説明

セメント強化用ポリプロピレン繊維

【課題】 ポリプロピレン樹脂繊維に対して永続的に親水性を付与でき、セメントとの分散性やセメントとの物理的結合が良好で、セメント成形物の曲げタフネスを向上させるセメント補強用ポリプロピレン繊維を提供することを目的とする。
【解決手段】 ポリプロピレン系樹脂から紡糸し、表面に凹凸を付形したモノフィラメントからなるポリプロピレン繊維に対して表面酸化処理を施した後に、表面処理液としてスルホン酸化合物、ポリオール複合体またはポリカルボン酸化合物の少なくとも1種の化合物を0.1〜5重量%付着させてなるものであって、ポリプロピレン樹脂繊維に表面酸化処理によって付与した親水性の経時低下を防ぐことができ、セメントとの分散性やセメントとの物理的結合が良好で、セメント成形物の曲げタフネス及び曲げ靭性に優れたセメント成形物の製造が可能となるポリプロピレン繊維を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートやモルタルの補強効果に優れたセメント補強用ポリプロピレン繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりモルタルやコンクリートを用いたセメント成形品、または建築物の外壁、トンネルの内壁、傾斜法面などが構築されているが、これらは成形体としては比較的脆性が大で、引張強度、曲げ耐力、曲げタフネス、耐衝撃性などの物性が充分でないと壁面のひび割れによる水漏れや外壁の剥離落下事故などが生じる危険性がある。そして、コンクリートの補強を目的として、鋼繊維やポリビニルアルコール繊維(例えば、特許文献1)を混入することは広く行われている。また、吹付けコンクリートにおいて曲げ強度やタフネスを要求される場合には、補強金網を設置する。
【0003】
しかし、鋼繊維を混入したコンクリートは、鋼繊維の比重が7.8と重いために材料の運搬や混入作業が困難であり、また、吹付けコンクリートにおいては吹付け時のはね返りにより落下した鋼繊維の踏み抜きによる怪我のおそれが大きく、さらに鋼繊維が錆びる等の欠点が指摘されている。また、ポリビニルアルコール繊維を混入したコンクリートは、繊維自身が吸水性を有し、また、繊維がアルカリで高温になると加水分解を起こし、さらに繊維を混入しないものに対してスランプが著しく低下する傾向にあり、吹付けに必要なスランプを確保するために単位水量を増加させる必要がある等の不都合が生じる。
【0004】
このような問題を解決するために、近年、鋼繊維やポリビニルアルコール繊維に代替して、成形性が良好で軽量、低廉などの理由でポリオレフィン系繊維を使用する試みがある(例えば、特許文献2)。
ポリオレフィン系繊維としては、一般的に繊度が100dt以下、繊維長さが5mm以下の単糸や集束糸、あるいはスプリット糸の短繊維が用いられることが多い。この繊維形状から性状として、低繊度でかつ短い繊維は、ファイバーボールという繊維塊が生成したり、嵩高となりセメント中への均一分散がし難いという欠点があり、そのため分散性を良くするために繊度を太くすると、セメントとの接着性が劣り曲げ応力がかかると繊維が引き抜けてしまうなど充分な補強効果が得られない傾向にある。
【0005】
かかるポリオレフィン樹脂繊維のセメントとの親水性を改良するために、繊維断面に凹凸を付形したポリプロピレン繊維に、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステルとポリオキシアルキレン脂肪酸エステルからなる界面活性剤等をそれぞれ塗布する方法が提案されている(例えば、特許文献3)が、上記提案の界面活性剤はポリオレフィン系樹脂繊維との接着性が十分でないため、セメントマトリックスと界面活性剤が接着したとしても、ポリオレフィン系樹脂繊維とマトリックス間で十分接着力が得られず、セメント成形物の曲げタフネスは十分ではないという問題があった。
【0006】
本出願人は、このようなポリオレフィン樹脂繊維の問題点を改良するために、繊維断面に特定の平均偏平率の凹凸を付形した単糸繊度200dt以上の太いモノフィラメントを繊維長さ5mm以上に長く切断してなるポリプロピレン繊維に、コロナ放電処理、プラズマ処理、フレームプラズマ処理、電子線照射処理、紫外線照射処理などの表面酸化処理を施す方法が提案されている(例えば、特許文献4)。
しかしながら、上記提案の表面酸化処理を施す方法では、その酸化処理効果の経時変化により、経時とともにその処理効果が薄れてしまい、ポリオレフィン系樹脂繊維とマトリックス間で十分接着力が得られず、セメント成形物の曲げタフネスや曲げ靭性は十分ではないという問題があった。
【0007】
【特許文献1】特公平1−40786号公報(1頁)
【特許文献2】特開平9−86984号公報(2頁)
