説明

セメント成形体補強用繊維

【課題】セメントペースト、モルタル、コンクリートなどのセメント成形体材料の混練時に、練り混ぜ水を含む場合だけではなく、練り混ぜ水を含まないドライブレンドの場合でも、機械的な攪拌を長時間を行うことなく、短時間で解繊、均一分散することができ、セメント成形体のフレッシュ時の流動性を損なうことなく、優れた補強効果を付与することができるセメント成形体補強用繊維を提供すること。
【解決手段】ポリカルボン酸エーテル系アニオン性化合物とポリアルキレングリコールから成る処理剤が付与された短繊維で、該処理剤の全付着量が固形分比で0.5〜20重量%付与されていて、また該短繊維の単糸繊度が0.5〜100dtex、かつ短繊維のアスペクト比が50〜1000であることを特徴とするセメント成形体補強用繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散性に優れ、セメント成形体のフレッシュ時の流動性を損なうことなく、補強効果に優れたセメント成形体補強用繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、セメント成形体であるセメントペースト、モルタル、コンクリート等は、圧縮強度、耐久性、不燃性などに優れており、また安価であることから、建築土木用途で大量に使用されている。しかしながら、材料硬化時に乾燥収縮を起こし表面にヒビが生じたり、引張および曲げ強度の低い脆性材料であることから、ひび割れ抑制や曲げ強度および靭性などの機械特性を向上させることを目的として、各種の繊維状物を配合することは公知の技術であり、数多く提案されている。
【0003】
しかしながら、繊維をセメント、細骨材、粗骨材などを含むセメント成形体材料中に均一に分散させることは極めて困難であり、材料混練の際に単糸同士が絡みあったり、湾曲してファイバーボールが発生して、目標とする補強効果が得られにくいという問題がある。 また、セメント成形体中で繊維が均一に分散したとしても、繊維の拘束力によってセメント成形体のフレッシュ時の流動性が著しく低下する問題がある。
【0004】
このような状況を解決すべく、複数本の繊維を集束剤で結合一体化した集束糸を補強材として使用することが提案されており、熱硬化性樹脂により複数本の繊維を接着した集束糸が示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このような集束糸を使用した場合、まず集束糸の形態でセメント成形体材料中に分散し、次いで撹拌機中での撹拌羽根や材料との摩擦や剪断力により樹脂が脱離して集束状態が徐々にはずれて複数本の単糸に解繊し、分散されていく。したがって、集束されていない繊維を混入する場合に比較して、均一分散性に優れるという特徴を有している。
【0006】
しかしながら、この集束糸は熱硬化性樹脂により強固に接着されているため、上記のような混練機により高剪断力で長時間の攪拌を行わないことには十分に解繊させることが困難であった。攪拌を行うことにより単繊維に解繊されるが、長時間攪拌すると、すでに解繊された繊維は、未解繊の繊維を解繊させるために攪拌を続けるうちにファイバーボールを形成し、ファイバーボールが形成されると補強効果が損なわれてしまうという問題があった。
【0007】
そのため集束剤の改良が行なわれ、特定の水溶性高分子樹脂を集束剤として用いて、PH12における解繊度が50%以上とする技術が開示されている(特許文献2参照)。この集束糸によると、解繊度が優れており、分散性に優れ、ファイバーボールも形成されにくいものであった。
【0008】
しかしながら、集束剤が水溶性高分子樹脂であるため、セメント成形体材料中で攪拌されながら樹脂が脱離した後溶解して、増粘作用をもたらし、セメント成形体のフレッシュ時の流動性を低下するという問題があった。
【0009】
また繊維添加によるセメント成形体のフレッシュ時の流動性低下を抑制するために、減水剤というコンクリートの混和剤で繊維を集束させたもの(特許文献3参照)が開示されている。確かに減水剤の効果により繊維添加によるセメント成形体のフレッシュ時の流動性低下を抑制できるようになるものの、しかしながら、減水剤の繊維表面付着により、逆に解繊しにくくなるという問題がある。
【0010】
また、セメント成形体材料の混練手順として、近年、予めセメント、細骨材、粗骨材などの粉末成分と補強用繊維を混合したプレミックス材料とし、その後練り混ぜ水とを混合することが、施工現場での計量手間や計量ミスをなくす点で好ましく行なわれるようになってきた。
