説明

セメント製造設備からの排ガス中の水銀成分及び有機塩素化合物の低減方法

【課題】セメント製造設備から排出される排ガス中において、水銀成分ならびにPCBおよびダイオキシン類などの有機塩素化合物の排出量を効率的に低減させることができる方法を提供すること。
【解決手段】セメント製造設備の集塵機後半部分で捕集された集塵ダストを加熱炉に導き、キャリヤーガス導入下、300〜600℃に加熱して、集塵ダスト中の水銀成分及び有機塩素化合物を揮発させ、該加熱炉を出た排ガスを、水銀成分除去装置中で水と接触させて水銀成分を吸収し、該水銀成分除去装置を出た排ガスを800℃以上のセメント製造設備内の高温部に導いて有機塩素化合物を分解することを特徴とするセメント製造設備からの排ガス中の水銀成分及び有機塩素化合物の低減方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントの製造設備から排出される排ガス中の水銀成分及び有機塩素化合物を効率よく低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄物の再利用は社会的に重要な課題であり、セメント製造工場においても、各種の汚泥、焼却灰、廃プラスチックなどの廃棄物をセメント原料や燃料として使用することが少なくない。
これらの廃棄物には、多くの場合、重金属類が含有されており、そのうち、水銀等およびその塩化物等の揮発性重金属成分は、セメント製造設備の高温部において揮発し、ガス中に含有される。その後、ガスの温度が低下するのに伴いガス中に含有されるダストの表面にこれらの重金属等が析出し、あるいは重金属やその化合物自身の微粒子となる。これらのダストや微粒子は煙道の電気集塵機で捕集され、ガス中から除去される。
また、セメント製造設備内では、セメント原料や燃料としてセメント製造設備に持ち込まれる石炭、木屑、汚泥および廃プラスチック等の可燃物が完全燃焼せずに生成する未燃ガスと、廃プラスチック等から持ち込まれる塩素分が反応し、PCBおよびダイオキシン類などの有機塩素化合物が合成される。これら有機塩素化合物もセメント製造設備の高温部において揮発し、ガス中に含有され、より低温の電気集塵機内でダストに吸着する。
水銀等の重金属類、ダイオキシン類およびPCBなどの有機塩素化合物のいずれも、一部は煙道から外気へ排出されるが、大部分はセメント製造設備内を循環することとなる。
このため、ガス中の水銀や有機塩素化合物を処理する手段を設けないと、セメント製造設備内を循環する水銀等の重金属類、ダイオキシン類およびPCBの量が増加し、ガス温度の低下に伴って水銀等がダクトに析出したり、セメント製造設備の煙突から排出される排ガス中の水銀排出量、有機塩素化合物排出量が増える等の問題を生じる。
【0003】
特許文献1には、セメント製造設備内でダイオキシン類およびPCBなどの有機塩素化合物が発生する原因がセメント原料中の塩素分にあると考え、セメント原料を原料ミルに投入する前に予加熱器で予加熱して、有機塩素化合物をセメント原料などから分離し、発生した有機塩素化合物を含む熱処理ガスを、セメント製造設備内の通常運転時に800℃以上となる高温部に供給して、熱処理ガス中の有機塩素化合物を熱分解する、セメント製造設備からの排ガス中の有機塩素化合物低減方法が記載されている。
しかしながら、大量のセメント原料を予加熱することは、大型の予加熱器と多量の熱量を要し、大がかりな処理となる。
特許文献2には、セメント製造工程の排ガスから捕集した集塵ダストを加熱炉に導き、集塵ダストに含まれる水銀等を揮発温度以上に加熱してガス化して、酸性ないし酸化性溶液に吸収させる方法等によって水銀を除去し、水銀等を除去した集塵ダストをセメント原料の一部に用いるセメント製造排ガスの処理方法が記載されている。
しかしながら、特許文献2は、セメント製造工程の有機塩素化合物については全く考慮されていない。すなわち、塩素化合物と水銀が共存する系を加熱すれば、塩化第2水銀(HgCl2)が主体となるにもかかわらず、特許文献2では、元素状水銀(金属水銀)を吸収するために、吸収液としては酸性溶液ないし酸化性溶液が用いられている。また、セメント製造工程の有機塩素化合物の除去については全く記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4075909号公報
