セメント系組成物
【課題】擬似ポリマーが均質な状態で形成され、かつ、粘性、流動性、水中不分離性、空気量、材料分離抵抗性に関する評価も高いセメント系組成物を提供する。
【解決手段】セメントと膨張材粉末とから成る結合材と、カチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物から成る第1の粉体とアニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物から成る第2の粉体とから成る増粘材と、細骨材と、セメント混和剤粉末と、水とが混ぜ合わされて形成されたセメント系組成物であって、単位水量が380.0〜445.0kg/m3、水と結合材との比(W/B)が34.0〜56.0%、第1の粉体の量と第2の粉体の量との和(Vt使用量)が2.70〜4.00kg/m3、セメント混和剤粉末の量(SP使用量)が0.70〜1.75kg/m3の範囲にあることを特徴とする。
【解決手段】セメントと膨張材粉末とから成る結合材と、カチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物から成る第1の粉体とアニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物から成る第2の粉体とから成る増粘材と、細骨材と、セメント混和剤粉末と、水とが混ぜ合わされて形成されたセメント系組成物であって、単位水量が380.0〜445.0kg/m3、水と結合材との比(W/B)が34.0〜56.0%、第1の粉体の量と第2の粉体の量との和(Vt使用量)が2.70〜4.00kg/m3、セメント混和剤粉末の量(SP使用量)が0.70〜1.75kg/m3の範囲にあることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擬似ポリマーが均質な状態で形成され、かつ、粘性、流動性、水中不分離性、空気量、材料分離抵抗性に関する評価も高いセメント系組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、カチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物を含む液体とアニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物を含む液体との二液からなる液体増粘性混和剤を添加した早強性耐水コンクリート組成物や高流動モルタル組成物などのセメント系組成物が提案されている。
第1の水溶性低分子化合物を含む液体と第2の水溶性低分子化合物を含む液体とがある一定の割合でセメント中に混入されると、第1の水溶性低分子化合物と第2の水溶性低分子化合物とが電気的に配列して擬似ポリマーを形成することにより、適度な粘性を確保することができるだけでなく、粘性がある程度高くなっても流動性を損なうことがないセメント系組成物となる。したがって、上記増粘性混和剤を用いることによって、従来は両立が困難であった流動性とフレッシュコンクリート経時保持性とに優れたコンクリート組成物や流動性とセルフレベリング性とに優れたモルタル組成物などのセメント系組成物を得ることができる。
なお、第1の水溶性低分子化合物と第2の水溶性低分子化合物との配合の割合としては、1:1とした場合に優れた特性が得られる(例えば、特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2005−281088号公報
【特許文献2】特開2005−281089号公報
【特許文献3】特開2006−176397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記第1の水溶性低分子化合物を含む液体と第2の水溶性低分子化合物とを含む液体とを同時に添加すると、第1の水溶性低分子化合物と第2の水溶性低分子化合物とが不均質な状態で擬似ポリマーを形成してしまうので、擬似ポリマーを均質な状態で形成させて所望の特性を得るためには長時間の混練が必要となる。
そこで、早強性耐水コンクリート組成物を製造する際には、はじめに、セメント、水、細骨材に第2の水溶性低分子化合物を含む液体を添加して混練して混練物を作製した後、この混練物に第1の水溶性低分子化合物を含む液体を添加して再度混練し、最後に粗骨材を加えて混練するようにしていた。しかしながら、このように添加作業と混練作業とを何度も繰り返す製造方法では、製造に時間がかかるだけでなく、第1の水溶性低分子化合物と第2の水溶性低分子化合物とは結合し易いので、再混練においてもセメントと十分に混合されない状態でポリマーを形成してしまい、そのため、擬似ポリマーを均質な状態で形成させて所望の特性を得ることができないといった問題点があった。
このような問題は、早強性耐水コンクリート組成物や高流動モルタル組成物の製造に限らず、他のコンクリート組成物やモルタル組成物などの、上記増粘性混和剤を配合したセメント系組成物を製造する場合にも問題となっている。
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、擬似ポリマーが均質な状態で形成され、かつ、粘性、流動性、水中不分離性、空気量、材料分離抵抗性に関する評価も高いセメント系組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のセメント系組成物は、セメントと膨張材粉末とから成る結合材と、カチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物から成る第1の粉体とアニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物から成る第2の粉体とから成る増粘材と、細骨材と、セメント混和剤粉末と、水とが混ぜ合わされて形成されたセメント系組成物であって、単位水量が380.0〜445.0kg/m3、水と結合材との比が34.0〜56.0%、第1の粉体の量と第2の粉体の量との和が2.70〜4.00kg/m3、セメント混和剤粉末の量が0.70〜1.75kg/m3の範囲にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明のセメント系組成物によれば、セメントと膨張材粉末とから成る結合材と、第1の粉体と第2の粉体とから成る増粘材と、細骨材と、セメント混和剤粉末と、水とが混ぜ合わされて形成されたので、結合材と増粘材と細骨材とセメント混和剤粉末と混合して混合物を形成した後に、この混合物に水を加えて混練することにより、擬似ポリマーが均質な状態で形成されたセメント系組成物となる。そして、単位水量を380.0〜445.0kg/m3、水と結合材との比を34.0〜56.0%、第1の粉体の量と第2の粉体の量との和を2.70〜4.00kg/m3、セメント混和剤粉末の量を0.70〜1.75kg/m3の範囲となるようにしたので、粘性、流動性、水中不分離性、空気量、材料分離抵抗性に関する評価の高いセメント系組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
