説明

セメント用収縮低減剤

【課題】凍結融解抵抗性を有し、収縮低減効果の高いセメント、コンクリート用収縮低減剤および収縮低減剤組成物を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表される、アルケニルフェノールの1種又は2種以上にアルキレンオキサイドを付加した化合物を含有することを特徴とするものであって、アルケニルフェノールがカルダノールである凍結融解抵抗性、収縮低減性に優れるセメント用収縮低減剤および収縮低減剤組成物。


(式中、Rは炭素数13〜17のアルケニル基を表し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表し、nは1〜100の整数であって、n個のAOは同一であっても異なっていてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なセメント、コンクリート用収縮低減剤に関する。更に詳しくは、凍結融解抵抗性を有する、収縮低減効果の高いセメント、コンクリート用収縮低減剤および収縮低減剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
硬化コンクリートは、水とセメントとの反応よりなる水硬性組成物であり、その硬化過程において水分の蒸発または水和に伴う水分の損失が生じ、コンクリートが収縮する。硬化コンクリートの収縮は部材内でのひずみを生じ、やがては部材面でのひび割れを生じ、漏水等によるコンクリート構造物の劣化を促進し、ひいては構造的欠陥に繋がる可能性もある。この対策として、収縮低減剤を使用することにより解決する方法がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、炭素数1〜4の低級アルコールのアルキレンオキサイド付加物をセメント用収縮低減剤として使用することが記載されている。また、特許文献2には、フェノール又はアルキルフェノールのアルキレンオキサイド付加物をセメント用乾燥収縮低減剤として使用することが記載されている。一般的に、これら収縮低減剤はセメントに対する添加量を多く必要とし、これら化合物は収縮を抑制する反面、寒冷地で重要とされるコンクリートの凍結融解抵抗性を低くしてしまうなど、コンクリート硬化体としての物性を悪くすることが最近わかり始めてきた。また、臭気、乾燥に伴う重量損失の問題などもあり改善が望まれていた。
【0004】
一方、比較的高分子量若しくはアルキル側鎖の長いポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルなどは収縮低減効果が高いが、界面活性も強くなるため、消泡、発泡などの抑制が困難になり、実用的には使用されていないのが現状であった。特許文献3には、2−エチルヘキサノールのプロピレンオキサイド付加物をセメント水硬物の耐久性改善剤として使用することが記載されている。
【特許文献1】特公昭56−51148号公報
【特許文献2】特公昭62−10947号公報
【特許文献3】特許2825855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、凍結融解抵抗性を有する、収縮低減効果の高いセメント、コンクリート用収縮低減剤および収縮低減剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を達成するために鋭意検討を行った結果、上記課題の解決に適したセメント、コンクリート用収縮低減剤を見いだし、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は、下記一般式(1)で表される、アルケニルフェノールの1種または2種以上にアルキレンオキサイドを付加した化合物を含有することを特徴とするセメント用収縮低減剤である。
【0007】
【化2】

