説明

セラミックス多孔体およびセラミックス多孔体の製造方法

【課題】気泡に由来する球状をなす球状気孔が均一であるセラミックス多孔体、およびこの球状気孔が均一であるセラミックス多孔体を製造することができるセラミックス多孔体の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のセラミックス多孔体の製造方法は、リン酸カルシウム系化合物で構成され、球状気孔を有するセラミックス多孔体を製造するものであり、リン酸カルシウム系化合物で構成される粉体と、水溶性高分子化合物と、アルキルベンゼンスルフォン酸界面活性剤とを含有するスラリーを調製する第1の工程と、前記スラリーを撹拌することにより起泡させた後に、前記スラリーを高周波加熱により加熱することでゲル化させる第2の工程と、ゲル化した前記スラリーを乾燥させ、さらに焼結する第3の工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス多孔体およびセラミックス多孔体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、歯科、外科等で、人工骨、人工歯、骨類の補填等に用いられる骨補填材としては、毒性がなく、機械的強度が十分で、生体組織と親和性が高く結合しやすいものが好ましく用いられ、具体的には、リン酸カルシウム系化合物で構成されたセラミックス多孔体が好ましく用いられている。
【0003】
このようなリン酸カルシウム系化合物で構成されたセラミックス多孔体(骨補填材)の製造方法として、例えば、リン酸カルシウム系化合物で構成される原料粉末と熱分解物質とを混合し、所定の形状に成形した後、加熱して熱分解物質の除去と原料粉末の焼結を行う方法(例えば、特許文献1参照。)や、原料粉末と熱分解物質との他に、さらに起泡剤を混合し、この起泡剤により気泡を発生させた状態で、熱分解物質の除去と原料粉末の焼結を行う方法(例えば、特許文献2参照。)等が提案されている。
【0004】
しかしながら、これらの製造方法では、気孔を形成するために添加した熱分解物質がほぼ均一に接触するとは限らないことから、形成された気孔の大部分は独立した気孔となることが多く、また、形成された気孔の気孔径のバラツキが大きい。さらに、隣接する気孔同士が接し、これに起因して、気孔同士が連通した連通孔がたとえ形成されたとしても、連通孔の断面積が小さく、かつ、そのバラツキが大きい。
【0005】
したがって、かかる構成の骨補填材を、生体の骨欠損部等に補填したとしても、骨生成に必要な骨芽細胞等を、気孔内に均一に侵入させることが困難であるため、均一な骨再生が実現できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−21763号公報
【特許文献2】特開2000−302567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、球状をなす球状気孔が均一であるセラミックス多孔体を製造することができるセラミックス多孔体の製造方法、およびこの球状気孔が均一であるセラミックス多孔体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記(1)〜(6)に記載の本発明により達成される。
(1) リン酸カルシウム系化合物で構成され、球状気孔を有するセラミックス多孔体の製造方法であって、
リン酸カルシウム系化合物で構成される粉体と、水溶性高分子化合物と、アルキルベンゼンスルフォン酸系界面活性剤とを含有するスラリーを調製する第1の工程と、
前記スラリーを撹拌することにより起泡させた後に、前記スラリーを高周波加熱により加熱することでゲル化させる第2の工程と、
ゲル化した前記スラリーを乾燥させ、さらに焼結する第3の工程とを有することを特徴とするセラミックス多孔体の製造方法。
【0009】
このように、第2の工程において、前記スラリーを高周波加熱により加熱することで、スラリーのゲル化が均一に行われるため、第3の工程で得られるセラミックス多孔体を、均一な球状気孔を有するものとすることができる。
