説明

セラミックスおよび炭素繊維強化プラスチックを含む構造体

【課題】表面の平面度に優れ、熱膨張が小さく、かつ高い比剛性を有する構造体を提供する。
【解決手段】(A)炭素繊維強化プラスチック部材21、および前記(A)炭素繊維強化プラスチック部材に接合された(B)セラミックス部材31を含み、前記(A)炭素繊維強化プラスチック部材21と前記(B)セラミックス部材31を接合する為に、前記(A)炭素繊維強化プラスチック部材の未硬化状態の接着力を使用する事を特徴とする構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックスおよび炭素繊維強化プラスチックを含む構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIおよびLCDの高集積度化・大型化に伴い、LSI等を製造する装置には、サブミクロンレベル以下の加工精度が要求されている。LSI等の製造装置は真空チャック、ステージ、ステージ位置測定ミラー、ステージ位置決め装置等のユニットにより構成されており、これらのユニットを構成する部材には、以下の性能が要求されている。
【0003】
まず、LSI等の製造装置に用いられる部材自身が、精度良く加工されていることが必要である。例えば縮小投影型露光装置(ステッパーともいう)またはウエハ欠陥検査装置における、シリコンウエハを保持しつつ所望の位置にウエハを移動させるステージは、正確な位置決めをするため、その構成部材に高い平面度が要求される。
【0004】
次に、前記部材は外的要因によって寸法変化しにくいことが求められる。一般に外力による寸法変化を低減させるには部材の剛性(ヤング率ともいう)を高くすることが有効である。しかし前記ステッパーのように高速で移動した後、急激に停止される場合は、剛性が高いだけでなく、軽量であることが必要である。部材が軽量であると部材に働く慣性力を低下させることができるので、高精度の位置決めを短時間で行うことができる。すなわちLSI等の製造装置に用いられる部材には比剛性(剛性/比重)が高いことが望まれる。
【0005】
さらに、前記部材は外力による変形だけでなく、機械の動作によって発生する熱により部材の温度が変化しても、寸法が変化しないことが必要である。すなわち、前記部材は熱膨張が小さいことが必要とされる。
【0006】
従来、前記部材には、比剛性の高いSiC(ヤング率約400GPa、密度3.2g/cm、比剛性125(GPa/(g/cm)))、窒化珪素、サイアロン(ヤング率約280GPa、密度3.2g/cm、比剛性87.5(GPa/(g/cm))等のセラミックス材料が用いられてきた。これらは比剛性が高く、かつ表面を高い平面度に加工することができる。しかし、SiCは室温付近での熱膨張係数が2×10−6/℃であり熱による寸法変化が問題になっていた。また、SiC及びサイアロンは、密度が約3.2g/cmと大きいことも問題であった。
【0007】
このような部材の熱膨張を小さく、かつ密度を小さくするために、石英や緻密質低熱膨張セラミックスを用いることが提案されている。特許文献1には、セラミックスであるコ−ディライトを80質量%以上、望ましくは希土類元素を酸化物換算で1〜20質量%含有し、気孔率が0.1%以下、10〜40℃における熱膨張係数が1×10−6/℃以下である緻密質低熱膨張セラミックスからなる半導体製造装置用部材が開示されている。しかし当該材料はヤング率が140GPa、密度が2.5g/cmであるため比剛性が56(GPa/(g/cm))と小さく、高精度の位置決めを短時間に行うことが困難であった。
【0008】
熱膨張係数ならびに密度が小さく、かつ比剛性が高い材料として、炭素繊維強化プラスチック(CFRPともいう)が知られている。CFRPの物性は炭素繊維の配向に依存するが、一般にヤング率が140〜200GPaであり、密度が1.6〜1.8g/cmであるので、比剛性は80〜120(GPa/(g/cm))である。また熱膨張係数は−1.4〜5.0×10−6/℃以下である。
しかしCFRP成形体は、高い平面度、あるいは鏡面研磨を実現する事が困難であった。これは研削等の加工において、剛性の高い炭素繊維に比べ剛性の低いプラスチックの加工されやすさが異なるため、一方が加工されやすく、他方が加工されにくくなることが主たる原因と考えられる。従って、CFRPでは表面の平面度に優れた部材を得ることが困難であった。
【特許文献1】特開平11−209171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、表面の平面度に優れ、熱膨張が小さく、高い比剛性を有し、かつ軽量である構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは鋭意検討した結果、以下の本発明により上記課題が解決されることを見出した。すなわち上記課題は、以下のセラミックス部材および繊維強化プラスチック部材を含む構造体により解決される。
[1](A)炭素繊維強化プラスチック部材、および
(B)前記炭素繊維強化プラスチック部材に接合されたセラミックス部材を含み、
前記(A)炭素繊維強化プラスチック部材と前記(B)セラミックス部材を接合する為に、炭素繊維強化プラスチック部材の未硬化状態の接着力を使用する事を特徴とする構造体。
[2]前記(A)炭素繊維強化プラスチック部材、および(B)セラミックス部材は、前記接合面に平行な方向の10〜40℃における熱膨張係数がそれぞれ−1.15×10−6/℃以上1.15×10−6/℃以下であって、
前記(B)セラミックス部材は、前記接合面以外の面の平面度が5μm以下である[1]記載の構造体。
