説明

セラミック繊維製造用組成物及びそれから製造される高温断熱材用の生体溶解性セラミック繊維

本発明は、セラミック繊維製造用組成物及びそれから製造される高温断熱材用の生体溶解性セラミック繊維に関し、さらに具体的には、網目形成酸化物としてSiO、修飾酸化物としてCaOとMgO、そして中間酸化物としてZrO、Al及びBを適切な割合で含み、セラミック繊維の人工体液に対する溶解度を向上し;1260℃の高温使用時にも優れた耐熱性、高温粘度、圧縮強度及び復元力などの熱的/機械的特性を示し;既存設備をそのまま活用して、容易にセラミック繊維を製造することができる経済的効果を提供する、セラミック繊維製造用組成物、及びそれから製造される高温断熱材用の生体溶解性セラミック繊維に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック繊維製造用組成物及びそれから製造される高温断熱材用生体溶解性セラミック繊維に関し、さらに具体的には、網目形成酸化物としてSiO、修飾酸化物としてCaOとMgO、そして中間酸化物としてZrO、Al及びBを適切な割合で含み、セラミック繊維の人工体液に対する溶解度を向上し、1260℃の高温使用時にも優れた耐熱性、高温粘度、圧縮強度及び復元力などの熱的/機械的特性を示し、既存設備をそのまま活用して、容易にセラミック繊維を製造することができる経済的効果を提供する、セラミック繊維製造用組成物、及びそれから製造される高温断熱材用の生体溶解性セラミック繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、セラミック繊維は、低熱伝導率と細長い形状を有しているので、保温材、保冷材、断熱材、防音材、吸音材及びろ過材等の原料として使用されている。
【0003】
「耐火性断熱材」という用語は、通常、従来のミネラルウールよりも高い温度で使用できる耐火性繊維をいう。ASTM C892に基づいて、高温用繊維相ブランケット断熱材は、タイプ1(732℃)〜タイプ5(1649℃)として分類される。繊維の安全使用温度は、該当温度で24時間維持したとき、通常、3%以下(又は5%以下)の熱線収縮率を有する温度として定義されている。
【0004】
現在、最も一般に使われる耐火性断熱材は、Al−SiO(RCF−AS)系繊維であり、この繊維の安全使用温度は1100〜1260℃の範囲である。Al−SiO(RCF−AS)系繊維に関連する従来技術として以下の文献を例示できる。
【0005】
特許文献1及び2は、Al−SiO系組成物に、一定量のZrO成分を加えたAl−SiO(RCF−AS)系繊維を開示しており、これらの特許はそこに開示される繊維の安全使用温度が1430℃まで上昇されると記述している。特許文献3は、Al−SiO系組成物に、CaOとMgOの原料として最高16%の焼成ドロマイト(burned dolomite)を加えた繊維組成物を開示しており、この繊維は760〜1100℃の耐熱温度を有すると記述している。特許文献4は、SiO、Al、RO(アルカリ金属酸化物)、RO(アルカリ土類金属酸化物)及びBからなる繊維組成物に、酸を加えて、次いでRO、RO及びBをそこに溶解して製造された、SiO 76〜90%とAl 4〜8%を含有しているシリカ繊維を記述しており、このシリカ繊維が、結晶質の析出なしに、1093℃の耐熱性を有すると記述している。
【0006】
この耐火性断熱材製造用の繊維組成物は、耐熱性及び酸に対する溶解特性を考慮して推論されているが、人工体液のような塩類溶液に対する溶解特性には関連していない。さらに、この繊維は、Al含量が4%を超えているため、生理学的媒体に対して溶解度が低いという問題を招く可能性がある。
【0007】
最近の研究資料によると、生理学的媒体に対して低溶解度を有する繊維の破砕片が吸い込まれて、呼吸を通じて肺に蓄積されると、人の健康を損なう可能性があることが報告されている。従って、生理学的媒体に対する溶解度を増加させて、人体への有害可能性を最小化し、同時に高温物理特性の要件を満たすための無機繊維組成物に対する研究が、最近、活発に行われており、それにより開発されたガラス繊維組成物の例には、以下のものが含まれる。
