説明

セラミックスラリー組成物

【課題】シートアタックや強度不足の問題を解決することができ、かつ、脱脂工程等を行う用途に使用する場合であっても、分解性が高く、分解残渣が極めて少ないセラミックスラリー組成物を提供する。
【解決手段】セラミック粉末、少なくとも複数の特定な構造単位を有するポリビニルアセタール樹脂、芳香族有機酸、有機溶剤及び多官能アミンを含有するセラミックスラリー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートアタックや強度不足の問題を解決することができ、かつ、脱脂工程等を行う用途に使用する場合であっても、分解性が高く、分解残渣が極めて少ないセラミックスラリー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリビニルアセタール樹脂は、強靭性、造膜性、顔料等の無機粉体や有機粉体の分散性、塗布面への接着性に優れていることから、種々の用途に利用されている。
具体的なポリビニルアセタール樹脂の用途としては、例えば、インクやコンデンサ等のバインダーが知られており、なかでも積層セラミックコンデンサ等の積層電子部品の材料として多く用いられている。
【0003】
このような積層電子部品は、一般的には次のような工程を経て製造されている。まず、ポリビニルアセタール樹脂やポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂等の有機バインダー樹脂を、有機溶剤に溶解した溶液に可塑剤、分散剤等を添加した後、セラミック原料粉末を加え、ボールミルやジェットミル等により均一に混合し、脱泡後に一定粘度を有するセラミックスラリー組成物を得る。このスラリー組成物をドクターブレード、リバースロールコーターなどを用いて、離型処理したPETフィルムまたはSUSプレート等の支持体面に流延成形する。これを加熱等により溶剤等の揮発分を溜去させた後、支持体から剥離してセラミックグリーンシートを得る。
【0004】
次に、得られたセラミックグリーンシート上に、パラジウム、銀、ニッケル等の導電材を含有する電極層用ペーストを所定パターンで印刷する。得られた印刷後のセラミックグリーンシートを複数枚重ねて積層し、プレス切断工程を経てセラミックグリーンチップを得る。そして、得られたセラミックグリーンチップ中に含まれるバインダー成分等を熱分解して除去する処理、いわゆる脱脂処理を行った後、焼成して得られるセラミック焼成物の端面等に外部電極を形成する工程を経て積層電子部品を製造する。
【0005】
一方で、積層電子部品については近年更なる小型化、大容量化が求められており、セラミックグリーンシートについても、より一層の多層化、薄層化が検討されている。
しかしながら、近年の積層セラミックコンデンサの薄層化に伴い、シート強度が必要となるだけでなく、電極層用ペーストを印刷する工程において、電極層用ペーストに含まれる溶剤によって、セラミックグリーンシートが侵食される、いわゆるシートアタックという現象が発生していた。シートアタックが発生すると、セラミックグリーンシートの厚みが不均一になったり、セラミックグリーンシートが破れてしまったりする等の問題が生じていた。
【0006】
このようなシートアタックの問題を解決するため、特許文献1には、セラミックグリーンシート形成用のスラリー組成物に含まれる有機バインダーとして、熱硬化性アクリル樹脂を用いる技術が開示されており、加熱後のグリーンシート上に溶剤を含有する電極層用ペーストを印刷しても溶剤によるシートアタックの影響を受けにくいとしている。
しかしながら、このような方法では比較的長い時間の加熱が必要となり、効率良くセラミックグリーンシートの硬化を行うことができず、シート強度が不足するという問題があった。
【0007】
また、特許文献2には、セラミック原料及び熱硬化性アクリル樹脂に、熱重合開始剤として第1級アミン及び第2級アミンを添加したセラミック塗料が開示されている。
しかしながら、この方法でも熱硬化性アクリル樹脂を使用しているため、未反応残存物の存在によって充分な強度が得られないという問題があった。また、熱重合開始剤の含有量が少ない場合に所望のシート形状を得られない等の問題があった。
【0008】
これに対して、特許文献3には、バインダー樹脂として変性ポリビニルアセタール樹脂を用いる方法が開示されており、変性ポリビニルアセタール樹脂が加熱によって自己架橋することが記載されている。しかしながら、このような変性ポリビニルアセタール樹脂の加熱による架橋反応性が非常に低く、シートアタックを充分に防止できるものではなかった。
【0009】
また、特許文献4には、変性ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂及びアミン系架橋剤を用いて架橋させる方法が開示されている。しかしながら、このような方法では、アミン系架橋剤の含有量が多くなるため、粘度が上昇しやすい等の問題があった。また、ウォッシュプライマー等の塗料用途では大きな問題は生じないものの、積層セラミックコンデンサ等の塗料用途では有機バインダーを脱脂する仮焼成工程を行うため、架橋剤の含有量が増えると仮焼成後に残渣が多量に残り、電子部品として使用する際に電気的な不具合が生じる等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−66852号公報
【特許文献2】特開2007−22829号公報
【特許文献3】特開2007−138115号公報
【特許文献4】特表2006−523754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記現状に鑑み、シートアタックや強度不足の問題を解決することができ、かつ、脱脂工程等を行う用途に使用する場合であっても、分解性が高く、分解残渣が極めて少ないセラミックスラリー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、セラミック粉末、少なくとも下記一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される構造単位を有するポリビニルアセタール樹脂、芳香族有機酸、有機溶剤及び多官能アミンを含有するセラミックスラリー組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0013】
【化1】

式中、Rは水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表し、Rはカルボニル基を有し、かつ、エステル基又はアミド基ではない官能基を表す。