[3]前記構造体は、前記(A)炭素繊維強化プラスチック部材と前記(B)セラミックス部材を(A)炭素繊維強化プラスチック部材の未硬化状態の接着力を使用して接合された後に、セラミック部材の前記接合面以外のいずれかの面が研磨加工されて平面度が5μm以下にされていることを特徴とする、[1]または[2]記載の構造体。
[4]前記(B)セラミックス部材は、接合後の加工により厚みが3mm以下の板状にされていることを特徴とする[1]〜[3]いずれかに記載の構造体。
[5]前記接合は前記(A)炭素繊維強化プラスチック部材の一枚のプリプレグによりなされることを特徴とする[1]〜[4]いずれかに記載の構造体。
[6]前記(A)炭素繊維強化プラスチック部材、または(B)セラミックス部材は、無機物によりコーティングされている、[1]〜[5]いずれかに記載の構造体。
[7] [1]〜[6]のいずれかに記載の構造体を用いた半導体製造装置用部材。
[8]基板を保持して移動する基板ステージを有し、前記基板ステージに保持された基板を露光する露光装置であって、
前記基板ステージは、[1]〜[6]のいずれかに記載の構造体を含む、ことを特徴とする露光装置。
[9] [8]に記載の露光装置を用いて基板を露光する工程と、
前記工程で露光された基板を現像する工程と、を有することを特徴とするデバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により表面の平面度に優れ、熱膨張が小さく、高い比剛性を有し、かつ軽量である構造体が提供できる。その結果、精密加工が可能なLSI等製造装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
1.構造体
本発明の構造体は、(A)炭素繊維強化プラスチック部材、および(B)前記炭素繊維強化プラスチック部材に接合されたセラミックス部材を含み、前記(A)炭素繊維強化プラスチック部材と前記(B)セラミックス部材を接合する為に、(A)炭素繊維強化プラスチック部材の未硬化状態の接着力を使用する事を特徴とする。
【0013】
(A)炭素繊維強化プラスチック部材とは、炭素繊維強化プラスチック(CFRPともいう)を成形して得た部材であり、炭素繊維強化プラスチック成形体ともいう。CFRPについては後で詳しく述べる。(B)セラミックス部材とは、セラミックスを成形して得た部材であり、セラミックス成形体ともいう。セラミックスについては後で詳しく述べる。
【0014】
本発明の構造体は図1〜図6に示すように炭素繊維強化プラスチック部材、および前記炭素繊維強化プラスチック部材に接合されたセラミックス部材を含む。本発明の構造体はCFRPを用いているため軽量であって比剛性が高く、セラミックス部材を用いているので表面の平面度に優れる。
【0015】
図1は本発明の構造体の一態様を示す斜視図である。図1において1は構造体であり、2はCFRP部材、3はセラミックス部材である。図1に示されるとおり、本発明の構造体は板状に成形されたCFRP部材に、板状に成形されたセラミックス部材が接合されている。
【0016】
図2は本発明の構造体の第二の態様を示す斜視図である。図に示されるとおり、複数のセラミックス部材がCFRP部材に接合されている。図3は本発明の構造体の第三の態様を示す斜視図である。図に示されるとおり、セラミックス部材の中央部分に溝が設けてある。図4は本発明の構造体の第四の態様を示す斜視図である。図に示されるとおり、セラミックス部材は角錐台状に設けられている。これらの図に示す構造体は、セラミックス部材の使用量が少ないので構造体全体を低比重とできるため好ましい。図5は本発明の構造体の第五の態様を示す斜視図である。図に示されるとおり、セラミックス部材がCFRPを接合部材の下側にも設けられている。
【0017】
図6aは本発明の構造体の第六の態様を示す斜視図であり、図6bは図6aの線で切断した断面を矢印方向から見た断面図である。図に示されるとおり、箱型に成形されたCFRP部材21の天面にセラミックス部材31が接合され、4つの側面にそれぞれセラミックス部材32が接合されている。箱型CFRP部材21の内部には補強用のCFRP部材22が接合されている。
【0018】
本発明の構造体は、前述のとおりCFRP部材、およびセラミックス部材の、これらの接合面に平行な方向における10〜40℃における熱膨張係数がそれぞれ−1.15×10−6/℃以上1.15×10−6/℃以下であることが好ましい。
さらに、前述のCFRP部材、およびセラミックス部材の熱膨張係数は、10〜40℃の範囲で、構造体の使用温度において、それぞれ−1.15×10−6/℃以上1.15×10−6/℃以下であればよい。例えば、使用温度が23〜24℃であれば、その温度範囲で−1.15×10−6/℃以上1.15×10−6/℃以下であればよい。
このような範囲に前記熱膨張係数の値が存在すると、当該構造体をLSI等の製造装置に用いた際に、装置の稼働による発熱に起因する寸法変化が低減され、高精度のLSI等の加工が可能となる。
【0019】
熱膨張係数とは温度の上昇によって生じる物体の長さ・体積の変化を、1℃当たりの変化率で示した値である。本発明においては、JIS R 3251−1995に準拠し、光干渉を用いて測定することが好ましい。具体的には、二重光路マイケルソン型レーザー干渉計(例えばアルバック理工株式会社製、LIX−2型等)を用いて測定することができる。あるいは表面の変位をひずみゲージで測定して評価してもよい。
【0020】
セラミックス部材、CFRP部材の前記熱膨張係数は、これらを接合する前の状態で測定することが好ましい。この場合、各部材について接合面となりうる面に平行な方向の前記熱膨張係数を測定する。
