説明

セメント硬化体の製造方法及びセメント硬化体

【課題】カーボンナノチューブを好適に分散させてセメント硬化体を高強度化することを可能にしたセメント硬化体の製造方法及びセメント硬化体を提供する。
【解決手段】少なくともセメント2とカーボンナノチューブ1と水を混合してなるセメント硬化体4を製造する方法であって、セメント2とカーボンナノチューブ1を乾式条件で混合し、凝集状態のカーボンナノチューブ1を解砕しつつセメント粒子2の表面にまとわり付かせた混合体3を形成し、この混合体3に少なくとも水を混合してセメント硬化体4を製造するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント硬化体の製造方法及びセメント硬化体に関し、特にカーボンナノチューブを混合してセメント硬化体を製造する方法及びその製造方法で製造したセメント硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、その導電性の高さや強度物性の高さなどから、ナノテクノロジーのキーマテリアルとして注目を集め、エレクトロニクス分野、エネルギー分野、化学分野、医療分野など、あらゆる技術分野でその用途が検討されている。一方で、カーボンナノチューブを適用する際には、その繊維状の形態で、通常、強く凝集した不定形の状態で存在するため、また、表面が疎水的性質を有しているため、溶液や複合材料中でカーボンナノチューブを均一に分散させる制御が重要であり、各種溶媒や樹脂成分との親和性を向上させることが不可欠となる(非特許文献1、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
また、カーボンナノチューブは、機械的強度に優れ、高張力鋼の20倍に匹敵する45GPaもの引張強度を有し、ヤング率で1.8Tpaを示す。このようなカーボンナノチューブをセメント硬化体中に均一に分散させ、硬化組織をナノメートルオーダーのファイバー状物質で補強することができれば、カーボンナノチューブ自体の高強度物性に起因して、セメント硬化体の超高強度化が可能になる。このため、コンクリート等のセメント硬化体にカーボンナノチューブを適用することも検討されている。
【0004】
このようにセメント硬化体にカーボンナノチューブを適用する場合においても、カーボンナノチューブを均一に(略均一に)セメント硬化体中に分散させる技術が不可欠である。そして、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4には、カーボンナノチューブと例えば普通ポルトランドセメントなどのセメントをエタノールやイソプロピルアルコール中で数時間超音波照射して、カーボンナノチューブを分散させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−239531号公報
【特許文献2】特開2005−119930号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】技術情報協会編、「カーボンナノチューブの合成・評価,実用化とナノ分散・配合制御技術」、技術情報協会、2003年、p.161−171
【非特許文献2】Makar J. , Margeson J. and Luh J. : 1st International Symposium on Nanotechnology in Construction , pp.331-341(2003)
【非特許文献3】Makar J. , Margeson J. and Luh J. : 3rd International Conference on Construction Materials : Performance, innovations and structural implications , pp.1-10(2005)
【非特許文献4】Makar J. and Chan G. : Journal of the American Ceremic Society , 92 , (6) , pp.1303-1310(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、カーボンナノチューブとセメントをエタノールやイソプロピルアルコール中で数時間超音波照射してカーボンナノチューブを分散させる技術においては、セメント粒子の表面にカーボンナノチューブが付着することでその水和硬化物も超音波の照射とともに徐々に一様になるようであるが、数時間もの間超音波を照射することは、エネルギー的にも非実用的であるとともに、セメントの水和反応を阻害するおそれがある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、カーボンナノチューブを好適に分散させてセメント硬化体を高強度化することを可能にしたセメント硬化体の製造方法及びセメント硬化体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0010】
本発明のセメント硬化体の製造方法は、少なくともセメントとカーボンナノチューブと水を混合してなるセメント硬化体を製造する方法であって、セメントとカーボンナノチューブを乾式条件で混合し、凝集状態のカーボンナノチューブを解砕しつつセメント粒子の表面にまとわり付かせた混合体を形成し、該混合体に少なくとも水を混合してセメント硬化体を製造するようにした。
【0011】
本発明のセメント硬化体は、上記のセメント硬化体の製造方法を用いて製造したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のセメント硬化体の製造方法及びセメント硬化体においては、セメントとカーボンナノチューブを乾式条件で混合することによって、凝集状態のカーボンナノチューブを解砕しながらセメント粒子の表面にまとわり付かせることができ、セメント粒子を核としてカーボンナノチューブがその周りに毛糸玉のような状態で一体にまとわり付いた複合粒子状態の混合体を形成することができる。
【0013】
