説明

セメント補強用繊維

【課題】曲げ強度、曲げ靱性及び耐衝撃性において優れた補強効果を発揮し、かつ施工時の流動性を阻害しない、セメント等補強用繊維を提供すること。
【解決手段】引張弾性率が45GPa以上、長さが1〜60mm、単糸繊度が10〜100dtexであるセメント補強用短繊維とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント成形品の補強用繊維に関するものである。詳しくは、繊維材料の混入により施工時の流動性低下等の作業性を阻害することなく、補強用として好適な補強用繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリートやモルタル、石こう等の水硬化性原料を用いた成形品の曲げ強度、対衝撃強度等の機械的特性を向上させる目的として、各種繊維による補強が提案され、既に実用化されている。コンクリート、モルタル、石膏等のセメント等成形品補強用繊維への要求特性としては、高ヤング率、高強度、マトリックスとしてのセメント等との高度な界面結合力、セメント中のアルカリに対する耐侵食性、マトリックス中での均一分散等が挙げられている。従来、セメント等の補強用繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維、スチールファイバー等の金属繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリビニルアルコール繊維等の合成繊維が単独もしくは組み合わせて用いられている。(例えば特開2002−275739号公報、特開2005−15253号公報、特開2005−220498号公報、特開平5−139803号公報等)
【0003】
これらの補強繊維は通常、数百本以上の細い単繊維の集合体からなるため、そのままでは取扱いが困難であるばかりでなく、セメント組成物の撹拌中に添加した場合において均一に分散せず、塊状になり、セメント組成物の流動性が低下したり、又補強繊維としての効果が低下するという問題があった。 また、セメント組成物の流動性を阻害しないように、繊維添加量を減らした場合、目的の曲げ強度強力、曲げ靱性が得られなくなるという問題点があった。
【0004】
そこで、取扱いを容易にし、且つ塊状になるのを防止する目的で、デンプン、ポリビニルアルコール(以下、「PVA」という)に代表される集束剤を用いてサイジングした繊維集束体として使用する提案がなされてきた。(例えば、特開平7−300773号公報、特開平8−325947号公報、特開平9−278503号公報等)集束されたセメント補強用繊維は、一定の長さにカットしたチップ状にて使用され取扱いが容易となると共にセメント組成物の撹拌中に添加しても塊状になることは少なくなり流動性低下の問題はなくなるものの、短繊維集束体としては均一に分散するが、単繊維のレベルでは均一な分散をとはならず十分な強度や衝撃性のセメントは得られていなかった。又集束体とする工程が必要であるためコストが高くなるという問題もあった。
【0005】
こうした現状に鑑み、集束体とせずとも繊維混入時のセメントの流動性低下が少なく、且つ繊維一本一本がセメント中で均一に分散するセメント補強用繊維の開発が大いに望まれていた。
【0006】
【特許文献1】特開2002−275739号公報
【特許文献2】特開2005−15253号公報
【特許文献3】特開2005−220498号公報
【特許文献4】特開平5−139803号公報
【特許文献5】特開平7−300773号公報
【特許文献6】特開平8−325947号公報
【特許文献7】特開平9−278503号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術を背景になされたもので、その目的は集束体とせずとも繊維混入によるセメント施工時の流動性が低下することなく、且つセメント補強用繊維として均一に分散する繊維及びそれを含むセメント組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を達成するべく鋭意検討を重ねた結果、繊維混入による施工時の流動性低下は、繊維の弾性率、長さ及び繊度と大きな関係があることを見出した。
【0009】
かくして、本発明によれば、
短繊維の引張弾性率(単位:GPa)が45以上、長さが1〜60mm、単糸繊度が10〜100dtexである、セメント補強用短繊維、
が提供される。さらには本発明の短繊維を含むセメント組成物が提供される。