または、セラミックス部材、CFRP部材を接合して得た構造体のセラミックス部材表面、CFRP部材表面にひずみゲージをそれぞれ配置して、各部材の熱膨張係数を測定してもよい。例えば、板状のCFRP部材とセラミックス部材を接合した構造体である場合、CFRP部材の接合面とは反対の面およびセラミックス部材の接合面とは反対の面にひずみゲージを配置して、熱膨張係数を測定することができる。
【0021】
前記「接合面に平行な方向」とは接合面の長さ方向および幅方向を意味する。例えば図1においてはXおよびY方向を意味する。
CFRP部材は等方性ではないため、接合面に平行な方向の10〜40℃における熱膨張係数(「平行方向の熱膨張係数」ともいう)を微視的に見た場合、成形体の厚み方向において均一でないことがある。たとえば、表層から0.5mmの領域と、表層から0.5〜2mmの領域における平行方向の熱膨張係数が異なることがある。しかしながら巨視的に見た熱膨張係数、すなわちCFRP成形体全体の熱膨張係数は、概ね厚み方向で異なる熱膨張係数の値を平均した値となる。従って本発明におけるCFRP部材の熱膨張係数は、部材全体の平均値すなわち、成形されたCFRP部材を前記光干渉法またはひずみゲージにより測定した値を意味する。
【0022】
本発明においては、構造体の寸法安定性に優れるためCFRP部材の厚み方向における平行方向の熱膨張係数はほぼ一定であることが好ましい。ただし、構造体の寸法安定性等がある程度許容される場合等は、平行方向の熱膨張係数が厚み方向において異なっていたとしても、成形体全体として平行方向の熱膨張係数の平均値が上記値の範囲にあればよい。
【0023】
CFRP部材の平行方向の熱膨張係数は前述のとおり、−1.15×10−6/℃以上1.15×10−6/℃以下であることが好ましいが、−1.0×10−6/℃以上1.0×10−6/℃以下であることがより好ましく、−0.5×10−6/℃以上0.5×10−6/℃以下であることがよりさらに好ましい。
【0024】
本発明のセラミックス部材は平行方向の熱膨張係数が−1.15×10−6/℃以上1.15×10−6/℃以下であることが好ましいが、−1.0×10−6/℃以上1.0×10−6/℃以下であることがより好ましく、−0.5×10−6/℃以上0.5×10−6/℃以下であることがよりさらに好ましい。一般にセラミックス部材は等方性であるため、厚み方向において接合面に平行な方向の熱膨張係数が異なることはない。また、接合面に平行な方向の熱膨張係数と、接合面に垂直な方向の熱膨張係数はほぼ等しい。
【0025】
本発明のセラミックス部材は、CFRP部材との接合面以外の面の平面度が5μm以下であることが必要であり、1μm以下であることが好ましい。平面度とは、ものの表面の平らさを表す指標である。平面度はJIS B 6191−1999の5.325に基づき3次元座標測定機を用いて測定されることが好ましい。具体的には、JIS B 6191−1999の5.31の定義に基づき、被測定体の基準平面を解析プログラムによって求め、この基準平面に対する偏差を算出し平面度とする。
【0026】
前記接合面以外の面とは、例えばセラミックス部材が直方体であり、その一つの面でCFRP部材と接合している場合、当該接合面以外のいずれかの面、つまり5つの非接合面のうちのいずれかを意味する。後述するように本発明においては、セラミックス部材は板状であることが好ましいため、CFRP部材との接合面以外の面とは、接合面の反対の面である。
【0027】
さらには前記非接合面のうち、相手部材との関係で高精度を必要とする面の平面度が前記範囲にあることが好ましい。相手部材との関係で高精度を必要とする面とは、例えば本発明の構造体をステッパーまたはウエハ欠陥検査装置のステージに用いた場合、相手部材(例えばウエハ)と当接する面をいう。もしくは本発明の構造体が、前記ステージに用いられた際に、相手部材と直接接しないが空気を吹きつけること等により、一定距離の間隔を以て相手部材を保持する部材である場合は、相手部材に対向する面を意味する。相手部材との関係で高精度を必要とする面の平面度が前記範囲にあると、ウエハの加工面を極めて水平に保持できるのでウエハの位置精度を高めることができる。
【0028】
図3に示すようにセラミックス部材に溝が設けてある場合、当該溝の側面および底面は相手部材との関係で高精度を必要とする面ではないため、当該面の平面度は前記範囲になくてもよい。また加工時に生ずる面ダレ領域や面取りされた面等の平面度も前記範囲になくてもよい。
【0029】
本発明の構造体は、図2、図5または図6に示すとおり、複数のセラミックス部材がCFRP部材に接合されていてもよい。その場合は、一つのセラミックス部材、および当該セラミックス部材が接合されているCFRP部材の、当該接合面に平行な方向における10〜40℃にける熱膨張係数(平行方向の熱膨張係数)がそれぞれ−1.15×10−6/℃以上1.15×10−6/℃以下であることが好ましい。さらには、当該セラミックス部材の接合面以外の面(好ましくは接合面の反対の面、より好ましくは相手部材との関係で高精度を必要とする面)の平面度が5μm以下であることが好ましい。
【0030】
例えば図6に示す構造体をステッパー用ステージとして用いた場合、構造体の天面にシリコンウエハが設置される。このため当該天面に接合されたセラミックス部材31の平行方向の熱膨張係数が前記範囲にあることが好ましい。同様にCFRP部材21の平行方向の熱膨張係数が前記範囲にあることが好ましい。さらには、天面に接合されているセラミックス部材31の接合面以外の面、特に接合面と反対の面の平面度が前記範囲にあることが好ましい。当該ステージによりウエハを精度よく位置決めできるからである。
また、セラミックス部材32の接合面に平行な方向の10〜40℃における熱膨張係数(平行方向の熱膨張係数)が前記範囲に存在することが好ましく、同部材の接合部と反対の面の平面度も前記範囲に存在することが好ましい。
さらには、CFRP部材21の接合面に平行な方向の前記熱膨張係数が前記範囲にあることがより好ましい。
