説明

セラミックハイドロキシアパタイトでの分画による組成物中のリン酸化ペプチドの濃縮

リン酸化ペプチドが、セラミックハイドロキシアパタイトでの分画によって生物学的液体や他のペプチド混合物の消化物から抽出される。セラミックハイドロキシアパタイトは遠心分離機で容易に使用可能であるため、多数の少量サンプルの迅速な分画を可能にし、その結果、高速大量処理を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2008年11月14日付で出願された合衆国特許仮出願番号第61/114801号の利益を主張し、その内容を本明細書中に援用する。
1.本発明の分野
【0002】
本願発明は、全体としてリン酸化ペプチドの分野とペプチドの分画の分野にある。
【背景技術】
【0003】
2.本発明の背景
リン酸化ペプチドの分析は、タンパク質機能と生物システムの研究において使用される。タンパク質のリン酸化は、タンパク質の翻訳後修飾中に起こり、多くの場合、タンパク質構造及び機能の保存と調整に重要である。酵素的に触媒されたリン酸化及び脱リン酸化は、生きた細胞の重要な制御的機能であり、そして細胞増殖、発生、及び分化、シグナル伝達、神経活性、細胞骨格の組織化、プログラムされた細胞死、並びに遺伝子発現に寄与している。よって、タンパク質の消化と得られたペプチドの分析によって実施されるリン酸化部位の決定は、複雑な生物システム及び疾患の発現を理解するうえで重要な要素である。しかしながら、リン酸化されたタンパク質やペプチドの研究は、体液中のこれらの種が比較的少量であることによって難しくなっている。そのため、リン酸化種の選択的濃縮を実現するために、様々な方法が開発されてきた。
【0004】
広く報告されたリン酸化タンパク質及びペプチドの濃縮手段の1つは、固定化金属キレートアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)である。この技術は、キレート剤を介した金属イオンの付加によって表面修飾された分離媒体を使用し、そして、固定された金属イオンとペプチド上のホスファート基の間の強い相互作用の結果として、リン酸化ペプチドの分離が起こる。しかしながら、様々なアミノ酸もまた、電子供与体として機能することによって金属イオンとの相互作用を示す。これはリン酸化種と競合するため、分離の選択性を制限する。IMACにおける別の難しさは、結合されたリン酸化ペプチドの溶出が定量的でないため、これが分離の有効性を制限するということである。よって、リン酸化ペプチド濃縮に関する高収率と高純度は、依然として実現が困難なままである。
【0005】
本願発明の背景との更なる潜在的関連性は、クロマトグラフィー分離媒体としてのセラミックハイドロキシアパタイト(CHT)の使用の開示にある。モノクローナル抗体を精製するためのCHTの使用の開示は、Gagnon, P., "Monoclonal antibody purification with hydroxyapatite," New Biotechnol. 25(5): 287-293 (2009)の総説に登場し;DNAを単離するためのCHTの開示は、Ivanov, I, et al., "Purification of spin-labeled DNA by hydroxyapatite chromatography," J. Chromatog. 260: 177-183 (1983)によって報告され;そしてRNAを単離するためのCHTの開示は、Kothari, R.M., et al., "RNA Fractionation on hydroxyapatite columns," J, Chromatog. 98(2): 449-475(1974)によって報告されている。CHTによるリン酸化タンパク質のそれらの非リン酸化形態からの開示は、Schmidt, S.R., et al., "Current methods for phosphoprotein isolation and enrichment," J. Chromatog. B 849: 154-162 (2006)に登場している。
【発明の概要】
【0006】