【0008】
CaO及びPに加えて、CaF、ZnO、SrO、NaO、KO、LiOなどを含有している生体吸収性(Bioabsorbable)ガラス繊維組成物(特許文献5);従来のソーダ石灰ホウケイ酸塩に(soda-lime borosilicate)Pなどを加えた繊維組成物(特許文献6);及びソーダ石灰ホウケイ酸塩中のP量を増加させ、NaOなどを加えて形成した繊維組成物(特許文献7)。
【0009】
しかし、上記組成物は、そうして作られた繊維が相対的にRO成分を大量に含有しているので耐熱性が低く;その安全使用温度に対して言及されていないことを考慮すると、これらは最高350℃又はそれ以下で使用可能な建築用断熱材に過ぎないので、1000℃又はそれ以上の高温で生分解性材料としてそれらを使用することができないという限界がある。
【0010】
一方、セラミック繊維組成物を繊維化する方法としては、圧縮空気又は圧縮スチームで組成物を繊維化するブローイング(Blowing)方法と高速で回転するシリンダーに溶融物を落として組成物を繊維化するスピニング(Spinning)方法などがこの技術分野において周知である。スピニング方法やブローイング方法による繊維化に適切である、組成物の理想的な粘度は20〜100ポアズ程度と低いか、又は従来のSiO−Al系組成物の粘度と大差なしに類似していなければならない。繊維化温度で繊維の粘度が高すぎると、繊維直径が大きくなり、それと同時に、太い非繊維状物質(ショット(Shot))も多くなる。一方、粘度が低過ぎると繊維が短くて細くなるだけでなく、細い非繊維状ショットの量が増える。一般的に溶融ガラスの粘度はガラス組成と温度により左右されるので、最適な繊維化粘度を保持するためには、最適な組成設計が必要であり、そして高粘度の繊維化組成物は、より高い温度で繊維化しなければならない。従って、繊維化温度付近では適切な粘度範囲に留めておくことが必要とされる。
【0011】
さらに、高温断熱を目的として使われるセラミック繊維は、熱抵抗が大きくなければならず、炉の原料のように反復的な熱応力が長く加えられる場合、これに対する耐久性に優れていなければならない。セラミック繊維では、その使用温度は、その温度での収縮と関連する。繊維製品の収縮はガラス状の繊維組成物の高温での粘度、製品使用中の熱に露出されて生成、成長する結晶の種類又は量、結晶析出温度、及び結晶が析出された後、残留するガラス状物質の粘度に影響を受ける。高温で析出する結晶は、特異的にガラス状の繊維より比重が高いため、結晶析出及び成長により結晶界面に応力が生じ、この応力により繊維が切れるか、変形して収縮が生じる。結晶が析出することなく繊維がガラス相として存在する場合、繊維は例えばガラスと共に比較的低温度で徐々に粘度が低くなるので、収縮が増大する。従って、高温で低い収縮率を有する組成物の繊維は、結晶の析出に適切な析出量、析出速度及び析出温度を有していなければならない。また、人工体液内での溶解度の変化はできるだけ小さくなければならない。従って、人工体液での溶解度が高いと同時に溶融及び繊維化が容易で、且つ高温での熱線収縮率が少ない組成物の選択が重要である。
【0012】
さらに、グラスウール、ミネラルウール及びセラミック繊維のような材料は、人体に有害なアスベストよりも優れた人工体液中での溶解特性を有してはいるが、これらが人体に対して有害か否かは未だ判明していない。動物実験による毒性試験によって、繊維の人工体液に対する溶解度と動物試験の有害性との間には特定の相関関係があることが知られてきてはいるが、少なくとも100ng/cm・hrの溶解度定数(Kdis)値を有する繊維は、動物吸入試験で繊維症(Fibrosis)又は腫瘍(Tumor)を発生させないことが報告されている(非特許文献1)。実際に、人工体液を用いた生分解性試験で、Kdis値は最大±30%の誤差を有するので、繊維が少なくとも150ng/cm・hr、好ましくは少なくとも200ng/cm・hrのKdis値を有していなければ生分解性であるとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第2,873,197号明細書