【0010】
(2) 前記水溶性高分子化合物は、セルロース誘導体である上記(1)に記載のセラミックス多孔体の製造方法。
これにより、スラリーのゲル化をより確実に行うことができる。
【0011】
(3) 前記第2の工程において、前記スラリーをゲル化させる際の温度は、80℃以上、100℃以下である上記(1)または(2)に記載のセラミックス多孔体の製造方法。
【0012】
これにより、水分が沸騰するのを防止しつつ、スラリーを確実にゲル化させることができる。
【0013】
(4) 前記第1の工程において、前記スラリーは、前記粉体を含有する分散液を得た後に、前記水溶性高分子化合物と、前記アルキルベンゼンスルフォン酸界面活性剤とを含有するペーストを添加することにより調製される上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のセラミックス多孔体の製造方法。
【0014】
このように、分散液とペーストとを別個に分けて調製し、その後、これらを混合することでスラリーを得る構成とすることで、分散液に含まれる粉体に対して、ペーストを均一に分散することができるようになるため、第3の工程で得られるセラミックス多孔体を、より均一な球状気孔を有するものとすることができる。
【0015】
(5) 前記スラリーを調製する際に、前記ペーストの温度は、前記分散液の温度よりも10〜20℃高く設定される上記(4)に記載のセラミックス多孔体の製造方法。
【0016】
これにより、第3の工程で得られるセラミックス多孔体は、さらに均一な球状気孔を有するものとなる。
【0017】
(6) リン酸カルシウム系化合物で構成され、球状気孔を有するセラミックス多孔体であって、
その相対気孔率が50%以上であり、
前記球状気孔は、その平均気孔径が100〜160μmであり、かつ、その標準偏差が40μm以下であることを特徴とするセラミックス多孔体。
【0018】
このような平均気孔径および標準偏差を有する球状気孔を備えるセラミックス多孔体は、均一な球状気孔を備えるものと言うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のセラミックス多孔体の製造方法によれば、その相対気孔率が50%以上であり、さらに、球状気孔の平均気孔径が100〜160μmであり、かつ、その標準偏差が40μm以下であるセラミックス多孔体を製造することができる。
【0020】
また、本発明のセラミックス多孔体であれば、球状をなす球状気孔が均一であるものと言うことができ、例えば、このセラミックス多孔体を骨補填材に適用した場合、骨芽細胞等の細胞の移動が円滑に行われるため、早期の骨再生が実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のセラミックス多孔体(実施例1の焼結体)における走査顕微鏡写真である。
【図2】比較例1の焼結体における走査顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のセラミックス多孔体の製造方法およびセラミックス多孔体の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0023】
まず、本発明のセラミックス多孔体について説明する。
図1は、本発明のセラミックス多孔体における走査顕微鏡写真である。
【0024】
本発明のセラミックス多孔体は、リン酸カルシウム系化合物で構成され、球状をなす球状気孔を有するものであり、その相対気孔率が50%以上であり、さらに、前記球状気孔は、その平均気孔径が100〜160μmであり、かつ、その標準偏差が40μm以下であることを特徴とする。
【0025】
このようなセラミックス多孔体は、細胞および生体組織の培養に用いる担体や、骨補填用等に好適な生体親和性を有する人工生体材料に用いることができる。
【0026】