【0014】
本発明者らは、セラミック粉末、所定の構造単位を有するポリビニルアセタール樹脂、有機溶剤及び多官能アミンを含有するセラミックスラリー組成物に用いた場合、シートアタック、強度不足等の問題を解決することができ、かつ、加熱により溶剤等の揮発分を溜去させる工程中で架橋させることができることを見出した。
しかしながら、このようなセラミックスラリー組成物を用いた場合、加熱処理する際に時間を要し、処理工程が別途必要になるという問題が生じていた。
これに対して、本発明者らは、鋭意検討した結果、セラミックスラリー組成物に芳香族有機酸を更に添加することにより、上述の優れた効果を維持しつつ、加熱処理時間を短縮化して、仮焼成工程(脱脂工程)を行う用途に使用する場合における分解残渣を大幅に減らすことができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
本発明に記載のセラミックスラリー組成物は、セラミック粉末を含有する。
上記セラミック粉末としては特に限定されず、例えば、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム等があげられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上混合して使用してもよい。
【0016】
本発明のセラミックスラリー組成物は、ポリビニルアセタール樹脂を含有する。
上記ポリビニルアセタール樹脂は、少なくとも下記一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される構造単位を有する。
【0017】
【化2】

式中、Rは水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表し、Rはカルボニル基を有し、かつ、エステル基又はアミド基ではない官能基を表す。
【0018】
上記ポリビニルアセタール樹脂において、上記一般式(1)で表されるビニルアルコール単位の含有量の好ましい下限は17モル%、好ましい上限は40モル%である。上記一般式(1)で表されるビニルアルコール単位の含有量が17モル%未満であると、溶解時に使用する有機溶剤に対する溶解性が低下することがあり、40モル%を超えると、吸湿しやすくなるため、バインダー樹脂として用いた場合に保存安定性が悪くなることがある。
【0019】
上記ポリビニルアセタール樹脂において上記一般式(2)で表されるアセタール単位の含有量の好ましい下限は35モル%、好ましい上限は80モル%である。上記一般式(2)で表されるアセタール単位の含有量が35モル%未満であると溶解時に使用する有機溶剤に不溶となることがあり、80モル%を超えると残存水酸基量が少なくなって得られる架橋ポリビニルアセタール樹脂の強度が低下することがある。
なお、本明細書においてアセタール化度の計算方法としては、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール基が2個の水酸基をアセタール化して得られたものであることから、アセタール化された2個の水酸基を数える方法を採用してアセタール化度のモル%を計算する。
【0020】
上記ポリビニルアセタール樹脂において、上記一般式(3)で表されるアセチル単位の含有量の好ましい下限は0.1モル%、好ましい上限は25モル%である。上記範囲を超えると、原料のポリビニルアルコールの溶解性が低下し、アセタール化反応が困難となる。
【0021】
上記ポリビニルアセタール樹脂において、上記一般式(4)で表される構造単位は架橋性を有しており、加熱を行うことで他の分子中の官能基と架橋構造を形成する。このため、架橋後のポリビニルアセタール樹脂は高い機械的強度を有しつつ、適度な弾性を有するものとなる。
【0022】
上記一般式(4)で表される構造単位は、下記式(5)で表される構造、又は、下記式(6)で表される構造であることが好ましい。このような構造とすることで、架橋剤を入れるまでは非常に安定であり、かつ架橋剤添加後は効率よく架橋反応させることができる。
【0023】
【化3】

【0024】
【化4】

【0025】
上記ポリビニルアセタール樹脂において、上記一般式(4)で表される構造単位の含有量の好ましい下限は0.01モル%、好ましい上限は30モル%である。上記一般式(4)で表される構造単位の含有量が0.01モル%未満であると、架橋構造が形成されることによる効果が充分に得られず、機械的強度の低下を招くことがあり、30モル%を超えると、得られる架橋体の架橋度が高くなりすぎ、可とう性が低下することがある。
【0026】
上記ポリビニルアセタール樹脂を製造する方法としては、例えば、上記Rが上記一般式(5)で表される基であるポリビニルアセタール樹脂を製造する場合、β−ジカルボニル基を有する変性ポリビニルアルコールをアセタール化する方法、未変性のポリビニルアルコールをアセタール化した後、β−ジカルボニル基を付加させる方法等が挙げられる。好ましくは、β−ジカルボニル基を有する変性ポリビニルアルコールをアセタール化する方法である。
上記β−ジカルボニル基の付加方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液中に4−メチレン−2−オキセタノン等を添加する方法等が挙げられる。
【0027】
上記アセタール化の方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、酸触媒の存在下で変性ポリビニルアルコールの水溶液、アルコール溶液、水/アルコール混合溶液、ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液中に各種アルデヒドを添加する方法等が挙げられる。
【0028】
上記アセタール化に用いるアルデヒドとしては特に限定されず、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒド等が挙げられる。なかでも、アセトアルデヒドとブチルアルデヒドとをそれぞれ単独で用いるか、又は、アセトアルデヒドとブチルアルデヒドとを併用することが好ましい。
【0029】
上記酸触媒としては特に限定されず、有機酸、無機酸のどちらでも使用可能であり、例えば、酢酸、パラトルエンスルホン酸、硝酸、硫酸、塩酸等が挙げられる。
【0030】
上記アセタール化の反応を停止するために、アルカリによる中和を行うことが好ましい。上記アルカリとしては特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。