まず、最良の形態に係るセメント系組成物としてのモルタル組成物の構成について説明する。
モルタル組成物は、例えば図3に示す、セメント(C)、膨張材粉末(CSA)、増粘性混和剤粉末(Vt)、細骨材(S)、セメント混和剤粉末(SP)、消泡剤粉末(E)、水(W)が混ぜ合わされて形成される。
セメント(C)、膨張材粉末(CSA)、増粘性混和剤粉末(Vt)、細骨材(S)、セメント混和剤粉末(SP)、消泡剤粉末(E)が混ぜ合わされた混合物によりモルタル混合物粉体が形成される。
セメント(C)と膨張材粉末(CSA)とにより結合材(B)が形成される。
【0007】
増粘材としての増粘性混和剤粉末(Vt)は、第1の粉体と第2の粉体とからなる。第1の粉体は、カチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物の粉体や、第1の水溶性低分子化合物を含む液体を乾燥させたことにより形成された第1の水溶性低分子化合物の粉体を用いた。第2の粉体は、アニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物の粉体や、第2の水溶性低分子化合物を含む液体を乾燥させたことにより形成された第2の水溶性低分子化合物の粉体を用いた。
セメント混和剤粉末(SP)は、増粘性混和剤粉末(Vt)と相溶性に優れたカルボキシル基含有ポリエーテル系減水剤粉末を用いた。
【0008】
第1の水溶性低分子化合物としては、4級アンモニウム塩型カチオン性界面活性剤が好ましく、特に、アルキルアンモニウム塩を主成分とする添加剤が好ましい。また、第2の水溶性低分子化合物としては、芳香環を有するスルフォン酸塩が好ましく、特に、アルキルアリルスルフォン酸塩を主成分とする添加剤が好ましい。
【0009】
セメント(C)は、石灰石・粘土・酸化鉄などを原料とした普通ポルトランドセメント,早強ポルトランドセメント,中庸熱ポルトランドセメント,白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメントや、高炉セメント,フライアッシュセメント,シリカセメントなどの混合セメントを用いる。
細骨材(S)は、川砂から得られた珪砂などを用いる。
膨張材粉末(CSA)は、石灰複合系膨張材粉末を用いる。
消泡剤粉末(E)は、シリコン系の消泡剤粉末を用いる。消泡剤粉末(E)は、混練の際に泡が発生してモルタルの空気量が多くなって強度の低下や比重の減少等が起こることを防止するために、用いる方が好ましい。
【0010】
次に、モルタル組成物の作り方を説明する。セメント(C)、膨張材粉末(CSA)、増粘性混和剤粉末(Vt)、細骨材(S)、セメント混和剤粉末(SP)、消泡剤粉末(E)を適当な容器内で混合してモルタル混合物粉体を作り、このモルタル混合物粉体に水を加えてよく練り混ぜることによりモルタル組成物を作ることができる。
【0011】
最良の形態では、図1に示すように、セメント混和剤粉末の量(SP使用量)が適正範囲0.70〜1.75kg/m3であり、第1の粉体の量と第2の粉体の量との和、すなわち、増粘性混和剤粉末の量(Vt使用量)が適正範囲2.70〜4.00kg/m3であり、水と結合材との比(以下、水結合材比(W/B)という)が適正範囲34.0〜56.0%であり、単位体積当たりの水量(以下、単位水量(W)という)が適正範囲380.0〜445.0kg/m3となるようなモルタル組成物とした。
【0012】
SP使用量の適正範囲0.70〜1.75kg/m3、Vt使用量の適正範囲2.70〜4.00kg/m3、水結合材比の適正範囲34.0〜56.0%、単位水量の適正範囲380.0〜445.0kg/m3は、以下のように求めた。
【0013】
すなわち、SP使用量を異ならせた材料配合割合で複数のモルタル組成物の試験体を作製し、作製した試験体毎に、図2に示す評価項目である、粘性、流動性、水中不分離性、空気量、材料分離抵抗性を検証するための評価試験を行い、図2に示す各評価項目毎に目標として設定された評価値を満足するSP使用量の適性範囲を求めた。同様に、Vt使用量を異ならせた材料配合割合で複数のモルタル組成物の試験体を作製し、水結合材比(W/B)を異ならせた材料配合割合で複数のモルタル組成物の試験体を作製し、単位水量(W)を異ならせた材料配合割合で複数のモルタル組成物の試験体を作製し、作製した試験体毎に、図2に示す評価項目である、粘性、流動性、水中不分離性、空気量、材料分離抵抗性を検証するための評価試験を行って、図2に示す各評価項目毎に目標として設定された評価値を満足するSP使用量、Vt使用量、水結合材比(W/B)、単位水量(W)の適性範囲をそれぞれ求めた。図2に、評価項目、試験方法、及び、目標とする評価値を示し、図3に、試験体に使用した材料の詳細を示した。
【0014】
評価試験を行った複数の試験体毎の材料配合割合を図4;9;14:19の(a)図に示し、複数の試験体毎の評価試験結果を図4;9;14:19の(b)図に示した。そして、複数の試験体による評価試験結果に基づいて図5乃至図8、図10乃至図13、図15乃至図18、図20乃至図23のようなグラフを作成した。尚、グラフ中の直線は、評価試験結果(プロットデータ)に基づいて最小2乗法により求め、グラフ中の曲線は、評価試験結果(プロットデータ)に基づいて最小2乗法により求めた。グラフ中にy=で示した式は、直線又は曲線の方程式である。式中のLn(x)は自然対数である。この直線又は曲線に基づいて、SP使用量、Vt使用量、水結合材比(W/B)、単位水量(W)の適性範囲を求めた。グラフ中において、実線で示した横線は評価値の最小値と最大値とを示す補助線、最小2乗法により求めた直線又は曲線と実線で示した横線との交点より垂下させた実線で示した縦線はSP使用量、Vt使用量、水結合材比(W/B)、単位水量(W)の適性範囲を示す補助線である。
【0015】
図4(a)はSP使用量を異ならせた複数の試験体(A−1−1乃至A−1−8)毎の材料配合割合を表で示し、図4(b)は複数の試験体毎の評価試験結果を表で示した。尚、SP使用量を多くした試験体では細骨材(S)の量を減らした。
図5乃至図8は、SP使用量を異ならせた複数の試験体による評価試験結果に基づいて形成したグラフを示す。図5はSP使用量と20cmフロー時間との関係を示すグラフ、図6はSP使用量と5分フローとの関係を示すグラフ、図7はSP使用量とpH(水素指数)との関係を示すグラフ、図8はSP使用量と空気量との関係を示すグラフである。
【0016】
