃縮して粗抽出物130gを得た。これを200mlのメタノールに溶解し、Sephadex(登録商標)LH−20(アマシャムファルマシアバイオテク社)を用いるカラムクロマトグラフィーに付し、メタノールで溶出した。活性画分を集め、溶媒を減圧留去し、油状物91.4gを得た。これを200mlのメタノールに溶解し、TOYOPEARL(登録商標) HW−40F(東ソー)を用いるカラムクロマトグラフィーに付し、メタノールで溶出した。活性画分を集め、溶媒を減圧留去し、粗精製物41.9gを得た。これを500mgずつ2.5mlのジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、分取逆相HPLCに付した。分取逆相HPLCの条件は、カラム:Wakopak(登録商標)Wakosil−II5C18HGprep(φ5×10cmとφ5×25cmを連結、和光純薬工業製)、溶出液A:1%蟻酸水溶液、溶出液B:メタノール、グラジエント:B液割合45%から75%へ2時間の直線的グラジエント、流速:25ml/分、検出:260nmにおける吸光度、とし、溶出液を1分ずつ分取した。
【0104】
上記分取した画分を分析用HPLCで分析した。分析用HPLCの条件は、カラム:Wakopak Wakosil−II5C18RS(φ4.6×150mm、和光純薬工業製)、溶出液A:1%蟻酸水溶液、溶出液B:メタノール、グラジエント:B液割合20%から67%へ71.1分間の直線的グラジエント、流速:1.3ml/分、検出:260nmにおける吸光度、とした。この分析用HPLCにおける保持時間を指標に分取用HPLCの溶出画分を集め、減圧下に溶媒を留去した後、再度分取用HPLCに付して上記と同様に精製し、さらにTOYOPEARL(登録商標) HW−40F(東ソー)を用いるカラムクロマトグラフィーに付して上記と同様に精製し、溶媒を減圧留去、乾燥することにより、以下に示す精製品を得た。
【0105】
表1
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
化合物 取得量(mg) 分析用HPLCでの保持時間(分)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
SPF−3059−8 11.1 51.2
SPF−3059−10 3.3 54.8
SPF−3059−16 6.7 41.5
SPF−3059−17 7.9 57.0
SPF−3059−18 1.6 51.5
SPF−3059−19 7.8 39.6
SPF−3059−20 1.3 45.5
SPF−3059−22 1.0 48.4
SPF−3059−23 16.7 33.2
SPF−3059−31 6.5 49.6
SPF−3059−38 4.0 63.1
SPF−3059−40 2.3 53.7
SPF−3059−41 1.0 54.0
SPF−3059−42 2.4 48.2
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0106】
得られた化合物の物理化学的性状は次の通り。
【0107】
(SPF−3059−8)
外観:クリーム色粉末
分子量:578
分子式:C281814
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(positive):579(M+H)
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(negative):576(M−H)
高分解能高速電子衝撃質量スペクトル(HRFAB−MS)m/z(M+H)
実測値:579.0779
計算値:579.0775(C281914
紫外可視吸収スペクトルλmax(メタノール中)nm(ε):
220(45700)、305(18200)、358(16800)
赤外吸収スペクトルνmax(KBr)cm−1
3414、1652、1568、1464、1614、1289
H−NMR(DMSO−d)δppm:
1.75(3H,s)、2.21(3H,s)、3.06(1H,d,18.8)、3.41(1H,d,18.8)、4.72(1H,d,13.6)、5.02(1H,d,13.6)、6.16(1H,s)、6.17(1H,s)、6.84(1H,s)
13C−NMR(DMSO−d)δppm:
18.7、26.9、38.2、62.0、62.1、101.1、102.1、104.8、112.3、112.6、113.3、113.5、116.6、119.1、119.4、141.4、143.7(2C)、145.0、149.9、152.0、154.7、159.4、164.6、167.3、167.7、170.9、174.8
溶解性:水、ヘキサンに不溶、メタノール、DMSOに可溶
これらからSPF−3059−8の構造式を、次式と決定した。
【0108】
【化21】