【特許文献3】特開平11−116297号公報(2頁)
【特許文献4】特開2004−168645号公報(2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解消するためになされたもので、ポリオレフィン樹脂繊維に対して永続的に親水性を付与でき、セメントとの分散性やセメントとの物理的結合が良好で、セメント成形物の曲げタフネスや曲げ靭性を向上させるセメント補強用ポリプロピレン繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を技術的に解決するために、ポリオレフィン繊維に対して表面酸化処理を施し、その酸化処理表面に特定の表面処理剤で塗布処理することにより、その酸化処理面を保護することにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の要旨は、ポリプロピレン系樹脂から紡糸し、その繊維表面に対して表面酸化処理を施した後、その表面にスルホン酸化合物、ポリオール類及びポリカルボン酸から選ばれた少なくとも一種の化合物または二種以上の混合物を0.1〜5重量%付着させてなることを特徴とするセメント強化用ポリプロピレン繊維、に存する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のセメント強化用ポリプロピレン繊維は、ポリプロピレン系樹脂から紡糸し、表面に凹凸を付形した特定の単糸繊度のモノフィラメントからなるポリプロピレン繊維表面に対して表面酸化処理を施した後に、表面処理液としてスルホン酸化合物、ポリオール複合体またはポリカルボン酸化合物の少なくとも1種の化合物を特定量付着させてなるものであって、ポリプロピレン樹脂繊維に表面酸化処理によって付与した親水性の経時低下を防ぐことができ、セメントとの分散性やセメントとの物理的結合が良好で、セメント成形物の曲げタフネス及び曲げ靭性に優れたセメント成形物の製造が可能となるポリプロピレン繊維を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において繊維原料に用いられるポリプロピレン系樹脂とは、プロピレン単独重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体あるいはランダム共重合体などのポリプロピレン共重合体またはそれらの混合物を使用することができる。これらの中では高強度、耐熱性を要求されるセメント強化用としてプロピレン単独重合体が望ましく、特にアイソタクチックペンタッド率0.95以上のものを選択することが望ましい。このポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(以下、MFRと略す)は、連続的な安定生産性の点で0.1〜30g/10分の範囲、好ましくは1〜10g/10分の範囲から選択するのがよい。
【0012】
ポリプロピレン系樹脂には、その紡糸の過程において必要に応じ他のポリオレフィンが添加されてもよい。ここでの他のポリオレフィンとしては、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸アルキル共重合体などのポリエチレン系樹脂、ポリブテン−1等である。
【0013】
本発明で紡糸されるポリプロピレン繊維は、その主体となる繊維形状は比較的太いモノフィラメントを切断した短繊維であって、その製造方法としては特に限定されるものではなく円形や楕円形、異型、その他連糸形状のダイスからフィラメントを押し出す製造技術を採用することができる。
【0014】
また、このモノフィラメントの構成として基本的な単層フィラメントの他に、ポリプロピレン高融点成分を芯層とし、ポリプロピレン低融点成分を鞘層とする複合モノフィラメントを使用することもできる。この製造方法は、各層のポリプロピレンを押出機で溶融混練し、2層の吐出孔が略同心円上に設けられたダイスの中心吐出孔から高融点成分からなる芯層を供給し、その外面に低融点成分からなる鞘層を押出して被覆して複合モノフィラメントを得るものである。この場合に実質的な強力が芯層の物性に依存するため、高融点成分としてプロピレン単独重合体、アイソタクチックポリプロピレンなどを使用することが好ましく、一方低融点成分としては、プロピレン−エチレンブロック共重合体及びランダム共重合体、シンジオタクチックポリプロピレンなどが好ましい。こうして得られる複合モノフィラメントを使用することで、コンクリート成形時の加熱養生におけるポリプロピレン繊維の熱劣化を抑制することができる。
【0015】