【0031】
2.(A)炭素繊維強化プラスチック部材
前述のとおり、炭素繊維強化プラスチック部材は炭素繊維強化プラスチックを成形して得られる。炭素繊維強化プラスチック(CFRP)とは、炭素繊維を高分子材料中に分散させて強化した材料をいう。CFRPは高い比剛性を有するため、本発明の構造体は高い比剛性を有する。
【0032】
CFRPに用いられる高分子材料の例には、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニールエステル樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂、またはメチルメタクリレート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂等の熱可塑性樹脂が含まれる。中でも、CFRPを成形する際の成形性に優れるため熱硬化性樹脂が好ましくエポキシ樹脂であることがより好ましい。
【0033】
炭素繊維とは、有機繊維や石炭ピッチ、石油ピッチを紡糸して製造した繊維を不活性気体中で熱処理し、炭化して得られる繊維をいう。炭素繊維の例には、原料にポリアクリルニトリル(PAN)繊維を用いたPAN系炭素繊維、石炭ピッチ、石油ピッチを用いたピッチ系炭素繊維が含まれる。
炭素繊維は単繊維から構成される長繊維束(フィラメントともいう)として用いてもよく、繊維を織り込んだ織布(クロスともいう)として用いてもよい。この場合は、フィラメントまたはクロスに樹脂を含浸させてプリプレグとし、複数のプリプレグを重ね合わせてプレス成形、オートクレーブ成型等によりCFRP成形体を得ることができる。
また長繊維を切断した短繊維を用いてもよい。この場合は、樹脂と短繊維をニーダー等で混練してコンパウンドとし、当該コンパウンドを射出成形する等によりCFRP成形体を得ることができる。
CFRP部材は繊維の配向方向、繊維径、繊維の強度・剛性、繊維の含有率等によりその物性が異なる。従って、前記繊維の配向方向、繊維径等は所望の物性を満たすように選択してよい。
【0034】
本発明においては、一方向に配置したフィラメントに樹脂を含浸させたプリプレグ(UDプリプレグともいう)とクロスに樹脂を含浸させたプリプレグ(クロスプリプレグともいう)併用することが好ましい。具体的にはUDプリプレグの上にクロスプリプレグを重ね合わせ、たとえば箱型構造体の場合はオートクレーブ成形し、あるいは板状成形体の場合は、オートクレーブ又はプレス成型で成型し、その際、表面側にクロスが存在する構造とすることが好ましい。CFRP成形体の物性を所望のものとしながら、表面外観性を良好にすることができるからである。
【0035】
フィラメントの炭素繊維は、ピッチ系であって引張弾性率が590GPa(約60tf/mm)以上であるものが好ましい。このような炭素繊維は繊維径が通常5〜15μmである。このような炭素繊維の例には、日本グラファイトファイバー株式会社製のXN60、XN80、YS90Aが含まれる。
【0036】
クロスの炭素繊維は、PAN系であって引張弾性率235GPa(約24tf/mm)程度の炭素繊維を用いることが好ましい。このような炭素繊維は繊維径が通常5〜10μmである。
【0037】
UDプリプレグは、炭素繊維含有量が40〜70体積%であることが好ましい。UDプリプレグは公知の方法により製造できる。例えばフィラメントを一方向に配置させた繊維束に、硬化剤や硬化促進剤を配合したエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させて得ることができる。
クロスプリプレグは、炭素繊維含有量が40〜70体積%であることが好ましい。クロスプリプレグもUDプリプレグと同様に製造できる。
【0038】
3.(B)セラミックス部材
前述のとおり、セラミックス部材はセラミックスを成形して得られる。セラミックスとは成形・焼成等の工程を経て得られる非金属性無機材料である。研削、ラッピング等により表面の平面度を向上させることができる。そのため本発明の構造体は平面度に優れた表面を有する。
【0039】
セラミックスの例には、2MgO・2Al・5SiO等のコーディライト系セラミックス;石英;β−スポジューメン(Li・Al・4SiO);チタン酸アルミナ(TiO・Al);結晶化ガラス;ペタライト(Li2O・Al2O3・8SiO2);LiO・Al・2SiO等のユークリプタイト系セラミックス;酸化チタン含有石英ガラス(SiO−TiO)が含まれる。これらは、必要に応じて、他の元素を含んでいてもよい。本発明においては、コーディライト系セラミックスが好ましく、さらに比剛性が高く、熱膨張係数が0/℃に近く、密度の低いセラミックスが好ましい。
【0040】
前述のとおりセラミックス部材の使用量が少ないほど構造体の比剛性は高くなるため、セラミックス部材は薄い板状であることが好ましい。具体的には厚みは3mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましく、0.6mm以下であることがよりさらに好ましい。また、板の形状は限定されないが、一辺が200〜1000mmの四角形であることが好ましく、一辺が300〜600mmの四角形であることがより好ましい。
【0041】
4.接合面
本発明の構造体は、前記(A)炭素繊維強化プラスチック部材と(B)セラミックス部材を接合する為に、(A)炭素繊維強化プラスチック部材の未硬化状態の接着力を使用する事を特徴とする。
【0042】
炭素繊維強化プラスチック部材とセラミックス部材の接着の為に、接着層として液状の樹脂を塗布する場合、気泡の噛み込みや塗布膜厚の不均一が発生し、接着層内に欠陥として残存し、接着構造体に精度の高い研磨が実行できなくなる。また樹脂薄膜を使用した場合、薄膜は剛性、強度が小さいため、貼り付け時に折れや破断が発生し、接着層内に欠陥として残存し、前述同様に接着構造体に精度の高い研磨が実行できなくなる。
