説明

セメント系硬化材パネル及びそれを使用した盛土表面の壁面構造

【課題】薄く軽量であって、且つ鉄筋の腐食の問題がなく、人力で運搬・設置が可能であるセメント系硬化材パネルと、それを使用した盛土表面の壁面構造を提供する。
【解決手段】セメント系硬化材パネル1の厚みの中に、多数本の合成樹脂繊維を絡ませた補強素材2を配する。表裏面のうち少なくとも一方側の表面には、補強材料6を貼付してなる、表裏面のうち一方側の表面から、控え材7を伸ばす。盛土表面側に鋼製壁面枠9を複数段に積み上げ、その鋼製壁面枠9の背後に盛土10を行うとともに、盛土10表面に沿って、水平方向に連続する通り調整材11を取付ける。パネル1を、鋼製壁面枠9に添わして配設するとともに、控え材7を通り調整材11から盛土10の上に伸ばして押える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主として、建築・土木の分野で使用するセメント系硬化材パネルに関するものであって、特に新素材を使用して薄く成形したセメント系硬化材パネル及びそれを使用した盛土表面の壁面構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
斜面保護のためなどの盛土構造において、盛土表面を覆う構造としては、盛土の表面に沿ってコンクリートブロックやコンクリートパネルを配置する構造が広く採用されている。
例えば特開2008−133682号公報に記載されているように、盛土表面から離れてプレキャストコンクリートパネルを設置し、上下のパネル間に緊張ロッドを貫通させてグラウト材を注入して固定し、背後にはアンカー材を伸ばして、繰り返し盛土するという施工を行うものである。
【0003】
上記したような盛土構造の施工では、コンクリートブロックやパネルが背後の盛土圧に耐えるための剛構造であるため、極めて厚く、重量の重いものとなり、重機によって運搬・設置を行う必要がある。
また上下のブロックやパネルの連結や、背後の盛土との定着にも煩雑で工程の多い工事が要求される。
このために、従来の剛構造のブロックやパネルの代わりとなる軽量で、人力で運搬・設置が可能であって、施工の容易なパネルが求められていた。
【0004】
しかしながら他方、従来のコンクリートパネルは、補強材として内部に鉄筋を配していたが、軽量にするために薄いものとするということは、鉄筋のかぶりも薄くなるということを意味している。
かぶりが薄くなるということは、内部の鉄筋の腐食の危険性が出てくるため、薄くするには限界が生じてくる。
【特許文献1】特開2008−133682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする課題は、薄く軽量であって、且つ鉄筋の腐食の問題がなく、人力で運搬・設置が可能であるセメント系硬化材パネルと、それを使用した盛土表面の壁面構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかるセメント系硬化材パネルは、
多数本の合成樹脂繊維を絡ませた補強素材を、厚みの中に配してある。
本発明にかかる他のセメント系硬化材パネルは、
表裏面のうち少なくとも一方側の表面には、補強材料を貼付してある。
本発明にかかる他のセメント系硬化材パネルは、
表裏面のうち一方側の表面から、控え材を伸ばしてある。
更に、本発明にかかる他のセメント系硬化材パネルは、
前記した控え材が、補強材料の一部を伸ばしたものである。
【0007】
本発明にかかる盛土表面の壁面構造は、
盛土表面に配置して盛土を覆う壁面構造であって、
盛土表面側に鋼製壁面枠を複数段に積み上げ、その鋼製壁面枠の背後に盛土を行うとともに、
盛土表面に沿って、水平方向に連続する通り調整材を取付け、
裏面側に控え材を取り付けたセメント系硬化材パネルを、鋼製壁面枠に添わして配設するとともに、
裏面の控え材を通り調整材から盛土の上に伸ばして、その上の盛土によって控え材を押えるものである。
本発明にかかる他の盛土表面の壁面構造は、
セメント系硬化材パネルは、上下に複数段積み上げ、上方の段のセメント系硬化材パネルの下端部が、下方の段のセメント系硬化材パネルの上端部表面側と重なっている。
【発明の効果】
【0008】
本発明は以上のような構成より成り、以下の効果を得ることができる。
<a>セメント系硬化材の補強素材として、多数本の合成樹脂繊維を絡ませたものを使用するため、鉄筋の腐食の問題は全く生ぜず、薄くすることによってかぶりが小さくなることを考慮する必要が全く無い。
<b>多数本の合成樹脂繊維を絡ませた補強素材を、パネルの厚みの中に埋め込むため、補強素材がセメント系硬化材を繋ぐ役目を果たし、折れや欠けの問題が生じ難い。
<c>かぶり厚を考慮する必要がなく、極薄く成形できるため、軽量で、人力で運搬・設置が可能で、施工が著しく容易となる。
<d>補強素材として使用するのが合成樹脂繊維である補強素材であって、製造費を安価にできる。