【特許文献2】米国特許第4,555,492号明細書
【特許文献3】米国特許第4,055,434号明細書
【特許文献4】米国特許第3,687,850号明細書
【特許文献5】米国特許第4,604,097号明細書
【特許文献6】国際公開第92/00781号
【特許文献7】米国特許第5,055,428号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Inhalation Toxicology, 12:26〜280, 2000, Estimating in vitro glass fiber dissolution rate from composition., Walter Eastes
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記した先行技術の問題点を解決しようとするものである。従って、本発明の目的は、CaO−MgO−ZrO−SiO系組成物にSiO含量が75重量%又はそれ以上の高シリカ領域を保持して、繊維化収率に優れ、熱伝導率が低く、24時間の1260℃でさえも3%又はそれ以下の低い熱線収縮率を示し、人工体液に対する溶解度定数が200ng/cm・hr又はそれ以上と生分解性が非常に優れた新規なセラミック繊維組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために本発明は、75〜80重量%のSiO、10〜14重量%のCaO、4〜9重量%のMgO、0.1〜2重量%のZrO、0.5〜1.5重量%のAl、及び0.1〜1.5重量%のBを含む高温断熱材用生体溶解性セラミック繊維の製造用組成物を提供する。
【0017】
本発明の好ましい実施態様によると、上記セラミック繊維の製造用組成物中のCaO及びAlの合計量は11〜15重量%である。
【0018】
本発明の他の態様では、本発明によるセラミック繊維の製造用組成物から製造され、1)50重量%又はそれ以下(例えば、0.01又はそれ以下〜50重量%)の非繊維状ショット含量、2)6μm又はそれ以下(例えば、2〜6μm)の平均繊維直径、3)3%又はそれ以下(例えば、0.001又はそれ以下〜3%)の熱線収縮率(1260℃/24時間)、及び4)200ng/cm・hr又はそれ以上(例えば、200〜100ng/cm・hr又はそれ以上)の人工体液に対する溶解度定数、の内の一つ又はそれ以上の特性を満たすことを特徴とする、高温断熱材用生体溶解性セラミック繊維が提供される。
【0019】
本発明のセラミック繊維製造用組成物は、高温断熱材用のセラミック繊維組成物系で、Alの含量を適正な水準に低減し、そして修飾酸化物の含量を増大して、それにより人工体液でのセラミック繊維の溶解度を顕著に増加させる。さらに、ZrOを添加することにより、Alの含量減少に伴うセラミック繊維の耐熱性低下を克服し、CaOとAlの含量を調節することにより、SiO−Al−CaOの3成分の存在に伴うアミドを形成する可能性のある共融領域を抑制し、そしてBを添加することによりCaO含量減少に伴うセラミック繊維の生分解性減少を抑制する。
【0020】
以下に、本発明による生分解性セラミック繊維の製造用組成物をその構成成分に従ってさらに詳細に説明する。
【0021】
SiOはセラミック繊維の主成分であり、組成物の総重量に対して75〜80重量%、好ましくは76〜78重量%の量で含有される。SiOの含量が75重量%未満のとき、生分解性向上のために相対的にCaOとMgOの含量を増加しなければならず、これは、原料費が上昇する、繊維長が非常に短くなるために硬さ(Stiffness)が増大する、非繊維状ショット含量が増えるために繊維化が難しくなる、そして熱による収縮率が大きくなるために物性が低下するという問題を引き起こす。一方、SiOの含量が80重量%を越えると、組成物の溶融が難しく、そして繊維化粘度が上昇するために製造された繊維の直径が大きくなると同時に、太い非繊維状ショットがたくさん生成するという不利益がある。
【0022】