【0043】
このような現象を防止する為、接着層として樹脂を追加する事なく、接着を実現するために、本発明では、炭素繊維強化プラスチック部材の未硬化状態の接着力を使用する。この場合、第三の層が存在しない為、設計上の特性を得る事が容易である。また、接着力を有する樹脂は、例えばCFRP部材製造に熱硬化性樹脂のプリプレグを使用した場合、既にロール押圧によって樹脂は炭素繊維に気泡なく含浸されており、通常のオートクレーブ成型により欠陥のない接着面を得る事ができる。また、前述の接着剤塗布時の気泡混入も発生しないし、接着剤塗布工程を省略できる。
【0044】
接着面の接着力改善のために、接着面に配置する未硬化時のプリプレグの樹脂を変更したり、プリプレグの樹脂含有量を変更する事も可能である。例えば、炭素繊維強化プラスチック部材を熱可塑性樹脂で成型し、接着面のみ熱硬化性樹脂のプリプレグを使用したり、接着面の粗度にあわせて、樹脂含有量を増減させ界面の欠陥を減少させる等である。更に熱硬化樹脂が未硬化の状態であれば、樹脂に染み込む性質の改質剤を併用することにより接着性能を向上させる事も可能である。また、セラミックス表面をメタライズ等の処理をする場合もある。
【0045】
このようにして得られた接着面では、通常、(A)炭素繊維強化プラスチック部材と(B)セラミックス部材の間に、追加された接着層が無い為、炭素繊維が直接セラミックス部材に接する事がある。本発明で得られた構造体の接着面の断面観察を光学顕微鏡で実施したところセラミックス部材と炭素繊維が直接接している部分が観察された。
【0046】
本発明の具体的な実施方法にはついては後で詳しく述べるが、熱硬化性樹脂を使用した(A)炭素繊維強化プラスチック部材の場合、熱硬化性樹脂が未硬化の状態で、(B)セラミックス部材に配置し、硬化成型する事により構造体を得る方法や、(A)炭素繊維強化プラスチック部材の一部を予め硬化成型し、残りの部分を未硬化状態のまま、即ちプリプレグのまま、セラミックス部材に配置し、未硬化状態の熱硬化性樹脂の接着力を使用して、既に硬化させた炭素繊維強化プラスチック部材とセラミックス部材を接合し、所定の構造を得る方法がある。熱硬化性樹脂の好ましい例には、ポキシ樹脂、フェノール樹脂が含まれる。
【0047】
熱可塑性樹脂を使用した(A)炭素繊維強化プラスチック部材の場合、熱可塑性樹脂が溶融状態で、(B)セラミックス部材に配置し、加圧成型する事により構造体を得る方法や、(A)炭素繊維強化プラスチック部材の一部を予め成型し、残りの部分をセラミックス部材に配置し、加熱により溶融状態にし、溶融状態の熱可塑樹脂の接着力を使用して、既に成型させた炭素繊維強化プラスチック部材とセラミックス部材を接合し、所定の構造を得る方法がある。熱可塑性樹脂を使用した(A)炭素繊維強化プラスチック部材を用いる場合の「炭素繊維強化プラスチック部材が未硬化状態にある」とは、「熱可塑性樹脂が溶融状態にある」ことを意味する。
このようにして得られたCFRP部材とセラミックス部材の接合面に平行な方向の10〜40℃における熱膨張係数は、−1.15×10−6/℃以上1.15×10−6/℃以下であることが好ましい。
【0048】
また、予め成型されたCFRP部材を未硬化のプリプレグを使用し、セラミックス部材に配置する場合、セラミックスに接するCFRP層に方向性があると、セラミックス部材の研磨工程において、面内の加工性が均一でなくなる場合がある。この為、セラミックスに接するCFRP層には、層内でX、Y方向に繊維が配置されているクロスプリプレグを用いることが特に好ましい。
【0049】
本発明の構造体は、無機物によりコーティングされていてもよい。吸湿による膨潤変形および、他の部材との接触等による発塵を防止できるからである。特にCFRP部材は前記膨潤変形および発塵が起こり易いため、CFRP部材に対してコーティングを施すことが好ましい。もちろんセラミックス部材にコーティングがなされていてもよい。
前記無機物の例には、ニッケル、アルミ、銅等の金属やセラミックスが含まれる。これらをコーティングするには公知の方法が用いられる。その方法には、セラミックスや金属を溶射する方法、スパッタリングする方法、無電解メッキを施す方法が含まれる。
【0050】
既に述べたとおり、本発明の構造体は半導体素子製造装置用部材として好適である。中でもステッパーや検査装置において、精密位置決め用に用いるステージ部材として好適である。あるいは、位置計測用ミラー、ウエハチャック、位置調整部材、精密測定治具に用いてもよい。
【0051】
5.本発明の構造体の製造方法
本発明の構造体の好ましい製造方法を説明する。
本発明の構造体は、a)所望の形状に成形されたCFRP部材およびセラミックス部材を準備する工程、b)これらを接合する工程、を経て製造されることが好ましい(第一の方法という)。第一の方法は、さらにこの後にc)構造体のセラミックス部材を研削や研磨等の加工により、セラミックス部材の平面度を5μm以下とする工程を含んでいてもよい。
または、d)未硬化のプリプレグを積層し、所望の形状に成型した未硬化CFRP部材を準備する工程、e)所望の形状に成形されたセラミックス部材を準備する工程、f)前記未硬化CFRP部材、前記セラミックス部材を重ね合わせる工程、g)前工程で得られた未硬化の構造体を加熱して接合する工程、を含み製造されることが好ましい(第二の方法という)。第二の方法は、さらにこの後にh)構造体のセラミックス部材を研削や研磨等の加工により、セラミックス部材の平面度を5μm以下とする工程を含んでいてもよい。
【0052】