(式中、Rは炭素数13〜17のアルケニル基を表し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表し、nは1〜100の整数であって、n個のAOは同一であっても異なっていてもよい。)
【0008】
本発明の好ましい態様として、前記アルケニルフェノールの1種または2種以上がカルダノールであるセメント用収縮低減剤がある。
【0009】
また、前記セメント用収縮低減剤に加え、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンジアルキルエーテル、ポリオキシアルキレングリコールからなる群より少なくとも1種以上とを含んでなるセメント用収縮低減剤組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
前記一般式(1)において、Rは炭素数13〜17のアルケニル基を表す。Rの構造には特に限定はないが、不飽和結合数は1以上であればよく、直鎖構造であってもまた分岐構造であってもよい。
【0011】
前記一般式(1)で表される化合物はどのような方法で製造されたものであってもよい。通常は、アルケニルフェノールの1種又は2種以上に塩基性触媒下アルキレンオキサイドを付加する方法で得ることが出来る。
【0012】
前記アルケニルフェノールには、工業的に製造された純品又は複数種の混合物のほか、植物等の天然物から抽出・精製された純品又は複数種の混合物として存在するものも含まれる。例えば上記カシューナッツ殻等から抽出され、カルダノールと総称される、3−[8(Z),11(Z),14−ペンタデカトリエニル]フェノール、3−[8(Z),11(Z)−ペンタデカジエニル]フェノール、3−[8(Z)−ペンタデセニル]フェノール、3−[11(Z)−ペンタデセニル]フェノールや、いちょうの種子および葉、ヌルデの葉等から抽出される3−[8(Z),11(Z),14(Z)−ヘプタデカトリエニル]フェノール、3−[8(Z),11(Z)−ヘプタデカジエニル]フェノール、3−[12(Z)−ヘプタデセニル]フェノール、3−[10(Z)−ヘプタデセニル]フェノール等が挙げられる。これらの中で、分解性が良好であるカルダノールが好適に使用できる。
※出典:独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)ホームページ
【0013】
前記一般式(1)において、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表すが、具体的にはオキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基が挙げられる。nは1〜100の整数であって、アルキレンオキサイドの付加モル数を示す。本願に係る所望の性能を得る点でnは3〜50であれば好ましく、5〜40であればより好ましい。n個のAOは同一であっても異なっていてもよく、異なる場合はブロック付加、ランダム付加のいずれであってもよいが、水に対する溶解性を高め、起泡性を低くする観点から、より好ましくは(AO)n構造中に含まれるオキシエチレン基を40〜90重量%とし、オキシプロピレン基またはオキシブチレン基を10〜60重量%とするのがよい。
【0014】
また、前記一般式(1)で表される化合物に配合されうる化合物としては、炭素数1〜8のアルキルまたはアルケニル基を有し、かつ、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドの平均付加モル数が1〜20モルのポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル類、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドの平均付加モル数が1〜20モルのポリオキシアルキレングリコール類、炭素数1〜8のアルキルまたはアルケニル基を有し、かつ、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドの平均付加モル数が1〜20モルのポリオキシアルキレンジアルキルエーテル類などの汎用的に使用される収縮低減剤が挙げられ、配合比は重量比で(前記一般式(1)で表される化合物):(上記汎用の収縮低減剤)=50:50〜99:1の割合で、好ましくは70:30〜99:1である。
【0015】
本発明のセメント用収縮低減剤の添加量はコンクリートの設計配合などにより異なるが、対セメント重量比で3〜0.1重量%を添加することで効果が得られる。但しコンクリートの材料、配合条件により異なるので本発明のセメント用収縮低減剤及び収縮低減剤組成物の添加量はこれに限定されるものではない。
【0016】
本発明に係るセメント用収縮低減剤には、前記一般式(1)で表される化合物のみから構成される態様の他、混和剤と配合された状態での態様をも包含する。配合され得る混和剤としては、高性能AE減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、減水剤、AE剤、起泡剤、消泡剤、養生剤等々が挙げられ、高性能AE減水剤等の各種減水剤類との配合、養生剤との配合、生コンクリート製造時の水への添加方法、硬化コンクリートの表面への塗布方法など様々な使用場面においてその効果を発現する。
【0017】
使用されるコンクリート種等も特に限定はなく、各種セメント、コンクリート製品、生コンクリート、軽量コンクリートなどに使用できる。
【実施例】
【0018】
次に実施例により本発明を更に詳しく説明する。
製造例1
カルダノール(3−[8(Z),11(Z),14−ペンタデカトリエニル]フェノール 31重量%、3−[8(Z),11(Z)−ペンタデカジエニル]フェノール 20重量%、3−[8(Z)−ペンタデセニル]フェノール 45重量%の混合物。商品名;Distilled Cashew Nut Shell Liquid(インド、SATYA CASHEW CHEMICALS社製。以下同様)を1000mlオートクレーブに300g及び水酸化カリウム0.7gを仕込み、系内を窒素置換した後120℃に昇温し、次いで系内を50mmHgの減圧にして1時間減圧脱水した。減圧脱水終了後、系内を窒素により常圧に戻し、150℃に昇温した後、この温度を保ちながらエチレンオキサイド439gをゲージ圧力0.2〜0.4MPaの加圧下で2時間かけて反応系内に導入しカルダノールのエトキシ化反応を行った。エチレンオキサイド送入終了後、さらに同温度で1時間熟成を行い、冷却後酢酸0.44gで中和してカルダノールエチレンオキサイド付加物740gを得た。得られたカルダノールエチレンオキサイド付加物の、カルダノールに対するエチレンオキサイドの平均の付加モル数(以下、単にエチレンオキサイド付加モル数と略称する)は10.0である。
【0019】
製造例2
カルダノール210g、エチレンオキサイド369g、更にプロピレンオキサイド162gを反応させた以外は製造例1と同様に反応を行いカルダノールエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド付加物741gを得た。エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド付加モル数は12.0/4.0であり、2種類のアルキレンオキサイドの付加の形態はブロック付加であった。
【0020】
製造例3
カルダノールのかわりにカルダノール10EO付加物260gを用い、エチレンオキサイド154g、更にプロピレンオキサイド326gを反応させた以外は製造例1と同様に反応を行いカルダノールエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド付加物740gを得た。エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド付加モル数は20.0/16.0であり、2種類のアルキレンオキサイドの付加の形態はブロック付加であった。
【0021】
【表1】