また、上記中和工程の前後に、水等を用いて得られた変性ポリビニルアセタール樹脂を洗浄することが好ましい。なお、洗浄水中に含まれる不純物の混入を防ぐため、洗浄は純水で行うことがより好ましい。
【0031】
本発明のセラミックスラリー組成物は、有機溶剤を含有する。
上記有機溶剤としては特に限定されず、例えば、上記ポリビニルアセタール樹脂を溶解できるものであれば特に限定されず、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、ブタン酸メチル、ブタン酸エチル、ブタン酸ブチル、ペンタン酸メチル、ペンタン酸エチル、ペンタン酸ブチル、ヘキサン酸メチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸ブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酪酸2−エチルヘキシル等のエステル類、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、ブチルセルソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、テルピネオールアセテート、ジヒドロテルピネオールアセテート等が挙げられる。特に、アルコール類、ケトン類、芳香族炭化水素類及びこれらの混合溶剤が塗工性、乾燥性の面から見て好ましい。
【0032】
本発明のセラミックスラリー組成物は、芳香族有機酸を含有する。
上記芳香族有機酸としては、例えば、サリチル酸、安息香酸、フェノール等が挙げられる。また、これらの芳香族有機酸は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0033】
上記芳香族有機酸の含有量の好ましい下限はポリビニルアセタール樹脂に対して0.001モル%、好ましい上限は0.02モル%である。上記芳香族有機酸の含有量がポリビニルアセタール樹脂に対して0.001モル%未満であると、耐シートアタック性が不充分となることがあり、0.02モル%を超えると、塩が析出してしまったり、セラミックスラリー組成物が溶液状態で沈降したりする等の不具合を生じ、成形できなくなることがある。
【0034】
本発明のセラミックスラリー組成物は、多官能アミンを含有する。
上記多官能アミンは、2つ以上の反応性のアミノ基を有するアミン化合物であり、例えば、芳香族多官能アミン、脂肪族多官能アミン、脂環式多官能アミン等が挙げられる。
【0035】
上記芳香族多官能アミンとしては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸、2,4−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノアニソール、アミドール、キシリレンジアミン等が挙げられる。
上記脂肪族多官能アミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、ヘキサメチレンジアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン、スペルミン等が挙げられる。
上記脂環式多官能アミンとしては、例えば、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、4−アミノメチルピペラジン等が挙げられる。これらの多官能アミンは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0036】
上記多官能アミンの含有量の好ましい下限は、ポリビニルアセタール樹脂に対して0.0001モル%であり、好ましい上限は0.02モル%である。上記多官能アミンの含有量がポリビニルアセタール樹脂に対して0.0001モル%未満であると、耐シートアタック性が不充分となることがあり、上記多官能アミンの含有量が0.02モル%を超えると、熱分解性に劣ったり、セラミックスラリー組成物が溶液状態で増粘してしまい成形できなくなったりすることがある。
【0037】
本発明のセラミックスラリー組成物には、必要に応じて、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、充填剤等を適宜添加してもよく、場合によってはエポキシ樹脂やアクリル樹脂等の他樹脂を少量添加してもよい。
【0038】
上記エポキシ樹脂を添加する場合、上記ポリビニルアセタール樹脂としては、アセトアセタール基(上記一般式(2)のRがメチル基)を含有するポリビニルアセタール樹脂を用いることが好ましい。
また、上記アクリル樹脂を添加する場合、上記ポリビニルアセタール樹脂としては、ブチラール基(上記一般式(2)のRがプロパノール基)を含有し、かつ、水酸基量が20〜30モル%であるポリビニルアセタール樹脂を用いることが好ましい。
【0039】
上記エポキシ樹脂の添加量は、上記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して1〜15重量部であることが好ましい。上記エポキシ樹脂の添加量を上記範囲内とすることで、耐シートアタック性を更に向上できる。
上記エポキシ樹脂の添加量が、上記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して15重量部を超えると、仮焼成後の残渣が多量に残ることがある。
【0040】
本発明のセラミックスラリー組成物を製造する方法としては、特に限定されず、例えば、上記ポリビニルアセタール樹脂、セラミック粉末、有機溶剤、芳香族有機酸、多官能アミン及び必要に応じて添加する各種添加剤をボールミル、ブレンダーミル、3本ロール等の各種混合機を用いて混合する方法が挙げられる。
【0041】
本発明のセラミックスラリー組成物を用いて、セラミック電子部品を製造することができる。具体的には例えば、本発明のセラミックスラリー組成物を塗工する工程と、上記セラミックスラリー組成物を乾燥させ、セラミックグリーンシート前駆体を作製する工程と、上記セラミックグリーンシート前駆体を加熱して、硬化させることにより、セラミックグリーンシートを作製する工程と、上記セラミックグリーンシートの表面に電極層用ペーストを塗工する工程とを有する方法を用いることができる。
【0042】
上記セラミック電子部品としては特に限定されず、例えば、積層セラミックコンデンサ、積層セラミックインダクタ、キャパシタ、圧電アクチュエーター、積層バリスタ、積層サーミスタ、EMIフィルタ、窒化アルミニウム多層基板、アルミナ多層基板等が挙げられる。