まず、第一の方法について説明する。a)工程は既に述べた方法あるいは公知の方法で行ってよい。b)工程における接合方法は前述のとおり、未硬化のCFRPの接着力を使用する。
【0053】
第一の方法においては、前述のとおり、特にCFRPに用いたプリプレグを使用する事が好ましい。具体的にはCFRP成形体の上に、クロスプリプレグを一枚以上配置し、さらにその上にセラミックスを重ね合わせ、加圧、密着させながら加熱して接合させる。プリプレグは厚みが均一であり、また液状の接着剤とは異なり接着時に気泡を巻き込むことがないため、無欠陥な接合面が得られる。そのためセラミックス部材の表面が傾くことなく、平面性を保ったまま接合できる。接合に用いるプリプレグは、複数枚用いてよいが、一枚であることが好ましい。セラミックス部材をより平面性を保ったまま接合できるからである。
【0054】
次に、第二の方法について説明する。前記d)、e)工程は公知の方法で行ってよい。次いでf)工程により、前記未硬化CFRP成形体、前記セラミックスを重ね合わせる。本工程においては未硬化CFRP成形体の樹脂が次の工程において接着剤の役割を果たす。g)工程において当該未硬化の構造体を加熱して接合させる。
【0055】
第一の方法はCFRP部材が既に成形されているため、CFRP部材とセラミックス部材を重ね合わせる工程が容易であるという利点がある。一方、第二の方法はCFRP部材の成形とセラミックス部材との接合を一度に行えるという利点がある。
【0056】
このようにして得られた構造体は、異種材料が接合されているため、一般に熱膨張係数の差から残留応力が発生しやすい。残留応力が存在すると構造体の常温時のそりが大きくなり寸法精度が損なわれる。さらに構造体の反りが大きいと、セラミックス部材に後述するような研削や研磨等の加工を施した場合に、セラミックス部材表面の平面度を高めることができない。しかし、既に述べたとおりCFRP部材およびセラミックス部材のこれらの接合面に平行な方向の熱膨張係数を、それぞれ−1.15×10−6/℃以上1.15×10−6/℃以下とすると、接合後の構造体の反りが小さいという利点がある。
【0057】
さらに、前記残留応力を低減させるためには接合する部分のセラミックス部材の厚みは厚すぎないことが好ましい。具体的には3mm以下であることが好ましい。厚みが厚いと、接合面の残留応力が大きくなり、セラミックス部材に後述するような研削や研磨等の加工を施した際に、加工中に残留応力の解放が生じ部材にそりなどの変形が発生するからである。また、セラミックス部材が薄いと構造体を軽量化できるという利点もある。
【0058】
以上から接合させるセラミックス部材は薄いものを用いることが好ましい。すなわち予め薄く成形されたものを接合することが好ましい。しかしセラミックス部材は薄いと割れやすいため加工が困難になる場合がある。このような場合は、ある程度厚い(3〜10mm程度の)セラミックス部材を接合した後、研削して所望の薄さに調整し、さらに平面度向上、面粗さ向上のために研磨を行なうことが好ましい。すなわち前記第一の方法においてa)工程3〜10mm厚みの板状のセラミックス部材を準備し、続いてb)工程により構造体を得て、さらにc)工程によりセラミックス部材を所望の形状に研削や研磨を行い本発明の構造体を得てよい。
なお、a)工程においてCFRP成型体自体のそりが加工後のセラミックス部材の厚さに対して大きい場合、予め研削等により平面度を向上させておくことが好ましい。
【0059】
あるいは、前記第二の方法において、e)工程により3〜10mm厚みの板状のセラミックス部材を準備し、続いてf)〜g)工程により構造体を得て、さらにh)工程によりセラミックス部材を所望の形状に研削や研磨を行い本発明の構造体を得てよい。
c)またはh)工程は公知の方法で行ってよい。例えば、まずダイヤモンド砥石を使用した湿式研削加工により粗加工〜中仕上げ加工を行い、次いでラップまたはポリッシングにより仕上げ加工を行うことが好ましい。
【0060】
ただし、接着層の厚みが不均一であったり、あるいは気泡等が含まれていたりすると、接着層の厚みが均一でないためセラミックス部材の表面を高い平面度に研磨することが困難となる。特にセラミックス部材の厚みを0.6mm以下に加工する場合は、接着層の厚みの均一性の影響が顕著となる。しかしながら本発明に記載したように、未硬化のCFRP部材の接着力を使用した接合方法でプリプレグを用いると、プリプレグも厚みが均一であるのでセラミックス部材表面を高い平面度に加工できるため好ましい。
【実施例】
【0061】
[実施例1:図6に示す構造体]
ホットメルトタイプエポキシ樹脂組成物を調製した。
前記樹脂組成物をピッチ系炭素繊維フィラメント(日本グラファイトファイバー製、XN80)に、樹脂組成物含有量が樹脂組成物と炭素繊維の合計の57体積%となるように含浸させた。こうして得た樹脂含有炭素繊維を一方向に並べ、厚み0.2〜0.22mm、幅500mm、長さ800mmのプリプレグを調製した。
【0062】
前記プリプレグを23枚重ね合わせ、その上下にさらに厚み0.22mm、幅500mm、長さ800mmのクロスプリプレグ(三菱レイヨン製、TR3110 381G)を2枚ずつ重ね合わせた積層体を加熱して、厚み約5mm、幅500mm、長さ800mmの板状に成形されたCFRP部材を得た。次に当該部材から一辺の長さが500mmの正方形状の板を1枚、幅40mm、長さ500mmの長方形状の板を4枚切り出した。
【0063】
続いてこれらの部材を市販の接着を用いて接着し、肉厚約5mm、幅500mm、長さ500mm、高さ40mmの底面が開放された箱形に成型されたCFRP部材21(箱形CFRP部材)を得た。当該部材は上面側表層部にクロスプリプレグが存在するようにしたため、表面外観性にも優れていた。
【0064】