CaOは製造された繊維の体液に対する溶解度を増大させるための修飾酸化物であり、組成物の総重量に対して10〜14重量%、好ましくは10〜13.7重量%、より好ましくは12〜13重量%の量で含有される。CaOの含量が10重量%未満のとき、繊維の体液に対する溶解度が低減する。一方、CaOの含量が14重量%を超えると、繊維製造時に析出する結晶量が増加するので製造された繊維中のSiOの含量が相対的に低くなり、それにより熱安定性及び高温における熱線収縮率の増加という問題を引き起こす。さらに、SiO−Al−CaOの3成分が存在する場合は、共融領域で共融点(eutectic point)が発生する可能性があり、約1170℃で溶融が起こることがある(図1参照)。セラミック繊維の溶融過程で、このような共融領域の組成部分が存在する場合、必要な耐熱性を満たすことができず、そして急激な繊維劣化による耐熱性、保温性の低下も生じる。本発明では、CaO及びAlの合計含量を10.5〜15.5重量%、好ましくは11〜15重量%に調節することによって、このような共融領域の問題を解決している。
【0023】
MgOは、製造された繊維の体液に対する溶解度を増大させるための別の修飾酸化物であり、組成物の総重量に対して4〜9重量%、好ましくは5〜7重量%の量で含有される。MgOの含量が4重量%未満のとき、繊維の体液に対する生分解性が減少するか、又は繊維製造時の繊維結晶の成長を阻害する効果が減少する。一方、MgOの含量が9重量%を超えると、共融点領域が透輝石(Diopside)と珪灰石(Wollastonite)の共融点領域に近づいて、それにより繊維化粘度が上昇して繊維溶融温度が低くなる。本発明では、MgO成分として、純粋化合物に代えて、ドロマイト、石灰石など比較的低価で購入可能な原料を使用してもよい。
【0024】
Alは、高温溶融過程でSiOの結合構造を切断する機能を果たすため、及びセラミック繊維製造に適した粘度に調節するための中間酸化物として添加される。Alは、組成物の総重量に対して0.5〜1.5重量%、好ましくは0.7〜1.2重量%の量で含有される。Alの含量が0.5重量%未満のとき、高温における粘度調節効果が低下する。一方、Alの含量が1.5重量%を超えると、繊維の体液に対する溶解度が減少すると同時に耐熱温度が低下する。
【0025】
ZrOは、Alの含量を低くすることによって引き起こされ得る高温における熱安定性及び化学的耐久性の低下の問題を防止するために添加されて、組成物の総重量に対して0.1〜2重量%、好ましくは0.6〜1.5重量%の量で含有される。ZrOの含量が0.1重量%未満のとき、高温における熱安定性及び化学的耐久性が低下する。一方、ZrOの含量が2重量%を超えると、繊維の体液に対する溶解度が顕著に低下する。
【0026】
は、低融点のガラス形成酸化物であって、製造された繊維の人工体液に対する溶解度をさらに向上させるための繊維化助剤として添加される。Bは、組成物の総重量に対して0.1〜1.5重量%、好ましくは0.7〜1.3重量%の量で含有される。Bの含量が0.1重量%未満のとき、人工体液に対する溶解度が低くなり、それに応じて体液に対する生分解性が減少する。一方、Bの含量が1.5重量%を超えると、高温に長期間露出されると耐熱性が悪化して、よって高温収縮率が増大する。以下の理由で、SiO含量を高めて繊維を製造する場合にBを添加することが好ましい:SiOが高含量の場合にはSiO含量の増加によって組成物の粘度が高くなるので、繊維の収率が低下する。しかし、Bを添加することによって、繊維の収率低下と人工体液に対する溶解度低下の問題を解決することができる。さらに、高温での粘度を調節するためにAl含量を増やす場合、室温の体液で繊維の溶解度が減少するという副作用は、Bを適切に使用することによって克服できる。
【0027】
加えて、本発明によるセラミック繊維製造用組成物には、用いる原料にもよるがNaO、KO、TiO及びFeのような不純物が含まれていてもよい。しかしながら、それらの量を組成物の総重量に対して1重量%又はそれ以下のレベルに保持すると、製造される繊維の特性は不純物によって悪化されない。
【0028】