図5のグラフに示された曲線から、粘性を評価する20cmフロー時間の評価値(20秒〜60秒)を満足するSP使用量の適性範囲として0.65〜1.75kg/m3が得られた。図6のグラフに示された曲線から、流動性を評価する5分フローの評価値(250±25mm)を満足するSP使用量の適性範囲として0.70〜2.50kg/m3が得られた。図7のグラフに示された直線から、水中不分離性を評価するpHの評価値(12.0以下)を満足するSP使用量の適性範囲として0.00〜1.75kg/m3が得られた。図8のグラフに示された直線から、空気量の評価値(4.0%以下)を満足するSP使用量の適性範囲として0.55〜2.50kg/m3が得られた。また、材料分離抵抗性を評価するブリーディングが0となるSP使用量の適性範囲は0.00〜1.80kg/m3であった。
【0017】
図4の総合評価の欄で○を付けた材料配合割合で形成された複数の試験体(A−1−3乃至A−1−6)は、目標として設定した評価値の全てを満足するモルタル組成物であることがわかる。
図4の表から、SP使用量が0.75〜1.75kg/m3の範囲で、かつ、セメント(C)が977kg/m3、膨張材粉末(CSA)が20kg/m3、増粘性混和剤粉末(Vt)が3.25kg/m3、細骨材(S)が731〜728kg/m3の範囲、消泡剤粉末(E)が0.15kg/m3、単位水量(W)が400kg/m3、水結合材比(W/B)が40%の材料配合割合で形成されるモルタル組成物は、目標として設定した評価値の全てを満足するモルタル組成物となることが予想される。
【0018】
図9(a)はVt使用量を異ならせた複数の試験体(A−2−1〜A−2−6)毎の材料配合割合を表で示し、図9(b)は複数の試験体毎の評価試験結果を表で示した。尚、Vt使用量を多くした試験体では水結合材比(W/B)を一定にするためセメント(C)の量を減らした。
図10乃至図13は、Vt使用量を異ならせた複数の試験体による評価試験結果に基づいて形成したグラフを示す。図10はVt使用量と20cmフロー時間との関係を示すグラフ、図11はVt使用量と5分フローとの関係を示すグラフ、図12はVt使用量とpH(水素指数)との関係を示すグラフ、図13はVt使用量と空気量との関係を示すグラフである。
【0019】
図10のグラフに示された曲線から、粘性を評価する20cmフロー時間の評価値(20秒〜60秒)を満足するVt使用量の適性範囲として2.70〜4.30kg/m3が得られた。図11のグラフに示された直線から、流動性を評価する5分フローの評価値(250±25mm)を満足するVt使用量の適性範囲として2.50〜4.10kg/m3が得られた。図12のグラフに示された直線から、水中不分離性を評価するpHの評価値(12.0以下)を満足するVt使用量の適性範囲として2.20〜5.25kg/m3が得られた。図13のグラフに示された直線から、空気量の評価値(4.0%以下)を満足するVt使用量の適性範囲として0.00〜4.00kg/m3が得られた。また、材料分離抵抗性を評価するブリーディングが0となるVt使用量の適性範囲は2.25〜5.25kg/m3であった。
【0020】
図9の総合評価の欄で○を付けた材料配合割合で形成された複数の試験体(A−2−4及びA−2−5)は、目標として設定した評価値の全てを満足するモルタル組成物であることがわかる。
図9の表から、Vt使用量が3.25〜4.25kg/m3の範囲で、かつ、セメント(C)が977〜976kg/m3、膨張材粉末(CSA)が20kg/m3、セメント混和剤粉末(SP)が1.00kg/m3、細骨材(S)が730kg/m3、消泡剤粉末(E)が0.15kg/m3、単位水量(W)が400kg/m3、水結合材比(W/B)が40%の材料配合割合で形成されるモルタル組成物は、目標として設定した評価値の全てを満足するモルタル組成物となることが予想される。
【0021】
図14(a)は水結合材比(W/B)を異ならせた複数の試験体(A−3−1〜A−3−4)毎の材料配合割合を表で示し、図14(b)は複数の試験体毎の評価試験結果を表で示した。尚、W/Bを大きくした試験体ではセメント(C)の量を減らして細骨材(S)の量を増やし、W/Bを小さくした試験体ではセメント(C)の量を増やして細骨材(S)の量を減らした。
図15乃至図18は、W/Bを異ならせた複数の試験体による評価試験結果に基づいて形成したグラフを示す。図15はW/Bと20cmフロー時間との関係を示すグラフ、図16はW/Bと5分フローとの関係を示すグラフ、図17はW/BとpH(水素指数)との関係を示すグラフ、図18はW/Bと空気量との関係を示すグラフである。
【0022】
図15のグラフに示された曲線から、粘性を評価する20cmフロー時間の評価値(20秒〜60秒)を満足するW/Bの適性範囲として34〜61%が得られた。図16のグラフに示された曲線から、流動性を評価する5分フローの評価値(250±25mm)を満足するW/Bの適性範囲として34〜66%が得られた。図17のグラフに示された直線から、水中不分離性を評価するpHの評価値(12.0以下)を満足するW/Bの適性範囲として30〜56%が得られた。図18のグラフに示された曲線から、空気量の評価値(4.0%以下)を満足するW/Bの適性範囲として30〜60%が得られた。また、材料分離抵抗性を評価するブリーディングが0となるW/Bの適性範囲は30〜60%であった。
【0023】
図14の総合評価の欄で○を付けた材料配合割合で形成された複数の試験体(A−3−2及びA−3−4)は、目標として設定した評価値の全てを満足するモルタル組成物であることがわかる。
図14の表から、W/Bが40〜60%の範囲で、かつ、セメント(C)が977〜643kg/m3の範囲、膨張材粉末(CSA)が20kg/m3、細骨材(S)が730〜1003kg/m3、Vt使用量が3.25kg/m3、SP使用量が1.00kg/m3、消泡剤粉末(E)が0.15kg/m3、単位水量(W)が400kg/m3の材料配合割合で形成されるモルタル組成物は、目標として設定した評価値の全てを満足するモルタル組成物となることが予想される。
【0024】
図19(a)は単位水量(W)を異ならせた複数の試験体(A−4−1乃至A−4−4)毎の材料配合割合を表で示し、図19(b)は複数の試験体毎の評価試験結果を表で示した。尚、単位水量を多くした試験体では、細骨材(S)の量を減らしてセメント(C)の量を増やし、単位水量を少なくした試験体では、細骨材(S)の量を増やしてセメント(C)の量を減らした。
図20乃至図23は、単位水量を異ならせた複数の試験体による評価試験結果に基づいて形成したグラフを示す。図20は単位水量と20cmフロー時間との関係を示すグラフ、図21は単位水量と5分フローとの関係を示すグラフ、図22は単位水量とpH(水素指数)との関係を示すグラフ、図23は単位水量と空気量との関係を示すグラフである。
【0025】