特に、骨補填用の骨補填材に適用した場合、本発明では、球状気孔の平均気孔径が100〜160μmであり、かつ、その標準偏差が40μm以下となっており、前記球状気孔が均一なものとなっている。そのため、リン酸カルシウム系化合物で構成される塊の発生を低減することができ、前記球状気孔同士が連通することにより形成される連通孔も均一なものとなる。これにより、骨生成に必要な骨芽細胞等を、球状気孔内に均一に侵入させることができ、その結果、均一な骨再生が実現可能となる。
【0027】
なお、セラミックス多孔体の相対気孔率は50%以上であればよいが、55%以上であるのが好ましく、60%以上であるのがより好ましい。相対気孔率をかかる範囲内に設定することにより、前記球状気孔同士が確実に連通して連通孔が形成され、その結果、連通孔が三次元的に連通した気孔構造が形成される。
【0028】
また、球状気孔の平均気孔径は、100〜160μmであればよいが、120〜150μmであるのが好ましく、130〜150μmであるのがより好ましい。さらに、その標準偏差は、40μm以下であればよいが、35μm以下であるのが好ましく、30μm以下であるのがより好ましい。
【0029】
なお、球状気孔の気孔径のバラツキの程度は、上述した標準偏差の他に、例えば、気孔径の半値幅によっても表すことができるが、本発明では、半値幅が110μm以下であるのが好ましく、100μm以下であるのがより好ましい。
【0030】
平均気孔径、標準偏差さらには半値幅をかかる範囲内に設定することにより、球状気孔がより均一なものとなっていると言え、より均一な骨再生を実現することができる。
【0031】
なお、本明細書中において、「相対気孔率」とは、セラミックス多孔体において気孔が占める割合(%)を表し、例えば、(1−W/D/V)×100、[式中、Wは乾燥重量、Vは体積、Dは理論密度(例えば、ハイドロキシアパタイトは3.16g/cm、β−TCPは3.07g/cm)を表す。]の関係式より求めることができる。
【0032】
また、本明細書中において、「球状気孔」とは、図1に示すように、セラミックス多孔体において、気泡や高分子の球状ビーズ等に由来して形成された球状をなす気孔であり、その気孔径は、例えば、マイクロCT装置等を用いて、所定の厚さにおける画像を取得し、その画像に基づいて、測定することにより得ることができる。そして、測定された各球状気孔の気孔径から、その平均気孔径、標準偏差および半値幅を求めることができる。
【0033】
なお、球状気孔の気孔径を求めるための画像解析は、例えば、SEM画像より気孔径を円相当径として測定して行われる。
【0034】
さらに、このようなセラミックス多孔体では、隣接する球状気孔同士が連通することにより、連通孔が形成される(図1参照。)が、この連通孔の平均粒径は、50μm以上であるのが好ましく、50μm以上、150μm以下であるのがより好ましい。連通孔の平均粒径を、かかる範囲内に設定することにより、セラミックス多孔体として求められる強度を維持しつつ、連通孔を介した球状気孔同士間の骨形成に関与する前駆細胞等の移動や栄養血管系の侵入が円滑に行われるため、早期の骨再生が実現可能となる。
【0035】
また、このセラミックス多孔体は、リン酸カルシウム系化合物で構成される一次粒子の造粒体からなる球状二次粒子の集合体で構成されている。そのため、球状気孔は、その表面に、その球状二次粒子の間隙により形成された細孔を有する構成をなしている。かかる構成のセラミックス多孔体において、この細孔は、その口径が20μm以下であるのが好ましく、10μm以下であるのがより好ましい。細孔の口径を、かかる範囲内に設定することにより、セラミックス多孔体人工骨として求められる骨再生能力を確実に維持することができる。
【0036】
このようなセラミックス多孔体は、上述した骨補填材として用いる場合、顆粒状をなすものが多く用いられるが、例えば、立方体、直方体、円柱およびスティック状等の形状であってもよい。
【0037】
また、このようなセラミックス多孔体は、優れた生体親和性を備えているリン酸カルシウム系化合物で構成される。
【0038】