箱形CFRP部材21と同一の積層構成のCFRP板材を別途成型し、そこから熱膨張測定用サンプルを切り出し、加工し、長さ方向および幅方向の23℃における熱膨張係数を熱膨張計(アルバック理工株式会社製、LIX−2型)により測定した。その結果、長さ方向は−0.5×10−6/℃であり、幅方向は−0.5×10−6であることを確認した。
【0065】
厚み0.22mm、幅480mm、長さ480mmのプリプレグ(三菱レイヨン株式会社製、TR3110 381G)を準備した。当該プリプレグを前述のCFRP成型板上面にオートクレーブにより追加成型して、前述と同様の方法で熱膨張計で測定したところ、長さ方向の熱膨張係数は−0.5×10−6/℃であり、幅方向は−0.5×10−6/℃であることを確認した。
【0066】
厚み3mm、幅480mm、長さ480mmの形状に成形されたセラミックス部材(新日鉄マテリアルズ株式会社製、NEXCERA(登録商標) N113B)を準備した。当該セラミックス部材の23℃における熱膨張係数を、前述の熱膨張計で測定したところ、0.02×10−6/℃あることを確認した。
【0067】
得られた箱形CFRP部材21の天面に、前記プリプレグを配置し、その上に、前記セラミックス部材を配置した。プリプレグは未硬化であるため、樹脂のべたつきによりプリプレグおよびセラミックス部材はCFRP部材にしっかり保持され、ずれることはなかった。
【0068】
同様にして、厚み3mm、幅35mm、長さ480mmの形状に成形されたセラミックス部材(NEXCERA(登録商標) N113B)を4枚準備した。続いて箱形CFRP部材21の4つの側面に、厚み0.22mm、幅35mm、長さ480mmの前記接着用クロスプリプレグを配置し、その上にそれぞれ前記セラミックス部材(新日鉄マテリアルズ株式会社製、NEXCERA N113B)を1枚ずつ配置した。
このようにして得た積層体を130℃で120分間加熱し、セラミックス部材とCFRP部材の接合体を得た。
【0069】
無電解ニッケルメッキ液(日本カニゼン株式会社製)を用い、特開平5−286058号公報段落0017〜0019に記載された方法と同様にして、前記接合体のCFRPを接合表面およびセラミックス表面にニッケルメッキを施した。
得られた接合体のセラミックス部材31の上面を、ダイヤモンド砥石を使用して湿式研削し、続いてラップ加工により仕上げ研磨を行った。その結果、セラミックス部材31の厚みを0.5mmとすることができた。また、研削面の平面度をJIS B 6191−1999の5.325に準拠し、3次元座標測定機(株式会社東京精密製、ザイザックスSAV−A)で測定したところ、1μmであることが確認された。
【0070】
本例の構造体は、セラミックス部材が薄いため軽量化されており、かつCFRPの剛性が高いため高い比剛性を有していた。さらにセラミックス部材の平面度は上記のとおり1μmであるため本発明の構造体は平面度にも優れていた。
以上により未硬化状態のプリプレグの接着力を使用して接合後、セラミックス部材を研磨して、平面度を5μm以下にすることができた。
【0071】
[比較例1]
実施例1と同様にして、CFRP部材とセラミックス部材の接合体(セラミックス部材を切削する前の接合体)を得た。ただし、CFRP部材とセラミックス部材を接着させる工程は、プリプレグを用いずに、市販の液状接着剤(Ciba−Gaigie社製、アラルダイトAV138)を塗布して行った。
接合体の天面に接合されたセラミックス部材(図6の31に相当)を実施例1と同様にして研削および研磨を行い、厚みを0.5mmとした。実施例1と同様にして切削面の平面度を測定したところ、亀裂があることが確認された。亀裂部分を観察したところ、接着面内に気泡が確認された。
本例では接着剤として市販の液状接着剤を用いたため、接着層に気泡が存在し接着層の厚みが不均一となり、研削および研磨によってセラミックス部材の厚さにも不均一が生じ亀裂が生じたものと推察される。
【0072】
[実施例2:本発明の構造体を適用した露光装置]
以下、本発明の構造体が適用される例示的な露光装置を説明する。露光装置は、典型的には、図7に示すように、照明装置501、レチクル(原版またはマスクともいう)を保持するレチクルステージ502、投影光学系503、基板(例えば、半導体ウェハ)を保持する基板ステージ504とを有する。露光装置は、レチクルに形成されたパターンを介して基板を露光するものであり、ステップアンドリピート投影露光方式およびステップアンドスキャン投影露光方式のいずれであってもよい。なお、基板ステージ504に保持された基板と光ビーム(荷電粒子ビームであってもよい)とを相対走査することにより、レチクルを利用せずに基板を露光してパターンを基板に転写する露光方式であってもよい。
【0073】
照明装置501は、光源部と照明光学系とを有し、パターンが形成されたレチクルを照明する。光源部は、例えば、レーザ光源を含む。レーザは、波長約193nmのArFエキシマレーザ、波長約248nmのKrFエキシマレーザ、波長約153nmのF2エキシマレーザなどを使用することができる。ただし、レーザの種類はエキシマレーザに限定されず、例えば、YAGレーザを使用してもよい。光源にレーザが使用される場合、レーザ光源からの平行光束を所望のビーム形状に整形する光束整形光学系や、コヒーレントなレーザ光束をインコヒーレント化するインコヒーレント化光学系を使用することが好ましい。また、光源部に使用可能な光源はレーザ光源に限定されるものではなく、水銀ランプやキセノンランプなどのランプも使用可能である。
照明光学系はレチクルを照明する光学系であり、例えば、レンズ、ミラー、ライトインテグレーター、絞り等を含む。
【0074】