【特許文献2】特開2002−355531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、セメント製造設備から排出される排ガス中において、水銀成分ならびにPCBおよびダイオキシン類などの有機塩素化合物の排出量を効率的に低減させることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の構成からなる、セメント製造設備からの排ガス中の水銀成分及び有機塩素化合物の低減方法である。
(1)セメント製造設備の集塵機後半部分で捕集された集塵ダストを加熱炉に導き、キャリヤーガス導入下、300〜600℃に加熱して、集塵ダスト中の水銀成分及び塩素化合物を揮発させ、該加熱炉を出た排ガスを、水銀成分除去装置中で洗浄水と接触させて水銀成分を吸収し、該水銀成分除去装置を出た排ガスを800℃以上のセメント製造設備内の高温部に導いて有機塩素化合物を分解することを特徴とするセメント製造設備からの排ガス中の水銀成分及び有機塩素化合物の低減方法。
(2)加熱炉に導入するキャリヤーガスが、セメント製造設備において排出された熱排ガスである上記(1)に記載のセメント製造設備からの排ガス中の水銀成分及び有機塩素化合物の低減方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、既存のセメント製造設備に小規模な設備を付加して、水銀成分及び有機塩素化合物を高濃度に吸着した集塵機後半部分の集塵ダストの一部を加熱処理し、その排ガスの後処理を行うことにより、セメント製造設備内を循環する水銀成分及び有機塩素化合物の一部を除去し、その結果、セメント製造設備から系外へ排出される排ガス中における、水銀成分及び有機塩素化合物の排出量を、効率的に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る水銀成分及び有機塩素化合物の低減方法のために使用されるセメント製造設備(部分図)の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明は、セメント製造設備の集塵機後半部分で捕集された集塵ダストを加熱炉に導き、300〜600℃に加熱して、集塵ダスト中の水銀成分及び有機塩素化合物を揮発させ、該加熱炉を出た排ガスを、水銀成分除去装置中で洗浄水と接触させて水銀成分を吸収し、該水銀成分除去装置を出た排ガスを800℃以上のセメント製造設備内の高温部に導いて有機塩素化合物を分解するセメント製造設備からの排ガス中の水銀成分及び有機塩素化合物の低減方法である。なお、本明細書で、水銀成分とは、元素状水銀(金属水銀)及び塩化第2水銀を指し、有機塩素化合物とは、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、ダイオキシン類等を指す。
【0010】
本発明に係る水銀成分等の低減方法のために使用されるセメント製造設備(部分図)の一例を図1に示す。本発明に使用されるセメント製造設備は、通常のセメント製造設備において、電気集塵機23で捕集した集塵ダストを加熱する加熱炉30と、加熱炉30の排ガスから水銀等を除去する水銀成分除去装置40とが付設され、水銀成分除去装置40の排ガスをロータリーキルン15の窯尻部(800℃以上の高温部)へ投入することができるガス配送管50を設けたものである。なお、水銀成分除去装置を出た排ガスを投入できる800℃以上の高温部としては、後述するように、他に、ロータリーキルン15の窯前部または仮焼炉14などが挙げられる。
【0011】
本発明に使用されるセメント製造設備において、セメント原料に対しては、通常のセメント製造工程での処理が行われる。
すなわち、原料ミル11により粉砕されたセメント原料を貯蔵サイロ12に一旦貯蔵し、次に貯蔵サイロ12内のセメント原料をプレヒーター13(図中の4つのサイクロン)により予熱し、続いて仮焼炉14で石灰石が脱炭酸されるまで昇温し、昇温されたセメント原料をロータリーキルン15内で加熱してセメントクリンカーを焼成する。その後、セメントクリンカーをクリンカークーラーに投入して冷却する。
【0012】
一方、本発明に使用されるセメント製造設備において、ガスは次のような流れとなる。