本発明によるセラミック繊維製造用組成物を製造する方法には特に制限がない。従って、上記した成分を上記含量範囲で用いることによりて、従来のセラミック繊維用組成物を製造する方法を利用できる。例えば、電気溶融法のような方法を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0029】
具体的には、三相電極を用いる帯電型の溶融法を用いてセラミック繊維製造用組成物を製造できる。電極及び出口の材質はモリブデンで構成されていてもよい。このような溶融法によって、電気抵抗加熱を誘導し、これにより通常2000℃又はそれ以上の高温溶融が可能になる。
【0030】
本発明の繊維製造用組成物を繊維化する方法には特に制限がない。従って、従来の繊維化方法、例えば、ブローイング法又はスピニング法を適用できる。このような繊維化方法の適用において、繊維製造用組成物に求められる粘度範囲は20〜100ポアズであることが好ましい。溶融物の粘度は温度と対応する組成比の関数であるので、同じ組成比を有する溶融物の粘度は温度に依存する。繊維化時の溶融物の温度が高くなると、粘度が低くなり、逆に繊維化温度が低くなると粘度が高くなるので、このことは繊維化に影響を与える。繊維化温度で繊維組成物の粘度が低すぎると、生成される繊維は短く且つ細くなって、細かい非繊維状ショットがたくさん生成され、それによって繊維化収率が低下する。粘度が高すぎると、大きな直径の繊維が形成され、太い非繊維状ショットが増加する。
【0031】
本発明のセラミック繊維製造用組成物から製造されたセラミック繊維は、1)非繊維状ショット含量が50重量%又はそれ以下、好ましくは40重量%又はそれ以下、2)平均繊維直径が2〜6μm、好ましくは3〜5μm、3)熱線収縮率(1260℃/24時間)が3%又はそれ以下、好ましくは2%又はそれ以下、及び4)人工体液に対する溶解度定数が200ng/cm・hr又はそれ以上、好ましくは300ng/cm・hr又はそれ以上という特性を一つ又はそれ以上、最も好ましくは全ての特性を満たしている。従って、このセラミック繊維は高温断熱材用に特に適していて、優れた生体溶解性を示す。さらに、従来のセラミック繊維製造方法をそのまま用いて容易に製造できるので、経済的利点がもたらされる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によると、人工体液に対する溶解度が従来のセラミック繊維と比較して顕著に向上され、それゆえにヒトの肺に吸入されても容易に除去できるので、人体に対する有害性を低減することができて、そして、従来の生分解性セラミック繊維が有する問題点であった高温での物性低下を克服し、1260℃にて24時間での熱線収縮率が3%未満であるなどの高温での安定性及び機械的特性が非常に優れているので、高温断熱材用に特に適した生体溶解性セラミック繊維を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、SiO−Al−CaOの3成分系の相平衡状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下の実施例及び比較例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらによって限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
実施例1〜5及び比較例1〜5
下記表1に示されるような成分とその含量を用いて、三相電極を用いる帯電型の溶融法でセラミック繊維製造用組成物を製造した後、従来のRCF無機繊維の製造工程によりその組成物からセラミック繊維を製造した。
比較例1は、従来のRCF製造用組成物を示し、比較例2、4及び5は試験用組成物を示し、比較例3は1100℃用製品の製造用組成物であった。
製造されたセラミック繊維について、平均繊維直径、非繊維状ショット含量及び製造収率を測定及び計算して、結果を下記表1に示した。
【0036】
【表1】

【0037】
[物理学的特性の測定及び計算]
−平均繊維直径:電子顕微鏡を用いて1000倍又はそれ以上の高倍率で、500回以上繰り返し測定して、それらから平均繊維直径を計算した。
【0038】