短繊維としてはアラミド繊維であることが好ましく、特にコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維が特に好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の繊維により、繊維混入による流動性の低下が小さく、特に通常のセメント、モルタル、コンクリートに比べて飛躍的に曲げ強度、曲げ靱性を向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明によるセメント補強用短繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維等の無機繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、ポリベンズオキサゾール(PBO)繊維、等の有機繊維のいずれをも使用することができる。パラ系アラミド繊維なかでもポリパラフェニレンテレフタラミドやコポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミド等のパラ型アラミドからなる繊維が他の繊維に比べて補強効果が大きいので好ましく、特にコポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミド短繊維は、高温高圧下強アルカリ性の雰囲気中に長時間保持してもその機械的特性の劣化が小さいので、高温高圧下での蒸気養生、例えば180℃、圧力約10Kg/cmの飽和水蒸気による条件下においても高い強力保持率を有するので好ましい。
【0012】
ここで本発明のセメント補強用短繊維の引張弾性率(単位:GPa)は45GPa以上である必要がある。45GPa未満では、後述の繊度の範囲でも繊維の剛性が低くなるため容易に繊維同士が絡まり易く塊り状になりやすい。所定の補強効果を得るために繊維添加量を増やさなければならず、そのためセメント組成物の流動性の低下を招く場合がある。短繊維の引張弾性率は、好ましくは50〜300GPa、より好ましくは70GPa〜100GPaである。300GPaを超える場合は繊維が硬すぎて攪拌中に繊維が折れる場合があるので好ましくない。
【0013】
繊維の長さは1〜60mmの範囲内であることが必要である。1mmより短いと曲げ強度、曲げ靱性において繊維添加による補強効果が得られない場合がある。また、60mmを超えると混練中に短繊維同士が絡んで流動性が低下したり、又細かく折れたりして施工性を阻害したり繊維添加による補強効果が得られない場合がある。また、セメント組成物の流動性の低下を抑えて、繊維を添加しない場合と同等に保持する意味で、好ましくは2〜20mm、より好ましくは3〜15mmの範囲内が好ましい。
【0014】
本発明のセメント補強用繊維において、単糸繊度は10〜100dtexであることが必要である。単糸繊度が10dtex未満の場合は、45GPa以上の高弾性繊維であっても繊維の剛性が不足し絡まり易くなり好ましくなく、又セメントがアルカリ性であるために繊維の芯近くまで劣化が起こってその引張強度の低下が大きくなり、目的の補強効果が得られなくなる場合がある。逆に100dtexを超える場合は繊維径が大き過ぎるため繊維本数が不足し補強セメントの強度や耐衝撃性が低下し好ましくない。好ましくは15〜75dtex、より好ましくは20〜50dtexである。
【0015】
又本発明のセメント補強用短繊維はアスペクト比(繊維長/繊維断面直径)が10〜2,000の範囲内であることが好ましい。アスペクト比が10未満であると、目的である補強効果が得ることができず、一方、2000を超える場合は、繊維の取り扱い性が著しく低下し、施工時の流動性の低下を招く場合がある。上記アスペクト比は、好ましくは50〜1000、より好ましくは60〜500である。
【0016】
本発明のセメント補強短繊維はセメントマトリックスに対する繊維分率が0.1〜5%の範囲で添加することが好ましい。0.1%未満であればセメント補強効果がなく、5%を超える場合はファイバーボールが形成されやすく又セメント組成物粘度が上昇するため好ましくない。好ましくは1〜3%である。この範囲であれば施工の支障となるほどの粘度上昇はなく高強度化できるので好ましい。
【0017】
本発明のセメント補強用短繊維を得るには上述の高弾性繊維を公知の方法で紡糸延伸して製糸化し、その後特定のアスペクト比になるように公知の方法でカットすることにより得られる。又天然由来の繊維については本発明の範囲のものを選択して使用すればよい。
本発明の短繊維を含むセメント組成物は施工時の流動性が良好で固形物は無添加のものと比べ強度が大幅に向上し、重量は抑えられるので建築構造物等に適する。
【実施例】
【0018】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
なお、実施例における各種の評価は、次のようにして測定した。
(1)繊維長、繊度
JIS−L−1015に準拠して測定した。
(2)アスペクト比
繊維長/繊維直径(繊維長さ方向に直交する断面における繊維径)
(3)セメントペーストの流動性を示すフロー値の測定方法