【0109】
(SPF−3059−10)
外観:黄色粉末
物質の性質:酸性物質
分子量:544
分子式:C281612
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(positive):545(M+H)
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(negative):543(M−H)
高分解能高速電子衝撃質量スペクトル(HRFAB−MS)m/z(M+H)
実測値:545.0732
計算値:545.0740(C281712
紫外可視吸収スペクトルλmax(メタノール中)nm(ε):
213(41700)、286(29500)、338sh(14900)、429sh(6500)
赤外吸収スペクトルνmax(KBr)cm−1
3358、3073、1700、1674、1631、1464、1276、1248
H−NMRスペクトル:
重ジメチルスルフォキシド(DMSO−d)中、500MHzで測定したスペクトルを図1に示す。
13C−NMRスペクトル:
重ジメチルスルフォキシド(DMSO−d)中、125MHzで測定したスペクトルを図2に示す。
溶解性:水、ヘキサンに不溶、メタノール、DMSOに可溶
【0110】
(SPF−3059−16)
外観:クリーム色粉末
分子量:580
分子式:C282014
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(positive):581(M+H)
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(negative):579(M−H)
高分解能高速電子衝撃質量スペクトル(HRFAB−MS)m/z(M−H)
実測値:579.0812
計算値:579.0776(C281914
紫外可視吸収スペクトルλmax(メタノール中)nm(ε):
210(44500)、323(15000)、353sh(12000)
赤外吸収スペクトルνmax(KBr)cm−1
3420、1694、1668、1634、1568、1464、1278
H−NMR(DMSO−d)δppm:
1.88(3H,s)、2.08(3H,s)、2.28(1H,d,16.6)、2.34(1H,d,16.6)、4.07(1H,d,10.1)、4.17(1H,s)、4.42(1H,d,10.1)、6.29(1H,s)、6.93(1H,s)
13C−NMR(DMSO−d)δppm:
21.1、24.2、30.4、50.1、50.4、64.9、69.3、102.3、104.1、110.6、111.6、112、119.0、121.6、138.7、139.4、141.6、147.1、148.0、150.4、152.1、160.4、162.6、167.7、171.3、174.3、198.6、201.3
溶解性:水、ヘキサンに不溶、メタノール、DMSOに可溶
これらからSPF−3059−16の構造式を、次式と決定した(立体は相対立体配置)。
【0111】
【化22】

【0112】
(SPF−3059−17)
外観:黄色粉末
分子量:578
分子式:C281814
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(positive):579(M+H)
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(negative):577(M−H)
高分解能高速電子衝撃質量スペクトル(HRFAB−MS)m/z(M−H)
実測値:577.0675
計算値:577.0619(C281714
紫外可視吸収スペクトルλmax(メタノール中)nm(ε):
214(49400)、301(8900)、390(22100)
赤外吸収スペクトルνmax(KBr)cm−1
3109、1656、1564、1459、1272
H−NMR(DMSO−d)δppm:
1.89(3H,s)、2.46(3H,s)、4.85(1H,d,13.3)、4.92(1H,d,13.3)、5.52(1H,s)、6.42(1H,s)、6.65(1H,s)、6.88(1H,s)
13C−NMR(DMSO−d)δppm:
17.1、20.2、61.9、71.9、91.8、102.8、103.0(2C)、103.5、111.0、112.6、117.6、119.2、122.9、139.4、143.3、149.2、150.4、151.2、151.7、154.4、159.1、163.4、165.6、167.8、168.6、170.9、172.9
溶解性:水、ヘキサンに不溶、メタノール、DMSOに可溶
これらからSPF−3059−17の構造式を、次式と決定した。
【0113】
【化23】

