説明

セラミックアンテナ用誘電体磁器組成物

【課題】材料特性が安定し、比誘電率が90以上と高く、アンテナ共振周波数温度特性が小さく、GPS用セラミックアンテナに好適な誘電体磁器組成物を提供する。
【解決手段】セラミックス成分BaO16〜18モル%、Nd2 3 5〜15モル%、TiO2 68〜75モル%である組成に対し、添加物としてBi2 3 10〜20重量%、Al2 3 0.2〜1.0重量%、MnO2 0.2〜0.4重量%を加え、比誘電率90以上としたセラミックアンテナ用誘電体磁器組成物である。ここで、Nd2 3 の一部をCe2 3 5〜7モル%で置換してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GPS用セラミックアンテナに用いる誘電体磁器組成物に関し、更に詳しく述べると、BaO−Nd2 3 −TiO2 系をベースとする高誘電率のセラミックアンテナ用誘電体磁器組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
GPSは人工衛星を利用した測位システムであり、測位に必要なデータを周波数拡散方式で変調した1575MHzの電波が使用されている。人工衛星から送信されている電波をアンテナで受信し、受信した信号を高周波回路へ出力する。GPSアンテナとしては、高誘電率のセラミックス部材の表面に必要なパターンの電極を形成したセラミックアンテナが用いられている。
【0003】
従来、移動体通信や衛星通信などで使用する誘電体共振器やフィルタなどのマイクロ波デバイス用材料として、BaO−Ln2 3 −TiO2 系(但し、LnはLa,Nd,Sm等の希土類元素を表す)をベースとする種々の誘電体磁器組成物が開発されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
しかし、従来のマイクロ波用誘電体磁器組成物は、比誘電率が小さく(90未満)、アンテナ共振周波数温度特性が大きい。そのためGPSアンテナ材料には不向きである。また、材料としての共振周波数温度特性とアンテナにしたときの共振周波数温度特性とが一致しない現象が多く見られ、材料としての共振周波数温度特性が良好でも、必ずしもアンテナとして優れたものとはならない問題がある。更に、この種の誘電体磁器組成物は、製造条件により比誘電率や共振周波数温度特性が敏感に反応し、安定化が困難である。
【特許文献1】特開平7−335024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、材料特性が安定し、比誘電率が90以上と高く、アンテナ共振周波数温度特性が小さく、GPS用セラミックアンテナに好適な誘電体磁器組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、セラミックス成分BaO16〜18モル%、Nd2 3 5〜15モル%、TiO2 68〜75モル%である組成に対し、添加物としてBi2 3 10〜20重量%、Al2 3 0.2〜1.0重量%、MnO2 0.2〜0.4重量%を加え、比誘電率90以上としたことを特徴とするセラミックアンテナ用誘電体磁器組成物である。
【0007】
また本発明は、セラミックス成分BaO16〜18モル%、Nd2 3 5〜7モル%、Ce2 3 5〜7モル%、TiO2 68〜75モル%である組成に対し、添加物としてBi2 3 10〜20重量%、Al2 3 0.2〜1.0重量%、MnO2 0.2〜0.4重量%を加え、比誘電率90以上としたことを特徴とするセラミックアンテナ用誘電体磁器組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のセラミックアンテナ用誘電体磁器組成物は、BaO−Nd2 3 −TiO2 系をベースとすることで基本的に比誘電率90以上の高誘電率特性を呈することを利用し、それに比較的多量のBi2 3 等を添加することで焼結性を高め、大気中焼成を可能にして材料特性を安定化させ、アンテナにしたときの共振周波数温度特性を非常に小さくすることができる。これらの効果によって、良好なGPSセラミックアンテナを製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、BaO−Nd2 3 −TiO2 系組成物に対して、添加物としてBi2 3 10〜20重量%、Al2 3 0.2〜1.0重量%、MnO2 0.2〜0.4重量%を加えたものである。主要なセラミックス成分をBaO16〜18モル%、Nd2 3 5〜15モル%、TiO2 68〜75モル%としたのは、比誘電率εr が90以上の高誘電率特性が得られる組成系だからである。ここで、Nd2 3 の一部をCe2 3 5〜7モル%で置換することもできる。かなり多量のBi2 3 を添加している点が、本発明の一つの特徴である。