図20のグラフに示された曲線から、粘性を評価する20cmフロー時間の評価値(20秒〜60秒)を満足する単位水量の適性範囲として350.0〜445.0kg/m3が得られた。図21のグラフに示された直線から、流動性を評価する5分フローの評価値(250±25mm)を満足する単位水量の適性範囲として380.0〜445.0kg/m3が得られた。図22のグラフに示された直線から、水中不分離性を評価するpHの評価値(12.0以下)を満足する単位水量の適性範囲として350.0〜465.0kg/m3が得られた。図23のグラフに示された直線から、空気量の評価値(4.0%以下)を満足する単位水量の適性範囲として365.0〜500.0kg/m3が得られた。また、材料分離抵抗性を評価するブリーディングが0となる単位水量の適性範囲は350.00〜450.0kg/m3であった。
【0026】
図19の総合評価の欄で○を付けた材料配合割合で形成された試験体(A−4−2)は、目標として設定した評価値の全てを満足するモルタル組成物であることがわかる。即ち、図19の表から、単位水量(W)が400kg/m3、W/Bが40%、セメント(C)が977kg/m3、膨張材粉末(CSA)が20kg/m3、細骨材(S)が730kg/m3、Vt使用量が3.25kg/m3、SP使用量が1.00kg/m3、消泡剤粉末(E)が0.15kg/m3の材料配合割合で形成されるモルタル組成物は、目標として設定した評価値の全てを満足するモルタル組成物となることがわかった。
【0027】
図5乃至図8のグラフから求めた各評価値に対するSP使用量の適正範囲、図10乃至図13のグラフから求めた各評価値に対するVt使用量の適正範囲、図15乃至図18のグラフから求めた各評価値に対するW/Bの適正範囲、図20乃至図23のグラフから求めた各評価値に対する単位水量の適正範囲を、図24にまとめて示した。
【0028】
図1に示したSP使用量の適正範囲は次のように求めた。グラフから求めた一つ一つの評価値に対するSP使用量の適正範囲の最小値の中から最大の値(図24(a)の流動性の適正範囲の最小値=0.70kg/m3)を選んで、その最大の値0.70kg/m3をすべての評価値を満足するSP使用量の適正範囲の最小値と決め、グラフから求めた一つ一つの評価値に対するSP使用量の適正範囲の最大値の中から最小の値(図24(a)の例えば粘性の適正範囲の最大値=1.75kg/m3)を選んで、その最小の値1.75kg/m3をすべての評価値を満足するSP使用量の適正範囲の最大値と決めた。即ち、グラフから求めた一つ一つの評価値に対するSP使用量の適正範囲が重複している範囲の最小値と最大値を決め、この最小値と最大値との間の範囲を、すべての評価値を満足するSP使用量の適正範囲0.70〜1.75kg/m3として設定した。
同様にして、図1に示したすべての評価値を満足するVt使用量の適正範囲2.70〜4.00kg/m3を決め、図1に示したすべての評価値を満足する水結合材比の適正範囲34〜56%を決め、図1に示したすべての評価値を満足する単位水量の適正範囲380〜445kg/m3を決めた。
【0029】
最良の形態によれば、すべての評価値を満足するSP使用量、Vt使用量、水結合材比、単位水量の適正範囲を決めたので、粘性、流動性、水中不分離性、空気量、材料分離抵抗性について上述した目標とする評価値の全てを満足するモルタル組成物を得ることができる。
【0030】
最良の形態によれば、第1の水溶性低分子化合物及び第2の水溶性低分子化合物として粉体を用い、更に、セメント混和剤、膨張材、消泡剤も粉末を用いるようにし、これら粉とセメント及び細骨材と混合した後、加水・混練することで、従来のように第1の水溶性低分子化合物と第2の水溶性低分子化合物とを別個に添加した場合に比較して、上記第1及び第2の水溶性低分子化合物とセメントとが均一に混合された状態で混練を行うことができる。したがって、擬似ポリマーが均質な状態で形成され、増粘性混和剤の増粘効果を十分に発揮させることができるだけでなく、加水・混練作業が一回で済むので、モルタル組成物を効率よく製造することができる。
なお、第1の水溶性低分子化合物と第2の水溶性低分子化合物との比率が1:1となるように、第1の粉体と第2の粉体とを混合することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のセメント系組成物は、早強性耐水コンクリート組成物や高流動モルタル組成物などのセメント系組成物として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】モルタル組成物を作製する場合のSP使用量、Vt使用量、水結合材比、単位水量の適正範囲を示す表。
【図2】モルタル組成物の試験体を用いた評価試験での評価項目、試験方法、評価値を示す表。
【図3】モルタル組成物の試験体に用いた使用材料の詳細を示す表。
【図4】(a)はSP使用量を異ならせた複数の試験体毎の材料配合割合を示した表、(b)は複数の試験体毎の評価結果を示した表。
【図5】SP使用量と20cmフロー時間との関係を示すグラフ。
【図6】SP使用量と5分フローとの関係を示すグラフ。
【図7】SP使用量とpHとの関係を示すグラフ。
【図8】SP使用量と空気量との関係を示すグラフ。
【図9】(a)はVt使用量を異ならせた複数の試験体毎の材料配合割合を示した表、(b)は複数の試験体毎の評価結果を示した表。
【図10】Vt使用量と20cmフロー時間との関係を示すグラフ。
【図11】Vt使用量と5分フローとの関係を示すグラフ。
【図12】Vt使用量とpHとの関係を示すグラフ。
【図13】Vt使用量と空気量との関係を示すグラフ。
【図14】(a)はW/Bを異ならせた複数の試験体毎の材料配合割合を示した表、(b)は複数の試験体毎の評価結果を示した表。
【図15】W/Bと20cmフロー時間との関係を示すグラフ。
【図16】W/Bと5分フローとの関係を示すグラフ。
【図17】W/BとpHとの関係を示すグラフ。
【図18】W/Bと空気量との関係を示すグラフ。
【図19】(a)は単位水量を異ならせた複数の試験体毎の材料配合割合を示した表、(b)は複数の試験体毎の評価結果を示した表。
【図20】単位水量と20cmフロー時間との関係を示すグラフ。
【図21】単位水量と5分フローとの関係を示すグラフ。
【図22】単位水量とpHとの関係を示すグラフ。
【図23】単位水量と空気量との関係を示すグラフ。
【図24】グラフから求めたSP使用量、Vt使用量、W/B、単位水量の適正範囲をまとめた表。
【符号の説明】
【0033】
C セメント、CSA 膨張材粉末、B 結合材、SP セメント混和剤粉末、
Vt 増粘性混和剤粉末(第1の粉末と第2の粉末とから成る増粘材)、S 細骨材。
【技術分野】
【0001】
本発明は、擬似ポリマーが均質な状態で形成され、かつ、粘性、流動性、水中不分離性、空気量、材料分離抵抗性に関する評価も高いセメント系組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、カチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物を含む液体とアニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物を含む液体との二液からなる液体増粘性混和剤を添加した早強性耐水コンクリート組成物や高流動モルタル組成物などのセメント系組成物が提案されている。