次に、モノフィラメントは熱延伸及び熱弛緩処理を施し、この熱処理によってフィラメントの剛性を高めて、伸びの小さいセメント強化用として好適なポリプロピレンモノフィラメントが得られる。この熱延伸はポリプロピレンの融点以下、軟化点以上の温度下に行われ、通常は延伸温度が90〜150℃、延伸倍率は通常5〜12倍、好ましくは7〜9倍である。熱延伸法としては、熱ロール式、熱板式、赤外線照射式、熱風オーブン式、熱水式などの方式が採用できる。
【0016】
ポリプロピレンフィラメントの引張強度は5g/dt以上であり、好ましくは、6g/dt以上である。また、引張伸度は20%以下であり、好ましくは、15%以下である。引張強度、引張伸度がこれらの範囲を外れるとセメント強化用ポリプロピレン繊維としての強度が不充分となり好ましくない。
【0017】
形成されるポリプロピレンモノフィラメントの単糸繊度は5〜10,000dtの範囲であり、好ましくは200〜10,000dt 、さらに好ましくは200〜6,500dtの範囲である。単糸繊度が200dt未満では繊維が細すぎてコンクリート混和物中の分散が不均一でファイバーボールになり易く、施工性や補強性の点で問題となり、一方、単糸繊度が10,000dtを超えると繊維のコンクリート混和物との接触面積が減少し曲げ応力に対して引き抜け易くなり補強効果が劣り好ましくない。
【0018】
それ故、ポリプロピレンモノフィラメントは、紡糸、熱延伸の次工程として、表面に凹凸が付形されることが必要である。これによって、繊維とコンクリートとの接触面積を増加させて、コンクリート硬化後の繊維の引き抜けを抑制して補強効果を高めることができるのである。この表面に凹凸を付形する方法としては、モノフィラメントをエンボス加工する方法が挙げられる。エンボス加工は、モノフィラメントを延伸前または延伸後にエンボスロールを通すことにより行なうもので、モノフィラメントの長手方向に連続して凹凸が形成されるものである。
【0019】
ここで、エンボスの長さ及び深さ等の形状は任意のものでよいが、押し潰しによる繊維断面の平均偏平率1.5/1〜7/1の範囲、好ましくは1.8/1〜7/1であることが必要とされる。この平均偏平率とは、付形された多様な形状の繊維断面における幅と高さの平均的な比率を示した数値であり、平均偏平率が1.5/1未満であると繊維表面に対する凹凸付形が少ないため平滑表面繊維と補強効果の差が認められなく、一方、平均偏平率が7/1を超えると付形による強度劣化が著しく、また前記所定繊度の繊維においてはコンクリート中への分散性が悪化する傾向にあり問題となる。
【0020】
上記ポリプロピレン繊維には、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、酸化防止剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、無機充填材、有機充填材、架橋剤、発泡剤、核剤等の添加剤を配合してもよい。
【0021】
本発明においては、上記ポリプロピレン繊維表面に対して、表面酸化処理を施してなり、その表面の濡れ張力が40mN/m以上、好ましくは40〜70mN/mの範囲することを特徴とする。表面の濡れ張力が40mN/m未満では、ポリオレフィン樹脂繊維に対して親水性を十分付与させることができず、セメント成形物の曲げ強度や衝撃強度を向上させることができない。
なお、濡れ張力は、JISK6768(1999年)に準拠して測定した値である。
表面酸化処理としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、フレームプラズマ処理、電子線照射処理、紫外線照射処理より選ばれた少なくとも一種の処理方法であり、コロナ放電処理、プラズマ処理が好ましい。
【0022】
コロナ放電処理は、通常用いられている処理条件、例えば、電極先端と被処理基布間の距離0.2〜5mmの条件で、その処理量としては、ポリプロピレン繊維1m当たり10w・分以上、好ましくは10〜200W・分の範囲、さらに好ましくは10〜180W・分 の範囲である。処理量がポリプロピレン繊維1m当たり10W・分 未満では、コロナ放電処理の効果が不十分で、上記繊維表面の濡れ張力を上記範囲内にすることができず、セメント成形物の曲げ強度や衝撃強度を向上させることができない。
【0023】
プラズマ処理工程は、アルゴン、ヘリウム、クリプトン、ネオン、キセノン、水素、窒素、酸素、オゾン、一酸化炭素、二酸化炭素、二酸化硫黄等の単体ガスまたはこれらの混合ガス、例えば、酸素濃度5〜15容量%を含有する酸素と窒素の混合ガスを大気圧近傍の圧力下で、対向電極間に電圧を印加してプラズマ放電を発生させることによって、プラズマジェットで電子的に励起せしめた後、帯電粒子を除去し、電気的に中性とした励起混合ガスを、プラスチック基材の表面に吹きつけることにより実施できる。プラズマ処理条件としては、例えば、処理するプラスチック基材が通過する電極間の距離は、基材の厚み、印加電圧の大きさ、混合ガスの流量等に応じて適宜決定されるが、通常1〜50mm、好ましくは2〜30mmの範囲であり、上記電極間に印加する電圧は印加した際の電界強度が1〜40kv/cmとなるように印加するのが好ましく、その際の交流電源の周波数は、1〜100kHzの範囲である。