投影光学系503は、複数のレンズのみからなる光学系、複数のレンズと少なくとも1つのミラー(例えば、凹面鏡)とを有する光学系(カタディオプトリック光学系)、または複数のミラーのみからなる光学系を使用することができる。また、投影光学系503は、複数のレンズと少なくとも1つの回折光学素子(例えば、キノフォーム)とを有する光学系であってもよい。投影光学系503はレチクルからの光を基板に投影する。
【0075】
レチクルステージ502および基板ステージ504は、たとえばリニアモータによって移動可能である。ステップアンドスキャン投影露光方式の場合には、これらのステージは同期して移動する。基板ステージ504は、基板を保持する面、移動のためのガイドに対向する面、または基板ステージの位置を計測するレーザ干渉計からのレーザ光が入射するバーミラー(位置計測用ミラー)等において、高い平坦度が求められる。また、基板ステージ504は、大きな加速度で移動できて変形も少ないように、比剛性が高いことが求められる。これらの要求を満たすため、本発明の構造体が基板ステージ504に含まれるようにすることができる。レチクルステージ502についても、同様のことがいえる。
【0076】
[実施例3:デバイス製造方法]
上述の露光装置は、半導体集積回路等の半導体デバイス、マイクロマシン、薄膜磁気ヘッド、または液晶表示素子等、微細な構造を有するデバイスの製造に利用されうる。そこで、上述の露光装置を利用したデバイスの製造方法を説明する。デバイスは、上述の実施例の露光装置を用いて、感光剤が塗布された基板(ウエハ、ガラスプレート等)を露光する工程と、該工程で露光された基板を現像する工程と、他の周知の工程とを経ることにより製造される。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明により精密加工が可能で熱膨張が小さく、かつ比剛性高い部材が提供できる。そのため、本発明はLSI等の製造装置に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の構造体の第一の態様を示す斜視図
【図2】本発明の構造体の第二の態様を示す斜視図
【図3】本発明の構造体の第三の態様を示す斜視図
【図4】本発明の構造体の第四の態様を示す斜視図
【図5】本発明の構造体の第五の態様を示す斜視図
【図6】本発明の構造体の第六の態様を示す斜視図
【図7】本発明の構造体を適用した露光装置の態様を示す正面図
【符号の説明】
【0079】
1 構造体
2 CFRP部材
21 箱型に成形されたCFRP部材
22 補強用CFRP部材
3 セラミックス部材
31 セラミックス部材
32 セラミックス部材
501 照明装置
502 レチクルステージ
503 投影光学系
504 基板ステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)炭素繊維強化プラスチック部材、および
(B)前記炭素繊維強化プラスチック部材に接合されたセラミックス部材を含み、
前記(A)炭素繊維強化プラスチック部材と前記(B)セラミックス部材を接合する為に、炭素繊維強化プラスチック部材の未硬化状態の接着力を使用する事を特徴とする構造体。
【請求項2】
前記(A)炭素繊維強化プラスチック部材、および(B)セラミックス部材は、前記接合面に平行な方向の10〜40℃における熱膨張係数がそれぞれ−1.15×10−6/℃以上1.15×10−6/℃以下であって、
前記(B)セラミックス部材は、前記接合面以外のいずれかの面の平面度が5μm以下である請求項1記載の構造体。
【請求項3】
前記構造体は、前記(A)炭素繊維強化プラスチック部材と前記(B)セラミックス部材を(A)炭素繊維強化プラスチック部材の未硬化状態の接着力を使用して接合された後に、セラミック部材の前記接合面以外のいずれかの面が研磨加工されて平面度が5μm以下にされていることを特徴とする、請求項1または2記載の構造体。
【請求項4】
前記(B)セラミックス部材は、接合後の加工により厚みが3mm以下の板状にされていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の構造体。
【請求項5】
前記接合は前記(A)炭素繊維強化プラスチック部材の一枚のプリプレグによりなされることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の構造体。
【請求項6】
前記(A)炭素繊維強化プラスチック部材、または(B)セラミックス部材は、無機物によりコーティングされている請求項1から請求項5のいずれかに記載の構造体。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の構造体を用いた半導体製造装置用部材。
【請求項8】
基板を保持して移動する基板ステージを有し、前記基板ステージに保持された基板を露光する露光装置であって、
前記基板ステージは、請求項1から請求項6のいずれかに記載の構造体を含む、
ことを特徴とする露光装置。
【請求項9】
請求項8に記載の露光装置を用いて基板を露光する工程と、
前記工程で露光された基板を現像する工程と、
を有することを特徴とするデバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−248398(P2009−248398A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97374(P2008−97374)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(306032316)新日鉄マテリアルズ株式会社 (196)
【出願人】(599104369)日鉄コンポジット株式会社 (51)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】