−非繊維状ショット含量:ASTM C892に従い、非繊維状ショット含量を測定した。即ち、セラミック繊維を1260℃で5時間熱処理した後、約10gの試料を0.0001g単位まで正確に重さ(W)を測定した。30メッシュの篩に試料を入れて、ゴム棒で押圧して30メッシュの篩を通過させた。次いで50メッシュの篩及び70メッシュの篩に順に通過させた。各篩に残った粒子の重さ(W)を測定して、下記数式1を用いて非繊維状ショットの含量(W)を計算した。
【0039】
【数1】

【0040】
(式中、Wは非繊維状ショットの含量を示し、Wは初期粒子の重さを示し、Wは残った粒子の重さを示す。)
【0041】
−製造収率:所定時間に流出した溶融物の総量に対する繊維化した材料の総量の割合として、下記数式2を用いて製造収率を計算した。
【0042】
【数2】

【0043】
一般に、繊維の平均直径が大きく断面が粗い場合、断熱効果が減少すると共に、取扱時にチクチク感が生じるという問題を有する。しかし、本発明の実施例により製造された繊維は、その平均直径が、通常製造されている市販セラミック繊維の平均直径6μmと比べて、3.8〜4.7μmと小さいため、高品質のものであった。さらに、平均繊維直径が小さいので、これから製造された繊維はより優れた断熱効果を発揮すると予想される。
【0044】
本発明の実施例を比較例と比較すると、本発明の実施例の非繊維状ショット含量は24〜32重量%であって、従来のセラミック繊維である比較例1、2、4及び5の30〜36重量%に比べて顕著に減少した値であった。
【0045】
製造収率の面で、本発明の実施例は、72〜76%の製造収率を達成し、これは従来のセラミック繊維製造収率の70〜80%と同等又はより良好であった。比較例4は、繊維化粘度が高い組成物であり、従来の既存セラミック繊維である比較例1のそれより低い製造収率を示して、実施例のそれよりも低かった。
【0046】
上記の繊維化実施例から、本発明によって、非繊維状ショット含量が50重量%又はそれ以下、そして平均繊維直径が6μm又はそれ以下のセラミック繊維を既存設備を用いて製造可能であることが確認された。
【0047】
次に、上記実施例及び比較例で製造されたセラミック繊維について、熱線収縮率(1260℃、24時間/168時間)、溶融温度、繊維化温度及び人工体液に対する溶解度定数(Kdis)を測定及び計算して、結果を下記表2に示した。
【0048】
【表2】

【0049】
[物理学的特性の測定及び計算]
−熱線収縮率(高温での繊維長の変化):繊維220gを0.2%の澱粉水溶液に十分に分散させて、分散した繊維を300×200mmの鋳型に注ぎ、次いでこの繊維を均一にして面偏差を少なくした後、鋳型はその底部を通して排水させて、パッドを製造した。得られたパッドを50℃のオーブンで24時間以上、十分に乾燥させて、150×100×25mmサイズにカットして試験試料を製造した。白金、セラミックなどの高い耐熱性を有する材料で試験試料にマークを付けて、ノギスを用いて試験用マーク間の距離を綿密に測定した。試験試料を炉(furnace)に入れ、1260℃で24時間と168時間加熱した後、ゆっくり冷却した。冷却した試験試料の試験用マーク間の距離を測定し、熱処理前のそれと比較した。下記数式3を用いて熱線収縮率を計算した。
【0050】
【数3】

【0051】
(式中、lは試験試料上のマーク間の初期距離(mm)、lは試験試料上のマーク間の加熱後の長さ(mm)を示す。)
【0052】
−溶融温度:温度分布を調節可能な温度勾配炉を活用して、勾配を1100〜1500℃の温度範囲内に設定した。熱線収縮率を測定する方法と同様にしてセラミック繊維パッドを製造した。製造したパッドを20mm×200mmのサイズにカットして、パッドからカットしたピースを1100〜1500℃の温度範囲に保たれた温度勾配炉内で24時間保持した。この高温熱処理の後、溶融した位置を確認して、溶融温度を間接的に測定した。
【0053】