第1の水溶性低分子化合物を含む液体と第2の水溶性低分子化合物を含む液体とがある一定の割合でセメント中に混入されると、第1の水溶性低分子化合物と第2の水溶性低分子化合物とが電気的に配列して擬似ポリマーを形成することにより、適度な粘性を確保することができるだけでなく、粘性がある程度高くなっても流動性を損なうことがないセメント系組成物となる。したがって、上記増粘性混和剤を用いることによって、従来は両立が困難であった流動性とフレッシュコンクリート経時保持性とに優れたコンクリート組成物や流動性とセルフレベリング性とに優れたモルタル組成物などのセメント系組成物を得ることができる。
なお、第1の水溶性低分子化合物と第2の水溶性低分子化合物との配合の割合としては、1:1とした場合に優れた特性が得られる(例えば、特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2005−281088号公報
【特許文献2】特開2005−281089号公報
【特許文献3】特開2006−176397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記第1の水溶性低分子化合物を含む液体と第2の水溶性低分子化合物とを含む液体とを同時に添加すると、第1の水溶性低分子化合物と第2の水溶性低分子化合物とが不均質な状態で擬似ポリマーを形成してしまうので、擬似ポリマーを均質な状態で形成させて所望の特性を得るためには長時間の混練が必要となる。
そこで、早強性耐水コンクリート組成物を製造する際には、はじめに、セメント、水、細骨材に第2の水溶性低分子化合物を含む液体を添加して混練して混練物を作製した後、この混練物に第1の水溶性低分子化合物を含む液体を添加して再度混練し、最後に粗骨材を加えて混練するようにしていた。しかしながら、このように添加作業と混練作業とを何度も繰り返す製造方法では、製造に時間がかかるだけでなく、第1の水溶性低分子化合物と第2の水溶性低分子化合物とは結合し易いので、再混練においてもセメントと十分に混合されない状態でポリマーを形成してしまい、そのため、擬似ポリマーを均質な状態で形成させて所望の特性を得ることができないといった問題点があった。
このような問題は、早強性耐水コンクリート組成物や高流動モルタル組成物の製造に限らず、他のコンクリート組成物やモルタル組成物などの、上記増粘性混和剤を配合したセメント系組成物を製造する場合にも問題となっている。
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、擬似ポリマーが均質な状態で形成され、かつ、粘性、流動性、水中不分離性、空気量、材料分離抵抗性に関する評価も高いセメント系組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のセメント系組成物は、セメントと膨張材粉末とから成る結合材と、カチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物から成る第1の粉体とアニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物から成る第2の粉体とから成る増粘材と、細骨材と、セメント混和剤粉末と、水とが混ぜ合わされて形成されたセメント系組成物であって、単位水量が380.0〜445.0kg/m3、水と結合材との比が34.0〜56.0%、第1の粉体の量と第2の粉体の量との和が2.70〜4.00kg/m3、セメント混和剤粉末の量が0.70〜1.75kg/m3の範囲にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明のセメント系組成物によれば、セメントと膨張材粉末とから成る結合材と、第1の粉体と第2の粉体とから成る増粘材と、細骨材と、セメント混和剤粉末と、水とが混ぜ合わされて形成されたので、結合材と増粘材と細骨材とセメント混和剤粉末と混合して混合物を形成した後に、この混合物に水を加えて混練することにより、擬似ポリマーが均質な状態で形成されたセメント系組成物となる。そして、単位水量を380.0〜445.0kg/m3、水と結合材との比を34.0〜56.0%、第1の粉体の量と第2の粉体の量との和を2.70〜4.00kg/m3、セメント混和剤粉末の量を0.70〜1.75kg/m3の範囲となるようにしたので、粘性、流動性、水中不分離性、空気量、材料分離抵抗性に関する評価の高いセメント系組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
まず、最良の形態に係るセメント系組成物としてのモルタル組成物の構成について説明する。
モルタル組成物は、例えば図3に示す、セメント(C)、膨張材粉末(CSA)、増粘性混和剤粉末(Vt)、細骨材(S)、セメント混和剤粉末(SP)、消泡剤粉末(E)、水(W)が混ぜ合わされて形成される。
セメント(C)、膨張材粉末(CSA)、増粘性混和剤粉末(Vt)、細骨材(S)、セメント混和剤粉末(SP)、消泡剤粉末(E)が混ぜ合わされた混合物によりモルタル混合物粉体が形成される。
セメント(C)と膨張材粉末(CSA)とにより結合材(B)が形成される。
【0007】
増粘材としての増粘性混和剤粉末(Vt)は、第1の粉体と第2の粉体とからなる。第1の粉体は、カチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物の粉体や、第1の水溶性低分子化合物を含む液体を乾燥させたことにより形成された第1の水溶性低分子化合物の粉体を用いた。第2の粉体は、アニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物の粉体や、第2の水溶性低分子化合物を含む液体を乾燥させたことにより形成された第2の水溶性低分子化合物の粉体を用いた。
セメント混和剤粉末(SP)は、増粘性混和剤粉末(Vt)と相溶性に優れたカルボキシル基含有ポリエーテル系減水剤粉末を用いた。
【0008】
第1の水溶性低分子化合物としては、4級アンモニウム塩型カチオン性界面活性剤が好ましく、特に、アルキルアンモニウム塩を主成分とする添加剤が好ましい。また、第2の水溶性低分子化合物としては、芳香環を有するスルフォン酸塩が好ましく、特に、アルキルアリルスルフォン酸塩を主成分とする添加剤が好ましい。
【0009】
セメント(C)は、石灰石・粘土・酸化鉄などを原料とした普通ポルトランドセメント,早強ポルトランドセメント,中庸熱ポルトランドセメント,白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメントや、高炉セメント,フライアッシュセメント,シリカセメントなどの混合セメントを用いる。