【0114】
(SPF−3059−18)
外観:オレンジ色粉末
物質の性質:酸性物質
分子量:560
分子式:C281613
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(positive):561(M+H)
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(negative):559(M−H)
高分解能高速電子衝撃質量スペクトル(HRFAB−MS)m/z(M+H)
実測値:561.0710
計算値:561.0670(C281713
紫外可視吸収スペクトルλmax(メタノール中)nm(ε):
219(34300)、257(28900)、311(28600)、404(14600)、450(14400)
赤外吸収スペクトルνmax(KBr)cm−1
3154、1657、1605、1468、1279
H−NMRスペクトル:
重ジメチルスルフォキシド(DMSO−d)中、500MHzで測定したスペクトルを図3に示す。
13C−NMRスペクトル:
重ジメチルスルフォキシド(DMSO−d)中、125MHzで測定したスペクトルを図4に示す。
溶解性:水、ヘキサンに不溶、メタノール、DMSOに可溶
【0115】
(SPF−3059−19)
外観:黄色粉末
分子量:596
分子式:C282015
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(positive):597(M+H)
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(negative):595(M−H)
高分解能高速電子衝撃質量スペクトル(HRFAB−MS)m/z(M+H)
実測値:597.0890
計算値:597.0881(C282115
紫外可視吸収スペクトルλmax(メタノール中)nm(ε):
204(34600)、225(30900)、267sh(8300)、319(17100)、349(13800)、404(10100)
赤外吸収スペクトルνmax(KBr)cm−1
3418、1634、1605、1462、1270
H−NMR(DMSO−d)δppm:
1.43(3H,s)、1.55(3H,s)、2.94(1H,d,5.5)、3.17(1H,d,18.6)、3.24(1H,d,18.6)、4.38(1H,d,11.9)、4.54(1H,d,11.9)、5.27(1H,d,5.5)、5.84(1H,s)、6.59(1H,s)
13C−NMR(DMSO−d)δppm:
24.5、28.7、36.6、49.4、62.1、64.2、96.8、99.6、102.0、102.6、103.0、104.0、111.1、120.2(2C)、113.1、137.3、146.5、150.8、151.8、152.0、153.0、159.2、161.3、167.7、169.8、172.6、185.4
溶解性:水、ヘキサンに不溶、メタノール、DMSOに可溶
これらからSPF−3059−19の構造式を、次式と決定した。
【0116】
【化24】

【0117】
(SPF−3059−20)
外観:黄色粉末
分子量:562
分子式:C281813
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(positive):563(M+H)
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(negative):561(M−H)
高分解能高速電子衝撃質量スペクトル(HRFAB−MS)m/z(M+H)
実測値:563.0882
計算値:563.0826(C281913
紫外可視吸収スペクトルλmax(メタノール中)nm(ε):
216(49100)、301(21700)、369(14200)
赤外吸収スペクトルνmax(KBr)cm−1
3444、3069、1690、1649、1619、1536、1435、1283
H−NMR(DMSO−d)δppm:
1.76(3H,s), 2.21(3H,s), 3.09(1H,d,18.8), 3.43(1H,d,18.8), 4.75(1H,d,13.4), 5.03(1H,d,13.4), 6.17(1H,s),6.18(1H,s), 6.75(1H,d,2.1), 6.83(1H,d,2.1)
13C−NMR(DMSO−d)δppm:
18.7, 27.0, 38.3, 61.8, 62.2, 101.0, 102.9, 104.8, 112.3, 112.7, 113.1, 113.3, 113.4, 117.4, 119.2, 136.3, 141.1, 143.7, 145.1, 154.7, 156.9, 160.2, 161.9, 164.7, 167.3, 169.3, 170.8, 174.9
溶解性:水、ヘキサンに不溶、メタノール、DMSOに可溶
これらからSPF−3059−20の構造式を、次式と決定した。
【0118】
【化25】

【0119】
(SPF−3059−22)
外観:クリーム色粉末
分子量:548
分子式:C271613
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(positive):549(M+H)
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(negative):547(M−H)
高分解能高速電子衝撃質量スペクトル(HRFAB−MS)m/z(M−H)
実測値:547.0568
計算値:547.0513(C271513
紫外可視吸収スペクトルλmax(メタノール中)nm(ε):
208(51900)、240sh(43900)、270sh(38000)、310(30700)、387(18000)
赤外吸収スペクトルνmax(KBr)cm−1
3410、3068、1655、1619、1599、1561、1460、1310、1251
H−NMR(DMSO−d)δppm:
2.34(3H,s)、2.73(3H,s)、6.31(1H,s)、6.98(1H,s)、8.08(1H,s)、8.69(1H,s)
13C−NMR(DMSO−d)δppm:
17.1、32.3、98.1、101.8、102.6、113.3、117.1、119.8、123.2、125.4、126、131.9、136.2、140.4、142.1、144.7、150.4、152.7、152.9、154.8、156.2、160.4、167.1、172.1、178.9、192.7、202.4
溶解性:水、ヘキサンに不溶、メタノール、DMSOに可溶
これらからSPF−3059−22の構造式を、次式と決定した。
【0120】
【化26】