リン酸化種と非リン酸化種の両方を含んでいるリン酸化ペプチド(本明細書中では「リン酸化ペプチド」とも言う)がタンパク質、ペプチド、又はその両方の混合物から高収率、且つ、高純度で選択的に抽出され得ること、及びそういった混合物が、セラミックハイドロキシアパタイトを介したクロマトグラフィー分画によってリン酸化ペプチドについて濃縮され得ることがここで発見された。CHTを用いてリン酸化ペプチド濃縮を達成する際のこの成功は、ペプチドとタンパク質の基本的な相違を考慮すると、CHTを用いたリン酸化タンパク質濃縮の開示から当然予想されるものの範疇にない。分子サイズの相違や、ペプチドが、典型的なタンパク質のβシート及びαらせん構造のような構造を含めたタンパク質の特徴である三次元構造をとる傾向がないという事実の相違が、これらの相違の中に含まれる。非リン酸化種が高濃度で存在しているような混合物を含めた、非リン酸化種と一緒にリン酸化ペプチドを含む出発混合物が、この方法によってリン酸化ペプチドについて濃縮されることができるので、高速大量処理での濃縮が、従来のクロマトグラフィー機器、特にスピンカラム又は遠心分離機を用いて容易に達成可能である。本願発明におけるリン酸化ペプチドの濃縮は、(単数若しくは複数の)リン酸化ペプチド及び非リン酸化ペプチド(並びに場合により非リン酸化タンパク質もまた)を含む出発溶液の処理して、出発溶液に比べて他のペプチド(及びタンパク質)に対するリン酸化ペプチドのさらに高い割合を有する処理溶液を実現することを意味する。大まかに言えば、他の溶液に比べてリン酸化ペプチドが濃縮された溶液とは、その溶液が他の溶液に比べて、非リン酸化ペプチド(及びタンパク質)に対してより高い割合のリン酸化ペプチドを含むことを意味する。
【0007】
本発明は複数の利点を提供する。1つ目は、非リン酸化ペプチドと一緒にリン酸化ペプチドを含み、場合によってはリン酸化タンパク質も含む混合物からリン酸化ペプチドが濃縮された溶液を作り出すことに加え、本発明は、多リン酸化種(すなわち、1分子あたり2以上のホスホリル基を含有するタンパク質若しくはペプチド)から一リン酸化種の分離を可能にすることである。2つ目は、抽出が、小量のサンプルにおいて短期間で実施できるので、それが、特にスピンカラム又は遠心分離機を使った、少量サンプルの同時の多重処理による高速大量濃縮を可能にすることである。3つ目は、セラミックハイドロキシアパタイトが高圧力に耐え、そのことで、高速での遠心分離機運転における使用に好適になることである。4つ目は、セラミックハイドロキシアパタイトが、アガロース又はメタクリレート重合体などの支持体を必要としない自己支持型樹脂であることである。このように追加の支持体を欠くことは、非特異的タンパク質又はペプチド結合の可能性をより低くする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1A、IB、及び1Cは、本発明に従って分画されたαカゼインのトリプシン消化物の、素通り画分、低ストリンジェンシー溶出液、及び高ストリンジェンシー溶出液それぞれのMALDIスペクトルである。
【図2】図2A、2B、及び2Cは、本発明に従って分画されたProtea標準ペプチド混合物の素通り画分、低ストリンジェンシー溶出液、及び高ストリンジェンシー溶出液それぞれのMALDIスペクトルである。
【図3】図3A、3B、及び3Cは、本発明に従って分画されたInvitrogen標準ペプチド混合物の素通り画分、低ストリンジェンシー溶出液、及び高ストリンジェンシー溶出液それぞれのMALDIスペクトルである。
【図4】図4A、4B、及び4Cは、図1A、1B、及び1Cのそれと異なる条件下、本発明に従って分画されたαカゼインのトリプシン消化物の素通り画分、低ストリンジェンシー溶出液、及び高ストリンジェンシー溶出液それぞれのMALDIスペクトルである。
【図5】図5A、5B、及び5Cは、非リン酸化ペプチドだけを含むペプチド混合物(ウシ血清アルブミンのトリプシン消化物)を利用した本願発明の範囲外の比較試験についての素通り画分、低ストリンジェンシー溶出液、及び高ストリンジェンシー溶出液それぞれのMALDIスペクトルである。
【図6】図6A、6B、及び6Cは、本発明に従って分画されたαカゼインとBSAのトリプシン消化物を組み合わせることによって調製したペプチド混合物の素通り画分、低ストリンジェンシー溶出液、及び高ストリンジェンシー溶出液それぞれのMALDIスペクトルである。
【図7】図7A、7B、及び7Cは、本発明に従って分画された、図6A、6B、及び6Cのそれとは異なる割合にてαカゼインとBSAのトリプシン消化物を組み合わせることによって調製したペプチド混合物の素通り画分、低ストリンジェンシー溶出液、及び高ストリンジェンシー溶出液それぞれのMALDIスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の詳細な説明及び好ましい実施形態
