説明

セラミックス電子回路基板の製造方法

【目的】 金属溶湯を直接セラミックス基板上に凝固させることにより金属とセラミックスとの複合体を形成し、これを用いて耐ヒートサイクル性に優れたセラミックス電子回路基板を製造する方法の提供。
【構成】 板状のセラミックス部材2を、ヒーター4で加熱された金属溶湯1を保持しているるつぼ7の一方の壁に連結した入口側ダイス6Aに導入し、この中を水平に通過させて金属溶湯1中に導入し、さらに該溶湯中を通過させてるつぼ7の他方の壁に連結された出口側ダイス6B中に導入しこれらを通過させる間にセラミックス部材の両面に溶湯から凝固した金属5を平板状に接合させる。該接合金属5の表面を研磨して均質化した後、所定パターンのレジスト膜を形成し、エッチングにより所定の回路パターンを形成した後めっき処理してセラミックス電子回路基板を得る。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、強固な金属−セラミックス電子回路基板の製造方法に関するものであり、特に自動車部品、電子部品で耐ヒートサイクル性の要求される電子回路基板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】セラミックスの持つ化学安定性、高融点、絶縁性、高硬度などの特性と、金属の持つ高強度、高靭性、易加工性、導電性などの特性とを生かした金属−セラミックス複合部材は、自動車、電子装置などに広く使用されている。その代表的な例として、自動車ターボチャージャー用のローター、大電力電子素子実装用の基板およびパッケージなどが挙げられる。
【0003】上記、金属−セラミックス複合部材の製造方法としては、接着、めっき、メタライズ、溶射、ろう接、DBC、焼き嵌め、鋳ぐるみなどの各種方法が知られている。このうち接着法は、有機系または無機系接着剤で金属部材とセラミックス部材を接着する方法であり、めっき法はセラミックス部材の表面を活性化した後めっき液に入れて金属めっきを施す方法であり、メタライズ法は、金属粉末を含むペーストをセラミックス部材の表面に塗布した後焼結し、金属層を形成する方法であり、溶射法は金属(セラミックス)の粉末をセラミックス(金属)部材の表面に噴射し、セラミックス(金属)部材の表面に金属(セラミックス)層を形成する方法である。
【0004】さらに銅とセラミックスの接合方法としては、一般に直接接合法(DBC)とろう接法が主流となっている。前者は酸化物セラミックスと銅との接合のために開発された技術で、酸素を含有する銅板を使って、不活性雰囲気中で加熱することによって銅とセラミックスを接合させるものであり、一方、後者は銅とセラミックスとの間に活性金属のろう材を介して接合する方法であり、この場合、ろう材として一般にAg−Cu−Ti系ろう材が使用されている。
【0005】しかしながら上記DBC法では、接合できる金属が銅に限られ、且つ接合温度がCu−Oの共晶点近くの狭い範囲に限られているため、膨れ、未接のような接合欠陥が発生しやすいという問題点がある。一方、ろう接法の場合は、高価なろう材を使用し、且つ接合を真空中で行わなければならないため、コストが非常に高く、応用範囲が限られている。また、ろう材には、一般に接合する金属と他の金属さらには非金属を添加した共晶合金が使用され、それ自体は一般に接合する金属より硬いので、直接接合体に比べて、ろう接体の耐ヒートサイクル寿命が短いなどの問題点がある。
【0006】近年、自動車ターボチャージャー用のローターや、大電力電子素子実装用の基板およびパッケージの用途が拡大することによって耐ヒートサイクル性の高い基板の開発が望まれていたが、上記銅−セラミックス複合基板では限度があった。
【0007】本発明者らは、上記耐ヒートサイクル性の優れた金属−セラミックス複合基板として、特願平4−355211号「セラミックス電子回路基板の製造方法」や特願平6−96941号「金属−セラミックス複合部材の製造方法」で、アルミニウム溶湯をセラミックス基板上に直接凝固させて、アルミニウム金属板をセラミックスに直接接合した複合部材を開示した。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら上述の製造方法は、いずれもセラミックス部材の表・裏面に溶湯金属を凝固させて直接接合させて金属−セラミックス複合部材とする方法を開示するものの、回路基板として直ちに使用できるものとするためにはさらにエッチング処理技術や、細かい技術の開発が必要であった。
【0009】本発明は、上記の如くして得た複合部材を用いて電子回路基板としての製品を得るための製造工程を確立し、耐ヒートサイクル性に優れたアルミニウム−セラミックス電子回路基板を製造することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者等は斯かる課題を解決するために鋭意研究したところ、回路形成用金属としてのアルミニウム金属体に回路を形成するためのエッチング液を開発することができ、本発明法を開発することができた。