セメント原料がプレヒーター13、仮焼炉14及びロータリーキルン15内で加熱されることにより、セメント原料中に含まれる水銀成分や有機塩素化合物は、排出ガス中に揮発し、そのガスはプレヒーター13の最上段のサイクロン(出口のガス温度は約400℃)を出て沈降室21に送られる。
沈降室21で粒子径の大きいダストが分離され、スタビライザー22でガス温度を調節された排ガスは、電気集塵機23に送られる。なお、沈降室21を出た排ガスは原料ミル11にも送られ、原料ミル11から出た排ガスは電気集塵機23に送られる排ガスに合流する。
電気集塵機23ではガス中に含まれる粒子径の小さいダストが捕集される。
電気集塵機23中のガス温度は、約80〜150℃程度であるので、ガス中の水銀成分や有機塩素化合物の大部分はダスト中の未燃物に吸着される。そして、電気集塵機23中で捕集される集塵ダストは、後半部分の方が前半部分よりも粒子径が小さく、水銀成分や有機塩素化合物が高濃度に吸着される。
電気集塵機23前半部分で捕集された集塵ダストは、直接、原料混合・供給系の混合サイロ・貯蔵サイロ12へ送られ、電気集塵機23後半部分で捕集された、水銀成分等をより高濃度に吸着した集塵ダストは加熱炉30へ送られる。そして、電気集塵機23でダストが捕集された排ガスは、一部が煙突24を通って系外へ放出される。他の排ガスは、ダストと共に混合サイロ・貯蔵サイロ12に入り、次いで、セメント原料と共にプレヒーター13へ送られることで、セメント製造設備内でガス循環系が形成されている。
【0013】
加熱炉30へ送られる電気集塵機後半部分で捕集された、水銀成分等をより多量に吸着した集塵ダストは、炉内を搬送される間に300〜600℃に加熱され、水銀成分及び有機塩素化合物が揮発し、キャリヤーガスにより水銀成分除去装置40へ排出される。ここで、水銀成分とは、前記のように、元素状水銀(金属水銀)及び塩化第2水銀を指すが、塩素化合物が共存する集塵ダストを加熱炉30で加熱すると、水銀原子の50%以上が塩化第2水銀となる。
【0014】
加熱炉30は、既存のセメント製造設備の系外に付設される装置で、その構造は限定されない。例えば、加熱スクリュー式の加熱器、パドル式の加熱器、ロータリー式の加熱器などを採用することができる。
加熱炉30の熱源は、電気加熱、熱風加熱またはバーナー加熱などを採用することができる。
加熱炉30のキャリヤーガスとしては、空気、窒素ガスあるいは窒素リッチガス(窒素濃度が90%以上)およびセメント製造設備の排ガスや排空気を利用することができ、セメント製造設備の排ガスや排空気の内300℃以上の排ガス、排空気を用いれば、ダストの加熱処理に必要な熱量を低減することができる。
【0015】
加熱炉30中の集塵ダストの加熱温度は、300〜600℃であるが、300℃未満では、集塵ダストからの水銀成分及び有機塩素化合物の分離が不十分となり、600℃を超えると、水銀成分等の分離効果は変わらず、エネルギー的に不経済となる。
加熱炉30中の集塵ダストの滞留時間は30〜120分程度であることが好ましい。
【0016】
加熱炉30中で水銀成分及び有機塩素化合物が分離された集塵ダストは、原料混合・供給系の混合サイロ・貯蔵サイロ12へ送られ、原料化される。
【0017】
集塵ダスト中の水銀成分及び有機塩素化合物を揮発させた高温のキャリヤーガスは、水銀成分除去装置40に導いて吸収液である80℃以下の洗浄水と接触させることにより、キャリヤーガス中の塩化第2水銀は吸収液に吸収され、金属水銀は沈殿物として水銀成分除去装置40の底部に溜まる。
塩化第2水銀吸収液は排水処理設備で処理され、水銀成分除去装置40の底部の金属水銀は定期的に取り出される。
【0018】
水銀成分除去装置40としては、スプレー塔、サイクロンスクラバー、漏れ棚塔などが挙げられる。
【0019】
水銀成分が除去され、有機塩素化合物が含まれる、水銀成分除去装置40を出た排ガスは、ガス配送管50を通って800℃以上のセメント製造設備内の高温部に投入される。800℃以上のセメント製造設備内の高温部としては、プレヒーター13の下段部、仮焼炉14、ロータリーキルン15の窯尻部、ロータリーキルン15の窯前部、クリンカークーラーの高温部などが挙げられる。
該高温部において、PCBおよびダイオキシン類などの有機塩素化合物は分解される。
【0020】