「ペプチド」という用語は、通常、最大30個のアミノ酸を含有しているアミノ酸のオリゴマーを意味するために本明細書中で使用される。特定の態様において本願発明が対象にすることが好ましいペプチドの質量対電荷比(M/Z)は、約500〜約5000の範囲内、特定の他の実施形態において約500〜約3000の範囲内、特定の他の実施形態において約1000〜約3000の範囲内である。「リン酸化ペプチド」及び「リン酸化ペプチド」という用語は、分子の骨格を形成するアミノ酸鎖に化学的に結合した少なくとも1つのホスホリル基を担持するペプチドを意味するために互換的に使用される。組成物で本願発明によって濃縮され得るリン酸化ペプチドは、単一のホスホリル基が結合したペプチド、並びに2以上のホスホリル基が結合したペプチドを含んでいる。下記にさらに説明し、そして例示するとおり、異なるリン酸化度の(すなわち、1分子あたりの結合したホスホリル基の数が異なる)リン酸化ペプチドは、本発明のプロセスによってそれらのリン酸化度に基づいて互いに分離され得る。
【0010】
セラミックハイドロキシアパタイト(CHT)は、高熱にて焼結したハイドロキシアパタイトの化学的に純粋な形態である。それは、直径が約10マイクロメートル〜約100マイクロメートルにわたる粒度を有する球状の形をしたものであり、通常、公称直径20マイクロメートル、40マイクロメートル、及び80マイクロメートルが入手可能である。セラミックハイドロキシアパタイトは、マクロ多孔性物質であり、2つの型:比較的高い多孔度と対応する高い結合能を有するI型、及び低い多孔度と結合能を有するII型、がBio-Rad Laboratories, Inc.(Hercules, California, USA)から入手可能である。いずれの多孔度が使用できるか、そして、いずれが特定のリン酸化ペプチド濃縮手順のための最適の多孔度は、濃縮前の混合物の組成及び混合物の起源に従って異なる。セラミックハイドロキシアパタイトは、いかなる他の分離媒体又は支持体との混合物よりむしろそれ自体で使用されることが好ましいので、その天然の化学的組成以外に官能化されない。
【0011】
本発明の好ましい実施形態では、使用前にCHT自体をカルシウムイオンに富んだ状態にする。これは、カルシウム塩の溶液(その好ましい例がハロゲン化カルシウム、とりわけ塩化カルシウムである)とCHTとのインキュベーションによって達成される。例えば、約30mM〜約300mMの範囲の濃度のカルシウム塩水性溶液が、効果的な処理媒体として機能する。その溶液は、当業者の間で知られている適当なバッファーの含有によってほぼ中性のpHに維持されることが好ましい。
【0012】
濃縮プロセスは、濃縮されるべき溶液サンプルと固相の分離用媒体との接触を伴う、従来のクロマトグラフィー手順のいずれかによって実施され得る。よって、分離用媒体、この場合CHTは、固定層又は流動層であり得、そして固定層であれば、CHTと液相との間の高度な表面接触、及び液相の流入を可能にするCHTのあらゆる形態、例えばビーズ、顆粒、又は粒子の充填層、又はフリット若しくは別の形の固結した有孔性の塊などであり得る。市販品の供給業者からの利用できるため、固定層が好まれ、そしてCHTビーズが特に好まれる。サンプルは、通常、結合バッファーと共に固相に加えられる。結合バッファーはアルカリ性であることが好ましく、特定の態様において、好ましいpH範囲は約8〜約10であり、他の特定の実施形態では、約8.5〜約9.5であり、そして他の特定の実施形態では、約8.0〜約9.0である。好適なアルカリ性結合バッファーの例は、アセトニトリルと重炭酸ナトリウムの溶液であり、好ましくはpHが約8.5の溶液である。
【0013】
アルカリ性溶出バッファーはさらに、好ましい実施形態にも使用される。特定の態様では、結合バッファーと同じpHである溶出バッファーが使用される一方で、特定の他の実施形態では、より高いpHの溶出バッファーが使用されるか、又は連続的にpHが高くなる一連の溶出バッファーが使用される。高ストリンジェンシー・バッファー、すなわち、高いイオン強度及び高いpHを有するものが好まれる場合には、単一の溶出バッファーが使用される。そういったバッファーの例は、約0.3M〜約3M、好ましくは約0.5M〜約2Mの濃度にてリン酸二水素カリウムを含有し、且つ、約9.0〜約11.0、好ましくは約9.5〜約10.5のpHを有するものである。連続的にpHが高くなる2以上の溶出バッファーが使用されるとき、最初が低ストリンジェンシー・バッファーであり、そして2番目が高ストリンジェンシー・バッファーである。特定の態様では、低ストリンジェンシー・バッファーは、高ストリンジェンシー・バッファーに比べて高い塩濃度を有し、そしてその高い塩濃度は、高ストリンジェンシー・バッファーに含まれていない追加の塩を低ストリンジェンシー・バッファーに含むことによって、あるいは同じ塩若しくは塩の組み合わせ又はその両方であるが異なる濃度にて使用することによって達成され得る。塩濃度の違いはまた、異なる解離定数を有する塩を使用することによっても達成されうる。例えば、低ストリンジェンシー・バッファーと高ストリンジェンシー・バッファーの両方が限られた解離の塩、例えばリン酸二水素ナトリウムなどを含有するとき、低ストリンジェンシー・バッファーはまた、リン酸ナトリウムに加えて又はリン酸ナトリウムの一部に置き換えて高解離性の塩、例えば塩化ナトリウムなどを含むこともできる。