細骨材(S)は、川砂から得られた珪砂などを用いる。
膨張材粉末(CSA)は、石灰複合系膨張材粉末を用いる。
消泡剤粉末(E)は、シリコン系の消泡剤粉末を用いる。消泡剤粉末(E)は、混練の際に泡が発生してモルタルの空気量が多くなって強度の低下や比重の減少等が起こることを防止するために、用いる方が好ましい。
【0010】
次に、モルタル組成物の作り方を説明する。セメント(C)、膨張材粉末(CSA)、増粘性混和剤粉末(Vt)、細骨材(S)、セメント混和剤粉末(SP)、消泡剤粉末(E)を適当な容器内で混合してモルタル混合物粉体を作り、このモルタル混合物粉体に水を加えてよく練り混ぜることによりモルタル組成物を作ることができる。
【0011】
最良の形態では、図1に示すように、セメント混和剤粉末の量(SP使用量)が適正範囲0.70〜1.75kg/m3であり、第1の粉体の量と第2の粉体の量との和、すなわち、増粘性混和剤粉末の量(Vt使用量)が適正範囲2.70〜4.00kg/m3であり、水と結合材との比(以下、水結合材比(W/B)という)が適正範囲34.0〜56.0%であり、単位体積当たりの水量(以下、単位水量(W)という)が適正範囲380.0〜445.0kg/m3となるようなモルタル組成物とした。
【0012】
SP使用量の適正範囲0.70〜1.75kg/m3、Vt使用量の適正範囲2.70〜4.00kg/m3、水結合材比の適正範囲34.0〜56.0%、単位水量の適正範囲380.0〜445.0kg/m3は、以下のように求めた。
【0013】
すなわち、SP使用量を異ならせた材料配合割合で複数のモルタル組成物の試験体を作製し、作製した試験体毎に、図2に示す評価項目である、粘性、流動性、水中不分離性、空気量、材料分離抵抗性を検証するための評価試験を行い、図2に示す各評価項目毎に目標として設定された評価値を満足するSP使用量の適性範囲を求めた。同様に、Vt使用量を異ならせた材料配合割合で複数のモルタル組成物の試験体を作製し、水結合材比(W/B)を異ならせた材料配合割合で複数のモルタル組成物の試験体を作製し、単位水量(W)を異ならせた材料配合割合で複数のモルタル組成物の試験体を作製し、作製した試験体毎に、図2に示す評価項目である、粘性、流動性、水中不分離性、空気量、材料分離抵抗性を検証するための評価試験を行って、図2に示す各評価項目毎に目標として設定された評価値を満足するSP使用量、Vt使用量、水結合材比(W/B)、単位水量(W)の適性範囲をそれぞれ求めた。図2に、評価項目、試験方法、及び、目標とする評価値を示し、図3に、試験体に使用した材料の詳細を示した。
【0014】
評価試験を行った複数の試験体毎の材料配合割合を図4;9;14:19の(a)図に示し、複数の試験体毎の評価試験結果を図4;9;14:19の(b)図に示した。そして、複数の試験体による評価試験結果に基づいて図5乃至図8、図10乃至図13、図15乃至図18、図20乃至図23のようなグラフを作成した。尚、グラフ中の直線は、評価試験結果(プロットデータ)に基づいて最小2乗法により求め、グラフ中の曲線は、評価試験結果(プロットデータ)に基づいて最小2乗法により求めた。グラフ中にy=で示した式は、直線又は曲線の方程式である。式中のLn(x)は自然対数である。この直線又は曲線に基づいて、SP使用量、Vt使用量、水結合材比(W/B)、単位水量(W)の適性範囲を求めた。グラフ中において、実線で示した横線は評価値の最小値と最大値とを示す補助線、最小2乗法により求めた直線又は曲線と実線で示した横線との交点より垂下させた実線で示した縦線はSP使用量、Vt使用量、水結合材比(W/B)、単位水量(W)の適性範囲を示す補助線である。
【0015】
図4(a)はSP使用量を異ならせた複数の試験体(A−1−1乃至A−1−8)毎の材料配合割合を表で示し、図4(b)は複数の試験体毎の評価試験結果を表で示した。尚、SP使用量を多くした試験体では細骨材(S)の量を減らした。
図5乃至図8は、SP使用量を異ならせた複数の試験体による評価試験結果に基づいて形成したグラフを示す。図5はSP使用量と20cmフロー時間との関係を示すグラフ、図6はSP使用量と5分フローとの関係を示すグラフ、図7はSP使用量とpH(水素指数)との関係を示すグラフ、図8はSP使用量と空気量との関係を示すグラフである。
【0016】
図5のグラフに示された曲線から、粘性を評価する20cmフロー時間の評価値(20秒〜60秒)を満足するSP使用量の適性範囲として0.65〜1.75kg/m3が得られた。図6のグラフに示された曲線から、流動性を評価する5分フローの評価値(250±25mm)を満足するSP使用量の適性範囲として0.70〜2.50kg/m3が得られた。図7のグラフに示された直線から、水中不分離性を評価するpHの評価値(12.0以下)を満足するSP使用量の適性範囲として0.00〜1.75kg/m3が得られた。図8のグラフに示された直線から、空気量の評価値(4.0%以下)を満足するSP使用量の適性範囲として0.55〜2.50kg/m3が得られた。また、材料分離抵抗性を評価するブリーディングが0となるSP使用量の適性範囲は0.00〜1.80kg/m3であった。
【0017】
図4の総合評価の欄で○を付けた材料配合割合で形成された複数の試験体(A−1−3乃至A−1−6)は、目標として設定した評価値の全てを満足するモルタル組成物であることがわかる。
図4の表から、SP使用量が0.75〜1.75kg/m3の範囲で、かつ、セメント(C)が977kg/m3、膨張材粉末(CSA)が20kg/m3、増粘性混和剤粉末(Vt)が3.25kg/m3、細骨材(S)が731〜728kg/m3の範囲、消泡剤粉末(E)が0.15kg/m3、単位水量(W)が400kg/m3、水結合材比(W/B)が40%の材料配合割合で形成されるモルタル組成物は、目標として設定した評価値の全てを満足するモルタル組成物となることが予想される。
【0018】
図9(a)はVt使用量を異ならせた複数の試験体(A−2−1〜A−2−6)毎の材料配合割合を表で示し、図9(b)は複数の試験体毎の評価試験結果を表で示した。尚、Vt使用量を多くした試験体では水結合材比(W/B)を一定にするためセメント(C)の量を減らした。
図10乃至図13は、Vt使用量を異ならせた複数の試験体による評価試験結果に基づいて形成したグラフを示す。図10はVt使用量と20cmフロー時間との関係を示すグラフ、図11はVt使用量と5分フローとの関係を示すグラフ、図12はVt使用量とpH(水素指数)との関係を示すグラフ、図13はVt使用量と空気量との関係を示すグラフである。
【0019】