【0043】
上記セラミック電子部品の製造方法では、まず本発明のセラミックスラリー組成物を塗工する工程、上記セラミックスラリー組成物を加熱し乾燥させてセラミックグリーンシートを作製する工程を行う。
加熱して乾燥させることにより、本発明のセラミックスラリー組成物に含まれるポリビニルアセタール樹脂を架橋させることができる。本発明では、上記ポリビニルアセタール樹脂を架橋させることによって、充分な機械的強度を有し、かつ、耐溶剤性に優れる架橋ポリビニルアセタール樹脂が得られる。
【0044】
本発明のセラミックスラリー組成物を塗工する場合の方法としては、特に限定されず例えば、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター等の方法が挙げられる。なお、その他の具体的な方法については、従来公知の方法を用いることができる。
【0045】
本発明のセラミックスラリー組成物は、このように簡易かつ簡便な方法で優れた特性を有する架橋ポリビニルアセタール樹脂が得られる。また、上記方法で架橋処理を行うことで、電子線やX線を用いることなく、架橋度の高い架橋ポリビニルアセタール樹脂を得ることができる。これにより、電子線やX線を照射した場合に起こるポリビニルアセタール樹脂の分解を防止できるとともに、特に装置を追加する必要もなく、従来公知の積層セラミック電子部品を作製する工程内でポリビニルアセタール樹脂の架橋を行うことができる。
【0046】
上記加熱工程における加熱温度の好ましい下限は40℃、好ましい上限は150℃である。加熱温度が40℃未満であると、架橋反応が充分に進行せず、本発明の効果が充分に発揮されないことがあり、加熱温度が150℃を超えると、樹脂の分解が始まったり、可塑剤が揮発してしまったりする等の不具合が生じることがある。
【0047】
上記セラミック電子部品の製造方法では、次いで、上記セラミックグリーンシートの表面に電極層用ペーストを塗工する工程を行う。
電極層用ペーストとしては、例えば、ポリビニルアセタール樹脂やエチルセルロース、アクリル樹脂等をバインダー樹脂として有機溶剤に溶解し、導電粉末等を分散させることで得ることができる。これらの樹脂は単独で使用しても2種以上混合して使用してもよい。ポリビニルアセタール樹脂を含有する電極層用ペーストは、加熱圧着工程において、セラミックグリーンシートに優れた接着性を示すので好ましい。
【0048】
上記セラミック電子部品の製造方法では、例えば、上述した工程を行い、電極層が形成されたセラミックグリーンシートを作製した後、同様にして作製した電極層が形成されたセラミックグリーンシートを積層し加熱圧着して得られた積層体を脱脂、焼成することで、シートアタックやクラック等の問題が解決された積層セラミック電子部品が得られる。
本発明では、上述した工程を行うことで、架橋させたセラミックグリーンシートを用いた積層体を脱脂、焼成する場合であっても、分解残渣を増やすことなく積層セラミック電子部品を得ることが可能となる。これにより、積層セラミック電子部品のショート率を低減することが可能となり、不良品を低減できる。
なお、上記加熱圧着工程、積層体を脱脂、焼成する工程については特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、シートアタックや強度不足の問題を解決することができ、かつ、脱脂工程等を行う用途に使用する場合であっても、分解性が高く、分解残渣が極めて少ないセラミックスラリー組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
(変性ポリビニルアセタール樹脂の作製)
ケン化度99モル%、上記一般式(5)で表されるRを有する構造単位含有量が2モル%の変性ポリビニルアルコール100重量部を1000重量部の蒸留水に加温溶解した後、20℃に保ち、これに35%塩酸80重量部を加え、更にブチルアルデヒド53重量部を添加した。樹脂が析出した後、35℃に昇温して3時間保った。反応終了後、蒸留水にて10時間流水洗浄し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを8に調整した。溶液を50℃で6時間保持した後、冷却した。
次に、蒸留水により溶液を2時間流水洗浄した後、脱水、乾燥して変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。得られた変性ポリビニルアセタール樹脂の残存水酸基量(上記一般式(1)で表される構造単位含有量)は30モル%、ブチラール単位含有量(上記一般式(2)で表される構造単位含有量)は67モル%、アセチル単位含有量(上記一般式(3)で表される構造単位含有量)は1モル%、上記一般式(5)で表されるRを有する構造単位含有量(上記一般式(4)で表される構造単位含有量)は2モル%であった。
【0052】
(セラミックスラリー1次分散液の作製)
セラミック粉末としてチタン酸バリウム(BT−03、平均粒径0.3μm、堺化学工業社製)70重量部、トルエン30重量部とエタノール30重量部との混合溶剤、ED−216(楠本化成株式会社製、分散剤)1重量部を48時間ボールミルで混合させ、セラミックスラリー1次分散液を得た。
【0053】
(セラミックスラリー組成物の作製)
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂8重量部を、トルエン30重量部とエタノール30重量部との混合溶剤に加え、更にポリビニルアセタール樹脂に対してサリチル酸0.01モル%、可塑剤としてジブチルフタレート4重量部を加え、攪拌溶解した。
セラミックスラリー1次分散液に、得られた樹脂溶液と、ポリビニルアセタール樹脂に対してキシリレンジアミン0.01モル%とを加え、ボールミルで12時間混合してセラミックスラリー組成物を得た。
【0054】
(セラミックグリーンシートの作製)
得られたセラミックスラリー組成物を、コーターを用いて乾燥後の厚みが2μmとなるように離型処理したPETフィルム上に塗工した後、70℃で5分加熱乾燥させることにより、セラミックグリーンシートを作製した。
【0055】
(実施例2)
(変性ポリビニルアセタール樹脂の作製)
ケン化度99モル%、上記一般式(6)で表されるRを有する構造単位含有量が4モル%の変性ポリビニルアルコール100重量部を1000重量部の蒸留水に加温溶解した後、20℃に保ち、これに35%塩酸80重量部を加え、更にブチルアルデヒド53重量部を添加した。樹脂が析出した後、35℃に昇温して3時間保った。反応終了後、蒸留水にて10時間流水洗浄し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを8に調整した。溶液を50℃で6時間保持した後、冷却した。