リン酸カルシウム系化合物としては、例えば、ハイドロキシアパタイト(HAP)、フッ素アパタイト、炭酸アパタイト等のアパタイト類、リン酸二カルシウム、リン酸三カルシウム(TCP)、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウム等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのリン酸カルシウム系化合物のなかでもCa/P比が1.0〜2.0のものが好ましく、1.5〜2.0のものがより好ましく用いられる。
【0039】
以上のような本発明のセラミックス多孔体は、次のような本発明のセラミックス多孔体の製造方法により製造することができる。
【0040】
本発明のセラミックス多孔体の製造方法は、リン酸カルシウム系化合物で構成される前記球状二次粒子粉体と、水溶性高分子化合物と、アルキルベンゼンスルフォン酸系界面活性剤とを含有するスラリーを調製する第1の工程と、前記スラリーを撹拌することにより起泡させた後に、前記スラリーを高周波加熱により加熱することでゲル化させる第2の工程と、ゲル化した前記スラリーを乾燥させ、さらに焼結する第3の工程とを有している。以下、これらの工程について、順次説明する。
【0041】
[A]まず、リン酸カルシウム系化合物で構成される粉体と、水溶性高分子化合物と、アルキルベンゼンスルフォン酸系界面活性剤とを含有するスラリーを調製する。
【0042】
このスラリーは、前記粉体と、水溶性高分子化合物と、アルキルベンゼンスルフォン酸系界面活性剤とを含有するものであれば特に限定されるものではなく、さらに、このものを調製する際の調製方法についても同様に特に限定されないが、リン酸カルシウム系化合物で構成される粉体を含有する分散液(スラリー)に、水溶性高分子化合物と、アルキルベンゼンスルフォン酸系界面活性剤とを含有するペーストを添加するのが好ましい。これにより、分散液(粉体)に対して、ペースト(ペースト状をなすバインダー)を均一に分散することができるようになる。
【0043】
以下、かかる方法によりスラリーを調製する場合を一例に説明する。
[A−1]まず、リン酸カルシウム系化合物で構成される粉体を含有する分散液(スラリー)を調製する。
【0044】
この粉体としては、特に限定されないが、平均粒径が100nm以下の一次粒子からなる平均粒径0.5〜80μmの二次粒子が好ましく用いられる。
【0045】
そして、この粉体を、例えば、水等に分散することにより前記分散液(スラリー)が得られる。
【0046】
[A−2]次いで、水溶性高分子化合物と、アルキルベンゼンスルフォン酸系界面活性剤とを含有するペースト(ペースト状をなすバインダー)を調製する。
【0047】
このペーストは、例えば、水溶性高分子化合物に対して、アルキルベンゼンスルフォン酸系界面活性剤を所定量ずつ添加することによりペースト状をなすものとすることができる。
【0048】
なお、このペーストの粘度が高い場合には、水等の溶媒を添加して、その粘度を調整するようにしてもよい。
【0049】
水溶性高分子化合物は、その水溶性または水分散液に対して加熱等の手段を施すことによりゲル化するようなものである。ここで、水溶性または水分散液は、水溶液、コロイド溶液、エマルジョンおよび懸濁液のいずれであってもよい。
【0050】
このような水溶性高分子化合物として、例えば、メチルセルロース等のセルロース誘導体、カードラン等の多糖類、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の合成重合体等が挙げられ、中でも、セルロース誘導体が好ましい。これにより、スラリーのゲル化をより確実に行うことができる。
【0051】
また、アルキルベンゼンスルフォン酸系界面活性剤は、次工程[B]において、スラリーを撹拌した際に、より微細な気泡を発生させることができるとともに、発生した気泡の消失を抑制または防止するために添加されるものである。
【0052】
さらに、本発明では、界面活性剤としてアルキルベンゼンスルフォン酸界面活性剤が用いられるが、かかる界面活性剤を用いることにより、後工程[C]において、焼結体を得た際に、このものを構成するリン酸カルシウム系化合物を、硫酸基が導入されたものとすることができる。そのため、骨生成の際に骨芽細胞等の細胞活性が高くなり、その結果、骨補填材における骨再生をより早期に行うことができる。さらに、次工程[B]において、スラリーを高周波加熱により加熱する際に、スラリーのインピーダンスが低下するため、スラリーの加熱を高効率に行うことができる。