−繊維化温度:繊維製造用組成物を溶融して繊維化する工程にブローイング法及びスピニング法が用いられる。このような工程で求められる組成物の粘度は約20〜100ポアズである。本発明では、20ポアズの粘度を保持するのに必要な組成物の温度を繊維化温度と定義している。組成物によって繊維化温度が変化する、そして測定はセラミック繊維の粘度に基づいていた。溶融した組成物は2,000℃又はそれ以上の高温であるため、その流出時に繊維化粘度を間接的に換算した。繊維化粘度は、下記数式4を用いて理論的なセラミック繊維粘度との粘度比を計算し、これから繊維化温度を換算した。
【0054】
【数4】

【0055】
(ここで、ηは基準粘度で、従来のセラミック繊維製品のAl−SiO(RCF−AS)系繊維組成物の理論的粘度である。ηは相対粘度であり、これらから実施例と比較例の粘度を計算し、それから繊維化温度を換算した。)
、F:時間当りの流出溶融物量(kg)
、R:流出口の有効半径(mm)
R=流出口の半径−tan15゜×(27.99−流出口とニードルの間の距離)(mm)
【0056】
−人工体液に対する溶解度定数(Kdis):製造された繊維の生体溶解性を評価するために、下記の方法で人工体液に対する溶解度を測定した。セラミック繊維のインビボ生分解性は人工体液に対する溶解度に基づき評価した。この溶解度に基づき体内残留時間を比較した後、下記数式5を用いて溶解度定数(Kdis)を計算した。
【0057】
【数5】

【0058】
(式中、dは繊維の初期平均直径(μm)を意味し、ρは繊維の初期密度(g/cm)を示し、Mは繊維の初期質量(mg)を示し、Mは溶解後の残存繊維の質量(mg)を示し、そしてtは試験時間(hr)を示す。)
【0059】
測定対象繊維をプラスチックフィルタ支持体で固定された0.2μmポリカーボネート膜フィルタの薄い層間に置いて、上記人工体液をこのフィルタを通して浸潤させて溶解速度を測定した。実験の間、人工体液の温度を37℃、流量を135mL/日に保持するように調節し、CO/N(5/95%)ガスを用いて、pHを7.4±0.1の範囲に保持した。
【0060】
繊維の溶解度を長時間正確に測定するために、繊維を21日間浸出させて、所定の時点(第1、4、7、11、14、21日)で、浸潤した人工体液を誘導結合プラズマ分析法(ICP、Inductively Coupled Plasma Spectrometer)を用いて分析して、そこに溶解したイオンの量を測定した。この結果から、上記数式5を用いて溶解度定数(Kdis)を決定した。
【0061】
繊維の溶解速度を測定するために用いた人工体液(Gamble solution)は、下記表3に示すような成分含量(g/L)を有していた。
【0062】
【表3】

【0063】
実施例1〜5のセラミック繊維は、1260℃で24時間熱処理された後に、そして同温度で168時間熱処理した後でさえも、3.0%未満(1.3〜1.9%)の低い熱線収縮率を示した。さらに上記温度で168時間熱処理された場合でさえも、3.0%未満(2.2〜2.8%)の低い熱線収縮率を示した。一方、比較例2〜5の繊維は急激な収縮を示した。さらに比較例2、3及び5の場合、溶融温度が実施例のそれと比較すると、約50〜100℃又はそれ以上低下した。
【0064】
これは、上述したSiO−Al−CaO成分系に存在する共融点に起因する耐熱性の減少の結果と理解できる。セラミック繊維製造過程で非常に均質に混合することは可能であるが、局部的な不均質組成領域が存在することもあり、SiO、Al及びCaOの存在量に依存してセラミック繊維に共融領域が存在する可能性は高くなる。従って、セラミック繊維の成分中のCaO及びAlの含量調節が重要な要素となる。上記実施例から、本発明に従ってCaOの含量を10〜14重量%内に、Alの含量を0.5〜1.5重量%内に調節する[即ち、CaO+Alの含量の合計を10.5〜15.5重量%内に調節する]場合、共融点が存在することによる耐熱性低下の現象を最小化できることが見出された。
【0065】
繊維化温度に関して、実施例1〜5はいずれも、従来のセラミック繊維である比較例1の1835℃と同等の水準を示した。このような結果は、Alの適切な使用により、SiO網目構造の溶解が誘導され、それによってSiO含量の増加に起因する粘度上昇の可能性が阻止されたためであると判断される。比較例4では、実施例と比べて繊維化温度が上昇した。この場合、同じ粘度を保持するために溶融温度を大幅に上昇させなければならない。そうでない場合、比較例4に示したように製造収率が減少した。