他の実施形態では、低ストリンジェンシー・バッファーは、比較的に低いイオン強度と、結合バッファーのpHと高ストリンジェンシー溶出バッファーのpHの中間の値であるpHを有するものである。これらの実施形態では、低ストリンジェンシー・バッファーが、約8.5〜約9.5のpHを有し、且つ、高ストリンジェンシー・バッファーが、低ストリンジェンシー・バッファーのpHより0.5〜2.0だけ高い、そして好ましくは0.75〜1.5だけ高いpHを有していることが好ましい。特に好ましい好適な低ストリンジェンシーのアルカリ性バッファーは、約8.5〜約9.5、好ましくは約9.0のpHの、アセトニトリル、tris‐(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びリン酸二水素ナトリウムを含有しているものであり、そして特に好ましい高ストリンジェンシー・バッファーは、約9.5〜約10.5、好ましくは約10.0のpHの、リン酸二水素カリウムを含有するものである。
【0014】
下記の実施例は、例示のみを目的として提供される。
【実施例】
【0015】
実施例1
セラミックハイドロキシアパタイトI型、粒度20マイクロメートルを、すべての割合(%)が重量による下記のバッファー溶液と共に使用した:
結合バッファー
40mMのTris、pH9
25mMのNaH2PO4
(尿素、チオ尿素、又はCHAPS不含)
低ストリンジェンシー溶出バッファー
40mMのTris、pH9
25mMのNaH2PO4
500mMのNaCl
(尿素、チオ尿素、又はCHAPS不含)
高ストリンジェンシー溶出バッファー
500mMのNaH2PO4、pH7.5
(尿素、チオ尿素、又はCHAPS不含)
*CHAPS:3‐[(3‐コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]‐1‐プロパンスルホン酸
【0016】
Bio-Rad Laboratories, Inc.のMicro Bio‐Spinカラム(カタログ番号732‐6204)に、10マイクロメートルのフリットの上から40mg〜200mgのセラミックハイドロキシアパタイト(CHT)I型、直径20マイクロメートルのビーズ(Bio-Rad Laboratories, Inc.)を充填した。結合バッファー(500μl)を各カラムに加え、バッファーとミードを混合し、そしてカラム内で2分間インキュベートした。次に、カラムを5000xgにて30秒間遠心機にかけ、そして、素通りしたバッファーを捨てた。次に、サンプルを結合バッファー中で調製し、一定量(0.5〜1.0mL)を各カラムに加え、そこで該サンプルをCHTビーズと混合し、そして室温(20〜25℃)にて5分間インキュベートした。次に、カラムを、5000xgにて30秒間遠心機にかけ、そして素通り画分を回収した。次に、更なる結合バッファー(500μL)を最初の洗浄溶液として各カラムに加え、続いてカラムを5000xgにて30秒間遠心機にかけた。次に、最初と同一の2回目及び3回目の洗浄溶液を加え、続いて同じ速度と継続時間にて遠心機にかけた。3回分の洗浄画分のすべてを回収し、そしてその洗浄画分を分析のために素通り画分と一緒に貯めておいた。次に、低ストリンジェンシー・バッファーの3つの500μLのアリコートを各カラムに連続して加え、各アリコートに続いて、カラムを5000xgにて30秒間遠心機にかけ、そして溶出液を回収した。次に、高ストリンジェンシー・バッファーの3つの500μLのアリコートを各カラムに加え、各アリコートに続いて、カラムを5000xgにて30秒間遠心機にかけ、そして溶出液を回収した。低いストリンジェンシー溶出液と高ストリンジェンシー溶出液を別々に貯めておいた。
【0017】
分画したサンプルは、αカゼインのトリプシン消化から生じたペプチドの混合物であった。未分画消化物、貯めておいた低いストリンジェンシー溶出液、及び貯めておいた高ストリンジェンシー溶出液を、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)によって分析し、そして結果をそれぞれ図1内のスペクトルA、B、及びCに示す。未分画消化物のスペクトル(スペクトルA)では、主要なピークをペプチド配列を示す矢印によって指し示したが、すべてが非リン酸化ペプチドである。低いストリンジェンシー溶出液のスペクトル(スペクトルB)では、主要なピークをペプチド配列を示す矢印によって同様に示したが、すべてが未分画消化物のスペクトルにおいて検出されなかったリン酸化ペプチドである。高ストリンジェンシー溶出液スペクトル(スペクトルC)では、主要なピークをペプチド配列を示す矢印によって同様に示したが、すべてが未分画消化物のスペクトルにおいて検出されなかったリン酸化ペプチドである。低いストリンジェンシー溶出液の貯留物の中のリン酸化ペプチドは、ほとんどが単独にリン酸化されたものであったのに対して、高ストリンジェンシー溶出液の貯留物中のそれらは、ほとんどが多重にリン酸化されたものであった。