【0011】
そのためプレミックス法においても通常のミックス法においても、弱い攪拌力でかつ短時間で均一に解繊、分散するセメント成形体補強用繊維が望まれており、上記に示した繊維ではこのような要求に応えられるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特公昭62−21743号公報
【特許文献2】特開平10−183473号公報
【特許文献3】特開平8−259289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記の問題点を解決するものであって、セメントペースト、モルタル、コンクリートなどのセメント成形体材料の混練時、特にドライプレミックスの場合でも、機械的な攪拌を長時間行うことなく、短時間で解繊、均一分散することができ、セメント成形体のフレッシュ時の流動性を損なうことなく、優れた補強効果を付与することができるセメント成形体補強用繊維を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、セメント粒子はその表面がカチオン性であることから、セメント成形体補強用繊維表面をアニオン性にすることで、セメント/繊維界面での親和性が上がりセメント成形体のフレッシュ時の流動性を損わないことを見出した。また、繊維間の静摩擦力が小さくすることにより、混練による剪断が補強用繊維にかかった時に塊状にならず解繊し易く、セメント成形体中で均一に分散し易いことを見出した。そこで、セメント成形体補強用繊維に、セメント粒子と静電気的な吸着作用のあるポリカルボン酸エーテル系アニオン性化合物と短繊維間の平滑性向上に効果のあるポリアルキレングリコールを付与すれば、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明によれば、
ポリカルボン酸エーテル系アニオン性化合物とポリアルキレングリコールから成る処理剤が全繊維重量に対して0.5〜20重量%付与されている短繊維であって、繊維の糸/糸静摩擦係数(F/Fμs)が0.4以下であり、また該短繊維の単糸繊度が0.5〜100dtexで、かつ短繊維のアスペクト比が50〜1000であることを特徴とするセメント成形体補強用繊維、
が提供される。
短繊維としてコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のセメント成形体補強用繊維は、原料の混練手順に関わらず良好な繊維分散性が得られ、セメント成形体のフレッシュ時の流動性を損わず、施工を阻害しない範囲で維持し、かつ高い補強効果を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】糸/糸静摩擦係数の測定装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明を以下の好適例により説明するが、これらに限定されるものではない。
【0019】
本発明に用いるセメント成形体のセメントとしては、現場の施工条件等を考慮して選定することができ、特に限定されるものではないが、例えば早強、超早強、低熱、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメントや、これらの各種ポルトランドセメントにフライアッシュや高炉スラグなどを混合した高炉セメント等の各種混合セメント、速硬セメント等を、単独または2種以上で用いることができる。
【0020】
また、該セメントには、高炉スラグ粉末、フライアッシュ、シリカヒューム、石灰石粉末、石英粉末、二水石膏、半水石膏、無水石膏、生石灰系膨張材、カルシウムサルフォアルミネート系膨張材などの公知の混和材を添加することができる。その配合割合は特に限定されず、適宜設計することができる。
【0021】
本発明に用いるセメント成形体の骨材としては、川砂、海砂、山砂、砕砂、3〜8号珪砂、石灰石、及びスラグ細骨材等の細骨材のみや、用途の要求特性に応じて、川砂利、砕石、及び人工骨材等の粗骨材を混合使用することができる。高物性を発現させるためには、微細な粉や粗い骨材を含まない粒度調整した珪砂や石灰石等の細骨材のみを用いるほうが好ましい。さらに、所望の特性のセメント硬化体を得るためには、その粒度構成や配合割合にも好適な範囲があり、骨材の粒度は4mm以下のものが好ましく、1.2mm未満のものが40〜75% で、1.2〜4mmのものが60〜25%である混合物がより好ましく、1.2mm未満のものが55〜70%で、1.2〜4mmのものが45〜30%である混合物が最も好ましい。最大粒度が4mmを超えると流動性や充填性が不足し、1.2〜4mmのものが25%未満では耐久性に劣る場合があり、60%を超えると必要な早期強度が得られない場合がある。