【0066】
生分解性の基準である溶解度定数に関して、実施例1〜5はいずれも、300ng/cm・hr又はそれ以上の水準を示したので、優れた生分解性を有していると見なされる。また実施例5は、生分解性に大いに寄与することがよく知られているBを相対的に多く含んでいるので、最も高い溶解度定数(480ng/cm・hr)を示した。一方、従来のRCFである比較例1は、非常に低い溶解度定数を示した。比較例2及び5では、1.6〜1.9重量%というAlの相対的に高い含量が生分解性を低下させたと判断される。Al含量の増加がセラミック繊維の溶解メカニズムにおける、イオン交換及び網目組織の溶解を阻害して、それによってセラミック繊維の溶解度が低くなったとも考えられる。高温における溶融過程では、AlがSiOの結合をカットする融剤の役割を果たしている。しかし、溶融/繊維化過程によって得られる繊維化製品の場合、セラミック組成物内に含まれるAlの結合とSiOの結合が強化されていて、体液内での溶解メカニズムを抑制する効果を示す。比較例3は最も高い溶解度定数を示した。しかし、SiO含量が低く、CaO含量が高いので、最高使用温度が1100℃に制限されて、1260℃における収縮率が許容限度より高かった。
【0067】
以上の実施例及び比較例に基づいて説明したように、本発明によるセラミック繊維は人工体液に対する優れた生分解性、優れた繊維化特性、及びその高い繊維化収率による高い生産性を有している。さらに、本発明によるセラミック繊維は、1260℃で24時間の熱処理にも関わらず、熱線収縮率の変化が小さいので、高温断熱材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
75〜80重量%のSiO、10〜14重量%のCaO、4〜9重量%のMgO、0.1〜2重量%のZrO、0.5〜1.5重量%のAl、及び0.1〜1.5重量%のBを含有してなる、高温断熱材用生体溶解性セラミック繊維の製造用組成物。
【請求項2】
CaOとAlの合計量が11〜15重量%である、請求項1に記載の生体溶解性セラミック繊維の製造用組成物。
【請求項3】
CaOの量が10〜13.7重量%である、請求項1に記載の生体溶解性セラミック繊維の製造用組成物。
【請求項4】
CaOの含量が12〜13重量%である、請求項1に記載の生体溶解性セラミック繊維の製造用組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のセラミック繊維の製造用組成物から製造され、そして下記1〜4)の1つ又はそれ以上の特性を満たす、高温断熱材用の生体溶解性セラミック繊維:
1)50重量%又はそれ以下の非繊維状物質(ショット(shot))含量、
2)6μm又はそれ以下の平均繊維直径、
3)3%又はそれ以下の熱線収縮率(1260℃/24時間)、及び
4)200ng/cm・hr又はそれ以上の人工体液に対する溶解度定数。
【請求項6】
当該1)〜4)の物性の全てを満たす、請求項5に記載の生体溶解性セラミック繊維。
【請求項7】
ブローイング法又はスピニング法によって繊維化される、請求項5に記載の生体溶解性セラミック繊維。
【請求項8】
請求項5に記載の生体溶解性セラミック繊維を含有してなる、断熱材。

【図1】
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【公表番号】特表2013−520580(P2013−520580A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554890(P2012−554890)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【国際出願番号】PCT/KR2010/008936
【国際公開番号】WO2011/105688
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(507310879)ケーシーシー コーポレーション (9)
【Fターム(参考)】