次に、蒸留水により溶液を2時間流水洗浄した後、脱水、乾燥して変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。得られた変性ポリビニルアセタール樹脂の残存水酸基量(上記一般式(1)で表される構造単位含有量)は28モル%、ブチラール単位含有量(上記一般式(2)で表される構造単位含有量)は67モル%、アセチル単位含有量(上記一般式(3)で表される構造単位含有量)は1モル%、上記一般式(6)で表されるRを有する構造単位含有量(上記一般式(4)で表される構造単位含有量)は4モル%であった。
【0056】
(セラミックスラリー組成物の作製)
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂8重量部を、トルエン30重量部とエタノール30重量部との混合溶剤に加え、更にポリビニルアセタール樹脂に対してサリチル酸0.02モル%、可塑剤としてジブチルフタレート4重量部を加え、攪拌溶解した。
実施例1と同様にして作製したセラミックスラリー1次分散液に、得られた樹脂溶液と、ポリビニルアセタール樹脂に対してヘキサメチレンジアミン0.001モル%とを加え、ボールミルで12時間混合してセラミックスラリー組成物を得た。
【0057】
(セラミックグリーンシートの作製)
得られたセラミックスラリー組成物を、コーターを用いて乾燥後の厚みが2μmとなるように離型処理したPETフィルム上に塗工した後、70℃で5分加熱乾燥させることにより、セラミックグリーンシートを作製した。
【0058】
(実施例3)
(変性ポリビニルアセタール樹脂の作製)
ケン化度92モル%、上記一般式(5)で表されるRを有する構造単位含有量が8モル%の変性ポリビニルアルコール100重量部を1000重量部の蒸留水に加温溶解した後、20℃に保ち、これに35%塩酸80重量部を加え、更にブチルアルデヒド24重量部、アセトアルデヒド26重量部を添加した。樹脂が析出した後、35℃に昇温して3時間保った。反応終了後、蒸留水にて10時間流水洗浄し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを8に調整した。溶液を50℃で6時間保持した後、冷却した。
次に、蒸留水により溶液を2時間流水洗浄した後、脱水、乾燥して変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。得られた変性ポリビニルアセタール樹脂の残存水酸基量(上記一般式(1)で表される構造単位含有量)は25モル%、上記一般式(2)で表される構造単位含有量)は59モル%(うちブチラール基[R:プロパノール基]31モル%、アセトアセタール基[R:メチル基]28モル%)、アセチル単位含有量(上記一般式(3)で表される構造単位含有量)は8モル%、上記一般式(5)で表されるRを有する構造単位含有量(上記一般式(4)で表される構造単位含有量)は8モル%であった。
【0059】
(セラミックスラリー組成物の作製)
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂8重量部を、トルエン30重量部とエタノール30重量部との混合溶剤に加え、更にポリビニルアセタール樹脂に対してサリチル酸0.01モル%、可塑剤としてジブチルフタレート4重量部を加え、攪拌溶解した。
実施例1と同様にして作製したセラミックスラリー1次分散液に、得られた樹脂溶液と、ポリビニルアセタール樹脂に対してキシリレンジアミン0.01モル%とを加え、ボールミルで12時間混合してセラミックスラリー組成物を得た。
【0060】
(セラミックグリーンシートの作製)
得られたセラミックスラリー組成物を、コーターを用いて乾燥後の厚みが2μmとなるように離型処理したPETフィルム上に塗工した後、70℃で5分加熱乾燥させることにより、セラミックグリーンシートを作製した。
【0061】
(実施例4)
(変性ポリビニルアセタール樹脂の作製)
ケン化度99モル%、上記一般式(5)で表されるRを有する構造単位含有量が4モル%の変性ポリビニルアルコール100重量部を1000重量部の蒸留水に加温溶解した後、20℃に保ち、これに35%塩酸100重量部を加え、更にブチルアルデヒド6重量部、アセトアルデヒド60重量部を添加した。樹脂が析出した後、35℃に昇温して3時間保った。反応終了後、蒸留水にて10時間流水洗浄し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを8に調整した。溶液を50℃で6時間保持した後、冷却した。
次に、蒸留水により溶液を2時間流水洗浄した後、脱水、乾燥して変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。得られた変性ポリビニルアセタール樹脂の残存水酸基量(上記一般式(1)で表される構造単位含有量)は23モル%、上記一般式(2)で表される構造単位含有量)は72モル%(うちブチラール基[R:プロパノール基]10モル%、アセトアセタール基[R:メチル基]62モル%)、アセチル単位含有量(上記一般式(3)で表される構造単位含有量)は1モル%、上記一般式(5)で表されるRを有する構造単位含有量(上記一般式(4)で表される構造単位含有量)は4モル%であった。
【0062】
(セラミックスラリー組成物の作製)
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂8重量部を、トルエン30重量部とエタノール30重量部との混合溶剤に加え、ポリビニルアセタール樹脂に対してサリチル酸0.001モル%、可塑剤としてジブチルフタレート4重量部を加え、攪拌溶解した。
実施例1と同様にして作製したセラミックスラリー1次分散液に、得られた樹脂溶液と、ポリビニルアセタール樹脂に対してキシリレンジアミン0.002モル%とを加え、ボールミルで12時間混合してセラミックスラリー組成物を得た。
【0063】
(セラミックグリーンシートの作製)
得られたセラミックスラリー組成物を、コーターを用いて乾燥後の厚みが2μmとなるように離型処理したPETフィルム上に塗工した後、70℃で5分加熱乾燥させることにより、セラミックグリーンシートを作製した。
【0064】
(実施例5)
(変性ポリビニルアセタール樹脂の作製)