図10のグラフに示された曲線から、粘性を評価する20cmフロー時間の評価値(20秒〜60秒)を満足するVt使用量の適性範囲として2.70〜4.30kg/m3が得られた。図11のグラフに示された直線から、流動性を評価する5分フローの評価値(250±25mm)を満足するVt使用量の適性範囲として2.50〜4.10kg/m3が得られた。図12のグラフに示された直線から、水中不分離性を評価するpHの評価値(12.0以下)を満足するVt使用量の適性範囲として2.20〜5.25kg/m3が得られた。図13のグラフに示された直線から、空気量の評価値(4.0%以下)を満足するVt使用量の適性範囲として0.00〜4.00kg/m3が得られた。また、材料分離抵抗性を評価するブリーディングが0となるVt使用量の適性範囲は2.25〜5.25kg/m3であった。
【0020】
図9の総合評価の欄で○を付けた材料配合割合で形成された複数の試験体(A−2−4及びA−2−5)は、目標として設定した評価値の全てを満足するモルタル組成物であることがわかる。
図9の表から、Vt使用量が3.25〜4.25kg/m3の範囲で、かつ、セメント(C)が977〜976kg/m3、膨張材粉末(CSA)が20kg/m3、セメント混和剤粉末(SP)が1.00kg/m3、細骨材(S)が730kg/m3、消泡剤粉末(E)が0.15kg/m3、単位水量(W)が400kg/m3、水結合材比(W/B)が40%の材料配合割合で形成されるモルタル組成物は、目標として設定した評価値の全てを満足するモルタル組成物となることが予想される。
【0021】
図14(a)は水結合材比(W/B)を異ならせた複数の試験体(A−3−1〜A−3−4)毎の材料配合割合を表で示し、図14(b)は複数の試験体毎の評価試験結果を表で示した。尚、W/Bを大きくした試験体ではセメント(C)の量を減らして細骨材(S)の量を増やし、W/Bを小さくした試験体ではセメント(C)の量を増やして細骨材(S)の量を減らした。
図15乃至図18は、W/Bを異ならせた複数の試験体による評価試験結果に基づいて形成したグラフを示す。図15はW/Bと20cmフロー時間との関係を示すグラフ、図16はW/Bと5分フローとの関係を示すグラフ、図17はW/BとpH(水素指数)との関係を示すグラフ、図18はW/Bと空気量との関係を示すグラフである。
【0022】
図15のグラフに示された曲線から、粘性を評価する20cmフロー時間の評価値(20秒〜60秒)を満足するW/Bの適性範囲として34〜61%が得られた。図16のグラフに示された曲線から、流動性を評価する5分フローの評価値(250±25mm)を満足するW/Bの適性範囲として34〜66%が得られた。図17のグラフに示された直線から、水中不分離性を評価するpHの評価値(12.0以下)を満足するW/Bの適性範囲として30〜56%が得られた。図18のグラフに示された曲線から、空気量の評価値(4.0%以下)を満足するW/Bの適性範囲として30〜60%が得られた。また、材料分離抵抗性を評価するブリーディングが0となるW/Bの適性範囲は30〜60%であった。
【0023】
図14の総合評価の欄で○を付けた材料配合割合で形成された複数の試験体(A−3−2及びA−3−4)は、目標として設定した評価値の全てを満足するモルタル組成物であることがわかる。
図14の表から、W/Bが40〜60%の範囲で、かつ、セメント(C)が977〜643kg/m3の範囲、膨張材粉末(CSA)が20kg/m3、細骨材(S)が730〜1003kg/m3、Vt使用量が3.25kg/m3、SP使用量が1.00kg/m3、消泡剤粉末(E)が0.15kg/m3、単位水量(W)が400kg/m3の材料配合割合で形成されるモルタル組成物は、目標として設定した評価値の全てを満足するモルタル組成物となることが予想される。
【0024】
図19(a)は単位水量(W)を異ならせた複数の試験体(A−4−1乃至A−4−4)毎の材料配合割合を表で示し、図19(b)は複数の試験体毎の評価試験結果を表で示した。尚、単位水量を多くした試験体では、細骨材(S)の量を減らしてセメント(C)の量を増やし、単位水量を少なくした試験体では、細骨材(S)の量を増やしてセメント(C)の量を減らした。
図20乃至図23は、単位水量を異ならせた複数の試験体による評価試験結果に基づいて形成したグラフを示す。図20は単位水量と20cmフロー時間との関係を示すグラフ、図21は単位水量と5分フローとの関係を示すグラフ、図22は単位水量とpH(水素指数)との関係を示すグラフ、図23は単位水量と空気量との関係を示すグラフである。
【0025】
図20のグラフに示された曲線から、粘性を評価する20cmフロー時間の評価値(20秒〜60秒)を満足する単位水量の適性範囲として350.0〜445.0kg/m3が得られた。図21のグラフに示された直線から、流動性を評価する5分フローの評価値(250±25mm)を満足する単位水量の適性範囲として380.0〜445.0kg/m3が得られた。図22のグラフに示された直線から、水中不分離性を評価するpHの評価値(12.0以下)を満足する単位水量の適性範囲として350.0〜465.0kg/m3が得られた。図23のグラフに示された直線から、空気量の評価値(4.0%以下)を満足する単位水量の適性範囲として365.0〜500.0kg/m3が得られた。また、材料分離抵抗性を評価するブリーディングが0となる単位水量の適性範囲は350.00〜450.0kg/m3であった。
【0026】
図19の総合評価の欄で○を付けた材料配合割合で形成された試験体(A−4−2)は、目標として設定した評価値の全てを満足するモルタル組成物であることがわかる。即ち、図19の表から、単位水量(W)が400kg/m3、W/Bが40%、セメント(C)が977kg/m3、膨張材粉末(CSA)が20kg/m3、細骨材(S)が730kg/m3、Vt使用量が3.25kg/m3、SP使用量が1.00kg/m3、消泡剤粉末(E)が0.15kg/m3の材料配合割合で形成されるモルタル組成物は、目標として設定した評価値の全てを満足するモルタル組成物となることがわかった。
【0027】
図5乃至図8のグラフから求めた各評価値に対するSP使用量の適正範囲、図10乃至図13のグラフから求めた各評価値に対するVt使用量の適正範囲、図15乃至図18のグラフから求めた各評価値に対するW/Bの適正範囲、図20乃至図23のグラフから求めた各評価値に対する単位水量の適正範囲を、図24にまとめて示した。
【0028】
図1に示したSP使用量の適正範囲は次のように求めた。グラフから求めた一つ一つの評価値に対するSP使用量の適正範囲の最小値の中から最大の値(図24(a)の流動性の適正範囲の最小値=0.70kg/m3)を選んで、その最大の値0.70kg/m3をすべての評価値を満足するSP使用量の適正範囲の最小値と決め、グラフから求めた一つ一つの評価値に対するSP使用量の適正範囲の最大値の中から最小の値(図24(a)の例えば粘性の適正範囲の最大値=1.75kg/m3)を選んで、その最小の値1.75kg/m3をすべての評価値を満足するSP使用量の適正範囲の最大値と決めた。即ち、グラフから求めた一つ一つの評価値に対するSP使用量の適正範囲が重複している範囲の最小値と最大値を決め、この最小値と最大値との間の範囲を、すべての評価値を満足するSP使用量の適正範囲0.70〜1.75kg/m3として設定した。