本発明に使用されるセメント製造設備においては、以上のように、集塵機23後半部分で捕集された集塵ダストの一部を加熱炉30に導き、加熱処理して、集塵ダスト中の水銀成分及び有機塩素化合物を揮発させ、加熱炉30を出た排ガスを、水銀成分除去装置40中で水と接触させて水銀成分を吸収し、水銀成分除去装置40を出た排ガスを800℃以上のセメント製造設備内の高温部に導いて有機塩素化合物を分解するものであり、セメント製造設備内を循環する水銀成分及び有機塩素化合物の一部が除去される。
すなわち、集塵機23後半部分で捕集された集塵ダストの一部(集塵ダスト全体の1/20量〜1/3量)を加熱炉内で300〜600℃に加熱して上記の後処理をすることによる水銀成分、有機塩素化合物の除去量は、水銀成分のセメント製造設備内への外部からの通常の持ち込み量、有機塩素化合物のセメント製造設備内への外部からの通常の持ち込み量及びセメント製造設備内での生成量を上回る。その結果、水銀成分及び有機塩素化合物のセメント製造設備内の循環量、及びそれと平衡な(電気集塵機23出口から煙突24を通って)系外へ排出される排ガス中の水銀成分及び有機塩素化合物の濃度は、連続運転により大幅に低減してゆく。
【実施例】
【0021】
以下、実施例によって本発明をより具体的に示す。
【0022】
〔実施例1〕
セメント製造設備の電気集塵機で捕集されたダストの内、後段側で捕集されたダストの一部を加熱炉(電気加熱方式)に導いてキャリヤーガス(空気)導入下、加熱処理し、ダスト中の水銀成分とPCBをキャリヤーガス中に揮発させた。このキャリヤーガスを水銀成分除去装置(スプレー方式)に導いて洗浄水と接触させることによりキャリヤーガス中の水銀成分(塩化第2水銀78%)を吸収液に吸収除去もしくは沈殿分離し、続いて水銀成分除去装置を出たキャリヤーガスをセメント製造装置のロータリーキルン15の窯尻部に吹き込んだ。ダスト処理の条件、加熱処理前後のダストの水銀成分濃度、PCB濃度を表1に示した。水銀成分の除去量は5.4kg/日(加熱処理による除去率69%、処理開始一日目)、PCBの除去量は475g/日(加熱処理による除去率95%、処理開始一日目)と計算される。そして、このダスト処理の条件で連続運転した時の電気集塵機出口ガス(系外へ排出されるガスに同じ)における水銀成分とPCBの排出濃度の経日変化を表1に示した。この連続運転時における、セメント製造設備への水銀成分の外部からの持ち込み量は約1.6kg/日であり、PCBの外部からの持ち込み量及びセメント製造設備内での生成量は約240g/日であった。
【0023】
【表1】

【0024】
表1に示すように、本発明の方法によれば、集塵機後半部分で捕集された集塵ダストを加熱炉で水銀成分及びPCBを分離して処理し、セメント製造設備内の循環系から除去することにより、セメント製造設備から系外へ排出される排ガス中の水銀成分濃度及びPCB濃度を格段に低減することができた。
【符号の説明】
【0025】
11 原料ミル
12 原料混合・供給系サイロ(混合サイロ・貯蔵サイロ)
13 プレヒーター
14 仮焼炉
15 ロータリーキルン
21 沈降室
22 スタビライザー
23 電気集塵機
24 煙突
30 加熱炉
40 水銀成分除去装置
50 ガス配送管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント製造設備の集塵機後半部分で捕集された集塵ダストを加熱炉に導き、キャリヤーガス導入下、300〜600℃に加熱して、集塵ダスト中の水銀成分及び有機塩素化合物を揮発させ、該加熱炉を出た排ガスを、水銀成分除去装置中で洗浄水と接触させて水銀成分を吸収し、該水銀成分除去装置を出た排ガスを800℃以上のセメント製造設備内の高温部に導いて有機塩素化合物を分解することを特徴とするセメント製造設備からの排ガス中の水銀成分及び有機塩素化合物の低減方法。
【請求項2】
加熱炉に導入するキャリヤーガスが、セメント製造設備において排出された熱排ガスである請求項1に記載のセメント製造設備からの排ガス中の水銀成分及び有機塩素化合物の低減方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−84425(P2011−84425A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−237592(P2009−237592)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】