【0022】
実施例(モルタル試験)
本発明品のセメント、コンクリート収縮低減剤及び収縮低減剤組成物を用いて、JIS R 5201に規定されている要領にてモルタルを調製し、そのフロー値と空気量を測定した。尚、モルタルの空気量は7〜9%となるように、適宜AE剤と消泡剤にて調製した。実施例及び比較例化合物は練り水と共にセメントに対して一律2重量%の添加量として試験を行った。モルタルの練り混ぜにはホバートミキサーを使用し、はじめに水とセメントを低速で30秒間練り混ぜたのち、砂を投入し低速で30秒練り混ぜる。その後高速で30秒練り混ぜたのちに撹拌を停止し、90秒間静置する。尚、静置開始から15秒間で容器の壁に付着したモルタルを掻き落とす。静置後、高速で60秒練り混ぜを行い、各項目の測定を実施した。ここで、フローの測定にはJISコーンを使用し、空気量の測定には、全重量方式を採用し、メスシリンダーを用いて測定した。空気量の算出式を以下に示す。

【0023】
また、収縮低減率の測定においては、次に示す通りにモルタルの供試体を作製した。下記表2に示す配合の組成物を充分に混練してモルタルを調製し、JIS R 5201に従い、4×4×16cmの型枠に充填した。硬化後の供試体は24時間後に脱型し、その後1週間の水中養生(20℃)を行った。水中養生終了後、JIS A 1129−2記載のコンタクトゲージ方法にて供試体の寸法を測定し、これを基準値とした。その後、供試体を温度20℃、湿度60%の条件にて保存し、材齢28日及び56日に再度供試体の寸法を測定し、長さ変化率を算出した。収縮低減率は、実施例及び比較例の長さ変化率と収縮低減剤を使用していないブランクモルタル供試体の長さ変化率を用い、下記式により算出した。尚、収縮低減率が大きい実施例程、収縮を抑制できているということである。

【0024】
凍結融解抵抗性の測定においては、JIS A 1148 A法を参考にした簡易法を採用し、次に示す要領にて行った。供試体の作製については上記収縮低減率の測定と同様の方法にて行い、水中養生終了後、表面の水分を軽く拭き取ったあとに供試体質量を測定し、+20℃〜−20℃の温度範囲で温度を上下させ凍結と融解を繰り返し1回の凍結と融解を1サイクルとし、1日2サイクル、計60サイクルの凍結融解試験を行った。試験終了後、供試体の表面の水分を軽く拭き取り、質量を測定した。各実施例の凍結融解試験に対する抵抗性の優劣は、下記式により質量減少率を求めることにより評価した。ここで求める質量減少率が小さい実施例ほど、凍結融解に対する抵抗性が高いということになる。

【0025】
試験に使用したモルタルの配合を以下に示す。
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
本発明により、従来の化合物よりも優れた収縮低減効果及び凍結融解抵抗性を有するセメント用収縮低減剤を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される、アルケニルフェノールの1種又は2種以上にアルキレンオキサイドを付加した化合物を含有することを特徴とするセメント用収縮低減剤。

(式中、Rは炭素数13〜17のアルケニル基を表し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表し、nは1〜100の整数であって、n個のAOは同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記アルケニルフェノールの1種または2種以上がカルダノールである請求項1に記載のセメント用収縮低減剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のセメント用収縮低減剤に加え、さらにポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンジアルキルエーテル、ポリオキシアルキレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでなるセメント用収縮低減剤組成物。





【公開番号】特開2010−58993(P2010−58993A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224011(P2008−224011)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000221797)東邦化学工業株式会社 (188)
【Fターム(参考)】