同様にして、図1に示したすべての評価値を満足するVt使用量の適正範囲2.70〜4.00kg/m3を決め、図1に示したすべての評価値を満足する水結合材比の適正範囲34〜56%を決め、図1に示したすべての評価値を満足する単位水量の適正範囲380〜445kg/m3を決めた。
【0029】
最良の形態によれば、すべての評価値を満足するSP使用量、Vt使用量、水結合材比、単位水量の適正範囲を決めたので、粘性、流動性、水中不分離性、空気量、材料分離抵抗性について上述した目標とする評価値の全てを満足するモルタル組成物を得ることができる。
【0030】
最良の形態によれば、第1の水溶性低分子化合物及び第2の水溶性低分子化合物として粉体を用い、更に、セメント混和剤、膨張材、消泡剤も粉末を用いるようにし、これら粉とセメント及び細骨材と混合した後、加水・混練することで、従来のように第1の水溶性低分子化合物と第2の水溶性低分子化合物とを別個に添加した場合に比較して、上記第1及び第2の水溶性低分子化合物とセメントとが均一に混合された状態で混練を行うことができる。したがって、擬似ポリマーが均質な状態で形成され、増粘性混和剤の増粘効果を十分に発揮させることができるだけでなく、加水・混練作業が一回で済むので、モルタル組成物を効率よく製造することができる。
なお、第1の水溶性低分子化合物と第2の水溶性低分子化合物との比率が1:1となるように、第1の粉体と第2の粉体とを混合することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のセメント系組成物は、早強性耐水コンクリート組成物や高流動モルタル組成物などのセメント系組成物として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】モルタル組成物を作製する場合のSP使用量、Vt使用量、水結合材比、単位水量の適正範囲を示す表。
【図2】モルタル組成物の試験体を用いた評価試験での評価項目、試験方法、評価値を示す表。
【図3】モルタル組成物の試験体に用いた使用材料の詳細を示す表。
【図4】(a)はSP使用量を異ならせた複数の試験体毎の材料配合割合を示した表、(b)は複数の試験体毎の評価結果を示した表。
【図5】SP使用量と20cmフロー時間との関係を示すグラフ。
【図6】SP使用量と5分フローとの関係を示すグラフ。
【図7】SP使用量とpHとの関係を示すグラフ。
【図8】SP使用量と空気量との関係を示すグラフ。
【図9】(a)はVt使用量を異ならせた複数の試験体毎の材料配合割合を示した表、(b)は複数の試験体毎の評価結果を示した表。
【図10】Vt使用量と20cmフロー時間との関係を示すグラフ。
【図11】Vt使用量と5分フローとの関係を示すグラフ。
【図12】Vt使用量とpHとの関係を示すグラフ。
【図13】Vt使用量と空気量との関係を示すグラフ。
【図14】(a)はW/Bを異ならせた複数の試験体毎の材料配合割合を示した表、(b)は複数の試験体毎の評価結果を示した表。
【図15】W/Bと20cmフロー時間との関係を示すグラフ。
【図16】W/Bと5分フローとの関係を示すグラフ。
【図17】W/BとpHとの関係を示すグラフ。
【図18】W/Bと空気量との関係を示すグラフ。
【図19】(a)は単位水量を異ならせた複数の試験体毎の材料配合割合を示した表、(b)は複数の試験体毎の評価結果を示した表。
【図20】単位水量と20cmフロー時間との関係を示すグラフ。
【図21】単位水量と5分フローとの関係を示すグラフ。
【図22】単位水量とpHとの関係を示すグラフ。
【図23】単位水量と空気量との関係を示すグラフ。
【図24】グラフから求めたSP使用量、Vt使用量、W/B、単位水量の適正範囲をまとめた表。
【符号の説明】
【0033】
C セメント、CSA 膨張材粉末、B 結合材、SP セメント混和剤粉末、
Vt 増粘性混和剤粉末(第1の粉末と第2の粉末とから成る増粘材)、S 細骨材。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと膨張材粉末とから成る結合材と、カチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物から成る第1の粉体とアニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物から成る第2の粉体とから成る増粘材と、細骨材と、セメント混和剤粉末と、水とが混ぜ合わされて形成されたセメント系組成物であって、単位水量が380.0〜445.0kg/m3、水と結合材との比が34.0〜56.0%、第1の粉体の量と第2の粉体の量との和が2.70〜4.00kg/m3、セメント混和剤粉末の量が0.70〜1.75kg/m3の範囲にあることを特徴とするセメント系組成物。
【請求項1】
セメントと膨張材粉末とから成る結合材と、カチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物から成る第1の粉体とアニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物から成る第2の粉体とから成る増粘材と、細骨材と、セメント混和剤粉末と、水とが混ぜ合わされて形成されたセメント系組成物であって、単位水量が380.0〜445.0kg/m3、水と結合材との比が34.0〜56.0%、第1の粉体の量と第2の粉体の量との和が2.70〜4.00kg/m3、セメント混和剤粉末の量が0.70〜1.75kg/m3の範囲にあることを特徴とするセメント系組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
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【図10】
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【図13】
【図14】
【図15】
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【図17】
【図18】
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【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2009−173470(P2009−173470A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11086(P2008−11086)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【Fターム(参考)】
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