【0053】
このようなアルキルベンゼンスルフォン酸界面活性剤としては、特に限定されず、例えば、アルキルベンゼンスルフォン酸EDT等が挙げられる。
【0054】
[A−3]次いで、前記[A−1]で調製した分散液に、前記[A−2]で調製したペーストを添加することにより、スラリー(ペーストが添加された分散液)を得る。
【0055】
このように、分散液とペーストとを別個に分けて調製し、その後、これらを混合する構成とすることで、これらを混合して得られるスラリー中に気泡や粉体の塊が生じることなく、分散液(粉体)に対して、ペースト(ペースト状をなすバインダー)を均一に分散することができるようになる。そのため、後工程[C]で得られる焼結体(セラミックス多孔体)を、均一な球状気孔を有するもの、すなわち、確実に上述したような球状気孔の平均気孔径および標準偏差を有するものとすることができる。
【0056】
なお、この際には、分散液に対して、ペーストを所定量に分けて、複数回添加するのが好ましい。
【0057】
また、ペースト(ペースト状のバインダー)の温度は、分散液の温度よりも高く設定するのが好ましく、具体的には、10〜20℃程度高く設定するのが好ましい。より具体的には、分散液の温度は、10〜30℃程度であるのが好ましい。また、ペーストの温度は、30〜40℃程度であるのが好ましい。ここで、本発明では、得られるセラミックス多孔体の相対気孔率を50%以上と高く設定する必要があるため、高濃度の水溶性高分子化合物を含むペーストが添加される。そのため、水溶性高分子化合物の種類によっては、通常の温度で、ペーストを分散液に添加すると、ペーストが高粘度であるため、均一に分散液中にペーストを混合することが困難となるおそれがある。
【0058】
そこで、上記のようにペーストの温度を分散液の温度よりも高く設定することで、ペーストの低粘度化が図られ、これにより、ペーストを分散液中により均一に混合することが可能となる。その結果、後工程[C]で得られる焼結体は、より確実に上述したような球状気孔の平均気孔径および標準偏差を有するものとなる。
【0059】
なお、ペーストが添加された分散液(スラリー)中において、粉体を100重量部として、水溶性高分子化合物を1〜10重量部とし、アルキルベンゼンスルフォン酸界面活性剤を1〜10重量部とするのが好ましい。粉体の添加量が少なすぎると、乾燥のための時間に必要以上に時間を要するおそれがあり、また多すぎるとスラリーの粘度が高くなりすぎ、起泡を発生させることが困難となるおそれがある。また、水溶性高分子化合物の添加量が1重量部未満であると、ゲル化が困難であり、また10重量部超であるとスラリーの粘度が高すぎ、起泡が困難である。さらに、アルキルベンゼンスルフォン酸界面活性剤の添加量が1重量部未満であると、起泡が困難であり、また10重量部超にしてもそれに見合う効果の向上が得られない。
【0060】
[B]次に、得られたスラリー(ペーストが添加された分散液)を、撹拌することにより起泡させた後に、スラリーを高周波加熱により加熱することでゲル化させる(第2の工程)。
【0061】
[B−1]まず、前記工程[A]で得られたスラリーを、撹拌することにより起泡させる。
【0062】
スラリーを攪拌すると、このスラリーが空気を巻き込み、これに起因して発泡する。
この際のスラリーを撹拌する攪拌力は、特に限定されないが、50W/L以上であるのが好ましい。攪拌力が50W/L未満であると、粉体の種類およびその含有量等によっては、起泡が不十分となり、所望の気孔率を有するセラミックス多孔体が得られないおそれがある。
【0063】
なお、攪拌力は、[攪拌機の最大出力(W)/水溶液の量(L)]×(実際の回転数/最大回転数)により求めることができる。また、攪拌機の出力は、スラリーの粘度が高くなると回転数を保つために増大するが、高気孔率に起泡させる場合、スラリー粘度は仕込み時の粘度から実質的に変化しない。従って、粘度の影響は実質的に無視できる。