【0010】
BaOを16〜18モル%としたのは、16モル%未満では比誘電率εr が90未満となり、逆に18モル%を超えても比誘電率εr が90未満となるため不適だからである。また、Nd2 3 が15モル%を超えても比誘電率εr が90未満となるし、TiO2 が75モル%を超えても比誘電率εr が90未満となる。Bi2 3 は、その添加量を多くすることで、焼結性を高め、大気中焼成を可能とし、またイオン半径が大きいことから比誘電率εr を高める機能も果たす。Bi2 3 が10重量%未満ではこの機能が乏しく比誘電率εr が低くなるし、20重量%を超えるとアンテナの共振周波数温度特性が大きくなり、いずれも不適となる。Al2 3 は少なすぎると(0.2重量%未満では)、やはり比誘電率εr が低くなる。適量の添加は、焼結性の向上に有効である。MnO2 の適量の添加は、アンテナの共振周波数温度特性の低減に有効である。なお、Nd2 3 の一部をCe2 3 5〜7モル%で置換することも有効である。Ce2 3 はNd2 3 に類似した化学的性質を有し、一部の置換で同様の電気的特性を発現させることができるし、しかも安価であることから、コストダウンに有効だからである。
【0011】
このようなセラミックアンテナ用誘電体磁器組成物は、固相成長法により焼結体が形成され、大気中で焼結できるので材料特性のばらつきを小さくできる。本発明により、材料特性が安定し、比誘電率が90以上で、アンテナ共振周波数温度特性が極めて良好なセラミックアンテナを得ることができる。
【実施例】
【0012】
いずれも純度98%以上のBaO、Nd2 3 、Ce2 3 、TiO2 、Bi2 3 、Al2 3 、MnO2 を、原料比率を種々変えるように所定量秤量し、ボールミルにて湿式混合(水を用いて20時間)を行った。乾燥後、自動乳鉢で解砕した。次いで、大気中1000〜1200℃で仮焼を行い、自動乳鉢で粒径2〜3μmに解砕し、原料粉体を調製した。この原料粉体と有機バインダ(PVA:5〜10重量%)を混合し、造粒した。造粒後、3t/cm2 の圧力で所定形状にプレス成形し、大気中1100〜1300℃で焼成を行った。
【0013】
アンテナの作製は、焼成品の4面にスクリーン印刷によって導体ペーストをパターニングし、約800℃で焼き付けて電極を形成した。
【0014】
22種類の試料について、組成と材料特性(比誘電率εr と共振周波数温度特性τf )及びアンテナの共振周波数温度特性ant-τf の測定値を表1に示す。比誘電率εr と共振周波数温度特性τf は、通常のマイクロ波用材料の特性測定方法を用いている。因みに、共振周波数温度特性τf は、円柱体の上下面に電極を形成し、温度を変えながら共振周波数を測定したものである。それに対してアンテナの共振周波数温度特性ant-τf は、作製したアンテナについて温度を変えながら共振周波数を測定したものである。これら共振周波数温度特性の単位はppm/℃である。合否欄は、セラミックアンテナとしての適・不適を○と×で表している。なお、備考欄は、主に組成を変動させた元素名を示している。
【0015】
【表1】

【0016】
合否欄から、本発明によって、比誘電率εr が90以上と非常に高く、アンテナの共振周波数温度特性ant-τf を±4ppm/℃以内というように非常に小さくでき、0にすることも可能であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス成分BaO16〜18モル%、Nd2 3 5〜15モル%、TiO2 68〜75モル%である組成に対し、添加物としてBi2 3 10〜20重量%、Al2 3 0.2〜1.0重量%、MnO2 0.2〜0.4重量%を加え、比誘電率90以上としたことを特徴とするセラミックアンテナ用誘電体磁器組成物。
【請求項2】
セラミックス成分BaO16〜18モル%、Nd2 3 5〜7モル%、Ce2 3 5〜7モル%、TiO2 68〜75モル%である組成に対し、添加物としてBi2 3 10〜20重量%、Al2 3 0.2〜1.0重量%、MnO2 0.2〜0.4重量%を加え、比誘電率90以上としたことを特徴とするセラミックアンテナ用誘電体磁器組成物。

【公開番号】特開2007−290879(P2007−290879A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−117502(P2006−117502)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(000237721)FDK株式会社 (449)
【Fターム(参考)】