【0011】すなわち本発明の第1は、セラミックス基板を金属溶湯に接触させた状態で移動し、溶湯で濡らした後冷却することによって該セラミックス基板の表裏両面に溶湯から凝固した金属板を接合し、金属−セラミックス複合部材と成す接合工程と;次いで上記表裏両面の金属板を研磨することによって均質化する研磨工程と;次いで研磨した表面金属板上に感光性樹脂膜を加熱圧着し、フォトマスクを通して露光した後現像処理することにより回路パターン形状のレジスト膜を形成し、一方、研磨した裏面金属板上には表面金属板上と同様の手法で放熱板形状のレジスト膜を形成するレジスト形成工程と;次いでエッチング液によってセラミックス基板の片面上に所望の金属回路パターンを、裏面には金属放熱板を形成するエッチング工程と;次いで得られた金属回路パターン並びに放熱板上にめっき処理を施すめっき工程と;から成ることを特徴とするセラミックス電子回路基板の製造方法であり、第2は、前記セラミックス基板が酸化物、窒化物および炭化物からなる群より選ばれたいずれか1種のセラミックス基板であり、前記金属はアルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金であるセラミックス電子回路基板の製造方法であり、第3は、前記レジスト形成工程が、研磨した表面金属板上に液状のレジストを所望の回路パターン形状に印刷用マスクで印刷し、これを紫外線で固化することによって所望形状のレジスト膜を形成し、一方、研磨した裏面金属板上には表面金属板上と同様の手法で放熱板形状のレジスト膜を形成することを特徴とするセラミックス電子回路基板の製造方法である。
【0012】
【作用】本発明で使用できるセラミックス部材としては、アルミナのような酸化物セラミックス、窒化アルミニウムのような窒化物セラミックス、炭化ケイ素のような炭化物セラミックスであり、溶湯金属としてはアルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金がある。
【0013】本発明では、図1に示す製造装置を用いるつぼ7内にアルミニウムあるいはアルミニウム合金のいずれかを溶解して得た金属溶湯1を満たし、この中を、所望寸法の基板に分割可能な連続体のセラミックス基板2を供給側鋳型(入口側ダイス)6Aから連続的に供給することによって移動させ、該セラミックス部材の表・裏面に溶湯を付着凝固させて冷却し、直接接合させて金属−セラミックス複合部材を生成せしめる(接合工程)。
【0014】次いで得られた金属−セラミックス複合部材5の表面金属板に感光レジスト膜を圧着し遮光パターンマスクを当てて露光し現像処理することにより所望の回路形状のレジスト膜を形成するとともに、一方、裏面金属板には、表面と同様に感光レジスト膜の圧着および遮光パターンマスクを通しての露光とその後の現像処理によりセラミックス基板の最終製品となる形状の外周よりやや小さめの外周を持つ形状で全面を覆うレジスト膜を形成する(レジスト形成工程)。
【0015】レジスト形成のもうひとつの方法として、液状のレジストを所望の回路パターンおよび加熱板形状に印刷用のマスクを使用して印刷し、これに紫外線などをあてて固化して、所望形状のレジスト膜を形成してもよい。
【0016】次いでレジスト膜の上からエッチング処理して、所望の回路を形成する(エッチング工程)。この場合、回路端面が、凹凸少なく且つスカート状を呈しないものとするために適正なエッチング液として塩化第二鉄30〜40%、塩酸5〜15%、残部水からなる組成のエッチング液を用いる。
【0017】次いで、セラミックス部材裏面の金属をエッチング処理して製品基板の外周よりやや小さい外周を持つ形状の放熱板を形成する。この場合、上下面のエッチング処理を上面−下面の順で行ってもよいし、また、上下面同時の処理でも構わない。
【0018】得られた上記基板の金属表面は酸化によってAl23 の酸化膜を形成し易いため、亜鉛置換処理を行った後無電解めっき処理を行うとよい(めっき工程)。
【0019】この場合、亜鉛置換処理工程は一般的な手順でよく、本発明法においてはクリーニング−エッチング−ジスマット酸洗−ジンケート−酸洗−ジンケート処理を行い、最後に無電解めっき処理を行って、Al金属板上にNiめっきを施して目的とするセラミックス電子回路基板を得た。
【0020】以下、実施例をもって詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0021】
【実施例1】図1に製造装置の断面模式図を示す。アルミニウムをるつぼ7の中にセットし、セラミックス部材2としてのアルミナ板を入口側ダイス6Aの入口から水平に入れて、その先端がるつぼ7の内壁から少しるつぼ内部に出るようにセットしてから、窒素ガス(N2 )雰囲気中においてるつぼをヒーター4により加熱し、アルミニウムを溶解して金属溶湯1とする。
【0022】アルミニウムの金属溶湯1は出口側ダイス6Bの中に入るが、ダイス中を流れる間に先端部分の温度が融点以下に下がり、その部分が凝固して出口を塞ぎ、溶湯の流出を防ぐ。
【0023】また、入口側ダイス6Aおよびダイスとるつぼとの間の隙間の中に溶湯が入らないようにするには、そのクリアランスをある寸法以下にしなければならないが、本実施例の場合、そのクリアランスを0.1mm以下にした。
【0024】アルミニウムを750℃に加熱してアルミニウム溶湯にした後、入口側からアルミナ板を連続的に供給するとアルミナ板材は、順番に該溶湯中に入り、溶湯に濡れてから出口側のダイスに入り、最後には、アルミナ板材の両表面に厚さ0.5mmのアルミニウム体が接合した状態で、出口から連続的に押し出され、金属−セラミックス複合部材として回収された(接合工程)。