【0018】
実施例2〜6は、市販の標準品の混合物及びトリプシンでのリン酸化タンパク質の消化によって調製した混合物の両方を含めた、リン酸化ペプチドと非リン酸化ペプチドから成る数種類の混合物からのリン酸化ペプチドの抽出のためのCRTの使用を例示する。消化によって調製したそれらの混合物に関して、出発タンパク質を、100μLの6M尿素及びpH8.0の50mM Tris中で再構成し、200mMのジチオスレイトール/50mMのTris‐HCl、pH8.0を加え、そして得られた混合物を室温にて1時間インキュベートした。次に、20μLの量の200mMのヨードアセトアミド/50mMのtris‐HCl、pH8.0を加え、そして混合物を、ボルテックスし、そして暗所において室温にて1時間インキュベートした。これに、続いて20μLの200mMのジチオスレイトール/50mMのTris‐HCl、pH8.0を加え、そして暗所において室温にて1時間インキュベートし、次に、775μLの水を加えて、尿素濃度を0.6Mまで下げる。次に、トリプシン液を、1:50(重量による)トリプシン:タンパク質の最終的な比まで加え、続いてボルテックスし、そして37℃にて16〜20時間インキュベートする。このようにして調製した消化物を−20℃にて保存した。
【0019】
すべての抽出に関して、200mgのCHT樹脂と1mLの(50mMの2‐(N‐モルホリノ)エタンスルホン酸(Mes)を用いてpH7.0にて緩衝化した)100mM 塩化カルシウム溶液を微小遠心管に入れ、そしてその混合物を10秒間ボルテックスし、次に、13000gにて30秒間遠心機にかけ、そしてボルテックスすることと遠心機にかけることを2度繰り返すことによって、使用前に樹脂をカルシウムに富んだ状態にすることを除いて、実施例1に使用したそれと同じ型及び起源のセラミックハイドロキシアパタイト(CHT)樹脂を使用した。次に、カルシウム処理した樹脂を、塩化カルシウム溶液中に保存した。次に、10mgの量のカルシウム処理した樹脂を、微小遠心管を使って遠心機にかけ、そして、液体を捨てた。
【0020】
実施例2〜6で使用する分画手順は下記のとおりであった。500mLの量の結合バッファー(その濃度は各実施例において指定される)を、樹脂に加え、遠心機にかけ、洗浄液を捨て、続いて2回、さらに500mLの結合バッファーを加え、毎回遠心機にかけることで、洗浄液を捨てた。次に、200μLの結合バッファーと1〜10μLのペプチド混合物を加え、そして内容物をボルテックスし、そして室温にて10分間遠心機にかけた。次に、上清を回復した。次に、樹脂を、それぞれ500mLの結合バッファーを用いて3回洗浄し、そして上清をその都度、回収した。上清は、素通り画分になるように貯めておいた。次に、溶出を2段階で実施した。第一段階のために、100μLの量の低ストリンジェンシー溶出バッファー(その濃度は各実施例で指定される)を加え、続いてボルテックスし、そして遠心機にかけた。次に、上清を回収し、さらに100μLの量の低ストリンジェンシー溶出バッファーを加え、ボルテックスし、遠心機にかけ、そして上清を低ストリンジェンシー溶出液として最初の上清と一緒に貯めておいた。第二段階のために、100μLの量の高ストリンジェンシー溶出バッファー(その濃度が各実施例で指定される)を、樹脂に加え、続いてボルテックスし、そして、遠心機にかけた。
次に、上清を回収し、さらに100μLの量の高ストリンジェンシー溶出バッファーを加え、得られた混合物をボルテックスし、遠心機にかけ、そして、上清を高ストリンジェンシー溶出液として最初の上清と一緒に貯めておいた。次に、貯めておいた素通り画分と2種類の貯めておいた溶出液を、留去によって濃縮し、そして、3種類すべてを10%のトリフルオロ酢酸を用いてpH3.0に調整した。
【0021】
次に、貯めておいた素通り画分、及び貯めておいた低ストリンジェンシー溶出液と高ストリンジェンシー溶出液を、3〜5μLの体積までさらに濃縮し、そしてBruker MTP AnchorChip(Bruker Daltonics, Billerica, Massacshusetts, USA)に移した。ここで、それらを、2,5‐ジヒドロキシ安息香酸のアセトニトリル水溶液によって処理し、そしてマトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間(MALDI‐TOF)質量分析法によって分析した。
実施例2
【0022】