【0024】
フレームプラズマ処理工程は、天然ガスやプロパンを燃焼させた時に生じる火炎内のイオン化したプラズマを、プラスチック基材の表面に吹きつけることにより実施できる。
【0025】
電子線照射処理工程は、プラスチック基材の表面に、電子線加速器により発生させた電子線を照射することにより行われる。電子線照射装置としては、例えば、線状のフィラメントからカーテン状に均一な電子線を照射できる装置「エレクトロカーテン」(商品名)を使用することができる。
【0026】
紫外線照射処理工程は、たとえば200〜400mμの波長の紫外線を、プラスチック基材の表面に照射することにより実施される。
【0027】
本発明においては、上記ポリプロピレン繊維表面に表面酸化処理を施した後、その酸化処理表面に下記表面処理剤を特定量塗布して付着させ表面処理を施すものである。
【0028】
本発明に用いる表面処理剤は、スルホン酸化合物、ポリオール複合体あるいはポリカルボン酸化合物の少なくとも1種の化合物を主成分とするものであり、これらの一種又は二種以上が使用される。
スルホン酸化合物としては、リグニンスルホン酸系化合物、ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物、アントラセンスルホン酸ホルマリン縮合物あるいは芳香族アミノスルホン酸系化合物が挙げられる。
【0029】
ポリオール類としては、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールまたはそれらの誘導体、ヘキサンジオールあるいはペンタンジオールが挙げられる。
【0030】
ポリカルボン酸化合物としては、スチレン−無水マレイン酸共重合体及びその部分エステル化物、アリルエーテル−無水レイン酸共重合体及びその誘導体、ビニルエーテル−無水レイン酸共重合体及びその誘導体、(分岐)ペンテニルエーテル−無水レイン酸共重合体及びその誘導体、(メタ)アクリル酸−(メタ) アクリル酸エステル共重合体及びその誘導体が挙げられる。
【0031】
これらの中で、リグニンスルホン酸系化合物、ポリオール複合体、特にリグニンスルホン酸化合物及びポリオール複合体が好ましい。
具体的には、これらの表面処理剤として、生コンクリートの高流動性を付与させる目的で使用されるAE減水剤や高性能AE減水剤、例えば、エヌエムビー社のポゾリスシリーズのAE減水剤、レオビルドSPシリーズの高性能AE減水剤等が挙げられ、これらを本発明の表面処理剤として好適に用いることができる。
【0032】
上記表面処理剤のポリプロピレン繊維に対する付着方法としては、一般に表面処理剤をポリプロピレン繊維に塗布する方法により行われる。この塗布方法としては、表面処理剤溶液中にポリプロピレン繊維を浸漬して塗布するディップコート法(浸漬法)、ポリプロピレン繊維に表面処理剤溶液をスプレーして塗布するスプレーコート法、刷毛塗りやロールコータを用いてポリプロピレン繊維に表面処理剤溶液を塗布する方法、パットドライ法等が挙げられ、これらのうちディップコート法が好ましい。
【0033】
上記表面処理剤のポリプロピレン繊維に対する付着量は、総繊維に対して0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜5重量%である。付着量が総繊維に対して0.1重量%未満ではポリプロピレン繊維に親水性が十分付与されずセメント成形体の曲げ強度や曲げタフネスの向上が不充分であり、5重量%を超えるとポリプロピレン繊維の親水性の付与効果がそれ以上向上せずそれ故、セメント成形体の曲げ強度や曲げ靭性が平衡に達してしまい、逆にコストが上昇するので、好ましくない。
【0034】
こうして表面処理を施したポリプロピレン繊維は、所定長さにカットされセメント強化用の短繊維となる。短繊維の長さは5〜100mm、好ましくは20〜70mmである。繊維長が5mm未満では、セメントからの抜けが生じ、100mmを越えると分散性が不良となり好ましくない。
【0035】
本発明のセメント強化用ポリプロピレン繊維は、強化繊維材としてセメント、細骨材、粗骨材、水及び適量のコンクリート混和剤に配合して用いられる。ここで、セメントとしてはポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント等の水硬性セメントまたは石膏、石灰等の気硬性セメント等のセメント類が挙げられ、細骨材としては川砂、海砂、山砂、砕砂、珪砂、ガラス砂、鉄砂、灰砂、その他人工砂などが挙げられ、粗骨材としてはレキ、砂利、砕石、スラグ、各種人工軽量骨材などが代表的に挙げられる。