【0025】上記の場合、押出速度25mm/min、N2 流量30L/min の窒素雰囲気下、アルミナ板材がアルミニウム溶湯に濡れるまでに該溶湯中を移動する最短距離Dminは35mmという条件の下で上記複合部材を得たが、このアルミニウムの組織は緻密で、ピール強度は35kg/cm をこえていた。
【0026】次いで得られた複合部材の表・裏面アルミニウム金属板表面を交互に研磨機で研磨して、表面を均一な面にした(研磨工程)。
【0027】次いで表側アルミニウム板に感光レジスト膜を圧着し、遮光パターンマスクを当てて露光し、さらに現像処理を行い遮光した部分のレジスト膜を除去した。この場合、遮光パターンマスクにはアルミナ基板の分割溝に対応する部分が遮光されるように形成した遮光パターンと、製品の回路パターンに対応する非回路パターン部分が遮光されるように形成した遮光パターンを具備しているものを用いた(レジスト形成工程)。
【0028】同様に裏側アルミニウム板にも、アルミナ基板の分割溝と外周より0.5mm幅の周辺部が遮光されるように形成した遮光パターンを具備している遮光パターンマスクを当てて、露光した後現像処理した。
【0029】次いで上記露光および現像処理を終えた接合基板をエッチング処理することによって、レジストが接合したマスキング部分を残して他部のアルミニウムを塩化第二鉄−塩酸混合エッチング溶液で溶解することによってアルミナ基板の表側には、非回路パターン部分と分割溝部分に対応するアルミニウムが溶解した(エッチング工程)。
【0030】次いでアルミナ基板上に形成された分割溝が現われるとともに各単位ユニット内には所望の回路パターンのアルミニウム板が接合された状態となった。
【0031】同様に裏側アルミニウム板をエッチング処理することによって、セラミック基板外周および分割線からそれぞれ0.5mm内側に入った外周を持つ四辺形の放熱板が形成されていた。
【0032】次いで水酸化ナトリウムの水溶液を用いてレジスト膜を除去した。
【0033】次いで上記基板の表・裏面をクリーニングした後、通常の無電解めっき処理を行うために、エッチング−ジスマット酸洗−ジンケート−酸洗−ジンケート処理を行った。このようにして基板の表面を均一にして、無電解めっきを行い、約1〜10μmのNiめっきを施した(めっき処理工程)。
【0034】得られた処理品を基板の分割線に沿って2分割し、さらにその囲りのダミー部分を分割除去し最終製品として26mm×51mm×0.635mmのアルミナ基板の上下面に、厚さ0.5mmの回路パターンと放熱板とをそれぞれなすAl金属板を直接接合した電子回路基板として製品化することができた。
【0035】
【発明の効果】本発明法は、上述のように従来用いられている銅板に代えてアルミニウム金属を直接接合させた複合基板を用い、特定範囲組成のエッチング液を用いてエッチング処理することによって断面が略垂直である所望の回路等を安価に且つ大量に製造可能な製造法である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例において用いた金属−セラミックス複合部材を製造するための装置の模式断面図である。
【図2】本発明に係るアルミニウム/セラミックス直接接合基板の模式図である。
【符号の説明】
1 金属溶湯
2 セラミックス部材
3 アルミニウム金属
4 ヒーター
5 金属−セラミックス複合部材
6 鋳型(ダイス)
6A 入口側ダイス
6B 出口側ダイス
7 るつぼ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 セラミックス基板を金属溶湯に接触させた状態で移動し、溶湯で濡らした後冷却することによって該セラミックス基板の表裏両面に溶湯から凝固した金属板を接合し、金属−セラミックス複合部材と成す接合工程と;次いで上記表裏両面の金属板を研磨することによって均質化する研磨工程と;次いで研磨した表面金属板上に感光性樹脂膜を加熱圧着し、フォトマスクを通して露光した後現像処理することにより回路パターン形状のレジスト膜を形成し、一方、研磨した裏面金属板上には表面金属板上と同様の手法で放熱板形状のレジスト膜を形成するレジスト形成工程と;次いでエッチング液によってセラミックス基板の片面上に所望の金属回路パターンを、裏面には金属放熱板を形成するエッチング工程と;次いで得られた金属回路パターン並びに放熱板上にめっき処理を施すめっき工程と;から成ることを特徴とするセラミックス電子回路基板の製造方法。
【請求項2】 前記セラミックス基板が酸化物、窒化物および炭化物からなる群より選ばれたいずれか1種のセラミックス基板であり、前記金属はアルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金である請求項1記載のセラミックス電子回路基板の製造方法。
【請求項3】 前記レジスト形成工程が、研磨した表面金属板上に液状のレジストを所望の回路パターン形状に印刷用マスクで印刷し、これを紫外線で固化することによって所望形状のレジスト膜を形成し、一方、研磨した裏面金属板上には表面金属板上と同様の手法で放熱板形状のレジスト膜を形成することを特徴とする請求項1および請求項2記載のセラミックス電子回路基板の製造方法。

【図2】
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【図1】
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