この実施例で使用したサンプルはProteaペプチド標準品PS‐181(Protea Biosciences, Inc., Morgantown, West Virginia, USA)であった。この標準品は、3つのペプチド(M/Z1046、1251、1722)及びそれらの単独リン酸化形態(M/Z1125(pY)、1331(pS)、1802(pT))から成る。結合バッファーとして50%のアセトニトリル及び0.5mMのTrisを使用して、混合物をCHTビーズに加えた。次に、溶出を、低ストリンジェンシー・バッファーとして1mMのTris及び25mMのメチルホスホナートを含むバッファー、pH8.5、並びに高ストリンジェンシー・バッファーとして500mMのナトリウム・ホスファートを含むバッファー、pH9.0を使用して実施した。結果を図2に示すが、その中でパートAが素通り画分のスペクトルであり、パートBが低ストリンジェンシー溶出液のスペクトルであり、そしてパートCが高ストリンジェンシー溶出液のスペクトルである。スペクトルは、非リン酸化ペプチド1046及び1251が素通り画分中に存在し、そしてリン酸化ペプチド1126(pY)及び1331(pS)が両溶出液中に存在していることを表す。これは、それらの非リン酸化形態から2種類のリン酸化ペプチドの明確な分離を示す。
実施例3
【0023】
この実施例で使用したサンプルは、3種類のペプチド(M/Z1046、1296、1578)及び異なるアミノ酸残基上にリン酸化を有する4種類のリン酸化ペプチド(m//Z1669(pTpY)、1702(pY)、1720(pT)及び2192(pS))から成るInvitrogenペプチド標準品P33357(Invitrogen Corporation, Carlsbad, California, USA)であった。結合バッファーとして50%のアセトニトリル及び0.5mMのTrisを使用して、混合物をCHTビーズに加えた。次に、低ストリンジェンシー・バッファーとして1mMのTrisと25mMのメチルホスホナートを含むバッファー、pH8.5、及び高ストリンジェンシー・バッファーとして500mMのリン酸ナトリウムを含むバッファー、pH9.0を使用して、溶出を実施した。結果を図3に示すが、その中でパートAが素通り画分のスペクトルであり、パートBが低ストリンジェンシー溶出液のスペクトルであり、そしてパートCが高ストリンジェンシー溶出液のスペクトルである。スペクトルは、非リン酸化ペプチド1046が素通り画分のみで検出され、そしてリン酸化ペプチド1669(pTpY)及び1702(pY)が両溶出液中で検出され、素通り画分注で検出されなかったことを表す。非リン酸化ペプチド1297を、素通り画分と低ストリンジェンシー溶出液の両方で検出した。よって、2種類のリン酸化ペプチドが分画によって混合物から分離された。
実施例4
【0024】
この実施例で使用されるサンプルは、(Sigma-Aldrich, St. Louis, Missouri, USA製の高度にリン酸化したαカゼインを使用した)リン酸化αカゼイン消化物であった。結合バッファーとして20%のアセトニトリル、25mMの重炭酸ナトリウム、及び500mMのNaClを含むバッファー、pH8.5を使用して、消化物をCRTビーズに加え、そして低ストリンジェンシー溶出バッファーとして10%のアセトニトリル、40mMのTris、及び25mMのNaH2PO4の混合物、pH9.0、並びに高ストリンジェンシー溶出バッファーとして1mMのKH2PO4、pH10.0を使用して、溶出を実施した。
【0025】
結果を図4に示すが、その中でパートAが素通り画分のスペクトルであり、パートBが低ストリンジェンシー溶出液のスペクトルであり、そしてパートCが高ストリンジェンシー溶出液のスペクトルである。スペクトルは、素通り画分における主要なピークが非リン酸化αカゼイン・ペプチドであったことを示す。低ストリンジェンシー溶出液における主要なピークが、主に単独リン酸化ペプチドであり、そして高ストリンジェンシー溶出液の主要なピークが、主に多重リン酸化ペプチドであった。よって、非リン酸化ペプチドからのリン酸化ペプチドの分離を、この実験でも実証した。
実施例5:比較に関する実施例
【0026】
この実施例で使用したサンプルは、Sigma-Aldrich, St. Louis, Missouri, USA製のウシ血清アルブミンを使用したウシ血清アルブミン消化物であった。このタンパク質は、リン酸化ペプチドを含む消化物との比較のために本明細書中に含まれる非リン酸化タンパク質である。BSAを、先に記載したとおりトリプシンで消化し、そして消化物を、結合バッファーとして20%のアセトニトリル、25mMの重炭酸ナトリウム、及び500mMのNaClを含有するバッファー、pH8.5を使用してCHTビーズに加え、そして実施例4のように、低ストリンジェンシー溶出バッファーとして10%のアセトニトリル、40mMのTris、及び25mMのNaH2PO4の混合物、pH9.0、並びに高ストリンジェンシー溶出バッファーとして1mMのKH2PO4、pH10.0、を使用して、溶出を実施した。