そして、このように形成した混合体を水や骨材などと混合してセメント硬化体を調製(製造)することで、カーボンナノチューブを均一(略均一)に分散させたセメント硬化体を得ることが可能になる。すなわち、カーボンナノチューブを含んでいることにより、且つこのカーボンナノチューブが均一に分散されていることにより、確実且つ好適に高強度化したセメント硬化体を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る混合体(セメント粒子とカーボンナノチューブの複合粒子)を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るセメント硬化体を示す図である。
【図3】セメント粒子とカーボンナノチューブを混合して混合体を形成するための混合装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図1から図3を参照し、本発明の一実施形態に係るセメント硬化体の製造方法及びセメント硬化体について説明する。
【0016】
はじめに、本実施形態は、カーボンナノチューブとセメント粒子を乾式条件で均一(略均一含む)に混合し、この混合体を水と反応させてセメント硬化体を製造する方法及びそのセメント硬化体に関するものである。
【0017】
すなわち、図1及び図2に示すように、本実施形態では、カーボンナノチューブ1の凝集状態を解砕し、セメント粒子2の表面にカーボンナノチューブ1(解砕したカーボンナノチューブ)をまとわり付かせ、セメント粒子2を核としてカーボンナノチューブ1がその周りに毛糸玉のような状態で一体にまとわり付いた複合粒子の混合体3を形成する。そして、この混合体3を使用し、水や骨材、混和剤(混和材)などと混合してセメント硬化体4を調製(製造)することで、カーボンナノチューブ1を均一に分散させたセメント硬化体4を得る。
【0018】
より具体的に、本実施形態では、カーボンナノチューブ1とセメント粒子2を乾式条件で均質に混合する手段として、例えば、奈良機械製作所製のハイブリダイザー(高速気流中衝撃法)や、ホソカワミクロン製のメカノフュージョン、アーステクニカ製のクリプトロンオーブ等の混合装置を使用する。
【0019】
図3に示すように、例えばハイブリダイザー(混合装置5)を使用して、上記のセメント粒子2を核としてカーボンナノチューブ1が一体にまとわり付いた混合体3を形成する場合には、セメント2とカーボンナノチューブ1を投入口から装置5内に投入する。このとき、混合量は、重量比で、セメント:カーボンナノチューブ=1:0.001〜0.1にすることが好ましい。また、セメント2とカーボンナノチューブ1を、例えばポリエチレン袋など、樹脂製の袋内で予め軽く混ぜておくことが好ましい。
【0020】
そして、ローターの外周速度を50〜120m/秒の範囲とし、3分〜60分間の混合処理を行なう。このとき、予めローターを回転させた後に、セメント2とカーボンナノチューブ1を装置5内に投入することが好ましい。
【0021】
また、処理中は、ジャケットに通水するなどして冷却し、処理雰囲気を低温にする。さらに、装置5内に通常の大気に代えて不活性ガスを供給し、処理中の装置5内を不活性雰囲気にするようにしてもよい。なお、不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどが挙げられる。そして、このように処理中の装置5内を不活性雰囲気にすることで、セメント2の水和活性の低下を抑制することができる。
【0022】
また、処理後は、排出弁を開いて装置5内から排出して、セメント2とカーボンナノチューブ1を複合化した混合体3を得る。そして、この混合体3と、水や骨材などを混合し、ペースト、モルタル、コンクリートのセメント硬化体4を製造する。
【0023】
このように製造した本実施形態のセメント硬化体4は、カーボンナノチューブ1が均一に分散されている。このため、カーボンナノチューブ1によってセメント水和物の組織が補強され、高い引張強度の発現が期待できる。さらに、上記の処理を行なうことで、セメント粒子2が球状に変形する効果も期待できる。すなわち、セメント粒子2が球状になることで、流動性に優れ、練り混ぜに要する水量の削減が可能になり、水密性に優れ、水和硬化体の組織が緻密となって高強度化を図ることが可能になる。
【0024】
したがって、本実施形態のセメント硬化体の製造方法及びセメント硬化体においては、セメント2とカーボンナノチューブ1を乾式条件で混合することによって、凝集状態のカーボンナノチューブ1を解砕しながらセメント粒子2の表面にまとわり付かせることができ、セメント粒子2を核としてカーボンナノチューブ1がその周りに毛糸玉のような状態で一体にまとわり付いた複合粒子状態の混合体3を形成することができる。
【0025】
そして、この混合体3を水や骨材などと混合してセメント硬化体4を調製することによって、カーボンナノチューブ1を均一に分散させたセメント硬化体4を得ることが可能になる。すなわち、カーボンナノチューブ1を含んでいることにより、且つこのカーボンナノチューブ1が均一に分散されていることにより、確実且つ好適に高強度化したセメント硬化体4を得ることが可能になる。
【0026】
以上、本発明に係るセメント硬化体の製造方法及びセメント硬化体の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 カーボンナノチューブ
2 セメント粒子(セメント)
3 混合体(複合粒子)
4 セメント硬化体
5 混合装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともセメントとカーボンナノチューブと水を混合してなるセメント硬化体を製造する方法であって、
セメントとカーボンナノチューブを乾式条件で混合し、凝集状態のカーボンナノチューブを解砕しつつセメント粒子の表面にまとわり付かせた混合体を形成し、該混合体に少なくとも水を混合してセメント硬化体を製造するようにしたことを特徴とするセメント硬化体の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のセメント硬化体の製造方法を用いて製造したことを特徴とするセメント硬化体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−86275(P2013−86275A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225910(P2011−225910)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】