ケン化度94モル%、上記一般式(6)で表されるRを有する構造単位含有量が7モル%の変性ポリビニルアルコール100重量部を1000重量部の蒸留水に加温溶解した後、20℃に保ち、これに35%塩酸80重量部を加え、更にブチルアルデヒド22重量部、アセトアルデヒド26重量部を添加した。樹脂が析出した後、35℃に昇温して3時間保った。反応終了後、蒸留水にて10時間流水洗浄し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを8に調整した。溶液を50℃で6時間保持した後、冷却した。
次に、蒸留水により溶液を2時間流水洗浄した後、脱水、乾燥して変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。得られた変性ポリビニルアセタール樹脂の残存水酸基量(上記一般式(1)で表される構造単位含有量)は33モル%、上記一般式(2)で表される構造単位含有量)は54モル%(うちブチラール基[R:プロパノール基]31モル%、アセトアセタール基[R:メチル基]23モル%)、アセチル単位含有量(上記一般式(3)で表される構造単位含有量)は6モル%、上記一般式(6)で表されるRを有する構造単位含有量(上記一般式(4)で表される構造単位含有量)は7モル%であった。
【0065】
(セラミックスラリー組成物の作製)
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂8重量部を、トルエン30重量部とエタノール30重量部との混合溶剤に加え、ポリビニルアセタール樹脂に対して安息香酸0.01モル%、可塑剤としてジブチルフタレート4重量部を加え、攪拌溶解した。
実施例1と同様にして作製したセラミックスラリー1次分散液に、得られた樹脂溶液と、ポリビニルアセタール樹脂に対してヘキサメチレンジアミン0.01モル%とを加え、ボールミルで12時間混合してセラミックスラリー組成物を得た。
【0066】
(セラミックグリーンシートの作製)
得られたセラミックスラリー組成物を、コーターを用いて乾燥後の厚みが2μmとなるように離型処理したPETフィルム上に塗工した後、70℃で5分加熱乾燥させることにより、セラミックグリーンシートを作製した。
【0067】
(実施例6)
(変性ポリビニルアセタール樹脂の作製)
ケン化度98モル%、上記一般式(6)で表されるRを有する構造単位含有量が2モル%の変性ポリビニルアルコール100重量部を1000重量部の蒸留水に加温溶解した後、20℃に保ち、これに35%塩酸100重量部を加え、更にブチルアルデヒド6重量部、アセトアルデヒド70重量部を添加した。樹脂が析出した後、35℃に昇温して3時間保った。反応終了後、蒸留水にて10時間流水洗浄し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを8に調整した。溶液を50℃で6時間保持した後、冷却した。
次に、蒸留水により溶液を2時間流水洗浄した後、脱水、乾燥して変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。得られた変性ポリビニルアセタール樹脂の残存水酸基量(上記一般式(1)で表される構造単位含有量)は25モル%、上記一般式(2)で表される構造単位含有量)は72モル%(うちブチラール基[R:プロパノール基]5モル%、アセトアセタール基[R:メチル基]67モル%)、アセチル単位含有量(上記一般式(3)で表される構造単位含有量)は1モル%、上記一般式(6)で表されるRを有する構造単位含有量(上記一般式(4)で表される構造単位含有量)は2モル%であった。
【0068】
(セラミックスラリー組成物の作製)
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂8重量部を、トルエン30重量部とエタノール30重量部との混合溶剤に加え、ポリビニルアセタール樹脂に対してサリチル酸0.02モル%、ジブチルフタレート4重量部、JER152(ジャパンエポキシレジン社製、ノボラック型エポキシ)0.24重量部とを加え、攪拌溶解した。
実施例1と同様にして作製したセラミックスラリー1次分散液に、得られた樹脂溶液と、ポリビニルアセタール樹脂に対してヘキサメチレンジアミン0.02モル%、ボールミルで12時間混合してセラミックスラリー組成物を得た。
【0069】
(セラミックグリーンシートの作製)
得られたセラミックスラリー組成物を、コーターを用いて乾燥後の厚みが2μmとなるように離型処理したPETフィルム上に塗工した後、70℃で5分加熱乾燥させることにより、セラミックグリーンシートを作製した。
【0070】
(実施例7)
(セラミックスラリー組成物及びグリーンシートの作製)
実施例1で得られたポリビニルアセタール樹脂8重量部を、トルエン30重量部とエタノール30重量部との混合溶剤に加え、ポリビニルアセタール樹脂に対してサリチル酸0.01モル%、ジブチルフタレート4重量部、JER807(ジャパンエポキシレジン社製、Bis−F型エポキシ)0.96重量部とを加え、攪拌溶解した。
実施例1と同様にして作製したセラミックスラリー1次分散液に、得られた樹脂溶液と、ポリビニルアセタール樹脂に対してヘキサメチレンジアミン0.02モル%、ボールミルで12時間混合してセラミックスラリー組成物を得た。
【0071】
(実施例8)
実施例5で得られたポリビニルアセタール樹脂8重量部を、トルエン30重量部とエタノール30重量部との混合溶剤に加え、ポリビニルアセタール樹脂に対して安息香酸0.01モル%、ジブチルフタレート4重量部、JER828(ジャパンエポキシレジン社製、Bis−A型エポキシ)0.64重量部とを加え、攪拌溶解した。
実施例1と同様にして作製したセラミックスラリー1次分散液に、得られた樹脂溶液と、ポリビニルアセタール樹脂に対してメタキシリレンジアミン0.02モル%、ボールミルで12時間混合してセラミックスラリー組成物を得た。
【0072】
(実施例9)
実施例4で得られたポリビニルアセタール樹脂8重量部を、トルエン30重量部とエタノール30重量部との混合溶剤に加え、ポリビニルアセタール樹脂に対して安息香酸0.02モル%、ジブチルフタレート4重量部、JER807(ジャパンエポキシレジン社製、Bis−F型エポキシ)0.4重量部とを加え、攪拌溶解した。
実施例1と同様にして作製したセラミックスラリー1次分散液に、得られた樹脂溶液と、ポリビニルアセタール樹脂に対してメタキシリレンジアミン0.01モル%、ボールミルで12時間混合してセラミックスラリー組成物を得た。
【0073】
(実施例10)