【0064】
このような攪拌力が得られる装置としては、例えば、インペラー式ホモジナイザーが挙げられる。インペラー式ホモジナイザーは本来起泡が起こらないように設計されているが、攪拌条件を50W/L以上とすることにより、著しい起泡が可能になる。また攪拌羽根をディスク状にするとともに、ディスクの外周に鋸刃上の凹凸を設け、さらに攪拌容器の内壁に邪魔板を設けた構造の攪拌装置を使用するのが好ましい。
【0065】
このような構造を有するインペラー式ホモジナイザーは、例えば、エスエムテー社製のPH91、PA92、HF93、FH94P、PD96、HM10等が挙げられる。さらに、上記起泡をさらに促進するために、攪拌中のスラリーに空気や、窒素、アルゴン等の不活性ガスを注入するようにしてもよい。
攪拌時間は、攪拌力に依存するが、一般的には、1〜30分間程度に設定される。
【0066】
また、気泡を微細かつ均一化させるとともに安定化させるために、比較的低温で起泡を行うのが好ましく、具体的には、好ましくは0〜25℃程度、より好ましくは5〜20℃程度の液温に設定される。
【0067】
[B−2]次いで、発泡させたスラリーを、高周波加熱により加熱することでゲル化させる。
【0068】
このように、本発明では、発泡させたスラリーをゲル化させるための加熱方法として、高周波加熱を用いることに特徴を有する。
【0069】
ここで、高周波加熱とは、発泡させたスラリーに高周波を加えることにより、スラリー中に含まれる構成材料に誘電体損失が生じ、これにより発熱させることを言う。
【0070】
このような高周波加熱によれば、正確な加熱温度の制御を容易に行うことができ、スラリーの表面からその内部に至るまで、ほぼ均一に加熱することができる。そのため、スラリーのゲル化も、同様に、スラリーの表面からその内部に至るまで、ほぼ均一に行われることから、ゲル化に要する時間が異なることに起因して、気泡径にバラツキが生じてしまうのを的確に抑制または防止することができる。したがって、ゲル化されたスラリー中に含まれる気泡は、スラリーの表面からその内部に至るまで、気泡径が均一なものとなる。
【0071】
また、本発明では、界面活性剤として、アルキルベンゼンスルフォン酸界面活性剤が用いられるため、スラリーのインピーダンスを低下させることができるため、スラリーの加熱を高効率に行うことができる。
【0072】
また、このゲル化は、具体的には、例えば、攪拌により十分に起泡したスラリーを、高周波加熱により、好ましくは80℃以上、100℃以下、より好ましくは80℃以上、90℃以下に加熱することで、メチルセルロース等の水溶性高分子化合物の作用により行われる。なお、水溶性高分子化合物の種類等によっては、加熱温度が前記下限値未満であるとゲル化が不十分となるおそれがあり、また前記上限値を超えると水分が沸騰し、形成された気孔構造が破壊されるおそれがある。
【0073】
[C]次に、ゲル化して発泡させたスラリーを乾燥させ、さらに焼結する(第3の工程)。
【0074】
[C−1]まず、ゲル化したスラリーを乾燥することにより乾燥体(グリーンブロック)を得る。
【0075】
なお、ゲル化したスラリーの乾燥は、水分が沸騰しない程度の高温(例えば、80℃以上〜100℃未満)に保持することにより行われる。
【0076】
また、ゲル化したスラリー(ゲル)は、乾燥によりほぼ等方的に収縮するとともに、気泡に変化は起こらないため、割れ等を生ずることなく、微細かつ均一な球形の球状気孔(マクロポア)を有する強度の高い乾燥体(グリーンブロック)となる。
【0077】
[C−2]次いで、乾燥体(グリーンブロック)を焼結することにより焼結体(本発明のセラミックス多孔体)得る。
【0078】
グリーンブロックを焼結する際の条件は、例えば、1000〜1250℃の温度で、2〜10時間焼結する。焼結温度が1000℃未満であると、十分な強度を有するセラミックス多孔体が得られず、また、1250℃超であると、リン酸カルシウム系化合物としてハイドロキシアパタイトを用いた場合、ハイドロキシアパタイトは燐酸三カルシウムと酸化カルシウムに分解してしまう。また、焼結時間は焼結温度に応じて適宜設定される。