【0022】
また、本発明に用いるセメント成形体には、適量な練り混ぜ水を添加して混練するが、練り混ぜ水はセメント等の硬化に悪影響を及ぼす成分を含有していなければ、水道水や地下水、河川水等の水を用いることができ、例えば、「JIS A 5308 付属書9 レディーミクストコンクリートの練混ぜに用いる水」に適合するものが好ましい。
【0023】
本発明で用いられるポリカルボン酸エーテル系アニオン性化合物は、セメント粒子の分散剤として今日、一般市場で販売されているものでよく、通常、平均分子量が1000〜200000のものが用いられる。
【0024】
本発明で用いられるポリアルキレングリコールは、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを重合または共重合して得られるもので、通常、数平均分子量が2000以下、好ましくは400〜1000のものが用いられる。分子量が2000を超える場合はポリアルキレングリコールの固形分の粘性が高く、繊維間の静摩擦力が大きくなって補強用繊維が解繊し難くなる為好ましくない。具体的にはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0025】
ポリカルボン酸エーテル系アニオン性化合物とポリアルキレングリコールの全付着量は、セメント成形体補強用繊維全重量に対して0.5〜20重量%であることが必要である。0.5重量%未満の場合、セメント成形体材料混練の際に、補強用繊維の優れた分散性が得られず、フレッシュ時の流動性も低い。一方、20重量%を超える場合、処理剤の影響で繊維とそれ以外のセメント成形体材料が分離したり、水分が過剰にブリードアウトすることがある。好ましくは、1.0〜10.0重量%の範囲で付着されるのが良い。
【0026】
また、ポリカルボン酸エーテル系アニオン性化合物とポリアルキレングリコールの配合比は、材料混練時の繊維分散性およびセメント成形体フレッシュ時の流動性によって適宜選定されるが、ポリカルボン酸エーテル系アニオン性化合物/ポリアルキレングリコールの重量比が、20/80〜80/20の範囲で付着されるのが好ましい。ポリカルボン酸エーテル系アニオン性化合物の量が上記の範囲を超える場合は繊維間の静摩擦力が大きくなり、補強用繊維が解繊し難くなる。逆にポリアルキレングリコールの量が上記の範囲を超える場合は、セメント粒子との親和性が低く、セメント成形体のフレッシュ時の流動性を損ってしまう。
【0027】
次に、本発明のセメント成形体用補強用繊維は、剪断力がかかった時に繊維が分散し易くするため、糸/糸静摩擦係数(F/Fμs)が0.4以下であることが必要であり、好ましくは0.35以下である。糸/糸静摩擦係数(F/Fμs)が0.4を超える場合は繊維にかかる剪断力が小さい場合、繊維が分散し難くなり好ましくない。なお、糸/糸静摩擦係数(F/Fμs)の下限は特に限定するものではない。
【0028】
また、本発明における糸/糸静摩擦係数(F/F μs)とは、図1に示すような測定装置を用い、繊維(3)の一端をUゲージ(2)に固定し、プーリー(1)にかけ、さらに撚りを2回かけて初荷重(T1)1000gをかけて引っ張る。糸/糸間の交差角度(θ)を15°にとり、撚部の温度を20℃に保ち、Uゲージ(2)を0.1m/分の速度で引っ張る。その際Uゲージ(2)に感知される張力(T2 g)を測定し、初荷重T1に対する応力T2の比として、以下に示す式で静摩擦係数を算出する。
F/F μs==1.40Log10(T2/T1)
【0029】
上記ポリカルボン酸エーテル系アニオン性化合物とポリアルキレングリコールを繊維に付着させる方法としては、単繊維が集まったマルチフィラメント長繊維、さらにはそれを複数本に引き揃えた形状のものやトウ状長繊維を、ボビンやビームクリールから連続的に送繊されるようにして、該処理剤の入った漕の中で含浸させる方法やローラータッチ法によって付着させる方法、スプレー方式により該処理剤を噴霧して付着させる方法などが挙げられるが、繊維に均一に付着させるためには該処理剤の入った浴槽の中で浸漬させる方法が好ましく、次いで絞りロールで一定の付着量に調整すればよい。
【0030】