【0121】
(SPF−3059−23)
外観:黄色粉末
分子量:686
分子式:C342216
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(positive):687(M+H)
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(negative):685(M−H)
高分解能高速電子衝撃質量スペクトル(HRFAB−MS)m/z(M−H)
実測値:685.0887
計算値:685.0830(C342116
紫外可視吸収スペクトルλmax(メタノール中)nm(ε):
213(53800)、282sh(24100)、324(21700)
赤外吸収スペクトルνmax(KBr)cm−1
3354、1688、1588、1468、1288
H−NMR(DMSO−d)δppm:
2.14(3H,s), 2.21(3H,s), 2.61(3H,brs), 6.50(1H,s), 6.85(1H,s), 7.28(1H,brs), 7.68(1H,brs), 8.29(1H,s)
13C−NMR(DMSO−d)δppm:
30.2, 31.3, 32.3, 102.4, 107.3, 110.0, 114.7, 114.9, 119.7, 120.5, 123.8, 125.9, 126.4, 126.5, 132.6, 135.6, 136.1, 136.7, 139.5, 141.0, 143.4, 145.6, 147.8, 150.4, 151.8, 154.1, 160.5, 167.5, 170.5, 172.7, 197.9, 200.4, 201.2, 202.0
溶解性:水、ヘキサンに不溶、メタノール、DMSOに可溶
これらからSPF−3059−23の構造式を、次式と決定した。
【0122】
【化27】

【0123】
(SPF−3059−31)
外観:黄色粉末
物質の性質:酸性物質
分子量:668
分子式:C342015
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(positive):669(M+H)
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(negative):667(M−H)
高分解能高速電子衝撃質量スペクトル(HRFAB−MS)m/z(M+H)
実測値:669.0887
計算値:669.0881(C342115
紫外可視吸収スペクトルλmax(メタノール中)nm(ε):
213(54600)、235sh(39400)、312(31300)、350(24200)
赤外吸収スペクトルνmax(KBr)cm−1
3348、1766、1707、1644、1588、1464、1301
H−NMRスペクトル:
重ジメチルスルフォキシド(DMSO−d)中、500MHzで測定したスペクトルを図5に示す。
13C−NMRスペクトル:
重ジメチルスルフォキシド(DMSO−d)中、125MHzで測定したスペクトルを図6に示す。
溶解性:水、ヘキサンに不溶、メタノール、DMSOに可溶
【0124】
(SPF−3059−38)
外観:黄色粉末
分子量:654
分子式:C342214
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(positive):655(M+H)
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(negative):653(M−H)
高分解能高速電子衝撃質量スペクトル(HRFAB−MS)m/z(M+H)
実測値:655.1100
計算値:655.1088(C342314
紫外可視吸収スペクトルλmax(メタノール中)nm(ε):
212(41100)、239sh(34000)、287(22200)、300sh(21900)、328(24400)
赤外吸収スペクトルνmax(KBr)cm−1
3418、1696、1660、1607、1471、1283
H−NMR(DMSO−d)δppm:
2.30(1H,m)、2.36(1H,m)、2.65(3H,s)、2.81(1H,m)、2.96(1H,m)、3.00(3H,s)、4.56(1H,d,11.8)、4.75(1H,d,11.8)、6.43(1H,s)、7.07(1H,s)、8.15(1H,d,9.2)、8.73(1H,d,9.2)
13C−NMR(DMSO−d)δppm:
21.7、23.3、26.6、32.9、56.9、71.3、102.3、102.5、107.9、110.2、117.4、119.4、121.2、122.22、122.24、124.0、127.1、134.3、136.1、138.1、141.7、141.8、142.1、150.1、154.0、154.1、154.6、155.6、167.7、167.9、173.1、189.5、197.5、207.2
溶解性:水、ヘキサンに不溶、メタノール、DMSOに可溶
これらからSPF−3059−38の構造式を、次式と決定した。
【0125】
【化28】