【0036】
本発明のセメント強化用ポリプロピレン繊維を吹付けコンクリートの施工に用いる場合、この配合量は、セメント、細骨材、粗骨材、水等よりなるコンクリート混合物1m3に対してポリプロピレン繊維を4〜19kg、好ましくは6〜14kgを配合して分散させることが肝要である。これは、ポリプロピレン繊維の配合量が19kgを超えてもコンクリート中に繊維が均一に分布しないために曲げ靭性は増大しないし、一方、配合量が4kg未満では吹付け時のはね返りが大きく、また硬化後補強効果が小さい。
【0037】
また、この場合の混合する方法として、セメント、細骨材、粗骨材、水等よりなるコンクリート混合物を投入してベースコンクリートとし、このベースコンクリートを練混ぜ後に、ポリプロピレン繊維を投入し練混ぜを行なうことが好ましく、練混ぜ時間は1回当たりの混合量によるが、一般的にベースコンクリートの練混ぜは45〜90秒、ポリプロピレン繊維を投入後の練混ぜについても45〜90秒の範囲が適当とされる。
【0038】
加えて、吹付けコンクリートの施工においては、本発明のポリプロピレン繊維を前記配合量で使用する場合、スランプの範囲を8〜21cmに調整するのが好ましい。これは、スランプが8cm未満では吹付け作業が困難となり、21cmを超えるとはね返りが大きくなるので好ましくない。このようなスランプの範囲で吹付けコンクリートを施工するための吹付けノズルは、ノズルを吹付け面に直角に配置すること、及びノズルと吹付け面の距離を0.5〜1.5mとすることが有効となる。
【0039】
実施例1
(1)繊維の製造
ポリプロピレン(MFR=4.0g/10分、Tm=163℃)を押出機に投入して円形ノズルから紡糸して冷却した後に熱風オーブン式延伸法により、熱延伸温度115℃、熱弛緩温度120℃、延伸倍率7〜8倍で延伸を行い、繊度4300dtのモノフィラメントを形成し、次いで、傾斜格子柄のエンボスロールと硬質ゴムロールを用いてエンボスニップ圧を変えて平均偏平率も異なる表面に凹凸を付形したポリプロピレンモノフィラメントを得た。得られたモノフィラメント表面の濡れ張力は32mN/mであった。
このポリプロピレンモノフィラメントに表面酸化処理として、コロナ放電処理をポリプロピレンモノフィラメント表面1m当り30W・分で処理を行い、得られたモノフィラメント表面の濡れ張力は45mN/mであった。
さらに、このポリプロピレンモノフィラメントに表面処理剤として、リグニンスルホン酸化合物及びポリオール複合体からなる処理液((株)エヌエムビー製ポゾリスNo.70)に浸漬処理後、乾燥して表面処理液1重量%を付着させた。上記ポリプロピレンモノフィラメントを繊維長が48mmになるように切断し、ポリプロピレン繊維とした。
【0040】
(2)評価試験1
上記で得られたポリプロピレン繊維繊維について、常温にて所定時間乾燥させた後、ポリプロピレン繊維繊維に付着した表面処理液を水洗にて除去した後、JISK6768(1999年)に準拠して濡れ張力を測定し、その結果を表1に示す。
なお、濡れ張力は、JISK6768(1999年)に準拠して測定した値である。
【0041】
表1から明らかなように、表面処理液を塗布したポリプロピレン繊維は、1年経過してもその濡れ張力が低下しないことが分かった。
【0042】
(3)評価試験2
上記で得られたポリプロピレン繊維について、下記方法で繊維の付着力試験を行い、その結果を表3に示す。なお、供試体の作製方法および載荷試験方法は、(社)日本コンクリート工学協会「JCI-SF8 繊維の付着試験方法」に準じた。
1)繊維の埋込み条件
埋込み長さ:23.75(mm)
仕切板の厚さ:0.5(mm)
定着長さ:23.75(mm)
繊維長:48(mm)
【0043】
2)使用材料と配合条件
セメント:早強ポルトランドセメント(密度=3.13g/cm3)
細骨材:豊浦標準砂(表乾密度=2.64g/cm3)
水:水道水
水セメント比:50%
セメント砂比:1:1.7
繊維:ポリプロピレン繊維は、常温にて180日間乾燥させたものを使用した。
なお、養生は、14日間20℃水中養生にて行った。
【0044】
表2から明らかなように、表面処理液を塗布したポリプロピレン繊維は、表面処理液を塗布しないポリプロピレン繊維と比較して、繊維の付着力が高いことが分かった。
【0045】
(4)評価試験3
上記で得られたポリプロピレン繊維について、下記方法にてコンクリート補強効果を試験し、その結果を表3に示す。
1)使用材料と配合条件