そしてポリカルボン酸エーテル系アニオン性化合物とポリアルキレングリコールを付与した後には、乾燥処理を施すことが好ましく、装置としては特に限定されるものではなく、接触型のホットローラー等を用いることができるが、非接触型の熱乾燥炉を用いると該処理剤による装置への付着や汚れがなく作業しやすい。また、この時の処理温度としては105〜200℃程度、特に120〜180℃程度で乾燥することが好ましい。次いで、得られたトウ状繊維物を公知の切断機によって所定の繊維長になるように切断すればよい。なお、該処理剤の付着量は、上記のようにして付着させた後、乾燥処理を行ってもその付着量はほとんど変化しない。
【0031】
本発明のセメント成形体補強用繊維の単糸繊度が0.5〜100dtex、短繊維のアスペクト比が50〜2000であることが、繊維混入による補強効果、即ちヒビ割れ抑制、高曲げ強度・高曲げ靱性付与の観点から好ましい。単糸繊度が0.5dtex未満では、セメントがアルカリ性であるために繊維の芯近くまで劣化が起こって、繊維の引張強度の低下が大きくなり、目的の補強効果が得られなくなる場合がある。一方、100dtexを超えると、繊維の細部への行き渡りが不十分となり、かつ、同じ体積含有率で短繊維を添加する場合、単繊維本数が少なくなって充分な補強効果が得られない。好ましくは1〜60dtex、より好ましくは1〜50dtexである。
【0032】
また本発明のセメント成形体補強用短繊維のアスペクト比が50未満であると、強度、靱性において繊維添加による補強効果が得られない場合がある。また、2000を超えると混練中に短繊維同士が絡んだり細かく折れたりしてセメント成形体フレッシュ時の流動性が低下し施工性を阻害したり、繊維添加による期待した補強効果が得られない場合が生じる。好ましくは該短繊維の単糸繊度は、0.75〜75dtex、アスペクト比は100〜1000である。
【0033】
また、上記セメント成形体補強用繊維の繊維混入率は目的に応じて選定することができ、0.01〜10.0容積%の範囲で使用することが好ましい。該繊維混入率が0.01容積%未満ではヒビ割れ抑制や強度、靱性付与が十分ではない場合があり、一方10.0容積%を超えると、繊維単糸同士が絡まりファイバーボールが生じたり、繊維の分散が不完全となり、セメント成形体のフレッシュ時の流動性が損なわれ、施工時の作業性を阻害するだけではなく、繊維混入率に見合う補強効果や靭性改善効果が得られなくなるので好ましくない。特に、該繊維混入率は、0.05〜5.0容積%であることが好ましい。
【0034】
ここで、本発明における繊維混入率(Vf:fiber volume fraction)は、次式で表される割合(容積%)である。
Vf=(V1/V2)×100
[式中、V1は繊維を含有したセメント成形体の単位体積(1,000リットル=1m)中に混入された補強用繊維の容積(リットル)を示し、V2はセメント成形体の単位容積(1,000リットル=1m)を示す]
【0035】
本発明のセメント成形体補強用繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、鋼繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維等の無機繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、ポリベンズオキサゾール(PBO)繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、塩化ビニル繊維、ポリケトン繊維、セルロース繊維、パルプ繊維等の有機繊維等を挙げることができ、これらの一種又は二種以上を組み合わせて、使用することができる。なかでもポリパラフェニレンテレフタラミドやコポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミド等のパラ型アラミドからなる繊維が他の繊維に比べて補強効果が大きいので好ましく、特にコポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミド短繊維は、高温高圧下強アルカリ性の雰囲気中に長時間保持してもその機械的特性の劣化が小さいので、高温高圧下での蒸気養生、例えば180℃、圧力約10Kg/cmの飽和水蒸気による条件下においても高い強力保持率を有するので好ましい。
【0036】
セメント成形体においては、上記材料のほかに、AE減水剤、高性能AE減水剤、収縮低減剤、凝結遅延剤、硬化促進剤、増粘剤、消泡剤、発泡剤、防錆剤、防凍剤、粘土鉱物系チクソ性付与材、着色剤、保水剤等の添加剤を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することができる。