【0079】
なお、リン酸カルシウム系化合物としてβ−TCPを得たい場合、グリーンブロックを焼結する温度は、1000〜1150℃の範囲内に設定される。これにより、β−TCPからα−TCPへの転移が確実に防止される。
【0080】
なお、本工程[C−2]に先立って、乾燥体を加工する加工工程および/または乾燥体を脱脂する脱脂工程を施すようにしてもよい。
【0081】
加工工程において、グリーンブロックに含有される水溶性高分子化合物はバインダーとして作用するので、ハンドリングできる機械的強度を有する。したがって、仮焼成を行うことなく、乾燥体のまま切削加工することができる。
【0082】
また、脱脂工程は、例えば、300〜900℃に、グリーンブロックを加熱することにより行うことができる。これにより、グリーンブロックから水溶性高分子化合物およびアルキルベンゼンスルフォン酸界面活性剤を確実に除去することができる。
【0083】
なお、脱脂工程と焼結工程とを、一括して行う場合には、焼結温度に達するまで、徐々に昇温するようにすればよい。例えば、室温から約10〜100℃/時の昇温速度で約600℃まで昇温し、次いで、約50〜200℃/時の昇温速度で焼結温度まで昇温し、この温度で保持することで行うことができる。
【0084】
以上、本発明のセラミックス多孔体の製造方法およびセラミックス多孔体について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0085】
例えば、本発明のセラミックス多孔体の製造方法では、任意の目的で、工程[A]の前工程、工程[A]と[B]との間、工程[B]と[C]との間に存在する中間工程、または工程[C]の後工程を追加するようにしてもよい。
【0086】
さらに、本発明のセラミックス多孔体は、人工生体材料への適用のみならず、例えば、液体クロマトグラフィー用充填剤、触媒担体、各種の電気・電子材料、原子炉材料およびセラミック発熱体等として用いることもできる。
【実施例】
【0087】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.セラミックス多孔体の製造
(実施例1)
<1> まず、Ca/P比1.67の一次粒子(平均粒径:100nm)の造粒体からなる二次粒子(平均粒径:25μm)100重量部を含有するスラリーを調製してホモジナイザー(エスエムテー社製、「PA92」)に投入した。
【0088】
<2> 次に、純水27部にアルキルベンゼンスルフォン酸系界面活性剤(アルキルベンゼンスルフォン酸EDT)1.4部を添加した水溶液にメチルセルロース粉体3.4部を加え、攪拌脱泡機(シンキー製、「あわとり練太郎ARE-250」)にて分散混合を行いペースト状バインダーを調製した。
【0089】
<3> 次に、前記工程<1>で調製したスラリーに対して、前記工程<2>で調製したペースト状バインダーを添加することにより、ペースト状バインダーが添加されたスラリーを得た。なお、この際の、スラリーおよびペースト状バインダーの温度は、それぞれ、20℃および35℃とした。
【0090】
<4> 次に、ペースト状バインダーが完全に分散してから、起泡させた。
<5> 次に、得られた気泡含有スラリーを、高周波加熱により加熱して、85℃でゲル化させた。なお、高周波加熱は、高周波加熱装置(冨士電波工業社製)を用いて、6.0℃/minの昇温速度で85℃となるまで昇温させることで行った。
【0091】
<6> 次に、得られたゲルを、熱風乾燥器(トリオサイエンス社製)を用いて、85℃に保持することで乾燥させ、これにより、グリーンブロック(焼結前ブロック)を得た。
【0092】
<7> 次に、グリーンブロックを14mm×14mm×14mmの形状に加工した後、大気中において、1200℃で4時間の条件で焼結することにより、ヒドロキシアパタイト(HAp)で構成される10mm×10mm×10mmの焼結体を得た。
【0093】
(比較例1)