実施例2で得られたポリビニルアセタール樹脂8重量部を、トルエン30重量部とエタノール30重量部との混合溶剤に加え、ポリビニルアセタール樹脂に対してサリチル酸0.01モル%、ジブチルフタレート4重量部、JER828(ジャパンエポキシレジン社製、Bis−A型エポキシ)1.36重量部とを加え、攪拌溶解した。
実施例1と同様にして作製したセラミックスラリー1次分散液に、得られた樹脂溶液と、ポリビニルアセタール樹脂に対してメタキシリレンジアミン0.02モル%、ボールミルで12時間混合してセラミックスラリー組成物を得た。
【0074】
(比較例1)
(ポリビニルアセタール樹脂の作製)
ケン化度99モル%のポリビニルアルコール100重量部を1000重量部の蒸留水に加温溶解した後、20℃に保ち、これに35%塩酸100重量部を加え、更にブチルアルデヒド6重量部、アセトアルデヒド70重量部を添加した。樹脂が析出した後、35℃に昇温して3時間保った。反応終了後、蒸留水にて10時間流水洗浄し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを8に調整した。溶液を50℃で6時間保持した後、冷却した。
次に、蒸留水により溶液を2時間流水洗浄した後、脱水、乾燥してポリビニルアセタール樹脂を得た。得られたポリビニルアセタール樹脂の残存水酸基量(上記一般式(1)で表される構造単位含有量)は32モル%、ブチラール単位含有量(上記一般式(2)で表される構造単位含有量)は67モル%、アセチル単位含有量(上記一般式(3)で表される構造単位含有量)は1モル%であった。
【0075】
(セラミックスラリー組成物及びセラミックグリーンシートの作製)
得られたポリビニルアセタール樹脂を用いた以外は実施例1と同様にしてセラミックスラリー1次分散液、セラミックスラリー組成物及びセラミックグリーンシートを作製した。
【0076】
(比較例2)
(ポリビニルアセタール樹脂の作製)
ケン化度99モル%のポリビニルアルコール100重量部を1000重量部の蒸留水に加温溶解した後、20℃に保ち、これに35%塩酸80重量部を加え、更にブチルアルデヒド24重量部、アセトアルデヒド35重量部を添加した。樹脂が析出した後、35℃に昇温して3時間保った。反応終了後、蒸留水にて10時間流水洗浄し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを8に調整した。溶液を50℃で6時間保持した後、冷却した。
次に、蒸留水により溶液を2時間流水洗浄した後、脱水、乾燥してポリビニルアセタール樹脂を得た。
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂の残存水酸基量(上記一般式(1)で表される構造単位含有量)は28モル%、上記一般式(2)で表される構造単位含有量)は71モル%(うちブチラール基[R:プロパノール基]31モル%、アセトアセタール基[R:メチル基]40モル%)、アセチル単位含有量(上記一般式(3)で表される構造単位含有量)は1モル%であった。
【0077】
(セラミックスラリー組成物及びセラミックグリーンシートの作製)
得られたポリビニルアセタール樹脂を用いた以外は実施例1と同様にしてセラミックスラリー1次分散液、セラミックスラリー組成物及びセラミックグリーンシートを作製した。
【0078】
(比較例3)
キシリレンジアミンを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にしてセラミックスラリー1次分散液、セラミックスラリー組成物及びセラミックグリーンシートを作製した。
【0079】
(比較例4)
サリチル酸を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にしてセラミックスラリー1次分散液、セラミックスラリー組成物及びセラミックグリーンシートを作製した。
【0080】
(比較例5)
サリチル酸のかわりに蟻酸をポリビニルアセタール樹脂に対して0.02モル%添加したこと以外は実施例2と同様にしてセラミックスラリー1次分散液、セラミックスラリー組成物及びセラミックグリーンシートを作製した。
【0081】
(比較例6)
(セラミックスラリー組成物の作製)
比較例1と同様の方法でポリビニルアセタール樹脂を作製した後、得られたポリビニルアセタール樹脂8重量部を、トルエン30重量部とエタノール30重量部との混合溶剤に加え、更にジブチルフタレート4重量部、JER152(ジャパンエポキシレジン社製、エポキシ)0.08重量部とを加え、攪拌溶解した。
実施例1と同様にして作製したセラミックスラリー1次分散液に、得られた樹脂溶液と、ポリビニルアセタール樹脂に対してキシリレンジアミン0.1モル%、ボールミルで12時間混合してセラミックスラリー組成物を得た。
【0082】
(セラミックグリーンシートの作製)
得られたセラミックスラリー組成物を、コーターを用いて乾燥後の厚みが2μmとなるように離型処理したPETフィルム上に塗工した後、70℃で5分加熱乾燥させることにより、セラミックグリーンシートを作製した。
【0083】
(比較例7)
(セラミックスラリー組成物の作製)
比較例1と同様の方法でポリビニルアセタール樹脂を作製した後、得られたポリビニルアセタール樹脂8重量部を、トルエン30重量部とエタノール30重量部との混合溶剤に加え、更にジブチルフタレート4重量部、JER152(ジャパンエポキシレジン社製、エポキシ)1.6重量部とを加え、攪拌溶解した。
実施例1と同様にして作製したセラミックスラリー1次分散液に、得られた樹脂溶液と、ポリビニルアセタール樹脂に対してキシリレンジアミン0.02モル%、ボールミルで12時間混合してセラミックスラリー組成物を得た。
【0084】
(比較例8)
(セラミックスラリー1次分散液の作製)
セラミック粉末としてチタン酸バリウム(BT−03、平均粒径0.3μm、堺化学工業社製)70重量部、トルエン30重量部とエチルメチルケトン30重量部との混合溶剤、ED−216(楠本化成株式会社製、分散剤)1重量部を48時間ボールミルで混合させ、セラミックスラリー1次分散液を得た。
【0085】
(セラミックスラリーの作製)
YP−50(新日鐵化学社製、Bis−A型高分子量エポキシ樹脂)8重量部をトルエン30重量部とメチルエチルケトン30重量部との混合溶剤に加え、さらにジブチルフタレート4重量部とを加え、攪拌溶解した。
セラミックスラリー1次分散液に、得られた樹脂溶液と、ポリビニルアセタール樹脂に対してヘキサメチレンジアミン0.04重量%とを加え、ボールミルで12時間混合してセラミックスラリー組成物を得た。