【0126】
(SPF−3059−40)
外観:オレンジ色粉末
分子量:536
分子式:C272012
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(positive):537(M+H)
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(negative):535(M−H)
高分解能高速電子衝撃質量スペクトル(HRFAB−MS)m/z(M+H)
実測値:537.1018
計算値:537.1034(C272112
紫外可視吸収スペクトルλmax(メタノール中)nm(ε):
209(34100)、223(34200)、277(19900)、340(11600)、460(25000)
赤外吸収スペクトルνmax(KBr)cm−1
3361、1698、1620、1465、1293
H−NMR(DMSO−d)δppm:
1.95(3H,s), 2.34(1H,d,16.8), 2.63(3H,s), 3.22(1H,d,16.8), 4.04(1H,d,10.8), 4.51(1H,d,10.8), 5.78(1H,s), 6.27(1H,s), 6.76(1H,s), 6.78(1H,s)
13C−NMR(DMSO−d)δppm:
23.7, 24.4, 32.0, 50.6, 71.9, 98.4, 102.5, 104.5, 109.0, 109.3, 111.9, 112.7, 118.8, 125.0, 135.4, 141.2, 143.0, 149.7, 151.1, 152.0, 152.6, 155.8, 168.3, 172.5, 189.0, 197.0, 204.2
溶解性:水、ヘキサンに不溶、メタノール、DMSOに可溶
これらからSPF−3059−40の構造式を、次式と決定した。
【0127】
【化29】

【0128】
(SPF−3059−41)
外観:黄色粉末
物質の性質:酸性物質
分子量:548
分子式:C282012
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(positive):549(M+H)
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(negative):547(M−H)
高分解能高速電子衝撃質量スペクトル(HRFAB−MS)m/z(M+H)
実測値:549.1002
計算値:549.1034(C282112
紫外可視吸収スペクトルλmax(メタノール中)nm(ε):
227(30200)、282sh(13500)、315(13900)、356(11000)
赤外吸収スペクトルνmax(KBr)cm−1
3396、1688、1662、1622、1470、1294
H−NMRスペクトル:
重ジメチルスルフォキシド(DMSO−d)中、500MHzで測定したスペクトルを図7に示す。
13C−NMRスペクトル:
重ジメチルスルフォキシド(DMSO−d)中、125MHzで測定したスペクトルを図8に示す。
溶解性:水、ヘキサンに不溶、メタノール、DMSOに可溶
【0129】
(SPF−3059−42)
外観:黄色粉末
分子量:806
分子式:C412618
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(positive):807(M+H)
高速電子衝撃質量スペクトル(FAB−MS)m/z(negative):805(M−H)
高分解能マトリックス支援レーザ脱離イオン化飛行時間型質量スペクトル(HRMALDI−TOF−MS)m/z(M+H)
実測値:807.1261
計算値:807.1198(C412718
紫外可視吸収スペクトルλmax(メタノール中)nm(ε):
221(58300)、316(28000)、353(23100)
赤外吸収スペクトルνmax(KBr)cm−1
3400、1704、1651、1620、1444、1294
H−NMR(DMSO−d)δppm:
2.08(3H,s)、2.10(3H,s)、2.51(3H,s)、3.47(1H,d,15.9)、3.54(1H,d,15.9)、4.48(1H,d,13.1)、4.65(1H,d,13.1)、6.28(1H,s)、6.84(1H,s)、6.89(1H,s)、7.40(1H,s)、8.12(1H,s)
13C−NMR(DMSO−d)δppm:
16.5、17.1、19.1、31.9、61.8、102.1、102.9(2C)、103.4、108.7、109.2、111.5、113.5、118.5、119.1(2C)、119.7、122.0、127.8、128.9、131.2、139.1(2C)、141.7、144.2、150.0、154.0(2C)、150.5、150.6、150.7、152.0、152.3、158.9、160.9、167.8、167.9、173.1、173.3、175.0、202.5
溶解性:水、ヘキサンに不溶、メタノール、DMSOに可溶。
これらからSPF−3059−42の構造式を、次式と決定した。
【0130】
【化30】