【0027】
結果を図5に示すが、その中でパートAが素通り画分のスペクトルであり、パートBが低ストリンジェンシー溶出液のスペクトルであり、そしてパートCが高ストリンジェンシー溶出液のスペクトルである。スペクトルは、ペプチドのごく一部が低ストリンジェンシー溶出液中で検出されたが、ペプチドの大部分は素通り画分中で検出され、そして高ストリンジェンシー溶出液中ではなにも検出されなかったことを示す。低ストリンジェンシー溶出液中で検出された5〜7個のペプチドを、再びカラムに通したが、これでは溶離液からこれらのペプチドを取り除くことができなかった。そしてそのことは、これらのペプチドがCHTに強く結合していなかったことを示した。
実施例6
【0028】
この実施例で使用したサンプルは、αカゼイン消化物とBSA消化物の混合物であった。リン酸化ペプチドがペプチド全体に対して少量しか存在しない複合サンプルからCHTがリン酸化ペプチドを濃縮するかどうかを判定するために、これらのサンプルで実験を実施した。1:10と1:90(カゼイン:BSA)の重量比を有する2種類の消化物の混合物を使用した。結合バッファーとして20%のアセトニトリル、25mMの重炭酸ナトリウム、及び500mMのNaClを含むバッファー、pH8.5を使用して、各消化物をCHTビーズに加え、そして低いストリンジェンシー溶出バッファーとして10%のアセトニトリル、40mMのTris、及び25mMのNaH2PO4の混合物、pH9.0、高ストリンジェンシー溶出バッファーとして1mMのKH2PO4、pH10.0を使用して、溶出を実施した。
【0029】
結果を図6及び7に示すが、それぞれの図のパートAが素通り画分のスペクトルであり、パートBが低ストリンジェンシー溶出液のスペクトルであり、そしてパートCが高ストリンジェンシー溶出液のスペクトルである。1:10の実験(図6)において、低いストリンジェンシー溶出液中で検出されたペプチドは、大部分が単独ホスホリル基を有するαカゼイン・ペプチドであったのに対して、多重ホスホリル基を有するαカゼイン・ペプチドは、高ストリンジェンシー溶出液中で検出された。いくつかのBSAペプチド(非リン酸化)が、溶出液中で検出されたが、小さなピークとしてだけだった。1:90の実験(図7)において、低ストリンジェンシー溶出液中のペプチドが、主にBSAペプチドであり、たった1つだけカゼイン・ペプチドを含んでいたのに対して、高ストリンジェンシー溶出液中のペプチドは、少数のBSAペプチドに加えて、多重ホスホリル基を持つαカゼイン・ペプチドであった。
【0030】
添付した特許請求の範囲において、「a」又は「an」という用語は「1以上」を意味することが意図される。「comprise(含んでなる)」及びその活用形、例えば「comprises」及び「comprising」などは、反応のステップ又は要素に先行する場合、更なるステップ又は要素の追加が任意であり、且つ、除外されないことを意味することが意図される。本明細書に引用したすべての特許、特許出願、及び他の公開された参考資料は、その全体を本明細書中に援用する。本明細書中に引用した任意の参考資料又は一般的な従来技術と、本明細書の明示的な教示との間の任意の相違は、本明細書の教示を優先することで解決されることが意図される。これには、当該技術分野で理解されている単語又は語句の定義と、本明細書で明示される同じ単語又は語句の定義との間に任意の相違がある場合も含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸化ペプチドと非リン酸化ペプチドを含んでなる混合物を分画して、前記リン酸化ペプチドが濃縮された生成物溶液を製造する方法であって、以下のステップ:
(a)アルカリ性結合バッファー溶液中、前記混合物をセラミックハイドロキシアパタイトと接触させて、前記混合物中のリン酸化ペプチドを前記非リン酸化ペプチドと比べて優先的に前記セラミックハイドロキシアパタイトに結合させ、そして
(b)そのようにして結合した前記リン酸化ペプチドを、アルカリ性溶出バッファーを用いて前記セラミックハイドロキシアパタイトから前記生成物溶液として溶出液中に溶出する、
を含んでなる前記方法。
【請求項2】