セメント:普通ポルトランドセメント(密度=3.15g/cm3) 340kg/m3
細骨材:木更津産山砂(表乾密度=2.60 g/cm3) 894 kg/m3
粗骨材:青梅産砕石1505(表乾密度=2.65g/cm3) 880kg/m3
水:水道水 170kg/m3
混和剤:高性能AE減水剤 (株)エヌエムビー製レオビルドSP8SB 4.42kg/m3
繊維:ポリプロピレン繊維は、常温にて180日間乾燥させたものを容積として0.3%配合した。
【0046】
2)コンクリートの練混ぜ
容量100リットルの強制二軸練りミキサを使用し、1バッチ60リットルで行う。コンクリートの練り上がり時の温度は約20℃とした。練混ぜ方法は粗骨材、細骨材およびセメントを投入して30秒間の空練りを行った後、水および混和剤を投入し120秒間練混ぜ後に補強繊維を添加して60秒間練混ぜを行い排出する。
【0047】
3)供試体の作成
土木学会基準「鋼繊維補強コンクリートの強度およびタフネス試験用供試体の作り方」(JSCE F552-1983)に準拠した。尚、供試体は24時間後に脱型し、材齢28日まで水中養生を実施した。
【0048】
4)試験方法
土木学会基準「鋼繊維補強コンクリートの曲げ強度および曲げタフネス試験方法」(JSCE G552-1983)に準拠した。
【0049】
表3から明らかなように、表面処理液を塗布したポリプロピレン繊維は、表面処理液を塗布しないポリプロピレン繊維と比較して、曲げ靭性係数および曲げタフネスが高いことが分かった。
【0050】
比較例1
実施例1において、得られたポリプロピレンモノフィラメントにコロナ放電処理及び表面処理剤の付着を全く行わなかったこと以外は同様にして行った。その結果を表1〜表3示す。
【0051】
比較例2
実施例1において、コロナ放電処理して得られたポリプロピレンモノフィラメントに表面処理剤を付着させなかったこと以外は同様にして行った。その結果を表1〜表3に示す。
【表1】

【表2】

【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂から紡糸し、その繊維表面に対して表面酸化処理を施した後、その表面にスルホン酸化合物、ポリオール類およびポリカルボン酸化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物を0.1〜5重量%付着させてなることを特徴とするセメント強化用ポリプロピレン繊維。
【請求項2】
ポリプロピレン系樹脂から紡糸し、その繊維断面の平均偏平率が1.5/1〜7/1の範囲で凹凸を付形した単糸繊度200〜10,000dt以上のモノフィラメントからなるポリプロピレン繊維に対して表面酸化処理を施し、繊維表面の濡れ張力を40mN/m以上となした請求項1に記載のセメント強化用ポリプロピレン繊維。
【請求項3】
スルホン酸化合物が、リグニンスルホン酸系化合物、ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物、アントラセンスルホン酸ホルマリン縮合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、メタンスルホン酸系化合物及びベンゼンスルホン酸系化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物である請求項1または請求項2に記載のセメント強化用ポリプロピレン繊維。
【請求項4】
ポリオール類が、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールまたはそれらの誘導体、ヘキサンジオール及びペンタンジオールから選ばれた少なくとも1種の化合物である請求項1または請求項2に記載のセメント強化用ポリプロピレン繊維。
【請求項5】
ポリカルボン酸化合物が、スチレン−無水マレイン酸共重合体及びその部分エステル化物、アリルエーテル−無水レイン酸共重合体及びその誘導体、ビニルエーテル−無水レイン酸共重合体及びその誘導体、(分岐)ペンテニルエーテル−無水レイン酸共重合体及びその誘導体、(メタ)アクリル酸−(メタ) アクリル酸エステル共重合体及びその誘導体から選ばれた少なくとも1種の化合物である請求項1または2に記載のセメント強化用ポリプロピレン繊維。

【公開番号】特開2007−284256(P2007−284256A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−237175(P2004−237175)
【出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【出願人】(000234122)萩原工業株式会社 (47)
【Fターム(参考)】