<e>表裏面のうち少なくとも一方側の表面に補強材料を貼付することによって、更にパネルに折れやひび割れが生じないようにできる。
<f>表裏面のうち一方側の表面から、控え材を伸ばすことによって、この控え材を盛土中に伸ばし、それを押えることによって簡単にパネルを盛土表面に定着・設置できる。
<g>控え材を、補強材料の一部を伸ばしたものとすることにより、控え材のパネルへの固定手間を簡単に出来る。
<h>薄形であるため、必要寸法に自由に切断することも可能である。
<i>盛土表面に沿って、水平方向に連続する通り調整材を取付け、裏面側に控え材を取り付けたセメント系硬化材パネルを、鋼製壁面枠に添わして配設するとともに、裏面の控え材を通り調整材から盛土の上に伸ばして、その上の盛土によって控え材を押えることにより、隣り合うパネルを正確に揃えて設置でき、その施工も人力によって容易に行える。
<j>セメント系硬化材パネルは、上下に複数段積み上げ、上方の段のセメント系硬化材パネルの下端部が、下方の段のセメント系硬化材パネルの上端部表面側と重なることにより、盛土の沈下があっても、その沈下分を重なり部分が吸収し、外観が悪くなることがない。
【実施例1】
【0009】
以下、図に示す実施例に基づき、本発明を詳細に説明する。
<1> 補強素材
本発明のセメント系硬化材パネル1は、内部に埋設する補強素材2として、多数本の合成樹脂繊維3を絡ませたものを使用する。
使用する合成樹脂としては様々なものが使用できるが、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂を押し出して、複雑に絡ませたものなどが使用可能である。
絡ませるとは、曲がりくねった繊維同士が複雑・多重に絡み合う状態であり、例えば、乾燥したヘチマの繊維が複雑に絡んでいるような状態と似ている。
合成樹脂繊維としては、数百ミクロンから数mm程度の太さを有するものが、ある程度の剛性を備えていて、補強素材として好適である。
【0010】
<2> セメント系硬化材
実施例では、セメント系硬化材4としてモルタルを使用するが、セメントミルクやコンクリートも使用可能である。
前記した補強素材2を、型枠5の中に敷き詰める。
補強素材2の厚みは、成形するパネルの厚みよりも若干薄くなっている。
つまりは、型枠5にセメント系硬化材4を充填したとき、パネル1の仕上がり面よりも5〜10mm程度低くなるような厚みとしている。
セメント系硬化材4を型枠5に流し込んだ後、テーブルに振動を与えて、合成樹脂繊維の間に硬化材4が密に入り込むようにする。
型枠5としては、底面に凹凸模様などを有する化粧面板を使用することも可能である。
つまりは、型枠5に硬化材4を流しこんだとき、底面側がパネル1の表面側となり、上面側が、パネル1の裏面側となる。
以上のようにして成形した実施例のパネル1は、厚みが10〜20mmであって、その平面の縦横の長さは、700mm×900mmである。
以上記載した数値はあくまで例示であって、本発明にかかるセメント系硬化材パネル1は、様々なサイズのパネル1とすることが可能である。
【0011】
<3> 補強材料
型枠5に振動を与えた後、未だ乾き切らないセメント系硬化材4の上面、つまりはパネル1としては、盛土側に向く裏面側に、補強材料6を貼付する。
補強材料6としては、不織布、織布、メッシュ布などが使用可能であるが、その他、木板や合成樹脂板なども使用可能である。
実施例では、補強材料6として不織布を使用し、パネル1の上部と下部には別の不織布を貼付している。
下部の補強材料6は、パネル1の上下中間よりも若干上まで貼付し、そこから背面側に補強材料6の一部を長く伸ばして、それを後に述べる控え材7としている。
補強材料6の接着には、硬化材4の接着力でなく、別途接着剤を使用して接着することも可能である。
この補強材料6と控え材7とは、ストック時や運送時に緩衝材の役割も果たすもので、図6に示すように控え材7部分をパネル1に巻きつけるようにする。
【0012】
<4> 控え材
控え材7は、盛土の中に伸ばしてパネル1を定着する部材であって、前記したように補強材料6の一部を背面側に伸ばしてもよいが、補強材料6とは別体の部材を使用し、補強材料6の表面に貼付してもよい。
図5に示すように、パネル1内に一端を埋設して、残りを背面側に伸ばしたベルト状の部材も使用可能である。
【0013】
<5> 盛土表面
以上のようなセメント系硬化材パネル1を使用して、盛土表面に壁面構造を構築する場合について説明する。
10cm程度の間隔ごとに鉄筋8を縦横に配することによって網状に組んで、それをL形に屈曲した鋼製壁面枠9を設置し、その背後に盛土10を盛る。
しかしながら、鉄筋8の間隔が比較的大きいため、鋼製壁面枠9の起立した面30cmと底面側の奥行き50cmを覆い、更に盛土10したときにその上面の奥行き50cm程度とを、断面コ字状に覆う内壁シート16を配してある。