【実施例2】
【0131】
(Sema3Aのコラプス活性に対する本発明の化合物の抑制作用)
ポリリジンを塗布した96ウェルプレート(住友ベークライト)にさらにラミニン塗布(20μg/mlのラミニン、室温1時間)を行った。各ウェルに100μlの培地(10%の牛胎仔血清、20ng/mlのNGF、100ユニット/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシンを含むF12培地)を入れ、ここに7日齢ニワトリ胚から摘出した後根神経節を接種し、16〜20時間5%CO、37℃の条件下で培養した。その後、対象化合物を種々の濃度で培地に添加し1時間培養後、3ユニット/mlのマウスセマフォリン3A(Sema3A)を添加し、更に1時間培養した。1時間経過後、速やかに最終濃度1%になるようにグルタルアルデヒドを添加し、室温に15分間放置して組織片を固定した後、顕微鏡下で退縮した成長円錐の割合を測定した。陰性対照群(化合物、Sema3A共に不添加)の成長円錐退縮割合を(A)%、陽性対照群(化合物不添加、Sema3A添加)の成長円錐退縮割合を(B)%、試験群(各化合物及びSema3A添加)の成長円錐退縮割合を(C)%として、C=(A+B)/2となる各化合物の濃度をIC50値とした。結果を以下に示す。この結果から、本発明の化合物は強くセマフォリンを阻害することがわかる。
【0132】
表2
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
化合物 IC50(μg/ml)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
SPF−3059−8 2
SPF−3059−10 2
SPF−3059−16 0.5
SPF−3059−17 0.13
SPF−3059−18 0.063
SPF−3059−19 0.5
SPF−3059−20 4
SPF−3059−22 0.5
SPF−3059−23 0.5
SPF−3059−31 0.25
SPF−3059−38 0.013
SPF−3059−40 0.125
SPF−3059−41 0.25
SPF−3059−42 0.063
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【実施例3】
【0133】
(本発明の化合物の塩の製造)
本発明の化合物をメタノールに溶解して1mM溶液を調製する。この溶液1mlに、1mM水酸化ナトリウムのメタノール溶液を、本発明の化合物が2個のカルボキシル基を持つ場合は2ml、本発明の化合物が1個のカルボキシル基を持つ場合は1ml加え、十分に混合する。この溶液を減圧下に溶媒を留去、乾燥し、本発明の化合物のナトリウム塩1μmolを得る。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明の化合物は、セマフォリン阻害活性を有し、各種神経障害性疾患・神経変性疾患に対する予防剤や治療剤として有利に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(18):

(式中、R、RおよびRは、独立して、水素原子またはカルボキシル基を表し、R、RおよびRは、独立して、水素原子または水酸基を表す。)
で表される化合物、またはその薬学上許容される塩。
【請求項2】
一般式(18)において、RおよびRはカルボキシル基であり、R、RおよびRが水酸基である、請求項1記載の化合物、またはその薬学上許容される塩。
【請求項3】
一般式(18)において、Rが水素原子である、請求項2記載の化合物、またはその薬学上許容される塩。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の化合物、またはその薬学上許容される塩を有効成分として含有することを特徴とするセマフォリン阻害剤。
【請求項5】
セマフォリンが、クラス3型セマフォリンであることを特徴とする、請求項4記載のセマフォリン阻害剤。
【請求項6】
クラス3型セマフォリンが、セマフォリン3Aであることを特徴とする、請求項5記載のセマフォリン阻害剤。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか記載のセマフォリン阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする、神経伸長反発因子阻害剤。
【請求項8】
請求項4〜6のいずれか記載のセマフォリン阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする、成長円錐退縮活性及び/又はコラーゲンゲル中での神経伸長阻害活性の抑制作用を有する薬剤。
【請求項9】
請求項4〜6のいずれか記載のセマフォリン阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする、神経再生促進剤。
【請求項10】
ペニシリウム属に属する微生物を培養して、その培養物から化合物を採取することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか記載の化合物、またはその薬学上許容される塩の製造方法。
【請求項11】
ペニシリウム属に属する微生物が、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号FERM BP−7663として寄託されたペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)SPF−3059株であることを特徴とする請求項10記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−46734(P2011−46734A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246965(P2010−246965)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【分割の表示】特願2009−235580(P2009−235580)の分割
【原出願日】平成15年1月22日(2003.1.22)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】