【0037】
本発明のセメント成形体補強用繊維のセメント成形体材料への添加方法としては特に限定されるものではなく、例えば、モルタルやコンクリートなどの補強用として用いる場合には、予めセメントと細骨材、粗骨材等と本発明のセメント成形体補強用繊維をドライプレミックスとしたのちに練り混ぜ水を添加して混練する方法、または、セメントと細骨材、粗骨材等と練り混ぜ水を十分に撹拌したのち、最後に本発明のセメント成形体補強用繊維を添加して混練りする方法が挙げられる。
【0038】
本発明のセメント成形体補強用繊維を配合した材料の撹拌に用いる混練機としては、特に限定するものではないが、パン型ミキサー、可傾式ミキサー、オムニミキサー、ホバートミキサー、トラックミキサー等が挙げられる。
【0039】
本発明のセメント成形体補強用繊維を配合したセメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント成形体の用途は特に限定されるものではなく、一般の土木建築用途に適用できる。例えば、吹き付け成型、プレス成型、振動成型、遠心成型等により、法面補強、建築構造物の基礎など、幅広い用途を挙げることができる。二次製品成形物(ブロック、板状物、シート状物、テトラポット等)の製造についても、種々の成形法により行うことができる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
なお、実施例における各種の評価は、次のようにして測定した。
【0041】
(1)繊維長、繊度
JIS−L−1015に準拠して測定した。
【0042】
(2)繊維の糸/糸静摩擦係数(F/Fμs)
前記した方法で測定、算出した。
【0043】
(3)セメント、細骨材の粉体成分とセメント成形体補強用繊維のドライプレミックスによる繊維分散性評価方法
普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント株式会社製)700g、珪砂5号1400g、及びセメント成形体補強用繊維15gを、モルタルミキサー(株マルイ製、MIC−362型、容量:5L)を用いて140rpmの撹拌速度で約1分間混練して得られたドライプレミックス粉体中の繊維分散性について、繊維の絡まりが無く、かつファイバーボールが生じないときは良好とし、繊維の絡まりがあるか、もしくはファイバーボールが生じたものは不良とした。
【0044】
(4)補強用繊維添加モルタル中の繊維分散性とモルタルの流動性を示すフロー値の測定方法
上記で得られたセメント成形体補強用繊維添加ドライプレミックス粉体に水400gを添加し、モルタルミキサー(株マルイ製、MIC−362型、容量:5L)を用いて140rpmの撹拌速度で約3分間混練して得られたモルタル中の繊維分散性について、繊維の絡まりが無く均一に分散し、且つ施工時の作業を阻害しないときは良好とし、繊維の絡まりがあるか、もしくは施工時の作業を阻害するときは不良とした。次いで、JIS−R−5201に基づいてモルタルフロー試験を行い、このときの広がったモルタル円形の直径を、円形が歪んでいる場合は最短径と最長径の相加平均をフロー値する。フロー値が大きいほどモルタルの流動性が高いことを示すが、補強用繊維添加モルタルのフロー値が、繊維未添加モルタルのフロー値の80%以上であれば流動性が高く、80%より小さいと流動性が低いと判断する。ただし、最長径は最短径の1〜2倍の範囲内とし、2倍を超えると測定不能、流動性が低いと判断する。
【0045】
(5)補強用繊維添加モルタルの曲げ強度測定方法
上記で得たれたセメント成形体補強用繊維添加モルタルを、幅40mm×高さ40mm×長さ160mmの型枠に打設し、20℃、90%RHで材齢28日間養生して、曲げ強度測定用供試体を製造した。上記供試体を、3点曲げ測定法にしたがって測定した。すなわち、10トン用引張圧縮試験機(TOYO BALDWIN社製、UNIVERSAL TESTING INSTRUMENT MODEL UTM 10t)を用い、支点間距離10cmの中心を2mm/分の速度で圧縮し、応力の最高点より曲げ強度を求めた。また、曲げ応力−歪みの関係から供試体の破壊に必要な破壊エネルギーを算出し、曲げ強度12N/mm以上で且つ破壊エネルギー5kN/mm以上を良好とし、曲げ強度12N/mmまたは破壊エネルギー5kN/mm以下を不良とした。