実施例では、内壁シート16として不織布を使用している。
その盛土10の上に鋼製壁面枠9を設置し、その背後に更に盛土10する。
【0014】
<6> 通り調整材
鋼製壁面枠9の上端部に、水平に通り調整材11を取り付ける。
通り調整材11は断面L形の部材であって、水平面とその盛土表面側に下方に垂下する面とから成っている。
この通り調整材11の幅方向に長い長孔13に、鋼製壁面枠9の鉄筋8に繋いだ寸切りボルト14を通し、その螺合したナット15・15によって通り調整材11を上下から挟んで固定してある。
場合によっては、鋼製壁面枠9の鉄筋8のうち、一部の幾本かを他の鉄筋8よりも上方に突出させ、その突出させた鉄筋8の周囲にネジ切りを施し、それを寸切りボルト代わりに使用して通り調整材11の長孔13に通し、鉄筋8に螺合したナット15・15によって通り調整材11を上下から挟んで固定することも考えられる。
【0015】
<7> パネルの設置
セメント系硬化材パネル1の背面側を、通り調整材11の表面側に接し、控え材7を通り調整材11の水平面と同じ高さに維持した状態で、背後の盛土10の上に敷き伸ばす。
控え材7の上に土砂を載せて押えるなり、盛土10して押え、パネル1を定着する。
【0016】
<8> パネルの積み上げ
下段のパネル1の設置の後、前記した鋼製壁面枠9の設置、盛土10を繰り返し、適宜位置に通り調整材11を取り付ける。
前記した手順で、再びパネル1の設置・定着を行うが、上段となるパネル1の下端部は、下段のパネル1の表面側上端部と重なるようにする。
このように上段のパネル1と下段のパネル1とを重ねることで、ヨロイ壁のような趣をかもし出すとともに、上段のパネル1の下端面と下段のパネル1の上端面とを突き合わせるという施工の困難性を回避できる。
また、背後の盛土が経年変化によって沈下したとき、上段と下段のパネル1の重なり代によって沈下量を吸収でき、外観が悪くならないという効果も得られる。
【0017】
<9> 盛土補強材
図において12は、ジオテキスタイルなどの盛土補強材であって、盛土の適宜位置に挟み込んでいる。
【実施例2】
【0018】
図5に示すのは控え材11の他の実施例であって、パネル1内に一端を埋設して、残りを背面側に伸ばしたベルト状の部材である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】セメント系硬化材パネルの斜視図
【図2】型枠にて成形状態の斜視図
【図3】セメント系硬化材パネルの設置状態の斜視図
【図4】盛土表面の壁面構造の断面図
【図5】セメント系硬化材パネルの他の実施例の斜視図
【図6】パネルを積み重ねた状態の側面図
【符号の説明】
【0020】
1:セメント系硬化材パネル
2:補強素材
3:合成樹脂繊維
4:セメント系硬化材
5:型枠
6:補強材料
7:控え材
8:鉄筋
9:鋼製壁面枠
10:盛土
11:通り調整材
12:盛土補強材
13:長孔
14:寸切りボルト
14:ナット
16:内壁シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数本の合成樹脂繊維を絡ませた補強素材を、厚みの中に配してなるセメント系硬化材パネル。
【請求項2】
表裏面のうち少なくとも一方側の表面には、補強材料を貼付してなる、
請求項1に記載のセメント系硬化材パネル。
【請求項3】
表裏面のうち一方側の表面から、控え材を伸ばしてなる、
請求項1又は2記載のセメント系硬化材パネル。
【請求項4】
前記した控え材が、補強材料の一部を伸ばしたものであることを特徴とする、
請求項3記載のセメント系硬化材パネル。
【請求項5】
盛土表面に配置して盛土を覆う壁面構造であって、
盛土表面側に鋼製壁面枠を複数段に積み上げ、その鋼製壁面枠の背後に盛土を行うとともに、
盛土表面に沿って、水平方向に連続する通り調整材を取付け、
裏面側に控え材を取り付けたセメント系硬化材パネルを、鋼製壁面枠に添わして配設するとともに、
裏面の控え材を通り調整材から盛土の上に伸ばして、その上の盛土によって控え材を押えることを特徴とする、
盛土表面の壁面構造。
【請求項6】
セメント系硬化材パネルは、上下に複数段積み上げ、上方の段のセメント系硬化材パネルの下端部が、下方の段のセメント系硬化材パネルの上端部表面側と重なることを特徴とする、
請求項5記載の盛土表面の壁面構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−150777(P2010−150777A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328246(P2008−328246)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000201490)前田工繊株式会社 (118)
【Fターム(参考)】