前記セラミックハイドロキシアパタイトを、塩化カルシウム溶液とのインキュベーションによって前処理する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記塩化カルシウム溶液が、ほぼ中性のpHにて約30mM〜約300mMの塩化カルシウムを含有する水性溶液である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記(b)が、約9.0〜約11.0のpHにてリン酸二水素カリウムを含んでなる溶出バッファーを用いて前記リン酸化ペプチドを溶出することを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記(b)が、約9.5〜約10.5のpHにてリン酸二水素カリウムを含んでなる溶出バッファーを用いて前記リン酸化ペプチドを溶出することを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記混合物が、一リン酸化ペプチドや多重リン酸化ペプチドを含めた複数のリン酸化ペプチドを含んでなり、
ステップ(a)において前記セラミックハイドロキシアパタイトを通過した前記混合物の残留物を、素通り画分と規定し、そして、
ステップ(b)を、(i)低ストリンジェンシーアルカリ性バッファーを用いて溶出を実施して、最初の溶出液を生じる第一段階、そして(ii)前記第一段階に続いて、高ストリンジェンシーアルカリ性バッファーを用いて溶出を実施して、2番目の溶出液を生じる第二段階、を含んでなる複数の段階により実施し、前記最初の溶出液では、前記素通り画分及び前記2番目の溶出液に比べて一リン酸化ペプチドが濃縮されており、そして前記2番目の溶出液では、前記素通り画分及び前記最初の溶出液に比べて多重リン酸化ペプチドが濃縮されている、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記低ストリンジェンシーアルカリ性バッファーが、約8.5〜約9.5のpHを有し、且つ、前記高ストリンジェンシーアルカリ性バッファーが、前記低ストリンジェンシー・バッファーのpHより0.5〜2.0だけ高いpHを有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記アルカリ性結合バッファーが、約8.0〜約9.0のpHにてアセトニトリル及び重炭酸ナトリウムを含んでなり、前記低ストリンジェンシーアルカリ性バッファーが、約8.5〜約9.5のpHにてアセトニトリル、tris‐(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びリン酸二水素ナトリウムを含んでなり、且つ、前記高ストリンジェンシーアルカリ性バッファーが、前記低ストリンジェンシー・バッファーのpHより0.5〜2.0だけ高いpHにてリン酸二水素カリウムを含んでなる、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記アルカリ性結合バッファーが、約8.5のpHにてアセトニトリル及び重炭酸ナトリウムを含んでなり、前記低ストリンジェンシーアルカリ性バッファーが、約9.0のpHにてアセトニトリル、tris‐(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びリン酸二水素ナトリウムを含んでなり、且つ、前記高ストリンジェンシーアルカリ性バッファーが、約10.0のpHにてリン酸二水素カリウムを含んでなる、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記セラミックハイドロキシアパタイトを、ほぼ中性のpHにて約30mM〜約300mMの塩化カルシウムを含有する水性溶液とのインキュベーションによって前処理し、そして、
前記アルカリ性結合バッファーが、約8.5のpHにてアセトニトリル及び重炭酸ナトリウムを含んでなり、前記低ストリンジェンシーアルカリ性バッファーが、約9.0のpHにてアセトニトリル、tris‐(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びリン酸二水素ナトリウムを含んでなり、且つ、前記高ストリンジェンシーアルカリ性バッファーが、約10.0のpHにてリン酸二水素カリウムを含んでなる、請求項6に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−508754(P2012−508754A)
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536451(P2011−536451)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際出願番号】PCT/US2009/064116
【国際公開番号】WO2010/056797
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(591099809)バイオ−ラッド ラボラトリーズ,インコーポレイティド (79)
【Fターム(参考)】