得られたセラミックスラリー組成物を、コーターを用いて乾燥後の厚みが2μmとなるように離型処理したPETフィルム上に塗工した後、70℃で5分加熱乾燥させることにより、セラミックグリーンシートを作製した。
【0086】
(比較例9)
(セラミックスラリー1次分散液の作製)
セラミック粉末としてチタン酸バリウム(BT−03、平均粒径0.3μm、堺化学工業社製)70重量部、トルエン60重量部、メチルエチルケトン60重量部、JP−4(ユニケマ社製、分散剤)1重量部を48時間ボールミルで混合させ、セラミックスラリー1次分散液を得た。
【0087】
(セラミックスラリーの作製)
熱硬化性アクリル樹脂SD−0324(日本カーバイド社製、メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチルの共重合体樹脂)10重量部と、ジブチルフタレート4重量部とを加え、攪拌溶解した。
セラミックスラリー1次分散液に、得られた樹脂溶液と、ポリビニルアセタール樹脂に対して重合開始剤としてヘキサメチレンジアミン1重量%とを加え、ボールミルで12時間混合してセラミックスラリー組成物を得た。
得られたセラミックスラリー組成物を、コーターを用いて乾燥後の厚みが2μmとなるように離型処理したPETフィルム上に塗工した後、70℃で5分加熱乾燥させることにより、セラミックグリーンシートを作製した。
【0088】
(セラミックグリーンシートの作製)
得られたセラミックスラリー組成物を、コーターを用いて乾燥後の厚みが2μmとなるように離型処理したPETフィルム上に塗工した後、70℃で5分加熱乾燥させることにより、セラミックグリーンシートを作製した。
【0089】
(評価)
(1)シートアタックの発生の有無
得られたセラミックグリーンシート上にテルピネオール又はジヒドロテルピネオールをスポイトにて一滴(約0.02g)滴下し、60℃で5分乾燥させた後のセラミックグリーンシートの状態を目視にて観察し、以下の基準でシートアタックの発生の有無を評価した。
◎:セラミックグリーンシートの変化が全く観察されなかった。
○:セラミックグリーンシートに、目視では皺や穴は観察されなかったが、顕微鏡で100倍観測時には若干の皺が観察された。
×:セラミックグリーンシートに、目視でも皺又は穴が観察された。
【0090】
(2)剥離性
得られたセラミックグリーンシートの上にテルピネオールをスポイトにて一滴(約0.02g)滴下し、60℃で5分乾燥させた後に離型処理したPETフィルムから剥離し、セラミックグリーンシートの剥離性を以下の基準で評価(n=5回)した。
◎:テルピネオールを滴下した部分も問題なく、全てセラミックグリーンシートがきれいに剥離できた。
○:5回のうちの1回又は2回で、テルピネオールを滴下した部分のセラミックグリーンシートが一部に破れが観察された。
×:5回全てにおいて、テルピネオールで滴下した部分のセラミックグリーンシートに、破れが観察された。
【0091】
(3)シート強度
得られたセラミックグリーンシートを離型処理したPETフィルムから剥離し、20mm×50mmにカットしたもののシートの弾性率を引張試験機で測定した(速度:50mm/min)。得られた弾性率について以下の基準で評価した。
◎:弾性率が1000MPa以上。
○:弾性率が1000MPa未満、800MPa以上。
×:弾性率が800MPa未満。
【0092】
(4)熱分解性
実施例及び比較例で得られた変性ポリビニルアセタール樹脂又はポリビニルアセタール樹脂10重量部をトルエン50重量部とエタノール50重量部との混合溶剤に加え、攪拌溶解した後、コーターを用いて乾燥後の厚みが10μmとなるように離形処理したPETフィルム上に塗工、乾燥することにより樹脂シートを作製した。
得られた樹脂シートから測定サンプル(0.020g)を採取し、空気100ml/分の雰囲気下で、室温(20℃)から500℃まで昇温速度10℃/分で昇温させ、500℃での分解率(重量%)を測定した。得られた分解率を以下の基準で評価した。
◎:分解率が80%以上。
○:分解率が80%未満、70%以上。
×:分解率が70%未満。
【0093】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明によれば、シートアタックや強度不足の問題を解決することができ、かつ、脱脂工程等を行う用途に使用する場合であっても、分解性が高く、分解残渣が極めて少ないセラミックスラリー組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック粉末、少なくとも下記一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される構造単位を有するポリビニルアセタール樹脂、芳香族有機酸、有機溶剤及び多官能アミンを含有することを特徴とするセラミックスラリー組成物。
【化1】

式中、Rは水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表し、Rはカルボニル基を有し、かつ、エステル基又はアミド基ではない官能基を表す。
【請求項2】
多官能アミンは、炭素数1〜20の炭化水素基を含有することを特徴とする請求項1記載のセラミックスラリー組成物。
【請求項3】
ポリビニルアセタール樹脂に対して、0.0001〜0.02モル%の多官能アミンを含有することを特徴とする請求項1又は2記載のセラミックスラリー組成物。
【請求項4】
ポリビニルアセタール樹脂に対して、0.001〜0.02モル%の芳香族有機酸を含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載のセラミックスラリー組成物。
【請求項5】
ポリビニルアセタール樹脂の一般式(4)で表される構造単位が、下記式(5)で表される構造であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のセラミックスラリー組成物。
【化2】

【請求項6】
ポリビニルアセタール樹脂の一般式(4)で表される構造単位が、下記式(6)で表される構造であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のセラミックスラリー組成物。
【化3】


【公開番号】特開2011−140634(P2011−140634A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266907(P2010−266907)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】