【0046】
[実施例1]
アラミド繊維(帝人テクノプロダクツ株式会社製「テクノーラ」、単糸繊度1.7dtex、繊維本数1000本)を、ポリカルボン酸エーテル系アニオン性化合物(花王製「マイティ21LV」)/ポリプロピレングリコール(松本油脂製、数平均分子量=700)水溶液(配合重量比50/50、水溶液濃度15%)に浸漬した後、120℃で乾燥し、該処理剤付着量が3%の剤処理糸を作成し、繊維の糸/糸静摩擦係数(F/Fμs)を測定、算出した。上記で得られた剤処理糸を6mmにカットして補強用繊維とした。
【0047】
普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント株式会社製)700g、珪砂5号1400g、及び上記の補強用繊維15gを、モルタルミキサー(マルイ製、MIC−362型、容量:5L)を用いて140rpmの撹拌速度で約1分間混練して短繊維が添加されたセメント成形体を調整し、そのドライプレミックス時の繊維分散性、補強用繊維添加モルタルの繊維分散性とフレッシュ時の流動性、および曲げ強度と破壊エネルギーを評価した。結果を表2に示す。
【0048】
[実施例2〜5、比較例1〜8]
実施例1において、処理剤、処理剤の配合比、繊維への処理剤付着量を表1に示す通り変更して、繊維の糸/糸静摩擦係数(F/Fμs)の評価、セメント成形体補強用繊維を調整し、そのドライプレミックス時の繊維分散性、補強用繊維添加モルタルの繊維分散性とフレッシュ時の流動性、および曲げ強度と破壊エネルギーを評価し、結果を表2に示す。
【0049】
[実施例6]
実施例1において、セメント、珪砂と練り混ぜ水を添加して十分に撹拌したのち、最後に本発明のセメント成形体補強用繊維を添加して混練りする方法で行なった。その結果を表2に示す。
【0050】
[実施例7]
実施例1において、ポリプロピレングリコールの代わりにポリエチレングリコール(松本油脂製、数平均分子量1000)を使用した以外は同様の方法で行なった。その結果を表2に示す。
【0051】
本発明のセメント成形体補強用繊維は、短繊維間の平滑性が高く、セメント、細骨材等の粉体成分とのドライプレミックスにおいて良好な分散性が得られ、更に練り混ぜ水を添加してモルタルとしてもその分散性は変わらず良好であり、且つ施工を阻害しない流動性を維持している。また、繊維が均一に分散しているため、その補強効果も高いことが認められた。又ドライプレミックスを行なわない場合においても繊維は均一に分散し且つ良好なモルタル流動性が得られ補強効果も高いものであった。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0054】
セメントペースト、モルタル、コンクリートなどのセメント成形体材料の混練時に、練り混ぜ水を含む場合だけではなく、練り混ぜ水を含まないドライブレンドの場合でも、機械的な攪拌を長時間行うことなく、短時間で解繊、均一分散することができるので、軽量高強度セメント成形体用途として有用である。
【符号の説明】
【0055】
1:プーリー
2:Uゲージ
3:繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカルボン酸エーテル系アニオン性化合物とポリアルキレングリコールから成る処理剤が付与された短繊維で、かつ該処理剤の全付着量が固形分比で0.5〜20重量%付与されていることを特徴とするセメント成形体補強用繊維。
【請求項2】
繊維の糸/糸静摩擦係数(F/Fμs)が0.4以下であることを特徴とする請求項1記載のセメント成形体補強用繊維。
【請求項3】
短繊維の単糸繊度が0.5〜100dtexであり、かつ短繊維のアスペクト比が50〜1000であることを特徴とする請求項1および2記載のセメント成形体補強用繊維。
【請求項4】
短繊維がコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維であることを特徴とする請求項1、2および3に記載のセメント成形体補強用繊維。

【図1】
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【公開番号】特開2010−275156(P2010−275156A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130474(P2009−130474)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】