普通ポルトランドセメント1,500g、水630g、及び補強用繊維を、モルタルミキサー((株)マルイ製、MIC−362型、容量:5L)を用いて140rpmの撹拌速度で約3分間混練し、ペーストを得た。次いで、水平に配置した50cm角のアルミ板にミニスランプコーン(高さ15cm、下面内径10cm、上面内径5cmの内側がくり貫かれた円錐柱) に得られたペーストを摺り切りで注ぎ入れ、ミニスランプコーンをゆっくり垂直に引き上げる。このときのセメントペーストはアルミ板上に円形に広がる。このときの広がった円形の直径を、円形が歪んでいる場合は最短径と最長径の相加平均をフロー値する。フロー値が大きいほどセメントペーストの流動性が高く、取り扱い性が良いと判断する。ただし、最長径は最短径の1〜2倍の範囲内とし、2倍を超えると測定不能、取り扱い性が悪いと判断する。
(4)セメント曲げ強度測定方法
普通ポルトランドセメント1,500g、水630g、メチルセルロース15g、及び補強用繊維を、オムニミキサー(GARBRO社製、型式:OM−10−E、容量:10L)を用いて400rpmの撹拌速度で約3分間混練し、均一なペーストを得た。次いで、このペーストを、空気養生(25℃×28日間)を行って繊維補強セメントペーストを得た。上記セメントペーストより、4cm×4cm×16cmのサンプルを切り出し試験片とした。上記試験片を、3点曲げ測定法にしたがって測定した。
すなわち、10トン用引張圧縮試験機(TOYO BALDWIN社製、UNIVERSAL TESTING INSTRUMENT MODEL UTM 10t)を用い、支点間距離10cmの中心を2mm/分の速度で圧縮し、応力の最高点より曲げ強度を求めた。
【0019】
[実施例1]
補強用繊維として帝人テクノプロダクツ(株)製のアラミド繊維テクノーラ(引張弾性率74GPa、繊度20dtex、断面径45μm、長さ6mm、アスペクト比133)を混合体積分率Vf、すなわちセメントマトリックスに対する繊維分率が1.0%となるように混合し、セメントペーストの流動性を示すフロー値の測定と曲げ強度測定を行い、評価結果を表1に示す。
【0020】
[比較例1]
補強用繊維材料を添加せず、セメントペーストの流動性を示すフロー値の測定と曲げ強度測定を行い、評価結果を表1に示す。
【0021】
[実施例2〜6、比較例2〜6]
実施例1において、アラミド短繊維の添加量、長さ又は単糸繊度を表1に示す通り変更してセメントペーストの流動性を示すフロー値の測定と曲げ強度測定を行い、評価結果を表1に示す。
【0022】
[実施例7]
実施例1において短繊維の添加量を3%とした以外は同様に行った。評価結果を表1に示す。3%にしてもセメントペーストの粘度上昇は少なく曲げ強度も良好であった。
【0023】
[比較例7]
実施例1においてアラミド短繊維として帝人テクノプロダクツ(株)製のアラミド繊維コーネックス(引張弾性率7GPa、 繊度14.4dtex、断面径38μm、長さ6mm、アスペクト比159)を用いた以外は同様に行った。評価結果を表1に示す。
【0024】
[比較例8]
実施例1においてアラミド短繊維の代わりに帝人ファイバー(株)製のポリエステル短繊維テイジンテトロン(引張弾性率13GPa、繊度24dtex、断面径48μm、長さ6mm、アスペクト比125)を用いた以外は同様に行った。評価結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のセメント補強用短繊維は混入によるコンクリートの流動性低下が小さく、施工が繊維未混入と同様に可能であり且つ、優れた機械特性を有した耐久性の高いコンクリート、モルタル、セメント材料を得ることができるので、各種コンクリート補強用途などに好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張弾性率が45GPa以上、長さが1〜60mm、単糸繊度が10〜100dtexであることを特徴とするセメント補強用短繊維。
【請求項2】
短繊維が、ポリオレフィン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ポリアミド繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリアリレート繊維、ポリベンザゾール繊維、セラミック繊維、鋼繊維、動物繊維、及び植物繊維からなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載のセメント補強用短繊維。
【請求項3】
アラミド繊維が、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維である請求項2に記載のセメント補強用短繊維。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載のセメント補強用短繊維を含むセメント組成物。

【公開番号】特開2009−298635(P2009−298635A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−154068(P2008−154068)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】