前記工程<5>における、気泡含有スラリーの加熱を、高周波加熱に代えて熱風乾燥器(トリオサイエンス社製)を用いた熱風加熱とし、気泡含有スラリーの内部を85℃まで加熱したこと以外は、前記実施例1と同様にして、HApで構成される比較例1の焼結体を得た。
【0094】
(比較例2)
前記工程<2>において、アルキルベンゼンスルフォン酸界面活性剤に代えて、脂肪酸アルカノールアミド系界面活性剤(N,N-ジメチルドデシルアミンオキサイド)を用い、前記工程<5>における、高周波加熱による加熱の昇温速度を、3.5℃/minとしたこと以外は、前記実施例1と同様にして、HApで構成される比較例2の焼結体を得た。
【0095】
2.評価
2−2.セラミックス多孔体における気孔分布の評価
実施例1および比較例1、2の焼結体における切断面をSEMにより撮像し、得られた画像について、画像解析を行い、球状気孔の平均気孔径、標準偏差および半値幅、ならびに、連通孔の平均孔径および標準偏差をそれぞれ求めた。
【0096】
なお、画像解析は、SEMにより、撮影した画像結果に基づいて、円相当径としてPhotoshop上で計測することにより、各球状気孔の気孔径ならびに連通孔の孔径を測定し、その結果に基づいて、各球状気孔の平均気孔径、標準偏差および半値幅、ならびに、各連通孔の平均気孔径および標準偏差をそれぞれ求めた。
【0097】
その結果を、表1に示す。
また、実施例1および比較例1については、画像解析に用いたSEM写真を参考までに示す(図1、2参照。)。
【0098】
【表1】

【0099】
表1から明らかなように、HApで構成される実施例1の焼結体では、その球状気孔の平均気孔径が100〜160μmであり、かつ、その標準偏差が40μm以下となっており、球状気孔の均一性が増している結果となった。
【0100】
これに対して、比較例1、2の焼結体では、平均気孔径および標準偏差ともに上記の範囲外となっており、球状気孔の均一性が低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸カルシウム系化合物で構成され、球状気孔を有するセラミックス多孔体の製造方法であって、
リン酸カルシウム系化合物で構成される粉体と、水溶性高分子化合物と、アルキルベンゼンスルフォン酸系界面活性剤とを含有するスラリーを調製する第1の工程と、
前記スラリーを撹拌することにより起泡させた後に、前記スラリーを高周波加熱により加熱することでゲル化させる第2の工程と、
ゲル化した前記スラリーを乾燥させ、さらに焼結する第3の工程とを有することを特徴とするセラミックス多孔体の製造方法。
【請求項2】
前記水溶性高分子化合物は、セルロース誘導体である請求項1に記載のセラミックス多孔体の製造方法。
【請求項3】
前記第2の工程において、前記スラリーをゲル化させる際の温度は、80℃以上、100℃以下である請求項1または2に記載のセラミックス多孔体の製造方法。
【請求項4】
前記第1の工程において、前記スラリーは、前記粉体を含有する分散液を得た後に、前記水溶性高分子化合物と、前記アルキルベンゼンスルフォン酸界面活性剤とを含有するペーストを添加することにより調製される請求項1ないし3のいずれかに記載のセラミックス多孔体の製造方法。
【請求項5】
前記スラリーを調製する際に、前記ペーストの温度は、前記分散液の温度よりも10〜20℃高く設定される請求項4に記載のセラミックス多孔体の製造方法。
【請求項6】
リン酸カルシウム系化合物で構成され、球状気孔を有するセラミックス多孔体であって、
その相対気孔率が50%以上であり、
前記球状気孔は、その平均気孔径が100〜160μmであり、かつ、その標準偏差が40μm以下であることを特徴とするセラミックス多孔体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−79172(P2013−79172A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220405(P2011−220405)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】